説明

弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂

【課題】調色安定性が良好な弱溶剤系塗料に適し、簡便な重合方法でも製造可能な顔料分散樹脂を提供する。
【解決手段】 炭素数が1又は2のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a1)1〜30質量%、炭素数が4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)10〜80質量%、吸着官能基を有する(メタ)アクリレート(a3)1〜20質量%及びその他の重合性不飽和モノマー(a4)0〜50質量%からなり、モノマー(a2)が、その成分の一部として炭素数が4のアルキル基を有する(メタ)アクリレートを含み、その割合がモノマー(a2)中に50質量%以上であることを特徴とするモノマー成分を構成成分とする弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弱溶剤系塗料に適した顔料分散樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物や土木構造物等の被塗物に対する塗装に溶解力の低い溶剤、いわゆる弱溶剤を用いた塗料による塗装が行われている。このような弱溶剤系塗料によれば、環境への負荷が少なく、乾燥性が良好でトルエン、キシレンなどの強溶剤系塗料と同等の塗膜性能や仕上がり外観を発揮することができるものであるが、一方で顔料の分散安定性不良が原因と思われる塗料の貯蔵安定性不良、及び塗膜の色分かれ、変色の問題も顕在化している。
【0003】
弱溶剤系塗料用の顔料分散樹脂として例えば特許文献1には、分子内に加水分解性珪素基と第3級アミノ基を有する樹脂組成物が、特許文献2には第1級水酸基及び第2級水酸基を有するアクリルポリオールを含む顔料分散液が開示されている。
【0004】
これらの組成物によれば、特定官能基の作用によって、顔料混和性が高まるものの、上記顔料分散樹脂の極性が高くなることにより、塗膜形成成分となりうる基体樹脂との相溶性が不十分となる場合があった。また、建築物などの塗装において、スプレー塗装、刷毛塗り塗装、ローラー塗装などの塗装方法の違いにより色差が大きく異なる現象(調色安定性ということがある)があり、実用上改善の余地がある。
【0005】
こうした問題に関して本出願人は特許文献3において、付加開裂型連鎖移動剤を用いた触媒的連鎖移動重合法により得られる特定組成の顔料分散樹脂を提案した。該文献によれば弱溶剤系でも顔料分散性や調色安定性が良好な塗料が得られることが開示されているが、特殊な連鎖移動剤を用い、多段階で重合することによって得られるものであることから、製造に工数、時間がかかり生産性が低い点は否めない。そこで簡便な方法で得られる顔料分散樹脂による弱溶剤系塗料の開発も望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−121468号公報
【特許文献2】特開2004−300407号公報
【特許文献3】特開2011−080050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、調色安定性が良好な弱溶剤系塗料に適し、簡便な重合方法でも製造可能な顔料分散樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記した課題に対して鋭意検討した結果、特定組成の重合性不飽和モノマー成分を重合することにより、簡便な方法でも調色安定性に優れた弱溶剤系塗料を与える顔料分散樹脂が得られることを見出し、本発明に到達した。
即ち本発明は、
1. 炭素数が1又は2のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a1)1〜30質量%、炭素数が4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)10〜80質量%、吸着官能基を有する(メタ)アクリレート(a3)1〜20質量%及びその他の重合性不飽和モノマー(a4)0〜50質量%からなり、モノマー(a2)が、その成分の一部として炭素数が4のアルキル基を有する(メタ)アクリレートを含み、その割合がモノマー(a2)中に50質量%以上であることを特徴とするモノマー成分を構成成分とする弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂、
2. 炭素数が1又は2のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a1)がエチルアクリレートである1項記載の弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂、
3. 炭素数が4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)が、その成分の一部として炭素数が6以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレートをさらに含む1項または2項に記載の弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂、
4. 吸着官能基を有する(メタ)アクリレート(a3)の吸着官能基が、アミノ基、4級アンモニウム塩基、スルホン酸基、リン酸基、およびカルボキシル基から選ばれるものである1項ないし3項のいずれか1項に記載の弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂、
5. 脂肪酸を構成成分とするものである1項ないし4項のいずれか1項に記載の弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂、
6. 吸着官能基が塩基性化合物又は酸性化合物で中和してなるものである1項ないし5項のいずれか1項に記載の弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂、
7. 弱溶剤の存在下で重合されるものである1項ないし6項のいずれか1項に記載の弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂、
8. 重量平均分子量が、1,000〜150,000の範囲内にある1項ないし7項のいずれか1項に記載の弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂、
9. 1項ないし8項のいずれか1項記載の顔料分散樹脂、顔料、塗料用バインダ及び弱溶剤を含む弱溶剤系塗料、
10. 被塗面に、9項記載の弱溶剤系塗料を塗装することを特徴とする塗装方法、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従う顔料分散樹脂は、弱溶剤の存在下でも顔料との吸着性が良好であり、顔料分散性に優れるものである。かかる顔料分散樹脂を用いて調製された弱溶剤系塗料は、貯蔵安定性が良好であり、スプレー、ローラー、刷毛などの塗装手段の違いによって色味が異なる現象が抑制され、色分かれや変色のない、調色安定性及び仕上がり性の良好な塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は弱溶剤系塗料に関するものである。弱溶剤とは当該塗料分野でよく用いられる用語であって、一般的には溶解力の弱い溶剤を意味するものであり厳密に定義されるものではないが、労働安全衛生法による有機溶剤の分類において、第3種有機溶剤とされているものであることができる。その具体例としては、例えば、ガソリン、コールタールナフサ(ソルベントナフサを含む)、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、テレピン油、ミネラルスピリット(ミネラルシンナー、ペトロリウムスピリット、ホワイトスピリットおよびミネラルターペンを含む)を挙げることができ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせたものであってもよく、労働安全衛生法における第1種有機溶剤、第2種有機溶剤を5質量%以下で含んだものであっても良い。
【0011】
なお、第1種有機溶剤とは、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロルエタン、1,2―ジクロルエチレン、1,1,2,2−テトラクロルエタン、トリクロルエタン、二硫化炭素、及び、これらのみからなる混合物等が挙げられ、第2種有機溶剤とは、いわゆる強溶剤と呼ばれるものであり、アセトン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコール、エチルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、オルト−ジクロロベンゼン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸−n−プロピル、酢酸−n−ペンチル、酢酸メチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、1,4−ジオキサン、ジクロロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、スチレン、テトラクロロエチレン、テトラヒドロフラン、1,1,1−トリクロルエタン、トルエン、n−ヘキサン、1−ブタノール、2−ブタノール、メタノール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、メチル−n−ブチルケトン等を挙げることができる。
【0012】
上記弱溶剤としては市販品を使用することもでき、その具体例としては、「スワゾール1000」、「スワゾール1500」(以上、丸善石油株式会社製)、「ソルベッソ150」、「ソルベッソ200」、「HAWS」、「LAWS」(以上、シェルジャパン社製)、「エッソナフサNo.6」、「エクソールD30」(商品名、エクソンモービル化学社製)、「ペガゾール3040」(商品名、エクソンモービル化学社製)、「Aソルベント」、「クレンゾル」、「イプゾール100」(出光興産株式会社製)、「ミネラルスピリットA」、「ハイアロム2S」、「ハイアロム2S」(以上、新日本石油化学株式会社製)、「リニアレン10」、「リニアレン12」(以上、出光石油化学株式会社製)、「リカソルブ900」、「リカソルブ910B」、「リカソルブ1000」(以上、新日本理化株式会社製)などを挙げることができ、これらを単独または混合して用いることができる。
【0013】
本発明の弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂は、炭素数が1又は2のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a1)、炭素数が4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)、吸着官能基を有する(メタ)アクリレート(a3)及びその他の重合性不飽和モノマー(a4)を構成成分とする。
【0014】
炭素数が1又は2のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a1)は、具体的にはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0015】
本発明において顔料分散樹脂が共重合成分としてモノマー(a1)を含むことにより、弱溶剤系塗料の調色安定性に効果があるものであり、モノマー(a1)としてエチルアクリレートを使用することが適している。
【0016】
炭素数が4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)は、顔料を顔料分散樹脂により分散して得られる顔料分散体の弱溶剤希釈性を向上させるために使用されるものであり、具体的には、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、「イソステアリルアクリレート」、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート等の直鎖状、分岐状又は環状アルキル基含有(メタ)アクリレートを挙げることができ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0017】
本発明において、上記モノマー(a2)はその成分の一部として炭素数が4のアルキル基を有する(メタ)アクリレートを50質量%以上含むことを特徴とするものであり、50〜95質量%の範囲内にあることが望ましい。かかる炭素数が4のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができ、中でも炭素数が4のアルキル基を有するメタクリレートが適している。該モノマーの量がモノマー(a2)中50質量%未満では弱溶剤系塗料の調色安定性が不十分であり、好ましくない。
【0018】
また、上記炭素数が4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)は、その成分の一部として炭素数が6以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレートをさらに含むことが適している。
【0019】
炭素数が6以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート等の直鎖状、分岐状又は環状アルキル基含有(メタ)アクリレートを挙げることができ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。中でも炭素数が6以上のアルキル基を有するアクリレートがよい。
【0020】
上記炭素数が4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)に含まれる炭素数が6以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの使用割合は、モノマー(a2)中に50質量%以下、好ましくは5〜50質量%の範囲内にあることが調色安定性の点から適している。
【0021】
吸着官能基を有する(メタ)アクリレート(a3)は、顔料分散樹脂による顔料の分散安定性及び顔料分散体の貯蔵安定性の点から使用されるものであり、アミノ基、4級アンモニウム塩基、スルホン酸基、リン酸基及びカルボキシル基から選ばれる吸着官能基を有する重合性不飽和モノマーであり、その具体例としては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノ基含有重合性不飽和モノマー;(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド等の第4級アンモニウム塩基含有重合性不飽和モノマー;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有重合性不飽和モノマー;アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、リン酸モノ−〔(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリル酸〕エステル等のリン酸基含有重合性不飽和モノマー;アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと酸無水物とのハーフエステル化物等のカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー;等を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0022】
本発明において上記顔料分散樹脂は上記モノマー(a1)、モノマー(a2)及びモノマー(a3)以外にその他の重合性不飽和モノマー(a4)を構成成分としたものであってもよい。
【0023】
かかるその他の重合性不飽和モノマー(a4)の具体例としては、例えば、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート等の上記モノマー(a1)及びモノマー(a2)以外のアルキル基含有重合性不飽和モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有重合性不飽和モノマー;該エポキシ基含有重合性不飽和モノマーと乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸及び不乾性油脂肪酸などの不飽和脂肪酸との反応生成物;スチレン、ビニルトルエンなどの芳香族重合性不飽和モノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートにε−カプロラクトンなどのラクトン類を開環重合した化合物、及びポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物などの水酸基含有含有重合性不飽和モノマー;γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、β−メタクリロイルオキシエチルトリメトキシシランなどのアルコキシシリル基含有重合性不飽和モノマー;「サイラプレンFM−0711」(チッソ(株)製)などのジメチルポリシロキサン含有重合性不飽和モノマー、ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレートなどのフッ素含有重合性不飽和モノマー;等を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0024】
本発明において上記その他の重合性不飽和モノマー(a4)が水酸基含有重合性不飽和モノマーを含むと、調色安定性を損なうことなく本発明塗料の塗膜物性を向上させることができ、好適である。
【0025】
上記顔料分散樹脂において、モノマー(a1)、モノマー(a2)、モノマー(a3)及びモノマー(a4)の使用割合としては、
モノマー(a1)が1〜30質量%であり、好ましくは1〜20質量%、
モノマー(a2)が10〜80質量%であり、好ましくは30〜80質量%、
モノマー(a3)が1〜20質量%であり、好ましくは1〜10質量%、
モノマー(a4)が0〜50質量%であり、好ましくは0〜40質量%、
の範囲内である。
【0026】
上記モノマー(a1)、モノマー(a2)、モノマー(a3)及びモノマー(a4)を含む重合性不飽和モノマー成分のラジカル重合は、有機溶剤中での溶液重合法などの方法によって行うことができる。
【0027】
重合に用いられるラジカル重合開始剤としては例えば、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−アミルパーオキサイド、ビス(tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の過酸化物系重合開始剤;2,2´−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、アゾクメン、2,2´−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2´−アゾビスジメチルバレロニトリル、4,4´−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2−(t−ブチルアゾ)−2−シアノプロパン、2,2´−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2´−アゾビス(2−メチルプロパン)、ジメチル2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ系重合開始剤を挙げることができる。
【0028】
上記溶液重合又は希釈に使用される有機溶剤としては特に制限はないが弱溶剤を使用ですることが好ましく、また他の有機溶剤を併用してもよい。弱溶剤以外の他の有機溶剤としては、例えばn−ブタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロブタンなどの沸点が148℃未満の炭化水素溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;n−ブチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールなどのエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶剤;エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール等の等のアルコール系溶剤等の従来公知の溶剤を挙げることができる。
【0029】
有機溶剤中での溶液重合において重合開始剤、重合性不飽和モノマー成分、及び有機溶剤を混合し、攪拌しながら加熱する方法、反応熱による系の温度上昇を抑えるために有機溶剤を反応槽に仕込み、60℃〜200℃の温度で攪拌しながら必要に応じて窒素やアルゴンなどの不活性ガスを吹き込みながら、重合性不飽和モノマー成分と重合開始剤を所定の時間かけて混合滴下又は分離滴下する方法などが用いられる。
【0030】
重合は、一般に1〜10時間程度行うことができる。各段階の重合の後に必要に応じて重合開始剤を滴下しながら反応槽を加熱する追加触媒工程を設けてもよい。
【0031】
本発明においては、顔料分散樹脂が脂肪酸を構成成分とするものであってもよい。
【0032】
脂肪酸としては、乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸及び不乾性油脂肪酸等が挙げられ、具体的には、例えば、魚油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、ケシ油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、ブドウ核油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、クルミ油脂肪酸、ゴム種油脂肪酸、ハイジエン酸脂肪酸等が挙げられ、また、不乾性油脂肪酸としては、例えば、ヤシ油脂肪酸、水添ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸等が挙げられる。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0033】
顔料分散樹脂に脂肪酸を付加する方法としては、上記モノマー(a4)の成分の一部としてエポキシ基含有重合性不飽和モノマーを使用して得られるエポキシ基含有樹脂に上記脂肪酸を付加する方法、その他の重合性不飽和モノマー(a4)の成分の一部として脂肪酸とエポキシ基含有重合性不飽和モノマー付加物を使用する方法などがある。
【0034】
また、上記顔料分散樹脂は、顔料分散樹脂に含まれる吸着官能基が塩基性化合物又は酸性化合物で中和してなるものであてもよい。
【0035】
中和に用いられる塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア;エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、モノエタノールアミン、ネオペンタノールアミン、2−アミノプロパノール、3−アミノプロパノールなどの第1級モノアミン化合物;ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジ−n−プロパノールアミン、ジ−iso−プロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミンなどの第2級モノアミン化合物;ジメチルエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなどの第3級モノアミン化合物;ジエチレントリアミン、ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミンなどのポリアミン化合物等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
一方、中和する際に使用することができる酸性化合物としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グルタル酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、マロン酸、アジピン酸などの有機酸類や、スルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機スルホン酸類、及び、塩酸、硫酸、硝酸、オルトリン酸、ポリリン酸、ポリメタリン酸、オルト亜リン酸、硼酸、フッ酸等の無機酸等を使用することができる。これらの酸は単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
中和反応は、吸着官能基を有する(メタ)アクリレート(a3)に対して行っても、重合後の樹脂に対して行ってもいずれであっても差し支えない。
【0038】
上記の通り得られる本発明の顔料分散樹脂は重量平均分子量が1000〜150000、好ましくは3000〜50000の範囲内、酸基を有する場合は酸価が50mgKOH/g以下、好ましくは6〜50mgKOH/gの範囲内であり、アミノ基を有する場合はアミン価が50mgKOH/g以下、好ましくは3〜30mgKOH/gの範囲内であり、水酸基を有する場合は水酸基価が100mgKOH/g以下、好ましくは50mgKOH/g以下の範囲内であることができる。
【0039】
本明細書において重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(東ソー(株)社製、「HLC8120GPC」)で測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算した値である。
【0040】
本発明において、上記顔料分散樹脂に分散される顔料としては、従来公知のものを制限なく使用することができ、例えば、チタン白、亜鉛華などの白色顔料;シアニンブルー、インダスレンブルーなどの青色顔料;シアニングリーン、緑青などの緑色顔料;アゾ系やキナクリドン系などの有機赤色顔料、ベンガラなどの赤色顔料;ベンツイミダゾロン系、イソインドリノン系、イソインドリン系及びキノフタロン系などの有機黄色顔料、チタンイエロー、黄鉛などの黄色顔料;カーボンブラック、黒鉛、松煙などの黒色顔料;アルミニウム粉、銅粉、ニッケル粉、酸化チタン被覆マイカ粉、酸化鉄被覆マイカ粉及び光輝性グラファイトなどの光輝性顔料などが挙げられる。
【0041】
顔料の配合割合は特に制限されるものではなく、顔料の種類に応じて適宜調整することができ、一般に顔料分散樹脂固形分100質量部に対して10〜200質量部、好ましくは30〜150質量部の範囲内にあることができる。
【0042】
本発明の弱溶剤系塗料は、上記の通り得られる顔料分散樹脂、顔料、塗料用バインダ樹脂および弱溶剤を含む。
【0043】
これらのうち塗料用バインダ樹脂としては、弱溶剤系塗料に適用可能なものであれば特に制限なく従来公知のものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリケート樹脂、塩素系樹脂、フッ素系樹脂等の樹脂、これら樹脂の2種以上からなる変性樹脂等が挙げられ、必要に応じてメラミン樹脂などのアミノ樹脂、イソシアナート、あるいはブロックイソシアナートなどの架橋用樹脂を含んでもよい。
【0044】
また、上記弱溶剤系塗料には可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤などの塗料用添加剤を必要に応じて配合することもできる。
【0045】
上記本発明の弱溶剤系塗料が適用される被塗面としては、例えば、石膏ボード、コンクリート壁、コンクリートブロック、サイディングボード、モルタル壁、スレート板、PC板、ALC板、セメント珪酸カルシウム板、木材、石材、プラスチック、陶磁器、磁器タイル、金属等の基材の表面、これら基材上に設けられたアクリル樹脂系、アクリルウレタン樹脂系、ポリウレタン樹脂系、フッ素樹脂系、シリコン樹脂、シリコンアクリル樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、エポキシ樹脂系等の塗膜面、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、紙、布等の材質からなる壁紙面などを挙げることができる。
【0046】
塗料の塗装は既知の塗装手段によって行うことができ、常温乾燥の条件でも調色安定性が良好な優れた外観、性能の塗膜を形成することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、下記例中の「部」および「%」はそれぞれ「質量部」および「質量%」を意味する。
【0048】
<顔料分散樹脂溶液の製造>
実施例1
温度計、サーモスタット、攪拌装置、還流冷却器及び滴下装置を備えた製造フラスコに「スワゾール1500」(注1)30部を仕込み、115℃まで昇温し、窒素気流中攪拌混合しながら下記組成のモノマー組成物を3時間かけて滴下した。
<モノマー組成物>
n−ブチルメタクリレート 45部、
2−エチルヘキシルメタクリレート 25部、
エチルアクリレート 15部、
ヒドロキシエチルメタクリレート 10部、
ジメチルアミノエチルメタクリレート 5部、
t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート 1.2部、
<触媒混合液>
「スワゾール1500」 30部、
2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル) 0.5部、
次いで下記触媒混合液を同温度で1時間かけて滴下し、115℃で1時間熟成した後、固形分が50%となるように「スワゾール1500」(注1)を添加して、顔料分散樹脂溶液(A−1)を得た。
(注1)「スワゾール1500」:商品名、丸善石油(株)社製、芳香族系混合溶剤、沸点183〜208℃。
【0049】
実施例2〜7及び比較例1〜6
上記実施例1において、滴下するモノマー組成物を下記表1とする以外は上記製造例1と同様にして顔料分散樹脂溶液(A−2)〜(A−13)を得た。
【0050】
尚、表中記号の説明は下記通りである。
nBMA:n−ブチルメタクリレート、
2EHMA:2エチルヘキシルメタクリレート、
2EHA:2エチルヘキシルアクリレート、
EA:エチルアクリレート、
HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート、
DMAEMA:ジメチルアミノエチルメタクレート、
DMAEMA中和:ジメチルアミノエチルメタクリレート5部に99%ギ酸を1.48部の割合で添加して得られるモノマー、
DMAPAA:ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、
nBA:n−ブチルアクリレート、
IBXA:イソボルニルアクリレート、
ISA:イソステアリルアクリレート、
MMA:メチルメタクリレート、
MAAc:メタクリル酸、
脂肪酸変性モノマー:グリシジルメタクリレート5部に対してヤシ油脂肪酸を8部付加したモノマー、
【0051】
【表1】

【0052】
<評価試験>
上記実施例1〜7及び比較例1〜6で得られた各顔料分散樹脂溶液(A−1)〜(A−13)を下記評価試験に供した。結果を表1に併せて示す。
(*1)樹脂外観
上記顔料分散樹脂溶液(A−1)〜(A−13)の外観を目視評価した。
◎:均一、
○:若干濁りあり、
△:濁りあり、
×:濁りが顕著。
(*2)弱溶剤希釈性
各顔料分散樹脂溶液(A−1)〜(A−13)の樹脂固形分100部に対し、ミネラルスピリットを200部混合し、25℃における外観を目視評価した。
◎:均一、
○:若干濁りあり、
△:濁りあり、
×:濁りが顕著又は全く希釈できない。
(*3)顔料分散性
上記実施例1〜7及び比較例1〜6で得られた各顔料分散樹脂溶液(A−1)〜(A−13)を40g、チタン白79g、カーボンブラック1g、「スワゾール1500」20gを225mlの広口ガラス瓶に入れ、分散メジアとして直径約1.5mm径のガラズビーズを100g加えて密閉し、DASH2000−K DISPERSER(商品名、LAU社製、振とう型ペイントコンディショナー)にて60分間分散して、各顔料分散体を得た。その後得られた顔料分散体をJIS K 5600 2.5分散度試験に準じツブゲージを用いて下記評価基準により評価した。
○:顔料が10μm未満で分散されている、
△:顔料が10μm以上で分散されている、
×:目視で凝集物が確認される。
(*4)貯蔵安定性
上記分散性の評価で使用した各顔料分散体を40℃、30日間の条件で貯蔵し、下記基準にて評価した。
◎:変化なし、
○:液面が色分かれしている状態、顔料の沈殿なし、
△:顔料の沈殿あり、
×:完全二層分離。
(*5)調色安定性(色分かれ性)
関西ペイント社製「セラMレタン白」(商品名、アクリル/ウレタン系弱溶剤塗料)固形分100部に対し、上記分散性の評価で得られた各顔料分散体を固形分が50部となるように混合して得られる試料をブリキ板にスプレー塗装し、室温にて3日間乾燥後、得られた塗装面上の一部にハケ及びローラーで塗装し、目視で外観を評価した。
◎:スプレー、ハケ、ローラーによる塗装面に色差の違いが見られない、
○:スプレー、ハケ、ローラーによる塗装面に色差の違いが若干確認される、
△:スプレー、ハケ、ローラーによる塗装面に色差の違いが確認される、
×:スプレー、ハケ、ローラーによる塗装面に色差の違いが顕著である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が1又は2のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a1)1〜30質量%、炭素数が4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)10〜80質量%、吸着官能基を有する(メタ)アクリレート(a3)1〜20質量%及びその他の重合性不飽和モノマー(a4)0〜50質量%からなり、モノマー(a2)が、その成分の一部として炭素数が4のアルキル基を有する(メタ)アクリレートを含み、その割合がモノマー(a2)中に50質量%以上であることを特徴とするモノマー成分を構成成分とする弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂。
【請求項2】
炭素数が1又は2のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a1)がエチルアクリレートである請求項1記載の弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂。
【請求項3】
炭素数が4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)が、その成分の一部として炭素数が6以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレートをさらに含む請求項1または2に記載の弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂。
【請求項4】
吸着官能基を有する(メタ)アクリレート(a3)の吸着官能基が、アミノ基、4級アンモニウム塩基、スルホン酸基、リン酸基、およびカルボキシル基から選ばれるものである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂。
【請求項5】
脂肪酸を構成成分とするものである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂。
【請求項6】
吸着官能基が塩基性化合物又は酸性化合物で中和してなるものである請求項1ないし5のいずれか1項に記載の弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂。
【請求項7】
弱溶剤の存在下で重合されるものである請求項1ないし6のいずれか1項に記載の弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂。
【請求項8】
重量平均分子量が、1,000〜150,000の範囲内にある請求項1ないし7のいずれか1項に記載の弱溶剤系塗料用顔料分散樹脂。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項記載の顔料分散樹脂、顔料、塗料用バインダ及び弱溶剤を含む弱溶剤系塗料。
【請求項10】
被塗面に、請求項9記載の弱溶剤系塗料を塗装することを特徴とする塗装方法。

【公開番号】特開2013−40247(P2013−40247A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176700(P2011−176700)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】