説明

弱イオン性アクリルポリマーの沈降炭酸カルシウム合成での使用

【課題】沈降炭酸カルシウムの合成での弱イオン性アクリルポリマーの使用。このポリマーを使用するとPCCの結晶学構造および粒度の特徴を損なわずにPCCの炭酸化時間を短縮できる。
【解決手段】アクリル酸またはメタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミドまたはカチオンモノマーまたはこれらの混合物の中から選択される少なくとも一種のビニルモノマーと、少なくとも一種の非イオン性モノマーとからなるポリマーの無機物質、特に沈降炭酸カルシウムの製造方法での使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弱イオン性アクリルポリマーの沈降炭酸カルシウム合成での使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成炭酸カルシウムまたは沈降炭酸カルシウム(PCC)は製紙、特に充填材またはコーティング顔料として用いられる合成無機物質で、生石灰(CaO)を水和して水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の水性懸濁液を形成することで工業的規模で作られている。生石灰の消和とよばれるこの反応後に炭酸化段階を実施する。この炭酸化段階ではこの水酸化カルシウムを反応媒体中に吹き込んだ二酸化炭素と反応させて沈降炭酸カルシウムを形成する。
【0003】
この方法の変形例や特定の特徴を有する特許は多数存在する。水酸化カルシウムを二酸化炭素と接触させる際の反応速度はPCCプラントの生産能力に決定的な影響を与える。すなわち、この反応が急速であればあるほど製造プラントの収率が良くなることは容易に理解できよう。当業者は炭酸化時間すなわち消石灰を炭酸カルシウムに完全に変えるのに要する時間を問題にする。この時間を短縮することが経済的に重要な課題である。
【0004】
この問題は多くの研究で上記方法の観点から取り組まれてきた。一例として、特許文献1は炭酸化反応が起こる反応器内の圧力を大気圧より低くして炭酸化時間を短縮するPCCの製造方法を提案している。しかし、このような解決策は各種製造設備の変更を含み、一般にコストがかかる。
【0005】
従って、当業者はPCC製造法における各種添加剤の使用に基づく化学的解決策を考えた。非特許文献1ではある種のイオン(アルミニウム、鉄およびマグネシウム)の添加によって炭酸化反応の反応速度を加速している。この文献にはさらに、このようなイオンを用いない同じ方法と比較して、形成されたPCCの結晶学的構造の変化が観察されることが示されている。
【0006】
非特許文献2では、クエン酸、スクロースまたはドデシル硫酸ナトリウムの添加によって、炭酸化時間が大幅に増加している。ポリエチレングリコール(分子量は300g/モル)の使用によってもこの時間を短縮できるが、この場合には合成PCCの比表面積がほぼ二倍になる。
【0007】
ポリアクリレート(PCCの分散剤として知られる化学種)の使用に関しては、ポリアクリレートの役目は想定される方法によって異なる。非特許文献3ではポリアクリル酸は過飽和炭酸カルシウム溶液から始めて、必然的にバテライトが形成されることが記載されている。この文献には炭酸化時間についての記載はない。
【0008】
非特許文献4にはこれと同じ酸によって過飽和重炭酸カルシウム溶液の場合にはPCCの結晶の形成が抑制されることが示されている。
【0009】
さらに、特許文献2、3に記載のPCCの製造方法では、炭酸化反応時にポリアクリレートおよびポリリン酸塩がそれぞれ導入され、その後、炭酸化反応が完了する。これらの添加剤が炭酸化時間に与える影響に関する情報は全く提供していない。これらの文献は形成されたPCCの結晶学的構造はこれらの添加剤を用いずに得られたPCCと比較して、必ずしも維持されないことを明らかに示している。
【0010】
炭酸化時間を短縮するための最初のチャレンジは下記の必要条件に直接関係する場合にだけ重要になる。
(1)上記問題を解決する化学添加剤を特定する(この化学添加剤を用いることで当業者は複雑でコスト高になる製造設備の変更を行わずにすむ)、
(2)上記添加剤の添加で製造されたPCCの結晶学的構造が変化したり、粒度分析特徴が損なわれてはならない(当業者は製造能力を向上させると同時に、プロセスの最後に特徴に変化のない生成物を得ることを望む)、
(3)上記添加剤の添加で乾燥重量含有率の最高のPCC水性懸濁液が得られなければならない(この必要条件は活性物質の濃度ができるだけ高い懸濁液を製造するという経済的利点に関係する)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際特許第WO 01 07365号公報
【特許文献2】国際特許第WO 2005/000742号公報
【特許文献3】国際特許第WO 2004/106236号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「炭酸化プロセスによる不純物イオン内容物と合成されたPCC粒子の形成収率の変化および特徴決定」(材質科学フォーラム、510〜511、2006年3月、1026〜1029頁)
【非特許文献2】「添加剤の存在下でCa(OH2)懸濁液にCO2を送って発泡させて得られた方解石結晶の形態学的特徴および凝集」(粉末技術, 130, 2003, pp. 307-315)
【非特許文献3】「水溶液系中の炭酸カルシウムの沈降」(表面活性剤 界面活性剤 洗浄剤, 第36巻, 1999, pp. 162-167)
【非特許文献4】「高分子がCaCO3の結晶化に与える影響」(超分子科学、第5巻, n°3-4, 1988, pp. 3-4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の複雑な技術的課題を解決するために、本発明者は、沈降炭酸カルシウム(PCC)の製造方法で、炭酸塩の炭酸化時間の短縮剤として、下記(a)と(b)の(b)モノマーから成ることを特徴とする少なくとも一種のコポリマーを使用する方法を開発した(各モノマーはモル%で表記し、モノマー(a)と(b)のモル%の合計は100%に等しい):
(a)10〜99%、好ましくは50〜98%、さらに好ましくは80〜97%、より好ましくは85〜95%の下記式(I)のモノマー以外の少なくとも一種のビニルモノマー、
(b)1〜90%、好ましくは2〜50%、さらに好ましくは3〜20%、より好ましくは5〜15%の下記式(I)の少なくとも一種の非イオン性モノマーまたは式(I)のモノマーの複数の混合物:
【0014】
【化1】

【0015】
(ここで、
m、n、pおよびqは整数で、m、n、pは150以下で、これらの少なくとも一つは0以上、好ましくは20であり、
Rは重合可能な不飽和基を有し、
1およびR2は水素原子または1〜4の炭素原子を有するアルキル団を表し、同一でも異なっていてもよく、
R’は水素または1〜40の炭素原子、好ましくは1〜4の炭素原子を有する炭化水素基表し、メチル基であるのが好ましい)
【0016】
全く驚くことまた有利なことに、上記ポリマーを消石灰の水性懸濁液を二酸化炭素と接触させる段階の前および/または接触段階中に使用することによって、炭酸化時間を短縮することができる。しかも、PCCの結晶学的構造を変えずに目的が達成できる。すなわち、PCCの結晶学的構造は上記コポリマーを用いずに得られたものと同一である。しかも、PCCの粒度分析特徴(メジアン径および比表面積)も損なわれない。さらに、粘度測定ドリフトを修正するための添加水を用いずに、完全に許容可能な最大乾燥抽出分および粘度を有するPCCの水性懸濁液を作ることができる。
【0017】
特定の理論に拘束されるものではないが、上記の結果すなわち炭酸化時間の短縮化は水中に消石灰の粒子を効率的に分散させることによって二酸化炭素との反応性を向上させる能力によって説明できると本発明者は考える。しかも、この分散性は炭酸化反応終了時にPCCにも与えられる。すなわち、粘度低下の原因となる水を添加せずに(加工性および運搬の観点から)許容可能な粘度を有するPCCの水性懸濁液が得られる。
【0018】
本発明者は上記の分散現象は用いるコポリマーの弱イオン性による立体反発機構によって支配されると考える。すなわち、これは標準ポリアクリレートの場合のような鉱物粒子の表面で分散剤が吸収されるイオン機構ではない。すなわち、上記コポリマーはポリアクリレートとは違って、結晶化抑制剤の役目をしない。形成されたPCCの結晶学構造が保持され、本発明のコポリマーを用いずに同じ方法で得られたものと同じ結晶学構造であるのはこの理由による。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の対象は、下記の(a)と(b)のモノマーから成ることを特徴とする少なくとも一種のコポリマーの沈降無機物質の製造法での使用である(モノマーの比率はモル%で表記、モノマー(a)と(b)のモル%の合計は100%):
(a)10〜99%、好ましくは50〜98%、さらに好ましくは80〜97%、より好ましくは85〜95%の下記式(I)のモノマー以外の少なくとも一種のビニルモノマー、
(b)1〜90%、好ましくは2〜50%、さらに好ましくは3〜20%、より好ましくは5〜15%の下記式(I)の少なくとも一種の非イオン性モノマーまたは式(I)のモノマー複数の混合物:
【化1】

【0020】
(ここで、
m、n、pおよびqは整数であり、m、n、pは150以下で且つこれらの少なくとも一つは0以上、好ましくは20であり、
Rは少なくとも一種の重合可能な不飽和基を有し、
1およびR2は水素原子または1〜4の炭素原子を有するアルキル団を表し、互いに同一でも異なっていてもよく、
R’は水素または1〜40の炭素原子、好ましくは1〜4の炭素原子を有する炭化水素基を表し、R’はメチルラジカルであるのがさらに好ましい)
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の使用のさらに他の特徴は、沈降無機物質が沈降炭酸カルシウムである点にある。
本発明の使用のさらに他の特徴は、式(I)のモノマー以外のビニルモノマーが、アクリル酸またはメタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミドまたはカチオンモノマーまたはこれらの混合物の中から選択される点にある。
【0022】
本発明の使用のさらに他の特徴は、カチオンモノマーが、カチオンモノマーの(メタ)アクリルエステル、好ましくは[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチル塩化または硫酸アンモニウム、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチル塩化または硫酸アンモニウム、[3−(アクリルアミド)プロピル]トリメチル塩化または硫酸アンモニウム、ジメチルジアリル塩化または硫酸アンモニウムまたは[3−(メタクリルアミド)プロピル]トリメチル塩化または硫酸アンモニウムまたはこれらの混合物の中から選択される点にある。
【0023】
本発明の使用のさらに他の特徴は、重合可能な基がビニル基、またはアクリル基、メタクリル基またはマレインエステル基、またはウレタン不飽和基の中から選択され、好ましくはアクリルウレタン、メタクリルウレタン、α−α’ジメチル−イソプロペニル−ベンジルウレタンまたはアリルウレタン基、またはアリルまたはビニルエーテル基(置換されていてもよい)、またはエチレン性不飽和アミドまたはイミド基である点にある。好ましいのはメタクリルエステル基である。
【0024】
本発明の使用のさらに他の特徴は、上記コポリマーが酸の形、場合によっては蒸留された形で得られ、一価または多価のカチオンを有する一種以上の中和剤によって一部または全部が中和される低にある。この中和剤はアンモニウム塩、水酸化および/または酸化カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムまたはリチウム、脂肪族および/または環状一級、二級または三級アミン、好ましくはステアリルアミン、エタノールアミン(モノ−、ジ−およびトリエタノールアミン)、モノ−およびジエチルアミン、シクロヘキシルアミン、メチルシクロヘキシルアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリンの中から選択される。この中和剤は水酸化ナトリウムであるのが好ましい。
【0025】
本発明の使用のさらに他の特徴は、上記コポリマーが、触媒系および連鎖移動剤の存在下での溶液ラジカル重合、直接または逆相乳化ラジカル重合、懸濁ラジカル重合または溶剤沈殿重合法、あるいは、制御されたラジカル重合法、好ましくはニトロオキシド媒介重合(NMP)またはコバロキシム媒介重合、原子移動ラジカル重合(ATRP)、カルバメート、ジチオエステルまたはトリチオカーボネート(RAFT)またはキサンテートの中から選択される硫化誘導体による制御されたラジカル重合法によって得られる点にある。
【0026】
本発明の使用のさらに他の特徴は、完全または部分中和反応の前または後に、静的または動的方法で一種または複数の極性溶剤、好ましくは水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、テトラヒドロフランまたはこれらの混合物からなる群に属する溶剤を用いて上記コポリマーを処理して複数の相に分離する点にある。
【0027】
沈降無機物質が沈降炭酸カルシウムの場合、本発明の上記コポリマーの使用のさらに他の特徴は、沈降無機物質の製造方法が生石灰を供給する少なくとも一つの段階と、この生石灰を消和する少なくとも一つの段階と、この生石灰を炭酸化する少なくとも一つの段階とを含む点にある。
【0028】
沈降無機物質が沈降炭酸カルシウムである場合、本発明の沈降無機物質の製造方法での使用は、下記(a)〜(d)を含む点に特長がある:
(a)生石灰粉末を用意する、
(b)または(a)段階の生石灰を下記の2段階で消和する:
−この生石灰を水溶液(b1)と混練して部分消和して部分消石灰を作り、
−その後、この消石灰に水溶液(b2)を添加して完全に消和し、消石灰の懸濁液を得る;
(b’)または(a)段階の生石灰を下記の1段階で消和する:
−水溶液(b3)と混練して消石灰の懸濁液を得る;
(c)場合によっては(b)または(b’)段階の消石灰の懸濁液を粉砕する、
(d)(b)または(b’)または(c)段階の消石灰の懸濁液を、この消石灰の懸濁液にCO2を導入して炭酸化させる;
上記ポリマーは下記のいずれかに導入する:
−(b)段階で水溶液(b1)および/または(b2)中に、
−または(b’)段階で水溶液(b3)中に、
−および/または(c)段階で反応媒体中に。
導入される。
【0029】
沈降無機物質が沈降炭酸カルシウムである場合、沈降無機物質の製造方法での上記コポリマーの使用の特徴は、コポリマーを消石灰の乾燥重量に対して乾燥重量で0.01〜1%の割合で用いる点にある。
沈降無機物質が沈降炭酸カルシウムである場合、沈降無機物質の製造方法での上記コポリマーの使用の特徴は、上記コポリマーを沈降炭酸カルシウムの炭酸化時間を短縮化剤として用いる点にある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1A】得られた霰石型のPCCに特有の針の形をした多形体の走査電子顕微鏡画像。
【図1B】[図1A]の拡大図。
【図2A】得られた霰石型のPCCに特有の針の形をした多形体の走査電子顕微鏡画像。
【図2B】[図2A]の拡大図。
【実施例】
【0031】
実施例1
以下の試験では(Ca(OH)2)の水性懸濁液にCO2を送ってバブリングして沈降炭酸カルシウム(PCC)を製造する。
従来法の場合はポリマーとして重量分子量が10,500g/モルのポリアクリレートナトリウム(以下、PAA)と、重量分子量が600g/モルのポリエチレングリコール(以下、PEG)を用いた。
本発明で用いたポリマー(以下、P)は下記(a)と(b)からなるコポリマーである(モル%):
(a)79.8%のメタクリル酸および9.0%のエチルアクリレート、
(b)11.2%の式(I)のモノマー(ここで、Rはメタクリレート基を表し、R’はメチル基を表し、m=p=0;n=45;q=1)。
【0032】
PCCの製造方法の効率または収率は、炭酸化時間(分)で得られたPCCの懸濁液の質量(kg)に戻した製造されたPCCの質量(kg)に等しいとして求めた。
形成されたPCCの多形体の特徴は製造した多形体の走査電子顕微鏡画像を用いて視覚的に決定した。
【0033】
得られたPCCのメジアン径d50(μm)(ここで、dxはx重量%の粒子がdx以下の径を有するような径の値)を、MICROMERITICS(登録商標)のSedigraph(登録商標)5100 装置を用いて測定した。
【0034】
得られたPCCの粒子の比表面積(SSA(m2/g)で表示)はISO規格9277:1995に従ってBET法を用いて求めた。
得られたPCCの最終懸濁液のBrookfield(登録商標)粘度は25℃、100回転/分で測定し、μ100(mPa.s)で表した。
最終PCC中で得られた残存石灰量はX線回折で求めた。
【0035】
テスト番号1:
ポリマーを用いずに、偏三角面体形方解石のPCCを合成する参照テスト
200kgの酸化カルシウム(オーストリア原産)を、40℃の水道水1700リットルを入れた反応器に撹拌しながら導入する。この媒体を30分間撹拌する。次いで、得られた懸濁液を水で希釈し、所定の乾燥抽出物(または上記懸濁液の全重量と比較した無機物質の乾燥重量%(ES表記))を得る。
次いで、この懸濁液1750リットルの温度を50℃に上げ、撹拌器および媒体のpHと伝導率とを測定するプローブを備えた1850リットル容のステンレス鋼円筒型反応器に導入する。
反応器の底から、空気とCO2との気体混合物(20〜30容量%のCO2を含む)を200m3/時の流量で送ってバブリングすると同時に、懸濁液を200〜300回転/分の速度で撹拌する。供給ガスの加圧力は150〜200mbarであり、反応器内のCa(OH)2の静水圧に対応する。炭酸化中、懸濁液の温度は調節しない。この発熱反応中に発生する熱の作用で昇温することがある。伝導率がその最小値に達したら、バブリングをさらに4分間続ける。
【0036】
テスト番号2:
ポリマーPAAの存在下で偏三角面体形方解石のPCCを合成する従来法のテスト
このテストはテスト番号1に記載の手順に従って実施したが、(Ca(OH)2の乾燥重量と比較して)乾燥重量で0.1%のポリマーPAAをCa(OH)2の懸濁液に導入した後に、炭酸化段階を行った。
【0037】
テスト番号3:
ポリマーPの存在下で偏三角面体形方解石のPCCを合成する本発明のテスト
このテストはテスト番号1に記載の手順に従って実施したが、(Ca(OH)2の乾燥重量と比較して)乾燥重量で0.075%のポリマーPをCa(OH)2の懸濁液に導入し、その後に炭酸化段階を行った。
テスト番号1〜3の各テストでは、最終生成物の残留石灰質量含有率が、得られたPCCの全重量の6%以下である。
[表1]は上記テストでのガス導入時点から伝導率がその最小閾値を越える時点までの経過時間を表す炭酸化時間と、その他の測定したパラメータおよび量とを示す。
【0038】
テスト番号4:
ポリマーを用いずに霰石PCCを合成する参照テスト
160kgの酸化カルシウム(アメリカ合衆国産)を50℃の水道水1300リットルを入れた反応器に撹拌しながら導入する。この媒体を30分間撹拌する。次いで、得られた懸濁液を水で希釈し、所定の乾燥抽出物(または上記懸濁液の全重量と比較した無機物質の乾燥重量%(ES表記))を得る。次いで、この懸濁液1250リットルの温度を60℃に上げ、撹拌器および媒体のpHと伝導率とを測定するプローブを備えた1850リットル容のステンレス鋼円筒型反応器に導入する。
炭酸化段階の前に、霰石型PCCの塊を反応器に導入する。
反応器の底から、最初に空気とCO2との気体混合物(4〜8容量%のCO2を含む)を100m3/時の流量で送ってバブリングさせると同時に、懸濁液を200〜300回転/分の速度で撹拌する。混合物中のCO2の分率は徐々に上昇し、最大でこの混合物の容量の20〜30%の値になる。供給ガスに関する加圧力は100〜200mbarであり、反応器内のCa(OH)2の静水圧に対応する。
排ガス中のCO2含有率が6容量%を超えたときに、高温水を添加して懸濁液を希釈し、所定の粘度を得る([表1]参照)。炭酸化中、懸濁液の温度は調節しない。この発熱反応中に発生する熱の作用で昇温することがある。伝導率がその最小値に達したら、バブリングをさらに4分間続ける。
【0039】
テスト番号5:
ポリマーPの存在下で霰石PCCを合成する本発明のテスト
このテストはテスト番号4と同じ条件下に実施したが、(Ca(OH)2の乾燥重量と比較して)乾燥重量で0.075%のポリマーPを用いた。このポリマーを消和水に添加した後に、CaOを反応器に導入した。
【0040】
テスト番号6:
ポリマーPの存在下で霰石PCCを合成する本発明のテスト
このテストはテスト番号4と同じ条件下に実施したが、(Ca(OH)2の乾燥重量と比較して)乾燥重量で0.075%のポリマーPを用いた。このポリマーを懸濁液に添加した後に、炭酸化段階を行った。
【0041】
テスト番号7:
ポリマーPの存在下で霰石PCCを合成する本発明のテスト
このテストはテスト番号4と同じ条件下に実施したが、(Ca(OH)2の乾燥重量と比較して)乾燥重量で0.15%のポリマーPを用いた。このポリマーを懸濁液に添加した後に、炭酸化段階を行った。
【0042】
テスト番号8:
ポリマーPの存在下で霰石PCCを合成する本発明のテスト
このテストはテスト番号4と同じ条件下に実施したが、(Ca(OH)2の乾燥重量と比較して)乾燥重量で0.20%のポリマーPを用いた。このポリマーを懸濁液に添加した後に、炭酸化段階を行った。
テスト番号4〜8の各テストでは、最終生成物の残留石灰質量含有率が、得られたPCCの全重量の6%以下である。
[表1]は上記テストでガス導入時点から伝導率がその最小閾値を越える時点までの経過時間を表す炭酸化時間と、その他の測定パラメータおよび量を示す。
【0043】
テスト番号9:
ポリマーを用いずに霰石PCCを合成する参照テスト
160kgの酸化カルシウム(オーストリア産)を50℃の水道水1300リットルを入れた反応器に撹拌しながら導入する。この媒体を30分間撹拌する。次いで、得られた懸濁液を水で希釈し、所定の乾燥抽出物(または上記懸濁液の全重量と比較した無機物質の乾燥重量%(ES表記))を得る。次いで、この懸濁液1250リットルの温度を60℃に上げ、撹拌器および懸濁液のpHと伝導率とを測定するプローブを備えた1850リットル容のステンレス鋼円筒型反応器に導入する。
炭酸化段階前に、霰石型のPCCの塊を反応器に導入する。反応器の底から、最初に空気とCO2との気体混合物(4〜8容量%のCO2を含む)を100m3/時の流量で送ってバブリングさせると同時に、懸濁液を200〜300回転/分の速度で撹拌する。混合物中のCO2の分率は徐々に上昇し、最大でこの混合物の容量の20〜30%の値になる。供給ガスの加圧力は100〜200mbarであり、反応器内のCa(OH)2の静水圧に対応する。
排ガス中のCO2含有率が6容量%を超えたときに、高温水を添加して懸濁液を希釈し、所定の粘度を得る([表1]参照)。炭酸化中、懸濁液の温度は調節しない。この発熱反応中に発生する熱の作用で昇温することがある。伝導率がその最小値に達したら、バブリングをさらに4分間続ける。
[図1A]と[図1B]([図1A]の拡大図)は得られた多形体の走査電子顕微鏡画像で、霰石型のPCCに特有の針の形をした多形体をしている。
【0044】
テスト番号10:
ポリマーPの存在下で霰石PCCを合成する本発明のテスト
このテストはテスト番号9と同じ条件下に実施したが、(Ca(OH)2の乾燥重量と比較して)乾燥重量で0.10%のポリマーPを用いた。このポリマーを懸濁液に添加した後に、炭酸化段階を行った。
[図2A]および[図2B]([図2A]の拡大図)は得られた多形体の走査電子顕微鏡画像で、霰石型PCCに特有の針の形の多形体をしている。
【0045】
テスト番号11:
ポリマーPEGの存在下で霰石PCCを合成する従来法のテスト
このテストはテスト番号9と同じ条件下に実施したが、(Ca(OH)2の乾燥重量と比較して)乾燥重量で0.10%のポリマーPEGを用いた。このポリマーを懸濁液に添加した後に、炭酸化段階を行った。
テスト番号9〜11の各テストでは、最終生成物の残留石灰質量含有率が、得られたPCCの全重量の6%以下である。
[表1]は上記テストでガス導入時点から伝導率がその最小閾値を越える時点までの経過時間を表す炭酸化時間と、その他の測定パラメータおよび量を示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
[表1]のS−PCCは偏三角面体形方解石PCCが存在することを示し、A−PCCは霰石構造を表す。
上記の表の結果から、本発明ポリマーのみが、製造されたPCCの構造およびその粒度分析特徴を維持し且つ炭酸化時間を著しく短縮でき、従って、プロセス収率を増大させることができることを明確に示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)と(b)のモノマーから成にことを特徴とする少なくとも一種のコポリマーの沈降無機物質の製造法での使用(モノマーの比率はモル%で表記、モノマー(a)と(b)のモル%の合計は100%):
(a)10〜99%、好ましくは50〜98%、さらに好ましくは80〜97%、より好ましくは85〜95%の下記式(I)のモノマー以外の少なくとも一種のビニルモノマー、
(b)1〜90%、好ましくは2〜50%、さらに好ましくは3〜20%、より好ましくは5〜15%の下記式(I)の少なくとも一種の非イオン性モノマーまたは式(I)のモノマー複数の混合物:
【化1】

(ここで、
m、n、pおよびqは整数であり、m、n、pは150以下で且つこれらの少なくとも一つは0以上、好ましくは20であり、
Rは少なくとも一種の重合可能な不飽和基を有し、
1およびR2は水素原子または1〜4の炭素原子を有するアルキル団を表し、互いに同一でも異なっていてもよく、
R’は水素または1〜40の炭素原子、好ましくは1〜4の炭素原子を有する炭化水素基を表し、R’はメチルラジカルであるのがさらに好ましい)
【請求項2】
沈降無機物質が沈降炭酸カルシウムである請求項1に記載の使用。
【請求項3】
式(I)のモノマー以外のビニルモノマーがアクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミドまたはカチオンモノマーまたはこれらの混合物の中から選択される請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
上記のカチオンモノマーが、カチオンモノマーの(メタ)アクリルエステル、好ましくは[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチル塩化または硫酸アンモニウム、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチル塩化または硫酸アンモニウム、[3−(アクリルアミド)プロピル]トリメチル塩化または硫酸アンモニウム、ジメチルジアリル塩化または硫酸アンモニウムまたは[3−(メタクリルアミド)プロピル]トリメチル塩化または硫酸アンモニウムまたはこれらの混合物の中から選択される請求項3に記載の使用。
【請求項5】
上記の重合可能な基がビニル基、アクリルエステル基、メタクリルエステル基またはマレインエステル基、ウレタン不飽和基、好ましくはアクリルウレタン、メタクリルウレタン、α−α’ジメチル−イソプロペニル−ベンジルウレタンまたはアリルウレタン基、置換されていてもよいアリルエーテル基またはビニルエーテル基またはエチレン性不飽和アミドまたはイミド基の中から選択され、好ましくはメタクリルエステル基である請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
上記コポリマーが酸性の形(場合によっては蒸留された形)で得られ、一価または多価のカチオンを有する一種以上の中和剤によって一部または全部が中和され、この中和剤は好ましくはアンモニア性化合物の中か、水酸化および/または酸化カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムまたはリチウムか、脂肪族および/または環状一級、二級または三級アミン、好ましくはステアリルアミン、エタノールアミン(モノ−、ジ−およびトリエタノールアミン)、モノ−およびジエチルアミン、シクロヘキシルアミン、メチルシクロヘキシルアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリンの中から選択され、好ましくは中和剤が水酸化ナトリウムである請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
上記コポリマーが、触媒系および連鎖移動剤の存在下での溶液ラジカル重合、直接または逆乳化ラジカル重合、懸濁ラジカル重合または溶剤沈殿重合法で得られるか、制御されたラジカル重合法、好ましくはニトロオキシド媒介重合(NMP)またはコバロキシム(cobaloxymes)媒介重合、原子移動ラジカル重合(ATRP)、カルバメート、ジチオエステルまたはトリチオカーボネート(RAFT)またはキサンテートの中から選択される硫化誘導体によって制御されたラジカル重合によって得られる請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
完全または部分中和反応の前または後に、静的または動的方法を用いて、一種以上の極性溶剤、好ましくは水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、テトラヒドロフランまたはこれらの混合物からなる群に属する溶剤によって上記コポリマーを処理し、複数の相に分離c
る請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
生石灰を供給する少なくとも一つの段階と、この生石灰を消和する少なくとも一つの段階と、この生石灰を炭酸化する少なくとも一つの段階とを含むことを特徴とする、沈降無機物質が沈降炭酸カルシウムである沈降無機物質の製造方法での請求項2〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
上記方法が下記(a)〜(d)を含むことを特徴とする沈降無機物質が沈降炭酸カルシウムである沈降無機物質の製造方法での請求項2〜9のいずれか一項に記載の使用:
(a)生石灰粉末を用意する、
(b)または(a)段階の生石灰を下記の2段階で消和する:
−この生石灰を水溶液(b1)と混練して部分消和して部分消石灰を作り、
−その後、この消石灰に水溶液(b2)を添加して完全に消和し、消石灰の懸濁液を得る;
(b’)または(a)段階の生石灰を下記の1段階で消和する:
−水溶液(b3)と混練して消石灰の懸濁液を得る;
(c)場合によっては(b)または(b’)段階の消石灰の懸濁液を粉砕する、
(d)(b)または(b’)または(c)段階の消石灰の懸濁液を、この消石灰の懸濁液にCO2を導入して炭酸化させる;
上記ポリマーは下記のいずれかに導入する:
−(b)段階で水溶液(b1)および/または(b2)中に、
−または(b’)段階で水溶液(b3)中に、
−および/または(c)段階で反応媒体中に。
【請求項11】
上記コポリマーを消石灰の乾燥重量に対して乾燥重量で0.01〜1%の割合で用いることを特徴とする沈降無機物質が沈降炭酸カルシウムである沈降無機物質の製造方法での請求項2〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
上記コポリマーを、沈降炭酸カルシウムの炭酸化時間の短縮剤として用いることを特徴とする沈降無機物質が沈降炭酸カルシウムである沈降無機物質の製造方法での請求項2〜11のいずれか一項に記載の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【公表番号】特表2011−530478(P2011−530478A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522564(P2011−522564)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【国際出願番号】PCT/IB2009/006530
【国際公開番号】WO2010/018448
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(398051154)コアテツクス・エス・アー・エス (35)
【Fターム(参考)】