説明

強化充填剤を含むエラストマー組成物用のカップリング剤

【課題】強化充填剤を含むエラストマー組成物用のカップリング剤。
【解決手段】下記(1)と(2)を組合せたカップリング剤:
(1)10〜90重量%の下記式のポリ(アルキルフェノール)ポリスルフィドの混合物:
【化1】


(ここで、Rは1〜20個の炭素原子を有するアルキル基、nとn’は1〜8の2つの整数、pは0〜50の整数)、
(2)10〜90重量%のビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド。本発明はさらに上記カップリング剤を用いる強化充填剤を含む加硫性エラストマー組成物とこの組成物を成形・加熱して得られる成形品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ、特に自動車のタイヤトレッドの製造に用いられるゴム組成物に関するものである。
本発明の対象は、強化充填剤と特定のカップリング剤とを含む硫黄で加硫可能なエラストマー組成物にある。
【背景技術】
【0002】
タイヤの外皮に必要な諸特性を改良するための研究は広く行われている。自動車の燃費を良くするという永遠の目的から、タイヤ外皮の走行抵抗を改良すると同時に、乾燥路面および湿路面の両方での優れたグリップ性能と適切な耐摩耗性とを維持するための努力がなされている。
【0003】
タイヤトレッドを作るためのエラストマー組成物は既に公知で、これは一般にジエンエラストマーの他に強化充填剤を含んでいる。強化充填剤は一般にカーボンブラックまたはシリカである。
充填剤によって与えられる最適な強化性能を得るためには充填剤はエラストマーのマトリックス中にできる限り微粉化し且つ均一に分布して存在している必要があるということは知られている。この条件は充填剤をエラストマー中に混合する際に充填剤がマトリックスと極めて良く混和し、しかも、マトリックス中に均一に分散する能力がない限り満たされない。
【0004】
カーボンブラックはこうした能力を有しているが、シリカ粒子の場合には一般にはそうではないということは知られている。すなわち、シリカ粒子はその相互親和性からエラストマーマトリックス中で互いに凝集するという厄介な傾向がある。この性質は加硫後に得られる最終製品の強化特性に悪影響を与える。さらに、シリカを混和した時にはエラストマーの粘度が増加し、加硫性エラストマー組成物のハンドリング特性と混和性が悪くなる。特に、非硫黄系添加剤および加硫系を混和する場合や、全ての成分を含む混合物を加硫金型に導入する場合に問題が生じる。
【0005】
しかし、タイヤトレッドの製造にシリカを使用すると、走行抵抗が低下し、従って燃料を実質的に節約することができるので、シリカの使用は重要である。
エラストマー組成物中での充填剤、特にシリカの分散性を良くするための化合物は既に提案されており、そうした化合物はカップリング剤とよばれることが多い。
下記文献に記載のシリカ粒子で強化された共役ジエンコポリマーから成る硫黄加硫性組成物では(ゴム100重量部当たり)6.4重量部の多硫化オルガノシランを含む12.8重量部の強化剤を用いている。
【特許文献1】欧州特許出願第0,501,227号公報
【0006】
下記文献にもシリカを含むエラストマー組成物が記載されている。
【特許文献2】国際特許出願第WO 97/42256号公報
【0007】
この特許ではカップリング剤として特定の多硫化オルガノシランすなわちビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(Degussa AG社の製品Si−69(登録商標)として知られている)を用いるが、工業的に広く使用されているこのカップリング剤は非常に高価であるという欠点がある。
そのため上記文献が勧めているものは基本的に処理済みのカーボンブラックを強化充填剤として含むエラストマー組成物であり、この組成物にプレ加硫改質剤として非オルガノシランポリスルフィド化合物、例えばt−ブチルフェノールポリスルフィドを用いることである。
【0008】
下記文献でもジエンゴムをベースとした組成物でのビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドの代替として白色充填剤(例えばシリカ)をカップリング剤として使用することが課題になっている。
【特許文献3】国際特許出願第WO 02/083719号公報
【0009】
この文献ではこの課題に対して多硫化モノオルガノキシシランの使用を提案している。しかし、この化合物も使用する化学薬品からコストが高いものになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は上記Si−69よりもコストが安く、タイヤトレッドに最適な特性が確保でき、しかも、加硫性組成物の加工・処理に適した流動学的特性、特に粘度が維持できる、新規なカップリング剤を見出した。本発明の対象はこの新規なカップリング剤にある。
本明細書では、特に記載のない限り表示された%値は重量含有率である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の対象は、少なくとも一種のジエンエラストマーと、少なくとも一種の強化充填剤とを含む硫黄で加硫可能なエラストマー組成物において、下記の(1)と(2)の化合物(製品、produit)とを組合せたカップリング剤の有効量と一緒に上記エラストマーと上記充填剤とを混合する方法で得られるエラストマー組成物にある:
(1) 10〜90%、好ましくは50〜70%の下記式のポリ(アルキルフェノール)ポリスルフィド(多硫化物)のブレンドから成る化合物(I):
【0012】
【化1】

【0013】
(ここで、
Rは1〜20個、好ましくは4〜10個の炭素原子を有するアルキル基、
nおよびn’は1〜8、好ましくは1〜4の2つの整数で、互いに同一でも異なっていてもよく、
pは0〜50、好ましくは0〜20の整数)
(2) 10〜90%、好ましくは30〜50%のビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドから成る化合物(II)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者は、驚くべきことに、式(I)の化合物の有効量を導入することによって、加硫性組成物の粘度を変えずに、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(すなわちSi−69)の必要量を減らすことができ、しかも、組成物を用いて製造されたトレッドの特性、特に走行抵抗およびウェットグリップ(湿路面でのグリップ)を改良することができる、ということを見出した。
すなわち、本発明では公知技術が教えるような多量のシリル化合物を用いる必要がなく、Si−69だけを使用するのに代わる、実用的かつ経済的な技術的方法が提供される。
【0015】
本発明の組成物は一種または複数のジエンエラストマーを含むことができる。より正確には「ジエンエラストマー」という用語は下記(1)〜(6)を意味する:
(1)4〜22個の炭素原子を有する共役ジエンモノマーの重合で得られるホモポリマー、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジエチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−3−エチル1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、2−メチル−3−イソプロピル−1,3−ブタジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンおよび2,4−ヘキサジエン、
【0016】
(2)上記共役ジエンの少なくとも2種を互いに共重合して得られるコポリマーまたは一種または複数の上記共役ジエンと下記(a)〜(c)の中から選択される一種または複数の不飽和エチレンモノマーとの共重合によって得られるコポリマー:
(a) 8〜20個の炭素原子を有する芳香族ビニルモノマー、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、市販の「ビニルトルエン」混合物、p−t−ブチルスチレン、メトキシスチレン、クロロスチレン、ビニルメシチレン 、ジビニルベンゼンおよびビニルナフタレン、
(b) 3〜12個の炭素原子を有するビニルニトリルモノマー、例えば、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリル、
(c) 1〜12個の炭素原子を有するアルカノールとアクリル酸またはメタクリル酸とから得られるアクリルエステル、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレートおよびイソブチルメタクリレート、
これらのコポリマーは99〜20重量%のジエン単位と1〜80重量%の芳香族ビニル、ビニルニトリルおよび/またはアクリルエステル単位とを含むことができる。
【0017】
(3)エチレンと、3〜6個の炭素原子を有するαオレフィンと、6〜12個の炭素原子を有する非共役ジエンとの共重合で得られるターポリマー、例えばエチレン、プロピレンと、上記の型の非共役ジエンモノマーとから得られるエラストマー、特に1−4ヘキサジエン、エチリデンノルボルネンおよびジシクロペンタジエン(EPDMエラストマー)
(4)天然ゴム、
(5)イソブテンおよびイソプレン(ブチルゴム)およびこれらコポリマーのハロゲン化物、特に塩素化物または臭素化物、および、
(6)上記(1)〜(5)のエラストマーの2種またはそれ以上のブレンド。
【0018】
タイヤトレッドの製造に適したポリブタジエンおよびポリ(スチレン/ブタジエン)の中から選択される一種または複数のエラストマーを用いるのが有利である。
【0019】
本発明組成物では一種または複数の強化充填剤、例えば白色充填剤および/またはカーボンブラックを用いることができる。
本発明の好ましい実施例では白色強化充填剤が用いられる。
「白色強化充填剤」とはカップリング剤以外の手段を全く用いずにそれのみで天然または合成のゴム型の一種または複数のエラストマーをベースとする組成物を強化できる白色の充填剤を意味する。
白色強化充填剤の物理的状態は問題ではなく、粉末、微小球、顆粒、ビーズ等の形にすることができる。
白色強化充填剤は一般にシリカ、アルミナまたはこれら2種の混合物から成る。
白色充填剤はシリカ単独またはシリカとアルミナの混合物から成るのが好ましい。
【0020】
本発明組成物で使用可能なシリカの例としては、BET比表面積が450m2/g以下の当業者に公知の任意の沈降シリカまたはヒュームド(pyrogenees)シリカが適している。沈降シリカを用いるのが好ましく、この沈降シリカは通常のシリカまたは高分散性シリカにすることができる。「高分散性シリカ」とは、薄片を電子顕微鏡または光学顕微鏡で観察した時に、ポリマーマトリックス中での非凝集性および分散性に優れた能力を有するシリカを意味する。
【0021】
高分散性シリカの例としては、CTAB比表面積が450m2/g以下、好ましくは30〜400m2/gの高分散性シリカ、特に下記文献に記載の高分散性シリカが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【特許文献4】米国特許第5,403,570号明細書
【特許文献5】国際特許第WO95/09127号公報
【特許文献6】国際特許第WO95/09128号公報
【0022】
このような高分散性シリカの例としてはAkzo社の「Perkasil KS 430シリカ」、Degussa社の「BV3380シリカ」、Rhodia社の「Zeosil 1165MPおよび1115MPシリカ」、PPG社の「Hi−Sil 2000シリカ」およびHuber社の「Zeopol 8741および8745シリカ」が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
特に適した沈降シリカは下記特徴を有するものである:
(1)CTAB比表面積が100〜240m2/g、好ましくは100〜180m2/g、
(2)BET比表面積が100〜250m2/g、好ましくは100〜190m2/g、
(3)DOP吸油量が300ml/100g、好ましくは200〜295ml/100g、
(4)BET比表面積/CTAB比表面積比が1.0〜1.6。
【0024】
式(I)のポリ(アルキルフェノール)ポリスルフィドは古くから知られた化合物で、アトフィナ社から商品名「VULTAC(登録商標)」で市販されている。これらは一塩化または二塩化硫黄をアルキルフェノールと100〜200℃の温度で下記の反応に従って反応させて調製することができる:
【0025】
【化2】

【0026】
この化合物の製造方法に関しては下記文献を参照されたい。
【特許文献7】米国特許第2,422,156号明細書
【特許文献8】米国特許第3,968,062号明細書
【0027】
好ましい実施例ではRが少なくとも一つの第三級炭素を有するアルキル基である式(I)の化合物の混合物が用いられる。Rは上記第三級炭素を介して芳香族環に結合される。
特に有利な実施例ではRはt−ブチルまたはt−ペンチル基である。
式(I)の化合物の混合物としてはnとn’の平均値が約2で、pの平均値が約5である混合物を用いるのがさらに好ましい。当業者はこれらの平均値をプロトンNMRのデータおよび硫黄の重量分析から計算できる。
本発明組成物でのカップリング剤としては(I)/(II)の重量比が1〜3、好ましくは約2である式(I)の化合物と化合物(II)の組合せを用いるのが好ましい。
【0028】
本発明のさらに他の対象は上記定義のカップリング剤にある。
ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドとよばれる化合物(II)は下記式の化合物の混合物である:
【化3】

【0029】
(ここで、qの平均値は約4である)。
この化合物は例えばDegussa AG社(ドイツ)から商品「Si−69(登録商標)」で市販されている。
好ましい実施例では化合物(II)は本発明組成物中でカーボンブラックとの50重量%/50重量%の混合物の形で用いられる。
【0030】
本発明の好ましい実施例では強化充填剤として白色充填剤、特にシリカを用いた場合、100重量部のジエンエラストマーに対して、
10〜200重量部、好ましくは20〜150重量部の白色強化充填剤と、
0.5〜10重量部、好ましくは2〜8重量部の上記定義のカップリング剤と、
を混合して本発明組成物が得られる。
好ましい実施例では100重量部のジエンエラストマーに対して50〜100重量部のシリカと5〜7重量部のカップリング剤とを混合する。
【0031】
好ましい変形例では、本発明の硫黄で加硫可能な組成物が加硫系の他に、トレッド用エラストマー組成物で通常使用されている非硫黄系の添加剤をさらに含む。そうした添加剤としては可塑剤、顔料、酸化防止剤、加硫活性剤およびナフテン系または芳香族系のエキステンダー油を挙げることができる。この変形例ではジエンエラストマーと、強化充填剤と、化合物(I)および(II)と、非硫黄系添加剤を適当な任意の装置、例えば混合機または押出機で適切な時間、機械加工(混練)する。この機械加工では130〜170℃、好ましくは130〜150℃の温度に加熱する段階を少なくとも一つ含むようにする。
【0032】
上記の加熱機械加工の時間は当業者が選択した操作条件、特に上記範囲内で選択した温度と機械加工すべき成分の種類および容量に応じて変わる。重要なことは機械加工によって優れた充填剤の分散を得ることである。充填剤としてシリカを用いた場合、このことは対応粒子の粒径が減少することで示される。さらに、必要エネルギーが時間/温度の組合せで低下することが重要である。このエネルギーレベルに達するために使用する段階の数で300%伸び弾性率/100%伸び弾性率の比を最大にすることが重要である。この比はエラストマーの充填剤による強化効率をコントロールするために当業者が一般に用いている一つのパラメータである。
【0033】
すなわち、加工時間は加熱機械加工で使用する加熱機械加工装置に応じて1〜20分で変えることができ、当業者の一般的な知識とタイヤトレッドの形で使用する組成物の特性をコントロールして決めることができる。従って、加熱機械加工は単一の加熱機械加工段階だけで強いエネルギーを所定時間と温度で加える場合だけでなく、複数の加熱機械加工段階を含むものであり、複数の段階を少なくとも一つの冷却段階が分離することもできる。
【0034】
また、上記変形例で得た組成物に仕上機械加工時に例えば外部混合機を用いて100℃以下の温度で加硫系、特に硫黄と加硫促進剤を添加するのが有利である。使用可能な加硫系は標準的な加硫系、例えば硫黄の他にスルフェンアミドおよび/またはジフェニルグアニジンのような加硫促進剤を含む系である。
【0035】
本発明のさらに他の対象は、加硫系を混和して得られる上記組成物を成形し、加熱して得られる成形品にある。
上記組成物を適当な成形用金型で例えば注型で成形した後、加熱して組成物を加硫(または硬化)する。この加熱は一般に130〜200℃の温度で、場合によって加圧下に、十分な時間行われるということは周知である。この加熱時間は硬化温度、選択した加硫系および対象とする組成物の加硫速度に応じて例えば5〜90分の間で変えることができる。
【0036】
本発明の成形品としては、その有利な特性すなわち優れた引張強度、湿路面でのグリップおよび走行抵抗から、タイヤトレッドが好ましい。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
実施例1
シリカで強化された、4重量部の化合物(I)と2重量部の化合物(II)とを含むポリ(スチレン/ブタジエン)(SBR)とポリブタジエンをベースにした組成物
組成物の調製
2l容のバンバリー型密閉式混合機に、下記成分を下記順番で導入した:SBR、ポリブタジエン、シリカの3/4、カップリング剤を構成する化合物(I)と化合物(II)、シリカの残り、次に、非硫黄系添加剤。
温度が145℃に達するまで(すなわち約5分間)、全体を混合した。この温度で混合を4分間続けた。
得られた組成物を二本ロール型の外部混合機(各ロールは径が300mm、長さが700mm)へ移す。次いで、この組成物に硫黄と2種の加硫促進剤とを含む加硫系を100℃以下の温度で添加し、混合を約5分間続けた。
組成物の調製に用いた各成分の含有率は[表1]に示してある。この含有率はエラストマー100重量部当たりの重量部で表す。
【0038】
流動学的特性
Aで調製した組成物のムーニー粘度を測定した。
ムーニー粘度はAFNOR(フランス規格協会)のフランス規格NF T43−005に従って行った稠度(コンシストメトリック)指数の測定結果である。この測定は「剪断稠度計」とよばれる装置を用いて未加硫ゴムで測定する。
結果は[表2]に示してある。
【0039】
組成物の加硫
組成物の一部をスラブに成形し、170℃の温度で20分間加硫した。次いで、このスラブからダンベル試験片(H2)を切り出した。
組成物の別の部分をグッドリッチ型(25×18mmの円筒形)の試験片に成形し、170℃の温度で25分間加硫した。
【0040】
加硫組成物の特性
試験片に対して下記パラメータを測定した:M300/M100、0℃/10Hzでのtanδおよび60℃/10Hzでのtanδ。
充填剤の強化指数を表す300%弾性率/100%弾性率比(M300/M100)を、フランス規格NF T46−002に従ってダンベル試験片で行った引張試験から計算した。
温度0℃、周波数10Hzで測定したtanδの値は湿った路面でのグリップを特徴付ける。この温度でのtanδの値が高ければ高いほど、湿った路面でのグリップも良くなる。温度60℃、周波数10Hzで測定したtanδの値は走行抵抗を特徴付ける。この温度でのtanδの値が低ければ低いほど、走行抵抗は低くなり、燃費は良くなる。これらの2つのパラメータは粘弾性に関する1998年の規格ISO4664に従ってグッドリッチ型の試験片に対して動的条件下で測定する。
得られた結果は[表2]に示してある。
【0041】
実施例2
実施例1を繰り返したが、化合物(I)および(II)の含有率を[表1]に示すように変えた。
[表2]に示す特性が得られた。
【0042】
対照例(比較例)
実施例1を繰り返したが、カップリング剤として化合物(II)のみを6.4重量部(エラストマー100重量部当たり)の含有率で用いた。この含有率は特許文献1(欧州特許出願第0,501,227号公報)に記載の多硫化オルガノシランの含有率に対応し、タイヤ工業で通常導入される「Si−69(登録商標)」の量に対応する。
測定特性は[表2]に示してある。
【0043】
本発明実施例の稠度指数(ムーニー粘度)は対照例よりもわずかに高いが、加硫による成形を実施する前に金型中でカップリング操作が実施される硫黄で加硫可能なエラストマー組成物を得るのに全く問題なく使用できる。
実施例1および実施例2で得られた強化指数も対照例で得られた強化指数とほぼ同じである。
逆に、驚くべきことに、本発明実施例の湿った路面でのグリップ性能および走行抵抗は対照例と比べて大きく改良されることがtanδの値からわかる。本発明実施例で使用した化合物(I)は「Si−69(登録商標)」よりもはるかに安価であるためカップリング剤のコストを大きく下げることができる。
【0044】
【表1】

【0045】
[表1]の使用成分の特徴は下記の通り:
(1)スチレンの含有率が25%、ビニル結合の含有率が55%、1,4−トランス結合の含有率が12%、1,4−シス結合の含有率が8%の、27.3%の油で展ばしたエラストマーの形で市販の溶液状態に調製されたスチレン/ブタジエンコポリマー。この化合物(製品)はBayer社から商品名「SBR Buna VSL」で市販されている。
(2)1,4−シス結合の比率が96.5%のポリブタジエン。
【0046】
(3)Rhodia社から商品名「Zeosil 1165 MP」で市販のBETおよびCTAB比表面積が約150〜160m2/gの高分散性シリカ。
(4)Mobil社から商品名「Huile Mobilsol K」で市販の芳香族油。
(5)(6)加硫活性化剤。
(7)商品名「Antiox 6PPD」で市販の酸化防止剤。
(8)Antilux 500。
(9)粒径が300μm以下の元素状硫黄。
(10)MLPC社から商品名「EKALAND CBS」で市販の加硫促進剤であるシクロヘキシルベンゾチアジルスルフェンアミド。
(11)MLPC社から商品名「EKALAND DPG」で市販の加硫促進剤。
【0047】
(12)アトフィナ社から商品名「Vultac(登録商標)」で市販のポリ(アルキルフェノール)ポリスルフィド。すなわち、Rがt−ブチル基であり、nおよびn’がそれぞれ平均して約2で、pが平均して約5である式(I)の化合物の混合物。
(13)Degussa AG社から商品名「Si−69(登録商標)」で市販のビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド。
【0048】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種のジエンエラストマーと、少なくとも一種の強化充填剤とを含む硫黄で加硫可能なエラストマー組成物において、
下記の(1)と(2)とを組合せたカップリング剤の有効量と一緒に上記エラストマーと上記充填剤とを混合する方法で得られることを特徴とするエラストマー組成物:
(1) 10〜90%、好ましくは50〜70%の下記式のポリ(アルキルフェノール)ポリスルフィドの混合物から成る化合物(I):
【化1】

(ここで、
Rは1〜20個、好ましくは4〜10個の炭素原子を有するアルキル基、
nおよびn’は1〜8、好ましくは1〜4の2つの整数で、互いに同一でも異なっていてもよく、
pは0〜50、好ましくは0〜20の整数)、
(2) 10〜90%、好ましくは30〜50%の、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドから成る化合物(II)。
【請求項2】
ポリブタジエンおよびポリ(スチレン/ブタジエン)の中から選択される一種または複数のエラストマーを用いた請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項3】
白色強化充填剤を用いた請求項1または2に記載のエラストマー組成物。
【請求項4】
白色充填剤がシリカ単独か、シリカとアルミナの混合物である請求項3に記載のエラストマー組成物。
【請求項5】
Rが少なくとも一種の第三級炭素を含むアルキル基で、この第三級炭素を介してRが芳香族環に結合している式(I)の化合物の混合物を用いる請求項1〜4のいずれか一項に記載のエラストマー組成物。
【請求項6】
Rがt−ブチルまたはt−ペンチル基である請求項5に記載のエラストマー組成物。
【請求項7】
式(I)の化合物の混合物としてnおよびn’の平均値が約2で、pの平均値が約5である混合物を用いる請求項1〜6のいずれか一項に記載のエラストマー組成物。
【請求項8】
(I)/(II)の重量比が1〜3、好ましくは約2である請求項1〜7のいずれか一項に記載のエラストマー組成物。
【請求項9】
100重量部のジエンエラストマーに対して、
10〜200重量部、好ましくは20〜150重量部の白色強化充填剤と、
0.5〜10重量部、好ましくは2〜8重量部の上記定義のカップリング剤と
を混合して得られる請求項3〜8のいずれか一項に記載のエラストマー組成物。
【請求項10】
100重量部のジエンエラストマーに対して、50〜100重量部のシリカと、5〜7重量部のカップリング剤とを用いて混合する請求項9に記載のエラストマー組成物。
【請求項11】
通常の非硫黄系添加剤をさらに混和した請求項1〜10のいずれか一項に記載のエラストマー組成物。
【請求項12】
ジエンエラストマーと、強化充填剤と、化合物(I)および(II)と、非硫黄系添加剤とに130〜170℃、好ましくは130〜150℃の温度の加熱段階を少なくとも一回含む機械加工を施す請求項11に記載のエラストマー組成物。
【請求項13】
硫黄と加硫促進剤とを含む加硫系を仕上げ機械加工でさらに添加する請求項11または12に記載のエラストマー組成物。
【請求項14】
請求項1および5〜8のいずれか一項に記載のカップリング剤。
【請求項15】
請求項13に記載の組成物を成形し、加熱して得られる成形品。
【請求項16】
タイヤトレッドである請求項15に記載の成形品。

【公表番号】特表2006−527781(P2006−527781A)
【公表日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516258(P2006−516258)
【出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001328
【国際公開番号】WO2005/007738
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(591004685)アルケマ フランス (112)
【Fターム(参考)】