説明

弱酸化性硝酸アンモニウム複合材料および当該組成物の調製方法

比較的安定な硝酸アンモニウム複合材料を形成する方法を提供する。この方法は、(a)約1mmよりも大きい平均粒径を有する硝酸アンモニウムと微粒子状の実質的に非酸化性の化合物を混合すること、及び、(b)前記非酸化性化合物の存在下で前記硝酸アンモニウムの平均粒度を下げて、約1μmから約1000μmの平均粒径を有する硝酸アンモニウムと非酸化性化合物の実質的に均質な混合物を生成し、実質的に非爆発性の粉体を形成すること、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2008年7月15日出願の米国仮特許出願第61/080,898号に基づく優先権を主張する。その出願の開示は参照により本明細書に組み込まれる。
本開示は、硝酸アンモニウムと酸化低減剤を含む硝酸アンモニウム複合体およびこのような複合体の製造工程に関する。
【背景技術】
【0002】
硝酸アンモニウム(硝酸アンモニウムを含む複塩を含む)は、硝酸イオン濃度が高いため、一般に農業分野において、特に肥料として重要な用途を有することが知られている。しかしながらまた、硝酸アンモニウムは従来一般に使用される形態の多くの場合には工業的に大量に取り扱うこと、および/または特に長期間大量に貯蔵すること(商業的倉庫内および貯蔵容器内で発生する)が、比較的困難で潜在的に危険であることも知られている。さらに、硝酸アンモニウムは従来一般に使用される形態の多くの場合には比較的穏やかな条件で起爆する傾向があり、爆発物として時には乱用および誤用されてきたことも知られている。
【0003】
硝酸アンモニウム含有組成物の爆発性および/または起爆性に関する解決策の候補がいくつかが提案されてきた。例えば、硝酸アンモニウムの危険性を緩和する目的で硫酸アンモニウムとの複塩という形態で硝酸アンモニウムを使用することが米国特許第6,689,181号で提案され、その要旨は参照により本明細書に組み込まれる。ただし、そのような複塩系生成物を形成する工程は比較的複雑である。したがって、比較的取り扱いが安全な硝酸アンモニウム複合体およびそのような複合体のより単純な製造方法を提供することは有用である。
【発明の概要】
【0004】
本発明者らは選択された物質または薬剤をそのような組成物または同類組成物に組み込むことによって十分で予期しない効果が得られることを見出した。さらに、本発明者らはそのような組成物、特に肥料組成物に関する用途としては他では適当とは考えられない選択された安定剤が本発明者らの組成物に組み込まれると特性上有益な効果があることを見出した。
【0005】
したがって、本発明者らは(a)約1mmよりも大きい平均粒径を有する硝酸アンモニウムと微粒子状の実質的に非酸化性の化合物を混合すること、及び、(b)前記非酸化性化合物の存在下で前記硝酸アンモニウムの平均粒度を下げて、約1μmから約1000μmの平均粒径を有する硝酸アンモニウムと非酸化性化合物の実質的に均質な混合物を生成し、実質的に非爆発性の粉体を形成すること、を含む、安定硝酸アンモニウム複合材料の形成方法を提供する。
【0006】
本発明者らはまた、約1μmから約1000μmの平均粒径を有する固体硝酸アンモニウムと約1μmから約1000μmの平均粒径を有する非酸化性粒状物質の実質的に均質な混合物を含んでなる非爆発性組成物を提供する。
【0007】
本発明者らはさらに、(a)約1mmよりも大きい平均粒径を有する硝酸アンモニウムの平均粒度を下げること、及び、(b)前記硝酸アンモニウムを約1000μm以下の平均粒径を有する実質的に非酸化性の化合物と混合し、約1μmから約1000μmの平均粒径を有する硝酸アンモニウムと非酸化性化合物の実質的に均質な混合物を生成し、実質的に非爆発性の粉体を形成すること、を含む、安定硝酸アンモニウム複合材料の形成方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、代表的な硝酸アンモニウムについて温度の関数としての示差熱重量分析(DTG)および示差熱分析(DTA)の熱曲線である。
【図2】図2は、硝酸硫酸アンモニウム複塩について温度の関数としての示差熱重量分析(DTG)および示差熱分析(DTA)の熱曲線である。
【図3】図3は、本発明者らの硝酸アンモニウム複合体のうちの1種について温度の関数としての示差熱重量分析(DTG)および示差熱分析(DTA)の熱曲線である。
【図4】図4は、本発明者らの硝酸アンモニウム複合体のうちの別の1種について温度の関数としての示差熱重量分析(DTG)および示差熱分析(DTA)の熱曲線である。
【図5】図5は、本発明者らの硝酸アンモニウム複合体のうちのさらに別の1種について温度の関数としての示差熱重量分析(DTG)および示差熱分析(DTA)の熱曲線である。
【図6】図6は、本発明者らの硝酸アンモニウム複合体のうちのさらに別の1種について温度の関数としての示差熱重量分析(DTG)および示差熱分析(DTA)の熱曲線である。
【図7】図7は、本発明者らの硝酸アンモニウム複合体のうちのさらに別の1種について温度の関数としての示差熱重量分析(DTG)および示差熱分析(DTA)の熱曲線である。
【図8】図8は、本発明者らの硝酸アンモニウム複合体のうちのさらに別の1種について温度の関数としての示差熱重量分析(DTG)および示差熱分析(DTA)の熱曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の記載は図の説明のために選定された試験の特定の実施例を参照することを意図したもので、添付の特許請求の範囲の記載を除いて、開示を定義したり制限したりすることを意図しない。
【0010】
本発明者らは、硝酸アンモニウムおよび少なくとも第二の化合物を含む硝酸アンモニウム組成物の形成方法を提供し、前記第二の化合物は好ましくは硝酸アンモニウムの酸化性向を実質的に下げる効果を有する。
【0011】
前記第二の化合物は非酸化性塩であってよく、好ましくは硝酸アンモニウムの微粒子を前記少なくとも1種の第二の化合物の微粒子と密に混合して複合体中に取り込まれている。本明細書で使用する用語「微粒子」は約1000μm以下の平均粒径を有する粒子および粒子の集合物をいう。
【0012】
本発明者らが見出したところによれば、硝酸アンモニウム:硫酸アンモニウムの1:2複塩の有益な効果が、非酸化性塩を硝酸アンモニウムに取り込むことにより、複塩を結晶化させる必要なく、前記2種の成分の微粒子の密な混合物を形成することにより達成される。そのような微粒子の細粒混合は硝酸アンモニウムに対する有効な非酸化性希釈剤として作用し、1:2の複塩によって示される特性に近づく。しかしながら、前記1:2複塩は必要時には結晶化してよい。要望は少ないが、1:3の複塩を生成することも可能である。
【0013】
本発明者らの方法は任意の非酸化性および/または弱酸化性塩との使用に対しても適合できるから、特に肥料としての用途に精密に仕立てられた栄養成分を有する複合材料を作ることが可能である。
【0014】
本発明者らはまた、基礎となる複合材料の低酸化性効果を失うことなく使用者・顧客によって厳選される粒度およびその他の特性を有する生成物にする圧粉処理および/または造粒処理などによって、前記微粒子複合体のその後の加工処理を提供する。前記微粒子は好ましくは微粉末である。
【0015】
前記方法は、硝酸アンモニウムの微粒子を形成し、第二の化合物の微粒子を形成し、前記微粒子を混合して所望の実質的に均質な組成物にし、そして、その後、前記均質な組成物を造粒して所望の粒度の顆粒からなる物質を製造することを含む。
【0016】
前記第二の化合物は少なくとも硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウムなどの非酸化性または弱酸化性アンモニウム塩、硝酸カルシウム、炭酸カルシウムなどの非酸化性または弱酸化性カルシウム塩、硝酸カリウム、リン酸カリウムなどの非酸化性または弱酸化カリウム塩、および硝酸マグネシウム、水酸化硝酸ネオジムなどのその他の塩から成る群から選んでよい。
【0017】
本明細書では、「硝酸アンモニウム組成物」という用語は広く任意の形態で硝酸アンモニウムを含む組成物をいう。
前記複合体は硝酸アンモニウム:第二の化合物の相対濃度比として広い範囲を有することができる。しかしながら、硝酸アンモニウムの第二の化合物に対するモル比は好ましくは約0.8:1から約1:1.2であり、より好ましいモル比は約1:1である。
【0018】
前記複合体を形成するのに使用する硝酸アンモニウムは好ましくは純度が少なくとも約90重量%の肥料級物質であり、より好ましくは純度が少なくとも約95重量%、さらに好ましくは純度が少なくとも約97重量%である。有機物質を硝酸アンモニウムと混合することは危険であるので、前記硫酸アンモニウムと前記第二の化合物がいずれも0.2重量%を肥える有機不純物を含まないことが極めて望ましい。
【0019】
前記複合体を形成する一方法は、低エネルギー入力条件下、好ましくは約1mmよりも大きい平均粒径を有し入手しやすい市販の硝酸アンモニウム粒子を前記の弱酸化性または非酸化性の第二の化合物の微粒子と混合し、その後混合物を造粒して硝酸アンモニウム粒子と前記第二の化合物の均質な混合物を生成することを含む。
【0020】
この工程は、粒度の細かい硝酸アンモニウムを抗酸化化合物の存在なしで取り扱いおよび貯蔵すると起爆、爆燃、または爆発が相対的に起きやすいことを考えると好ましい。本明細書に記載の好ましい方法の使用により、硝酸アンモニウムの微粒子が形成される際には硝酸アンモニウムは粒度の細かい前記第二の化合物で希釈される。微粒子の前記混合物はその後はるかに安全に取り扱い、貯蔵し、さらなる加工ができる。
【0021】
造粒には多くの公知の有効な方法を使用することができる。造粒工程は、硝酸アンモニウムおよび第二の化合物を含む微粒子の混合物を調製し、前記粒子の混合物をアンモニア化環境で非熱反応性酸または硫酸および/または硝酸のような酸混合物を含有する造粒機に導入することを含むことができ、硫酸アンモニウムは少なくとも部分的に前記微粒子の混合物を形成する粒子または粒子群の表面を覆い、または被覆する。このことは複合材料の安全性をさらに改善することができる硫酸アンモニウム被覆をさらに含む粒子の凝集または成長をもたらす。当業者はこれらの教示を考慮の上、この造粒法およびその他の公知の造粒法を調整して、特定の肥料用途に粒度を含む所望の特性を有する物質を製造することができる。
【0022】
あるいは、本発明者らの方法は、(a)約1mmよりも大きい平均粒径を有する硝酸アンモニウム粒子の平均粒径を下げること、及び、(b)当該硝酸アンモニウムを約1,000μm以下の平均粒径を有する実質的に非酸化性の化合物と混合して、約1μmから約1000μmの平均粒径を有する硝酸アンモニウムと非酸化性化合物の実質的に均質な混合物を生成し実質的に非爆発性の粉体を形成することを含むことができる。
【0023】
比較的安定な硝酸アンモニウム複合体粒子の形成を前提として、本発明者らの方法はまた粒子を圧縮造粒する工程を含む。
【実施例】
【0024】
比較例1
溶融した硝酸アンモニウム(AN)を、示差熱分析(DTA)データと同時に熱重量分析(TGA)データを集めるセイコーインスツル社製SSC−5200を用いて試験した。図1の得られた熱曲線は示差走査熱量計(DSC)の走査に非常に似ていて熱的事象およびそれらの事象の温度を確認するのに使用できる。図1はANの代表的試験結果を図示し、その相対的な不安定性と酸化電位を示す。
【0025】
比較例2
溶融した硝酸硫酸アンモニウム(ANS)1:2複塩を比較例1で説明したものと同じ分析機器を用いて試験した。図2の得られた熱曲線は1:2ANS複塩の代表的試験結果を図示し、その相対的な安定性を示す。
【0026】
実施例1
本発明者らの一連の4個の実質的に同質の硝酸アンモニウム複合体試料(標本番号1〜4)について、この場合は実質的に複塩が存在しない状態で、比較例1で説明したものと同じ分析機器を用いて試験した。熱重量分析結果を表1および図3〜6に示すが、それらの特性は比較例2の前記1:2ANS複塩の結果と同様である。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例2
本発明者らの一連の2個のアンモニウム複合体試料(実験番号1〜2)についてペレットに形成して同じ分析機器を用いて試験した。熱重量分析結果を表2および図7〜8に示す。
【0029】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)約1mmよりも大きい平均粒径を有する硝酸アンモニウムと約1000μm以下の平均粒径を有する実質的に非酸化性の化合物を混合すること、及び
(b)該非酸化性化合物の存在下で該硝酸アンモニウムの平均粒度を下げて、約1μmから約1000μmの平均粒径を有する硝酸アンモニウムと非酸化性化合物の実質的に均質な混合物を生成し、実質的に非爆発性の粉体を形成すること、
を含む、安定な硝酸アンモニウム複合材料の形成方法。
【請求項2】
非酸化性化合物が、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸カリウム、およびリン酸カリウムから成る群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
硝酸アンモニウムの非酸化性化合物に対するモル比が約0.8:1〜約1:1.2である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
当該非酸化性化合物の有機不純物が約0.2重量%以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
実質的に非爆発性の粉体をアンモニア化環境で非熱反応性酸または酸混合物と接触させ、硫酸アンモニウムが少なくとも部分的に粒子または粒子群の表面を覆い、または被覆して粒子の凝集または成長をもたらし実質的に非爆発性の粉体をさらに安定化させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
約1μmから約1000μmの平均粒径を有する固体状硝酸アンモニウムと約1μmから約1000μmの平均粒径を有する非酸化性粒状物質の実質的に均質な混合物を含む非爆発性組成物。
【請求項7】
非酸化性化合物が、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸カリウム、およびリン酸カリウムから成る群から選ばれる少なくとも一種である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
硝酸アンモニウムの非酸化性化合物に対するモル比が約0.8:1〜約1:1.2である、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
(a)約1mmよりも大きい平均粒径を有する硝酸アンモニウム粒子の平均粒径を下げること、及び
(b)該硝酸アンモニウムを約1,000μm以下の平均粒径を有する実質的に非酸化性の化合物と混ぜて、約1μmから約1,000μmの平均粒径を有する実質的に均質な硝酸アンモニウムと非酸化性化合物の混合物を生成し、実質的に非爆発性の粉体を形成すること、
を含む、安定な硝酸アンモニウム複合材料を形成する方法。
【請求項10】
非酸化性化合物が、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸カリウム、およびリン酸カリウムから成る群から選ばれる少なくとも一種である、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−528314(P2011−528314A)
【公表日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−518798(P2011−518798)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/049993
【国際公開番号】WO2010/053604
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】