説明

強化ガラス及び強化ガラス板

【課題】カレットとしてLCD、PDP用ガラス基板が使用可能であると共に、高い機械的強度を有する強化ガラスを創案する。
【解決手段】本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜75%、Al 5〜20%、B 0〜8%、NaO 5〜20%、KO 0.1〜10%、MgO 0.1〜15%、SrO+BaO 0.001〜5%を含有し、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が0.3〜1.5であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化ガラス及び強化ガラス板に関し、特に、携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)、太陽電池のカバーガラス、或いはディスプレイ、特にタッチパネルディスプレイのガラス基板に好適な強化ガラス及び強化ガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルカメラ、PDA、タッチパネルディスプレイ、大型テレビ、非接触給電灯等のデバイスは、益々普及する傾向にある。これらの表示部に使用されるLCD、PDP等のデバイスは、2000年頃から普及し始め、現在では既にディスプレイ市場の9割以上を占めるに至っている。
【0003】
近年、3D表示を可能にするディスプレイが普及しつつある。このような3Dディスプレイにおいて、自然な立体視を得るためには運動視差が必要になり、異なる視点からの像を表示し得る多眼式の3Dディスプレイが検討されている。
【0004】
多眼式の3Dディスプレイでは、画面の画素数が同一であれば、視点の数を増やす程、3D表示の解像度が低下するという問題がある。このような事情から、3D表示の解像度を改善するために、ディスプレイには更なる高解像度化が要求されており、この要求に伴い、ガラス中の微小な泡、欠陥等に関する仕様も厳格化される方向である。
【0005】
更に、近年では、タッチパネルを搭載した携帯機器が登場し、その表示部を保護するために強化ガラスが使用されている。この携帯機器の需要増加に伴い、強化ガラスの市場も益々大きくなっている。この用途の強化ガラスには、(1)高い機械的強度を有すること、(2)安価で多量に供給できること等の特性が求められる(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−83045号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】泉谷徹朗等、「新しいガラスとその物性」、初版、株式会社経営システム研究所、1984年8月20日、p.451−498
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
LCD、PDP等のデバイスは、これまで大量に販売、出荷されており、今後、これらのデバイスのリサイクルが課題となる。しかし、ディスプレイモジュールから取り外されたガラス基板をカレットとして使用し、LCD、PDP用ガラス板を作製すると、ガラス中に微小な泡、欠陥が発生し易くなるため、近年の仕様を満たすことが困難になり、結果として、ガラス基板のリサイクルを推進し難くなり、更にはLCD、PDP用ガラス基板の製造コストが高騰してしまう。このような事情から、カレットとしてLCD、PDP用ガラス基板を使用し得る強化ガラスの開発が望まれている。
【0009】
そこで、本発明は、カレットとしてLCD、PDP用ガラス基板が使用可能であると共に、高い機械的強度を有する強化ガラスを創案することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、種々の検討を行った結果、ディスプレイの保護部材に存在する欠陥は、ディスプレイ用ガラス基板に存在する欠陥よりも表示性能に与える影響が小さいことを見出すと共に、強化ガラスのガラス組成範囲を厳密に規制することにより、カレットとしてLCD、PDP用ガラス基板を用いても、強化ガラス中に微小な泡、欠陥が発生し難く、且つ十分な機械的強度を確保し得ることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜75%、Al 5〜20%、B 0〜8%、NaO 5〜20%、KO 0.1〜10%、MgO 0.1〜15%、SrO+BaO 0.001〜5%を含有し、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が0.3〜1.5であることを特徴とする。ここで、「SrO+BaO」は、SrOとBaOの合量である。「MgO+CaO+SrO+BaO」は、MgO、CaO、SrO、及びBaOの合量である。「MgO+ZrO」は、MgOとZrOの合量である。
【0011】
第二に、本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜70%、Al 7〜20%、B 0〜5%、NaO 8〜20%、KO 1〜10%、MgO 1.5〜12%、SrO+BaO 0.001〜3%を含有し、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が0.4〜1.4であることが好ましい。
【0012】
第三に、本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜70%、Al 7〜18%、B 0〜3%、NaO 10〜17%、KO 2〜9%、MgO 1.5〜10%、SrO+BaO 0.001〜3%を含有し、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が0.5〜1.4であることが好ましい。
【0013】
第四に、本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜70%、Al 8〜17%、B 0〜1.5%、NaO 11〜16%、KO 3〜8%、MgO 1.8〜9%、SrO+BaO 0.001〜1%を含有し、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が0.5〜0.9であることが好ましい。
【0014】
第五に、本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜65%、Al 8〜15%、B 0〜1%、NaO 12〜15%、KO 4〜7%、MgO 1.8〜5%、SrO+BaO 0.001〜0.5%を含有し、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が0.5〜0.8であることが好ましい。
【0015】
第六に、本発明の強化ガラスは、実質的にAs、Sb、及びPbOを含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にAsを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にAsを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Asの含有量が0.05質量%未満であることを指す。「実質的にSbを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にSbを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Sbの含有量が0.05質量%未満であることを指す。「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にPbOを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、PbOの含有量が0.05質量%未満であることを指す。
【0016】
第七に、本発明の強化ガラスは、SnO+SO+Clの含有量が100〜3000ppm(質量)であることが好ましい。ここで、「SnO+SO+Cl」は、SnO、SO、及びClの合量である。
【0017】
第八に、本発明の強化ガラスは、圧縮応力層の圧縮応力値が200MPa以上、且つ圧縮応力層の厚み(深さ)が10μm以上であることが好ましい。ここで、「圧縮応力層の圧縮応力値」および「圧縮応力層の厚み」は、表面応力計(例えば、株式会社東芝製FSM−6000)を用いて、試料を観察した際に、観察される干渉縞の本数とその間隔から算出される値を指す。
【0018】
第九に、本発明の強化ガラスは、液相温度が1075℃以下であることが好ましい。ここで、「液相温度」とは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
【0019】
第十に、本発明の強化ガラスは、液相粘度が104.0dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0020】
第十一に、本発明の強化ガラスは、104.0dPa・sにおける温度が1250℃以下であることが好ましい。ここで、「104.0dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0021】
第十二に、本発明の強化ガラスは、102.5dPa・sにおける温度が1600℃以下であることが好ましい。ここで、「102.5dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0022】
第十三に、本発明の強化ガラスは、密度が2.6g/cm以下であることが好ましい。ここで、「密度」とは、周知のアルキメデス法で測定可能である。
【0023】
第十四に、本発明の強化ガラス板は、上記いずれかの強化ガラスからなることを特徴とする。
【0024】
第十五に、本発明の強化ガラス板は、フロート法で成形されてなることが好ましい。
【0025】
第十六に、本発明の強化ガラス板は、タッチパネルディスプレイに用いることが好ましい。
【0026】
第十七に、本発明の強化ガラス板は、携帯電話のカバーガラスに用いることが好ましい。
【0027】
第十八に、本発明の強化ガラス板は、太陽電池のカバーガラスに用いることが好ましい。
【0028】
第十九に、本発明の強化ガラス板は、ディスプレイの保護部材に用いることが好ましい。
【0029】
第二十に、本発明の強化ガラス板は、ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜70%、Al 7〜20%、B 0〜5%、NaO 8〜20%、KO 1〜10%、MgO 1.5〜12%、SrO+BaO 0.001〜3%、SnO+SO+Cl 100〜3000ppmを含有し、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が0.4〜1.4であって、長さ500mm以上、幅500mm以上、厚み1.5mm以下、ヤング率が65GPa以上、圧縮応力層の圧縮応力値が400MPa以上、圧縮応力層の厚みが30μm以上であることを特徴とする。ここで、「ヤング率」は、周知の共振法等で測定可能である。
【0030】
第二十一に、本発明の強化用ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜75%、Al 5〜20%、B 0〜8%、NaO 5〜20%、KO 0.1〜10%、MgO 0.1〜15%、SrO+BaO 0.001〜5%を含有し、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が0.3〜1.5であることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の強化ガラスは、その表面に圧縮応力層を有する。表面に圧縮応力層を形成する方法として、物理強化法と化学強化法がある。本発明の強化ガラスは、化学強化法で作製されてなることが好ましい。化学強化法は、ガラスの歪点以下の温度でイオン交換処理によりガラスの表面にイオン半径が大きいアルカリイオンを導入する方法である。化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、ガラスの厚みが薄い場合でも、圧縮応力層を適正に形成できると共に、圧縮応力層を形成した後に、強化ガラスを切断しても、風冷強化法等の物理強化法のように、強化ガラスが容易に破壊しない。
【0032】
LCD、PDP用ガラス基板は、ガラス組成中にSiO、Al、B、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物等の成分を含んでいる。例えば、LCD用ガラス基板は、ガラス組成中にSrO+BaOを1〜8質量%含んでいる。このため、LCD、PDP用ガラス基板をカレットとして用い、強化ガラスを作製すると、ガラス組成中にSrO、BaOが混入して、強化ガラスのイオン交換性能が低下する虞がある。そこで、LCD、PDP用ガラス基板のリサイクルを推進するためには、SrOとBaOを添加しても、優れたイオン交換性能を示すように、組成設計する必要がある。本発明の強化ガラスは、上記のようにガラス組成範囲が規制されているため、ガラス組成中にSrOとBaOを添加しても、良好なイオン交換性能を有する。
【0033】
本発明の強化ガラスにおいて、上記のように各成分の含有範囲を限定した理由を下記に示す。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示は質量%を指す。
【0034】
SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は50〜75%であり、好ましくは50〜70%、50〜68%、50〜65%、特に55〜65%である。SiOの含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。一方、SiOの含有量が多過ぎると、溶融性や成形性が低下し易くなり、また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。
【0035】
Alは、イオン交換性能を高める成分であり、また歪点やヤング率を高める成分であり、その含有量は5〜20%である。Alの含有量が少な過ぎると、イオン交換性能を十分に発揮できない虞が生じる。よって、Alの好適な下限範囲は6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、特に12%以上である。一方、Alの含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出し易くなって、フロート法やオーバーフローダウンドロー法等でガラス板を成形し難くなる。また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなり、更には高温粘性が高くなり、溶融性が低下し易くなる。よって、Alの好適な上限範囲は19%以下、17%以下、16%以下、特に15%以下である。
【0036】
は、高温粘度や密度を低下させると共に、ガラスを安定化させて結晶を析出させ難くし、また液相温度を低下させる成分である。しかし、Bの含有量が多過ぎると、イオン交換によって、ヤケと呼ばれるガラス表面の着色が発生したり、耐水性が低下したり、圧縮応力層の圧縮応力値が低下したり、圧縮応力層の厚みが小さくなり易い。よって、Bの含有量は0〜8%であり、好ましくは0〜5%、0〜3%、0〜1.8%、0〜0.9%、0〜0.5%、特に0〜0.1%である。
【0037】
NaOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、NaOは、耐失透性を改善する成分でもある。NaOの含有量は5〜20%である。NaOの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低下したり、イオン交換性能が低下し易くなる。よって、NaOの好適な下限範囲は8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、特に13%以上である。一方、NaOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する場合がある。よって、NaOの好適な上限範囲は19%以下、17%以下、特に16%以下である。
【0038】
Oは、イオン交換を促進する成分であり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層の厚みを大きくし易い成分である。また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。更には、耐失透性を改善する成分でもある。よって、KOの含有量は0.1%以上であり、好適な下限範囲は1%以上、1.5%以上、2%以上、3%以上、特に4%以上である。しかし、KOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。よって、KOの含有量は10%以下であり、好適な上限範囲は8%以下、7%以下、特に6%以下である。
【0039】
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が大きい成分である。よって、MgOの含有量は0.1%以上であり、好適な下限範囲は0.5%以上、1%以上、1.5以上、1.8%以上、特に2%以上である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり、またガラスが失透し易くなる傾向がある。よって、MgOの含有量は15%以下であり、好適な上限範囲は12%以下、10%以下、8%以下、4%以下、3.5%以下、特に2.8%以下である。
【0040】
CaOは、他の成分と比較して、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める効果が大きい。CaOの含有量は0〜10%である。しかし、CaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり、またガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなったり、イオン交換性能が低下し易くなる。よって、CaOの好適な含有量は0〜5%、0〜4%、0〜3.5%、0〜3%、0〜2%、特に0〜1%である。
【0041】
SrO+BaOは、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であるが、その含有量は0.001〜5%である。SrO+BaOの含有量が少な過ぎると、上記効果を得難くなると共に、LCD、PDP用ガラス基板のリサイクルを推進し難くなる。SrO+BaOの好適な下限範囲は0.05%以上、0.1%以上、特に0.3%以上である。一方、SrO+BaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、イオン交換性能が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなる。SrO+BaOの好適な上限範囲は4%以下、2%以下、特に1%以下である。なお、SrOとBaOの導入原料として、SrO原料やBaO原料を用いてもよいが、LCD、PDP用ガラス基板のカレットを用いることが好ましい。
【0042】
SrOは、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であるが、その含有量は0〜5%である。SrOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、イオン交換性能が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなる。SrOの好適な上限範囲は4%以下、2%以下、特に1%以下である。なお、SrOの含有量が少な過ぎると、上記効果を得難くなると共に、LCD、PDP用ガラス基板のリサイクルを推進し難くなる。SrOの好適な下限範囲は0.001%以上、0.05%以上、0.1%以上、特に0.3%以上である。
【0043】
BaOは、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であるが、その含有量は0〜5%である。BaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、イオン交換性能が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなる。BaOの好適な上限範囲は4%以下、2%以下、特に1%以下である。なお、BaOの含有量が少な過ぎると、上記効果を得難くなると共に、LCD、PDP用ガラス基板のリサイクルを推進し難くなる。BaOの好適な下限範囲は0.001%以上、0.05%以上、0.1%以上、特に0.3%以上である。
【0044】
MgO+CaO+SrO+BaOの含有量は0.101〜16%、0.2〜11%、0.5〜9%、1〜5%、特に2〜4%が好ましい。MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が少な過ぎると、溶融性や成形性を高め難くなる。一方、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、耐失透性が低下し易くなることに加えて、イオン交換性能が低下する傾向がある。
【0045】
ZrOは、イオン交換性能を顕著に高める成分であると共に、液相粘度付近の粘性や歪点を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、耐失透性が著しく低下する虞があり、また密度が高くなり過ぎる虞がある。よって、ZrOの好適な上限範囲は10%以下、8%以下、6%以下、4%以下、特に3%以下である。なお、イオン交換性能を高めたい場合、ガラス組成中にZrOを添加することが好ましく、その場合、ZrOの好適な下限範囲は0.01%以上、0.1%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上である。
【0046】
質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)は0.3〜1.5である。質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が大き過ぎると、耐失透性が低下したり、イオン交換性能が低下したり、密度、熱膨張係数が高くなり過ぎる。一方、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が小さ過ぎると、液相温度が急激に上昇して、液相粘度が低下し易くなる。よって、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)の好適な上限範囲は1.45以下、1.4以下、1.2以下、1.0以下、0.9以下、特に0.8以下であり、好適な下限範囲は0.4以上、0.5以上、0.55以上、特に0.6以上である。
【0047】
上記成分以外にも、例えば以下の成分を添加してもよい。
【0048】
LiOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であると共に、ヤング率を高める成分である。更にLiOは、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を高める効果が大きいが、NaOを5%以上含むガラス系において、LiOの含有量が極端に多くなると、かえって圧縮応力値が低下する傾向がある。また、LiOの含有量が多過ぎると、液相粘度が低下して、ガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。更に、低温粘性が低下し過ぎて、応力緩和が起こり易くなり、かえって圧縮応力値が低下する場合がある。よって、LiOの含有量は0〜12%、0〜6%、0〜2%、0〜1%、0〜0.5%、0〜0.3%、特に0〜0.1%が好ましい。
【0049】
質量比KO/NaOの好適な範囲は0.1〜0.8、0.2〜0.8、0.2〜0.7、特に0.3〜0.6である。質量比KO/NaOが小さくなると、圧縮応力層の厚みが小さくなり易く、質量比KO/NaOが大きくなると、圧縮応力値が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、ガラスが失透し易くなる。
【0050】
LiO+NaO+KOの好適な含有量は5.1〜25%、8〜22%、12〜20%、特に16.5〜20%である。LiO+NaO+KOの含有量が少な過ぎると、イオン交換性能や溶融性が低下し易くなる。一方、LiO+NaO+KOの含有量が多過ぎると、ガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎて、高い圧縮応力値が得られ難くなる場合がある。更に液相温度付近の粘性が低下して、高い液相粘度を確保し難くなる場合がある。なお、「LiO+NaO+KO」は、LiO、NaO、及びKOの合量である。
【0051】
質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(LiO+NaO+KO)は0.5以下、0.35以下、0.3以下、特に0.25以下が好ましい。質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(LiO+NaO+KO)が大きくなると、耐失透性が低下する傾向、密度が高くなる傾向が現れる。
【0052】
TiOは、イオン交換性能を高める成分であり、また高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、ガラスが着色したり、失透し易くなる。よって、TiOの含有量は0〜3%、0〜1%、0〜0.8%、0〜0.5%、特に0〜0.1%が好ましい。
【0053】
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力値を高める効果が大きい成分である。また低温粘性を低下させずに、高温粘性を低下させる成分である。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、圧縮応力層の厚みが小さくなる傾向がある。よって、ZnOの含有量は0〜6%、0〜5%、0〜3%、0〜1%、特に0〜0.5%が好ましい。
【0054】
は、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力層の厚みを大きくする成分である。しかし、Pの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐水性が低下し易くなる。よって、Pの含有量は0〜10%、0〜3%、0〜1%、特に0〜0.5%が好ましい。
【0055】
清澄剤として、CeO、SnO、SO、Clの群(好ましくはSnO、Cl、SOの群)から選択された一種又は二種以上を0〜3%添加してもよい。SnO+SO+Clの含有量は0〜1%、100〜3000ppm、300〜2500ppm、特に500〜2500ppmが好ましい。SnO+SO+Clの含有量が多過ぎると、耐失透性が低下し易くなる。なお、SnO+SO+Clの含有量が100ppmより少ないと、清澄効果を享受し難くなる。
【0056】
SnOの好適な含有範囲は0〜5000ppm、0〜3000ppm、0〜2000ppmである。SOの好適な含有範囲は0〜1000ppm、0〜800ppm、特に0〜500ppmである。Clの好適な含有範囲は0〜1500ppm、0〜1200ppm、0〜800ppm、0〜500ppm、特に0〜300ppmである。
【0057】
Feの含有量は500ppm未満、400ppm未満、300ppm未満、200ppm未満、特に150ppm未満が好ましい。このようにすれば、板厚1mmにおけるガラスの透過率(400nm〜770nm)が向上し易くなる(例えば90%以上)。
【0058】
NbやLa等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に添加すると、耐失透性が低下し易くなる。よって、希土類酸化物の含有量は3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下が好ましい。
【0059】
ガラスを強く着色させるような遷移金属元素(Co、Ni等)は、ガラスの透過率を低下させる虞がある。特に、タッチパネルディスプレイに用いる場合、遷移金属元素の含有量が多過ぎると、タッチパネルディスプレイの視認性が低下し易くなる。よって、遷移金属酸化物の含有量が0.5%以下、0.1%以下、特に0.05%以下になるように、ガラス原料(カレットを含む)を選択することが好ましい。
【0060】
本発明の強化ガラスは、環境的配慮から、ガラス組成として、実質的にAs、Sb、及びPbOを含有しないことが好ましい。また、実質的にFを含有しないことも好ましい。ここで、「実質的にFを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にFを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Fの含有量が0.05質量%未満であることを指す。更に、実質的にBiを含有しないことも好ましい。ここで、「実質的にBiを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にBiを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Biの含有量が0.05質量%未満であることを指す。
【0061】
本発明の強化ガラスは、例えば、下記の特性を有することが好ましい。
【0062】
本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有している。圧縮応力層の圧縮応力値は、好ましくは300MPa以上、400MPa以上、500MPa以上、600MPa以上、700MPa以上、特に800MPa以上である。圧縮応力値が大きい程、強化ガラスの機械的強度が高くなる。一方、表面に極端に大きな圧縮応力が形成されると、表面にマイクロクラックが発生して、かえって強化ガラスの機械的強度が低下する虞がある。また、強化ガラスに内在する引っ張り応力が極端に高くなる虞がある。このため、圧縮応力層の圧縮応力値は1500MPa以下が好ましい。なお、ガラス組成中のAl、TiO、ZrO、MgO、ZnOの含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力値が大きくなる傾向がある。また、イオン交換時間を短くしたり、イオン交換溶液の温度を下げれば、圧縮応力値が大きくなる傾向がある。
【0063】
圧縮応力層の厚みは、好ましくは10μm以上、15μm以上、20μm以上、30μm以上、特に40μm以上である。圧縮応力層の厚みが大きい程、強化ガラスに深い傷が付いても、強化ガラスが割れ難くなると共に、機械的強度のばらつきが小さくなる。一方、圧縮応力層の厚みが大きい程、強化ガラスを切断し難くなる。このため、圧縮応力層の厚みは500μm以下、200μm以下、150μm以下、100μm以下、特に80μm以下が好ましい。なお、ガラス組成中のKO、Pの含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力層の厚みが大きくなる傾向がある。また、イオン交換時間を長くしたり、イオン交換溶液の温度を上げれば、圧縮応力層の厚みが大きくなる傾向がある。
【0064】
本発明の強化ガラスにおいて、密度は2.6g/cm以下、特に2.55g/cm以下が好ましい。密度が小さい程、強化ガラスを軽量化することができる。なお、ガラス組成中のSiO、B、Pの含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO、TiOの含有量を低減すれば、密度が低下し易くなる。
【0065】
本発明の強化ガラスにおいて、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数は80〜120×10−7/℃、85〜110×10−7/℃、90〜110×10−7/℃、特に90〜105×10−7/℃が好ましい。熱膨張係数を上記範囲に規制すれば、金属、有機系接着剤等の部材の熱膨張係数に整合し易くなり、金属、有機系接着剤等の部材の剥離を防止し易くなる。ここで、「30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数」は、ディラトメーターを用いて、平均熱膨張係数を測定した値を指す。なお、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加すれば、熱膨張係数が高くなり易く、逆にアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すれば、熱膨張係数が低下し易くなる。
【0066】
本発明の強化ガラスにおいて、歪点は500℃以上、520℃以上、特に530℃以上が好ましい。歪点が高い程、耐熱性が向上し、強化ガラスを熱処理する場合、圧縮応力層が消失し難くなる。また、歪点が高い程、イオン交換処理の際に応力緩和が生じ難くなるため、圧縮応力値を維持し易くなる。なお、ガラス組成中のアルカリ土類金属酸化物、Al、ZrO、Pの含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物の含有量を低減すれば、歪点が高くなり易い。
【0067】
本発明の強化ガラスにおいて、104.0dPa・sにおける温度は1250℃以下、1230℃以下、1200℃以下、1180℃以下、特に1160℃以下が好ましい。104.0dPa・sにおける温度が低い程、成形設備への負担が軽減されて、成形設備が長寿命化し、結果として、強化ガラスの製造コストを低廉化し易くなる。アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加させたり、SiO、Alの含有量を低減すれば、104.0dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
【0068】
本発明の強化ガラスにおいて、102.5dPa・sにおける温度は1600℃以下、1550℃以下、1530℃以下、1500℃以下、特に1450℃以下が好ましい。102.5dPa・sにおける温度が低い程、低温溶融が可能になり、溶融窯等のガラス製造設備への負担が軽減されると共に、泡品位を高め易くなる。すなわち、102.5dPa・sにおける温度が低い程、強化ガラスの製造コストを低廉化し易くなる。なお、102.5dPa・sにおける温度は、溶融温度に相当する。また、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加させたり、SiO、Alの含有量を低減すれば、102.5dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
【0069】
本発明の強化ガラスにおいて、液相温度は1075℃以下、1050℃以下、1030℃以下、1010℃以下、1000℃以下、950℃以下、900℃以下、特に880℃以下が好ましい。なお、液相温度が低い程、耐失透性や成形性が向上する。また、ガラス組成中のNaO、KO、Bの含有量を増加させたり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すれば、液相温度が低下し易くなる。
【0070】
本発明の強化ガラスにおいて、液相粘度は104.0dPa・s以上、104.4dPa・s以上、104.8dPa・s以上、105.0dPa・s以上、105.5dPa・s以上、105.8dPa・s以上、106.0dPa・s以上、106.2dPa・s以上、特に106.3dPa・s以上が好ましい。なお、液相粘度が高い程、耐失透性や成形性が向上する。また、ガラス組成中のNaO、KOの含有量を増加させたり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すれば、液相粘度が高くなり易い。
【0071】
本発明の強化ガラスにおいて、ヤング率は65GPa以上、69GPa以上、71GPa以上、75GPa以上、特に77GPa以上が好ましい。ヤング率が高い程、強化ガラスが撓み難くなり、タッチパネルディスプレイ等に用いる際、ペン等で強化ガラスの表面を強く押しても、強化ガラスの変形量が小さくなり、結果として、背面に位置する液晶素子に接触して、表示不良が生じる事態を防止し易くなる。
【0072】
本発明の強化ガラス板は、本発明の強化ガラスからなることを特徴とする。よって、本発明の強化ガラス板の技術的特徴及び好適な範囲は、本発明の強化ガラスの技術的特徴と同様になる。ここでは、便宜上、その記載を省略する。
【0073】
本発明の強化ガラス板において、寸法は、長さ500mm以上、700mm以上、特に1000mm以上が好ましく、幅500mm以上、700mm以上、特に1000mm以上が好ましい。強化ガラス板の寸法を大型化すると、大型TV等のディスプレイの表示部のカバーガラスとして使用可能になると共に、大型化によるガラス量の増加に伴い、LCD、PDP用ガラス基板のリサイクルを推進し易くなる。
【0074】
本発明の強化ガラス板において、板厚は3.0mm以下、2.0mm以下、1.5mm以下、1.3mm以下、1.1mm以下、1.0mm以下、0.8mm以下、特に0.7mm以下が好ましい。一方、板厚が薄過ぎると、所望の機械的強度を得難くなる。よって、板厚は0.1mm以上、0.2mm以上、0.3mm以上、特に0.4mm以上が好ましい。
【0075】
本発明の強化用ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜75%、Al 5〜20%、B 0〜8%、NaO 5〜20%、KO 0.1〜10%、MgO 0.1〜15%、SrO+BaO 0.001〜5%を含有し、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が0.3〜1.5であることを特徴とする。本発明の強化用ガラスの技術的特徴は、本発明の強化ガラス、強化ガラス板の技術的特徴と同様になる。ここでは、便宜上、その記載を省略する。
【0076】
本発明の強化用ガラスは、430℃のKNO溶融塩中でイオン交換処理した場合、表面の圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが10μm以上になることが好ましく、また表面の圧縮応力が500MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが30μm以上になることが好ましく、さらに表面の圧縮応力が600MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが40μm以上になることが好ましい。
【0077】
イオン交換処理の際、KNO溶融塩の温度は400〜550℃が好ましく、イオン交換時間は2〜10時間、特に4〜8時間が好ましい。このようにすれば、圧縮応力層を適正に形成し易くなる。なお、本発明の強化用ガラスは、上記のガラス組成を有するため、KNO溶融塩とNaNO溶融塩の混合物等を使用しなくても、圧縮応力層の圧縮応力値や厚みを大きくすることが可能になる。また劣化したKNO溶融塩を用いた場合であっても、圧縮応力層の圧縮応力値や厚みが極端に低下することがない。
【0078】
以下のようにして、本発明の強化用ガラス、強化ガラス、及び強化ガラス板を作製することができる。
【0079】
まず上記のガラス組成になるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入して、1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で板状等に成形し、徐冷することにより、板状等のガラスを作製することができる。
【0080】
板状に成形する方法として、フロート法を採用することが好ましい。フロート法は、安価で大量にガラス板を作製できると共に、大型のガラス板も容易に作製できる方法である。
【0081】
フロート法以外にも、種々の成形方法を採用することができる。例えば、オーバーフローダウンドロー法、ダウンドロー法(スロットダウン法、リドロー法等)、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を採用することができる。
【0082】
次に、得られたガラスを強化処理することにより、強化ガラスを作製することができる。強化ガラスを所定寸法に切断する時期は、強化処理の前でもよいが、強化処理の後に行う方がコスト面から有利である。
【0083】
強化処理として、イオン交換処理が好ましい。イオン交換処理の条件は、特に限定されず、ガラスの粘度特性、用途、厚み、内部の引っ張り応力等を考慮して最適な条件を選択すればよい。例えば、イオン交換処理は、400〜550℃のKNO溶融塩中に、ガラスを1〜8時間浸漬することで行うことができる。特に、KNO溶融塩中のKイオンをガラス中のNa成分とイオン交換すると、ガラスの表面に圧縮応力層を効率良く形成することが可能になる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例に基づいて、本発明を説明する。なお、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0085】
表1、2は、本発明の実施例(試料No.1〜11)を示している。なお、表中の「未」は、未測定を意味している。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
次のようにして表中の各試料を作製した。まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1580℃で8時間溶融した。その後、得られた溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して、板状に成形した。得られたガラス板について、種々の特性を評価した。
【0089】
密度ρは、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
【0090】
熱膨張係数αは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値である。
【0091】
歪点Ps、徐冷点Taは、ASTM C336の方法に基づいて測定した値である。
【0092】
軟化点Tsは、ASTM C338の方法に基づいて測定した値である。
【0093】
高温粘度104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0094】
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れた後、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。
【0095】
液相粘度log10ηTLは、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0096】
表1、2から明らかなように、試料No.1〜11は、密度が2.56g/cm以下、熱膨張係数が99〜107×10−7/℃であり、強化ガラスの素材、つまり強化用ガラスとして好適であった。また液相粘度が105.5dPa・s以上であるため、フロート法で板状に成形可能であり、また104.0dPa・sにおける温度が1156℃以下であるため、成形設備の負担が軽く、しかも102.5dPa・sにおける温度が1528℃以下であるため、生産性が高く、安価に大量のガラス板を作製できるものと考えられる。なお、強化処理の前後で、ガラスの表層におけるガラス組成が微視的に異なるものの、ガラス全体として見た場合は、ガラス組成が実質的に相違しない。
【0097】
次に、各試料の両表面に光学研磨を施した後、440℃のKNO溶融塩中に6時間浸漬することにより、イオン交換処理を行った。イオン交換処理後に各試料の表面を洗浄した。続いて、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力層の圧縮応力値CSと厚みDOLを算出した。算出に当たり、各試料の屈折率を1.52、光学弾性定数を28[(nm/cm)/MPa]とした。
【0098】
表1、2から明らかなように、試料No.1〜11は、KNO溶融塩でイオン交換処理を行ったところ、CSが737MPa以上、DOLが27μm以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の強化ガラス及び強化ガラス板は、携帯電話、デジタルカメラ、PDA等のカバーガラス、或いはタッチパネルディスプレイ等のガラス基板として好適である。また、本発明の強化ガラス及び強化ガラス板は、これらの用途以外にも、高い機械的強度が要求される用途、例えば窓ガラス、磁気ディスク用基板、フラットパネルディスプレイ用基板、太陽電池用カバーガラス、固体撮像素子用カバーガラス、食器への応用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜75%、Al 5〜20%、B 0〜8%、NaO 5〜20%、KO 0.1〜10%、MgO 0.1〜15%、SrO+BaO 0.001〜5%を含有し、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が0.3〜1.5であることを特徴とする強化ガラス。
【請求項2】
ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜70%、Al 7〜20%、B 0〜5%、NaO 8〜20%、KO 1〜10%、MgO 1.5〜12%、SrO+BaO 0.001〜3%を含有し、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が0.4〜1.4であることを特徴とする請求項1に記載の強化ガラス。
【請求項3】
ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜70%、Al 7〜18%、B 0〜3%、NaO 10〜17%、KO 2〜9%、MgO 1.5〜10%、SrO+BaO 0.001〜3%を含有し、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が0.5〜1.4であることを特徴とする請求項1又は2に記載の強化ガラス。
【請求項4】
ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜70%、Al 8〜17%、B 0〜1.5%、NaO 11〜16%、KO 3〜8%、MgO 1.8〜9%、SrO+BaO 0.001〜1%を含有し、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が0.5〜0.9であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項5】
ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜65%、Al 8〜15%、B 0〜1%、NaO 12〜15%、KO 4〜7%、MgO 1.8〜5%、SrO+BaO 0.001〜0.5%を含有し、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が0.5〜0.8であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項6】
実質的にAs、Sb、及びPbOを含有しないことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項7】
SnO+SO+Clの含有量が100〜3000ppmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項8】
圧縮応力層の圧縮応力値が200MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが10μm以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項9】
液相温度が1075℃以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項10】
液相粘度が104.0dPa・s以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項11】
104.0dPa・sにおける温度が1250℃以下であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項12】
102.5dPa・sにおける温度が1600℃以下であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項13】
密度が2.6g/cm以下であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の強化ガラスからなることを特徴とする強化ガラス板。
【請求項15】
フロート法で成形されてなることを特徴とする請求項14に記載の強化ガラス板。
【請求項16】
タッチパネルディスプレイに用いることを特徴とする請求項14に記載の強化ガラス板。
【請求項17】
携帯電話のカバーガラスに用いることを特徴とする請求項14に記載の強化ガラス板。
【請求項18】
太陽電池のカバーガラスに用いることを特徴とする請求項14に記載の強化ガラス板。
【請求項19】
ディスプレイの保護部材に用いることを特徴とする請求項14に記載の強化ガラス板。
【請求項20】
ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜70%、Al 7〜20%、B 0〜5%、NaO 8〜20%、KO 1〜10%、MgO 1.5〜12%、SrO+BaO 0.001〜3%、SnO+SO+Cl 100〜3000ppmを含有し、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が0.4〜1.4であって、長さ500mm以上、幅500mm以上、厚み1.5mm以下、ヤング率が65GPa以上、圧縮応力層の圧縮応力値が400MPa以上、圧縮応力層の厚みが30μm以上であることを特徴とする強化ガラス板。
【請求項21】
ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜75%、Al 5〜20%、B 0〜8%、NaO 5〜20%、KO 0.1〜10%、MgO 0.1〜15%、SrO+BaO 0.001〜5%を含有し、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(MgO+ZrO)が0.3〜1.5であることを特徴とする強化用ガラス。

【公開番号】特開2012−148908(P2012−148908A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7410(P2011−7410)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】