説明

強化ガラス板

【課題】圧縮応力層の圧縮応力値が高く、且つ所望の色合いを有する強化ガラス板を創案すること。
【解決手段】本発明の強化ガラス板は、表面に圧縮応力層を有する強化ガラス板であって、ガラスの組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 50〜70%、Al 5〜20%、B 0〜5%、NaO 8〜18%、KO 2〜9%、Fe 30〜1500ppmを含有し、波長400〜700nmにおける板厚1.0mm換算の分光透過率が85%以上、xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるxが0.3095〜0.3120、xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるyが0.3160〜0.3180であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化ガラス板に関し、具体的には、携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)、太陽電池のカバーガラス、或いはディスプレイ、特にタッチパネルディスプレイのガラス基板に好適な強化ガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タッチパネルを搭載したPDAが登場し、その表示部を保護するために強化ガラス板が使用されるに至っており、今後、強化ガラス板の市場は、益々増大するものと期待されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
この用途の強化ガラスは、高い機械的強度が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−83045号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】泉谷徹朗等、「新しいガラスとその物性」、初版、株式会社経営システム研究所、1984年8月20日、p.451−498
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、ディプレイを保護する強化ガラス板(カバーガラス)の端面が、一旦、デバイスの筐体内に組み込まれると、ユーザーが強化ガラス板の端面部分に触れることができない形態になっていた。しかし、近年、デザイン性を高めるために、強化ガラス板がデバイスの外側に取り付けられる形態が検討されており、カバーガラスの端面もデザインの一部として考慮されるようになってきた。
【0007】
強化ガラス板の端面の一部又は全部が外部に露出する場合、デバイスの外観を損なわないように配慮する必要があり、この場合、強化ガラス板の色合いが重要になる。具体的には、強化ガラス板の端面から見た時の色合いが青味又は黄色味を帯びていないことが重要になる。
【0008】
また、強化ガラスの機械的強度を高めるためには、圧縮応力層の圧縮応力値を高める必要がある。圧縮応力値を高める成分として、Al等の成分が知られている。しかし、Alの含有量が多過ぎると、ガラス溶融時にAl原料が溶け残り易くなり、ガラス欠陥が多くなるという問題がある。Al原料として長石等を使用すると、この問題を解決し得るが、長石に含まれるFeにより、ガラス組成中のFeの含有量が多くなるため、所望の色合いに調整し難くなる。また、水和物原料を使用する場合も、上記問題を解決し得るが、ガラス中の水分量が多くなるため、圧縮応力値を高めることが困難になる。
【0009】
そこで、本発明は、圧縮応力層の圧縮応力値が高く、且つ所望の色合いを有する強化ガラス板を創案することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、種々の検討を行った結果、ガラス組成中の各成分の含有量及びガラス特性を所定範囲に規制することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の強化ガラス板は、表面に圧縮応力層を有する強化ガラス板であって、ガラスの組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 50〜70%、Al 5〜20%、B 0〜5%、NaO 8〜18%、KO 2〜9%、Fe 30〜1500ppmを含有し、波長400〜700nmにおける板厚1.0mm換算の分光透過率が85%以上、xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるxが0.3095〜0.3120、xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるyが0.3160〜0.3180であることを特徴とする。ここで、「下記酸化物換算」とは、例えば、Feの場合、Fe3+の状態で存在する酸化鉄のみならず、Fe2+の状態で存在する酸化鉄もFeに換算した上でFeとして表記することを意味する(他の酸化物も同様)。「波長400〜700nmにおける板厚1.0mm換算の分光透過率」は、例えば、UV−3100PC(島津製作所製)を使用し、スリット幅:2.0nm、スキャン速度:中速、サンプリングピッチ:0.5nmで測定可能である。「xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるx」は、例えば、UV−3100PC(島津製作所製)で測定可能である。「xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるy」は、例えば、UV−3100PC(島津製作所製)で測定可能である。
【0011】
第二に、本発明の強化ガラス板は、圧縮応力層の圧縮応力値が400MPa以上であり、且つ圧縮応力層の深さ(厚み)が30μm以上であることが好ましい。ここで、「圧縮応力層の圧縮応力値」と「圧縮応力層の深さ」は、表面応力計(例えば、株式会社東芝製FSM−6000)を用いて、試料を観察した際に、観察される干渉縞の本数とその間隔から算出される値を指す。
【0012】
第三に、本発明の強化ガラス板は、TiOの含有量が0〜50000ppmであることが好ましい。
【0013】
第四に、本発明の強化ガラス板は、SnO+SO+Clの含有量が50〜30000ppmであることが好ましい。ここで、「SnO+SO+Cl」は、SnO、SO、及びClの合量を指す。
【0014】
第五に、本発明の強化ガラス板は、CeOの含有量が0〜10000ppm、WOの含有量が0〜10000ppmであることが好ましい。
【0015】
第六に、本発明の強化ガラス板は、NiOの含有量が0〜500ppmであることが好ましい。
【0016】
第七に、本発明の強化ガラス板は、板厚が0.5〜2.0mmであることが好ましい。
【0017】
第八に、本発明の強化ガラス板は、102.5dPa・sにおける温度が1600℃以下であることが好ましい。ここで、「102.5dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0018】
第九に、本発明の強化ガラス板は、液相温度が1100℃以下であることが好ましい。ここで、「液相温度」とは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
【0019】
第十に、本発明の強化ガラス板は、液相粘度が104.0dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0020】
第十一に、本発明の強化ガラス板は、密度が2.6g/cm以下であることが好ましい。ここで、「密度」とは、周知のアルキメデス法で測定可能である。
【0021】
第十二に、本発明の強化ガラス板は、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数が85〜110×10−7/℃であることが好ましい。ここで、「30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数」は、ディラトメーターを用いて、平均熱膨張係数を測定した値を指す。
【0022】
第十三に、本発明の強化ガラス板は、β−OH値が0.25mm−1以下であることが好ましい。ここで、「β−OH値」は、FT−IRで透過率を測定した後、下記の式を用いて算出した値を指す。
【0023】
β−OH値=(1/X)log10(T/T
【0024】
X:板厚(mm)
:参照波長3846cm−1における透過率(%)
:水酸基吸収波長3600cm−1付近における最小透過率(%)
【0025】
第十四に、本発明の強化ガラス板は、タッチパネルディスプレイの保護部材に用いることが好ましい。
【0026】
第十五に、本発明の強化ガラス板は、携帯電話のカバーガラスに用いることが好ましい。
【0027】
第十六に、本発明の強化ガラス板は、太陽電池のカバーガラスに用いることが好ましい。
【0028】
第十七に、本発明の強化ガラス板は、ディスプレイの保護部材に用いることが好ましい。
【0029】
第十八に、本発明の強化ガラス板は、強化ガラス板の端面の一部又は全部が外部に露出する形態の外装部品に用いることが好ましい。ここで、「端面」には、強化ガラス板の表面と端面が交差する端縁領域に面取り加工が施されている場合は、その面取り面も含むこととする。
【0030】
第十九に、本発明の強化ガラス板は、表面に圧縮応力層を有する強化ガラス板であって、ガラスの組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 50〜70%、Al 12〜18%、B 0〜1%、NaO 12〜16%、KO 3〜7%、Fe 100〜300ppm、TiO 0〜5000ppm、SnO+SO+Cl 50〜9000ppmを含有し、圧縮応力層の圧縮応力値が600MPa以上、圧縮応力層の深さが50μm以上、液相粘度が105.5dPa・s以上、β−OH値が0.25mm−1以下、波長400〜700nmにおける板厚1.0mm換算の分光透過率が87%以上、xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるxが0.3095〜0.3110、xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるyが0.3160〜0.3170であることを特徴とする。
【0031】
第二十に、本発明の強化用ガラス板は、ガラスの組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 50〜70%、Al 5〜20%、B 0〜5%、NaO 8〜18%、KO 2〜9%、Fe 30〜1500ppmを含有し、波長400〜700nmにおける板厚1.0mm換算の分光透過率が85%以上、xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるxが0.3095〜0.3120、xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるyが0.3160〜0.3180であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】[実施例2]を説明するための概略断面図であり、具体的には、強化用ガラス板の端縁領域にR加工を施した場合の板厚方向の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の強化ガラス板は、その表面に圧縮応力層を有する。表面に圧縮応力層を形成する方法として、物理強化法と化学強化法がある。本発明の強化ガラス板は、化学強化法で作製されてなることが好ましい。
【0034】
化学強化法は、ガラスの歪点以下の温度でイオン交換処理によりガラスの表面にイオン半径が大きいアルカリイオンを導入する方法である。化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、強化用ガラス板の板厚が薄い場合でも、圧縮応力層を適正に形成できると共に、圧縮応力層を形成した後に、強化ガラス板を切断しても、風冷強化法等の物理強化法のように、強化ガラス板が容易に破壊しない。
【0035】
本発明の強化ガラス板において、上記のように各成分の含有範囲を限定した理由を下記に示す。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示は質量%を指す。
【0036】
SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は50〜70%であり、好ましくは52〜68%、55〜68%、55〜65%、特に55〜63%である。SiOの含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。一方、SiOの含有量が多過ぎると、溶融性や成形性が低下し易くなり、また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。
【0037】
Alは、イオン交換性能を高める成分であり、また歪点やヤング率を高める成分であり、その含有量は5〜20%である。Alの含有量が少な過ぎると、イオン交換性能を十分に発揮できない虞が生じる。よって、Alの好適な下限範囲は7%以上、8%以上、10%以上、特に12%以上である。一方、Alの含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出し易くなって、オーバーフローダウンドロー法やフロート法等でガラス板を成形し難くなる。また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなり、更には高温粘性が高くなり、溶融性が低下し易くなる。よって、Alの好適な上限範囲は18%以下、17%以下、特に16%以下である。
【0038】
は、高温粘度や密度を低下させると共に、ガラスを安定化させて結晶を析出させ難くし、また液相温度を低下させる成分である。しかし、Bの含有量が多過ぎると、イオン交換によって、ヤケと呼ばれるガラス表面の着色が発生したり、耐水性が低下したり、圧縮応力層の圧縮応力値が低下したり、圧縮応力層の深さが小さくなる傾向がある。よって、Bの含有量は0〜5%であり、好ましくは0〜3%、0〜2%、0〜1.5%、0〜0.9%、0〜0.5%、特に0〜0.1%である。
【0039】
NaOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、NaOは、耐失透性を改善する成分でもある。NaOの含有量は8〜18%である。NaOの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低下したり、イオン交換性能が低下し易くなる。よって、NaOを添加する場合、NaOの好適な下限範囲は10%以上、11%以上、特に12%以上である。一方、NaOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する場合がある。よって、NaOの好適な上限範囲は17%以下、特に16%以下である。
【0040】
Oは、イオン交換を促進する成分であり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層の深さを大きくする効果が高い成分である。また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。更には、耐失透性を改善する成分でもある。KOの含有量は2〜9%である。KOの含有量が少な過ぎると、上記効果を得難くなる。KOの好適な下限範囲は2.5%以上、3%以上、3.5%以上、特に4%以上である。一方、KOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。よって、KOの好適な上限範囲は8%以下、7%以下、6%以下、特に5%以下である。
【0041】
端面の一部又は全部が外部に露出する形態の外装部品等に使用する場合、Feの含有量を30〜1500ppmに規制して、強化ガラスの色味をコントロールすることが重要になる。Fe含有量が少な過ぎると、高純度のガラス原料を使用しなければならず、強化ガラスの生産コストが高騰してしまう。Feの好適な下限範囲は0.005%以上、0.008%以上、特に0.01%以上である。一方、Fe含有量が多過ぎると、強化ガラスが着色し易くなる。Feの好適な上限範囲は0.1%以下、0.05%以下、特に0.03%以下である。なお、従来の強化ガラス板において、Feの含有量は、通常、1500ppmより多かった。
【0042】
上記成分以外にも、例えば以下の成分を添加してもよい。
【0043】
LiOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であると共に、ヤング率を高める成分である。更にLiOは、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を高める効果が大きいが、NaOを5%以上含むガラス系において、LiOの含有量が極端に多くなると、かえって圧縮応力値が低下する傾向がある。また、LiOの含有量が多過ぎると、液相粘度が低下して、ガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。更に、低温粘性が低下し過ぎて、応力緩和が起こり易くなり、かえって圧縮応力値が低下する場合がある。よって、LiOの含有量は0〜15%、0〜4%、0〜2%、0〜1%、0〜0.5%、0〜0.3%、特に0〜0.1%が好ましい。
【0044】
LiO+NaO+KOの好適な含有量は5〜25%、10〜22%、15〜22%、特に17〜22%である。LiO+NaO+KOの含有量が少な過ぎると、イオン交換性能や溶融性が低下し易くなる。一方、LiO+NaO+KOの含有量が多過ぎると、ガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎて、高い圧縮応力値が得られ難くなる場合がある。更に液相温度付近の粘性が低下して、高い液相粘度を確保し難くなる場合がある。なお、「LiO+NaO+KO」は、LiO、NaO、及びKOの合量である。
【0045】
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が大きい成分である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり、またガラスが失透し易くなる傾向がある。よって、MgOの好適な上限範囲は12%以下、10%以下、8%以下、5%以下、特に4%以下である。なお、ガラス組成中にMgOを添加する場合、MgOの好適な下限範囲は0.5%以上、1%以上、特に2%以上である。
【0046】
CaOは、他の成分と比較して、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める効果が大きい。CaOの含有量は0〜10%が好ましい。しかし、CaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり、またガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなったり、イオン交換性能が低下し易くなる。よって、CaOの好適な含有量は0〜5%、0〜3%、特に0〜2.5%である。
【0047】
SrOは、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。SrOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、イオン交換性能が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなる。SrOの好適な含有範囲は0〜5%、0〜3%、0〜1%、特に0〜0.1%である。
【0048】
BaOは、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。BaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、イオン交換性能が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなる。BaOの好適な含有範囲は0〜5%、0〜3%、0〜1%、特に0〜0.1%である。
【0049】
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力値を高める効果が大きい成分である。また低温粘性を低下させずに、高温粘性を低下させる成分である。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、圧縮応力層の深さが小さくなる傾向がある。よって、ZnOの含有量は0〜6%、0〜5%、0〜1%、特に0〜0.5%が好ましい。
【0050】
端面の一部又は全部が外部に露出する形態の外装部品等に使用する場合、TiOの含有量を規制して、強化ガラスの色味をコントロールすることが好ましい。TiOは、イオン交換性能を高める成分であると共に、高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、ガラスが着色したり、失透し易くなる。TiOの好適な上限範囲は5%以下、3%以下、1%以下、0.7%以下、0.5%以下、特に0.5%未満である。なお、TiOを含有させる場合、TiOの好適な下限範囲は0.001%以上、特に0.005%以上である。
【0051】
WOは、補色となる色を加えると、消色して、強化ガラスの色味をコントロールし得る成分である。またWOは、TiOに比べると、耐失透性を低下させ難い性質を有する。一方、WOの含有量が多過ぎると、強化ガラスが着色し易くなる。WOの好適な上限範囲は含有量が5%以下、3%以下、2%以下、1%以下、特に0.5%以下である。なお、WOを含有させる場合、WOの好適な下限範囲は0.001%以上、特に0.003%以上である。
【0052】
ZrOは、イオン交換性能を顕著に高める成分であると共に、液相粘度付近の粘性や歪点を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、耐失透性が著しく低下する虞があり、また密度が高くなり過ぎる虞がある。よって、ZrOの好適な上限範囲は10%以下、8%以下、6%以下、特に5%以下である。なお、イオン交換性能を高めたい場合、ガラス組成中にZrOを添加することが好ましく、その場合、ZrOの好適な下限範囲は0.01%以上、0.5%、1%以上、2%以上、特に4%以上である。
【0053】
は、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力層の深さを大きくする成分である。しかし、Pの含有量が多過ぎると、ガラスが分相し易くなる。よって、Pの好適な上限範囲は10%以下、8%以下、6%以下、特に5%以下である。
【0054】
清澄剤として、As、Sb、CeO、SnO、F、Cl、SOの群(好ましくはSnO、Cl、SOの群)から選択された一種又は二種以上を0〜30000ppm添加してもよい。SnO+SO+Clの含有量は0〜1%、50〜5000ppm、80〜4000ppm、100〜3000ppm、特に300〜3000ppmが好ましい。なお、SnO+SO+Clの含有量が50ppmより少ないと、清澄効果を享受し難くなる。ここで、「SnO+SO+Cl」は、SnO、SO、及びClの合量を指す。
【0055】
SnOの好適な含有範囲は0〜10000ppm、0〜7000ppm、特に50〜6000ppmである、Clの好適な含有範囲は0〜1500ppm、0〜1200ppm、0〜800ppm、0〜500ppm、特に50〜300ppmである。SOの好適な含有範囲は0〜1000ppm、0〜800ppm、特に10〜500ppmである。
【0056】
ガラスを強く着色させるような遷移金属元素(Co、Ni等)は、補色となる色を加えると、消色して、強化ガラスの色味をコントロールし得る成分である。一方、ガラスの透過率を低下させる虞がある。特に、タッチパネルディスプレイに用いる場合、遷移金属元素の含有量が多過ぎると、タッチパネルディスプレイの視認性が低下し易くなる。よって、遷移金属酸化物の含有量が0.5%以下、0.1%以下、特に0.05%以下になるように、ガラス原料(カレットを含む)を選択することが好ましい。なお、遷移金属元素を含有させる場合、遷移金属元素の好適な下限範囲は0.0001%以上、特に0.0003%以上である。
【0057】
Nb、La、CeO等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分であり、また補色となる色を加えると、消色して、強化ガラスの色味をコントロールし得る成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に添加すると、耐失透性が低下し易くなる。よって、希土類酸化物の含有量は4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下が好ましい。特に、CeOは、消色作用が大きい成分である。CeOの好適な下限範囲は0.01%以上、0.03%以上、0.05%以上、0.1%以上、特に0.3%以上である。
【0058】
また本発明は、環境面の配慮から、実質的にAs、Sb、F、PbO、Biを含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にAsを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にAsを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Asの含有量が500ppm(質量)未満であることを指す。「実質的にSbを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にSbを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Sbの含有量が500ppm(質量)未満であることを指す。「実質的にFを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にFを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Fの含有量が500ppm(質量)未満であることを指す。「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にPbOを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、PbOの含有量が500ppm(質量)未満であることを指す。「実質的にBiを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にBiを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Biの含有量が500ppm(質量)未満であることを指す。
【0059】
本発明の強化ガラス板において、波長400〜700nmにおける板厚1.0mm換算の分光透過率は85%以上であり、好ましくは87%以上、89%以上、特に90%以上である。このようにすれば、強化ガラス板の色味が少なくなるため、端面の一部又は全部が外部に露出する形態の外装部品に使用した場合、高級感を演出することが可能になる。
【0060】
本発明の強化ガラス板において、xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるxは0.3095〜0.3120であり、好ましくは0.3096〜0.3115、0.3097〜0.3110、0.3098〜0.3107、特に0.3100〜0.3107である。このようにすれば、強化ガラス板の色味が少なくなるため、端面の一部又は全部が外部に露出する形態の外装部品に使用した場合、高級感を演出することが可能になる。
【0061】
本発明の強化ガラス板において、xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるyは0.3160〜0.3180であり、好ましくは0.3160〜0.3175、0.3160〜0.3170、特に0.3160〜0.3167である。このようにすれば、強化ガラス板の色味が少なくなるため、端面の一部又は全部が外部に露出する形態の外装部品に使用した場合、高級感を演出することが可能になる。
【0062】
本発明の強化ガラス板は、表面に圧縮応力層を有している。圧縮応力層の圧縮応力値は、好ましくは300MPa以上、500MPa以上、600MPa以上、700MPa以上、特に800MPa以上である。圧縮応力値が大きい程、強化ガラス板の機械的強度が高くなる。一方、表面に極端に大きな圧縮応力が形成されると、表面にマイクロクラックが発生して、かえって強化ガラスの機械的強度が低下する虞がある。また、強化ガラス板に内在する引っ張り応力が極端に高くなる虞がある。このため、圧縮応力層の圧縮応力値は1500MPa以下が好ましい。なお、ガラス組成中のAl、TiO、ZrO、MgO、ZnOの含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力値が大きくなる傾向がある。また、イオン交換時間を短くしたり、イオン交換溶液の温度を下げれば、圧縮応力値が大きくなる傾向がある。
【0063】
圧縮応力層の深さは、好ましくは10μm以上、25μm以上、40μm以上、特に45μm以上である。圧縮応力層の深さが大きい程、強化ガラス板に深い傷が付いても、強化ガラス板が割れ難くなると共に、機械的強度のばらつきが小さくなる。一方、圧縮応力層の深さが大きい程、強化ガラス板を切断し難くなる。このため、圧縮応力層の深さは500μm以下、200μm以下、150μm以下、特に90μm以下が好ましい。なお、ガラス組成中のKO、Pの含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力層の深さが大きくなる傾向がある。また、イオン交換時間を長くしたり、イオン交換溶液の温度を上げれば、圧縮応力層の深さが大きくなる傾向がある。
【0064】
本発明の強化ガラス板において、強化ガラス板の切断面と表面が交差する端縁領域の一部又は全部に面取り加工が施されていることが好ましく、少なくとも視認側の端縁領域の一部又は全部に面取り加工が施されていることが好ましい。なお、デバイス側の端縁領域のみ、或いは視認側とデバイス側の両方の端縁領域に面取り加工を施してもよい。面取り加工として、R面取りが好ましく、この場合、曲率半径0.05〜0.5mmのR面取りが好ましい。また、0.05〜0.5mmのC面取りも好適である。更に、面取り面の表面粗さRaは1nm以下、0.7nm以下、0.5nm以下、特に0.3nm以下が好ましい。このようにすれば、端縁領域を起点としたクラックを防止し易くなると共に、外観の観点から、強化ガラス板の端面の一部又は全部が外部に露出する形態の外装部品に好適に使用可能になる。ここで、「表面粗さRa」は、JIS B0601:2001に準拠した方法で測定した値を指す。
【0065】
本発明の強化ガラス板において、β−OH値は0.4mm−1以下、0.3mm−1以下、0.28mm−1以下、0.25mm−1以下、特に0.22mm−1以下が好ましい。β−OH値が小さい程、イオン交換性能が向上する。
【0066】
(1)含水量の高い原料(例えば水酸化物原料)を選択する、(2)原料中に水分を添加する、(3)水分量を減少させる成分(Cl、SO等)の添加量を低減したり、或いは使用しないようにする、(4)ガラス溶融の際に酸素燃焼を採用したり、溶融炉内に直接水蒸気を導入したりして、炉内雰囲気中の水分量を増加する、(5)溶融ガラス中で水蒸気バブリングを行う、(6)大型溶融炉を採用する、(7)溶融ガラスの流量を遅くすると、β―OH値が大きくなる。よって、上記操作(1)〜(7)とは逆の操作を行えば、β―OH値を低下させることが可能になる。すなわち(8)含水量の低い原料を選択する、(9)原料中に水分を添加しない、(10)水分量を減少させる成分(Cl、SO等)の添加量を増やす、(11)炉内雰囲気中の水分量を低下させる、(12)溶融ガラス中でNバブリングを行う、(13)小型溶融炉を採用する、(14)溶融ガラスの流量を速くすると、β―OH値が小さくなる。
【0067】
本発明の強化ガラス板において、板厚は3.0mm以下、2.0mm以下、1.5mm以下、1.3mm以下、1.1mm以下、1.0mm以下、0.8mm以下、特に0.7mm以下が好ましい。一方、板厚が薄過ぎると、所望の機械的強度を得難くなる。よって、板厚は0.1mm以上、0.2mm以上、0.3mm以上、特に0.4mm以上が好ましい。
【0068】
本発明の強化ガラス板において、密度は2.6g/cm以下、特に2.55g/cm以下が好ましい。密度が小さい程、強化ガラス板を軽量化することができる。なお、ガラス組成中のSiO、B、Pの含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO、TiOの含有量を低減すれば、密度が低下し易くなる。
【0069】
本発明の強化ガラス板において、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数は80〜120×10−7/℃、85〜110×10−7/℃、90〜110×10−7/℃、特に90〜105×10−7/℃が好ましい。熱膨張係数を上記範囲に規制すれば、金属、有機系接着剤等の部材の熱膨張係数に整合し易くなり、金属、有機系接着剤等の部材の剥離を防止し易くなる。なお、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加すれば、熱膨張係数が高くなり易く、逆にアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すれば、熱膨張係数が低下し易くなる。
【0070】
本発明の強化ガラス板において、歪点は500℃以上、520℃以上、特に530℃以上が好ましい。歪点が高い程、耐熱性が向上し、強化ガラス板を熱処理する場合、圧縮応力層が消失し難くなる。また、歪点が高い程、イオン交換処理の際に応力緩和が生じ難くなるため、圧縮応力値を維持し易くなる。なお、ガラス組成中のアルカリ土類金属酸化物、Al、ZrO、Pの含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物の含有量を低減すれば、歪点が高くなり易い。
【0071】
本発明の強化ガラス板において、104.0dPa・sにおける温度は1280℃以下、1230℃以下、1200℃以下、1180℃以下、特に1160℃以下が好ましい。104.0dPa・sにおける温度が低い程、成形設備への負担が軽減されて、成形設備が長寿命化し、結果として、強化ガラス板の製造コストを低廉化し易くなる。なお、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加させたり、SiO、Alの含有量を低減すれば、104.0dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
【0072】
本発明の強化ガラス板において、102.5dPa・sにおける温度は1620℃以下、1550℃以下、1530℃以下、1500℃以下、特に1450℃以下が好ましい。102.5dPa・sにおける温度が低い程、低温溶融が可能になり、溶融窯等のガラス製造設備への負担が軽減されると共に、泡品位を高め易くなる。すなわち、102.5dPa・sにおける温度が低い程、強化ガラス板の製造コストを低廉化し易くなる。なお、102.5dPa・sにおける温度は、溶融温度に相当する。また、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加させたり、SiO、Alの含有量を低減すれば、102.5dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
【0073】
本発明の強化ガラス板において、液相温度は1100℃以下、1050℃以下、1000℃以下、950℃以下、900℃以下、特に880℃以下が好ましい。なお、液相温度が低い程、耐失透性や成形性が向上する。また、ガラス組成中のNaO、KO、Bの含有量を増加させたり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すれば、液相温度が低下し易くなる。
【0074】
本発明の強化ガラス板において、液相粘度は104.0dPa・s以上、104.4dPa・s以上、104.8dPa・s以上、105.0dPa・s以上、105.4dPa・s以上、105.6dPa・s以上、106.0dPa・s以上、106.2dPa・s以上、特に106.3dPa・s以上が好ましい。なお、液相粘度が高い程、耐失透性や成形性が向上する。また、ガラス組成中のNaO、KOの含有量を増加させたり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すれば、液相粘度が高くなり易い。
【0075】
本発明の強化ガラス板において、各成分の好適な含有範囲、水分量を適宜選択して、好適な強化ガラス板を特定することが可能である。その中でも以下の強化ガラス板は、特に好適である。
(1)ガラスの組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 50〜70%、Al 7〜20%、B 0〜3%、NaO 10〜18%、KO 2〜8%、Fe 50〜1000ppm、TiO 0〜50000ppm、SnO+SO+Cl 80〜9000ppmを含有し、β−OH値が0.5mm−1以下、
(2)ガラスの組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 50〜70%、Al 8〜20%、B 0〜2%、NaO 11〜18%、KO 2〜7%、Fe 80〜500ppm、TiO 0〜30000ppm、SnO+SO+Cl 100〜8000ppmを含有し、β−OH値が0.4mm−1以下、
(3)ガラスの組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 50〜70%、Al 10〜18%、B 0〜1.5%、NaO 12〜17%、KO 3〜7%、Fe 100〜300ppm、TiO 0〜10000ppm、SnO+SO+Cl 300〜7000ppmを含有し、β−OH値が0.4mm−1以下、
(4)ガラスの組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 50〜70%、Al 12〜18%、B 0〜1%、NaO 12〜16%、KO 3〜7%、Fe 100〜300ppm、TiO 0〜5000ppm、SnO+SO+Cl 300〜3000ppmを含有し、β−OH値が0.3mm−1以下。
【0076】
本発明の強化用ガラス板は、ガラスの組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 50〜70%、Al 5〜20%、B 0〜5%、NaO 8〜18%、KO 2〜9%、Fe 30〜1500ppmを含有し、波長400〜700nmにおける板厚1.0mm換算の分光透過率が85%以上、xy色度座標(C光源)におけるxが0.3100〜0.3120、xy色度座標(C光源)におけるyが0.3160〜0.3180であることを特徴とする。本発明の強化用ガラス板の技術的特徴は、本発明の強化ガラス板の技術的特徴と同様になる。ここでは、便宜上、その記載を省略する。
【0077】
本発明の強化用ガラス板は、430℃のKNO溶融塩中でイオン交換処理した場合、表面の圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ圧縮応力層の深さが10μm以上になることが好ましく、更に圧縮応力層の圧縮応力値が600MPa以上、且つ圧縮応力層の深さが40μm以上になることが好ましく、特に圧縮応力層の圧縮応力値が800MPa以上、且つ圧縮応力層の深さが60μm以上になることが好ましい。
【0078】
イオン交換処理の際、KNO溶融塩の温度は400〜550℃が好ましく、イオン交換時間は2〜10時間、特に4〜8時間が好ましい。このようにすれば、圧縮応力層を適正に形成し易くなる。なお、本発明の強化用ガラス板は、上記のガラス組成を有するため、KNO溶融塩とNaNO溶融塩の混合物等を使用しなくても、圧縮応力層の圧縮応力値や深さを大きくすることが可能である。
【0079】
以下のようにして、本発明の強化用ガラス板、及び強化ガラス板を作製することができる。
【0080】
まず上記のガラス組成になるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入して、1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で板状等に成形し、徐冷することにより、ガラス板を作製することができる。
【0081】
板状に成形する方法として、オーバーフローダウンドロー法を採用することが好ましい。オーバーフローダウンドロー法は、安価で大量にガラス板を作製し得ると共に、大型のガラス板も容易に作製できる方法である。
【0082】
オーバーフローダウンドロー法以外にも、種々の成形方法を採用することができる。例えば、フロート法、ダウンドロー法(スロットダウン法、リドロー法等)、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を採用することができる。
【0083】
次に、得られたガラス板を強化処理することにより、強化ガラス板を作製することができる。強化ガラス板を所定寸法に切断する時期は、強化処理の前でもよいが、強化処理の後に行う方がコスト面から有利である。
【0084】
強化処理として、イオン交換処理が好ましい。イオン交換処理の条件は、特に限定されず、ガラス板の粘度特性、用途、厚み、内部の引っ張り応力等を考慮して最適な条件を選択すればよい。例えば、イオン交換処理は、400〜550℃のKNO溶融塩中に、ガラス板を1〜8時間浸漬することで行うことができる。特に、KNO溶融塩中のKイオンをガラス板中のNa成分とイオン交換すると、ガラス板の表面に圧縮応力層を効率良く形成することが可能になる。
【実施例1】
【0085】
以下、実施例に基づいて、本発明を説明する。なお、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0086】
表1〜3は、本発明の実施例(試料No.1〜16)を示している。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
表4は、試料No.12〜16の原料構成を示している。
【0091】
【表4】

【0092】
次のようにして表中の各試料を作製した。まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1580℃で8時間溶融した。その後、得られた溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して、板状に成形した。得られたガラス板について、種々の特性を評価した。
【0093】
密度ρは、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
【0094】
熱膨張係数αは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値である。
【0095】
歪点Ps、徐冷点Taは、ASTM C336の方法に基づいて測定した値である。
【0096】
軟化点Tsは、ASTM C338の方法に基づいて測定した値である。
【0097】
高温粘度104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0098】
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れた後、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。
【0099】
液相粘度log10ηTLは、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0100】
表1〜3から明らかなように、試料No.1〜16は、密度が2.56g/cm以下、熱膨張係数が99〜106×10−7/℃であり、強化ガラス板の素材、つまり強化用ガラス板として好適であった。また液相粘度が105.5dPa・s以上であるため、成形性が良好であり、また104.0dPa・sにおける温度が1156℃以下であるため、成形設備の負担が軽く、しかも102.5dPa・sにおける温度が1455℃以下であるため、生産性が高く、安価に大量のガラス板を作製できるものと考えられる。なお、イオン交換処理の前後で、ガラス板の表層におけるガラス組成が微視的に異なるものの、ガラス板全体として見た場合は、ガラス組成が実質的に相違しない。
【0101】
次に、各試料の両表面に光学研磨を施した後、440℃のKNO溶融塩中に6時間浸漬することにより、イオン交換処理を行い、イオン交換処理後に各試料の表面を洗浄した。続いて、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力層の圧縮応力値CSと深さDOLを算出した。算出に当たり、各試料の屈折率を1.52、光学弾性定数を28[(nm/cm)/MPa]とした。
【0102】
表1〜3から明らかなように、試料No.1〜16は、KNO溶融塩によるイオン交換処理を行ったところ、CSが737MPa以上、DOLが27μm以上であった。
【0103】
両面に鏡面研磨を施した強化ガラス板(1mm)の透過率をFT−IRで測定した後、下記の式を用いてβ−OH値を算出した。
【0104】
β−OH値=(1/X)log10(T/T
【0105】
X:板厚(mm)
:参照波長3846cm−1における透過率(%)
:水酸基吸収波長3600cm−1付近における最小透過率(%)
【0106】
板厚が1.0mmになるように、各試料の両表面を鏡面研磨した後、波長400〜700nmにおける分光透過率を測定した。測定装置としてUV−3100PC(島津製作所製)を使用し、スリット幅:2.0nm、スキャン速度:中速、サンプリングピッチ:0.5nmで測定を行った。また同装置を用いて、色度も評価した。なお、光源として、C光源を使用した。
【0107】
表1〜3から明らかなように、試料No.1〜16は、波長400〜700nmにおける分光透過率が90%以上、xy色度座標におけるxが0.3099〜0.3105、yが0.3163〜0.3166であった。
【実施例2】
【0108】
表2のNo.10に記載のガラス組成になるように、ガラス原料を調合した後、板厚が1.0mm、0.7mm、1.1mmになるように、オーバーフローダウンドロー法で板状に成形して、強化用ガラス板を作製した。次に、得られた強化用ガラス板(板厚1.0mm)の視認側及びデバイス側の端縁領域の全部に曲率半径0.1mmのR面取り加工を施した。また、得られた強化用ガラス板(板厚0.7mm)の視認側及びデバイス側の端縁領域の全部に曲率半径0.25mmのR面取り加工を施した。さらに、得られた強化用ガラス板(板厚1.1mm)の視認側の端縁領域の全部に曲率半径0.3mmのR面取り加工を施した。参考までに、上記の通りに強化用ガラス板の端縁領域にR面取り加工を施した場合の板厚方向の概略断面図を図2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の強化ガラス板は、携帯電話、デジタルカメラ、PDA等のカバーガラス、或いはタッチパネルディスプレイ等のガラス基板として好適である。また、本発明の強化ガラス板は、これらの用途以外にも、高い機械的強度が要求される用途、例えば窓ガラス、磁気ディスク用基板、フラットパネルディスプレイ用基板、太陽電池用カバーガラス、固体撮像素子パッケージ用カバーガラス、食器への応用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に圧縮応力層を有する強化ガラス板であって、ガラスの組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 50〜70%、Al 5〜20%、B 0〜5%、NaO 8〜18%、KO 2〜9%、Fe 30〜1500ppmを含有し、波長400〜700nmにおける板厚1.0mm換算の分光透過率が85%以上、xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるxが0.3095〜0.3120、xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるyが0.3160〜0.3180であることを特徴とする強化ガラス板。
【請求項2】
圧縮応力層の圧縮応力値が400MPa以上であり、且つ圧縮応力層の深さが30μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の強化ガラス板。
【請求項3】
TiOの含有量が0〜50000ppmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の強化ガラス板。
【請求項4】
SnO+SO+Clの含有量が50〜30000ppmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の強化ガラス板。
【請求項5】
CeOの含有量が0〜10000ppm、WOの含有量が0〜10000ppmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の強化ガラス板。
【請求項6】
NiOの含有量が0〜500ppmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の強化ガラス板。
【請求項7】
板厚が0.5〜2.0mmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の強化ガラス板。
【請求項8】
102.5dPa・sにおける温度が1600℃以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の強化ガラス板。
【請求項9】
液相温度が1100℃以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の強化ガラス板。
【請求項10】
液相粘度が104.0dPa・s以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の強化ガラス板。
【請求項11】
密度が2.6g/cm以下であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の強化ガラス板。
【請求項12】
30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数が85〜110×10−7/℃であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の強化ガラス板。
【請求項13】
β−OH値が0.25mm−1以下であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の強化ガラス板。
【請求項14】
タッチパネルディスプレイの保護部材に用いることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の強化ガラス板。
【請求項15】
携帯電話のカバーガラスに用いることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の強化ガラス板。
【請求項16】
太陽電池のカバーガラスに用いることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の強化ガラス板。
【請求項17】
ディスプレイの保護部材に用いることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の強化ガラス板。
【請求項18】
強化ガラス板の端面の一部又は全部が外部に露出する形態の外装部品に用いることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の強化ガラス板。
【請求項19】
表面に圧縮応力層を有する強化ガラス板であって、ガラスの組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 50〜70%、Al 12〜18%、B 0〜1%、NaO 12〜16%、KO 3〜7%、Fe 100〜300ppm、TiO 0〜5000ppm、SnO+SO+Cl 50〜9000ppmを含有し、圧縮応力層の圧縮応力値が600MPa以上、圧縮応力層の深さが50μm以上、液相粘度が105.5dPa・s以上、β−OH値が0.25mm−1以下、波長400〜700nmにおける板厚1.0mm換算の分光透過率が87%以上、xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるxが0.3095〜0.3110、xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるyが0.3160〜0.3170であることを特徴とする強化ガラス板。
【請求項20】
ガラスの組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 50〜70%、Al 5〜20%、B 0〜5%、NaO 8〜18%、KO 2〜9%、Fe 30〜1500ppmを含有し、波長400〜700nmにおける板厚1.0mm換算の分光透過率が85%以上、xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるxが0.3095〜0.3120、xy色度座標(C光源、板厚1mm換算)におけるyが0.3160〜0.3180であることを特徴とする強化用ガラス板。

【図1】
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【公開番号】特開2012−180262(P2012−180262A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−21791(P2012−21791)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】