説明

強いナノペーパー

本発明は、粘土およびミクロフィブリル化セルロースナノファイバを備えるナノペーパーであって、MFCナノファイバおよび層状の粘土がペーパー表面に実質的に平行に配向される、ナノペーパーを参照する。発明はさらに、ナノペーパーを作る方法、およびナノペーパーの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強いナノペーパー、その使用、および当該ナノペーパーを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
日干し煉瓦は、何千年にもわたって人々が風雨を避けるための建築材料として用いられてきた藁と粘土との粘土に富む混合物である。この種類の構造的複合体において、粘土は、光、雨、および熱に対する良好な障壁性を与え、繊維状の藁は、割れを防止する強度および耐久性を与え、その絶縁性を増大し、かつこれを軽量化する。
【0003】
自然には、この種類のポリマーセラミック粒子複合体構造を有する多数の有機体が存在する。通常、それらは優れた強度および靭性を有する。たとえば、1−5%のタンパク質と霰石とを有する、アワビの殻から生じる真珠層は、その水和状態に依存して、140−170MPaの引張り強度、60−70GPaのヤング率、および350−1240J・m-2の三点曲げを有する。その結果、順次堆積、超分子自己組織化(浸漬被覆)、自己組織化層上での結晶化、ラングミュア単層下での結晶化、層毎の自己組織化、鋳造手順などを含む、真珠層「レンガモルタル型」構造をシミュレーションする多数の方法がこれまでに報告されている。最良の結果は、高分子電解質と粘土小板懸濁液とにスライドガラスを交互に漬けることによって約5μmの厚みの非常に強い複合体層を作製したTang他によって達成された。しかしながら、各サイクルで堆積したのは約24nmであったため、そのような方法は実に長い組織化時間を要する。最近、Tang他は、「指数関数的成長」LBLと称する新しい方法を開発した。自己組織化時間は短縮されたが、200μmの厚みを有する膜を得るには依然として1000分かかる。F. Mizukami他は、鋳造手順を用いて3−200μmの厚みを有する可撓性透明粘土膜を調製した。調製は大きく簡略化され、また膜は良好な耐熱性および高い気体障壁性を有する。しかしながら、材料の引張り強度はわずか25MPaである。弱い強度は、この種類の粘土膜の一層の応用には障害となるであろう。水のゆっくりとした蒸発のために、鋳造手順は依然として時間のかかる方法である。真珠層のレンガモルタル型微細構造を好都合に再生することは困難である。
【0004】
公知のように、真珠層の場合、タンパク質のうち1−5%しかバインダ添加剤として作用しない。人工真珠層については、高分子電解質、高分子ナトリウム塩、またはPVOHなどの水溶性ポリマー(WSP)を天然の真珠層中のタンパク質の代わりにバインダ添加剤として用いた。WSPと無機粘土小板との間には強い静電または水素結合相互作用が存在する。しかしながら、真珠層中に見られるタンパク質の低含有量に対して、典型的に、人工真珠層で用いられるWSPの含有量は50重量%を超える。加えて、今日用いられるWSPの大部分は生物分解不可能なものであり、またWSPは耐水性または耐溶剤性が劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−003691号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要約
本発明は、強い粘土/MFCナノペーパー、これを調製するための方法、およびその使用に関する。本発明のナノペーパーは、MFCおよびそれ自体が層状の構造を有する粘土がペーパー表面に実質的に平行に配置される独自の重要な構造を有する。粘土粒子または小板はナノメートル範囲にあり、MFCのナノファイバの長さはマイクロメートル範囲にあるため、ナノペーパーにその独自の性質を与える。さらに、粘土粒子または小板は好ましくは互いから実質的に分離されている。
【0007】
本1つの局面は、粘土およびミクロフィブリル化セルロースナノファイバを備えるナノペーパーであって、MFCナノファイバおよび層状の粘土がペーパー表面に実質的に平行に配向される、ナノペーパーを参照する。
【0008】
本発明の1つの実施形態では、粘土はナノメートル範囲の粒子を備える。
別の実施形態では、ミクロフィブリル化セルロースナノファイバの長さは5−20μmの範囲にある。
【0009】
別の実施形態では、ミクロフィブリル化セルロースの量は、10重量%よりも多く、または20重量%よりも多く、または40重量%よりも多いが、50重量%未満、または35重量%未満、または25重量%未満である。
【0010】
また別の実施形態では、粘土の量は、10重量%よりも多く、または40重量%よりも多く、または60重量%よりも多いが、90重量%以下、または80重量%未満、または50重量%未満、または30重量%未満である。
【0011】
また別の実施形態では、ナノペーパーは水溶性架橋剤をさらに備える。
また別の実施形態では、架橋剤の量は、ナノペーパーの合計重量に基づいて、5重量%よりも多く、または20重量%よりも多く、または35重量%よりも多いが、50重量%以下、または40重量%未満、または25重量%未満である。
【0012】
さらに別の実施形態では、ナノペーパーの引張り応力は、長さが40mm、厚みが60−80μm、および幅が5mmのサンプルについて、100Nのロードセルを用いてかつフレームレート5fbsで、少なくとも30MPaであり、試験は湿度50%および23℃で行なわれた。
【0013】
また別の実施形態では、紙はミクロフィブリル化セルロースおよび粘土からなる。
本発明の別の局面は、本発明に従うナノペーパーを備えるコーティングを参照する。
【0014】
本発明の別の局面は、粘土−ミクロフィブリル化セルロースナノファイバナノペーパーを調製するための方法であって、
粘土およびミクロフィブリル化セルロースナノファイバの懸濁液を調製するステップと、
当該懸濁液を混合するステップと、
当該懸濁液をろ過するステップと、
ろ過された当該懸濁液の膜を得るまたは形成するステップと、
当該膜を乾燥するステップとを備える、方法を参照する。
【0015】
1つの実施形態では、懸濁液は2重量%までのミクロフィブリル化セルロースを含有し、好ましくは濃度は0.5から2重量%または0.6から1.6重量%である。
【0016】
別の実施形態では、ミクロフィブリル化セルロースは懸濁液中でコロイドの形態にある。
【0017】
別の実施形態では、水溶性架橋剤が加えられる。
別の実施形態では、架橋剤はキトサンまたはヒアルロン酸である。
【0018】
別の実施形態では、架橋剤の濃度は、成分の合計質量に基づいて、5重量%よりも多く、または10重量%よりも多く、または30重量%よりも多く、または40重量%よりも多いが、50重量%以下、または35重量%未満、または15重量%未満である。
【0019】
別の実施形態では、懸濁液は凝集される。
本発明の第4の局面は、本発明のナノペーパーで表面をコーティングする方法であって、
粘土およびミクロフィブリル化セルロースナノファイバを備える溶液または懸濁液を形成するステップと、
溶液または懸濁液で表面をコーティングするステップとを備える、方法を参照する。
【0020】
本発明の第5の局面は、紙、ろ紙、耐火性もしくは耐熱性材料、強化化合物、壁紙、厚紙、板紙、液体包装用板紙、パッキング材料、食品包装、水蒸気障壁、脂肪障壁、液体障壁、気体障壁、コーティング、スピーカメンブレン、電池メンブレン、または防弾材料としてのナノペーパーの使用を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】0.62重量%のMFC懸濁液(a)、0.62重量%のMMT懸濁液(b)、および10時間放置した後の水性懸濁液中のMFC/MMT(0.62重量%/0.62重量%)共懸濁液(c)の写真の図である。
【図2】20重量%(A)および50重量%のMFC(B)を有する粘土膜の破断面の断面のSEM画像の図である。
【図3】膜表面に(上から下へ)垂直および(左から右へ)平行な50%MFCを有するMFC膜、Na+−MMT膜、およびMMT/MFC膜の二次元XRDの図である。
【図4】ナノペーパーの内部構成の概略図である。
【図5】MFCの含有量が異なるナノペーパーの応力−歪み曲線の図である。
【図6】50%MFC(a,a′)および純MFC(b,b′)の複合体についての、温度の関数としての貯蔵弾性率(a,b)およびTanδ(a′,b′)の図である。
【図7】O2環境での、MFCの含有量が異なるナノペーパーのTGA(A)およびDTA(B)の結果の図である。
【図8】サンプルサイズが60mm×10mm×40μmである、空気中での燃焼の前(左)および後(右)の50重量%MFC(a)および12.5重量%MFC(b)のナノペーパーの写真の図である。
【図9】10重量%の正に帯電したキトサンを加える前および加えた後のMFC/MMT(重量比=1/1)の共懸濁液の写真の図である。
【図10】キトサンの含有量が異なる、CS−MMTナノ複合体およびCS−NPのXRDパターンの図である。
【図11】MMT、CS、MFC、NP、CS20−MMT、CS20−MFC、およびCS10−NPのIRスペクトルの図である。
【図12】キトサンの含有量が異なる、MFCおよびCS−MFCの広角X線回折曲線の図である。
【図13】NP(a,a′)およびCS−NP(b,b′)の表面形態のSEM画像の図である。
【図14】CS10−NPの破断面の断面のSEM画像の図である。
【図15】キトサンの含有量が異なるCS−NPの応力−歪み曲線の図である。
【図16】MMT、MFC、CS、およびナノ複合体のTG曲線の図である。
【図17】相対湿度50%および30℃でのMFC、NP、およびCS10−NPのDVS水分含有量対測定時間の曲線の図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本願では、「粘土」という用語は、層状または小板構造を有するケイ酸塩を指す。粘土は、たとえばモンモリロナイトなどのスメクタイト族からの粘土であり得るが、これに限定されるものではない。
【0023】
本願では、「混合」という用語は、配合、攪拌、揺動、および分散などの用語を含むが、これらに制限されるものではない。
【0024】
本願では、「架橋」という用語は、共有結合だけではなくイオン結合または水素結合も指す。
【0025】
1−10重量%の鉱物を有するポリマー/粘土ナノ複合体は30年にわたって成功裡に商用化されてきた。しかしながら、層毎の自己組織化による真珠層類似物などのこの分野での多数の研究が存在しても、粘土の含有量が高い新規のナノ複合体を依然として市場で入手できない。これは、機械的性質および障壁性、作製時間、大量生産などを最適化するまたはこれらの間のバランスを取る方法を見出すことが非常に困難だからである。多数の先行技術の方法とは異なり、本発明はパルプを用いず、セルロースナノファイバおよびナノメートル範囲の粒子を有する粘土のみを用いる。たとえば、特開平07−003691号公報(特許文献1)は、100μm範囲のフィブリルまたはむしろ微粉とマイクロメートル範囲の粒子を有する粘土とを用いる系を記載する。さらに、以前の研究は、紙の中の粘土の含有量が低いものしか記載していなかった。たとえば、Nordqvist et al. (J biobased materials and bioenergy, 2009, 3 (2))は、MMT(粘土)含有量がわずか4重量%であったMFC/MMT紙を提示した。示すように、本発明は、粘土の含有量が、取扱うには脆くなり過ぎない90重量%までとなり得る紙を参照する。粘土の含有量が前述されたものよりも高いという可能性は、紙の性質をさらに変える可能性を与えるが、そのような紙のコストを低減する可能性も与える。なぜなら、粘土は通常MFCよりもはるかに安価だからである。
【0026】
木材からのミクロフィブリル化セルロースナノファイバ(MFC)は、セルロース結晶の高剛性およびナノフィブリルのネットワーク形成特性により、ポリマーナノ複合体において強い補強を与えることができる興味深い新素材である。これは高いアスペクト比を有し、個々のナノファイバが束を形成したとしても、それらの横方向寸法は典型的に5−40nmまたは10−30nmである。セルロース結晶の一軸引張り変形弾性係数は非常に高く、実験的に134GPaと測定されている。MFCは、表面に多数のヒドロキシル基および負電荷が存在するため、水中によく分散することができる。MFCは、その高い結晶性(70.4%)およびヒドロキシル基によって生じる強力な分子間および分子内水素結合により、水または通常の有機溶媒に溶解することができない。その結果、WSPと比較して、MFCは最終複合体の耐溶媒性を向上するであろう。バインダ添加物として、MFCがWSPよりもより多くの利点を有することは明らかである。
【0027】
本発明に従うと、強い粘土/MFCナノペーパーは、バインダとしての(10から50重量%の)MFCとともに主にスメクタイト粘土を懸濁液混合しかつろ過することによって調製される。MFCは、前処理パルプを得るために酵素処理を施されるパルプに由来することができる。次にこのパルプを機械的に撹拌し、その後好ましくは均質化することができる。MFCの溶液は好ましくは、ナノファイバが懸濁液中でコロイドを形成する2重量%までのMFCを含有する。より高い濃度を用いることができるが、高い粘度には問題がある可能性がある。粘土溶液は、好ましくは、2重量%までの粘土、たとえば0.5重量%よりも多く、または0.75重量%よりも多く、または1.25重量%よりも多くの粘土を含有する。粘土は層状または小板構造を有し、本発明のナノペーパーに見られる粒子はナノメートル範囲、すなわちたとえば10−200nmまたは50−150nmなどの300nmまでにある。
【0028】
ナノペーパーは1層またはほんの数層の粘土およびMFCを備えてもよいが、真珠層のような多層構造であることもでき、粘土およびMFCの両者ともが空間内配向よりも面内配向である。ナノペーパーは良好な機械的性質も有する。12.5%および50%のMFCを有する粘土ナノペーパーの引張り応力は、それぞれ32MPaおよび124MPaである。ナノペーパーは、温度が200℃までですらあっても依然としてかなり高い貯蔵弾性率を保つため、良好な熱安定性を有する。優れた機械的性質に加えて、ナノペーパーは高い酸素ガス障壁性を呈する。
【0029】
当該技術分野で公知のように、MFCおよびNa+−MMT(ナトリウムモンモリロナイト)の懸濁液は10時間後ですら非常に安定している。したがって、ろ過による脱水に長時間かかることがあり、これは産業上の大量生産の障害である。さらに、MFCとMMTとの間には強い相互作用が存在せず、このことは高湿度での耐膨潤性が低いことに繋がる。しかしながら、MFCナノファイバおよびNa+−MMT小板の表面には多くのヒドロキシル基および負電荷が存在し、これはキトサンなどの正に帯電した相手との水素結合または静電相互作用を形成する可能性を与えるかもしれない。このように、1つの実施形態では、プロトン化キトサンを用いて、懸濁液配合によるイオン架橋を介してMFC/MMTナノペーパーを修飾することができる。少量の正に帯電したキトサンの結果、静電および水素結合相互作用によりMFCとMMTとの両者に対して凝集またはイオン架橋相互作用という良好な効果をもたらし得る。そのため、処理の際のろ過時間は以前の約10分の1に短縮された。少量のキトサン(10重量%)を組入れた結果、依然として、層状の生物模倣性構造、ならびに非常に高い相対湿度でのナノペーパーの増大した引張り強度および酸素障壁性が得られた。架橋剤は、ヒアルロン酸、または水溶液中にある場合は好ましくは正電荷を含有する多糖もしくはその組合せなどの任意の他の水溶性ポリマーでもあり得る。架橋剤の濃度は望まれる性質に依存して異なってもよく、本発明は具体的に、架橋剤の含有量が50重量%までのナノペーパーを参照する。
【0030】
加えて、ナノペーパーは優れた難燃性および良好な酸素障壁性を有する。我々が知る限り、高い粘土含有率および満足のいく性質を有する生物模倣性多層ナノ複合体を真似ることが最も単純な方法である。この単純な方法は、たとえば植物ナノファイバなどの不水溶性バインダを用いて真珠層をシミュレーションし、かつ大量生産を容易にする新たな道を開くであろう。
【0031】
別の紙、板紙、厚紙、またはパッキング材料に塗布されるコーティングとしてナノペーパーをさらに使用することができる。コーティングは、浸漬被覆、噴霧、塗付け、塗装、またはラミネートを含むさまざまな技術によって表面に塗布可能である。コーティングはコーティング工程を繰返すことによって数層に塗布することができる。
【実施例1】
【0032】
実験
実施例1−MFC/粘土ナノペーパー
材料
用いる粘土は、陽イオン交換容量(CEC)が92meq/100gであるナトリウムモンモリロナイト(Na+−MMT)(Cloisite Na+, Southern Clay Products)であった。製造者が記載するように、小板の平均サイズは110nmであった。使用前に十分に攪拌することにより1Lの脱イオン水中に10gの粘土を分散させることによって、1.0重量%の粘土の懸濁液を調製した。
【0033】
ミクロフィブリル化セルロースの調製
スウェーデンのDomsjo Fabriker ABが提供するパルプ(7%ヘミセルロース)を溶解する軟材の酵素および均質化処理の組合せによってMFCを得た。用いた酵素は、デンマークのNovozymes A/Sが製造したNovozym 476であった。この酵素は、非結晶性領域の鎖を切断することによってセルロース分子を減成することが期待されるエンドグルカナーゼである。以下のように酵素処理を行なった。まず、ノルウェー、ハマーのHAM-JERN製のPFIミル中で1000回転でパルプを撹拌し、セルロースが酵素により容易にアクセスできるようにした。これは1つの変形例を有する標準方法EN25264−2:199413に従って行なった:総重量300g(13.3%乾燥含有量)に対して、水で希釈された40gのパルプを用いた。この後に酵素処理を行ない、ここでは3重量%のパルプをpH7の50mMトリス/HCl緩衝液中に分散し、パルプの1.5重量%の酵素を加えた。50℃で2時間パルプを培養し、ブフナー漏斗上で脱イオン水で洗浄し、その後再び80℃で30分間培養して酵素の活性を停止させ、次に再び洗浄した。最終的にPFIミル中で回転数4000でパルプを撹拌した。最後に、前処理パルプに、マサチューセッツ州、エヴェレットのGaulin Corp.のスリットホモジナイザ、Laboratory Homogenizer 15M、の均質化作用を施した。2%のパルプ懸濁液をスリットに25回通した。この方法は、Henriksson他の研究に基づいている。重合度(DP)は、均質化後の平均固有粘度から480と推定された。最終的に、固体分が1.63重量%であるMFC懸濁液を得、これを4℃に保った。次に、1503mlの脱イオン水中に215gのMFC懸濁液を溶解することによって、0.2重量%のMFC懸濁液を調製し、使用前に十分に攪拌した。
【0034】
MFC/粘土ナノペーパーの調製
MFCが12.5重量%、20重量%、33重量%、および50重量%のMFC/粘土ナノペーパーを以下のように調製した。0.5、0.5、1、および1.5gのMFCを含有する1.6重量%のMFC懸濁液を、4、2、2、および1.5gの粘土を含有する1.0重量%の粘土懸濁液にゆっくり加え、MFC対粘土の重量比が1:8、1:4、1:2、および1:1である混合懸濁液を得た。混合懸濁液を24時間攪拌し、次に超音波機器により30分間さらに分散した。次に、アメリカ合衆国、Milliporeのフィルタメンブレン、0.65μmDVPPを用いてRapid Koethenによって混合物を真空ろ過した。ろ過時間は、最終的なナノペーパーの厚みおよび粘土の濃度に依存して、30から90分の範囲に及ぶ。ろ過の後、濡れた膜をろ過メンブレンから注意深く剥がし、金属グリッドの間に積層し、次にあらゆるものを2枚のろ紙の間に置いた。最後に、93℃での10−15分間の真空による乾燥後に、厚みが60−80μmの範囲の粘土ナノペーパーを得た。
【0035】
X線回折および配向(XRD)
カメラ長が38.3mmのイメージングプレート(IP)でX線回折写真を撮影した。40kV、35mAでRigaku RINT-2000で生成されるCu Kα放射線を膜表面に垂直にまたは平行に試料に照射した。
【0036】
走査電子顕微鏡法(SEM)
JEOL JSM-820走査顕微鏡を用いて形態を調べた。サンプルを液体N2中に保持し、脆性破壊を行った。画像化の前に数nm厚の金の層を断面の表面に対してスパッタリングした。SEMを用いてナノファイバのサイズを測定した。
【0037】
引張り試験
100Nのロードセルを装備した、アメリカ合衆国、InstronのUniversal Materials Testing Machineを用いて膜の引張り試験を行なった。長さ40mmおよび厚み60−80μmおよび幅5mmの試料を4mm/分の歪み速度で試験した。相対湿度を50%に保ち、温度を23℃に保った。試験前にこの環境で少なくとも48時間試料を調整した。ずれは、デジタルスペックル写真術(DSP)で測定した。プリンタトナーをサンプル表面に塗布することによって、DSPのためにパターンを準備した。引張り試験の間、試料全体の画像を撮影した。フレームレートを5fpsに設定した。各材料の結果は、他に何も言及していなければ、少なくとも6つの試料に基づいている。
【0038】
動的機械的分析
膜の動的機械的性質は、引張りモードでTA Instruments Q800を用いて測定した。グリップ同士の間の距離は10mmであり、加熱速度は3℃/分であった。厚みが60から80μmの間で異なり、幅が5mmである試料を、分析前に50℃で真空オーブンで乾燥した。
【0039】
示差熱重量分析(TG−DTA)
酸素流量30ml/分、加熱速度10℃/分で、25から800℃まで、Perkin-Elmer TGA7熱分析器上で熱重量分析(TGA)を行なった。
【0040】
酸素透過率
23℃での酸素に対する材料の透過性を、電量酸素センサを装備したMocon OX-TRAN TWINを用いて測定した。分離された拡散セル中に厚みが60±20μmの脱ガス膜サンプルを装着し、その後流通する窒素ガスで囲み、収着した酸素をサンプルから除去した。サンプルは、表面に接着剤を有するぴったりとしたアルミニウム箔で膜の一部を覆うことによって達成される丸い露出面積50×10-42を有した。まず、サンプルの一方側を、大気圧で、1%の水素を含有する流通する酸素に晒した。酸素の圧力は他方側で0であった。サンプルを通る流量(Q)を測定し、定常状態流量(Q∞)から酸素透過係数(P)を算出した。
【0041】
結果
最近、ナノ複合体の調製のために、懸濁液配合および真空ろ過方法が開発された。磁気攪拌および超音波分散によって、水におけるMFCおよび粘土混合物懸濁液を調製した。次に、一種の製紙機であるRapid Koethenによって混合物を迅速にろ過し乾燥した。大きな膜を得る全体作製時間は、膜の最終的な厚みおよび粘土の含有量に依存して、30から100分の範囲にわたる。粘土/MFC膜は、優れた機械的性質および高い障壁性を有する。
【0042】
用いるMFCの断面直径は10から20nmの間であり、長さは1μmよりも大きく、これはネットワーク構造を形成するには有利であった。134GPaという高いヤング率により、MFCはポリマー系の複合体の調製のための補強として広く用いられてきた。加えて、MFCは、図1のaに示されるように水にかなりよく分散可能である。主な理由は、MFCの表面上に多数のヒドロキシル基および多数の負電荷が存在することであり、ヒドロキシル基がMFCをより親水性にするとともに、負電荷がミクロフィブリルを互いに反発させ、その結果いくぶんナノファイバ同士がより分離することである。図1のbは、おそらくは水性分散液中で剥離の度合いが事実上100%であることにより、Na+−MMTの懸濁液が非常に安定していたことを示す。図1のcは、10時間放置された場合ですらMFCとNa+−MMTとの懸濁液が非常に安定していたことを示す。水の中でのMFCおよびNa+−MMTの良好な分散に加えて、両面上の負電荷は水性懸濁液中でそれらを互いに反発させる。
【0043】
図2は、MFC含有量が異なる2枚の膜の断面構造のSEM画像を示す。膜は真珠層と非常に類似した層状構造を示し、それらは緻密であり厚みが均一である。MFCおよび粘土の層は膜表面に平行であり、かつ互いに浸透し、垂直の切断は多層をわずかに広げた。図2に観察される層状構造は非常に興味深かった。LBL(層毎の)自己組織化の場合、膜は負および正に帯電した材料の交互の順次堆積によって形成され、主な駆動力は静電気であり得る。MFC/MMT膜は混合およびろ過によって直接に調製された一方で、調製の際に多層構造の形成を容易にする駆動力は存在しない。
【0044】
二次元XRDパターンによってMMTおよびMFCの配向を検討した。図3は、膜表面に垂直および平行なXRDデータを提示する。公知のように、回折弧は好ましい配向の特徴であり、回折リングはランダム配向の特徴である。MFCのみの膜の面内のMFCの配向は完全にランダムであり、膜表面に平行なデータはこの面内での秩序を示す(図3a、図3a′)。同様に、MMTのみを有する膜内のMMTの配向も、図3b、図3b′に示すように、表面に平行であった。さらに、MFCが50重量%のMMT/MFCについては、MMTおよびMFCの配向は同様に、図3c、図3c′に示すように、面内でランダムであった。前に言及したように、MMTおよびMFCの両者とも剛性の材料であり、高いアスペクト比を有し、このことが異方性に繋がる。加えて、それらの両者とも、以上で言及したように、水性懸濁液によく分散する。そのため、それらはろ過および乾燥の間に膜内で容易に配向される。これがMFC/粘土膜が層毎の構造を形成した理由であり得る。
【0045】
以上の分析に基づき、粘土/ポリマー膜の構造を図4の概略図に表わすことができる。層毎の自己組織化方法によって作られるレンガモルタル状の構造は多数の交互の層を有する構造を有し、その中で1層は粘土であり1層はポリマーである。しかしながら、レンガモルタル状の構造モデルに対して、粘土/MFC膜については、MFCは互いと絡み合って一種のネットワーク構造を形成し、粘土小板はMFCマトリックス中の充填材として作用する。したがって、粘土/MFC膜を粘土ナノペーパーと称する。
【0046】
図5は、MFCの含有量が異なるナノペーパーの応力−歪み曲線を示す。図からは、MFC含有量の増大とともに引張り応力および引張り歪みが増大したことがわかる。MFC含有量が12.5%である場合、ナノペーパーの引張り応力は30MPaである。MFC含有量をさらに50%に増やすと、ナノペーパーの引張り応力は124MPaよりも多くまで増大した。MFCが33重量%であるナノペーパーの係数は6.7GPaまでである。このデータのすべては、MFCの含有量が低い粘土/MFCナノペーパーが良好な機械的性質を有することを示す。以上で言及したように、1つの理由は、MMTとナノファイバとの両者ともが面内配向され、MFC表面上の多数のヒドロキシル基によりMMTとMFCとの間に強い相互作用が存在することである。別の理由は、MFCが依然として、図4に図示するような絡まりのために、含有量が非常に低くてもMMTのマトリックス中に良好なネットワーク構造を残留させることができることであり得る。
【0047】
図6に与えるDMAから、MFCが50%であるナノペーパーは11GPaまでの非常に高い貯蔵弾性率という結果を生じたことがわかる。貯蔵弾性率は200℃に加熱した後ですら依然として8GPaを超えていた。このことは、粘土/MFCナノペーパーが通常のポリマーまたはそれらのナノ複合体よりも高い耐熱性を有することを意味する。1つの説は、MMTおよびMFCの高い結晶性が高い貯蔵弾性率に帰したということである。純MFCと比較して、ナノペーパーの貯蔵弾性率はより高かった。膜の高い制振の理由がMMTとMFCとの間の強い相互作用に関連するかもしれない。
【0048】
MFCの含有量が異なるナノペーパーのTG−DTAの結果を図7に示した。MFCの含有量が増大するにつれて分解速度は増大した。熱耐久性という観点からは、MFC含有量をできる限り低減すべきである。ナノペーパーの難燃性も測定した。図8は、燃焼後の、MFCが12.5重量%および50重量%のナノペーパーの写真を示す。火の広がりが明らかに防止され、ナノペーパーは依然として良好な形状および強度を保ったが、このことは耐火性材料にとって非常に重要である。これが高い含有量の粘土の存在の結果である。
【0049】
乾燥条件および50%相対湿度条件下でナノペーパーの酸素ガス障壁性を測定した。乾燥条件で50%のMFCを含有するナノペーパーの酸素透過性(OP)は0.01cm3 25μm m-2 day-1 atm-1未満で(1atm≒101325Pa)、これは、高い酸素障壁機能性を有するEVOH、PVC、およびPVOHなどの合成ポリマー膜よりも良好であった。いずれの理論にも拘束されなければ、ナノペーパーの層状構造および面内のMMTの相対的な配向が蛇行経路モデルに従って拡散する小さな気体分子の経路を増大させると考えられる。加えて、MMTとMFCとの両者とも高い結晶性を有し、これは気体分子の透過率を低減するであろう。RH50%で50%のMFCを含有するナノペーパーのOPは、1.9±0.1cm3 25μm m-2 day-1 atm-1であった。1つの理由は、MFCと粘土との両者とも、それらの親水性のために水によって膨潤したことであり得る。
【実施例2】
【0050】
実施例2−MFC/粘土−キトサンナノペーパー
材料
粘土は、陽イオン交換容量(CEC)が92meq/100gのナトリウムモンモリロナイト(Cloisite Na+, Southern Clay Products)であった。製造者が記載するように、小板の平均サイズは110nmであった。使用前に十分に攪拌して1Lの脱イオン水に10gのMMTを分散させることによって、MMT懸濁液(1.0重量%)を調製した。
【0051】
Henriksson他による研究に基づいてMFCを調製した。重合度(DP)は、均質化後の平均固有粘度から480と推定した。最終的に、固体分が1.63重量%のMFC懸濁液を得、これを4℃に保った。
【0052】
平均グルコサミン単位数2130(グルコサミンMw=161g mol-1)を含有する、高分子量の(Mw=342500g mol-1)キトサンがAldrichによって供給された。1%(v/v)酢酸(Merck)に、対応する量の多糖を加えることによって、0.5%(w/v)のキトサン溶液を調製し、結果として得られた溶液を約2時間攪拌した後、MMTまたはMFC/MMT懸濁液と混合する前に多糖溶液のpHをNaOHを用いて4.9に調整した。
【0053】
ナノ複合体の調製
CS修飾MFC/MMTナノペーパー:まず、重量比1:1のMFC/MMT懸濁液(0.62重量%/0.62重量%)を調製した。613gのMFC懸濁液(固体分1.63重量%)を1000gのMMT懸濁液(固体分1.0重量%)に加え、少なくとも4時間攪拌した。懸濁液は使用前に十分に攪拌した。バイオポリマーを0.2g、0.4g、1.0g含有するキトサン溶液を80℃で163gのMFC/MMT懸濁液にゆっくりと加えて、初期キトサン−(MFC/MMT)比が0.1:1、0.2:1,0.5:1であるナノペーパーを得て、それぞれCS10−NP、CS20−NP、CS50−NPとコード付けた。混合懸濁液を2時間攪拌し、酢酸塩がなくなるまで脱イオン水で洗浄した。次に、アメリカ合衆国、Milliporeのフィルタメンブレン、0.65μmDVPPを用いてRapid Koethenによって混合物を真空ろ過した。ろ過時間はわずか2−3分であった。ろ過の後、濡れた膜をろ過メンブレンから注意深く剥がし、金属グリッド間に積層し、次にあらゆるものを2枚のろ紙の間に置いた。最後に、93℃で10−15分間の真空によって乾燥した後に、厚みが90−100μmの範囲にある粘土ナノペーパーを得た。
【0054】
CS/MFCナノペーパー:バイオポリマーを0.1g、0.2g、0.3g含有するキトサン溶液を、80℃で500gのMFC懸濁液(固体分0.2重量%)にゆっくりと加え、初期キトサン−MFC比が0.1:1、0.2:1、0.3:1であるナノ複合体を得て、CS10−MFC、CS20−MFC、CS30−MFCとコード付けた。混合懸濁液を2時間攪拌し、酢酸塩がなくなるまで脱イオン水で洗浄した。CS−NPの方法に従ってCS−MFCナノペーパーを得た。
【0055】
CS/MMTナノ複合体:バイオポリマーを0.2g、0.4g、1.0g含有するキトサン溶液を、80℃で100gのMMT懸濁液にゆっくりと加えて、初期キトサン−MMT比が0.2:1、0.4:1、1.0:1であるナノ複合体を得て、それぞれCS20−MMT、CS40−MMT、CS100−MMTとコード付けた。混合懸濁液を2時間攪拌し、酢酸塩がなくなるまで脱イオン水で洗浄した。最後に、50℃でナノ複合体を乾燥し、粉に挽いた。
【0056】
特徴付け
室温でSiemens D5000X線回折計によって、得た膜の広角XRDパターンを記録した。CuKR放射源を40kVおよび40mAで動作させた。1.5°から30°までの回折をモニタすることによってパターンを記録した。走査速度は2°/分であった。
【0057】
分解能4cm-1で4000−400cm-1の範囲で、Perkin-Elmer FTIR分光光度計2000上でフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトル(透過)を測定した。
【0058】
JEOL JSM-820走査顕微鏡で形態を調べた。サンプルを液体N2中に保持し、脆性破壊を行なった。画像化の前に数ナノメートルの厚みの金の層を断面の表面上にスパッタリングした。
【0059】
100Nのロードセルを装備した、アメリカ合衆国、InstronのUniversal Materials Testing Machineを用いて膜の引張り試験を行なった。長さ40mmおよび厚み60−80μmおよび幅5mmの試料を歪み速度4mm/分で試験した。相対湿度を50%に保ち、温度を23℃に保った。試験の前にこの環境で少なくとも48時間試料を調整した。ずれは、デジタルスペックル写真術(DSP)によって測定した。プリンタトナーをサンプル表面に塗布することによって、DSPのためにパターンを準備した。引張り試験の間、全試料の画像を撮影した。フレームレートを5fpsに設定した。各材料毎の結果は、他に何も言及していなければ、少なくとも6つの試料に基づいている。
【0060】
酸素の流量50ml/分、加熱速度10℃/分で、25から800℃まで、Perkin-Elmer TGA7熱分析器上で熱重量分析(TGA)を行なった。
【0061】
23℃での酸素に対する材料の透過性を、電量酸素センサを装備したMocon OX-TRAN TWINを用いて測定した。分離された拡散セル中に、厚みが95±5μmの脱ガス膜サンプルを装着し、その後流通する窒素ガスで囲み、収着した酸素をサンプルから除去した。サンプルは、その表面に接着剤を有するぴったりとしたアルミニウム箔で膜の一部を覆うことによって達成される丸い露出面積100×10-42を有した。まず、サンプルの一方側を、大気圧で、1%の水素を含有する流通する酸素に晒した。酸素の圧力は他方側で0であった。サンプルを通る流量(Q)を測定し、定常状態流量(Q∞)から酸素透過係数(P)を算出した。
【0062】
Surface Measurement Systemの動的水蒸気収着測定装置を用いて膜の水収着の動力学を測定した。一定重量を達成するまで30℃、RH0%でサンプルを乾燥した。次に、一定重量を達成するまで、30℃、RH50%で試験が開始した。
【0063】
結果
図9は、10重量%の正に帯電したキトサンを加える前およびその後のMFC/MMT(重量比=1/1)の懸濁液の写真を示す。MFC/MMT懸濁液の懸濁は非常に均質でかつ安定していた。これは、MFCおよびMMTの表面上の多数のヒドロキシル基および負電荷の結果であり得る。さらに、ヒドロキシル基はMFCおよびMMTをより親水性にし、負電荷はミクロフィブリルおよびMMT小板を分散させ互いに反発させ、その結果、均一な分散液が得られる。磁気攪拌下で80℃でMFC/MMT懸濁液に10重量%の正に帯電したキトサンを滴下して加えると、図9に示すように、放置されると懸濁液の上部分が完全に透明になった。これは、MFC/MMTのすべてが凝集することを示しているかもしれない。これは、キトサンとMFC/MMTとの間の静電相互作用の結果であり得、これを後で証明し、以下に論じた。したがって、正に帯電したキトサンは、負に帯電したMFCおよびMMTの懸濁液中で凝集剤として作用する。
【0064】
MFC/MMTナノペーパーに対する正に帯電したキトサンの効果を検討するため、キトサンの含有量が異なるキトサン/MMTナノ複合体(CS−MMT)を同じ方法で調製した。キトサンの含有量が異なるCS−MMTのXRDパターンを図10のa−dに示す。すべてのケイ酸塩のXRDピークは、キトサンの含有量が増大するにつれて、より低い角度にシフトする。MMTのd001ピークは7.0°から3.8°にシフトし、これは2.3nmのd001値に対応する。層間の距離の増大は、正に帯電したキトサンがMMTの層間にインターカレートされ、粘土の外面にのみ吸着するコイル状のまたは螺旋形の構造を有する類似の多糖に対して、インターカレートされた構造を形成したことを示す。さらに、図10のe−hに示すように、キトサンの含有量が異なるMFC/MMTナノペーパーのXRDを検討した。すべてのケイ酸塩についてのXRDピークは、キトサン含有量が増大するとより低い角度に向けてシフトし、同じ現象はキトサン/MMTナノ複合体についても見られた。このことは、正に帯電したキトサンが成功裡にMMTの層間にインターカレートされ、インターカレートされた構造を形成したことを示す。これはまた、MFCが正に帯電したキトサンのいくつかの部分を吸収しなければならないとしても、キトサンと粘土との間の相互作用に対してMFCが明確な影響を有しないことも示す。
【0065】
FTIR分光学を用いてこれらの間の相互作用を特徴付ける。図11は、4000−1200cm-1波数範囲における、Na−MMT、キトサン、MFC、ナノペーパー(NP、50/50MMT−MFC)、CS−MMT、CS−MFC、およびCS−ナノペーパーのIRスペクトルを示す。プロトン化アミン基の変角振動(δNH3)に対応するキトサン中の1580cm-1での振動バンドの周波数は、CS20−MMTについては、より低い周波数の値に向けて、1530cm-1へシフトした。これは、プロトン化アミン基と負に帯電した粘土中の部位との間の静電相互作用に関し得る。
【0066】
CS20−MFCについては、振動バンド(δNH3)の周波数は1530cm-1にシフトしたが、これは、プロトン化アミン基とMFCナノファイバ中の負に帯電した部位との間の静電相互作用も存在したことを示す。実際に、キトサンは水素結合などの非静電吸着および静電吸着を介してセルロース表面上に吸収可能であることが以前に確認されている。2種類の吸着メカニズムが存在する。一方は、正に帯電したキトサンと負に帯電したセルロース繊維との間の相互作用による静電吸着メカニズムである。他方は、同じ構造を有する繰返し骨格によるキトサンとセルロースとの間の水素結合を含む非静電吸着メカニズムである。
【0067】
さらに、MFCの結晶タイプに対するキトサンの効果を検討した。MFCおよびCS−MFCの広角X線回折曲線を図12に示す。当該技術分野で公知のように、002反射の結晶散乱はセルロースIについては2θで22.5°であり、101反射の結晶散乱はセルロースIIについて2θで19.8°であり(結晶高さ)、「アモルファス反射」の高さはそれぞれセルロースIについては2θで18°であり、またはセルロースIIについては16°であった(アモルファス高さ)。MFCナノファイバがセルロースIに属することが観察された。キトサンを組入れても調製の間にこの結晶タイプを変更しなかった。このことは、キトサンがMFCナノファイバの表面にちょうど吸収されたことを示す。
【0068】
同様に、CS10−NPについては、振動バンド(δNH3)の周波数は1530cm-1にシフトした。以上で言及したように、ナトリウムMMTおよびMFCの両者とも、静電または水素結合相互作用により水性懸濁液中にキトサンを吸収することができ、このことは、MMTおよびMFCが両者ともキトサンを組入れることによって凝集されることを説明する。このことは、MMTおよびMFCが両者とも正に帯電したキトサンが与えるイオン相互作用を介して物理的に架橋されたことも示唆する。MMT小板はMFCナノファイバの表面上に吸着し、キトサンはそれらの間のブリッジまたはバインダとして作用する。
【0069】
NP(50/50MMT−MFC)およびCS−NPの表面形態をSEMによって観察した。図13Aに示すように、膜の表面上にいくつかの大きな繊維が存在する。本発明のMFCナノファイバの直径は20−40nmである。そのため、このことは、少量のMFCナノファイバがMFCナノファイバ同士の間の強い水素結合相互作用によりろ過および乾燥プロセスの間にともに再凝集したことを示す。しかしながら、図13B中のCS−NPの表面は、NPと比較して非常に均質であった。MFCナノファイバの集合現象は観察されなかった。前に言及したように、MMT小板およびMFCナノファイバは水性懸濁液中へのキトサンの組入れにより架橋された。そのため、MMTとMFCとの間のイオン相互作用が安定し、ろ過および乾燥プロセスの間のMFCの再凝集が回避された。
【0070】
図14は、CS10−NPの断面構造のSEM画像を示す。矢印は膜の厚さ方向を示す。膜は表面に平行な層状構造を示す。膜はさらに緻密であり、厚みが均一である。
【0071】
図15は、キトサンの含有量が異なるナノペーパーの応力−歪み曲線を示す。前に述べたように、ナノペーパーの引張り応力は約124MPaであり、これは、真珠層および骨などの天然の鉱化組織、ならびに層毎の自己組織化によって調製される粘土/高分子電解質および粘土/ポリビニルアルコール多層ナノ複合体などの人工材料とほとんど同様である。ナノペーパーの性質は、面内のMMT小板およびMFCナノファイバの配向、強い水素結合相互作用、およびMFCの良好なネットワーク構造に関する。図15から、CS10−NPの引張り応力は、10重量%のキトサンを組入れることで134MPaにわずかに増加し、NPよりもわずかにより硬くすらなったことがわかり、このことは、MMTとMFCとの間の相互作用が、カチオン性キトサンが与えるイオン架橋により向上したことを示す。
【0072】
MMT、MFC、CS、およびナノ複合体のTG曲線を図16に示す。これらの曲線は互いと同様であり、最大重量減少率の2温度段階を観察することができる。ナノペーパーについては、減成速度は純MFCと比較して遅くなった。1つの理由は、質量輸送障壁としての粘土小板が酸素が入るのを阻害しかつ分解生成物が拡散して出ていくのを阻害することであり得る。しかしながら、CS10−NPおよびCS20−NPのTonset(重量減少が重量合計の10%である場合の開始分解時の温度)は、表1に示すようなNPと比較して、50℃低下した。主な理由はキトサンの減成挙動に関した。表1から、CSのTonsetは239℃であり、これはナノペーパーの減成に影響を及ぼし得ることがわかる。いずれにせよ、アスペクト比が高い粘土小板は分解生成物の揮発性の熱分解を強く阻害し、CS40−MMT曲線に示すように、CSの連続的な分解を限定する。
【0073】
【表1】

【0074】
相対湿度(RH)条件0%、50%、および95%でそれぞれ、MFC、NP、およびCS10−NPの酸素ガス障壁性を測定した。それらのすべてについて、RH0%での酸素透過率(OTR)は検出限界よりも低く、これはポリビニルアルコールなどの通常の包装用ポリマーよりもはるかに良好であった。結晶性が75%であるMFCおよび特別な層状構造を有するMMTは、酸素ガス分子が結晶性領域を通過できないために気体分子の透過率を低下させるであろうと考えられた。RH50%でのMFCおよびNPのOTRは、それぞれ1.9および1.8cm3 25μm m-2 day-1 atm-1であった。このことは、それらの表面上の多くのヒドロキシル基およびMFCのアモルファス領域のために、MFCおよび粘土の両者ともが水で膨潤したことの結果であり得る。10%のキトサンを加えた場合、ナノペーパーのOTRはわずかに減少した。RHが95%に増加した場合、MFCのOTRは375×に増加した。これは、MFCのアモルファス領域がその親水性のために水で完全に膨潤し、そのためにOTRが劇的に増したことを示す。NPのOTRはMFCよりも低かった。なぜならナノペーパーの層状構造および面内のMMTの相対的な配向が、蛇行経路モデルに従って拡散する小さな気体分子の経路を増大させるからである。CS10−NPのOTRは、10%のキトサンを組入れることによってさらに減少した。おそらくは、キトサンが与えるMFCナノファイバとMMT小板との間のイオン相互作用により、MFCナノファイバの耐膨潤性が向上した。
【0075】
【表2】

【0076】
キトサンの耐膨潤効果を証明するため、Surface Measurement Systemsの動的水蒸気収着(DVS)を用いてMFC、NP、およびCS10−NPの水収着の動力学を行なった。図17は、相対湿度50%および30℃という条件での水分含有量対測定時間の曲線を示す。NPの水分摂取率はより低かったが、MFCと比較すると、MMT小板が小さな気体分子が拡散する経路を増大させたとしても、それはさほどでもなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノペーパーであって、
粘土およびミクロフィブリル化セルロースナノファイバを備え、
MFCナノファイバおよび層状の粘土はペーパー表面に実質的に平行に配向される、ナノペーパー。
【請求項2】
粘土はナノメートル範囲の粒子を備える、請求項1に記載のナノペーパー。
【請求項3】
ミクロフィブリル化セルロースナノファイバの長さは5−20μmの範囲にある、請求項1および2のいずれか1項に記載のナノペーパー。
【請求項4】
ナノファイバの横方向寸法は10−30nmの範囲にある、請求項1および3のいずれか1項に記載のナノペーパー。
【請求項5】
ミクロフィブリル化セルロースの量は、10重量%よりも多く、または20重量%よりも多く、または40重量%よりも多いが、50重量%未満、または35重量%未満、または25重量%未満である、請求項1および4のいずれか1項に記載のナノペーパー。
【請求項6】
粘土の量は、10重量%よりも多く、または40重量%よりも多く、または60重量%よりも多いが、90重量%以下、または80重量%未満、または50重量%未満、または30重量%未満である、請求項1および5のいずれか1項に記載のナノペーパー。
【請求項7】
ナノペーパーは水溶性架橋剤をさらに備える、請求項1および6のいずれか1項に記載のナノペーパー。
【請求項8】
架橋剤は、水溶液中にある場合は、正に帯電される、請求項7に記載のナノペーパー。
【請求項9】
架橋剤は多糖である、請求項7および8に記載のナノペーパー。
【請求項10】
架橋剤はキトサンまたはヒアルロン酸である、請求項7から9のうちいずれか1項に記載のナノペーパー。
【請求項11】
架橋剤の量は、ナノペーパーの合計重量に基づいて、5重量%よりも多く、または20重量%よりも多く、または35重量%よりも多いが、50重量%以下、または40重量%未満、または25重量%未満である、請求項1から10のうちいずれか1項に記載のナノペーパー。
【請求項12】
ナノペーパーの引張り応力は、長さが40mm、厚みが60−80μm、および幅が5mmのサンプルについて、100Nのロードセルを用いてかつフレームレート5fbsで、少なくとも30MPaであり、試験は湿度50%および23℃で行なわれた、請求項1から11のうちいずれか1項に記載のナノペーパー。
【請求項13】
ペーパーはミクロフィブリル化セルロースおよび粘土からなる、請求項1から6および請求項11から12のうちいずれか1項に記載のナノペーパー。
【請求項14】
請求項1から13のうちいずれか1項に記載のナノペーパーを備えるコーティング。
【請求項15】
ナノペーパーは粘土およびナノファイバの多数の層を備える、請求項14に記載のコーティング。
【請求項16】
粘土−ミクロフィブリル化セルロースナノファイバナノペーパーを調製するための方法であって、
粘土およびミクロフィブリル化セルロースナノファイバの懸濁液を調製するステップと、
前記懸濁液を混合するステップと、
前記懸濁液をろ過するステップと、
ろ過された前記懸濁液の膜を得るまたは形成するステップと、
前記膜を乾燥するステップとを備える、方法。
【請求項17】
懸濁液は2重量%までのミクロフィブリル化セルロースを含有し、好ましくは濃度は0.5から2重量%または0.6から1.6重量%である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ミクロフィブリル化セルロースは懸濁液中でコロイドの形態にある、請求項16および17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
ミクロフィブリル化セルロースナノファイバは、前処理パルプを得るために酵素処理を施されるパルプに由来する、請求項16および18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前処理パルプは機械的に撹拌される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
機械的に撹拌されたパルプは均質化される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
水溶性架橋剤が加えられる、請求項16から21のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
架橋剤はキトサンまたはヒアルロン酸である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
架橋剤の濃度は、成分の合計質量に基づいて、5重量%よりも多く、または10重量%よりも多く、または30重量%よりも多く、または40重量%よりも多いが、50重量%以下、または35重量%未満、または15重量%未満である、請求項22および23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
懸濁液は凝集される、請求項16から24のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
請求項1から13に記載のナノペーパーで表面をコーティングする方法であって、
粘土およびミクロフィブリル化セルロースナノファイバを備える溶液または懸濁液を形成するステップと、
溶液または懸濁液で表面をコーティングするステップとを備える、方法。
【請求項27】
コーティングは、浸漬、噴霧、または塗付けによってなされる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
コーティングするステップが繰返される、請求項26および27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
溶液または懸濁液はキトサンをさらに備える、請求項26から28のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
紙、ろ紙、耐火性もしくは耐熱性材料、強化化合物、壁紙、厚紙、板紙、液体包装用板紙、パッキング材料、食品包装、水蒸気障壁、脂肪障壁、液体障壁、気体障壁、コーティング、スピーカメンブレン、電池メンブレン、または防弾材料としての、請求項1から13のうちいずれか1項に記載のナノペーパーの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図9】
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【図13】
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【図14】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2013−510963(P2013−510963A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538795(P2012−538795)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【国際出願番号】PCT/SE2010/051259
【国際公開番号】WO2011/059398
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(505118763)テトゥラ・ラバル・ホールディングス・アンド・ファイナンス・ソシエテ・アノニム (5)
【氏名又は名称原語表記】TETRA LAVAL HOLDINGS & FINANCE S.A.
【Fターム(参考)】