説明

張力制御装置

【課題】可変バルブタイミング機構を備えた内燃機関において、バルブタイミングを進角又は遅角制御する過渡期に生じるタイミングチェーンのフリクションの増大、又は、ばたつきを抑制する。
【解決手段】クランクシャフト1に対してカムシャフト2が進角又は遅角する際の速度に応じて、タイミングチェーン7を押圧する押圧力を変化させる制御を行うチェーンテンショナ13を構成要素とする張力制御装置を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトとカムシャフトとを連動させるタイミングチェーン又はタイミングベルトの張力を維持する張力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される内燃機関では、そのクランクシャフトとカムシャフトとをタイミングチェーン(又は、ベルト)を介して連動させるものが一般的である。この種の内燃機関においては、タイミングチェーンを押圧してその張力を一定に保つチェーンテンショナを設けることが広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
近時では、内燃機関に、カムシャフトのクランクシャフトに対する進角量又は遅角量を変更することのできる可変バルブタイミング機構を実装することが増えてきている。可変バルブタイミング機構によれば、低速回転時には吸気バルブの開弁タイミングを遅らせ、高速回転時には吸気バルブの開弁タイミングを早めることができ、燃費向上と出力増大との両立を図り得る。
【0004】
可変バルブタイミング機構を備えた内燃機関では、吸気バルブの開弁タイミングを進角又は遅角操作する際に、吸気カムシャフトのクランクシャフト又は排気カムシャフトに対する回転位相の変位を伴う。このとき、吸気カムシャフト側のスプロケットからタイミングチェーンに伝わる反力が発生して、タイミングチェーンの一方側が突っ張り、他方側が緩む。その結果、タイミングチェーンとチェーンガイドとのフリクションが増大し、又は、タイミングチェーンがたるんでばたつくという不都合を引き起こすおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−185630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に初めて着目してなされたものであり、可変バルブタイミング機構を備えた内燃機関において、バルブタイミングを進角又は遅角制御する過渡期に生じるタイミングチェーン又はタイミングベルトのフリクションの増大又はばたつきを抑制することを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明の張力制御装置は、クランクシャフトとカムシャフトとをタイミングチェーン又はタイミングベルトを介して連動させており、かつカムシャフトのクランクシャフトに対する進角量又は遅角量を変更する可変バルブタイミング機構を備えている内燃機関に適用されるものであって、クランクシャフトに対してカムシャフトが進角又は遅角する際の速度に応じて、タイミングチェーン又はタイミングベルトを押圧する押圧力を変化させる制御を行うことを特徴とする。
【0008】
例えば、バルブタイミングを進角又は遅角させる過程で、チェーンガイドが摺接する側のチェーンの張力が増加してチェーンガイドとの間の摩擦が増大する場合においては、チェーンテンショナによる押圧力を減少させることにより、摩擦の低減を図る。逆に、スプロケット間でチェーンの張力が減少してたるみ、ばたつく問題が顕在化する場合においては、チェーンテンショナによる押圧力を増加させることにより張力を補強、ばたつきの低減を図る。
【発明の効果】
【0009】
本発明の張力制御装置によれば、バルブタイミングを進角又は遅角制御する過渡期に生じるタイミングチェーン又はタイミングベルトのフリクションの増大又はばたつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る張力制御装置の概略構成を示す図。
【図2】同実施形態に係るチェーンテンショナを示す図。
【図3】同実施形態に係る張力制御装置による制御手順の概略を示すフローチャート。
【図4】同実施形態に係るクランクスプロケットと吸気側スプロケットとの間のタイミングチェーンの張力を示す図。
【図5】同実施形態に係る液圧マップの概略を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を、図1〜図4を参照して説明する。
【0012】
本実施形態に係る内燃機関では、図1に示すように、クランクスプロケット4、吸気側スプロケット5及び排気側スプロケット6にタイミングチェーン7が巻き掛けられ、このタイミングチェーン7により、クランクシャフト1からもたらされる回転駆動力を吸気側スプロケット5及び排気側スプロケット6を介して吸気カムシャフト2、排気カムシャフト3にそれぞれ伝達している。
【0013】
吸気カムシャフト2には、クランクシャフト1に対する吸気カムシャフト2の回転位相(カム軸位相)を変化させることを通じて吸気弁の開閉タイミングを変化させる可変バルブタイミング機構8が設けられている。可変バルブタイミング機構8のハウジング8aは、吸気側スプロケット5に固定されている。これにより、吸気側スプロケット5とハウジング8aとが一体となってクランクシャフト1に同期して回転する。一方、吸気カムシャフト2の一端部には、ロータ8bが固定されている。このロータ8bは、ハウジング8a内に相対回動自在に収納される。
【0014】
ハウジング8aの内部には、複数の流体室8cが形成され、各流体室8cが、ロータ8bの外周部に形成されたベーン8dによって進角室8eと遅角室8fとに区画されている。
【0015】
この可変バルブタイミング機構8の液圧(特に、油圧)回路には、オイルパン9a内の作動液が液圧ポンプ9bより供給される。液圧ポンプ9bは、内燃機関からの動力で駆動される。液圧ポンプ9bと可変バルブタイミング機構8との間にはコントロールバルブ10が設けられており、液圧の流れをコントロールバルブ10で制御することにより、オイルパン9aから汲み上げた作動液が進角室8e又は遅角室8fに選択的に供給される。その結果、ハウジング8aがロータ8bに対して相対回動し、吸気弁の開閉タイミングを進角又は遅角させることができる。
【0016】
クランクスプロケット4と吸気側スプロケット5との間の領域には、テンションアーム11が設けられている。また、クランクスプロケット4と排気側スプロケット6との間の領域には、チェーンガイド12が設けられている。タイミングチェーン7は、クランクスプロケット4から繰り出され、吸気側スプロケット5に巻き取られるまでの間に、テンションアーム11に摺接する。並びに、排気側スプロケット6から繰り出され、クランクスプロケット4に巻き取られるまでの間に、チェーンガイド12に摺接する。
【0017】
チェーンテンショナ13は、テンションアーム11を介してタイミングチェーン7を押圧し、タイミングチェーン7の張力を一定に保つ役割を担う。本実施形態におけるチェーンテンショナ13は、液圧アクチュエータであって、図2に示すように、テンションケース14に設けられた液圧室15にプランジャ16が挿入され、そのプランジャ16が液圧室15内で進退可能に保持されてなる。
【0018】
プランジャ16内部には液圧室15と連通する圧力室17が設けられている。液圧室15及び圧力室17は、流路18を介して液圧ポンプ9bに連通しており、恒常的に作動液の供給を受ける。
【0019】
また、プランジャ16内部には、図2に示すように、このプランジャ16を突出方向に付勢するスプリング19も存在している。プランジャ16は、圧力室17に導入した作動液の圧力とスプリング19の弾性付勢力とを受けることにより、タイミングチェーン7に適切な張力を付与する。
【0020】
チェーンテンショナ13はダンパを兼ねており、タイミングチェーン7からテンションアーム11を介してプランジャ16に強い外圧力が作用したときには、テンションケース14とプランジャ16との隙間を介して作動液が漏出するようになっている。
【0021】
このチェーンテンショナ13と液圧ポンプ9bとの間には、圧力制御弁20を設けている。この圧力制御弁20は、例えば電気的駆動弁であり、圧力制御弁20に内蔵されたコイルに流れる制御電流を増減させることにより出力側圧力、すなわちチェーンテンショナ13に供給される作動液の圧力を制御可能である。
【0022】
吸気カムシャフト2の外周側には、図1に示すように、気筒判別のために複数のカム角でカム角信号を出力するカム角センサ21を設置している。一方、クランクシャフト1の外周側には、所定クランク角毎にクランク角信号を出力するクランク角センサ22を設置している。カム角センサ21及びクランク角センサ22は、作動液の温度や冷却水の温度を検出するセンサ24、その他の各種センサとともに電子制御ユニット23に接続している。
【0023】
電子制御ユニット23は、CPU23a、RAM23b、ROM23c、フラッシュメモリ23d、I/Oインタフェース23e等を包有するマイクロコンピュータシステムであり、各種制御用のプログラムをROM23c又はフラッシュメモリ23dに格納しており、そのプログラムを読み込んでCPU23aにて解読し、内燃機関の制御を行う。電子制御ユニット23は、可変バルブタイミング機構8のコントロールバルブ10や、チェーンテンショナ13と液圧ポンプ9bとの間に介在する圧力制御弁20等、さらにはインジェクタ、点火プラグ等と接続しており、これらに制御信号を入力して操作する。
【0024】
しかして、電子制御ユニット23は、チェーンテンショナ13を介してタイミングチェーン7の張力を一定に保つための制御を行う。すなわち、テンションアーム11、チェーンテンショナ13、圧力制御弁20及び電子制御ユニット23が、本発明に係る張力制御装置の構成要素となる。
【0025】
例えば、吸気弁の開閉タイミングを進角させる場合には、吸気カムシャフト2に固定されたロータ8bに対して、吸気側スプロケット5に固定されたハウジング8aを相対的に遅角側(図1における反時計回り)に回動させる。この際、図4の実線に示すように、クランクスプロケット4と排気側スプロケット6との間の領域では一時的にタイミングチェーン7の張力が上昇し、タイミングチェーン7とチェーンガイド12との間の摺動摩擦が増大する。
【0026】
逆に、吸気弁の開閉タイミングを遅角させる場合には、吸気カムシャフト2に固定されたロータ8bに対して、吸気側スプロケット5に固定されたハウジング8aを相対的に進角側(図1における時計回り)に回動させる。この際、クランクスプロケット4と排気側スプロケット6との間の領域では一時的にタイミングチェーン7の張力が低下し、タイミングチェーン7がたるむ。
【0027】
本実施形態では、上述したようなタイミングチェーン7のたるみや摺動摩擦の増大を抑制すべく、以下に述べるような制御を行う。この制御の手順を、フローチャートである図3を参照しつつ以下に述べる。
【0028】
ステップS1において、吸気弁開閉タイミングの進角量又は遅角量の現在値を検知し、並びに、吸気弁開閉タイミングの進角量又は遅角量の目標値を決定する。これら現在値の検知及び目標値の決定の手法は、従来周知の可変バルブタイミング機構のそれと同様である。例えば、吸気弁開閉タイミングの進角量又は遅角量の現在値は、カム角センサ21からの信号とクランク角センサ22からの信号との間の間隔に基づき検知する。また、吸気弁開閉タイミングの進角量又は遅角量の目標値は、クランク角センサ22から信号が発せられる間隔から求められるエンジン回転数に基づき決定する。そして、説明は省略するが、吸気弁の開閉タイミングのフィードバック制御を行う。
【0029】
ステップS2において、ステップS1で検知した現在値及び決定した目標値をパラメータとして、クランクシャフト1に対して吸気カムシャフト2が進角又は遅角する際の平均進角速度、換言するとロータ8bに対するハウジング8aの相対回動の平均速度を決定する。ここに言う平均進角速度は、
(目標値−現在値)/(現在値から目標値に到達するまでにかかる時間)
を意味する。平均進角速度は、進角室8e及び遅角室8fに対して流出入する作動液の流速、または液圧ポンプ9bから可変バルブタイミング機構8に向けて吐出する作動液の流量を参酌して推算することができる。
【0030】
ステップS3において、ステップS2で決定した平均進角速度、及び作動液の温度をパラメータとして、圧力制御弁20の出力側圧力の目標値を決定する。出力側圧力の目標値は、図5に示すように、平均進角速度が高いほど低く、平均進角速度が低いほど(平均遅角速度が高いほど)高く設定する。また、作動液の温度が低い場合には作動液の粘性が高くなり、この場合にタイミングチェーン7に与える張力が過剰となることがある。よって、作動液の温度が低いほど、出力側圧力の目標値を低く設定する。
【0031】
ステップS4において、ステップS3で決定した出力側圧力の目標値をパラメータとして、圧力制御弁20の開度を決定する。
【0032】
上記のステップにより、吸気弁の開閉タイミングを進角させる際の過渡期(ハウジング8aをロータ8bに対し相対的に図1における反時計回りに回動させる最中)には、圧力制御弁20からの出力側圧力を小さくする、つまりチェーンテンショナ13がテンションアーム11を介してタイミングチェーン7を押圧するための液圧を下降させる制御が行われる。結果、図4の破線に示すように、クランクスプロケット4と排気側スプロケット6との間の領域でのタイミングチェーン7の張力が軽減され、タイミングチェーン7とチェーンガイド12との間の摩擦が緩和される。
【0033】
逆に、吸気弁の開閉タイミングを遅角させる際の過渡期(ハウジング8aをロータ8bに対し相対的に図1における時計回りに回動させる最中)には、圧力制御弁20からの出力側圧力を大きくする、つまりチェーンテンショナ13がテンションアーム11を介してタイミングチェーン7を押圧するための液圧を上昇させる制御が行われる。結果、クランクスプロケット4と排気側スプロケット6との間の領域でのタイミングチェーン7の張力が補強され、チェーン7のたるみ、ばたつきが抑制される。
【0034】
以上に述べたように、本実施形態の張力制御装置によれば、ロータ8bに対するハウジング8aの平均進角速度をパラメータとして、平均進角速度が高い場合にはタイミングチェーン7を押圧する押圧力を小さくして張力を軽減する制御を行うことにより、バルブタイミングを進角制御する過渡期におけるチェーンガイド12とタイミングチェーン7との間の摺動摩擦の増大を抑制することができる。
【0035】
他方、平均遅角速度が高い(平均進角速度が負で絶対値が大きい)場合にはタイミングチェーン7を押圧する押圧力を大きくして張力を補強する制御を行うことにより、バルブタイミングを遅角制御する過渡期においてクランクスプロケット4と排気側スプロケット6との間の領域で生じるタイミングチェーン7のたるみ、ばたつきを抑制することができる。
【0036】
さらに、チェーン張力調整機構13として液圧駆動のものを採用しているので、可変バルブタイミング機構8の液圧回路の液圧供給源である液圧ポンプ9bをチェーン張力調整機構13の液圧回路の液圧供給源として共用し、構造の簡単化を図ることができる。
【0037】
なお、本発明は以上に述べた実施形態に限らない。
【0038】
例えば、可変バルブタイミング機構は、排気カムシャフト側に設けてもよい。
【0039】
また、チェーンテンショナは液圧駆動に限らず、例えば電動式のもの等を採用してもよい。
【0040】
さらに、タイミングベルトを介してクランクシャフトとカムシャフトとを連動させる構成の内燃機関において、タイミングベルトの張力を調整するためのベルトテンショナの制御に本発明を適用してもよい。
【0041】
その他、本発明の主旨を損ねない範囲で種々に変更してよい。
【符号の説明】
【0042】
1…クランクシャフト
2…(吸気)カムシャフト
7…タイミングチェーン
8…可変バルブタイミング機構
13…チェーンテンショナ
23…電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトとカムシャフトとをタイミングチェーン又はタイミングベルトを介して連動させており、かつカムシャフトのクランクシャフトに対する進角量又は遅角量を変更する可変バルブタイミング機構を備えている内燃機関に適用されるものであって、
クランクシャフトに対してカムシャフトが進角又は遅角する際の速度に応じて、タイミングチェーン又はタイミングベルトを押圧する押圧力を変化させる制御を行うことを特徴とする張力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−179335(P2011−179335A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41707(P2010−41707)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】