説明

強化ガラス及び強化ガラス板

【課題】携帯電話の表示部に要求される表面品位を達成可能であると共に、エッチングレートを高めることが可能であり、しかも機械的強度が高い強化ガラスを創案する。
【解決手段】本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、モル%で、SiO 45〜75%、Al 3〜15%、LiO 0〜12%、NaO 0.3〜20%、KO 0〜10%、MgO+CaO 1〜15%を含有し、モル比(Al+NaO+P)/SiOが0.1〜1、モル比(B+NaO)/SiOが0.1〜1、モル比P/SiOが0〜1、モル比Al/SiOが0.01〜1、モル比NaO/Alが0.1〜5であると共に、強化処理前に表面の一部又は全部がエッチングされてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化ガラス及び強化ガラス板に関し、特に、携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)、太陽電池のカバーガラス、或いはディスプレイ、特にタッチパネルディスプレイのガラス基板に好適な強化ガラス及び強化ガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タッチパネルを搭載したPDAが登場し、その表示部を保護するために強化ガラスが使用されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。今後、強化ガラスの市場は、益々増大するものと期待されている。そして、この用途の強化ガラスは、高い機械的強度が要求されると共に、デザイン性が重視されることが多い。
【0003】
また、この用途の強化ガラスは、例えば、以下のようにして作製される。まず各デバイスの表示部分の形状に応じて、ガラスを切り出し、更にマイク部、スピーカー部に穴あけ加工を行った後、ガラスの表面を研磨して、薄肉化すると共に、ガラスの外周のチッピング、穴あけ部分のチッピングを取り除き、最後にガラス全体をイオン交換炉内に浸漬させることにより作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−83045号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】泉谷徹朗等、「新しいガラスとその物性」、初版、株式会社経営システム研究所、1984年8月20日、p.451−498
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
表示部を保護するための強化ガラスは、高い機械的強度が求められるが、ガラスに対して、外周加工、穴あけ加工、通常の研磨処理を行うと、強化ガラスの機械的強度が低下する虞がある。このような事態を防止するためには、端面に存在する微細なクラックを取り除く必要があり、具体的には外周加工、穴あけ加工を行った後、端面の鏡面加工、表面を鏡面研磨等の研磨加工が必要になり、結果として、強化ガラスの製造コストが高騰する。
【0007】
上記事情から、鏡面研磨以外の方法で、端面に存在するクラックを取り除くことが検討されており、例えばガラスの表面をエッチングすることにより、端面に存在するクラックの深さを浅くして、ガラス(強化ガラス)の機械的強度を高める方法が検討されている。しかし、強化ガラスの生産性を高めるために、過酷な条件でエッチングを行うと、ガラスの表面が粗くなり、携帯電話の表示部に要求される表面品位(表面粗さRaで1nm以下)を達成し難くなる。一方、エッチングレートが低過ぎると、強化ガラスの生産性が低下してしまう。
【0008】
そこで、本発明は、携帯電話の表示部に要求される表面品位を達成可能であると共に、エッチングレートを高めることが可能であり、しかも機械的強度が高い強化ガラスを創案することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、種々の検討を行った結果、ガラス組成中の各成分の含有範囲を厳密に規制すると共に、強化処理前にガラスの表面をエッチングすることにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、モル%で、SiO 45〜75%、Al 3〜15%、LiO 0〜12%、NaO 0.3〜20%、KO 0〜10%、MgO+CaO 1〜15%を含有し、モル比(Al+NaO+P)/SiOが0.1〜1、モル比(B+NaO)/SiOが0.1〜1、モル比P/SiOが0〜1、モル比Al/SiOが0.01〜1、モル比NaO/Alが0.1〜5であると共に、強化処理前に表面の一部又は全部がエッチングされてなることを特徴とする。ここで、「MgO+CaO」は、MgOとCaOの合量を指す。「Al+NaO+P」は、Al、NaO、及びPの合量を指す。「B+NaO」は、BとNaOの合量を指す。
【0010】
第二に、本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 45〜75%、Al 4〜13%、B 0〜3%、LiO 0〜8%、NaO 5〜20%、KO 0.1〜10%、MgO+CaO 3〜13%を含有し、モル比(Al+NaO+P)/SiOが0.1〜0.7、モル比(B+NaO)/SiOが0.1〜0.7、モル比P/SiOが0〜0.5、モル比Al/SiOが0.01〜0.7、モル比NaO/Alが0.5〜4であることが好ましい。
【0011】
第三に、本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 45〜75%、Al 5〜12%、B 0〜1%、LiO 0〜4%、NaO 8〜20%、KO 0.5〜10%、MgO+CaO 5〜13%を含有し、モル比(Al+NaO+P)/SiOが0.1〜0.5、モル比(B+NaO)/SiOが0.1〜0.5、モル比P/SiOが0〜0.3、モル比Al/SiOが0.05〜0.5、モル比NaO/Alが1〜3であることが好ましい。
【0012】
第四に、本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 45〜75%、Al 5〜11%、B 0〜1%、LiO 0〜4%、NaO 9〜20%、KO 0.5〜8%、MgO 0〜12%、CaO 0〜3%、MgO+CaO 5〜12%を含有し、モル比(Al+NaO+P)/SiOが0.1〜0.5、モル比(B+NaO)/SiOが0.1〜0.3、モル比P/SiOが0〜0.2、モル比Al/SiOが0.05〜0.3、モル比NaO/Alが1〜3であることが好ましい。
【0013】
第五に、本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜70%、Al 5〜11%、B 0〜1%、LiO 0〜2%、NaO 10〜18%、KO 1〜6%、MgO 0〜12%、CaO 0〜2.5%、MgO+CaO 5〜12%を含有し、モル比(Al+NaO+P)/SiOが0.2〜0.5、モル比(B+NaO)/SiOが0.15〜0.27、モル比P/SiOが0〜0.1、モル比Al/SiOが0.07〜0.2、モル比NaO/Alが1〜2.3であることが好ましい。
【0014】
第六に、本発明の強化ガラスは、表面の一部又は全部がHF、HCl、HSO、HNO、NHF、NaOH、NHHFの群から選ばれる一種または二種以上を含むエッチング液によりエッチングされてなることが好ましい。なお、これらの成分は、エッチング性能が良好である。
【0015】
第七に、本発明の強化ガラスは、エッチングされた表面の表面粗さRaが1nm以下であることが好ましい。ここで、「表面粗さRa」は、SEMI D7−94「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法で測定した値を指す。また、「エッチングされた表面の表面粗さRa」とは、端面を除く、エッチングされた表面の表面粗さRaを指す。
【0016】
第八に、本発明の強化ガラスは、(端面の表面粗さRa)/(エッチングされた表面の表面粗さRa)の値が1〜5000であることが好ましい。
【0017】
第九に、本発明の強化ガラスは、圧縮応力層の圧縮応力値が200MPa以上、且つ圧縮応力層の厚み(深さ)が10μm以上であることが好ましい。ここで、「圧縮応力層の圧縮応力値」および「圧縮応力層の厚み」は、表面応力計(例えば、株式会社東芝製FSM−6000)を用いて、試料を観察した際に、観察される干渉縞の本数とその間隔から算出される値を指す。
【0018】
第十に、本発明の強化ガラスは、液相温度が1250℃以下であることが好ましい。ここで、「液相温度」とは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
【0019】
第十一に、本発明の強化ガラスは、液相粘度が104.0dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0020】
第十二に、本発明の強化ガラスは、104.0dPa・sにおける温度が1280℃以下であることが好ましい。ここで、「104.0dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0021】
第十三に、本発明の強化ガラスは、102.5dPa・sにおける温度が1620℃以下であることが好ましい。ここで、「102.5dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0022】
第十四に、本発明の強化ガラスは、密度が2.6g/cm以下であることが好ましい。ここで、「密度」とは、周知のアルキメデス法で測定可能である。
【0023】
第十五に、本発明の強化ガラス板は、上記いずれかの強化ガラスからなることを特徴とする。
【0024】
第十六に、本発明の強化ガラス板は、フロート法で成形されてなることが好ましい。
【0025】
第十七に、本発明の強化ガラス板は、タッチパネルディスプレイに用いることが好ましい。
【0026】
第十八に、本発明の強化ガラス板は、携帯電話のカバーガラスに用いることが好ましい。
【0027】
第十九に、本発明の強化ガラス板は、太陽電池のカバーガラスに用いることが好ましい。
【0028】
第二十に、本発明の強化ガラス板は、ディスプレイの保護部材に用いることが好ましい。
【0029】
第二十一に、本発明の強化用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 45〜75%、Al 3〜15%、LiO 0〜12%、NaO 0.3〜20%、KO 0〜10%、MgO+CaO 1〜15%を含有し、モル比(Al+NaO+P)/SiOが0.1〜1、モル比(B+NaO)/SiOが0.1〜1、モル比P/SiOが0〜1、モル比Al/SiOが0.01〜1、モル比NaO/Alが0.1〜5であると共に、表面の一部又は全部がエッチングされてなることを特徴とする。
【0030】
第二十二に、本発明の強化用ガラスは、80℃、10質量%のHCl水溶液中で24時間浸漬させた時の質量減が0.05〜50g/cmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明の強化ガラスは、エッチング性能が適正であるため、短時間のエッチングで薄肉化と端面に存在するクラック除去を行いつつ、高い表面品位を確保することができる。更に、本発明の強化ガラスは、イオン交換性能が高いため、機械的強度が高く、また機械的強度のばらつきが小さい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例2におけるラップ研磨後のガラス板について、25℃、5質量%のHF水溶液中で10分間浸漬させた後の表面の観察像と粗さプロファイルである。
【図2】実施例2におけるラップ研磨後のガラス板について、25℃、5質量%のHF水溶液中で10分間浸漬させた後の端面の観察像と粗さプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の強化ガラスは、その表面に圧縮応力層を有する。表面に圧縮応力層を形成する方法として、物理強化法と化学強化法がある。本発明の強化ガラスは、化学強化法で作製されてなることが好ましい。
【0034】
化学強化法は、ガラスの歪点以下の温度でイオン交換処理によりガラスの表面にイオン半径が大きいアルカリイオンを導入する方法である。化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、ガラスの厚みが薄い場合でも、圧縮応力層を適正に形成できると共に、圧縮応力層を形成した後に、強化ガラスを切断しても、風冷強化法等の物理強化法のように、強化ガラスが容易に破壊しない。
【0035】
本発明の強化ガラスは、強化処理前に表面(好ましくは、少なくともおもて面と裏面の全部)の一部又は全部がエッチングされてなる。このようにすれば、端面に存在するクラックの深さを浅くして、ガラスの機械的強度を高めることが可能になる。
【0036】
本発明の強化ガラスにおいて、上記のように各成分の含有範囲を限定した理由を下記に示す。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示はモル%を指す。
【0037】
SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は45〜75%であり、好ましくは50〜70%、55〜68%、55〜67%、特に58〜66%である。SiOの含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなり、更にはHCl等の酸によるエッチングレートが高くなり過ぎて、所望の表面品位を得難くなる。一方、SiOの含有量が多過ぎると、溶融性や成形性が低下し易くなり、また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなり、更にはエッチングレートが低くなるため、所望の厚みまで薄肉化することが困難になり、結果として強化ガラスの生産性が低下し易くなる。
【0038】
Alは、イオン交換性能を高める成分であり、また歪点やヤング率を高める成分であり、その含有量は3〜15%である。Alの含有量が少な過ぎると、イオン交換性能を十分に発揮できない虞が生じる。よって、Alの好適な下限範囲は4%以上、5%以上、5.5%以上、7%以上、8%以上、特に9%以上である。一方、Alの含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出し易くなって、フロート法やオーバーフローダウンドロー法等でガラス板を成形し難くなる。また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなり、更には高温粘性が高くなり、溶融性が低下し易くなる。またHCl等の酸によるエッチングレートが高くなり過ぎて、所望の表面品位を得難くなる。よって、Alの好適な上限範囲は13%以下、12%以下、11%以下、特に9%以下である。
【0039】
は、高温粘度や密度を低下させると共に、ガラスを安定化させて結晶を析出させ難くし、また液相温度を低下させる成分である。しかし、Bの含有量が多過ぎると、イオン交換によって、ヤケと呼ばれるガラス表面の着色が発生したり、耐水性が低下したり、圧縮応力層の圧縮応力値が低下したり、圧縮応力層の厚みが小さくなったり、HCl等の酸によるエッチングレートが高くなり過ぎて、所望の表面品位を得難くなる。よって、Bの含有量は0〜12%であり、好ましくは0〜5%、0〜3%、0〜1.5%、0〜1%、0〜0.9%、0〜0.5%、特に0〜0.1%である。
【0040】
LiOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であると共に、ヤング率を高める成分である。更にLiOは、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を高める効果が大きいが、NaOを5%以上含むガラス系において、LiOの含有量が極端に多くなると、かえって圧縮応力値が低下する傾向がある。また、LiOの含有量が多過ぎると、液相粘度が低下して、ガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。更に、低温粘性が低下し過ぎて、応力緩和が起こり易くなり、かえって圧縮応力値が低下する場合がある。よって、LiOの含有量は0〜12%であり、好ましくは0〜8%、0〜4%、0〜2%、0〜1%、0〜0.5%、0〜0.3%、特に0〜0.1%である。
【0041】
NaOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、NaOは、耐失透性を改善する成分でもある。NaOの含有量は0.3〜20%である。NaOの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低下したり、イオン交換性能が低下し易くなる。またエッチングレートが低くなるため、所望の厚みまで薄肉化することが困難になり、結果として強化ガラスの生産性が低下し易くなる。よって、NaOを添加する場合、NaOの好適な下限範囲は5%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、特に12%以上である。一方、NaOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する場合がある。更に、HCl等の酸によるエッチングレートが高くなり過ぎて、所望の表面品位を得難くなる。よって、NaOの好適な上限範囲は19%以下、18%以下、17%以下、特に16%以下である。
【0042】
Oは、イオン交換を促進する成分であり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層の厚みを大きくし易い成分である。また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。更には、耐失透性を改善する成分でもある。KOの含有量は0〜10%である。KOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。よって、KOの好適な上限範囲は8%以下、7%以下、6%以下、特に5%以下である。なお、ガラス組成中にKOを添加する場合、KOの好適な下限範囲は0.1%以上、0.5%以上、1%以上、1.5%以上、2%以上、特に2.5%以上である。
【0043】
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が大きい成分である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり、またガラスが失透し易くなる傾向がある。よって、MgOの好適な上限範囲は12%以下、10%以下、8%以下、特に7%以下である。なお、ガラス組成中にMgOを添加する場合、MgOの好適な下限範囲は0.1%以上、0.5%以上、1%以上、2%以上、特に3%以上である。
【0044】
CaOは、他の成分と比較して、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める効果が大きい。CaOの含有量は0〜10%が好ましい。しかし、CaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり、またガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなったり、イオン交換性能が低下し易くなる。また分相が生じ易くなる傾向がある。よって、CaOの好適な含有量は0〜5%、0〜3%、特に0〜2.5%である。
【0045】
は、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力層の厚みを大きくする成分である。しかし、Pの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、HCl等の酸によるエッチングレートが高くなり過ぎて、所望の表面品位を得難くなる。よって、Pの好適な上限範囲は10%以下、5%以下、特に3%以下である。なお、ガラス組成中にPを添加する場合、Pの好適な下限範囲は0.01%以上、0.1%以上、0.5%以上、特に1%以上である。
【0046】
MgO+CaOの含有量は1〜15%である。MgO+CaOの含有量が少な過ぎると、所望のイオン交換性能を得難くなることに加えて、高温粘性が高くなって、溶解性が低下し易くなる。一方、MgO+CaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、耐失透性が低下し易くなる。よって、MgO+CaOの好適な含有範囲は3〜13%、5〜13%、5〜12%、特に5〜11%である。
【0047】
LiO+NaO+KOの好適な含有量は5〜25%、8〜22%、12〜20%、特に16.5〜20%である。LiO+NaO+KOの含有量が少な過ぎると、イオン交換性能や溶融性が低下し易くなる。一方、LiO+NaO+KOの含有量が多過ぎると、ガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎて、高い圧縮応力値が得られ難くなる場合がある。更に液相温度付近の粘性が低下して、高い液相粘度を確保し難くなる場合がある。なお、「LiO+NaO+KO」は、LiO、NaO、及びKOの合量である。
【0048】
本発明の強化ガラスにおいて、モル比(Al+NaO+P)/SiOは0.1〜1である。モル比(Al+NaO+P)/SiOが小さ過ぎると、エッチングレートが低くなるため、所望の厚みまで薄肉化することが困難になり、結果として強化ガラスの生産性が低下し易くなる。またイオン交換性能が低下し易くなる。一方、モル比(Al+NaO+P)/SiOが大き過ぎると、HCl等の酸によるエッチングレートが高くなり過ぎて、所望の表面品位を得難くなったり、耐失透性が低下して、高い液相粘度を確保し難くなる。よって、モル比(Al+NaO+P)/SiOの好適な下限範囲は0.15以上、0.2以上、特に0.25以上であり、好適な上限範囲は0.7以下、0.5以下、特に0.4以下である。
【0049】
本発明の強化ガラスにおいて、モル比(B+NaO)/SiOは0.1〜1である。モル比(B+NaO)/SiOが小さ過ぎると、エッチングレートが低くなるため、所望の厚みまで薄肉化することが困難になり、結果として強化ガラスの生産性が低下し易くなる。また高温粘性が高くなるため、溶融性が低下して、泡品位が低下し易くなる。一方、モル比(B+NaO)/SiOが大き過ぎると、HCl等の酸によるエッチングレートが高くなり過ぎて、所望の表面品位を得難くなったり、耐失透性が低下して、高い液相粘度を確保し難くなる。よって、モル比(B+NaO)/SiOの好適な下限範囲は0.15以上、0.2以上、特に0.23以上であり、好適な上限範囲は0.7以下、0.5以下、0.4以下、0.3以下、特に0.27以下である。
【0050】
本発明の強化ガラスにおいて、モル比P/SiOは0〜1である。モル比P/SiOが大きいと、圧縮応力層の厚みが大きくなる傾向にあるが、その値が大き過ぎると、HCl等の酸によるエッチングレートが高くなり過ぎて、所望の表面品位を得難くなる。よって、モル比P/SiOの好適な範囲は0〜0.5、0〜0.3、0〜0.2、特に0〜0.1である。
【0051】
本発明の強化ガラスにおいて、モル比Al/SiOは0.01〜1である。モル比Al/SiOが大きくなると、歪点やヤング率が高くなったり、イオン交換性能を高めることが可能になるが、この値が大き過ぎると、ガラスに失透結晶が析出し易くなって、高い液相粘度を確保し難くなったり、高温粘性が高くなって、溶融性が低下し易くなったり、HCl等の酸によるエッチングレートが高くなり過ぎて、所望の表面品位を得難くなる。よって、モル比Al/SiOの好適な範囲は0.01〜0.7、0.01〜0.5、0.05〜0.3、特に0.07〜0.2である。
【0052】
本発明の強化ガラスにおいて、モル比NaO/Alは0.1〜5である。モル比NaO/Alが小さ過ぎると、耐失透性が低下し易くなり、また溶解性が低下し易くなる。一方、モル比NaO/Alが大き過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎたり、高温粘性が低くなり過ぎて、高い液相粘度を確保し難くなる。よって、モル比NaO/Alの好適な範囲は0.5〜4、1〜3、特に1.2〜2.3である。
【0053】
上記成分以外にも、例えば以下の成分を添加してもよい。
【0054】
SrOは、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。SrOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、イオン交換性能が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなる。SrOの好適な含有範囲は0〜5%、0〜3%、0〜1%、特に0〜0.1%である。
【0055】
BaOは、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。BaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、イオン交換性能が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなる。BaOの好適な含有範囲は0〜5%、0〜3%、0〜1%、特に0〜0.1%である。
【0056】
TiOは、イオン交換性能を高める成分であり、また高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、ガラスが着色したり、失透し易くなる。よって、TiOの含有量は0〜3%、0〜1%、0〜0.8%、0〜0.5%、特に0〜0.1%が好ましい。
【0057】
ZrOは、イオン交換性能を顕著に高める成分であると共に、液相粘度付近の粘性や歪点を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、耐失透性が著しく低下する虞があり、また密度が高くなり過ぎる虞がある。よって、ZrOの好適な上限範囲は10%以下、8%以下、6%以下、4%以下、特に3%以下である。なお、イオン交換性能を高めたい場合、ガラス組成中にZrOを添加することが好ましく、その場合、ZrOの好適な下限範囲は0.01%以上、0.1%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上である。
【0058】
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力値を高める効果が大きい成分である。また低温粘性を低下させずに、高温粘性を低下させる成分である。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、圧縮応力層の厚みが小さくなる傾向がある。よって、ZnOの含有量は0〜6%、0〜5%、0〜3%、0〜1%、特に0〜0.5%が好ましい。
【0059】
清澄剤として、As、Sb、CeO、SnO、F、Cl、SOの群(好ましくはSnO、Cl、SOの群)から選択された一種又は二種以上を0〜3%添加してもよい。SnO+SO+Clの含有量は0〜1%、100〜3000ppm、300〜2500ppm、特に500〜2500ppmが好ましい。なお、SnO+SO+Clの含有量が100ppmより少ないと、清澄効果を享受し難くなる。ここで、「SnO+SO+Cl」は、SnO、SO、及びClの合量を指す。
【0060】
環境的観点から、As、Sb、Fの使用は極力控えることが好ましく、実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にAsを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にAsを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Asの含有量が500ppm(質量)未満であることを指す。「実質的にSbを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にSbを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Sbの含有量が500ppm(質量)未満であることを指す。「実質的にFを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にFを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Fの含有量が500ppm(質量)未満であることを指す。
【0061】
Feの含有量は500ppm未満、400ppm未満、300ppm未満、200ppm未満、特に150ppm未満が好ましい。このようにすれば、板厚1mmにおけるガラスの透過率(400nm〜770nm)が向上し易くなる(例えば90%以上)。
【0062】
NbやLa等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に添加すると、耐失透性が低下し易くなる。よって、希土類酸化物の含有量は3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下が好ましい。
【0063】
ガラスを強く着色させるような遷移金属元素(Co、Ni等)は、ガラスの透過率を低下させる虞がある。特に、タッチパネルディスプレイに用いる場合、遷移金属元素の含有量が多過ぎると、タッチパネルディスプレイの視認性が低下し易くなる。よって、遷移金属酸化物の含有量が0.5%以下、0.1%以下、特に0.05%以下になるように、ガラス原料(カレットを含む)を選択することが好ましい。
【0064】
環境面の配慮から、実質的にPbO、Biを含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にPbOを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、PbOの含有量が500ppm(質量)未満であることを指す。「実質的にBiを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にBiを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Biの含有量が500ppm(質量)未満であることを指す。
【0065】
本発明の強化ガラスにおいて、各成分の好適な含有範囲を適宜選択して、好適なガラス組成範囲を構築することが可能である。その中でも特に好適なガラス組成範囲は、モル%で、SiO 50〜70%、Al 5.5〜9%、B 0〜0.1%、LiO 0〜0.5%、NaO 12〜17%、KO 2〜5%、MgO 0〜12%、CaO 0〜2.5%、MgO+CaO 5〜11%を含有し、モル比(Al+NaO+P)/SiOが0.25〜0.5、モル比(B+NaO)/SiOが0.15〜0.27、モル比P/SiOが0〜0.1、モル比Al/SiOが0.07〜0.2、モル比NaO/Alが1.2〜2.3である。
【0066】
本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有している。圧縮応力層の圧縮応力値は、好ましくは300MPa以上、400MPa以上、500MPa以上、600MPa以上、700MPa以上、特に800MPa以上である。圧縮応力値が大きい程、強化ガラスの機械的強度が高くなる。一方、表面に極端に大きな圧縮応力が形成されると、表面にマイクロクラックが発生して、かえって強化ガラスの機械的強度が低下する虞がある。また、強化ガラスに内在する引っ張り応力が極端に高くなる虞がある。このため、圧縮応力層の圧縮応力値は1500MPa以下が好ましい。なお、ガラス組成中のAl、TiO、ZrO、MgO、ZnOの含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力値が大きくなる傾向がある。また、イオン交換時間を短くしたり、イオン交換溶液の温度を下げれば、圧縮応力値が大きくなる傾向がある。
【0067】
圧縮応力層の厚みは、好ましくは10μm以上、25μm以上、50μm以上、60μm以上、特に70μm以上である。圧縮応力層の厚みが大きい程、強化ガラスに深い傷が付いても、強化ガラスが割れ難くなると共に、機械的強度のばらつきが小さくなる。一方、圧縮応力層の厚みが大きい程、強化ガラスを切断し難くなる。このため、圧縮応力層の厚みは500μm以下、200μm以下、150μm以下、特に90μm以下が好ましい。なお、ガラス組成中のKO、Pの含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力層の厚みが大きくなる傾向がある。また、イオン交換時間を長くしたり、イオン交換溶液の温度を上げれば、圧縮応力層の厚みが大きくなる傾向がある。
【0068】
本発明の強化ガラスにおいて、密度は2.6g/cm以下、特に2.55g/cm以下が好ましい。密度が小さい程、強化ガラスを軽量化することができる。なお、ガラス組成中のSiO、B、Pの含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO、TiOの含有量を低減すれば、密度が低下し易くなる。
【0069】
本発明の強化ガラスにおいて、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数は80〜120×10−7/℃、85〜110×10−7/℃、90〜110×10−7/℃、特に90〜105×10−7/℃が好ましい。熱膨張係数を上記範囲に規制すれば、金属、有機系接着剤等の部材の熱膨張係数に整合し易くなり、金属、有機系接着剤等の部材の剥離を防止し易くなる。ここで、「30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数」は、ディラトメーターを用いて、平均熱膨張係数を測定した値を指す。なお、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加すれば、熱膨張係数が高くなり易く、逆にアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すれば、熱膨張係数が低下し易くなる。
【0070】
本発明の強化ガラスにおいて、歪点は500℃以上、520℃以上、特に530℃以上が好ましい。歪点が高い程、耐熱性が向上し、強化ガラスを熱処理する場合、圧縮応力層が消失し難くなる。また、歪点が高い程、イオン交換処理の際に応力緩和が生じ難くなるため、圧縮応力値を維持し易くなる。なお、ガラス組成中のアルカリ土類金属酸化物、Al、ZrO、Pの含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物の含有量を低減すれば、歪点が高くなり易い。
【0071】
本発明の強化ガラスにおいて、104.0dPa・sにおける温度は1280℃以下、1230℃以下、1200℃以下、1180℃以下、特に1160℃以下が好ましい。104.0dPa・sにおける温度が低い程、成形設備への負担が軽減されて、成形設備が長寿命化し、結果として、強化ガラスの製造コストを低廉化し易くなる。アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加させたり、SiO、Alの含有量を低減すれば、104.0dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
【0072】
本発明の強化ガラスにおいて、102.5dPa・sにおける温度は1620℃以下、1550℃以下、1530℃以下、1500℃以下、特に1450℃以下が好ましい。102.5dPa・sにおける温度が低い程、低温溶融が可能になり、溶融窯等のガラス製造設備への負担が軽減されると共に、泡品位を高め易くなる。すなわち、102.5dPa・sにおける温度が低い程、強化ガラスの製造コストを低廉化し易くなる。なお、102.5dPa・sにおける温度は、溶融温度に相当する。また、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加させたり、SiO、Alの含有量を低減すれば、102.5dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
【0073】
本発明の強化ガラスにおいて、液相温度は1200℃以下、1150℃以下、1100℃以下、1050以下、1000℃以下、950℃以下、900℃以下、特に880℃以下が好ましい。なお、液相温度が低い程、耐失透性や成形性が向上する。また、ガラス組成中のNaO、KO、Bの含有量を増加させたり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すれば、液相温度が低下し易くなる。
【0074】
本発明の強化ガラスにおいて、液相粘度は104.0dPa・s以上、104.4dPa・s以上、104.8dPa・s以上、105.0dPa・s以上、105.4dPa・s以上、105.6dPa・s以上、106.0dPa・s以上、106.2dPa・s以上、特に106.3dPa・s以上が好ましい。なお、液相粘度が高い程、耐失透性や成形性が向上する。また、ガラス組成中のNaO、KOの含有量を増加させたり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すれば、液相粘度が高くなり易い。
【0075】
本発明の強化ガラスにおいて、表面(端面を除く)の表面粗さRaは1nm以下、0.5nm以下、0.3nm以下、特に0.2nm以下が好ましい。表面の表面粗さRaが大き過ぎると、強化ガラスの外観品位が低下するだけでなく、機械的強度が低下する虞がある。
【0076】
本発明の強化ガラスにおいて、エッチングされた表面の表面粗さRaは1nm以下、0.5nm以下、0.3nm以下、特に0.2nm以下が好ましい。エッチングされた表面の表面粗さRaが大き過ぎると、強化ガラスの外観品位が低下するだけでなく、機械的強度が低下する虞がある。
【0077】
本発明の強化ガラスにおいて、(端面の表面粗さRa)/(エッチングされた表面の表面粗さRa)の値が1〜5000、1〜1000、1〜500、1〜300、1〜100、1〜50、特に1〜10が好ましい。この値が大き過ぎると、端面強度が低下する傾向がある。
【0078】
本発明の強化ガラス板は、本発明の強化ガラスからなることを特徴とする。よって、本発明の強化ガラス板の技術的特徴及び好適な範囲は、本発明の強化ガラスの技術的特徴と同様になる。ここでは、便宜上、その記載を省略する。
【0079】
本発明の強化ガラス板において、板厚は3.0mm以下、2.0mm以下、1.5mm以下、1.3mm以下、1.1mm以下、1.0mm以下、0.8mm以下、特に0.7mm以下が好ましい。一方、板厚が薄過ぎると、所望の機械的強度を得難くなる。よって、板厚は0.1mm以上、0.2mm以上、0.3mm以上、特に0.4mm以上が好ましい。
【0080】
本発明の強化用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 45〜75%、Al 3〜15%、LiO 0〜12%、NaO 0.3〜20%、KO 0〜10%、MgO+CaO 1〜15%を含有し、モル比(Al+NaO+P)/SiOが0.1〜1、モル比(B+NaO)/SiOが0.1〜1、モル比P/SiOが0〜1、モル比Al/SiOが0.01〜1、モル比NaO/Alが0.1〜5であると共に、表面の一部又は全部がエッチングされてなることを特徴とする。本発明の強化用ガラスの技術的特徴は、本発明の強化ガラス、強化ガラス板の技術的特徴と同様になる。ここでは、便宜上、その記載を省略する。
【0081】
本発明の強化用ガラスは、430℃のKNO溶融塩中でイオン交換処理した場合、表面の圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが10μm以上になることが好ましく、また表面の圧縮応力が600MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが40μm以上になることが好ましく、さらに表面の圧縮応力が800MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが60μm以上になることが好ましい。
【0082】
イオン交換処理の際、KNO溶融塩の温度は400〜550℃が好ましく、イオン交換時間は2〜10時間、特に4〜8時間が好ましい。このようにすれば、圧縮応力層を適正に形成し易くなる。なお、本発明の強化用ガラスは、上記のガラス組成を有するため、KNO溶融塩とNaNO溶融塩の混合物等を使用しなくても、圧縮応力層の圧縮応力値や厚みを大きくすることが可能になる。
【0083】
本発明の強化用ガラスにおいて、80℃、10質量%のHCl水溶液中で24時間浸漬させた時の質量減が0.05〜50g/cmであることが好ましい。この値が0.05g/cm未満になると、エッチングレートが低くなるため、所望の厚みまで薄肉化することが困難になり、結果として強化ガラスの生産性が低下し易くなる。一方、この値が50g/cmを超えると、HCl等の酸によるエッチングレートが高くなり過ぎて、所望の表面品位を得難くなる。なお、質量減の好適な下限範囲は0.1g/cm以上、特に0.2g/cm以上であり、また好適な上限範囲は45g/cm以下、20g/cm以下、10g/cm以下、5g/cm以下、2g/cm以下、特に1g/cm以下である。
【0084】
本発明の強化用ガラスにおいて、25℃、5質量%のHF水溶液中で10分間処理した時、エッチングされた表面の表面粗さRaが1nm以下、0.5nm以下、0.3nm以下、特に0.2nm以下になることが好ましい。エッチングされた表面の表面粗さRaが大き過ぎると、強化ガラスの外観品位が低下するだけでなく、機械的強度が低下する虞がある。
【0085】
本発明の強化用ガラスにおいて、25℃、5質量%のHF水溶液中で10分間浸漬させた時、(端面の表面粗さRa)/(エッチングされた表面の表面粗さRa)の値が1〜5000、1〜1000、1〜500、1〜300、1〜100、1〜50、特に1〜10になることが好ましい。この値が大き過ぎると、端面強度が低下する傾向がある。
【0086】
以下のようにして、本発明の強化用ガラス、強化ガラス、及び強化ガラス板を作製することができる。
【0087】
まず上記のガラス組成になるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入して、1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で板状等に成形し、徐冷することにより、板状等のガラスを作製することができる。
【0088】
板状に成形する方法として、フロート法を採用することが好ましい。フロート法は、安価で大量にガラス板を作製できると共に、大型のガラス板も容易に作製できる方法である。
【0089】
フロート法以外にも、種々の成形方法を採用することができる。例えば、オーバーフローダウンドロー法、ダウンドロー法(スロットダウン法、リドロー法等)、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を採用することができる。
【0090】
次に、成形後のガラスの表面の一部又は全部に対して、強化処理前にエッチングを行う。エッチングを行うと、研磨等を行わなくても、ガラスを薄肉化することができ、端面を同時にエッチングすれば、端面に存在するクラックを取り除くこともできる。エッチング液として、HF、HCl、HSO、HNO、NHF、NaOH、NHHFの群から選ばれる一種または二種以上、特にHCl、HF、HNOの群から選ばれる一種または二種以上を含むエッチング液を用いることが好ましい。エッチング液は、1〜20質量%、2〜10質量%、特に3〜8質量%のエッチング水溶液が好ましい。エッチング液の使用温度は、HFを用いる場合を除き、20〜50℃、20〜40℃、20〜30℃が好ましい。エッチングの時間は1〜20分、2〜15分、特に3〜10分が好ましい。
【0091】
次に、得られたガラスを強化処理することにより、強化ガラスを作製することができる。強化ガラスを所定寸法に切断する時期は、強化処理の前でもよいが、強化処理の後に行う方がコスト面から有利である。
【0092】
強化処理として、イオン交換処理が好ましい。イオン交換処理の条件は、特に限定されず、ガラスの粘度特性、用途、厚み、内部の引っ張り応力等を考慮して最適な条件を選択すればよい。例えば、イオン交換処理は、400〜550℃のKNO溶融塩中に、ガラスを1〜8時間浸漬することで行うことができる。特に、KNO溶融塩中のKイオンをガラス中のNa成分とイオン交換すると、ガラスの表面に圧縮応力層を効率良く形成することが可能になる。
【実施例1】
【0093】
以下、実施例に基づいて、本発明を説明する。なお、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0094】
表1〜3は、本発明の実施例(試料No.1〜21)を示している。なお、表中の「未」は、未測定を意味している。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
【表3】

【0098】
次のようにして表中の各試料を作製した。まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1580℃で8時間溶融した。その後、得られた溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して、板状に成形した。得られたガラス板について、種々の特性を評価した。
【0099】
密度ρは、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
【0100】
熱膨張係数αは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値である。
【0101】
歪点Ps、徐冷点Taは、ASTM C336の方法に基づいて測定した値である。
【0102】
軟化点Tsは、ASTM C338の方法に基づいて測定した値である。
【0103】
高温粘度104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0104】
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れた後、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。
【0105】
液相粘度log10ηTLは、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0106】
次のようにしてHCl水溶液による質量減を評価した。まず各試料を20mm×50mm×1mmの短冊状に加工した後、イソプロピルアルコールで表面を十分に洗浄した。次に、各試料を乾燥させた後、質量を測定した。また、10質量%のHCl水溶液を100ml調整し、これをテフロンボトル内に入れた後、温度を80℃に設定した。続いて、各試料を10質量%のHCl水溶液中で24時間浸漬させて、試料の表面全体(端面を含む)をエッチングした。最後に、エッチングした後の各試料の質量を測定した後、質量減を表面積で割ることにより単位面積当たりの質量減を算出した。
【0107】
表1〜3から明らかなように、試料No.1〜21は、密度が2.54g/cm以下、熱膨張係数が93〜110×10−7/℃であり、強化ガラスの素材、つまり強化用ガラスとして好適であった。また液相粘度が104.3dPa・s以上であるため、板状に成形可能であり、また104.0dPa・sにおける温度が1280℃以下であるため、成形設備の負担が軽く、しかも102.5dPa・sにおける温度が1612℃以下であるため、生産性が高く、安価に大量のガラス板を作製できるものと考えられる。なお、強化処理の前後で、ガラスの表層におけるガラス組成が微視的に異なるものの、ガラス全体として見た場合は、ガラス組成が実質的に相違しない。
【0108】
次に、各試料の両表面に光学研磨を施した後、440℃のKNO溶融塩中に6時間浸漬することにより、イオン交換処理を行った。イオン交換処理後に各試料の表面を洗浄した。続いて、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力層の圧縮応力値CSと厚みDOLを算出した。算出に当たり、各試料の屈折率を1.52、光学弾性定数を28[(nm/cm)/MPa]とした。
【0109】
表1〜3から明らかなように、試料No.1〜21は、KNO溶融塩でイオン交換処理を行ったところ、CSが741MPa以上、DOLが44μm以上であった。
【実施例2】
【0110】
試料No.21に記載のガラスについて、板厚が1.0mmとなるように、フロート法で板状に成形した。なお、ガラス板の表面(おもて面)の表面粗さRaは0.0002μmであり、裏面のRaは0.009μmであった。次に、ガラス板の表面が鏡面になるように、両表面(端面を除く)をそれぞれ研磨した。研磨後の表面の表面粗さRaは0.0002μmであった。研磨後のガラス板を50mm×100mmの寸法に切り出した後、その端面を#600のAlでラップ研磨した。ラップ研磨後のガラス板について、25℃、5質量%のHF水溶液中に10分間浸漬させた後、表面(端面を除く)の表面粗さRaと端面の表面粗さRaを測定した。参考のため、ラップ研磨後のガラス板について、25℃、5質量%のHF水溶液中で10分間浸漬させた後の表面の観察像と粗さプロファイルを図1、端面の観察像と粗さプロファイルを図2に示す。ここで、「表面粗さRa」は、SEMI D7−94「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法で測定した値である。
【0111】
測定の結果、両表面の表面粗さRaは0.0003μm、端面の表面粗さRaは0.77μm、(端面の表面粗さRa)/(表面の表面粗さRa)の値は2566であった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の強化ガラス及び強化ガラス板は、携帯電話、デジタルカメラ、PDA等のカバーガラス、或いはタッチパネルディスプレイ等のガラス基板として好適である。また、本発明の強化ガラス及び強化ガラス板は、これらの用途以外にも、高い機械的強度が要求される用途、例えば窓ガラス、磁気ディスク用基板、フラットパネルディスプレイ用基板、太陽電池用カバーガラス、固体撮像素子用カバーガラス、食器への応用が期待できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、モル%で、SiO 45〜75%、Al 3〜15%、LiO 0〜12%、NaO 0.3〜20%、KO 0〜10%、MgO+CaO 1〜15%を含有し、モル比(Al+NaO+P)/SiOが0.1〜1、モル比(B+NaO)/SiOが0.1〜1、モル比P/SiOが0〜1、モル比Al/SiOが0.01〜1、モル比NaO/Alが0.1〜5であると共に、強化処理前に表面の一部又は全部がエッチングされてなることを特徴とする強化ガラス。
【請求項2】
ガラス組成として、モル%で、SiO 45〜75%、Al 4〜13%、B 0〜3%、LiO 0〜8%、NaO 5〜20%、KO 0.1〜10%、MgO+CaO 3〜13%を含有し、モル比(Al+NaO+P)/SiOが0.1〜0.7、モル比(B+NaO)/SiOが0.1〜0.7、モル比P/SiOが0〜0.5、モル比Al/SiOが0.01〜0.7、モル比NaO/Alが0.5〜4であることを特徴とする請求項1に記載の強化ガラス。
【請求項3】
ガラス組成として、モル%で、SiO 45〜75%、Al 5〜12%、B 0〜1%、LiO 0〜4%、NaO 8〜20%、KO 0.5〜10%、MgO+CaO 5〜13%を含有し、モル比(Al+NaO+P)/SiOが0.1〜0.5、モル比(B+NaO)/SiOが0.1〜0.5、モル比P/SiOが0〜0.3、モル比Al/SiOが0.05〜0.5、モル比NaO/Alが1〜3であることを特徴とする請求項1又は2に記載の強化ガラス。
【請求項4】
ガラス組成として、モル%で、SiO 45〜75%、Al 5〜11%、B 0〜1%、LiO 0〜4%、NaO 9〜20%、KO 0.5〜8%、MgO 0〜12%、CaO 0〜3%、MgO+CaO 5〜12%を含有し、モル比(Al+NaO+P)/SiOが0.1〜0.5、モル比(B+NaO)/SiOが0.1〜0.3、モル比P/SiOが0〜0.2、モル比Al/SiOが0.05〜0.3、モル比NaO/Alが1〜3であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項5】
ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜70%、Al 5〜11%、B 0〜1%、LiO 0〜2%、NaO 10〜18%、KO 1〜6%、MgO 0〜12%、CaO 0〜2.5%、MgO+CaO 5〜12%を含有し、モル比(Al+NaO+P)/SiOが0.2〜0.5、モル比(B+NaO)/SiOが0.15〜0.27、モル比P/SiOが0〜0.1、モル比Al/SiOが0.07〜0.2、モル比NaO/Alが1〜2.3であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項6】
表面の一部又は全部がHF、HCl、HSO、HNO、NHF、NaOH、NHHFの群から選ばれる一種または二種以上を含むエッチング液によりエッチングされてなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項7】
エッチングされた表面の表面粗さRaが1nm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項8】
(端面の表面粗さRa)/(エッチングされた表面の表面粗さRa)の値が1〜5000であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項9】
圧縮応力層の圧縮応力値が200MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが10μm以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項10】
液相温度が1250℃以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項11】
液相粘度が104.0dPa・s以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項12】
104.0dPa・sにおける温度が1280℃以下であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項13】
102.5dPa・sにおける温度が1620℃以下であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項14】
密度が2.6g/cm以下であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の強化ガラスからなることを特徴とする強化ガラス板。
【請求項16】
フロート法で成形されてなることを特徴とする請求項15に記載の強化ガラス板。
【請求項17】
タッチパネルディスプレイに用いることを特徴とする請求項15又は16に記載の強化ガラス板。
【請求項18】
携帯電話のカバーガラスに用いることを特徴とする請求項15又は16に記載の強化ガラス板。
【請求項19】
太陽電池のカバーガラスに用いることを特徴とする請求項15又は16に記載の強化ガラス板。
【請求項20】
ディスプレイの保護部材に用いることを特徴とする請求項15又は16に記載の強化ガラス板。
【請求項21】
ガラス組成として、モル%で、SiO 45〜75%、Al 3〜15%、LiO 0〜12%、NaO 0〜20%、KO 0〜10%、MgO+CaO 1〜15%を含有し、モル比(Al+NaO+P)/SiOが0.1〜1、モル比(B+NaO)/SiOが0.1〜1、モル比P/SiOが0〜1、モル比Al/SiOが0.01〜1、モル比NaO/Alが0.1〜5であると共に、表面の一部又は全部がエッチングされてなることを特徴とする強化用ガラス。
【請求項22】
80℃、10質量%のHCl水溶液中で24時間浸漬させた時の質量減が0.05〜50g/cmであることを特徴とする請求項21に記載の強化用ガラス。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−148909(P2012−148909A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7415(P2011−7415)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】