説明

強化繊維基材積層装置およびこの積層方法

【課題】シート状の強化繊維基材を湾曲や屈曲した形状の型上に積層する際に生じるしわの防止と、労働負荷の軽減と、作業の効率化とが可能な強化繊維基材積層装置およびこの積層方法を提供することを目的とする。
【解決手段】型15上に積層させる強化繊維基材シート14を繰り出すシート繰り出し手段と、型15上に強化繊維基材シート14を圧接させる圧接手段3と、を有する強化繊維基材積層装置1において、圧接手段3は、強化繊維基材シート14よりも狭い幅を有し、シート繰り出し手段は、圧接手段3との間を負荷しながら強化繊維基材シート14を供給することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維基材積層装置およびこの積層方法について、特に、シート状の強化繊維基材を湾曲や屈曲した形状の型上に積層する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、軽量かつ高強度を有する複合材として繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastic)等が航空機、建築、風車等の大型構造部材に用いられている。繊維強化プラスチックは、強化繊維基材を型上に積層させた後に樹脂を含浸させ、含浸させた樹脂を硬化させたものである。この強化繊維基材を型上に積層させる装置については、特許文献1から特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平6−39133号公報
【特許文献2】特開平5−254724号公報
【特許文献3】特開2006−335049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シート状の強化繊維基材(以下、「強化繊維基材シート」という。)を湾曲や屈曲した形状の大型の型上に積層する場合には、多くは人手により行われており積層作業に時間を要し作業効率に問題があった。また、強化繊維基材シートを積層する際にしわ等が発生し品質にばらつきが生じるという問題があった。
特許文献1に開示されている発明は、ロービング材または糸状にした強化繊維基材を積層するものである。
また、特許文献2には、強化繊維基材をテープ状にしてその強化繊維基材と同じ幅を有するローラによって繊維幅全体を押さえて型上に圧接しながら積層させる装置が開示されているが、シート状の強化繊維基材を積層する具体的な方法等については開示されていない。
また、特許文献3には、強化繊維基材シートを型上に積層させる門型の装置が開示されているが、装置が大掛かりなため設置コストが係るという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、シート状の強化繊維基材を湾曲や屈曲した形状の型上に積層する際に生じるしわの防止と、労働負荷の軽減と、作業の効率化とが可能な強化繊維基材積層装置およびこの積層方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の強化繊維基材積層装置およびこの積層方法は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係る強化繊維基材積層装置は、型上に積層させる強化繊維基材シートを繰り出すシート繰り出し手段と、前記型上に前記強化繊維基材シートを圧接させる圧接手段と、を有する強化繊維基材積層装置において、前記圧接手段は、前記強化繊維基材シートよりも狭い幅を有し、前記シート繰り出し手段は、前記圧接手段との間で張力を負荷しながら前記強化繊維基材シートを供給することを特徴とする。
【0007】
強化繊維基材積層装置は、張力を負荷しながら強化繊維基材シートを型上へと繰り出すとともに張力を保持したまま強化繊維基材シートを型上に圧接する。強化繊維基材シートよりも幅の狭い圧接手段によって強化繊維基材シートを圧接するので、圧接部分は型上の所定位置に拘束されるが、強化繊維基材シートの圧接されなかった部分は型上に拘束されないので、シート繰り出し手段と圧接手段との間の張力によって強化繊維基材シートが変形し張力方向に相対的に変位する(ずれる)。そのため、型が曲面を有する場合であっても、強化繊維基材シートを型に倣うようにシワ無く積層することができる。したがって、圧接手段よりも幅広な強化繊維基材シートを型上へしわなく積層することができる。
なお、強化繊維基材シートとは、ガラス繊維やカーボン繊維等の強化繊維から形成されており、例えば、幅が約1mのシート状の織物をいう。本発明の強化繊維基材積層装置によって型上に強化繊維基材シートを積層させた後、VaRTAM工法等を用いて樹脂を含浸させて硬化させることにより構造部材である複合材(繊維強化プラスチック)が製作される。
【0008】
さらに、本発明に係る強化繊維基材積層装置によれば、前記圧接手段は、前記強化繊維基材シートの中央部を圧接することを特徴とする。
【0009】
強化繊維基材シートは、張力を有して型上へと繰り出されるとともに中央部が圧接される。そのため、中央部が圧接された強化繊維基材シートの左右(両側)には均等に力がかかる。したがって、中央部が圧接された強化繊維基材シートの左右をしわなく型上に積層することが可能となる。
【0010】
さらに、本発明に係る強化繊維基材積層装置によれば、前記シート繰り出し手段から繰り出される前記強化繊維基材シートの張力は、前記シート繰り出し手段の摩擦抵抗により発生されることを特徴とする。
【0011】
強化繊維基材シートは、強化繊維基材シート繰り出し手段の摩擦抵抗により張力が発生される。そのため、強化繊維基材シートの張力を発生させるための機構を別途設けることなく張力を発生させることができる。したがって、強化繊維基材シートを張力を発生させて型上へと繰り出し、かつ、圧接手段により型上に圧接するので、強化繊維基材シートをしわなく型上へ積層することができる。
なお、「摩擦抵抗」とは、例えば、強化繊維基材シートを繰り出す動きとともに生じる摩擦によって生じる抵抗を意味し、例えば、強化繊維基材シート繰り出し手段が、繊維ロールと、ロールの芯あるいはロールの芯内を通した軸を支える軸受とで構成させる場合には、軸受にすべり摩擦力が発生する軸受部材を採用することによって実現することができる。
【0012】
さらに、本発明に係る強化繊維基材積層装置によれば、前記シート繰り出し手段は、前記強化繊維基材シートと前記型とを接着させる接着剤を供給する接着剤供給手段を備えていることを特徴とする。
【0013】
強化繊維基材積層装置は、接着剤供給手段を備えている。そのため、強化繊維基材積層装置は、型上への強化繊維基材シートの繰り出しと、しわ伸ばしと、圧接とともに接着を実施することができる。したがって、強化繊維基材の積層作業の効率化を図ることができる。
【0014】
さらに、本発明に係る強化繊維基材積層装置によれば、前記型は、前記強化繊維基材シートを積層させることにより風車のブレードなどの大型繊維強化プラスチック製品を形成するものであって、前記シート繰り出し手段は、ハンドルを有し、前記圧接手段は、圧接ローラと該圧接ローラを駆動する駆動手段とを備えていることを特徴とする。
【0015】
強化繊維基材積層装置には圧接ローラと圧接ローラを駆動する駆動手段とが設けられており、積層位置の制御はハンドルを操作し手動によりおこなう装置となっている。そのため、強化繊維基材シートの型上への積層作業を簡易的な強化繊維基材積層装置により実施することが可能となる。したがって、従来は大人数での手作業で行われていた風車のブレードを形成するための強化繊維基材シートの積層作業を少人数によって行うことができ、労働負荷の軽減および作業の効率化を図ることができる。
【0016】
さらに、本発明に係る強化繊維基材積層装置によれば、前記強化繊維基材シートを前記型上に押圧する補助圧接手段が設けられていることを特徴とする。
【0017】
補助圧接手段により強化繊維基材シートは、型上により広い面積で圧接される。この補助圧接手段による押圧力は、圧接手段の圧接力よりも小さいものとされ、強化繊維基材シートが型上から剥離することを抑制できる程度とする。したがって、強化繊維基材シートが型上から剥離することを抑制することができ、より複雑な曲面へシワ無く繊維を積層させることが可能となる。
【0018】
さらに、本発明に係る強化繊維基材積層装置によれば、前記シート繰り出し手段と前記圧接手段とが接続されている可動手段を有し、該可動手段は、前記型の長手方向に沿うように移動され、前記シート繰り出し手段と前記圧接手段とを前記型の幅方向と、前記型の長手方向および幅方向に対して直交する垂直方向とに移動自在とされることを特徴とする。
【0019】
シート繰り出し手段と圧接手段とは、型の長手方向と、型の長手方向および幅方向に対して直交する垂直方向とに移動自在とされる。そのため、湾曲や屈曲した型上に強化繊維基材シートを積層する場合であっても、可動手段を移動することにより圧接手段を型上に移動自在とすることができる。したがって、湾曲や屈曲した型上であっても型上から圧接手段が離れることなく強化繊維基材シートを積層することができる。
また、可動手段を移動させることにより、繊維シート繰り出し手段や繊維シートロールの交換あるいは圧接手段のメンテナンス時に、シート繰り出し手段や圧接手段を型の長手方向および幅方向に対して直交する垂直方向に移動することができる。したがって、繊維シート繰り出し手段や繊維シートロールの交換あるいは圧接手段のメンテナンスが容易となる。
また、シート繰り出し手段や圧接手段を連続的に型の長手方向に移動することができるので、強化繊維基材シートを容易に大型部材の型に積層させることができる。
【0020】
また、本発明に係る強化繊維基材積層装置の積層方法によれば、型上に積層させる強化繊維基材シートを繰り出すシート繰り出し手段と、前記型上に前記強化繊維基材シートを圧接させる圧接手段を有する強化繊維基材積層装置の積層方法において、前記圧接手段は、前記強化繊維基材シートよりも狭い幅を有し、前記シート繰り出し手段は、前記圧接手段との間で張力を負荷しながら前記強化繊維基材シートを供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
強化繊維基材積層装置は、張力を負荷しながら強化繊維基材シートを型上へと繰り出すとともに張力を保持したまま強化繊維基材シートを型上に圧接する。強化繊維基材シートよりも幅の狭い圧接手段によって強化繊維基材シートを圧接するので、強化繊維基材シートの圧接されなかった部分はシート繰り出し手段と圧接手段との間の張力によって強化繊維基材シートが変形し張力方向に相対的に変位する。そのため、型上が曲面を有する場合であっても、強化繊維基材シートを型上に積層することができる。したがって、圧接手段よりも幅広な強化繊維基材シートを型上へしわなく積層することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る強化繊維基材積層装置の側面図である。
【図2】図1に示した強化繊維基材積層装置の正面図である。
【図3】第1実施形態に係る型について、(A)はその斜視図であり、(B)は(A)に示したA部の部分拡大図である。
【図4】図1に示した強化繊維基材シートと型とについて、(A)はその部分拡大斜視図であり、(B)の上図は、その平面図であり、(B)の下図は、型上に形成された孤長に強化繊維基材シートを積層させた側面図である。
【図5】強化繊維基材シートを示し、その上方は強化繊維基材シートの平面図であり、その下方は側面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る強化繊維基材積層装置の側面図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る強化繊維基材積層装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る強化繊維基材積層装置について図1および図2に基づいて説明する。
本実施形態に係る強化繊維基材積層装置1は、シート繰り出し機構(シート繰り出し手段)2と、このシート繰り出し機構2から繰り出された強化繊維基材シート14を翼型(型)15上に圧接する圧接ローラ(圧接手段)3とを備えている。
【0024】
シート繰り出し機構2は、シートロール部2aと、ロール軸2bとを備えている。シートロール部2aは、その中心をロール軸2bが貫通している。シートロール部2aは、繰り出される強化繊維基材シート14が巻回された状態で形成されている。この強化繊維基材シート14は、繊維方向が翼型15の長手方向すなわち繰り出し方向に供給されるように巻回されている。
【0025】
圧接ローラ3は、圧接ローラ部3aと、圧接ローラ軸3bとを備えている。圧接ローラ部3aは、シートロール部2aから繰り出された強化繊維基材シート14を翼型15上に圧接する。圧接ローラ部3aは、その中心を圧接ローラ軸3bが貫通している。圧接ローラ部3aと圧接ローラ軸3bとは、シートロール部2aすなわち強化繊維基材シート14の幅よりも狭くなっている。翼型15上には、圧接ローラ部3aを介して、圧接ローラ3及び圧接ローラ3の上方に位置するシート繰り出し機構2等の重量が加わる。この圧接ローラ部3aを介した重量によって、シートロール部2aから繰り出された強化繊維基材シート14が翼型15上に圧接させられる。
【0026】
圧接ローラ軸3bの一端には、モータ(駆動手段)9が設けられている。モータ9は、圧接ローラ軸3bを回転駆動させる駆動源である。圧接ローラ軸3bが回転駆動することにより、圧接ローラ部3aが回転する。
【0027】
シート繰り出し機構2は、2本のフレーム13a,13bにより下方から支えられている。これらフレーム13a,13bの一端(図2において上端)は、シート繰り出し機構のロール軸2b(図1参照)の両端に接続されている。また、これらフレーム13a,13bの他端(図2において下端)は、圧接ローラ軸3bの両端に接続されている。これらフレーム13a,13bは、シート繰り出し機構2のロール軸2bから圧接ローラ軸3bへと斜め下方に向かって延在している。また、圧接ローラ軸3bの幅はシート繰り出し機構2のロール軸2bの幅に比べて狭いため、2本のフレーム13a,13bの間隔は、図2に示すようにロール軸2bから圧接ローラ軸3bに向かって徐々に狭くなっている。これにより、本実施例では、圧接ローラ3は、強化繊維基材シート14の中央部を圧接することができるようになっている。また、ロール軸2bの両端には、接着剤供給用のフレーム13cがシート繰り出し機構2のロール軸2bに対して平行になるように接続されている。この接着剤供給用のフレーム13cは、シートロール部2aの近傍に設けられている。
【0028】
ロール軸2bの両端には、翼型15上に対して平行、かつ、作業者が把持部を把持した際に互いに平行になるように2本のハンドル8(図1参照)が延在している。各ハンドル8の他端(図1において右端)には、作業者が把持する把持部が設けられている。ハンドル8とフレーム13との間は、図1に示すように側面視した場合に鋭角を成すように接続されている。
【0029】
接着剤供給手段7は、接着剤噴射ノズル7aと、接着剤供給タンク(図示せず)とを備えている。接着剤供給タンクは、例えば、接着剤供給用のフレーム13cに内蔵されている。接着剤噴射ノズル7aは、接着剤供給用のフレーム13c上に1または複数(本実施形態では3つ)設けられている。接着剤供給用のフレーム13cおよび接着剤供給手段7は、シートロール部2aの近傍に設けられているためシートロール部2aの表面に接着剤を散布できるようになっている。
【0030】
本実施形態に用いられる翼型15(図3参照)は、風車(図示せず)のブレード(図示せず)の形状に合わせた形状となっている。風車のブレードの型15は、翼の前縁と後縁を分割線として、風を受ける側の面である腹側と、その反対面の背側とに2分割される。図3(A)の翼型15は、背側の翼型15を示している。
強化繊維基材シート14は、本実施形態にかかる強化繊維基材積層装置1によって翼型15上に積層された後、VaRAM工法等を用いて樹脂が含浸させられて硬化される。これにより、ブレードの腹側と背側との複合材(繊維強化プラスチック)が形成される。ブレードは、このように製作された腹側と背側との複合材を合わせて一体化されることによって形成される。
【0031】
図3(A)に示す背側の翼型15は、強化繊維基材シート14(図1参照)が積層される面を上方に向けた状態で設置されている。翼型15は、その長手方向に延在し、翼型15の幅方向(翼断面における翼弦方向)には凹形状(下方に向かって凸となる形状)に湾曲している。さらに、図3(A)中のA部の部分拡大図である図3(B)に示すように、翼型15の強化繊維基材シート14が積層される面の一部は、翼型15の長手方向には上方に向かって凸形状を有し、かつ、翼型15の幅方向には凹形状を形成する鞍型形状(非ユークリッド)となっている。すなわち、翼型15の強化繊維基材シート14を積層させる面は、翼型15の長手方向に形成されている円孤AB,EG,DCが上方に向かって凸形状の円孤を形成し、翼型15の幅方向に形成されている円孤AD,FH,BCが凹形状の円孤となるように形成されている。そのため、それぞれの円孤端A,B,C,Dを接続して形成される面ABCDは、全体として凹形状を成している。円孤AB,DCと円孤EGとは、円孤EGの半径Rcが円孤AB,DCの半径Reよりも小さいものとなっている。
【0032】
図4には、鞍型形状を有する翼型15の長手方向に、平面状の強化繊維基材シート14の繊維方向を合わせて圧接させた場合、強化繊維基材シート14にしわが生じる原理が示されている。
図4(A)に示すように、翼型15の長手方向と強化繊維基材シート14の繊維方向とを同じ方向にする。翼型15の幅方向である円孤AD,BCに強化繊維基材シート14の2辺A’D’,B’C’を合わせるように単純に真上から押さえつけるように積層させる。
【0033】
図4(A)の翼型15と強化繊維基材シート14とを側面視した場合、図4(B)の下図に示すように、翼型15の面ABCD(図4(A)参照)は、円孤AB,DCから円孤EGに向かって凹形状となる円孤により形成されている。そのため、翼形15を側面視した場合には、円孤EGが円孤AB,DCよりも下方に位置している。また、孤長EGは、孤長AB,DCに比べて短くなっている。翼型15の面ABCD(図4(A)参照)を形成する長手方向の孤長は、孤長EGから孤長ABまたはDCに近づくにつれて長くなっている。一方、強化繊維基材シート14の面A’B’C’D’は、平面形状であるため、その2辺A’B’,D’C’と、2辺A’D’,B’C’の中間点E’,G’を結んだ長手方向の中央部E’G’の長さとは同じ長さを有している。
【0034】
したがって、強化繊維基材シート14の長手方向の中央部E’G’の長さは、翼型15の孤長EGよりも長くなる。そのため、翼型15の円孤AD,BCに強化繊維基材シート14の2辺A’D’,B’C’を合わせるように積層させた場合には、図4(B)の上図に示すように、強化繊維基材シート14の2辺A’B’,D’C’の各中間点F’,H’を結んだ幅方向の中央部F’H’近傍にしわが生じる。これは、上述の通り、翼型15の面ABCD(図4(A)参照)を形成する長手方向の円孤が、円孤EGから円孤AB,DCに向かって孤長が長くなっているためである。このように強化繊維基材シート14の幅方向の中央部F’H’近傍に生じるしわは、強化繊維基材シート14の一辺A’B’(図4(B)参照)または一辺D’C’(図4(B)参照)に近づくにつれて減少する。
【0035】
図5には、強化繊維基材シート14が示されている。図5において、上方の図は強化繊維基材シート14を平面視した図であり、下方の図は側面視した図である。同図には、強化繊維基材シート14が繊維方向(長手方向)にずれる状態が示されている。
強化繊維基材シート14は、例えば、約5mm幅のガラス繊維や炭素繊維等の各連続繊維束14a,14b,14c,・・・が翼型15(図3参照)の長手方向に沿って平行に配列された織物であり、約1mの幅を有している。また、強化繊維基材は高い弾性率を有しているため、強化繊維基材シート14は、積層時の圧接力で発生する作用力では、長手方向に伸張しない特性を有している。
【0036】
一方で、図5の上図に示すように、強化繊維基材シート14は、その中央部を圧接して翼型15(図3参照)の長手方向に力が加わった場合には、圧接力が加わった中央部の連続繊維束14dに対して、圧接力が加わらなかった連続繊維束14c,14eが強化繊維基材シート14に加わる張力によって引っ張られるので翼型15(図3参照)の長手方向にずれを生じさせることは可能である。この特性を利用することで、鞍型形状を有する翼型15(図3参照)にシワを発生させずに強化繊維基材シート14を積層することができる。
【0037】
中央端部から長手方向に沿って圧接する場合には、図5の下図の側面図に示すとおり、圧接方向に繊維がずれるため、単純に上から押さえつける場合(図4参照)に発生していた強化繊維基材シート14のシワは発生しない。
【0038】
次に、図1および図2に示した強化繊維基材積層装置1の積層方法について説明する。
強化繊維基材積層装置1は、手動により操作される。作業者がハンドル8の把持部を把持し、強化繊維基材積層装置1を翼型15の長手方向に押すように移動する。また、モータ9は、圧接ローラ軸3bを回転駆動させるために作動される。これにより、作業者が強化繊維基材積層装置1を翼型15の長手方向に押すように移動するとともに圧接ローラ部3aが翼型15上を回転する。そのため、強化繊維基材積層装置1は、翼型15上を移動することができる。
強化繊維基材積層装置1が翼型15上を移動するとともに、ロール軸2bが回転してシートロール部2aから圧接ローラ3へと強化繊維基材シート14が張力を負荷しながら繰り出される。シートロール部2aから圧接ローラ3へと繰り出された強化繊維基材シート14の張力は、ロール軸2bの回転時の摩擦抵抗により発生される。ロール軸2bの回転時の摩擦抵抗は、ロール軸2bとフレーム13a,13bとの接続部分に回転を円滑にする転がり軸受等を省略し、すべり摩擦力を発生させるすべり軸受を採用することによって生じさせる。
また、シートロール部2aが回転する時には、接着剤供給手段7より接着剤がシートロール部2aに巻回されている強化繊維基材シート14の表面に噴射される。シートロール部2aから繰り出された強化繊維基材シート14は、その中央部を圧接ローラ3により翼型15に圧接されるとともに接着させられる。
【0039】
以上の通り、本実施形態に係る強化繊維基材積層装置1によれば、以下の作用効果を奏する。
強化繊維基材積層装置1は、張力を負荷しながら強化繊維基材シート14を翼型15へと繰り出すとともに張力を保持したまま強化繊維基材シート14を翼型15に圧接する。強化繊維基材シート14よりも幅の狭い圧接ローラ3によって強化繊維基材シート14を圧接するので、圧接部分は翼型15上の所定位置に拘束されてしまうが、強化繊維基材シート14の圧接されなかった部分は翼型15上に拘束されないので、シート繰り出しローラ2と圧接ローラ3との間の張力によって強化繊維シートが変形し張力方向に相対的に変位する(ずれる)。そのため、翼型15上が曲面を有する場合であっても、強化繊維基材シート14を翼型15上に倣うようにシワ無く積層することができる。したがって、圧接ローラ3よりも幅広な強化繊維基材シート14を翼型15上へしわなく積層することができる。
【0040】
強化繊維基材シート14には、シート繰り出し機構2のロール軸2bと軸受けとの摩擦抵抗により張力が負荷される。そのため、強化繊維基材シート14の張力を発生させる機構を別途設けることなく張力を発生させることができる。したがって、簡便な強化繊維基材積層装置1で強化繊維基材シート14に張力を発生させて翼型15上へと繰り出し、かつ、圧接ローラ3により翼型15上に圧接するので、簡便な強化繊維基材積層装置1にて強化繊維基材シート14をしわなく翼型15上へ積層することができる。
【0041】
強化繊維基材シート14は、張力を有して翼型15上へと繰り出されるとともに中央部が圧接される。そのため、中央部が圧接された強化繊維基材シート14の左右(両側)には均等に力がかかる。したがって、中央部が圧接された強化繊維基材シート14の左右をしわなく翼型15上に積層することが可能となる。
【0042】
強化繊維基材積層装置1は、接着剤供給手段7を備えている。そのため、強化繊維基材積層装置1は、強化繊維基材シート14の翼型15上への繰り出しと、しわ伸ばしと、圧接とともに接着を実施することができる。したがって、強化繊維基材積層作業における作業の効率化を図ることができる。
【0043】
強化繊維基材シート14の繊維方向は、翼型15の長手方向と同じ方向としたので、強化繊維基材シート14を圧接した場合、圧接された繊維14d(図5の上図参照)はその長手方向には伸びないが、その周辺の繊維14c、14e(図5の上図参照)は長手方向に拘束されないので張力によって長手方向に変位してずれを生じさせることができる。
【0044】
強化繊維基材積層装置1には圧接ローラ部3aと、この圧接ローラ部3aを駆動するモータ9とが設けられており、ハンドル8を操作し手動制御により移動が可能である。該装置では複雑な制御機構は不要であり、強化繊維基材シート14の翼型15上への積層作業を簡易的な強化繊維基材積層装置1により実施することが可能となる。したがって、従来の手作業による積層作業に対し、少人数で風車のブレードを形成するための強化繊維基材シート14の積層作業を行うことができ、労働負荷の軽減および作業の効率化を図ることができる。
【0045】
なお、本実施形態では強化繊維基材シート14の張力は、ロール軸2bとフレーム13a,13bとの間の回転時の摩擦抵抗により生じるものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものでは無く、厳密な張力の制御が必要である場合には、摩擦抵抗を機械的に制御する機構を設けてもかまわない。
なお、本実施形態では型に風車のブレードを形成する翼型15を用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく湾曲や屈曲している型であれば良い。これらの型に積層する強化繊維基材としては、ガラス繊維や炭素繊維などが挙げられる。
【0046】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態の強化繊維基材積層装置の構成と積層方法は、補助圧接手段を有している点において第1実施形態と相違し、その他は同様である。したがって、同一の構成および積層方法については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0047】
図6には、図1に示した強化繊維基材積層装置1に補助圧接手段4,5が設けられていることが示されている。
補助圧接ローラ(補助圧接手段)4,5は、複数(例えば、2つ)備えられている。これらの補助圧接ローラ4,5は、補助圧接ローラ部4a,5aと、図示しない補助圧接ローラ軸とを備えている。
【0048】
補助圧接ローラ軸は、フレーム13a,13bから下方に伸びる部材10,11に一端が接続されている。また、各部材10,11には、ばね10a,11aが設けられている。
フレーム13a,13bから下方に伸びる部材10,11に接続されている補助圧接ローラ軸は、補助圧接ローラ部4a,5aの中心を貫通している。補助圧接ローラ4,5は、圧接ローラ3の両側に設けられ、圧接ローラ3を挟んで翼型15の幅方向に一列になるように均等な間隔を持って設けられている。補助圧接ローラ4,5は、強化繊維基材シート14が翼型15上から剥離しないように強化繊維基材シート14を翼型15上に押圧する。
【0049】
補助圧接ローラ4,5が強化繊維基材シート14を翼型15上に押圧する押圧力は、強化繊維基材シート14が浮き上がらないように抑える程度の力で足り、強化繊維基材シート14を翼型15上に押しつけて固定することを目的とした圧接ローラ3による圧接力よりも小さいものとされる。具体的には、フレーム13a,13bから下方に伸びる部材10,11に設けられているばね10a,11aにより調整できるものとなっている。
【0050】
強化繊維基材積層装置1は、強化繊維基材シート14の中央部を圧接ローラ3により翼型15の長手方向に圧接するとともに、圧接された繊維の周辺繊維を翼型15上から剥離しないように補助圧接ローラ4,5によって翼型15の長手方向に押圧する。
【0051】
以上の通り、本実施形態に係る強化繊維基材積層装置1によれば、以下の作用効果を奏する。
補助圧接ローラ4,5により、強化繊維基材シート14は、翼型15上に押圧される。したがって、強化繊維基材シート14が翼型15上から剥離することを抑制することができる。
【0052】
なお、本実施形態では、補助圧接ローラ4,5を翼型15の幅方向に圧接ローラ3を挟んで一列になるように設けるとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく補助圧接ローラ4,5をフレーム13a,13bの下方にフレーム13a,13bに対して平行となるように設けても良く、型形状や繊維種類・形態に合わせてに配置すれば良い。
【0053】
[第3実施形態]
以下、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態の強化繊維基材積層装置の構成および積層方法は、可動手段を有し、可動手段が翼型の長手方向に沿うように移動される点において第1実施形態と相違し、その他は同様である。したがって、同一の構成および積層方法については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0054】
図7には、図1に示した強化繊維基材積層装置1に設けられている可動手段20を有し、可動手段20が翼型15の長手方向に沿うようにレール30上を移動することが示されている。
アーム手段(可動手段)20は、アーム22が接続されているベース21と、シート繰り出し機構2および圧接ローラ3を備えたアーム22とを有している。
ベース21は、ベース部21aと、走行ローラ21bと、モータ(図示せず)とを備えている。走行ローラ21bは、工場内に設けられているレール30上を回動する。ベース部21aには、モータと、図示しない結合部(以下、第1結合部という。)とが設けられている。ベース部21aの第1結合部には、アーム22が接続されている。この第1結合部によりアーム22は、翼型15の幅方向に移動自在とされている。ベース部21aに設けられているモータは、アーム22を移動させる動力源である。このモータは、アーム22を第1結合部により翼型15の幅方向と、後述する第2結合部により翼型15の長手方向および幅方向に対して直交する垂直方向(図7において上下方向)とに移動自在とされる。
【0055】
アーム22は、2つの部材22a,22bと、図示しない結合部(以下、第2結合部という。)とを有している。各部材22a,22bの一端は、第2結合部により接続されている。アーム22は、この第2結合部により一方の部材22aに対して他方の部材22bが可動とされ、翼型15の長手方向および幅方向に対して直交する垂直方向(図7において上下方向)に移動自在とされている。部材22bの他端は、ロール軸2bに接続されている。これによりアーム22は、シート繰り出し機構2と圧接ローラ3とを片持ち支持している。
【0056】
次に、本実施形態に係る強化繊維基材積層装置1の積層方法について説明する。
アーム手段20を備えている強化繊維基材積層装置1は、工場内に設置されたレール30上に備えられている。このレール30近傍には、レール30の延在する方向と翼型15の長手方向とが同じになるように翼型15が設置されている。この翼型15は、積層される面を上方にして据え付けられている。強化繊維基材積層装置1は、作業者によりレール30上を翼型15上の長手方向に移動される。強化繊維基材積層装置1がレール30上を移動するとともに、アーム手段20に設けられているシート繰り出し機構2より強化繊維基材シート14が繰り出される。繰り出された強化繊維基材シート14は、圧接ローラ3により翼型15上に圧接および接着される。アーム手段20に設けられているモータによりアーム22を移動させることによって、翼型15上の幅方向の任意の位置に強化繊維基材シート14と圧接ローラ3とを移動させることができる。
【0057】
以上の通り、本実施形態に係る強化繊維基材積層装置1によれば、以下の作用効果を奏する。
シート繰り出し機構2と圧接ローラ3とは、翼型15の長手方向と、翼型15の長手方向および幅方向に対して直交する垂直方向(図7において上下方向)とに移動自在とされる。そのため、湾曲や屈曲した翼型15上に強化繊維基材シート14を積層する場合であっても、アーム手段20を移動することにより圧接ローラ3を翼型15上に圧接することができる。したがって、湾曲や屈曲した翼型15上であっても翼型15上から圧接ローラ3が離れることなく強化繊維基材シート14を積層することができる。
また、アーム手段20を移動させることにより、強化繊維シートロールの交換、シート繰り出し機構2および圧接ローラ3のメンテナンス時に、シート繰り出し機構2や圧接ローラ3を翼型15の長手方向および幅方向に対して直交する垂直方向(図7において上下方向)に移動することができるため、これらの作業が容易となる。
また、シート繰り出し機構2や圧接ローラ3を連続的に翼型15の長手方向に移動することができるので、強化繊維基材シート14を簡易的に大型の翼型15上に積層させることができる。
【0058】
なお、本実施形態では強化繊維基材積層装置1は、手動によりレール30上を移動するとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく強化繊維基材積層装置1をモータ等の駆動手段によりレール30上を移動させるものとしても良い。
また、アーム22は、シート繰り出し機構2と圧接ローラ3とを片持ち支持していると説明したが、フレームを増設して圧接ローラ3の中央位置を支持する形態としても良い。
さらに圧接ローラ3は水平に支持するだけでなく、翼型15形状によっては傾けて支持し作業性を向上させることも可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 強化繊維基材積層装置
2 シート繰り出し手段(シート繰り出し機構)
3 圧接手段(圧接ローラ)
14 強化繊維基材シート
15 型(翼型)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
型上に積層させる強化繊維基材シートを繰り出すシート繰り出し手段と、
前記型上に前記強化繊維基材シートを圧接させる圧接手段と、を有する強化繊維基材積層装置において、
前記圧接手段は、前記強化繊維基材シートよりも狭い幅を有し、
前記シート繰り出し手段は、前記圧接手段との間で張力を負荷しながら前記強化繊維基材シートを供給することを特徴とする強化繊維基材積層装置。
【請求項2】
前記圧接手段は、前記強化繊維基材シートの中央部を圧接することを特徴とする請求項1に記載の強化繊維基材積層装置。
【請求項3】
前記シート繰り出し手段から繰り出される前記強化繊維基材シートの張力は、前記シート繰り出し手段の摩擦抵抗により発生されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の強化繊維基材積層装置。
【請求項4】
前記シート繰り出し手段は、前記強化繊維基材シートと前記型とを接着させる接着剤を供給する接着剤供給手段を備えていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の強化繊維基材積層装置。
【請求項5】
前記型は、前記強化繊維基材シートを積層させることにより風車のブレードなどの大型繊維強化プラスチック製品を形成するものであって、
前記シート繰り出し手段は、ハンドルを有し、
前記圧接手段は、圧接ローラと該圧接ローラを駆動する駆動手段とを備えていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の強化繊維基材積層装置。
【請求項6】
前記強化繊維基材シートを前記型上に押圧する補助圧接手段が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の強化繊維基材積層装置。
【請求項7】
前記シート繰り出し手段と前記圧接手段とが接続されている可動手段を有し、
該可動手段は、前記型の長手方向に沿うように移動され、前記シート繰り出し手段と前記圧接手段とを前記型の幅方向と、前記型の長手方向および幅方向に対して直交する垂直方向とに移動自在とされることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の強化繊維基材積層装置。
【請求項8】
型上に積層させる強化繊維基材シートを繰り出すシート繰り出し手段と、
前記型上に前記強化繊維基材シートを圧接させる圧接手段と、を有する強化繊維基材積層装置の積層方法において、
前記圧接手段は、前記強化繊維基材シートよりも狭い幅を有し、
前記シート繰り出し手段は、前記圧接手段との間で張力を負荷しながら前記強化繊維基材シートを供給することを特徴とする強化繊維基材積層装置の積層方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−136432(P2011−136432A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296149(P2009−296149)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】