説明

強化ガラス基板及びその製造方法

【課題】ガラスのイオン交換性能と耐失透性を両立させることによって、機械的強度の高いガラスを得ることを技術的課題とする。
【解決手段】本発明の強化ガラス基板は、表面に圧縮応力層を有する強化ガラス基板であって、ガラス組成として、質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜21%、LiO 0〜3.5%、NaO 7〜20%、KO 0〜3%を含有し、質量比KO/NaOが0〜0.2であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化ガラス基板に関するものであり、特に、携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)、太陽電池のカバーガラス、あるいはタッチパネルディスプレイ基板に好適な強化ガラス基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルカメラ、PDA、太陽電池、あるいはタッチパネルディスプレイといったデバイスは、広く使用されており、ますます普及する傾向にある。
【0003】
従来、これらの用途ではディスプレイを保護するための保護部材としてアクリル等の樹脂基板が用いられていた。しかしアクリル樹脂基板はヤング率が低いため、ペンや人の指などでディスプレイの表示面が押された場合にたわみやすく、樹脂基板が内部のディスプレイに接触して表示不良が発生することがあった。またアクリル樹脂基板は表面に傷がつきやすく、視認性が悪化しやすいという問題もあった。これらの問題を解決するひとつの方法は保護部材としてガラス基板を用いることである。保護部材として使用されるガラス基板(カバーガラス)には、(1)高い機械的強度を有すること、(2)低密度で軽量であること、(3)安価で多量に供給できること、(4)泡品位に優れること、(5)可視域において高い光透過率を有すること、(6)ペンや指等で表面を押した際にたわみにくいように高いヤング率を有すること、が要求される。特に(1)の要件を満たさない場合は、保護部材としての用を足さなくなるため、従来よりイオン交換等で強化したガラス基板(所謂、強化ガラス基板)が用いられている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−83045号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】泉谷徹朗等、「新しいガラスとその物性」、初版、株式会社経営システム研究所、1984年8月20日、p.451−498
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1には、ガラス組成中のAl含有量を増加させていくと、ガラスのイオン交換性能が向上し、ガラス基板の機械的強度を向上できることが記載されている。
【0007】
しかし、ガラス組成中のAl含有量を増加させていくと、ガラスの耐失透性が悪化し、成形中にガラスが失透しやすくなり、ガラス基板の製造効率、品位等が悪化する。またガラスの耐失透性が悪いと、ロール成形等の方法でしか成形できず、表面精度の高いガラス板を得ることができない。それ故、ガラス板の成形後、別途研磨工程を付加しなければならない。しかしながらガラス基板を研磨すると、ガラス基板の表面に微小な欠陥が発生しやすくなり、ガラス基板の機械的強度を維持し難くなる。
【0008】
このような事情から、ガラスのイオン交換性能と耐失透性を両立することが困難であり、ガラス基板の機械的強度を顕著に向上させることが困難となっていた。また、デバイスの軽量化を図るため、タッチパネルディスプレイ等のデバイスに用いられるガラス基板は、年々薄肉化されてきている。薄板のガラス基板は破損しやすいことから、ガラス基板の機械的強度を向上させる技術は益々重要となってきている。
【0009】
そこで、本発明は、ガラスのイオン交換性能と耐失透性を両立させることによって、機械的強度の高いガラス基板を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、種々の検討を行った結果、ガラス中のAl含有量やNaO含有量を適正な範囲に定めることで、高いイオン交換性能と、溶融性を確保できることを見いだし、本発明を提案するに至った。
【0011】
即ち、本発明の強化ガラス基板は、表面に圧縮応力層を有する強化ガラス基板であって、ガラス組成として、質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜21%、LiO 0〜3.5%、NaO 7〜20%、KO 0〜3%を含有し、質量比KO/NaOが0〜0.2であることを特徴とする。なお、特に断りのない限り、以下の説明において「%」は質量%を意味する。
【0012】
また本発明の強化ガラス基板は、質量比KO/NaOが0〜0.125であることが好ましい。
【0013】
また本発明の強化ガラス基板は、Asの含有量が0〜0.1%未満、Sb 0〜0.1%未満であることが好ましい。
【0014】
また本発明の強化ガラス基板は、化学的に強化されてなることが好ましい。
【0015】
また本発明の強化ガラス基板は、表面の圧縮応力が300MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが10μm以上であって、ガラス基板内部の引っ張り応力が200MPa以下であることが好ましい。ここで、「表面の圧縮応力」および「圧縮応力層の厚み」は、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて試料を観察した際に、観察される干渉縞の本数とその間隔から算出される。またガラス基板内部の引っ張り応力は次式によって計算される。
【0016】
ガラス基板内部の引っ張り応力=(圧縮応力値×応力深さ)/(板厚−応力深さ×2)
【0017】
なお、本発明の強化ガラス基板は、未研磨の表面を有することが好ましい。ここで「未研磨の表面」とはガラス基板の両面(いわゆる表面と裏面)が研磨されていないことを意味する。言い換えれば両面が火造り面であるということを意味し、これによって平均表面粗さ(Ra)を小さくすることが可能となる。平均表面粗さ(Ra)は、SEMI D7−97「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定され、10Å以下、好ましくは5Å以下、より好ましくは2Å以下にすべきである。なおガラス基板の端面部については、面取り等の研磨処理やエッチング処理がなされていてもよい。
【0018】
また本発明の強化ガラス基板は、液相温度が1200℃以下であることが好ましい。ここで、「液相温度」とは、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
【0019】
また本発明の強化ガラス基板は、液相粘度が104.0dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相粘度」とは、液相温度におけるガラスの粘度を指す。なお、液相粘度が高く、液相温度が低いほど、ガラスの耐失透性が向上し、ガラス基板が成形しやすくなる。
【0020】
また本発明の強化ガラス基板は、ディスプレイのカバーガラスとして用いられることが好ましい。
【0021】
また本発明の強化ガラス基板は、太陽電池のカバーガラスとして用いられることが好ましい。
【0022】
また本発明の強化用ガラスは、質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜21%、LiO 0〜3.5%、NaO 7〜20%、KO 0〜3%を含有し、質量比KO/NaOが0〜0.2であることを特徴とする。
【0023】
また本発明の強化ガラス基板の製造方法は、質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜21%、LiO 0〜3.5%、NaO 7〜20%、KO 0〜3%を含有し、質量比KO/NaOが0〜0.2であるガラス組成となるように調合したガラス原料を溶融し、板状に成形した後、イオン交換処理を行ってガラス表面に圧縮応力層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の強化ガラス基板は、イオン交換性能の高いガラスにて作製される。また耐失透性に優れるガラスにて作製されるため、オーバーフローダウンドロー法等を採用することによって、表面粗さの小さいガラス基板を得ることが可能である。それゆえ成形後の研磨が不要であり、研磨により生じる微小欠陥がない。よって機械的強度が高く、しかも研磨による製造コストの増加がないため、安価に生産することが可能である。
【0025】
本発明の強化ガラス基板は、携帯電話、デジタルカメラ、PDA、太陽電池のカバーガラス、タッチパネルディスプレイ基板として好適である。尚、タッチパネルディスプレイは、携帯電話、デジタルカメラ、PDA等に搭載されるものであり、モバイル用途のタッチパネルディスプレイでは、軽量化、薄型化、高強度化の要請が強く、薄型で機械的強度が高いガラス基板が要求されている。その点、本発明の強化ガラス基板は、板厚を薄くしても、実用上、十分な機械的強度を有するため、モバイル用途に好適である。
【0026】
また本発明の強化用ガラスは、耐失透性に優れるため、オーバーフローダウンドロー法等で成形可能である。そのため本発明の強化用ガラスを用いれば、表面粗さが小さく、機械的強度の高いガラス基板を安価に生産することが可能である。
【0027】
また本発明の強化ガラスの製造方法は、イオン交換性能が高く、且つ耐失透性に優れるガラスを用いるものであるため、機械的強度が高い強化ガラス基板を安価に作製可能である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の強化ガラス基板は、その表面に圧縮応力層を有する。ガラス基板の表面に圧縮応力層を形成する方法には、物理強化法と化学強化法がある。本発明の強化ガラス基板は、化学強化法で圧縮応力層を形成することが好ましい。化学強化法は、ガラスの歪点以下の温度でイオン交換によりガラス基板の表面にイオン半径の大きいアルカリイオンを導入する方法である。化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、ガラス基板の板厚が薄くても、良好に強化処理を施すことができ、所望の機械的強度を得ることができる。さらに、ガラス基板に圧縮応力層を形成した後にガラス基板を切断しても、風冷強化法等の物理強化法で強化されたガラス基板のように容易に破壊することがない。
【0029】
イオン交換の条件は、特に限定されず、ガラスの粘度特性等を考慮して決定すればよい。特に、KNO溶融塩中のKイオンをガラス基板中のNa成分とイオン交換すると、ガラス基板の表面に圧縮応力層を効率良く形成できるため好ましい。
【0030】
本発明の強化ガラス基板において、ガラス組成を上記範囲に限定した理由を以下に説明する。
【0031】
SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は40〜70%、好ましくは40〜63%、45〜63%、50〜59%、特に55〜58.5%である。SiOの含有量が多くなり過ぎると、ガラスの溶融、成形が難しくなったり、熱膨張係数が小さくなり過ぎて、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。一方、SiOの含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなる。またガラスの熱膨張係数が大きくなり、ガラスの耐熱衝撃性が低下しやすくなる。
【0032】
Alはイオン交換性能を高める成分である。またガラスの歪点およびヤング率を高くする効果もあり、その含有量は12〜21%である。Alの含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出しやすくなってオーバーフローダウンドロー法等による成形が困難になる。またガラスの熱膨張係数が小さくなり過ぎて周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなったり、ガラスの高温粘性が高くなり溶融し難くなる。Alの含有量が少な過ぎると、十分なイオン交換性能を発揮できない虞が生じる。上記観点から、Alの好適な範囲は上限が20%以下、19%以下、18%以下、17%以下、16.5%以下であることがより好ましい。また下限は、13%以上、14%以上であることがより好ましい。
【0033】
LiOは、イオン交換成分であるとともに、ガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を向上させる成分である。さらにLiOは、ガラスのヤング率を向上させる成分である。またLiOはアルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を高める効果が高い。しかしLiOの含有量が多くなり過ぎると液相粘度が低下してガラスが失透しやすくなる。またガラスの熱膨張係数が大きくなり過ぎて、ガラスの耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなったりする。さらに、低温粘性が低下しすぎて応力緩和が起こりやすくなると、かえって圧縮応力値が低くなる場合がある。従ってLiOの含有量は0〜3.5%であり、さらに0〜2%、0〜1%、0〜0.5%、0〜0.1%であることが好ましく、実質的に含有しないこと、つまり0.01%未満に抑えることが最も好ましい。
【0034】
NaOは、イオン交換成分であるとともに、ガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を向上させる成分である。また、NaOは、ガラスの耐失透性を改善する成分でもある。NaOの含有量は7〜20%であるが、より好適な含有量は、10〜20%、10〜19%、12〜19%、12〜17%、13〜17%、特に14〜17%である。NaOの含有量が多くなり過ぎると、ガラスの熱膨張係数が大きくなり過ぎて、ガラスの耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また歪点が低下しすぎたり、ガラス組成のバランスを欠き、かえってガラスの耐失透性が悪化する傾向がある。一方、NaOの含有量が少ないと、溶融性が悪化したり、熱膨張係数が小さくなりすぎたり、イオン交換性能が悪化する。
【0035】
Oは、イオン交換を促進する効果があり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層の深さを深くする効果が高い。またガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高めたりする効果のある成分である。また、KOは、耐失透性を改善する成分でもある。KOの含有量は0〜3%である。KOの含有量が多過ぎると、ガラスの熱膨張係数が大きくなり、ガラスの耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。さらに歪点が低下しすぎたり、ガラス組成のバランスを欠き、かえってガラスの耐失透性が悪化する傾向があるため、上限を2%以下とすることが好ましい。
【0036】
アルカリ金属酸化物RO(RはLi、Na、Kから選ばれる1種以上)の合量が多くなり過ぎると、ガラスが失透しやすくなることに加えて、ガラスの熱膨張係数が大きくなり過ぎて、ガラスの耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また、アルカリ金属酸化物ROの合量が多くなり過ぎると、ガラスの歪点が低下し過ぎて、高い圧縮応力値が得られない場合がある。さらに液相温度付近の粘性が低下し、高い液相粘度を確保することが困難となる場合がある。それ故、ROの合量は22%以下、20%以下、特に19%以下であることが好ましい。一方、ROの合量が少な過ぎると、ガラスのイオン交換性能や溶融性が悪化する場合がある。それ故、ROの合量は8%以上、10%以上、13%以上、特に15%以上であることが好ましい。
【0037】
また(NaO+KO)/Alの値を0.7〜2、好ましくは0.8〜1.6、より好ましくは0.9〜1.6、更に好ましくは1〜1.6、もっとも好ましくは1.2〜1.6の範囲に設定することが望ましい。この値が2より大きくなると、低温粘性が低下しすぎてイオン交換性能が低下したり、ヤング率が低下したり、熱膨張係数が高くなり耐熱衝撃性が低下しやすくなる。また組成のバランスを欠いて、失透しやすくなる。一方、0.7より小さくなると、溶融性や失透性が悪化しやすくなる。
【0038】
またKO/NaOの質量比の範囲は、0〜0.2である。KO/NaOの質量比を変化させることで圧縮応力値の大きさと応力層の深さを変化させることが可能である。圧縮応力値を高く設定したい場合には、上記質量比が、0〜0.2となるように調整する。
【0039】
本発明の強化ガラス基板においては、ガラス組成として、上記の基本成分のみから構成されてもよいが、ガラスの特性を大きく損なわない範囲で他の成分を添加することもできる。
【0040】
例えばアルカリ土類金属酸化物R’O(R’はMg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種以上)は、種々の目的で添加可能な成分である。しかし、アルカリ土類金属酸化物R’Oが多くなると、ガラスの密度や熱膨張係数が高くなったり、耐失透性が悪化したりすることに加えて、イオン交換性能が悪化する傾向がある。したがってアルカリ土類金属酸化物R’Oの合量は、好ましくは0〜9.9%、0〜8%、0〜6、0〜5%とすべきである。
【0041】
MgOは、ガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を向上させる効果が高い。MgOの含有量は0〜6%が好ましい。しかし、MgOの含有量が多くなると、ガラスの密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透しやすくなる。したがって、その含有量は、4%以下、3%以下、2%以下、1.5%以下が好ましい。
【0042】
CaOは、ガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を向上させる効果が高い。CaOの含有量は0〜6%が好ましい。しかし、CaOの含有量が多くなると、ガラスの密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透しやすくなったり、更にはイオン交換性能が悪化する場合がある。したがって、その含有量は、4%以下、3%以下が好ましい。
【0043】
SrO及びBaOは、ガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を向上させたり、歪点やヤング率を高める成分であり、その含有量は各々0〜3%であることが好ましい。SrOやBaOの含有量が多くなると、イオン交換性能が悪化する傾向がある。またガラスの密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透しやすくなる。SrOの含有量は、2%以下、1.5%以下、1%以下、0.5%以下、0.2%以下、特に0.1%以下であることが好ましい。またBaOの含有量は、2.5%以下、2%以下、1%以下、0.8%以下、0.5%以下、0.2%以下、特に0.1%以下であることが好ましい。
【0044】
またZnOは、ガラスのイオン交換性能を高める成分であり、特に、圧縮応力値を高くする効果が大きい。またガラスの低温粘性を低下させずに高温粘性を低下させる効果を有する成分であり、その含有量を0〜8%とすることができる。しかし、ZnOの含有量が多くなると、ガラスが分相したり、失透性が悪化したり、密度が高くなるため、その含有量は6%以下、4%以下、特に3%以下であることが好ましい。
【0045】
本発明においては、SrO+BaOの合量を0〜5%に制限することによって、より効果的にイオン交換性能を向上させることができる。つまりSrOとBaOは、上述の通り、イオン交換反応を阻害する作用があるため、これらの成分を多く含むことは、機械的強度の高い強化ガラスを得る上で不利である。SrO+BaOの好ましい範囲は0〜3%、0〜2.5%、0〜2%、0〜1%、0〜0.2%、特に0〜0.1%である。
【0046】
またR’Oの合量をROの合量で除した値が大きくなると、ガラスの耐失透性が悪化する傾向が現れる。それ故、質量分率でR’O/ROの値を0.5以下、0.4以下、0.3以下に規制することが好ましい。
【0047】
またSnOはイオン交換性能、特に圧縮応力値を向上させる効果があるため、その含有量は0.01〜3%である。また、0.01〜1.5%、0.1〜1%含有することが好ましい。SnOの含有量が多くなるとSnOに起因する失透が発生したり、ガラスが着色しやすくなる傾向がある。
【0048】
またZrOはイオン交換性能を顕著に向上させると共にガラスのヤング率や歪点を高くし、高温粘性を低下させる効果がある。またガラスの液相粘度付近の粘性を高める効果があるため、所定量含有させることで、イオン交換性能と液相粘度を同時に向上させることができる。ただし、その含有量が多くなりすぎると、耐失透性が極端に悪化する場合がある。そのため、0.001〜10%、0.1〜9%、0.5〜7%、1〜5%、2.5〜5%含有させることが好ましい。
【0049】
またBは、ガラスの液相温度、高温粘度および密度を低下させる効果を有するとともに、ガラスのイオン交換性能、特に圧縮応力値を向上させる効果のある成分であるため、上記成分と共に含有できるが、その含有量が多過ぎると、イオン交換によって表面にヤケが発生したり、ガラスの耐水性が悪化したり、液相粘度が低下する虞がある。また応力深さが低下する傾向にある。よってBは、0〜6%、0〜4%、さらには0〜3%が好ましい。
【0050】
またTiOはイオン交換性能を向上させる効果がある成分である。またガラスの高温粘度を低下させる効果がある。しかしその含有量が多くなりすぎると、ガラスが着色したり、失透性が悪化したり、密度が高くなる。特にディスプレイのカバーガラスとして使用する場合、TiOの含有量が高くなると、溶融雰囲気や原料を変更した時、ガラスの透過率が変化しやすくなる。そのため紫外線硬化樹脂等の光を利用してガラス基板をデバイスに接着する工程において、紫外線照射条件が変動しやすくなり、安定生産が困難となる。そのため10%以下、8%以下、6%以下、5%以下、4%以下、2%以下、0.7%以下、0.5%以下、0.1%以下、0.01%以下となるようにすることが好ましい。
【0051】
本発明においては、イオン交換性能向上の観点から、ZrOとTiOを上記範囲で含有させることが好ましいが、TiO源、ZrO源として試薬を用いても良いし原料等に含まれる不純物から含有させても良い。
【0052】
また耐失透性と高いイオン交換性能を両立する観点から、Al+ZrOの含有量を以下のように定めることが好ましい。
【0053】
Al+ZrOの含有量は12%超(好ましくは12.001%以上、13%以上、15%以上、17%以上、18%以上、19%以上)であればガラスのイオン交換性能をより効果的に向上させることが可能であり、好ましい。しかしAl+ZrOの含有量が多くなりすぎると失透性が極端に悪化するため、28%以下(好ましくは25%以下、23%以下、22%以下、21%以下)とすることが好ましい。
【0054】
またPは、ガラスのイオン交換性能を高める成分であり、特に、圧縮応力層の厚みを大きくする効果が大きいため、その含有量を0〜8%とすることができる。しかし、Pの含有量が多くなると、ガラスが分相したり、耐水性や耐失透性が低下しやすくするため、その含有量は5%以下、4%以下、3%以下、特に2%以下であることが好ましい。
【0055】
また清澄剤としてAs、Sb、CeO、F、SO、Clの群から選択された一種または二種以上を0.001〜3%含有させてもよい。ただし、As及びSbは環境に対する配慮から、使用は極力控えることが好ましく、各々の含有量を0.1%未満、さらには0.01%未満に制限することが好ましく、実質的に含有しないことが望ましい。またCeOは、ガラスの透過率を低下させる成分であるため、0.1%未満、好ましくは0.01%未満に制限することが好ましい。またFは、ガラスの低温粘性を低下させ、圧縮応力値の低下を招くおそれがあるため、0.1%未満、好ましくは0.01%未満に制限することが好ましい。従って本発明において好ましい清澄剤は、SOとClであり、SOとClの1者又は両者を、0.001〜3%、0.001〜1%、0.01〜0.5%、さらには0.05〜0.4%含有させることが好ましい。
【0056】
またNbやLa等の希土類酸化物は、ガラスのヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に含有させると耐失透性が悪化する。それ故、それらの含有量は、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下に制限することが望ましい。
【0057】
尚、本発明において、Co、Ni等のガラスを強く着色するような遷移金属元素は、ガラス基板の透過率を低下させるため好ましくない。特に、タッチパネルディスプレイ用途に用いる場合、遷移金属元素の含有量が多いと、タッチパネルディスプレイの視認性が損なわれる。具体的には0.5%以下、0.1%以下、特に0.05%以下となるよう、原料あるいはカレットの使用量を調整することが望ましい。
【0058】
また、Pb、Bi等の物質は環境に対する配慮から、使用は極力控えるべきであり、その含有量を0.1%未満に制限することが好ましい。
【0059】
本発明の強化ガラス基板は、各成分の好適な含有範囲を適宜選択し、好ましいガラス組成範囲とすることができる。その具体例を以下に示す。
【0060】
(1)質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜21%、LiO 0〜2%、NaO 10〜19%、KO 0〜3%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 0〜8%、SnO 0.01〜3%を含有し、質量比KO/NaOが0〜0.2であるガラス組成。
【0061】
(2)質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜21%、LiO 0〜2%、NaO 10〜19%、KO 0〜3%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 0〜8%、SnO 0.01〜3%、ZrO 0.001〜10%を含有し、質量比KO/NaOが0〜0.2であるガラス組成。
【0062】
(3)質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜21%、LiO 0〜1%、NaO 10〜19%、KO 0〜3%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 0〜8%、SnO 0.01〜3%を含有し、質量比KO/NaOが0〜0.2であるガラス組成。
【0063】
(4)質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜21%、LiO 0〜1%、NaO 10〜19%、KO 0〜3%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 0〜8%、SnO 0.01〜3%を含有し、質量比KO/NaOが0〜0.2であるガラス組成。
【0064】
(5)質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜19%、B 0〜6%、LiO 0〜2%、NaO 10〜19%、KO 0〜3%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 0〜6%、SnO 0.1〜1%を含有し、実質的にAs及びSbを含有せず、質量比KO/NaOが0〜0.2であるガラス組成。
【0065】
(6)質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜18%、B 0〜4%、LiO 0〜2%、NaO 11〜17%、KO 0〜3%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 0〜6%、SnO 0.1〜1%を含有し、実質的にAs及びSbを含有せず、質量比KO/NaOが0〜0.2であるガラス組成。
【0066】
(7)質量%でSiO 40〜63%、Al 12〜17.5%、B 0〜3%、LiO 0〜0.1%、NaO 10〜17%、KO 0〜3%、MgO 0〜5%、CaO 0〜4%、SrO+BaO 0〜3%、SnO 0.01〜2%であり、実質的にAs及びSbを含有せず、質量比(NaO+KO)/Alの値が0.9〜1.6、質量比KO/NaO 0〜0.2であるガラス組成。
【0067】
(8)質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜21%、LiO 0〜2%、NaO 10〜20%、KO 0〜3%、MgO 0〜5%、TiO 0〜0.5%、SnO 0.001〜3%を含有し、質量比KO/NaOが0〜0.2であるガラス組成。
【0068】
(9)質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜21%、LiO 0〜2%、NaO 10〜20%、KO 0〜3%、MgO 0〜5%、TiO 0〜0.5%、SnO 0.001〜3%を含有し、実質的にAs及びSbを含有せず、質量比KO/NaOが0〜0.2であることを特徴とするガラス組成。
【0069】
(10)質量%でSiO 40〜65%、Al 12〜21%、LiO 0〜1%、NaO 10〜20%、KO 0〜3%、MgO 0〜5%、TiO 0〜0.5%、SnO 0.001〜3%を含有し、質量比(NaO+KO)/Alの値が0.7〜2、質量比KO/NaOが0〜0.2であって、実質的にAs、Sb及びFを含有しないガラス組成。
【0070】
(11)質量%でSiO 40〜65%、Al 12〜21%、LiO 0〜1%、NaO 10〜20%、KO 0〜3%、MgO 0〜5%、TiO 0〜0.5%、SnO 0.01〜3%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜8%を含有し、質量比(NaO+KO)/Alの値が0.9〜1.7、質量比KO/NaOが0〜0.2であって、実質的にAs、Sb及びFを含有しないガラス組成。
【0071】
(12)質量%でSiO 40〜63%、Al 12〜19%、B 0〜3%、LiO 0〜1%、NaO 10〜20%、KO 0〜3%、MgO 0〜5%、TiO 0〜0.1%、SnO 0.01〜3%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜8%を含有し、質量比(NaO+KO)/Alの値が1.2〜1.6、質量比KO/NaOが0〜0.2であって、実質的にAs、Sb及びFを含有しないガラス組成。
【0072】
(13)質量%でSiO 40〜63%、Al 12〜17.5%、B 0〜3%、LiO 0〜1%、NaO 10〜20%、KO 0〜3%、MgO 0〜5%、TiO 0〜0.1%、SnO 0.01〜3%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜8%を含有し、質量比(NaO+KO)/Alの値が1.2〜1.6、質量比KO/NaOが0〜0.2であって、実質的にAs、Sb及びFを含有しないガラス組成。
【0073】
(14)質量%でSiO 40〜59%、Al 12〜15%、B 0〜3%、LiO 0〜0.1%、NaO 10〜20%、KO 0〜3%、MgO 0〜5%、TiO 0〜0.1%、SnO 0.01〜3%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜8%を含有し、質量比(NaO+KO)/Alの値が1.2〜1.6、質量比KO/NaOが0〜0.2であって、実質的にAs、Sb及びFを含有しないガラス組成。
【0074】
本発明の強化ガラス基板は、上記ガラス組成を有するとともに、ガラス表面に圧縮応力層を有している。圧縮応力層の圧縮応力は、300MPa以上が好ましく、600MPa以上がより好ましく、800MPa以上がより好ましく、1000MPa以上がより好ましく、1200MPa以上が更に好ましく、1300MPa以上が更に好ましい。圧縮応力が大きくなるにつれて、ガラス基板の機械的強度が高くなる。一方、ガラス基板表面に極端に大きな圧縮応力が形成されると、基板表面にマイクロクラックが発生し、かえってガラスの強度が低下する虞がある。また、ガラス基板に内在する引っ張り応力が極端に高くなる恐れがあるため、2500MPa以下とするのが好ましい。なお圧縮応力を大きくするには、Al、TiO、ZrO、MgO、ZnO、SnOの含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すればよい。またイオン交換に要する時間を短くしたり、イオン交換溶液の温度を下げればよい。
【0075】
圧縮応力層の厚みは、10μm以上、15μm以上、20μm以上、30μm以上とするのが好ましい。圧縮応力層の厚みが大きい程、ガラス基板に深い傷がついても、ガラス基板が割れにくくなる。一方、ガラス基板が切断しにくくなったり、内部の引っ張り応力が極端に高くなって破損する虞れがあるため、圧縮応力層の厚みは500μm以下、100μm以下、80μm以下、60μm以下とするのが好ましい。なお圧縮応力層の厚みを大きくするには、KO、P、TiO、ZrOの含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すればよい。またイオン交換に要する時間を長くしたり、イオン交換溶液の温度を高めればよい。
【0076】
またガラス基板内部の引っ張り応力は、200MPa以下(好ましくは150MPa以下、より好ましくは100MPa以下、更に好ましくは50MPa以下)が望ましい。この値が小さくなるほどガラス基板内部の欠陥によってガラスが破損にいたる恐れが少なくなるが、極端に小さくなると、ガラス基板表面の圧縮応力値の低下や、応力深さが低下するため、1MPa以上、10MPa以上、15MPa以上であることが好ましい。
【0077】
本発明の強化ガラス基板は、板厚が3.0mm、1.5mm以下、0.7mm以下、0.5mm以下、特に0.3mm以下であることが好ましい。ガラス基板の板厚が薄い程、ガラス基板を軽量化することできる。また、本発明の強化ガラス基板は、板厚を薄くしても、ガラス基板が破壊しにくい利点を有している。なおガラスの成形をオーバーフローダウンドロー法で行う場合、ガラスの薄肉化や平滑化を、研磨することなく達成できるため有利である。
【0078】
本発明の強化ガラス基板は、未研磨の表面を有することが好ましく、未研磨の表面の平均表面粗さ(Ra)は好ましくは10Å以下、より好ましくは5Å以下、より好ましくは4Å以下、さらに好ましくは3Å以下、最も好ましくは2Å以下である。尚、表面の平均表面粗さ(Ra)はSEMI D7−97「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定すればよい。ガラスの理論強度は本来非常に高いが、理論強度よりも遥かに低い応力でも破壊に至ることが多い。これはガラス基板の表面にグリフィスフローと呼ばれる小さな欠陥がガラスの成形後の工程、例えば研磨工程等で生じるからである。それ故、強化ガラス基板の表面を未研磨とすれば、本来のガラス基板の機械的強度が損なわれ、ガラス基板が破壊し難くなる。また、ガラス基板の表面を未研磨とすれば、ガラス基板の製造工程で研磨工程を省略できるため、ガラス基板の製造コストを下げることができる。本発明の強化ガラス基板において、ガラス基板の両面全体を未研磨とすれば、ガラス基板が更に破壊し難くなる。また、本発明の強化ガラス基板において、ガラス基板の切断面から破壊に至る事態を防止するため、ガラス基板の切断面に面取り加工やエッチング処理等を行ってもよい。なお、未研磨の表面を得るためには、ガラスの成形をオーバーフローダウンドロー法で行えばよい。
【0079】
本発明の強化ガラス基板は、ガラスの液相温度が1200℃以下、1050℃以下、1030℃以下、1010以下、1000℃以下、950℃以下、900℃以下であることが好ましく、870℃以下が特に好ましい。液相温度を低下させるには、NaO、KO、Bの含有量を増加したり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すればよい。
【0080】
本発明の強化ガラス基板は、ガラスの液相粘度が、104.0dPa・s以上、104.3dPa・s以上、104.5dPa・s以上、105.0dPa・s以上、105.4dPa・s以上、105.8dPa.s以上、106.0dPa・s以上、106.2dPa・s以上が好ましい。液相粘度を上昇させるには、NaO、KOの含有量を増加したり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すればよい。
【0081】
尚、液相粘度が高く、液相温度が低いほど、ガラスの耐失透性は優れるとともに、ガラス基板の成形性に優れている。そしてガラスの液相温度が1200℃以下で、ガラスの液相粘度は、104.0dPa・s以上であれば、オーバーフローダウンドロー法で成形可能である。
【0082】
本発明の強化ガラス基板は、ガラスの密度が2.8g/cm以下であることが好ましく、2.7g/cm以下がより好ましく、2.6g/cm以下が更に好ましい。ガラスの密度が小さい程、ガラス基板の軽量化を図ることができる。ここで、「密度」とは、周知のアルキメデス法で測定した値を指す。尚、ガラスの密度を低下させるには、SiO、P、Bの含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO、TiOの含有量を低減すればよい。
【0083】
本発明の強化ガラス基板は、30〜380℃の温度範囲におけるガラスの熱膨張係数が70〜110×10−7/℃であることが好ましく、75〜110×10−7/℃であることがより好ましく、80〜110×10−7/℃であることが更に好ましく、85〜110×10−7/℃であることが特に好ましい。ガラスの熱膨張係数を上記範囲とすれば、金属、有機系接着剤等の部材と熱膨張係数が整合しやすくなり、金属、有機系接着剤等の部材の剥離を防止することができる。ここで、「熱膨張係数」とは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値を指す。なお熱膨張係数を上昇させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加さればよく、逆に低下させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すればよい。
【0084】
本発明の強化ガラス基板は、歪点が500℃以上であることが好ましく、540℃以上がより好ましく、550℃以上がさらに好ましく、560℃以上が最も好ましい。ガラスの歪点が高いほどガラスの耐熱性が優れることなり、強化ガラス基板に熱処理を施したとしても、強化層が消失しがたくなる。またガラスの歪点が高いとイオン交換中に応力緩和が起こりにくくなるため高い圧縮応力値を得ることが可能になる。ガラスの歪点を高くするためにはアルカリ金属酸化物の含有量を低減させたり、アルカリ土類金属酸化物、Al、ZrO、Pの含有量を増加させればよい。
【0085】
本発明の強化ガラス基板は、ガラスの高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が1650℃以下、1500℃以下、1450℃以下、1430℃以下、1420℃以下、1400℃以下であることが好ましい。ガラスの高温粘度102.5dPa・sに相当する温度は、ガラスの溶融温度に相当しており、ガラスの高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が低いほど、低温でガラスを溶融することができる。従ってガラスの高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が低い程、溶融窯等のガラスの製造設備への負担が小さくなる共に、ガラス基板の泡品位を向上させることができる。そのためガラスの高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が低い程、ガラス基板を安価に製造することができる。なお102.5dPa・sに相当する温度を低下させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加させたり、SiO、Alの含有量を低減すればよい。
【0086】
本発明の強化ガラス基板は、ヤング率が70GPa以上、好ましくは73GPa以上、より好ましくは75GPa以上が望ましい。そのためディスプレイのカバーガラスとして使用する場合、ヤング率が高いほど、カバーガラスの表面をペンや指で押した際の変形量が小さくなるため、内部のディスプレイに与えるダメージが低減する。
【0087】
また本発明の強化用ガラスは、質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜21%、LiO 0〜3.5%、NaO 7〜20%、KO 0〜3%を含有し、質量比KO/NaOが0〜0.2であることを特徴とし、好ましくは質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜21%、LiO 0〜2%、NaO 10〜19%、KO 0〜3%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 0〜8%、SnO 0.01〜3%を含有し、質量比KO/NaOが0〜0.2であることを特徴とし、より好ましくは質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜21%、LiO 0〜1%、NaO 10〜19%、KO 0〜3%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 0〜8%、SnO 0.01〜3%を含有し、質量比KO/NaOが0〜0.2であることを特徴とする。本発明の強化用ガラスにおいて、ガラス組成を上記範囲に限定した理由および好ましい範囲は、既述の強化ガラス基板と同様であるため、ここではその記載を省略する。さらに、本発明の強化用ガラスは、当然のことながら、既述の強化ガラス基板の特性、効果を併有することができる。
【0088】
本発明の強化用ガラスは、各構成成分を上記範囲に規制しているため、イオン交換性能が良好であり、容易に表面の圧縮応力を600MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みを10μm以上とすることができる。
【0089】
本発明に係るガラスは、上記組成範囲内のガラス組成となるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造することができる。
【0090】
ガラスを板状に成形するには、オーバーフローダウンドロー法を採用することが好ましい。オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形すれば、未研磨で表面品位が良好なガラス基板を製造することができる。その理由は、オーバーフローダウンドロー法の場合、ガラス基板の表面となるべき面は桶状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されることにより、無研磨で表面品位が良好なガラス基板を成形できるからである。ここで、オーバーフローダウンドロー法は、溶融状態のガラスを耐熱性の桶状構造物の両側から溢れさせて、溢れた溶融ガラスを桶状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス基板を製造する方法である。桶状構造物の構造や材質は、ガラス基板の寸法や表面精度を所望の状態とし、ガラス基板に使用できる品位を実現できるものであれば、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行うためにガラス基板に対してどのような方法で力を印加するものであってもよい。例えば、充分に大きい幅を有する耐熱性ロールをガラス基板に接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用してもよいし、複数の対になった耐熱性ロールをガラス基板の端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。本発明の強化用ガラスは、耐失透性が優れるとともに、成形に適した粘度特性を有しているため、オーバーフローダウンドロー法による成形を精度よく実行することができる。なお、液相温度が1200℃以下、液相粘度が104.0dPa・s以上であれば、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を製造することができる。
【0091】
尚、本発明では、高い表面品位が要求されない場合には、オーバーフローダウンドロー法以外の方法を採用することができる。例えば、ダウンドロー法(スロットダウン法、リドロー法等)、フロート法、ロールアウト法、プレス法等の様々な成形方法を採用することができる。例えばプレス法でガラスを成形すれば、小型のガラス基板を効率良く製造することができる。
【0092】
本発明の強化ガラス基板を製造するには、まず上記ガラスを用意する。次いで強化処理を施す。ガラス基板を所定サイズに切断するのは、強化処理の前でもよいが、強化処理後に行う方が製造コストを低減できるため好ましい。強化処理は、イオン交換処理にて行うことが望ましい。イオン交換処理は、例えば400〜550℃の硝酸カリウム溶液中にガラス板を1〜8時間浸漬することによって行うことができる。イオン交換条件は、ガラスの粘度特性や、用途、板厚、ガラス内部の引っ張り応力等を考慮して最適な条件を選択すればよい。
【実施例】
【0093】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0094】
表1〜4は、ガラス組成と特性を示すものである。尚、表中の「未」の表示は、未測定を意味している。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
【表3】

【0098】
【表4】

【0099】
表1〜4の各試料は次のようにして作製した。まず、表中のガラス組成となるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1580℃で8時間溶融した。その後、溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して板状に成形した。得られたガラス基板について、種々の特性を評価した。
【0100】
密度は、周知のアルキメデス法によって測定した。
【0101】
歪点Ps、徐冷点Taは、ASTM C336の方法に基づいて測定した。
【0102】
軟化点Tsは、ASTM C338の方法に基づいて測定を行った。
【0103】
ガラスの粘度104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・sに相当する温度は、白金球引き上げ法で測定した。
【0104】
ヤング率は、曲げ共振法により測定した。
【0105】
熱膨張係数αは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した。
【0106】
液相温度TLは、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定したものである。
【0107】
液相粘度logηTLは、液相温度における各ガラスの粘度を示す。
【0108】
その結果、得られたガラス基板は、密度が2.59g/cm以下、熱膨張係数が83〜100×10−7/℃、強化ガラス素材として好適であった。また液相粘度が105.1dPa・s以上と高くオーバーフローダウンドロー成形が可能であり、しかも102.5dPa・sにおける温度が1612℃以下と低いので、生産性が高く安価に大量のガラス基板を供給できるものと考えられる。なお、未強化ガラス基板と強化ガラス基板は、ガラス基板の表層において微視的にガラス組成が異なっているものの、ガラス基板全体としてガラス組成が実質的に相違していない。したがって、密度、粘度などの特性値については未強化ガラス基板と強化ガラス基板は、上記特性が実質的に相違していない。続いて試料No.1〜26の各ガラス基板の両表面に光学研磨を施した後、イオン交換処理を行った。試料No.1〜8、13〜15、24及び25については、430℃のKNO溶融塩中に各試料を4時間、試料No.9〜12、16〜23及び26については460℃のKNO溶融塩中に各試料を4時間浸漬することで行った。処理を終えた各試料は表面を洗浄した後、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力値と圧縮応力層の厚みを算出した。算出に当たり、試料の屈折率は1.53、光学弾性定数は28[(nm/cm)/MPa]とした。
【0109】
その結果、試料No.1〜26の各ガラス基板は、その表面に500MPa以上の圧縮応力が発生しており、且つその厚みは14μm以上と深かった。また、板厚1mmの基板において内部の引っ張り応力は43MPa以下と低かった。
【0110】
また試料No.15のガラス試料を使用し、ガラス基板の厚みやイオン交換条件を変えることによって、内部応力の異なるガラス試験片を作製し、内部応力による破損の状態を評価した。
【0111】
評価方法は、以下のとおりである。
【0112】
試料No.15のガラスから、板厚0.5mmと板厚0.7mmのガラス板をそれぞれ作製し、各ガラス板を35mm×35mmの大きさに切りだした。こうして得られた各ガラス基板について、460℃−6時間、460℃−8時間、490℃−6時間の各条件でイオン交換を行った後に圧縮応力を測定し、その結果を表5に示した。尚、圧縮応力は、上記と同様の方法で測定し、その圧縮応力値から上記式に基づいて内部応力(ガラス基板内部の引っ張り応力)を計算で求めた。
【0113】
【表5】

【0114】
表5の各ガラス基板について、その表面に傷が形成され、その傷が内部応力層まで達した時に、ガラス基板が破損するかどうかを調べるため、ホイールチップ材質がダイヤモンドであるスクライブマシンを使用し、エアー圧0.3MPa、ホイールチップ刃角度125°、ホイールチップ研磨グレードD521に設定し、ホイールチップをガラス基板の表面にたたきつけて破壊した。
【0115】
表6は、ガラス基板を破壊した後の破片の数を示したものである。また参考のため、イオン交換を行わず、内部応力が0のガラス基板の破片の数も示した。表6から明らかなように、内部応力が50〜94MPaであれば、内部応力が0のガラス基板と同程度の破片の数となることが理解できる。
【0116】
【表6】

【0117】
尚、上記では、本発明の説明の便宜上、ガラスを溶融し、流し出しによる成形を行った後、イオン交換処理前に光学研磨を行った。工業的規模で生産する場合には、オーバーフローダウンドロー法等でガラス基板を作製し、ガラス基板の両表面が未研磨の状態でイオン交換処理することが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の強化ガラス基板は、携帯電話、デジタルカメラ、PDA、太陽電池等のカバーガラス、あるいはタッチパネルディスプレイ基板として好適である。また、本発明の強化ガラス基板は、これらの用途以外にも、高い機械的強度が要求される用途、例えば窓ガラス、磁気ディスク用基板、フラットパネルディスプレイ用基板、固体撮像素子用カバーガラス、食器などへの応用が期待できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に圧縮応力層を有する強化ガラス基板であって、ガラス組成として、質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜21%、LiO 0〜3.5%、NaO 7〜20%、KO 0〜3%を含有し、質量比KO/NaOが0〜0.2であることを特徴とする強化ガラス基板。
【請求項2】
質量比KO/NaOが0〜0.125であることを特徴とする請求項1記載の強化ガラス基板。
【請求項3】
Asの含有量が0〜0.1%未満、Sb 0〜0.1%未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の強化ガラス基板。
【請求項4】
MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が0〜9.9%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の強化ガラス基板。
【請求項5】
表面の圧縮応力が300MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが10μm以上であって、ガラス基板内部の引っ張り応力が200MPa以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の強化ガラス基板。
【請求項6】
LiOの含有量が0〜0.1%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の強化ガラス基板。
【請求項7】
液相粘度が104.0dPa・s以上のガラスからなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の強化ガラス基板。
【請求項8】
ディスプレイのカバーガラスとして用いられることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の強化ガラス基板。
【請求項9】
太陽電池のカバーガラスとして用いられること特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の強化ガラス基板。
【請求項10】
質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜21%、LiO 0〜3.5%、NaO 7〜20%、KO 0〜3%を含有し、質量比KO/NaOが0〜0.2であることを特徴とする強化用ガラス。
【請求項11】
質量%でSiO 40〜70%、Al 12〜21%、LiO 0〜3.5%、NaO 7〜20%、KO 0〜3%を含有し、質量比KO/NaOが0〜0.2であるガラス組成となるように調合したガラス原料を溶融し、板状に成形した後、イオン交換処理を行ってガラス表面に圧縮応力層を形成することを特徴とする強化ガラス基板の製造方法。

【公開番号】特開2012−236760(P2012−236760A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−148133(P2012−148133)
【出願日】平成24年7月2日(2012.7.2)
【分割の表示】特願2008−154906(P2008−154906)の分割
【原出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】