説明

強化繊維基材、プリフォームおよびそれらの製造方法

【課題】形態安定性などの取り扱い性に優れるだけでなく、高い力学的特性の複合材料が得られ、マトリックス樹脂の含浸性にも優れる強化繊維基材、プリフォームおよびそれらの製造方法に提供する。
【解決手段】少なくとも、連続した強化繊維糸条を一方向に並行するように引き揃えた強化繊維糸条群から構成される強化繊維基材であって、強化繊維基材の厚み方向に強化繊維糸条を貫通している空間が形成されていることを特徴とする強化繊維基材、それを用いたプリフォーム、およびそれらの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック(以下、FRPと言うこともある。)を成形するのに適した強化繊維基材、プリフォームおよびそれらの製造方法に関する。より詳しくは、後述するRTMやVaRTM等の成形法により高品質のFRPを製造するにあたり、高い繊維体積含有率(Vf)にもかかわらず、マトリックス樹脂の含浸が良好で、優れた力学的特性(特にCAI)を発現せしめる強化繊維基材、プリフォームおよびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、航空機構造部材などの高品質が要求されるFRPの製造方法として、強化繊維基材にあらかじめマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグを用い、これを型に積層した上でバッグフィルムで覆い、オートクレーブ(加熱加圧炉)内で加熱、加圧し、樹脂を硬化させるオートクレーブ成形法が多用されている。この成形法は、FRPにおいてもボイドの発生が少なく、均質であるとともに高品質なものを成形できることから好ましく使用されている。
【0003】
しかし近年、成形および材料コストの低減を図るべく、オートクレーブを使用せずに、上型と下型の間に形成されたキャビティにドライ状態の強化繊維基材をセットし、クリアランス内を真空減圧し液状のマトリックス樹脂の注入を行うResin Transfer Molding process(以下、RTMと記す。)や、成形型上にドライ状態の強化繊維基材を積層し、バッグフィルムで覆いバッグ内を真空にした後、マトリックス樹脂を注入するいわゆる減圧注入成形法(Vacuum assisted Resin Transfer Molding process、以下、VaRTMと記す。)などの注入成形法が構造部材などにも適用されつつある。
【0004】
上記RTMなどにおいては、複合材料の生産性には優れるが、ドライ状態の強化繊維基材に樹脂を含浸させる必要があることから、積層数が多い場合(FRPの厚みが厚い場合)に樹脂含浸が困難となる問題や、マトリックス樹脂として低粘度の樹脂を用いる必要があり、プリプレグに用いられる高粘度樹脂に比べて力学的特性に劣るといった問題があった。
【0005】
かかる問題に対し、特許文献1、2、非特許文献1、2などには、強化繊維基材を積層したプリフォームの層間に間隙を有する状態で熱可塑性樹脂層を配置する技術や、エポキシ樹脂と熱可塑性樹脂粒子とを配合した樹脂組成物を強化繊維織物上に塗布する技術により、RTMなどによって得られる複合材料の力学的特性(耐層間剥離性や層間破壊靭性など)を向上させつつ、良好な含浸性を確保する技術が提案されている。
【0006】
しかしながら、上記提案では、力学的特性を向上させるために配置した熱可塑性樹脂層、または、エポキシ樹脂と熱可塑性樹脂粒子とを配合した樹脂組成物などにより、マトリックス樹脂の含浸性が大幅に低下するといった問題が生じ、本来の目的である高い生産性を得ることができずにいた。すなわち、力学的特性とマトリックス樹脂の含浸性を両立できる強化繊維基材、プリフォームは上記提案では達成されておらず、かかる課題を共に解決できる技術が望まれていた。
【特許文献1】国際公開特許WO00−61363号公報(請求項1)
【特許文献2】国際公開特許WO03−04758号公報(請求項1)
【非特許文献1】Journal of Advanced Materials, Volume 32, No.3, July 2000, P27-34
【非特許文献2】Composites part A, Volume 32, 2001, P721-729
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上述した従来技術の問題点を解決すること、すなわち、形態安定性などの取り扱い性に優れるだけでなく、高い力学的特性(特にCompression After Impact、以下、CAIと呼ぶ。)の複合材料が得られ、マトリックス樹脂の含浸性にも優れる強化繊維基材、プリフォームおよびそれらの製造方法に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る強化繊維基材は、少なくとも、連続した強化繊維糸条を一方向に並行するように引き揃えた強化繊維糸条群から構成される強化繊維基材であって、強化繊維基材の厚み方向に強化繊維糸条を貫通している空間が形成されていることを特徴とするものからなる。また、好ましくは、前記強化繊維基材がその少なくとも片方の表面に樹脂材料が間隙を有した状態で付着しており、かつ、その付着量が2〜15重量%であることを特徴とするものである。
【0009】
本発明に係るプリフォームは、このような強化繊維基材が、2層以上積層されており、かつ、積層された強化繊維基材同士が樹脂材料により少なくとも部分的に接着されて一体化していることを特徴とするものからなる。
【0010】
また、本発明に係るプリフォームは、少なくとも、連続した強化繊維糸条を一方向に並行するように引き揃えた強化繊維糸条群から構成される強化繊維基材が2層以上積層され、少なくとも部分的に接着されて一体化しているプリフォームであって、少なくとも最表層の強化繊維基材における強化繊維糸条に、プリフォームの厚み方向に貫通している空間が形成されていることを特徴とするものからなる。
【0011】
本発明に係る強化繊維基材の製造方法は、強化繊維糸条を用いて強化繊維布帛形態を形成し、樹脂材料を接着した後あるいは接着させながら強化繊維基材を形成しつつ、突起を有するピンを強化繊維基材の表面から貫通させ、強化繊維基材の厚み方向に貫通した空間を形成する、もしくは、レーザー光の照射により強化繊維基材の厚み方向に貫通した空間を形成することを特徴とする方法からなる。
【0012】
また、本発明に係るプリフォームの製造方法は、強化繊維基材に接着している樹脂材料により強化繊維基材同士を接着した後あるいは接着させながらプリフォームを形成しつつ、突起を有するピンを強化繊維基材の表面から貫通させ、プリフォームの厚み方向に貫通した空間を形成する、または、レーザー光の照射によりプリフォームの厚み方向に貫通した空間を形成することを特徴とする方法からなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る強化繊維基材によれば、連続した強化繊維糸条から構成された強化繊維基材であるとともに、強化繊維基材の厚み方向に強化繊維糸条を貫通する空間が形成されていることから、この強化繊維基材の積層体を用いてRTMやVaRTMにより複合材料を成形する際に、貫通する空間を通して樹脂の含浸が促進され、樹脂の含浸性が優れるとともに高い力学的特性が得られる。さらに、少なくとも強化繊維基材表面に樹脂材料が間隙を有した状態で付着していると、作業時に取り扱い性が良好あるとともに、さらに優れた力学的特性(特にCAI)が得られる。
【0014】
また、本発明に係るプリフォームによれば、前記強化繊維基材同士が前記樹脂材料により少なくとも部分的に接着されて一体化しているため、取り扱い性に優れ、複合材料の優れた生産性を達成できる。
【0015】
また、本発明に係る強化繊維基材の製造方法によれば、前記強化繊維基材の要件を満たすように強化繊維糸条を用いて強化繊維基材を形成し、樹脂材料を接着した後あるいは接着させながら突起を有するピンを強化繊維基材の表面から貫通させる、もしくは、レーザー光の照射により強化繊維基材に貫通した空間を形成するため、樹脂の含浸性に優れ、高い力学的特性(特にCAI)の複合材料が得られる強化繊維基材を簡易かつ確実に製造することができる。
【0016】
さらに、本発明に係るプリフォームの製造方法によれば、強化繊維基材に接着している樹脂材料により強化繊維基材同士を接着した後あるいは接着させながらプリフォームを形成しつつ、突起を有するピンを強化繊維基材の表面から貫通させる、または、レーザー光の照射によりプリフォームの厚み方向に貫通した空間を形成するため、取扱性および樹脂の含浸性に優れるプルフォームを簡易かつ確実に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明における望ましい実施の形態を、まず本発明に係る強化繊維基材の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る強化繊維基材の斜視図である。図2は、図1の強化繊維基材における強化繊維糸条の長手方向に並行する方向の強化繊維糸条に沿ったA−A’断面の模式図である。
【0018】
図1において、強化繊維基材1は、長手方向に並行に配向されたたて糸となる強化繊維糸条2に対し、交差する方向に、本実施態様では直交方向に、よこ糸である補助繊維3が強化繊維糸条2の1本毎に交互に上下に配列された一方向性織物からなる強化繊維布帛4に形成されている。そして、図2にも示すように、強化繊維基材1の少なくとも片方の表面の実質的に全面にわたって樹脂材料5が間隙を有した形態で付着しているとともに、強化繊維糸条2を貫通している空間6が形成されている。
【0019】
本発明においては、強化繊維基材の厚み方向に強化繊維糸条を貫通している空間(図1では点状)が形成されていることから、ドライ状態のプリフォームに液状樹脂を含浸させる際に注入した樹脂は強化繊維基材の面内方向に拡散しながら、強化繊維糸条を貫通した空間を介して強化繊維基材の厚み方向に樹脂を含浸させることができるので、短時間で樹脂含浸が可能となる。
【0020】
また、この強化繊維基材の厚み方向に強化繊維糸条を貫通している空間の形態は、平面的に見て線状(より正確には線分状)あるいは点状であることが好ましい。貫通している空間が点状であると、この基材を簡易に製造することが可能な利点がある(詳細は後述)。一方、線状であると、貫通している空間を大きくできるため、点状より樹脂の含浸性を高くすることが可能になる。特に線状の配向方向が、強化繊維糸条と平行な方向であると、強化繊維糸条の損傷(切断される強化繊維フィラメントの数)を最小限に抑制することができるため本発明の好ましい態様ということができる。
【0021】
また、貫通した空間の配列は、千鳥配列、並び配列などいずれの配列であっても構わないが、好ましくは不規則な配列である。すなわち、貫通している空間が、千鳥配列など決まったパターンで配列していると、強化繊維基材を積層した際に貫通した空間の位置が重なる可能性があり、重なった部分において積層体厚み方向の含浸が一気に促進されることから樹脂の含浸の進行が不均一となり局所的な未含浸スポットが形成されやすくなる場合がある。貫通している空間が不規則に配列していると、強化繊維基材一枚ごとに異なった位置から樹脂含浸を進行させることができ、本発明の効果を最大限に発現することができるようになる。
【0022】
図3は、本発明の強化繊維基材を複数層積層したプリフォーム7の一例を示しており、強化繊維糸条に沿って切断した断面模式図を示している。図3に示すように貫通した空間6が不規則に配列していると、強化繊維基材一枚ごとに異なった位置から樹脂含浸が進行することになり、強化繊維基材の積層体からなるプリフォーム7全体に均一に樹脂含浸させることができる。
【0023】
強化繊維基材または後述のプリフォームにおける強化繊維糸条を貫通した空間の平面方向に投影した平均面積は、0.1〜10mm2/1空間であることが好ましい。図1においては、貫通した空間は点状であるため、前記平均面積は、円または楕円の面積の平均値に相当する。かかる平均面積が0.1mm2未満であると、面積が小さすぎることから樹脂の含浸速度が遅く、空間を形成したことによる樹脂の含浸性向上効果が十分に得られない場合がある。一方、10mm2を越えると樹脂含浸速度は向上するものの複合材料にした場合に、この空間の部分が樹脂リッチ部分となり応力集中が生じた場合に破壊の起点になりやすくなる。また、面積が大きくなるとこの空間を形成するために切断される強化繊維フィラメントの数が増え、複合材料にした際の力学的特性低下が生じやすくなる。このため、強化繊維基材の貫通した空間の平面方向に投影した面積が0.1〜10mm2/1空間であることが好ましい。
【0024】
また、強化繊維基材または後述のプリフォームにおける貫通した空間の平面方向に投影した総面積は、100mm2あたり0.05〜5mm2であることが好ましい。かかる総面積が0.05mm2未満であると、空間の面積が小さすぎることから樹脂の含浸速度が遅く、空間を形成したことによる樹脂の含浸性向上効果が得られない場合がある。一方、5mm2を越えると、空間の占める割合が大きくなり、樹脂含浸速度は向上するものの複合材料にした場合に、この空間の部分が樹脂リッチ部分となり応力集中が生じた場合に破壊の起点になりやすくなる。また、総面積が大きくなるとこの空間を形成するために切断される強化繊維フィラメントの数が増え、複合材料にした際の力学的特性低下が生じやすくなる。このため、貫通した空間の平面方向に投影した総面積が、100mm2あたり0.05〜5mm2であることが好ましい。
【0025】
なお、本発明において強化繊維糸条を貫通した空間の総面積は、基材上面から見たある面積における貫通した空間の面積に個数を掛け、これを100mm2における値に換算して求めたものである。
【0026】
ここで、貫通した空間の平面方向に投影した面積の測定は、形状が円であれば直径を、楕円であれば長軸と短軸の長さを、それぞれ非接触式もしくは接触式の測長器で測定することにより面積を計算にて求めることができる。また、他の方法としては、画像処理システムを用いて、CCDカメラで取り込んだ画像を面積算出処理を行うことによって求めることもできる。
【0027】
また、強化繊維基材または後述のプリフォームにおける貫通した空間の平面方向に投影した総個数は、100mm2あたり0.05〜2個であることが好ましい。かかる総個数が0.05個未満であると、空間の面積が小さすぎることから樹脂の含浸速度が遅く、空間を形成したことによる樹脂の含浸性向上効果が得られない場合がある。一方、2個を越えると、空間の占める割合が大きくなり、樹脂含浸速度は向上するものの複合材料にした場合に、この空間の部分が樹脂リッチ部分となり応力集中が生じた場合に破壊の起点になりやすくなる。また、面積が大きくなるとこの空間を形成するために切断される強化繊維フィラメントの数が増え、複合材料にした際の力学的特性低下が生じやすくなる。このため、強化繊維基材の貫通した空間の平面方向に投影した総個数が、100mm2あたり0.05〜2個であることが好ましい。
【0028】
さらに、空間の形態が線状であって、この空間の長手方向が強化繊維の配列方向と並行であれば、強化繊維の切断される本数が少ないことから、複合材料にしたときの力学的特性の低下が小さく、かつ、貫通した空間の面積を大きくとれることから樹脂の含浸性を向上させることができる。
【0029】
貫通した空間が上記範囲内であると、力学特性の向上(樹脂リッチ部分の形成や強化繊維糸条の損傷)と樹脂の含浸性とを高いレベルで両立でき、本発明の好ましい態様ということができる。
【0030】
本発明の強化繊維基材は、強化繊維布帛の少なくとも一方の表面に樹脂材料が付着していることが好ましい。すなわち、樹脂材料が布帛表面に付着していると、強化繊維基材を積層してプリフォームを得る際に基材同士の接着させて一体化させる機能を発現する。また、布帛形成した強化繊維糸条の目ずれを防ぎ、基材の形態安定性に優れるようになる。さらに、樹脂材料を付着させることによって、基材の繊維糸条を貫通するように形成された空間が樹脂材料によって固定され、強化繊維基材取り扱い時にこの空間が塞がれるようなことを防止できる。かかる樹脂材料による貫通した空間の形態保持効果は、本発明者らが見出した新しい効果であり、本発明の大きな特徴の一つといえる。
【0031】
また、力学的特性の面からは、少なくとも布帛の表面に樹脂材料が接着していると、複数枚が積層されて形成される疑似等方積層構成を有する複合材料の衝撃付与後の圧縮特性(CAI)に優れる。かかるCAIは、複合材料が航空機の構造部材(特に一次構造部材)として用いられる場合、非常に重要視される力学的特性である。
【0032】
本発明で用いる樹脂材料は、強化繊維基材を積層して得られる複合材料において、クラックストッパーの役目および複合材料の残留応力を緩和する役目を果たす。特に、複合材料が衝撃を受けた際に基材層間の損傷抑制の役目を果たし、優れた力学的特性(特にCAI)、すなわち高靭性化効果をもたらす。
【0033】
高靭性化効果に加え、少なくとも布帛の表面に樹脂材料が接着していると、基材を積層した場合に、布帛表面に付着している樹脂材料がスペーサとなって、隣接する基材の間にスペースを形成する。これを樹脂材料によるスペーサ効果と呼称するが、このスペーサ効果は、マトリックス樹脂が積層された基材に注入される際、マトリックス樹脂の流路形成の役目を果たす。これにより、マトリックス樹脂の基材への含浸が容易になるだけでなく、その含浸速度も速くなり、複合材料の優れた生産性をもたらす。
【0034】
樹脂材料による高靭性化効果、スペーサ効果などは、樹脂材料が基材表面に偏在している、特に樹脂材料が実質的に布帛の表面にのみ存在していると、より一層高いレベルで発揮される。
【0035】
樹脂材料は、強化繊維基材を単層で用いる場合において、片面に接着していてもよいし、両面に接着していてもよい。より低コストに基材を製造する場合は、前者が好ましい。基材の表裏の使い分けをしたくない場合は、後者が好ましい。
【0036】
なお、本発明において、強化繊維基材の厚み方向に強化繊維繊維糸条を貫通している空間は必ずしも強化繊維基材1枚ごとに異なる位置である必然性はなく、マルチスタックと呼ばれる複数枚の強化繊維を部分的に接着させ紙管などに巻き取った多層材料にこの多層材料の厚み方向に強化繊維繊維糸条を貫通している空間を形成させていてもよい。また、後述するプリフォームの厚み方向に強化繊維繊維糸条を貫通している空間を形成させていてもよい。
【0037】
強化繊維基材を多層に積層して多層基材の形態で用いる場合において、その積層体の中央層に位置する基材のみに両面に接着し、それ以外の各層は片面のみ接着しておくと、積層体の各層間に樹脂材料が配置できるため、本発明の好ましい態様の一つといえる。
【0038】
また、樹脂材料は空隙部を有した状態で接着されている。つまり、点状、線状または不連続線状である。点状に付着させるためには、粉体を強化繊維基材表面に散布し、熱融着させるとよい。また、線状または不連続線状に付着させるためには、不織布や織物などの連続繊維からなる布帛を一旦作製した後、強化繊維基材表面に貼り合わせ熱融着させること良い。このようにすることにより、プリフォーム作製において適度な接着性を有するとともに、複合材料の成形時には強化繊維基材の厚み方向への樹脂の含浸を阻害することがない。
【0039】
強化繊維基材は少なくとも強化繊維基材の片側の表面に樹脂材料が2〜15重量%付着している。より好ましくは6〜14重量%、さらに好ましくは8〜13重量%である。樹脂材料を上記範囲で有していることにより、基材の一層高い形態安定性がもたらされる。さらに、基材を積層する際に、基材同士のタック性(粘着性)、基材の適度なコシがもたらされる。その結果、形態安定性に優れ、積層が容易かつ自動化が可能な強化繊維基材を得ることができる。かかる特性は、2重量%未満では発現しにくい。一方、15重量%を越えると、本質的に樹脂の含浸性が低下するため、本発明の効果を発現することができない場合がある。
【0040】
この強化繊維基材表面に付着している樹脂材料は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂またはそれらの混合物である。プリフォームとしての接着性のみが要求される場合においては、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂をそれぞれ単独で用いてもよいが、CAIなどの耐衝撃性が要求される場合においては、靭性の優れた熱可塑性樹脂と低粘度化しやすく強化繊維基材への接着が容易な熱硬化性樹脂との混合物を用いると、適度の靭性を有しながら強化繊維シートへの適度な接着性を有することから好ましい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂などを使用できる。熱可塑性樹脂としては、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボナート、ポリアセターアル、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフイド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリエチレン、ポリプロピレン、酢酸セルロース、酪酸セルロースなどを使用できる。
【0041】
本発明に用いる強化繊維基材を構成する強化繊維糸条としては、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維やPBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維などの高強度、高弾性率繊維である。なかでも、炭素繊維は、これらの繊維の中でもより高強度、高弾性率であることから、優れた力学的特性の複合材料が得られることからより好ましい。さらに好ましくは、引張強さが4500MPa以上で、かつ、引張弾性率が250GPa以上の炭素繊維であると、より優れたコンポジット特性が得られる。
【0042】
また、強化繊維布帛の形態としては、強化繊維糸条を一方向または二方向に交差もしくは交絡するように配列させた不織組織(いわゆるトウシート)や、強化繊維糸条を一方向または二方向に配列させた織組織(一方向性織物や二方向織物)などである。なかでも、たて糸に強化繊維糸条を用いよこ糸に細い補助糸(補助繊維)を用いた一方向性織物は、強化繊維糸条の真直性が大きいことから優れたコンポジット特性が得られるとともにたて糸とよこ糸の交錯により並行する強化繊維間に空隙部が形成され、基材厚み方向への適度な樹脂パスを形成することができることから好ましい。
【0043】
なかでも、複合材料が航空機などの構造部材に使用される場合には一方向性ノンクリンプ織物が好ましい。かかる一方向性ノンクリンプ織物については、例えば特許第3279049号公報、特開2003−82117号公報に詳しく記載されている。
【0044】
また、一方向性織物や一方向性ノンクリンプ織物におけるよこ方向補助糸としては、繊度が5〜500デシテックスの細い繊維が好ましい。繊度が小さいと、よこ糸が存在することによるたて糸のクリンプを極力小さくすることができ好ましい。なかでもよこ方向補助糸の単糸直径が10〜100μmで撚り数が50ターン/m以下であれば、強化繊維織物を製造する際に強化繊維糸条に作用する張力によって交錯しているよこ方向補助糸が押さえつけられ、よこ方向補助糸の単糸が一直線状に並び表面凹凸を小さくできることから好ましい。
【0045】
糸の種類としては、並行する強化繊維糸条を一体に保持するためのものであることから特に限定されず、炭素繊維やガラス繊維などの無機繊維、ポリアラミド繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維が使用できる。
【0046】
また、強化繊維布帛における強化繊維糸条の糸幅は、2〜10mmであることが好ましい。これは、強化繊維糸条の断面形状は楕円状であり、互いに並行に配列する強化繊維糸条の隙間が強化繊維基材の厚み方向へのマトリックス樹脂の流路となり、糸幅が大きいと強化繊維糸条間のピッチが大きくなり、基材厚み方向への樹脂流路の数が少なくなることでマトリックス樹脂の含浸性が低下する。また、糸幅が小さいと強化繊維糸条間のピッチが小さくなり、基材厚み方向への樹脂流路の数が増えるので、マトリックス樹脂の含浸性は向上するものの、強化繊維糸条全体としての価格が高くなる問題がある。このため、強化繊維布帛における強化繊維糸条の糸幅は、2〜10mmであることが好ましい。より好ましくは、4〜8mmである。
【0047】
また、強化繊維基材の厚みから求められる強化繊維の体積率Vffは、35〜65%であることが好ましい。より好ましくは、38〜63%、特に好ましくは40〜63%である。なお、ここでいう強化繊維基材の厚みとは、JIS R7602(炭素繊維織物の試験方法)に従って測定される厚みのことであり、50kPaの圧力を20秒間かけたときの厚みを5箇所測定し、その平均値で表されるものである。
【0048】
強化繊維の体積率Vffが35%未満であると、特に真空圧によりマトリックス樹脂を含浸させるVaRTMでは、大気圧以上の圧力がかからないため、基材の嵩、すなわち強化繊維の体積率Vffを所望の範囲に制御できず、得られる複合材料の強化繊維体積含有率Vfも力学的特性に適する50〜65%に制御することができないだけでなく、所望の厚みの複合材料を得ることができない。さらには、得られる複合材料中での基材層がうねり、得られる複合材料の力学的特性、特に圧縮強度を著しく低下させる。かかる問題は積層構成に関しては、基材層の積層構成が斜行積層の場合には、成形に関しては、雄型もしくは雌型の一方のみ成形型を用い、もう一方に柔軟なバック材を用いる場合に特に顕在化する。すなわち、Vffが35%未満であると、力学的特性に優れ軽量化効果を高く発現する複合材料は得られない。
【0049】
一方、強化繊維の体積率Vffが65%を越えると、VaRTMの場合においては、密に充填されすぎた強化繊維がマトリックス樹脂の流れを阻害する結果、強化繊維糸条を貫通する空間を形成させても樹脂の含浸性が悪くなり、未含浸部分(ボイド)を有する複合材料しか得られない。
【0050】
かかる強化繊維の体積率Vffを35〜65%の範囲に制御することにより、得られる複合材料における強化繊維体積含有率Vfおよび寸法を、所望の範囲に厳密に制御し、高い力学的特性を発現することが可能となるのである。
【0051】
なお、本発明での強化繊維基材の厚み(JIS R7602)から算出される強化繊維体積率Vffとは、次式で求めた値をいう(単位は%)。なお、ここで用いた記号は下記に準ずる。ここで、測定に供する基材は、製造した後、少なくとも24時間経過し、スプリングバック量が実質的に飽和したものを用いる。
Vff=W/(ρ×Tf×10) (%)
W :強化繊維基材1m2当たりの強化繊維の重量(g/m2
ρ :強化繊維の密度(g/cm3)
Tf:JIS R7602に沿って測定した強化繊維基材の厚さ(mm)
【0052】
本発明に係るプリフォームは、上記強化繊維基材が、2層以上積層されたものであり、かつ、強化繊維基材同士が樹脂材料により少なくとも部分的に接着されて一体化しているものである。
【0053】
また、本発明のプリフォームは、少なくとも、連続した強化繊維糸条を一方向に並行するように引き揃えた強化繊維糸条群から構成される強化繊維基材が2層以上積層され、少なくとも部分的に接着されて一体化しているプリフォームであって、少なくとも最表層の強化繊維基材における強化繊維糸条に、プリフォーム厚み方向に貫通している空間が形成されているものである。
【0054】
ここで、かかる接着が強化繊維基材の全面に及んでいると、プリフォームの賦型性性、形状追従性が劣ったり、マトリックス樹脂の含浸性を阻害することがある。かかる接着は、複数の積層された強化繊維基材が一体化したプリフォームとして運搬などの取り扱いができればよく、基材同士が部分的に接着しているものが好ましい態様といえる。
【0055】
また、プリフォームを形成する強化繊維基材すべてに、強化繊維基材の厚み方向に貫通する空間を設けた強化繊維基材を用いなくとも、プリフォームにおいて少なくとも最表層(最表面を形成する層)の強化繊維基材における強化繊維糸条に、プリフォーム厚み方向に貫通している空間が形成されていれば、本発明の効果を奏することができる。かかるプリフォームの構成によって、成型型内にプリフォームを充填し、液状樹脂を型内に注入した際にプリフォーム表面の強化繊維基材における厚み方向へ貫通している多数の空間から樹脂の含浸を進行させることができるので短時間にプリフォームに樹脂含浸を行うことができる。
【0056】
本発明に係る強化繊維基材の製造方法は、強化繊維糸条を用いて強化繊維基材を形成し、樹脂材料を接着した後あるいは接着させながら強化繊維基材を形成しつつ、突起を有するピンを強化繊維基材の表面から貫通させて、強化繊維基材の厚み方向に貫通している空間を形成するものである。また、強化繊維糸条を用いて強化繊維布帛を形成し、樹脂材料を接着した後あるいは接着させながら強化繊維基材を形成しつつ、レーザー光の照射により強化繊維基材に貫通している空間を形成するものである。
【0057】
より具体的に説明すると、多数本の強化繊維糸条をクリールスタンドなどに仕掛けたボビンから引き出し、製織工程などを経て強化繊維布帛を形成する。その後、この強化繊維布帛に固体状の樹脂材料を塗布または貼り合わせた後に樹脂材料を溶融させて接着し、強化繊維基材を形成する。この場合の樹脂材料は、粉体あるいは不織布、織物、編物などの布帛を用いることができる。そして、強化繊維布帛に樹脂材料を接着した後あるいは接着させながら強化繊維基材を形成しつつ、突起を有するピンを強化繊維基材表面に押し当てて、強化繊維基材に貫通孔を形成させることができる。
【0058】
また、前記の突起を有するピンの替わりにレーザー光の照射により強化繊維糸条の一部を昇華させ、強化繊維基材に貫通した空間を形成させることもできる。かかるレーザー光としては、YAGレーザー、CO2レーザーなどが挙げられるが、強化繊維糸条が炭素繊維やガラス繊維でも貫通した空間が形成できるYAGレーザーを用いるのが好ましい。
【0059】
本発明に係るプリフォームの製造方法は、強化繊維基材に接着している樹脂材料により強化繊維基材同士を接着した後あるいは接着させながらプリフォームを形成しつつ、突起を有するピンを強化繊維基材の表面から貫通させて、プリフォームの厚み方向に貫通している空間を形成するものである。また、強化繊維基材に接着している樹脂材料により強化繊維基材同士を接着した後あるいは接着させながらプリフォームを形成しつつ、レーザー光の照射により強化繊維基材に貫通している空間を形成するものである。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。実施例および比較例に用いる原材料は下記の通りである。
・強化繊維糸条:PAN系炭素繊維、フィラメント数:24,000本、繊度:1,030tex、引張強度:5830MPa、引張弾性率:294GPa。
・ガラス繊維糸条:ECE225 1/0 1.0Z、繊度:22.5tex、バインダー”DP”(日東紡社製)。
・ポリアミド66繊維糸条:繊度:1.7tex、フィラメント数:7本。
【0061】
・樹脂材料:ポリエーテルスルフォン樹脂(住友化学工業(株)製”スミカエクセル”5003P)60重量%(主成分)と次のエポキシ樹脂組成物40重量%(副成分)とを2軸押出機にて溶融混練したものを冷凍粉砕したもの。平均粒子径D50((株)セイシン企業製LMS−24で測定)115μm、ガラス転位点92℃。
エポキシ樹脂組成物−ジャパンエポキシレジン(株)製”エピコート”806を21重量部、日本化薬(株)製NC−3000を12.5重量部、および、日産化学工業(株)製TEPIC−Pを4重量部を、100℃で均一になるまで攪拌したもの。
【0062】
・マトリックス樹脂:次の主液100重量部に次の硬化液を39重量部加え、80℃にて均一攪拌したエポキシ樹脂組成物。80℃におけるE型粘度計による粘度:55mPa・s、180℃で2時間硬化後のガラス転位点:197℃、曲げ弾性率:3.3GPa。
・主液:エポキシとして、Vantico(株)製”アラルダイト”MY−721を40重量部、ジャパンエポキシレジン(株)製”エピコート”825を35重量部、日本化薬(株)製GANを15重量部、およびジャパンエポキシレジン(株)製”エピコート”630を10重量部、70℃で1時間攪拌して均一溶解させたもの。
・硬化液:ポリアミンとして、ジャパンエポキシレジン(株)製”エピキュア”Wを70重量部、三井化学ファイン(株)製3,3’ジアミノジフェニルスルフォンを20重量部、および住友化学工業製”スミキュア”Sを10重量部、100℃で1時間攪拌して均一にした後70℃に降温し、硬化促進剤として宇部興産(株)製t−ブチルカテコール、2重量部をさらに70℃で30分間攪拌して均一溶解させたもの。
【0063】
実施例1
図4は、実施例1の強化繊維基材10の態様を示す模式斜視図である。強化繊維糸条のたて糸11、ガラス繊維糸条をたて補助糸条12、ポリアミド66繊維糸条をよこ補助糸条13として、たて糸11とたて補助糸条12とを交互に1本おきに配列し、よこ補助糸条13と平織組織に製織して、たて補助糸条12とよこ補助糸条13とを交錯させ、強化繊維糸条11を一体に保持した布帛14である一方向性ノンクリンプ織物(織物A)を得た。織物Aは、布帛厚み0.20mm、強化繊維目付193g/m2、たて糸(たて補助糸条)密度1.8本/cmであった。
【0064】
かかる織物Aの上に、粒子状の樹脂材料15を、エンボスローラとドクターブレードにて計量しながら自由落下させた。この際、自重で落下している粒子は、振動ネットを通過し均一に布帛の片表面に塗布した。粒子状の粒子材料塗布量は、後述の基材Aの14重量%となるようにした。さらに、遠赤外線ヒータにて180〜200℃に加熱しながら、粒子状の樹脂材料を織物に接着し、さらに突起を有するピンで強化繊維基材の強化繊維糸条の厚み方向に貫通した孔16を形成させつつ、その後に自然冷却して巻き取り、強化繊維基材10である基材Aを得た。なお、貫通孔16を形成させるために使用した突起を有するピンの外径は0.4mmであり、100mm2当たりの孔数が1個になるようにした。
【0065】
得られた基材Aは、基材厚み0.23mm、基材Aの厚みから求められる強化繊維体積率Vffは46%、基材目付225g/m2であるとともに、貫通孔の孔径は0.4mm(面積0.13mm2)、貫通孔の総面積は100mm2あたり0.13mm2、貫通孔の個数は100mm2あたり1個であった。
【0066】
得られた基材Aを、[−45°/0°/+45°/90°]積層構成に積層し、この積層構成を3回繰り返したものを2組用意し、それを90°層を向き合わせて鏡面対称積層になるように貼り合わた。かかる積層体(プリフォームA)を平面型に配置し、シーラントとバッグ材(ポリアミドフィルム)にて密閉して、減圧吸引口を設けたキャビティを形成した。減圧吸引口から真空ポンプによってキャビティ内を所定の真空状態に減圧し、賦形型を60℃に温調した。この状態で2時間保持し、室温に冷却してから吸引を停止して取り出しプリフォームAを得た。そして、このプリフォームAを、平面状の成形型(アルミニウム製)に配置し、プリフォーム上に樹脂拡散媒体(金属製メッシュ)を配置して、シーラントとバッグ材にて密閉して樹脂注入口と減圧吸引口を設けたキャビティを形成した。減圧吸引口から真空ポンプによってキャビティ内を所定の真空状態に減圧し、成形型およびプリフォームを60℃に温調した。次いで、事前に調合・真空脱泡したマトリックス樹脂を60℃に保ちながら、樹脂注入口から大気圧を利用して注入した。マトリックス樹脂が減圧吸引口に到達した時に注入口を閉じて注入を停止した。それ以降は、減圧吸引口から減圧を続けながら180℃で2時間保持し、マトリックス樹脂を硬化させ、複合材料Aを得た。複合材料Aは、強化繊維の体積率Vfが55%で、どこにもピンホールやボイドが見あたらず、樹脂含浸は良好であった。また、樹脂含浸時における樹脂の含浸時間も同時に測定した。なお、樹脂の含浸時間は、後述の比較例との比較のため、本実施例でかかった時間を1とした指数で相対評価した。
【0067】
さらに、得られた複合材料Aを用いて、SACMA SRM 2R−94に準拠して23℃におけるCAIを測定した。なお、衝撃は5.44kg(12ポンド)の錘を落下させて6.67kJ/m(270in・lb)の落錘衝撃エネルギーとした。
【0068】
実施例2
実施例1における貫通孔を形成させるために使用した突起を有するピンの外径は2mmであり、100mm2当たりの孔数が2個になるようにした他は実施例1と同じようにして、強化繊維基材Bを得た。得られた基材Bは、基材厚み0.22mm、基材Bの厚みから求められる強化繊維体積率Vffは48%、基材目付224g/m2であるとともに、貫通孔の孔径は2mm(面積3.1mm2)、貫通孔の総面積は100mm2あたり9.4mm2、貫通孔の個数は100mm2あたり3個であった。さらに、実施例1同様にしてプリフォームBを作製するとともにマトリックス樹脂の含浸を行い複合材料Bを作製した。得られた複合材料Bは、強化繊維の体積率Vfは56%で、樹脂含浸に要する時間が実施例1の0.7倍と短時間に含浸させることができた。
【0069】
実施例3
強化繊維基材に貫通孔を設けなかった強化繊維基材Cを用い、あらかじめ[−45°/0°/+45°/90°]積層構成に積層され、部分的に接着された多層材料を用い、この4層の厚み方向に貫通孔を形成させた他は実施例1と同じようにして強化繊維基材積層体(プリフォームC)を作製した。
【0070】
得られたプリフォームCから求めた基材Cの1枚当たりの基材厚みは0.23mm、この基材Cの厚みから求められる強化繊維体積率Vffは46%、基材目付225g/m2であった。さらに、樹脂含浸を行い、複合材料Cを得た。得られた複合材料Cは、プリフォーム全体に樹脂含浸させることができた。得られた複合材料Cは、強化繊維の体積率Vfは55%であり、樹脂含浸に要する時間は実施例1の0.9倍であった。
【0071】
実施例4
強化繊維基材に貫通孔を設けなかった強化繊維基材Cを積層し、積層後に積層体の厚み方向に貫通孔を形成させた他は実施例1と同じようにして強化繊維基材積層体(プリフォームD)を作製した。
【0072】
得られたプリフォームDから求めた基材Cの1枚当たりの基材厚みは0.23mm、この基材Cの厚みから求められる強化繊維体積率Vffは46%であった。さらに、樹脂含浸を行い、複合材料Dを得た。得られた複合材料Dは、プリフォーム全体に樹脂含浸させることができた。得られた複合材料Dは、強化繊維の体積率Vfは55%であり、樹脂含浸に要する時間は実施例1の0.8倍であった。
【0073】
比較例1
強化繊維基材に貫通孔を設けなかった他は実施例1と同じようにして強化繊維基材Cを得た。得られた基材Cは、基材厚み0.23mm、基材Cの厚みから求められる強化繊維体積率Vffは46%、基材目付226g/m2であった。さらに、実施例1と同じようにしてプリフォームEを作製するとともに樹脂含浸を行い、複合材料Eを得た。得られた複合材料Eは、マトリックス樹脂のゲル化時間直前にプリフォーム全体に樹脂含浸させることができた。得られた複合材料Eは、強化繊維の体積率Vfは56%で、樹脂含浸は良好であったものの樹脂含浸に要する時間が実施例1の1.4倍要した。これら実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、比較例1の結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1から明らかなように、実施例1、2、3、4の強化繊維基材もしくはプリフォームに貫通孔を設けたプリフォームA〜Dから作成した複合材料では、樹脂含浸性および力学的特性を両立させることができた。一方、比較例1の強化繊維基材およびプリフォームに貫通孔を設けていないプリフォームEから作成した複合材料Eでは、力学的特性には優れるものの樹脂含浸性に劣り、樹脂含浸に長時間を要した。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、マトリックス樹脂の含浸性に優れ、かつ、力学的特性を両立させることができる基材およびプリフォームおよびそれからなる複合材料を得ることができる。このようにして得られた複合材料は、航空機、自動車などの構造部材をはじめ幅広い分野に適用できるが、特に航空機構造部材に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施態様に係る強化繊維基材の斜視図である。
【図2】図1の強化繊維基材の強化繊維糸条の延在方向にA−A’線に沿って切断した断面図である。
【図3】本発明の一実施態様に係る強化繊維基材を複数層積層したプリフォームの強化繊維糸条に沿って切断した断面図である。
【図4】本発明の実施例1の強化繊維基材の態様を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0078】
1、10 強化繊維基材
2、11 たて糸である強化繊維糸条
3、13 よこ糸である補助繊維
4、14 強化繊維布帛
5、15 樹脂材料
6、16 貫通した空間(貫通孔)
7 プリフォーム
12 たて補助糸条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、連続した強化繊維糸条を一方向に並行するように引き揃えた強化繊維糸条群から構成される強化繊維基材であって、強化繊維基材の厚み方向に強化繊維糸条を貫通している空間が形成されていることを特徴とする強化繊維基材。
【請求項2】
前記強化繊維基材がその少なくとも片方の表面に樹脂材料が間隙を有した状態で付着しており、かつ、その付着量が2〜15重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の強化繊維基材。
【請求項3】
貫通した空間の形態が、平面的に見て線分状または点状であることを特徴とする、請求項1または2に記載の強化繊維基材。
【請求項4】
前記強化繊維基材の貫通した空間の平面方向に投影した平均面積が0.1〜10mm2/1空間であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の強化繊維基材。
【請求項5】
前記強化繊維基材の貫通した空間の平面方向に投影した総面積が、100mm2あたり0.05〜5mm2であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の強化繊維基材。
【請求項6】
前記強化繊維基材の貫通した空間の平面方向に投影した総個数が、100mm2あたり0.05〜2個であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の強化繊維基材。
【請求項7】
強化繊維基材が、一方向に延在した強化繊維糸条群と、連続した補助繊維糸条を強化繊維糸条群と交差する方向に延在した補助繊維糸条群とから構成される一方向性のシートもしくは一方向性織物からなることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の強化繊維基材。
【請求項8】
強化繊維基材が、二方向に配列した強化繊維糸条群の交差もしくは交絡により構成される二方向シートもしくは二方向織物からなることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の強化繊維基材。
【請求項9】
強化繊維基材における強化繊維糸条の糸幅が2〜10mmであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の強化繊維基材。
【請求項10】
強化繊維基材の厚みから求められる強化繊維の体積率(Vff)が35〜65%であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の強化繊維基材。
【請求項11】
少なくとも請求項2〜10のいずれかに記載の強化繊維基材が、2層以上積層されており、かつ、積層された強化繊維基材同士が樹脂材料により少なくとも部分的に接着されて一体化していることを特徴とするプリフォーム。
【請求項12】
少なくとも、連続した強化繊維糸条を一方向に並行するように引き揃えた強化繊維糸条群から構成される強化繊維基材が2層以上積層され、少なくとも部分的に接着されて一体化しているプリフォームであって、少なくとも最表層の強化繊維基材における強化繊維糸条に、プリフォームの厚み方向に貫通している空間が形成されていることを特徴とするプリフォーム。
【請求項13】
前記プリフォームの貫通した空間の平面方向に投影した平均面積が0.1〜10mm2/1空間であることを特徴とする、請求項12に記載のプリフォーム。
【請求項14】
前記プリフォームの貫通した空間の平面方向に投影した総面積が、100mm2あたり0.05〜5mm2であることを特徴とする、請求項12または13に記載のプリフォーム。
【請求項15】
前記プリフォームの貫通した空間の平面方向に投影した総個数が、100mm2あたり0.05〜2個であることを特徴とする、請求項12〜14のいずれかに記載のプリフォーム。
【請求項16】
強化繊維糸条を用いて強化繊維布帛形態を形成し、樹脂材料を接着した後あるいは接着させながら強化繊維基材を形成しつつ、突起を有するピンを強化繊維基材の表面から貫通させ、強化繊維基材の厚み方向に貫通した空間を形成することを特徴とする、強化繊維基材の製造方法。
【請求項17】
強化繊維糸条を用いて強化繊維布帛形態を形成し、樹脂材料を接着した後あるいは接着させながら強化繊維基材を形成しつつ、レーザー光の照射により強化繊維基材の厚み方向に貫通した空間を形成することを特徴とする、強化繊維基材の製造方法。
【請求項18】
強化繊維基材に接着している樹脂材料により強化繊維基材同士を接着した後あるいは接着させながらプリフォームを形成しつつ、突起を有するピンを強化繊維基材の表面から貫通させ、プリフォームの厚み方向に貫通した空間を形成することを特徴とする、プリフォームの製造方法。
【請求項19】
強化繊維基材に接着している樹脂材料により強化繊維基材同士を接着した後あるいは接着させながらプリフォームを形成しつつ、レーザー光の照射によりプリフォームの厚み方向に貫通した空間を形成することを特徴とする、プリフォームの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−138031(P2006−138031A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327749(P2004−327749)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】