説明

強化ポリアミド樹脂組成物及びそれを用いた成形品

【課題】 機械的物性に優れ、低吸水性で、高流動性でありながら、バリ発生量が小さく、携帯電話、携帯用パソコン等の薄肉軽量化電化製品の筐体用に好適な成形材料を提供する。
【達成手段】 (a)デカンテレフタルアミド単位50〜98モル%及び(b)ウンデカンアミド単位又は/及びドデカンアミド単位50〜2モル%からなる半芳香族ポリアミド樹脂(A)、脂環族基を有し芳香族基を有さない非晶性ポリアミド樹脂(B)、ポリアミドと反応しうる官能基を有するオレフィン系エラストマー(C)、繊維状強化材(D)及びテルペンフェノール系樹脂(E)を含有し、かつ、下記(イ)の特性を満足することを特徴とする強化ポリアミド樹脂組成物。(イ)半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点+℃での溶融粘度が、せん断速度12.2sec−1において3000〜5000Pa・sで、かつせん断速度1216sec−1において100〜450Pa・sである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低吸水性の特定の半芳香族ポリアミド樹脂に対してガラス繊維を配合した強化ポリアミド樹脂組成物に関する。詳しくは、低吸水性で機械的強度、靭性等の物性に優れ、薄肉成形時のバリ発生量が小さく、薄肉軽量化電化製品、例えば携帯電話、携帯用の音楽を聞く製品、携帯用の映像を見る製品および携帯用パソコン等の筐体用材料に好適な強化ポリアミド樹脂組成物及びそれを用いた成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電機電子機器の筐体材には成形品の外観、低ソリ性などから、ポリカーボネートやABSに代表される非晶性の熱可塑性樹脂が使用されて来た。近年、携帯電話やパソコン機器に代表される電機電子製品の筐体材は軽量化のため、薄肉化が進んでいる。そのため、材料に求められる性能も外観はもちろんのこと、剛性・靭性などの機械的物性が優れるだけでは無く、薄肉のため衝撃性に優れる必要がある。成形の面では、薄肉での成形性が可能な良好な流動性と低バリ性を必要とする。さらに、一般的に電機電子製品は複数の部品から構成され、携帯電話に代表される様に製品に機構部位が存在する場合は極めて高度な低ソリ性、寸法安定性も要求される。ポリカーボネートやABSなどの非晶性の熱可塑性樹脂はガラス繊維を充填することで、強度・剛性を向上することは可能であるが、一方で流動性が低下するため薄肉製品の成形が困難になる問題点があった。
【0003】
これに対し、結晶性の熱可塑性樹脂は、一般的に流動性に優れ、特にポリアミド樹脂は、機械的物性、耐熱性、耐衝撃性、耐薬品性に優れるため、自動車部品、電気部品、電子部品および家庭雑貨等に広く使用されている。なかでもガラス繊維を代表とする無機強化材を添加したポリアミド樹脂は剛性、強度、耐熱性等が大幅に向上することが知られている。しかし、無機強化材の大量添加は、外観の低下、粘度上昇等の問題が発生する。高剛性かつ良外観を得るポリアミド樹脂組成物として、特許文献1、2が提案されているが、靭性及び耐衝撃強度が低く、薄肉成形品に必要な性能を満たしているとは言い難い。
【0004】
特許文献3には、結晶性脂肪族ポリアミド樹脂と非晶性の芳香族成分を有するポリアミド樹脂の混合物に、酸変性スチレン系エラストマーとガラス繊維を配合することで機械物性、外観特性、低バリ性、薄肉成形性を改善する樹脂組成物が提案されている。しかしながら、具体的に開示された組成物では、製造法が複雑である点、吸水寸法変化の点、バリ発生抑制などの点で改善の余地がある。
【0005】
また、吸水による強度、剛性の低下を抑制する狙いの樹脂として、芳香族成分を共重合した6T共重合ポリアミドなどの芳香族系ポリアミドがあり、ガラス繊維を高充填した組成物が知られているが(例えば、特許文献4)、6T共重合ポリアミドは一般的に靭性、衝撃性が低いという問題点がある。さらに、吸水による曲げ弾性率の低下も大きい。また、芳香族ポリアミドをベースとしたポリアミドは、金型温度を極めて高くして成形しなければ外観や結晶化度が充分ではなく、結果として、バリの発生を抑制することが出来ない問題点がある。
【0006】
また、ポリアミド樹脂組成物の吸水性を低下させるために非吸水成分をアロイすることが提案されている(たとえば、特許文献5)。
該文献ではガラス繊維を配合した6T共重合ポリアミドにポリプロピレンをアロイすることが検討されている。しかし、この方法では吸水性は低下するが、ポリプロピレンの剛性が低いため、アロイすることで剛性が大幅に低下してしまうという問題点がある。
この様に、薄肉の筐体製品を提供する方法は多数提案されているが、実使用において必要な特性を満たす樹脂組成物は提案されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−154316号公報
【特許文献2】特開2001−98149号公報
【特許文献3】特開2009−215534号公報
【特許文献4】特許第3155619号公報
【特許文献5】特許平6−100775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
機械的強度及び靭性等の物性に優れ、低吸水性で吸水寸法変化、吸水による曲げ弾性率変化が少ないのみならず、高流動性でありながら、薄肉成形時のバリ発生量が小さく、携帯電話、携帯用の音楽を聞く製品、携帯用の映像を見る製品および携帯用パソコン等の薄肉軽量化電化製品の筐体用に好適な成形材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、優れた薄肉成形性とバリ発生の抑制という、相反する要求特性の両立について鋭意検討した結果、溶融成形樹脂の金型キャビティ内への充填の最盛期である射出速度が速い段階(すなわち、高いせん断速度)で溶融粘度が低下すれば高流動性を発現でき、充填の終期の射出速度が遅い段階(すなわち、低いせん断速度)で、溶融粘度が上昇すればバリ発生を抑制することができるとの考えに基づいて検討した結果、特定の半芳香族ポリアミド樹脂がこの特性を発現しやすいことを見出した。そこで、特定の半芳香族ポリアミド樹脂をベースとし、かつ、半芳香族ポリアミド樹脂(A)と反応しうる官能基を有するオレフィン樹脂、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂(C)を配合することで、高せん断時の溶融粘度と低せん断時の溶融粘度を改良したのである。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) (a)デカンテレフタルアミド単位50〜98モル%及び(b)ウンデカンアミド単位又は/及びドデカンアミド単位50〜2モル%からなる半芳香族ポリアミド樹脂(A)70〜25質量%、脂環族基を有し芳香族基を有さない非晶性ポリアミド樹脂(B)1〜20質量%、ポリアミドと反応しうる官能基を有するポリオレフィン系樹脂、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂(C)0.5〜10質量%、繊維状強化材(D)20〜60質量%及びテルペンフェノール系樹脂(E)を0.5〜5質量%含有し、かつ、下記(イ)の特性を満足することを特徴とする強化ポリアミド樹脂組成物。
(イ)半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点+35℃での溶融粘度が、せん断速度12.2sec−1において3000〜5000Pa・sで、かつせん断速度1216sec−1において100〜450Pa・sである。
(2)半芳香族ポリアミド樹脂(A)が、(a)デカンテレフタルアミド単位75〜98モル%及び(b)ウンデカンアミド単位又は/及びドデカンアミド単位25〜2モル%からなる(1)に記載の強化ポリアミド樹脂組成物。
(3) 繊維状強化材(D)が、長径/短径の比が1.5〜10の扁平断面を有する扁平断面ガラス繊維である(1)または(2)の何れかに記載の強化ポリアミド樹脂組成物。
(4)脂環族基を有し芳香族基を有さない非晶性ポリアミド樹脂(B)が、炭素原子12〜18個の脂肪族ジカルボン酸とビス(4−アミノ−シクロヘキシル)メタン、ビス(3−アミノ−シクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノ−シクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノ−シクロヘキシル)プロパンから選択された脂環族ジアミンとの重縮合により形成された非晶性ポリアミド樹脂である(1)〜(3)のいずれかに記載の強化ポリアミド樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、優れた機械物性、靭性、低ソリ性、薄肉成形性を有し、しかも薄肉成形品のバリ発生量が少なく、吸水による寸法変化が小さい。これらの性能を備えるために、機械特性と共に軽量性、組み付け性や機構性が重視される携帯用電化製品、例えば、例えば携帯電話、携帯用の音楽を聞く製品、携帯用の映像を見る製品および携帯用パソコン等の筐体用材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、バリ発生の評価を実施したモデルの成形品の投影図である。携帯電話モデル形状であり、詳細は以下の通り。 成形品厚さ:1.3mm ゲート位置:図中●印位置、φ1.2mmピンゲート ガス抜きとして、成形品全周に0.02mmの溝を設置 バリ観察部(1):ゲート付近の図中□印位置 バリ観察部(2):最終充填部付近の図中■印位置
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を具体的に説明する。
本発明では、携帯およびパソコン等の筐体材の薄肉成形品に必要な性能、特に成形性、低バリ性、低吸水寸法変化、低温衝撃性を実現するために結晶性の半芳香族ポリアミド樹脂を使用している。本発明における結晶性の半芳香族ポリアミド樹脂(A)としては分子中に酸アミド結合(−CONH―)を有し、かつ芳香族環(ベンゼン環)を有する半芳香族ポリアミド樹脂で、結晶融点を有するものである。
具体的には、a)デカンジアミンとテレフタル酸との等量モル塩から得られる構成単位50〜98モル%、及び(b)11−アミノウンデカン酸又は、12−アミノドデカン酸、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタムのうち1種もしくは混合物から得られる構成単位50〜2モル%からなるポリアミド樹脂である。本発明における半芳香族ポリアミド樹脂は、(c)前記(a)の構成単位以外のジアミンとジカルボン酸の等量モル塩から得られる構成単位、または前記(b)の構成単位以外のアミノカルボン酸もしくはラクタムから得られる構成単位を最大30モル%まで含有することができる。
【0014】
本発明における半芳香族ポリアミド樹脂(A)の96%−硫酸濃度(ポリアミド樹脂濃度1g/dl)測定による相対粘度は、1.6〜2.8の範囲が好ましい。特に好ましい相対粘度は1.8〜2.6の範囲である。なお1.6未満ではタフネスが低下するため好ましくなく、2.8を超えると流動性が低下して好ましくない。また、脂肪族ポリアミドを配合する時は、それぞれのポリアミドの相対粘度が上記範囲に入るポリアミドを使用する必要がある。
【0015】
本発明における半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、上記(a)成分及び(b)成分以外に、(c)上記(a)の構成単位以外のジアミンとジカルボン酸の等量モル塩から得られる構成単位、または上記(b)の構成単位以外のアミノカルボン酸もしくはラクタムから得られる構成単位を最大30モル%共重合しても良い。(c)成分としては、共重合ポリアミドに10Tポリアミドや11ポリアミド、12ポリアミドによっては得られない他の特性を付与したり、10Tポリアミドや11ポリアミド、12ポリアミドによって得られる特性をさらに改良する役割を有するものである。
【0016】
(c)に用いる共重合成分は、具体的には以下のような共重合成分が挙げられる。アミン成分としては、1,2−エチレンジアミン、1,3−トリメチレンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ベンタメチレンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,11−ウンデカメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、1,13−トリデカメチレンジアミン、1,16−ヘキサデカメチレンジアミン、1,18−オクタデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン、ピペラジン、シクロヘキサンジアミン、ビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタン、ビス−(4,4’−アミノシクロヘキシル)メタン、イソホロンジアミンのような脂環式ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミンおよびこれらの水添物等があげられる。ポリアミドの酸成分としては、以下に示す多価カルボン酸、もしくは酸無水物を使用できる。多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボンル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホン酸ナトリウムイソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,11−ウンデカン二酸、1,12−ドデカン二酸、1,14−テトラデカン二酸、1,18−オクタデカン二酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族や脂環族ジカルボン酸等があげられる。また、ε−カプロラクタムなどのラクタムおよびこれらが開環した構造であるアミノカルボン酸などがあげられる。
【0017】
具体的な(c)成分としては、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリパラキシリレンアジパミド(ポリアミドPXD6)、ポリテトラメチレンセバカミド(ポリアミド410)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリテトラメチレンテレフタルアミド(ポリアミド4T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミド5T)、ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミドM−5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド6T(H))ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテレフタルアミド(ポリアミドPACMT)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンイソフタルアミド(ポリアミドPACMI)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテトラデカミド(ポリアミドPACM14)などが挙げられる。
前記構成単位の中でも、好ましい(c)成分の例としては、加工性、低吸水性、耐衝撃性向上のためにポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)やポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリデカメチレンドデカアミド(ポリアミド1012)などが挙げられる。共重合ポリアミド中の(c)成分の配合割合は、最大30モル%までであることが好ましく、さらに好ましくは5〜20モル%である。(c)成分の割合が上記下限未満の場合、(c)成分による効果が十分発揮されないおそれがあり、上記上限を超える場合、必須成分である(a)成分や(b)成分の量が少なくなり、本発明の共重合ポリアミドの本来意図される効果が十分発揮されないおそれがあり、好ましくない。
本発明における半芳香族ポリアミド樹脂は、特性上大きな差異は無いが、植物由来の原料を用いることが、低炭素社会、環境調和を目指す上で好ましい。具体的には、食用と競合しないヒマシ油由来原料を用いることが好ましく、本発明内の(a)成分中のデカンジアミン、(b)成分中としてアミノウンデカン酸、(c)成分としてセバシン酸は植物由来原料を用いることが好ましい。本発明の好ましい樹脂組成としては、これら植物原料を用い極めて高い植物由来原料比率を示すポリアミド10T/11、ポリアミドPA10T/1010/11が挙げられる。
【0018】
本発明のポリアミド樹脂組成物においては、成形品の外観を良くし、低バリ性、低ヒケ性を付与するために、脂環族基を有し芳香族基を有さない非晶性ポリアミド樹脂(B)を配合することができる。本発明における非晶性とは、JIS K7121に準じて昇温速度20℃/分でDSC測定した場合に、明確な融点ピークを示さないものである。
本発明における脂環族基を有し芳香族基を有さない非晶性ポリアミド樹脂(B)を構成するモノマーの具体例としては、ビス(4−アミノ−シクロヘキシル)メタン(PACMと略記することがある)、ビス(3−アミノ−シクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノ−シクロヘキシル)メタン(MACMと略記することがある)、2,2−ビス(4−アミノ−シクロヘキシル)プロパン、イソホロンジアミン、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム類、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などのアミノカルボン酸、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3−アミノシクロヘキシル−4−アミノシクロヘキシルメタン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、ビス(アミノエチル)ピペラジンなどのジアミン類が挙げられ、また、ジカルボン酸類としては、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸(12と略記することがある)、トリデカン二酸、テトラデカン二酸(14と略記することがある)など、炭素原子数4〜36の直鎖状または分岐鎖を有する脂肪族ジカルボン酸類が挙げられる。好ましくはドデカン二酸、テトラデカン二酸であり、より好ましくはテトラデカン二酸である。
【0019】
上記モノマーの組み合わせとしては、ビス(4−アミノ−シクロヘキシル)メタン(PACM)、ビス(3−アミノ−シクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノ−シクロヘキシル)メタン(MACM)、2,2−ビス(4−アミノ−シクロヘキシル)プロパンなどの脂環族ジアミンと、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸などの直鎖状ジカルボン酸との組み合わせが溶融流動特性の点で好ましい。
また、MACMとドデカン二酸、MACMとテトラデカン二酸の組み合わせが、吸水率が低く、吸水寸法変化が小さい点で好ましい。中でも、MACM14は、成形温度を300℃以下で成形でき、金型温度を100℃でも薄肉成形性とバリ発生抑制性が優れ、強度、剛性、耐衝撃性、靭性に優れた成形品が得られやすい点で好ましい。
【0020】
本発明に用いる非晶性ポリアミド樹脂(B)の分子量は特に限定されないが、下記に記載の方法で測定した数平均分子量が、3000〜40000の範囲であることが好ましい。数平均分子量が3000より小さいと機械的強度が低下し、逆に40000より大きいと分子量が高くなりすぎて成形性が悪くなるので好ましくない。
また、非晶性ポリアミド樹脂(B)の配合量は、本発明における半芳香族ポリアミド樹脂(A)70〜25質量%に対して、1〜20質量%である。(B)の配合量は、3〜15質量%が好ましく、5〜12質量%がより好ましい。上記配合量未満だと、(B)成分の効果が出ず、上記配合量を超えると、半芳香族ポリアミド樹脂の特性が発現されにくくなる傾向がある。(A)を100質量部としたとき、(B)の配合量は、2〜40質量部が好ましい。
【0021】
本発明のポリアミド樹脂組成物においては、更に低バリ性を付与するために、ポリアミドと反応しうる官能基を有するポリオレフィン系樹脂、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂(C)を配合する。
ポリオレフィン系樹脂として、各種ポリエチレン、ポリプロピレンおよびそれらの各種共重合物、オレフィン系エラストマーとしてエチレン/プロピレン/ジェンゴム(EPDM)、エチレン/プロプレンゴム(EPR)、ブチルゴム(IIR)等および動的架橋したオレフィン系エラストマーである。また、スチレン系エラストマーとしてスチレン/ブタジェン/スチレンブロック共重合体(SBS)とその水素添加物であるスチレン/エチレン・ブチレン/スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体(SIS)とその水素添加物であるスチレン/エチレン・プロピレン/スチレンブロック共重合体(SEPS)等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。
これらのエラストマー系樹脂のうち、特に好ましいものは各種の低密度或いは高密度ポリエチレン、エチレン/プロプレンゴム(EPR)およびスチレン/エチレン・ブチレン/スチレンブロック共重合体(SEBS)等の樹脂である。
【0022】
樹脂(C)にポリアミド樹脂と反応しうる官能基を含有させる方法、変性の方法は特に限定されない。ポリアミド樹脂と反応しうる官能基とは、具体的にアミノ基、カルボン酸基、エポキシ基、オキサゾリン基、イソシナネート基、酸無水物基等が例示されるが、これらの中で酸無水物基が最も反応性に優れているので好ましい。
【0023】
変性の方法として簡便なのは、不飽和酸および/またはその誘導体で変性する方法である。不飽和酸としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、ナジック酸等のα,β−不飽和カルボン酸が挙げられる。また、その誘導体としては、酸無水物、酸ハライド、アミド、イミド、エステル等があり、具体的には、塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル等が挙げられる。これらの中では、不飽和ジカルボン酸またはその酸無水物が好ましく、特に、マレイン酸、イタコン酸又はこれらの酸無水物が好ましい。
【0024】
不飽和酸および/またはその誘導体による変性を効率的に行うためには、ラジカル発生剤を使用することが好ましい。ラジカル発生剤としては、公知の有機過酸化物、アゾ化合物などが挙げられる。
【0025】
官能基を有するエラストマー系樹脂がポリアミド樹脂と反応することによって、本発明のポリアミド樹脂組成物の流動特性が低バリ性を付与するのにさらに好ましく変化する。すなわち、低剪断速度では溶融粘度が著しく高くなり、一方で高剪断時の粘度は大きく変化しないため、同じ圧力での射出時の流動長の低下は少なく、成形品のバリ防止に極めて有効となる。
【0026】
ポリアミドと反応しうる官能基を有する樹脂(C)の配合量は、本発明における半芳香族ポリアミド樹脂(A)70〜25質量%に対して、0.5〜10質量%である。(C)の配合量は、1〜8質量%が好ましく、2〜5質量%がより好ましい。全ポリアミド樹脂100質量部としたとき、(C)の配合量は、1〜20質量部が好ましく、より好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは、2〜9質量部である。
樹脂(C)の配合量は、少なすぎるとバリ抑制の改良効果が小さく、多すぎると熱間剛性が低下して金型からの突き出し時に変形したり、粘度が高くなりすぎて成形性を逆に損なう場合があり、好ましくない。
【0027】
本発明で用いる繊維状強化材(D)としては、強度や剛性および耐熱性等の物性を最も効果的に改良するものであり、具体的にはガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ジルコニヤ繊維等の繊維状のもの、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム等のウイスカー類、針状ワラストナイト、ミルドフィバー等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
特にガラス繊維、炭素繊維などが好ましく用いられる。これらの繊維状強化材は、有機シラン系化合物、有機チタン系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ系化合物等のカップリング剤で予め処理をしてあるものが好ましく、カルボン酸基又は/及びカルボン酸無水物基と反応しやすいものが特に好ましい。カップリング剤で処理してあるガラス繊維を配合したポリアミド系樹脂組成物では優れた機械的特性や外観特性の優れた成形品が得られるので好ましい。また、他の繊維状強化材においても、カップリング剤が未処理の場合は後添加して使用することが出来る。
ガラス繊維としては、繊維長1〜20mm程度に切断されたチョップドストランド状ものもが好ましく使用できる。ガラス繊維の断面形状としては、円形断面及び非円形断面のガラス繊維を用いることができる。ガラス繊維の断面形状としては、低ソリ性にするために、非円形断面のガラス繊維が好ましい。非円形断面のガラス繊維としては、繊維長の長さ方向に対して垂直な断面において略楕円系、略長円系、略繭形系であるものをも含み、偏平度が1.5〜8であることが好ましい。ここで偏平度とは、ガラス繊維の長手方向に対して垂直な断面に外接する最小面積の長方形を想定し、この長方形の長辺の長さを長径とし、短辺の長さを短径としたときの、長径/短径の比である。ガラス繊維の太さは特に限定されるものではないが、短径が1〜20μm、長径2〜100μm程度である。繊維状強化材(D)の配合量は、本発明における半芳香族ポリアミド樹脂(A)70〜25質量%に対して、20〜60質量%である。(D)の配合量は、25〜60質量%が好ましく、30〜55質量%がより好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂(A)を100質量部としたとき、20〜150質量部を添加することが好ましい。
【0028】
本発明に用いるテルペンフェノール系樹脂は、特に本発明に用いる非晶性ポリアミド樹脂と相溶して非晶性ポリアミド樹脂の見かけのガラス転移温度を下げることができ、かつ溶融流動性を高めることができるため、テルペンフェノール系樹脂を配合しない場合に比べて成形温度や金型温度を下げても充填性に問題が出難いため、冷却時間の短縮が可能となったり、成形条件幅を広く取ることができる。特に、MACM14との組み合わせは、見かけのガラス転移温度低下が大きく好ましい。
テルペンフェノール樹脂は、多くの水酸基を有するため、ポリアミドのアミド基中に水素結合によって取り込まれ、その結果ポリアミドのガラス転移温度を見かけ上下げることが可能である。吸水や液状の可塑剤によっても同様の効果を出し得るが、成形や押出し加工によって揮発するために、効果が出にくかったり、安定しなかったりする。また、薄肉の成形品の場合、成形時の揮発量が多いと製品の最終充填部が焦げたりして良品が取りにくい。テルペンフェノール樹脂は、分子量が比較的低い樹脂であるために、揮発せずにポリアミド樹脂中に残存し、安定した効果を発揮することが可能である。
本発明に用いるテルペンフェノール系樹脂は、テルペン類モノマーとフェノール系モノマーから成るモノマー成分を有機溶媒中でフリーデルクラフト型触媒存在下で共重合、または共重合後さらに水素添加処理して得られる反応混合物の一部または組成物全体を意味する。
【0029】
テルペン類モノマーとは、(C)nの分子式で表される炭化水素化合物またはこれから導かれる含酸素化合物であり、例えばモノテルペン類(n=2の場合、ミルセン、オシメン、ピネン、リモネン、シトロネオール、ボルネオール、メントール、ショウノウ等)、セスキテルペン類(n=3の場合、クルクメン等)、ジテルペン類(n=4の場合、カンホレン、ヒノキオール等)、テトラテルペン類(n=8の場合、カロチノイド等)、ポリテルペン(天然ゴム)などを挙げることができる。好ましいテルペン類は、モノテルペン類であり、特にピネン、リモネン等である。
【0030】
フェノール類モノマーとは、ベンゼン環、ナフタレン環等の芳香環にヒドロキシル基を少なくとも1個有する化合物であり、芳香環に置換基(例えばハロゲン原子、アルキル基等)を有していても良い。例えばフェノール、クレゾール、キシレノール、ナフトール、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ピロガロール等が挙げられる。
【0031】
耐変色性の点で好ましいテルペンフェノール系樹脂は、モノテルペン類とフェノールの共重合体である。α−ピネンやリモネンなどのモノテルペン類とフェノールとの共重合体が工業的に製造が容易でより好ましい。
本発明に用いるテルペンフェノール系樹脂の水酸基価(KOHmg/g)は、通常、150以上であることが好ましく、吸水による寸法変化の抑制効果の観点から、より好ましくは200以上である。
【0032】
本発明に用いるテルペンフェノール系樹脂の重合度は、数平均分子量500〜10000程度が好ましい。500未満であると、低分子量成分が加熱時に発煙して作業性が悪化する可能性がある。10000を超えると脆い材料となり、粘着性や相溶性の点で影響が出ることがある。具体的には、例えばヤスハラケミカル(株)製のYSポリスターシリーズ、マイティエースシリーズなどがある。
【0033】
本発明におけるテルペンフェノール系樹脂(E)の配合量は、本発明における半芳香族ポリアミド樹脂(A)70〜25質量%に対して、0.5〜5質量%である。(E)の配合量は、1〜4質量%が好ましく、2〜3質量%がより好ましい。ポリアミド樹脂全体を100質量部としたとき、(E)の配合量は、0.5〜10質量%であることが好ましい。上記範囲未満では、配合効果の発現がほとんど認められず、上記範囲を超えると、機械的強度が低下したり、表面に析出したテルペンフェノールが剥離したりするため好ましくない。
【0034】
本発明の強化ポリアミド樹脂組成物は、前述の結晶性の半芳香族ポリアミド樹脂に対して、該組成物のDSCにて測定した融点より35℃高い温度条件で測定した、せん断速度12.2sec−1での溶融粘度が3000Pa・s以上で5000Pa・s以下であり、かつ、せん断速度1216sec−1での溶融粘度が100〜450Pa・s以下とすることで、溶融樹脂組成物の金型キャビティ内への充填の最盛期である成形充填中期の溶融流動性が確保されて薄肉成形性が良好であり、せん断速度12.2sec−1での溶融粘度が3000Pa・s以上で5000Pa・s以下であることにより、成形充填終期に溶融流動性が低下してバリ発生抑制効果が発現され、良好な流動性と低バリ性の両立が可能である。
【0035】
携帯用電化製品の小型化や薄肉化が進み、筐体の肉厚が1mm程度と極めて薄肉化がすることが求めらている。射出成形で筐体の成形が行われているが、製品の薄肉化によって、成形材料の流動性を高めることが必要となる。また、部品によっては金属板をインサート成形する必要があり、樹脂の肉厚が1mm以下の極めて薄い成形品を作成する必要がある。一方で成形材料の流動性を高めることによって、成形時に成形品にバリが発生し易くなるという問題点がある。本発明は、前述の金属板をインサートした薄肉成形品に適した特性も有している。
【0036】
本発明の強化ポリアミド樹脂組成物には、前記以外に、必要に応じて公知の範囲で光又は熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑材、結晶核剤、離型剤、帯電防止剤、ハロゲン系難燃剤と酸三化アンチモンの組み合わせ、各種リン酸系難燃剤、メラミン系難燃剤、無機顔料、有機顔料、染料、あるいは他種ポリマーなども添加することが出来る。
【0037】
本発明の強化ポリアミド樹脂組成物を製造する製造法としては、上述した少なくとも(A)、(B)、(C)、(D)、(E)の各成分、その他の配合物は上記配合組成にて任意の配合順列で配合した後、タンブラー或いはヘンシェルミキサー等で混合し、溶融混錬される。溶融混錬方法は、当業者に周知のいずれかの方法が可能であり、単軸押出機、2軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等が使用できるが、なかでも2軸押出機を使用することが好ましい。
また、押出加工時に破損し易い(D)成分の異形断面のガラス繊維等は2軸押出機のサイド口から投入し、該ガラス繊維の破損を防止することが好ましいが、特に限定されるものではない。また、シランカップリング剤は、(D)以外の原料成分と同時に添加しても良いが、あらかじめ(E)成分に付与して添加するのが好ましい。
また、加工時の揮発成分、分解低分子成分を除去するため、さらに、変性された樹脂や強化材とポリアミド樹脂の反応性を高めるためには、ガラス繊維投入部分のサイド口と押し出し機先端のダイヘッドとの間で真空ポンプによる吸引を行うことが望ましい。
【実施例】
【0038】
次に実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)実施例、比較例で使用した原材料
〔ポリアミド10T11の合成(A−1)〕
デカメチレンジアミン8.26kg、テレフタル酸7.97kg、11−アミノウンデカン酸6.43kg、触媒としてジ亜リン酸ナトリウム9g、末端調整剤として酢酸40gおよびイオン交換水17.52kgを50リットルのオートクレーブに仕込み、常圧から0.05MPaまでNで加圧し、放圧させ、常圧に戻した。この操作を3回行い、N置換を行った後、攪拌下135℃、0.3MPaにて均一溶解させた。その後、溶解液を送液ポンプにより、連続的に供給し、加熱配管で240℃まで昇温させ、1時間、熱を加えた。その後、加圧反応缶に反応混合物が供給され、290℃に加熱され、缶内圧を3MPaで維持するように、水の一部を留出させ、低次縮合物を得た。その後、この低次縮合物を、溶融状態を維持したまま直接二軸押出し機(スクリュー径37mm、L/D=60)に供給し、樹脂温度を330℃、3箇所のベントから水を抜きながら溶融下で重縮合を進め、共重合ポリアミドを得た。得られた共重合ポリアミドは、10T/11=60/40(モル比)の組成で融点250℃、相対粘度2.6、ガラス転移温度75℃であった。
【0039】
〔ポリアミド10T11の合成(A−2)〕
デカメチレンジアミンの量を11.01kgに変更し、テレフタル酸の量を10.62kgに変更し、11−アミノウンデカン酸の量を3.22kgに変更した以外は合成例(A−1)と同様にして、共重合ポリアミドを合成した。得られた共重合ポリアミドは、10T/11=80/20(モル比)の組成で融点289℃、相対粘度2.6、ガラス転移温度93℃であった。
〔ポリアミド10T11の合成(A−3)〕
デカメチレンジアミンの量を12.38kgに変更し、テレフタル酸の量を11.95kgに変更し、11−アミノウンデカン酸の量を1.61kgに変更した以外は合成例(A−1)と同様にして、共重合ポリアミドを合成した。得られた共重合ポリアミドは、10T/11=90/10(モル比)の組成で融点302℃、相対粘度2.8、ガラス転移温度104℃であった。
【0040】
〔その他の結晶性ポリアミド樹脂〕
ポリアミド6 :東洋紡ポリアミドT−800、相対粘度2.5
ポリアミド66:東レ社製、CM3007、Tg49℃、相対粘度2.5
【0041】
〔非晶性ポリアミド樹脂(B)〕
MACM・14:アルケマ社製G350、Tg146℃、数平均分子量14200
MACM・12:EMS社製TR−90、Tg155℃、数平均分子量13300
6T6I:6T/6I=33/67モル%:EMS社製グリボリーG21、Tg125℃、数平均分子量15100
【0042】
数平均分子量は、次の様に求めた。
各試料を2mg秤量し、4mlのHFIP/トリフルオロ酢酸ナトリウム10mMに溶解させた。0.2μmのメンブレンフィルターでろ過し、得られた試料溶液のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析を次の条件で行った。
装置:TOSOH HLC−8220GPC
カラム:TSKgel SuperHM−H×2、TSKgel SuperH2000
流速:0.25ml/分、濃度:0.05%、温度:40℃、検出器:RI
分子量換算は標準ポリメチルメタクリレート換算で計算した。
分子量は、1000以下のものは、オリゴマーとして除いて計算した。
【0043】
〔オレフィン系樹脂(C)〕
マレイン酸変性ポリエチレン(MAH−PE)、三井化学社製、タフマーMH−5020を使用した。
〔繊維状強化材(D)〕
扁平断面ガラス繊維、 日東紡(株)製 3PA810S(長径/短径の比=4)
丸断面ガラス繊維、 日本電気ガラス社製 T−275H
〔テルペンフェノール系樹脂(E)〕
ヤスハラケミカル社製、YSポリスターS145
【0044】
(2)特性及び物性値の測定法
(イ)融点:
DSC測定装置(セイコーインスツルメンツ社製、EXSTAR6000)を使用し、窒素気流下で20℃/分の昇温速度で昇温時の吸熱ピークのピークトップ温度を求めた。
【0045】
(ロ)溶融粘度:
キャピラリーレオメーター(東洋精機(株)、製品名キャピログラフ1B)を使用した。
キャピラリー形状:穴の直径1.0mm、長さ30mm
せん断速度:12.2sec−1(1.0mm/分)
せん断速度:1216sec−1(100.0mm/分)
測定温度:DSCにて測定した融点より約35℃高い温度にて測定
評価法:
○:せん断速度12.2sec−1において3000〜5000Pa・sで、かつせん断速度1216sec−1において100〜450Pa・sを満足。
×:上記を満足しない。
【0046】
(ハ)バリ評価法:
図1に示した携帯電話モデル金型による成形品のバリの発生しやすいゲート付近部(観察部(1))と最終充填部付近(観察部(2))の2箇所をHIROX社製マイクロスコープ KH−7700を用いて発生したバリの長さ(μm)を測定した。
観察部(1):◎:50μm未満、○:50以上70μm未満、△:70以上100μm未満、×:100μm以上
観察部(2):◎:10μm未満、○:10以上20μm未満、△:20以上30μm未満、×:30μm以上
【0047】
(ニ)吸水率及び吸水寸法変化:
実施例、比較例の組成物で100×100×2mm(フィルムゲート)の平板を成形(シリンダー温度:ポリアミドの融点+40℃、金型温度120℃)し、95%RH平衡吸水時の寸法増加率で評価した。吸水処理は、95%相対湿度の高温槽中で80℃にて加速吸水処理した。
◎:0.1%未満、 ○:0.1〜0.3%未満、 ×:0.3%以上
【0048】
(ト)ソリ評価法:
平面ソリ:100×100×2mm(フィルムゲート)の平板成形品を常盤の上に固定し、9地点の高さを3次元測定機で測定し、その平均値から平面ソリ変形量を評価した。評価に用いた成形品の成形は、シリンダー温度は各評価用材料をDSCにて測定した融点より40℃高い温度に設定し、金型温度は120℃とし、射出時間6秒、冷却時間10秒として成形した。
◎:ソリ量が、3mmより小さい
○:ソリ量が、3mm以上、4mm以下
×:ソリ量が、4.0mmより大きい
【0049】
なお、機械物性、せん断粘度、各種成形や測定用いたポリアミド樹脂組成物は、水分の混入による変動を防止するために、水分率を0.08%以下となる様に乾燥して用いた。水分率の測定は、カールフィッシャー式水分率系、三菱化学社製、CA−100型を用いて、200℃にて水分率を測定した。
【0050】
実施例1〜6、比較例1〜3
評価サンプルの製造は表1、2に示した割合で各原料を計測し、ガラス繊維を除く他の原料をタンブラーで混合した後、L/D=32の二軸押出機のホッパーに投入した。ガラス繊維は二軸押出機の第二ベント口から計量しながら投入した。二軸押出機の混錬温度は230℃〜320℃である。得られた繊維強化ポリアミド樹脂組成物のペレットは射出成形機で各種の評価用試料を成形した。射出成形機の成形条件は、特に記載していない項目の評価には、シリンダー温度245〜320℃、金型温度は80℃〜145℃で、適宜各水準のベース樹脂に適切な条件に設定して成形した。
評価結果は表1、表2に示した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
本発明の特許請求項を満足した実施例1〜6は何れも、吸水特性においては、RH95%という非常に高い湿度環境での平衡吸水時であっても、寸法変化が極めて小さい。また、高い流動性を示すのにかかわらず、バリ発生量が少なく薄肉成形品の成形に良好な性能を発現している。しかも、低ソリ性でもあるため、携帯用軽量化電化製品の筐体材料として利用可能である。
【0054】
比較例1、2であるポリアミド6およびポリアミド66樹脂は、RH95%での平衡吸水時には曲げ弾性率が大幅に低下すると共に、寸法変化が大きい。比較例3の芳香族環を有する非晶性ポリアミドを配合した場合は、本発明における特定の半芳香族ポリアミドとの相溶性が悪く、相分離が発生してストランドの引取が困難であったので評価を中止した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の強化ポリアミド樹脂組成物は、優れた機械的強度、薄肉成形時のバリ発生量が小さく、吸水寸法変化、吸水による曲げ弾性率変化が少なく、低ソリ性にも優れたポリアミド樹脂組成物であり、薄肉軽量化電化製品、例えば携帯電話、携帯用の音楽を聞く製品、携帯用の映像を見る製品および携帯用パソコン等の筐体用材料などに利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)デカンテレフタルアミド単位50〜98モル%及び(b)ウンデカンアミド単位又は/及びドデカンアミド単位50〜2モル%からなる半芳香族ポリアミド樹脂(A)70〜25質量%、脂環族基を有し芳香族基を有さない非晶性ポリアミド樹脂(B)1〜20質量%、ポリアミドと反応しうる官能基を有するポリオレフィン系樹脂、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂(C)0.5〜10質量%、繊維状強化材(D)20〜60質量%及びテルペンフェノール系樹脂(E)を0.5〜5質量%含有し、かつ、下記(イ)の特性を満足することを特徴とする強化ポリアミド樹脂組成物。
(イ)半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点+35℃での溶融粘度が、せん断速度12.2sec−1において3000〜5000Pa・sで、かつせん断速度1216sec−1において100〜450Pa・sである。
【請求項2】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)が、(a)デカンテレフタルアミド単位75〜98モル%及び(b)ウンデカンアミド単位又は/及びドデカンアミド単位25〜2モル%からなる請求項1に記載の強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
繊維状強化材(D)が、長径/短径の比が1.5〜10の扁平断面を有する扁平断面ガラス繊維である請求項1又は2に記載の強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
脂環族基を有し芳香族基を有さない非晶性ポリアミド樹脂(B)が、炭素原子12〜18個の脂肪族ジカルボン酸とビス(4−アミノ−シクロヘキシル)メタン、ビス(3−アミノ−シクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノ−シクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノ−シクロヘキシル)プロパンから選択された脂環族ジアミンとの重縮合により形成された非晶性ポリアミド樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載の強化ポリアミド樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−136620(P2012−136620A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289503(P2010−289503)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】