説明

強化コンクリートのための腐食防止剤としての、アルコキシ基含有リン‐酸素酸エステル類の使用

アルコキシ基を含むリン‐酸素酸エステル類又はエステル塩類を含有する水硬性組成物を開示する。さらに、アルコキシ基を含むりん‐酸素酸エステル類又はエステル塩類を含むか又はそれらからなる、構造用スチールの表面改質剤を開示する。本水硬性組成物及び本表面改質剤は強化コンクリートを保護するために適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は強化コンクリートの腐食防止に関する。特に、本発明は、水硬性組成物及び構造用スチールのための腐食防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物中の強化材料としてスチールが広く用いられている。特に重要なものは強化用スチールである。このスチールは水硬性材料中に配置され、水硬性材料を強化する。強化コンクリートが特に重要である。水硬性材料中に存在するスチールの腐食には、非常に大きな経済的関心がある。スチール強化材の腐食の結果として、その強度及びそれゆえコンクリートの強度は低下する。加えて、腐食生成物、例えば、酸化鉄又は酸化鉄水和物は、腐食していないスチール自体よりも大きな体積を有する。このことはコンクリート中に応力を生じさせ、応力は全体のクラック又は欠落をもたらす。
【0003】
コンクリート中に存在するスチールの腐食は、実質的に拡散律速過程である。水及び酸素はコンクリートの細孔(間隙)中に拡散することができる。間隙水は、とりわけ溶解したCa(OH)を含み、無傷のコンクリート中で、約13のpHを有する。このpHにおいては、コンクリート中に埋設されたスチール強化材は保護層によって腐食から守られている。細孔中への大気COの拡散は、とりわけ不溶性CaCOの形成をもたらし、且つ間隙水のpHは9未満の値まで低下する。しかし、これらのpH値においては、スチール上の保護層はその効果を失う。保護層の効果はまた、塩素イオンによって低減又は除去されうる。例えば海水又は除氷剤とコンクリートの接触によって、塩素イオンはコンクリート中に浸透しうる。CO量又は塩素イオン浸透量は、特に高密度、低気孔コンクリートではより少ない。しかし、浸透はまた、このように、完全に除去されることはできない。さらに、コンクリートの構造変化によってその性質もまた変化し、このことは目的とする使用によっては、しばしば望ましくない。低気孔コンクリートを使用する可能性は、したがって、多くの場合には実行可能ではない。
【0004】
例えば、ニトリル類、アミン類、アルカノールアミン類、それらと無機若しくは有機酸又はリン酸エステル類との混合物などの腐食防止剤を未硬化コンクリートに添加しうることが公知である。リン酸又はリン酸誘導体がコンクリートの腐食防止剤として使用できることも公知である。ドイツ国特許公開第3629234号は、コンクリートミックス及びモルタルミックスへの添加剤として、塩類、特に様々なアルキルホスホン酸類のNa塩を添加することを開示している。英国特許公開第2248612号及び特開平3−159945号は、コンクリートへの添加剤として、アミノ基又はヒドロキシル基を含むホスホン酸類を開示している。
【0005】
ホスホン酸、例えば、アミノトリスメチレンホスホン酸又は2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸は、スチールの腐食防止剤として公知である。しかし、これらの化合物は水硬性バインダーの硬化を遅延させる。強化コンクリートの腐食防止剤としては、(セメント重量を基にして)約0.2〜1.5重量%の範囲の添加量が、上記ホスホン酸化合物の場合には必要とされる。しかし、そのような高い添加量は、製造されるセメント系製品の初期強度値のかなりの低下をもたらし、したがってしばしば望ましくない。
【0006】
未硬化コンクリートの腐食防止処置に加えて、特に修理の場合に古いコンクリート中の保護スチール強化材の問題が実際には生じる。この目的のために、コンクリートを表面除去し又はブラスト処理し、スチール強化剤を露出させることができる。例えば、サンドブラストによって腐食物を除去した後、スチール強化材を腐食防止又は腐食防止剤を含む製品で処置し、最後にコンクリート又は補修用モルタルで再び被覆するか又は仕上げしなおすことができる。この方法は、特に強化用スチールの腐食が進んだ場合(断面でみたロスが大きすぎ、新しい強化用スチールと交換すべき場合)及びコンクリートのチッピングのある場合、並びにスチール強化材を被覆するコンクリート層中にかなり高い塩素濃度がある場合に用いられる。
【0007】
さらに、硬化した強化コンクリートの表面を、浸透性腐食防止剤で処理しうることが公知である。この手法は、例えば、”M. Haynes, B. Malric, Construction Repair, July/August 1997”又は米国特許第5071579号に開示されている。この目的のためには、腐食防止剤の溶液がコンクリート上に連続して何回も塗布又はスプレーされ、腐食防止剤が表面に浸透する。スチール強化材に至るまで内部へのさらなる浸透は、通常、表面への水の繰り返し適用によって促進される。NaPOFを、浸透性腐食防止剤として用いることができることが公知である。米国特許第5071579号はまた、式RN(CHPO2−n(n=0又は1)のホスホン酸とともにNaPOFを併用することを開示している。
【0008】
この手法は多くの利点をもっているが、これらの効果を示すことができるためには、腐食防止剤がコンクリートを通ってスチール強化材まで浸透しなければならない。覆っているコンクリートの厚さに応じて、何センチメートルもの隔たりがあることがあり、浸透には相応の長い時間を要する。しかもフルオロリン酸ナトリウムは強アルカリ媒質中で加水分解され、間隙水中に溶解したCa(OH)と難溶性(加水分解されていない状態で、若干可溶性)のカルシウム塩を形成し、この塩はコンクリート中に容易に浸透することはできない。ホスホン酸もまた、難溶性のカルシウム塩を形成しうる。したがって、これらの腐食防止剤の適用量のかなりの部分はスチール強化材に全く到達せず、したがって、腐食防止効果を示すこともできない。この腐食防止剤はしたがって、大量に用いなければならない。このことは非経済的であり、しかもそれによって望ましくない成分がコンクリートに取り込まれる。
【特許文献1】ドイツ国特許公開第3629234号公報
【特許文献2】英国特許公開第2248612号公報
【特許文献3】特開平3−159945号
【特許文献4】米国特許第5071579号
【非特許文献1】M. Haynes, B. Malric, Construction Repair, July/August 1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
〔本発明のまとめ〕
したがって、不溶性又は難溶性のカルシウム塩類を形成せずに容易に浸透して非常に有効なスチールのための腐食防止剤を含むか又はそれからなる、水硬性組成物並びに構造用スチールのための表面改質剤を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
意外にも、請求項1に記載した水硬性組成物及び請求項8に記載した構造用スチールのための表面改質剤がこの目的を達成することを発見した。
【0011】
驚くべきことに、「アルコキシ腐食防止剤」が強化スチール又は構造用スチールに関して、優れた腐食防止効果を有し、しかもセメント系モルタル及びコンクリートの硬化特性及び作業特性に実質的な影響をもたらさないことを発見した。
【0012】
〔好ましい態様の説明〕
本発明は第一に、一般式(I)、(II)、(III)又は(IV)で表される、リン−酸素酸類のアルコキシ基含有エステル類又はエステル塩類を含む水硬性組成物に関する。
【0013】
【化1】

【0014】
上記式中、
・nは0〜10の整数であり、
・m+kは2であり、mは1又は2であり、kは0又は1であり、
・R、R基のうち少なくとも1つ、及び場合によりRが、一般式-[CH2-CHR6-O]lR7(式中、lは2〜30、R及びRはそれぞれH又はCHである)のアルコキシ基であり、
且つ、R及びR基は、それらがアルコキシ基でない場合は、直鎖又は分岐した、場合により置換されたC〜Cアルキル基であり、
且つ、Rは、それがアルコキシ基でない場合は、直鎖又は分岐した、場合により置換されたC〜C20アルキル基又はアリール基であり、
・Rは、H、又は直鎖若しくは分岐した、場合により置換されたC〜Cアルキル基であり、
・Rは二価の架橋基であり、
・Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はアンモニウムイオン類からなる群から選択された少なくとも1のカチオンである。
【0015】
以下、「アルコキシ腐食防止剤」の表現は、上述した、一般式(I)、(II)、(III)又は(IV)で表される、リン−酸素酸類のアルコキシ基含有エステル類又はエステル塩類をいう。
【0016】
「アルコキシ腐食防止剤」(I)〜(IV)の式は、リンが窒素原子上に直接存在するか(n=0)又はアルキレン基(n>0)によって窒素原子から分離されていることを示している。アルキレン基は指数nによって表され、nは1〜10、特に1〜3の整数である。nは1又は0であることが好ましく、nが1であることが特に好ましい。
指数mは1又は2であり、指数kは0又は1であり、m+kの合計は2である。m及びkはそれぞれ1、すなわち、各場合において唯1つの-(CH2)n-PO(OR1)(OR2)基又は-(CH2)n-PO(OR1)(OM)基が窒素原子に直接結合されている。
【0017】
、R基のうち少なくとも1つ、及び場合により(すなわち、式(I)又は(III)の化合物が存在する場合)Rがアルコキシ基である。適したアルコキシ基は、特に、一般式-[CH2-CHR6-O]lR7(式中、lは2〜30であり、RはH及び/又はCHである)のポリオキシエチレン又はポリオキシプロピレン基である。RはH、すなわち、本アルコキシ基はポリオキシエチレン基であることが好ましい。lは3〜20であることが好ましく、特に5〜15であることが好ましい。RはCH基又はHである。
【0018】
上記アルコキシ基が、たとえば、オキシアルキル化又は工業用ポリグリコール類から出発することで入手可能であることは、当業者には公知である。したがって、lについての上記値は平均鎖長であり、この平均値はもちろん自然数である必要はなく、任意の所望の有理数であることができる。
【0019】
及びR基は、それらがアルコキシ基でない場合、直鎖又は分岐した、場合により置換されたC〜Cアルキル基である。例えば、それらはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、n−ペンチル、又はへキシル基である。それらはメチル基又はエチル基であることが好ましく、特にエチル基であることが好ましい。置換されたアルキル基は、特に2−メトキシエチル基であることができる。
【0020】
基は、それがアルコキシ基でない場合、直鎖又は分岐した、場合により置換されたC〜C20アルキル基又はアリール基である。C〜C20アルキル基が好ましい。適した基の例には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチル、n−へキシル、2−エチルへキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、又はn−ドデシル基が含まれる。特に好ましい基は、n−プロピル、n−ブチル、n−オクチル、2−エチルへキシル基である。置換されたアルキル基は、特にω−メトキシアルキル基、例えば、メトキシエチル基、であることができる。アリール基は、純粋なアリール基や、例えば、-CH2C6H5基などのアルキル置換アリール基であることができる。
【0021】
基は、それが存在する場合には、H、又は直鎖若しくは分岐した、場合により置換されたC〜Cアルキル基である。RはH又はメチルであることが特に好ましい。置換されたアルキル基は特に2−メトキシエチル基であることができる。
【0022】
式(II)及び(IV)の架橋された化合物においては、Rは存在しない代わりに二価の架橋基Rが存在し、これは少なくとも2つの炭素原子を有することが好ましい。前記基は、特に、脂肪族、脂環族、又は芳香族炭化水素から誘導される基であることができる。その例には、1,4−キシリレン、1,4−シクロヘキシレン、又はエチリデン基を含み、これらの基は場合によりさらにヘテロ原子又は置換基を有することもできる。架橋基は、2〜20の炭素原子を有するアルキレン基であることが好ましく、この場合、隣り合わないCH基がさらにO又はN原子で置換されていることができる。具体例には、-(CH2)2、-(
CH2)4、-(CH2)6、-(CH2)8、-(CH2)2-O-(CH2)2、-(CH2)2-O-(CH2)2-O-(CH2)2、-(CH2)3-O-(CH2)2-O-(CH2)2-O-(CH2)3、-(CH2)2-O-(CH2)2-O-(CH2)2-O-(CH2)2、-(CH2)3-O-(CH2)4-O-(CH2)3、-(CH2)2-O-[(CH2)2-O]j(CH2)2-O-(CH2)2、-(CH2)2-HN-(CH2)2、又は-(CH2)2-NR6-(CH2)2-NR6-(CH2)2基が含まれ、式中でjは1〜10の数であり、Rはアルキル、-(CH2)n-PO(OR1)(OR2)又は-(CH2)nPO(OR1)(OM)に相当する。Rは-(CH2)2、-(CH2)4、-(CH2)6、-(CH2)3-O-(CH2)4-O-(CH2)3、-(CH2)2-O-(CH2)2-O-(CH2)2、又は-(CH2)2-O-(CH2)2-O-(CH2)2-O-(CH2)2基であることが好ましい。
【0023】
式(I)及び(II)の化合物は、リン−酸素酸類のエステル類であり、一方式(III)及び(IV)の化合物は、リン−酸素酸類のエステル塩類である。これらのエステル塩類は、リン原子当たり1つのエステル基を有する。各基は上述のとおり選択される。式(IV)の場合には、Rは全ての場合でアルコキシ基である。
【0024】
上記エステル塩は、-(CH2)n-PO(OR1)(OM)基を有する。Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はアンモニウムイオン類からなる群から選択される少なくとも1のカチオンである。アンモニウムイオン類は、NH4+、(HOCH2CH2)3NH+、(HOCH2CH2)2NH2+、HOCH2CH2NH3+、HOCH2CH2N(CH3)H2+、(HOCH2CH2)2N(CH3)N+、又はHOCH2CH2N(CH3)2H+であってよく、さらにテトラアルキルアンモニウムイオン類、例えば、テトラメチルアンモニウム又はテトラエチルアンモニウムなどであってもよい。Na+、K+、Mg++、Ca++、Ce+++、Al+++、Zn++、又はNH4+が好ましい。簡単のために、上記式は一価カチオンの場合のみを示している。しかし、当業者は、それらから多価カチオンに対する正しい式を容易に導くことができる。
【0025】
〜R基及びMについての様々な可能な組み合わせの中から、当業者は所望する特性及び目的とする用途に応じて、適切な選択をすることができる。
【0026】
「アルコキシ腐食防止剤」の調製は以下のように達成できる。
【0027】
リン−酸素酸のジエステル類は、例えば、市販のホスホン酸エステル類、例えばジエチルホスホネートなどから出発して調製可能である。
【0028】
「ジエステル類」の語は以下において、リン原子当たりのエステル基の数に関することを意図し、すなわち分枝中に存在する全てのP原子がそれぞれについて2つのエステル基を有する化合物を示すことを意図している。したがって、「モノエステル類」の語は以下において、各リン原子が1つのエステル基及び−OH又は−O基を有する化合物を示すことを意図している。
【0029】
アルコキシル化ジエステルは、エステル交換反応により、ジエチルホスホネートをそれぞれ所望のポリエチレン又はポリプロピレングリコール又はそれぞれのモノエーテル類と反応させることによって、それらから得ることができる。エステル交換反応は、例えば、アルカリ金属類によって触媒することができ、遊離したエタノールを留去する。
【0030】
ホスホン酸自体から出発し、当業者におおむね公知の方法によって、それをオキシアルキル化することももちろん可能である。この場合は、末端OH基を有するアルコキシ基が得られる。
【0031】
n=0に対しては、得られるジアルコキシエステル類を所望するアミン、例えばエチルへキシルアミンなどと反応させることができる。本反応はおおむね知られている方法で、CCl及び触媒としての第三級アミン中で行うことができる。ジアミン類、例えばエチレンジアミンの使用は、式(II)の架橋ジエステル類の形成をもたらす。アミノポリエチレン又はポリプロピレングリコールの使用は、Rとしてアルコキシ基を有するジエステル類の形成をもたらす。
【0032】
n=1を有するジエステル類は、ジエチルホスホネート又は対応するアルコキシル化ジエステルから、アミノメチル化によって得ることができる。この場合、ホスホン酸ジエステルをホルムアルデヒド、所望するアミン、及び適切なブレンステッド酸と反応させる。
【0033】
n=2を有するジエステル類は、ビニルホスホン酸エステル類とアミン類との付加反応により、そしてn>2の場合は二重結合でのホスホン酸ジエステル類の(例えば、m=3の場合はアリルアミン類との)フリーラジカル付加反応又はアミノアルキルブロマイド類とのアルブゾフ反応によって作ることができる。
【0034】
上記エステル塩類は、上記ジエステル類のアルカリ加水分解によって、例えば、60〜100℃の温度に2〜12時間のあいだ、NaOH水溶液中でジエステル類を加熱し、実質的にリン原子当たり唯1つのエステル基を加水分解することによって調製することが好ましい。それぞれの所望する化合物に対しての最適条件は、必要な場合は、当業者によって2、3の実験だけで決定することができる。エステル塩類はまた、コンクリート中のジエステル類の加水分解で形成し、コンクリートの種類に応じて、対イオンとして他のカチオン類が生じることもありうる。
【0035】
本水硬性組成物の水硬性成分は、水の影響下で硬化する無機物質(無機材料)である。そのような水硬性無機材料の例は、例えば、セメント類、特に欧州規格EN197に準拠したセメントであり、セメントのままの形態、又はフライアッシュ、高炉スラグ、オイルシェルスラグ、天然ポゾラン、若しくはフュームド・シリカなどの潜在的水硬性バインダー類との混合物としてのセメントである。
【0036】
本発明による水硬性組成物は、さらなる成分、例えば添加剤及び助剤を用途に応じて含むことができる。
【0037】
適した添加剤は、特に不活性充填剤(フィラー)類、特に砂、砂利、石、及び石粉である。
【0038】
使用しうる助剤は、特に、硬度上昇及び/又は硬化促進剤、硬度上昇及び/又は硬化遅延剤、コンクリート可塑剤、腐食防止剤、撥水剤、又はコンクリート防水剤、空気連行剤、チキソ性付与剤、消泡剤、染料、界面活性剤、着香剤、又は殺生物剤である。
【0039】
ある態様においては、本水硬性組成物は、少なくとも1の「アルコキシ腐食防止剤」に加えて、少なくとも1の腐食防止剤を含有する。好ましい腐食防止剤は、アミノアルコール類である。これらのアミノアルコール類はまた、アミノアルコール塩類として、場合によりアミノアルコール類との混合物として、用いることができる。そのようなアミノアルコール塩類は、容易に水に溶解しうることが好ましい。適したアミノアルコール塩類は、特に、アミノアルコール類と有機酸類との塩類、特にC〜Cカルボン酸類、C〜Cヒドロキシカルボン酸類、又はC〜Cジカルボン酸類との塩類である。モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、及び2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、及びそれらと有機酸類との塩が特に適している。
【0040】
水硬性組成物の特別な場合は、それらを水と混合した後、いわゆるセメントスラリーを形成する。これらのスラリーは、実質的に、セメント−水混合物、及び少なくとも1種の「アルコキシ腐食防止剤」を含む。本発明の表面改質剤同様、それらは強化用スチールのための処理剤として適しており、特に強化コンクリート構造物の建設における強化用スチールの使用に対して適しており、さらに露出した強化用スチール、特に古いコンクリート中のものに対する処理剤として適している。
【0041】
本水硬性組成物は、各成分を混合することによって調製される。特に、「アルコキシ腐食防止剤」は、乾燥バインダー、モルタル、若しくはコンクリートに、又はバインダー、モルタル、若しくは水と混合されたコンクリートに、工場で、建設現場で、ミキサー中で、分配ポンプ(デリバリーポンプ)中で添加され、あるいは粉末計量器もしくは液体計量器を備えたスタティックミキサーを介して混合物中に直接加えられる。
【0042】
第二に、本発明は、構造用スチールのための表面改質剤に関連し、本改質剤は既に定義した「アルコキシ腐食防止剤」からなるか又はこれを含む。
【0043】
「アルコキシ腐食防止剤」は構造用スチールのための表面改質剤として直接用いることができる。
【0044】
構造用スチールのための本発明の表面改質剤は、さらなる成分、例えば、水、有機溶媒、消泡剤、染料、界面活性剤、乳化剤、腐食防止剤、安定剤、増粘剤、着香剤、又は殺生物剤などの添加剤、を用途に応じて含有することができる。これは、液状で存在することができ、又は適切な助剤を添加した場合はペースト若しくはクリーム状のコンシステンシーをもつことができ、適用ステップ当たりで多量の適用を可能にする。
【0045】
ある態様においては、表面改質剤は、少なくとも1種の「アルコキシ腐食防止剤」に加えて、少なくとも1種の腐食防止剤を含む。好ましい腐食防止剤はアミノアルコール類である。これらのアミノアルコール類はアミノアルコール塩類として、場合によりアミノアルコール類との混合物として用いることができる。そのようなアミノアルコール塩類は、容易に水に溶解可能であることが好ましい。適したアミノアルコール塩類は、特にアミノアルコール類と有機酸類、特にC〜Cカルボン酸類、C〜Cヒドロキシカルボン酸類、又はC〜Cジカルボン酸類との塩類である。モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、及び2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、及びそれらと有機酸との塩類からなる群から選択される腐食防止剤が特に好ましい。
【0046】
適した増粘剤は特に有機材料系のチキソ性付与剤であり、例えば、ひまし油誘導体、特別なポリアミド類、ポリウレア類及びポリウレタン類、又は無機材料系のもの、例えば、石灰粉末、珪藻土、火成性シリカ、及びベントナイト、並びに有機担体材料、例えばシリカ系のものである。
【0047】
さらに、その他の表面改質剤、例えば、液状又はペースト状コンシステンシーの撥水剤との組み合わせも可能である。
【0048】
水及び有機溶媒は、用いる溶媒として適している。選択は技術的観点からなされるが、環境的視点、例えば、人体への毒性、水質汚染分類、又は生分解性、からもなされることが好ましい。
【0049】
特に適した有機溶媒はアルコール類であり、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、高級アルコール類、例えば、エチレングリコール、グリセロール、ポリエーテルポリオール類(例えば、ポリエチレングリコール類)及びエーテルアルコール類(例えば、ブチルグリコール、メトキシプロパノール、及びアルキルポリエチレングリコール類)である。
【0050】
水が溶媒として特に好ましい。さらに、50重量%超、好ましくは65%超、特に80%超の水含有量を有する、アルコール類と水の混合物が特に好ましい。
【0051】
配合及び表面改質剤の目的とする用途に応じて、用いられる「アルコキシ腐食防止剤」(1種又は2種以上)が溶媒又は溶媒混合物中に部分的に可溶か又は不溶となるように溶媒を選択するべきである。表面改質剤がエマルション又はミクロエマルションの形態で使用される場合、又は浸透性の増加がそれによって達成されうる場合に、「アルコキシ腐食防止剤」に対して部分的に可溶か又は特に不溶な溶媒を用いることが好ましい。
【0052】
構造用スチール用の表面改質剤は、少なくとも1種の「アルコキシ腐食防止剤」の水溶液又は実質的な水性溶液であって特に好ましくは7〜13のpHを有するものであることが好ましい。
【0053】
表面改質剤に用いられる全ての「アルコキシ腐食防止剤」の合計の濃度は、用途及び必要に応じて当業者によって選択される。典型的には、表面改質剤中の全ての「アルコキシ腐食防止剤」の合計の割合は、100〜5重量%、特に100〜10重量%である。表面改質剤中の全ての「アルコキシ腐食防止剤」の合計について、通常の用途に対する非常に適した濃度範囲は、80〜10重量%、特に50〜10重量%である。
【0054】
追加成分が本表面改質剤中に存在する場合、それらは「アルコキシ腐食防止剤」と混合される。表面改質剤のタイプ及びコンシステンシーに応じて、混合順序が重要となりうる。表面改質剤を濃縮液の形態で調製することもできる。
【0055】
調製した後、表面改質剤は直接使用することができるか又は適用直前に再度変性することができる。特に重要な変性は溶媒、特に水による希釈である。
【0056】
本発明の水硬性組成物及び本発明の表面改質剤は、強化コンクリートを保護するために用いられる。
【0057】
「アルコキシ腐食防止剤」の腐食防止効果は、電気化学的測定の助けによって示すことができる。公知の腐食防止剤、例えば、亜硝酸塩、バナジウム酸塩、及びモリブデン酸塩がゼロサンプルと比較して静止電位のわずかな増加(ΔE)のみを示すのとは対照的に、分極抵抗性の顕著な増加が「アルコキシ腐食防止剤」によって達成されることができ、マクロ成分形成の危険度が低減される。したがって、「アルコキシ腐食防止剤」は、コンクリート中へのそれらの拡散性に関するだけでなく、それらのより優れた腐食防止効果によって、上述した腐食防止剤よりも実質的に優れている。
【0058】
本発明の水硬性組成物は様々な方法で使用することができる。
【0059】
第一に、本組成物を用いて、スチール含有構造物を製造できる。この目的のためには、本組成物を水と混合する。次にスチールをこの材料で被覆又は包み、硬化させる。強化コンクリート構造物、特にビルディング、トンネル、及び橋の建設が、これの特に好ましい例である。
【0060】
第二に、本発明の水硬性組成物は、モルタル、特にポリマー変性補修用モルタル、合成樹脂変性モルタル、又は水硬性材料及び水を含むスラッジであることができ、その中に「アルコキシ腐食防止剤」が添加されている。ここで、この組成物は水と混合された後、露出した強化用スチールに適用される。以下に述べるとおり、この強化用スチールは既に予め本発明の表面改質剤で処理されていてもよい。水と混合された上記モルタルは、強化用スチールを被覆し又は包む。「アルコキシ腐食防止剤」を含むモルタルの適用後、モルタルは硬化する。この応用は、硬化したコンクリート、特に古いコンクリートのための補修方法を示している。それは強化用スチールの腐食が進行している場合(断面ロスが大きすぎ、新しい強化用スチールで交換されるべき場合)、及びスチール強化材を被覆しているコンクリート層中にかなり高い塩素濃度が存在する下でのコンクリートのチッピングに特に用いられる。
【0061】
上記水硬性組成物は、通常湿分の不存在下で粉末として貯蔵し、使用直前に水と接触させる。用いる水の量は、硬化した組成物の最終特性にとって非常に重要である。セメントの場合、当業者はこの目的のためにいわゆる水/セメント比を用いる。水との混合は、手作業又は有利には機械的に行う。組成物の成分にタイプに応じて、水と混合した組成物は様々な特性を有する。例えば、刷毛塗り可能なセメントスラリーからポンプ注入可能なコンクリート、しっかりした補修用モルタルまで、任意の中間段階のコンシステンシーが実現できる。本組成物は、水と混合した直後は、いかなる実質的機械強度ももたない。しかし、水硬化によって硬化したシステムは、高強度材料となる。
【0062】
本発明の表面改質剤は様々な方法で用いることができる。第一に、本表面改質剤はスチール表面に適用することができる。表面改質した後、このように処理されたスチールは、水硬性組成物と水との混合後、前記組成物で被覆又は包まれる。
【0063】
本発明のある態様においては、表面改質剤はスチールの製造後、強化用スチールに適用され、その結果、強化用スチールは、それが未硬化コンクリートと組み合わされ且つ硬化されて強化されたスチール構造物を形成する前、貯蔵及び輸送の間に腐食から少なくとも一時的に保護される。
【0064】
第二に、構造用スチールのために表面改質剤は、既に硬化した強化コンクリート、特に古いコンクリートの表面に適用することができる。構造用スチールのための表面改質剤は、又は少なくともその中に含まれる腐食防止活性を有する成分は、コンクリート中に浸透し、最終的には強化用スチールに到達する。そのような使用は、強化コンクリートの補修のための方法である。
【0065】
構造用スチールのための表面改質剤の使用のさらなる可能性は、露出した強化用コンクリートへのそれらの適用である。このように処理された強化用スチールは、次に通常の補修用モルタル又は通常のコンクリートで被覆されるか、又は本発明の水硬性組成物で被覆されうる。
【0066】
構造用スチールに対する表面改質剤の適用は、様々な方法、例えば、コーティング、スプレー、特にエアレススプレー、浸漬(液に浸してつける、液面を上げてつける)、注ぐ、又は、ブラシ、ペイントローラー、布若しくはスポンジを用いての塗布によって行うことができる。適用は連続して数回繰り返すことが有利である。コンクリートの表面から構造用スチールへの表面改質剤又は「アルコキシ腐食防止剤」の浸透は、既に説明したとおり、配合物中に存在する添加剤によって高められる。一方、コンクリート中の水分が重要な役割を演じる。乾燥コンクリートは、水分で飽和されたコンクリートよりも非常に強く表面改質剤を吸い上げる。さらに、毛管力によって吸収された水によって浸透を促進するために、最後の適用後はコンクリート表面を水で湿らせておくことが有利である。
【0067】
本発明の水硬性組成物及び表面改質剤の有利な効果は、コンクリート中に導入したジエステル類がコンクリート中に存在するアルカリでゆっくり加水分解してモノエステル塩を与えるという事実によって説明される。これらはジエステル自体よりもより優れた腐食防止効果を有する。これらの化合物を用いることもまた可能であり、この場合、モノエステル塩のカルシウム塩が難溶性であり、そのためジエステル類よりもさらにゆっくりとしか拡散しないという主な利点を、本発明の方法は有している。より優れた腐食防止効果をもつモノエステルは言うならばジエステルとしてマスクされており、コンクリート中に浸透する。コンクリートの内部においてのみ、徐々に加水分解によって放出されて優れた活性を有する腐食防止性化合物が存在する。
【0068】
〔実施例〕
【0069】
【表1】

【0070】
腐食防止剤A、B、C、D、及びEの製造は以下のように行った。
【0071】
〔実施例1:ジエチルホスファイトからジ(メチルポリエチレングリコキシ)ホスファイトへのエステル交換反応〕
【0072】
【化2】

【0073】
ジエチルホスファイト(12.8g、0.093mol)及びPluriol(登録商標)A275E(50g、0.186mol、BASF AGから入手可能)を初めに500mlフラスコ中に入れた。触媒としてカリウム(20mg、0.5mmol)を加えた後、反応混合物を170℃に加熱し、エタノール(3.4g)を大気圧で留去した。残ったエタノールは20mmHgで留去した。収率は95〜98%だった。
【0074】
〔実施例2:2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチルアミン類の製造〕
200gのトリエチレングリコールモノメチルエーテル(Fluka社)を、触媒及び700mlのTHFとともに2.5lの撹拌オートクレーブに入れた。窒素置換を次に行い、その後、室温で500mlのアンモニアを加えた。その後、室温で水素を添加し、撹拌しながら200℃への加熱を行った。200℃に達したときに、水素をさらに加えることによって圧力が上昇した。その後、撹拌を200℃で12時間行い、室温まで冷却した。ろ過後、シリカゲルを加え、さらにろ過し、透明な無色の溶液をロータリーエバポレーターで溶媒留去した。アミンはさらに精製することなく用いた。
【0075】
[A及びBの製造]
【0076】
【化3】

【0077】
実施例1からのジ(メチルポリエチレングリコキシ)ホスファイト(0.1mol)を、それぞれのアミン(0.1mol)、ホルムアルデヒド(36.5%溶液、0.1mol)及びo−ホスホン酸(85%濃度、5重量%)の混合物に、〜11℃に冷却しながら、1時間で滴下して加えた。その後、反応混合物を90℃に加熱し、この温度に3時間保った。
【0078】
[C、D、及びEの製造]
【0079】
【化4】

【0080】
実施例からのジ(メチルポリエチレングリコキシ)ホスファイト(0.092mol)、又はCを製造する場合はジエチルホスファイト(0.092mol)を1:1のCCl/CHCl混合物(185ml)中に溶かし、それぞれ対応するアミン(実施例2又は市販のもの)(0.092mol)を加えた。最後に、トリエチルアミン(0.092mol)を滴下して加えた。白色のトリエチルアンモニウムハイドロクロライドの粉末をろ過し、溶媒を留去した。所望の物質が、約76%の収率で透明液体として得られた。
【0081】
「試験用モルタル0〜3mm」組成物:
880gのCEM I 42.5
320gの石灰石充填剤
180gの石英砂画分0.08〜0.2mm
280gの石英砂画分0.1〜0.5mm
370gの石英砂画分0.3〜0.8mm
440gの石英砂画分0.8〜1.2mm
630gの石英砂画分1.5〜2.0mm
800gの石英砂画分2.0〜3.0mm
【0082】
「試験用コンクリート0〜32mm」組成物:
7.50kgのCEM I 42.5(コンクリートm当たり300kgのセメントに相当)
2.50kgの石灰石充填剤
17.50kgの川砂0〜4mm
7.50kgの川砂4〜8mm
7.50kgの川砂8〜16mm
15.00kgの川砂16〜32mm
【0083】
「試験用コンクリート0〜16mm」組成物:
11.25kgのCEM I 42.5(コンクリートmあたり300kgのセメントに相当)
0.75kgの石灰石充填剤
39.00kgの川砂0〜4mm
11.25kgの川砂4〜8mm
24.00kgの川砂8〜16mm
【0084】
〔試験方法〕
モルタル及びコンクリートをEN 480-1に準拠して混合した。モルタルの特性の測定(スランプ、気孔含有量、強度)は、DIN 18555に準拠して行い、コンクリートデータの測定はDIN 1048に準拠した。
【0085】
〔比較例1:さまざまな腐食防止剤を添加したときの未硬化モルタルの特性及びモルタルの強度の発現〕
試験条件:
− CEM I 42.5
− 試験モルタルミックス0〜3mm
− 水/セメント比:0.545
− 処理温度 20℃
− セメント量を基準にした、腐食防止剤の重量%データの測定
− モルタルの後処理:20℃及び95%相対湿度に調節した部屋内で保管
【0086】
表1の試験結果は、比較例の腐食防止剤Ref.1及びRef.2は「アルコキシ腐食防止剤」A及びBと対照的に、特に比較的高い阻害剤濃度において、同一の水/セメント比で、初期圧縮強度値並びにモルタルのスランプに大きな悪影響を及ぼすことを示している。
【0087】
【表2】

【0088】
〔比較例2:さまざまな腐食防止剤及び流動性向上剤を添加したときの未硬化モルタルの特性及びモルタルの強度の発現〕
試験条件:
− 試験モルタルミックス0〜3mm
− 水/セメント:0.430
− 処理温度 20℃
− スルホン化ナフタレン/ホルムアルデヒド縮合物を基準にして1.00%の流動性改良剤の添加
− D及びEの場合は、腐食防止剤量を基準にして、トリブチルホスフェート1重量部及びミネラルオイル系消泡剤2重量部からなる消泡剤0.3重量部の添加
− セメント重量を基準にした、腐食防止剤の重量%データの測定
− モルタルの後処理:20℃及び95%相対湿度に調節した部屋内で保管
【0089】
【表3】

【0090】
流動性向上剤で変性した試験モルタルについての表2の結果は、「アルコキシ腐食防止剤」A、B、C、D、及びEは、腐食防止剤なしの試験モルタルとの比較で、かなり高い濃度においてさえ、作業性又は圧縮強度に関しての顕著な悪化はないことを示している。
【0091】
〔比較例3:空気連行剤と組み合わせて腐食防止剤を添加したときの未硬化モルタル特性及びモルタル強度の発現〕
試験条件:
− 試験モルタルミックス0〜3mm
− 水/セメント:0.545
− 処理温度 20℃
− セメント重量を基準にした、腐食防止剤又は空気連行剤の重量%データの測定
【0092】
【表4】

【0093】
− モルタルの後処理:20℃及び95%相対湿度に調節した部屋内で保管
− 天然ルートレジンに基づいた空気連行剤の添加
【0094】
「アルコキシ腐食防止剤」なしのサンプルとの比較において、腐食防止剤A及びBの結果に基づいて、表3は「アルコキシ腐食防止剤」が空気連行剤の効果に悪影響を及ぼさないことを示している。
【0095】
〔比較例4:さまざまな腐食防止剤及び空気連行剤及び流動性向上剤を添加したときのモルタルの未硬化モルタル特性〕
試験条件:
− 試験モルタルミックス0〜3mm
− 水/セメント:0.430
− 処理温度 20℃
− スルホン化ナフタレン/ホルムアルデヒド縮合物を基準にして1.00%の流動性改良剤の添加
− 天然ルート樹脂(root resin)に基づく空気連行剤の添加
− D及びEの場合は、腐食防止剤量を基準にして、トリブチルホスフェート1重量部及びミネラルオイル系消泡剤2重量部からなる、消泡剤0.3重量部の添加
− セメント重量を基準にした、腐食防止剤又は空気連行剤の重量%データの測定
− モルタルの後処理:20℃及び95%相対湿度に調節した部屋内で保管
【0096】
【表5】

【0097】
流動性向上剤及び空気連行剤で変性した試験モルタルについての表4の結果は、「アルコキシ腐食防止剤」D及びEは、腐食防止剤なしの試験モルタルとの比較で、空気連行剤がかなり高い濃度でさえ、作業性に関して顕著な悪化はないことを示している。
【0098】
〔比較例5:さまざまな腐食防止剤を添加したときの未硬化コンクリート特性及びコンクリート強度の発現〕
試験条件:
− 試験コンクリートミックス0〜32mm
− 水/セメント:0.540
− 処理温度 20℃
− セメント重量を基準にした、腐食防止剤の重量%データの測定
− コンクリートの後処理:20℃及び95%相対湿度に調節された部屋内に保管
− 120mmの辺の長さをもつ立方体の圧縮強度試験
【0099】
【表6】

【0100】
表5の結果は、「アルコキシ腐食防止剤」A及びBを含む試験コンクリートについては、腐食防止剤なしの試験コンクリートとの比較で、コンクリートの作業性又は空気含有量のいずれかにおいて顕著な差を発見することはできないことを示している。
【0101】
〔比較例6:電気化学的測定:さまざまな腐食防止剤の比較〕
構造用スチールST−37と接触した腐食防止剤の溶液の直線分極抵抗を、Parkin-Elmer社のポテンシオスタット−ガルバノスタットVersastat IIを用いて測定した。用いた参照電極はAg/AgCl(3M KCl溶液、E=197mV)だった。3cmの面積及び作用電極から8〜12cmの隔たりをもつプラチナ網又はらせん状プラチナを反対電極(作用電極に平行に配置)として用いた。評価する試験シートを作用電極として用いた。試験シート(2×5cm、スチール1.0037)に以下の前処理を施した。
(A)カソードアルカリ脱脂
(B)水中に浸漬
(C)10%のクエン酸ジアンモニウム中でのカソード錆除去
(D)水中に浸漬
【0102】
0.03モルの塩化ナトリウム溶液中に0.5重量%の各腐食防止剤からなる試験電解質に接触した1cmの丸い面積の試験シートを、測定セル中に置いた。
0.166mV/sの測定速度で静止電位付近の20mVの範囲で直線分極を測定した。
【0103】
【表7】

【0104】
表6の電気化学的測定の測定値は、構造用スチールのための公知の腐食防止剤としての亜硝酸カルシウム(Ref.3)は分極抵抗の増加から及び静止電位の増加から、腐食防止剤としての効果を実質的に及ぼすけれども、ゼロサンプルと比較した静止電位の500mVより大きな非常にシャープな増加(ΔE)が起こり、このことは公知の腐食防止剤の主な欠点として知られている。これは実際にマクロ成分の形成をもたらしうる。「アルコキシ腐食防止剤」C、D、及びEの場合は、分極抵抗の顕著な増加が同様に達成され、したがって、腐食防止剤としての実質的効果が見られ、さらに同時に、静止電位はわずかに100〜200mVしか増加しない。そのような小さな電位差の場合は、マクロ成分の形成の恐れは実質的に低減される。これらの測定によって、「アルコキシ腐食防止剤」が公知の腐食防止剤よりも優れていることを示すことができる。
【0105】
〔比較例7:硬化したコンクリートサンプルでの、表面に適用された腐食防止剤の浸透〕
「アルコキシ腐食防止剤」の浸透挙動を試験するために、小さなコンクリートパネル(長さ75mm、幅20mm、及び厚さ4mm)を用いた。この小さなコンクリートパネルを(薄層クロマトグラフィー同様に)各場合に、水中に10重量%の腐食防止剤を含む試験溶液中に垂直に置き、それによってコンクリートパネルを底辺で約1cmまで溶液中に浸けた。試験溶液の蒸発を防止するために、試験は密閉容器(例えばスナップ式の蓋をもつ適切な大きさの小さなガラス容器)内で行った。一日後、試験溶液はその小さなパネルの上辺までの上方へ移動した。分析のために、一日後にその小さなコンクリートパネルの上1/3からサンプルを切り取り、細かく粉砕して、リン含有量を分析した。
【0106】
腐食防止剤の加水分解物(加水分解物A)を以下のように調製した:
水道水50.0gと水酸化ナトリウム5.4gを撹拌しながら腐食防止剤A50.0gに加えた。得られた溶液を室温で2日間ゆっくり撹拌した。次に、さらに水道水を加えることによって溶液の固形分量を10重量%に調節した。
【0107】
【表8】

【0108】
表7の結果は、コンクリート中へかなりの量で腐食防止剤が浸透することを示しており、このことはゼロサンプルと比較して顕著に高いリン濃度から明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)、(II)、(III)又は(IV)で表される、リン−酸素酸類のアルコキシ基含有エステル類又はエステル塩類を含むことを特徴とする水硬性組成物。
【化1】

(上記式中、
・nは0〜10の整数であり、
・m+kは2であり、mは1又は2であり、kは0又は1であり、
・R、R基のうち少なくとも1つ、及び場合によりRが、一般式-[CH2-CHR6-O]lR7(式中、lは2〜30、R及びRはそれぞれH又はCHである)のアルコキシ基であり、
且つ、R及びR基は、それらがアルコキシ基でない場合は、直鎖又は分岐した、場合により置換されたC〜Cアルキル基であり、
且つ、Rは、それがアルコキシ基でない場合は、直鎖又は分岐した、場合により置換されたC〜C20アルキル基又はアリール基であり、
・Rは、H、又は直鎖若しくは分岐した、場合により置換されたC〜Cアルキル基であり、
・Rは二価の架橋基であり、
・Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はアンモニウムイオン類からなる群から選択された少なくとも1のカチオンである。)
【請求項2】
nが0又は1であることを特徴とする、請求項1記載の水硬性組成物。
【請求項3】
kが1であり且つmが1であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
lが3〜20の値を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
がHであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
がHであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の水硬性組成物。
【請求項7】
モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、及びそれらと有機酸との塩からなる群から選択される少なくとも1種のさらなる腐食防止剤を追加して含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の水硬性組成物。
【請求項8】
構造用スチールのための表面改質剤であって、下記一般式(I)、(II)、(III)又は(IV)で表される、リン−酸素酸類のアルコキシ基含有エステル類もしくはエステル塩類を含むか又はこれらからなることを特徴とする表面改質剤。
【化2】

(上記式中、
・nは0〜10の整数であり、
・m+kは2であり、mは1又は2であり、kは0又は1であり、
・R、R基のうち少なくとも1つ、及び場合によりRが、一般式-[CH2-CHR6-O]lR7(式中、lは2〜30、R及びRはそれぞれH又はCHである)のアルコキシ基であり、
且つ、R及びR基は、それらがアルコキシ基でない場合は、直鎖又は分岐した、場合により置換されたC〜Cアルキル基であり、
且つ、Rは、それがアルコキシ基でない場合は、直鎖又は分岐した、場合により置換されたC〜C20アルキル基又はアリール基であり、
・Rは、H、又は直鎖若しくは分岐した、場合により置換されたC〜Cアルキル基であり、
・Rは二価の架橋基であり、
・Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はアンモニウムイオン類からなる群から選択された少なくとも1のカチオンである。)
【請求項9】
nが0又は1であることを特徴とする、請求項8に記載の構造用スチールのための表面改質剤。
【請求項10】
kが1であり且つmが1であることを特徴とする、請求項8又は9に記載の構造用スチールのための表面改質剤。
【請求項11】
lが3〜20の値を有することを特徴とする、請求項8〜10のいずれか一項に記載の構造用スチールのための表面改質剤。
【請求項12】
がHであることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか一項に記載の構造用スチールのための表面改質剤。
【請求項13】
がHであることを特徴とする、請求項8〜12のいずれか一項に記載の構造用スチールのための表面改質剤。
【請求項14】
モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、及びそれらと有機酸との塩からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる腐食防止剤を追加して含むことを特徴とする、請求項8〜13のいずれか一項に記載の構造用スチールのための表面改質剤。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の水硬性組成物を水と混合し、それによってスチールを被覆又は包み、且つ硬化させることを特徴とするスチール含有構造物の製造方法。
【請求項16】
請求項8〜14のいずれか一項に記載の表面改質剤をスチール表面に適用し、次に、水と混合した後の水硬性組成物でその表面処理したスチールを被覆又は包むことを特徴とする、スチール含有構造物の製造方法。
【請求項17】
請求項8〜14のいずれか一項に記載の表面改質剤をコンクリート表面に適用することを特徴とする、強化コンクリートの補修方法。
【請求項18】
請求項8〜14のいずれか一項に記載の表面改質剤を露出された強化用スチールに適用し、次に補修用モルタル又はコンクリートで再び覆うことを特徴とする、強化コンクリートの補修方法。
【請求項19】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の水硬性組成物を露出された強化用スチールに適用することを特徴とする、強化コンクリートの補修方法。
【請求項20】
強化コンクリートを保護するための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の水硬性組成物の使用。
【請求項21】
強化コンクリートを保護するための、請求項8〜14のいずれか一項に記載の表面改質剤の使用。
【請求項22】
リン−酸素酸類のアルコキシ基含有エステル類又はエステル塩類が、乾燥バインダー、モルタルもしくはコンクリートに、又は水と混合された前記バインダー、モルタルもしくはコンクリートに、工場内で、建設現場で、ミキサー中で、もしくは分配ポンプ中で添加され、あるいは粉体計量装置もしくは液体計量装置を備えたスタティックミキサーを介して前記ミックスに直接添加されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の水硬性組成物の製造方法。

【公表番号】特表2006−524749(P2006−524749A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500125(P2006−500125)
【出願日】平成16年5月4日(2004.5.4)
【国際出願番号】PCT/EP2004/050699
【国際公開番号】WO2004/099098
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(504274505)シーカ・テクノロジー・アーゲー (227)
【Fターム(参考)】