説明

強化繊維用サイジング剤及びその用途

【課題】 本発明の目的は、優れた耐熱性を有し、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維に対して、優れた接着性と開繊性を同時に付与できる強化繊維用サイジング剤と、それを用いた合成繊維ストランド及び繊維強化複合材料を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用サイジング剤であって、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体及びエチレン−プロピレン−ブテン共重合体から選ばれる少なくとも1種に対し、不飽和カルボン酸及びその酸無水物から選ばれる少なくとも1種を0.1〜20重量%グラフト共重合してなる酸変性ポリオレフィン樹脂、ビニルエステル化合物及び水を必須に含有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維用サイジング剤及びその用途に関する。詳細には、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用サイジング剤、これを用いた合成繊維ストランド及び繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用途、航空・宇宙用途、スポーツ・レジャー用途、一般産業用途等に、プラスチック材料(マトリックス樹脂と称される)を各種合成繊維で補強した繊維強化複合材料が幅広く利用されている。これらの複合材料に使用される繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの各種無機繊維、アラミド繊維、ポリアミド系繊維、ポリエチレン繊維などの各種有機繊維が挙げられる。これら各種合成繊維は通常、フィラメント形状で製造され、その後ホットメルト法やドラムワインディング法等により一方向プリプレグと呼ばれるシート状の中間材料に加工されたり、フィラメントワインディング法によって加工されたり、場合によっては織物又はチョップドファイバー形状に加工されたりする等、各種高次加工工程を経て、強化繊維として使用されている。
【0003】
上記のマトリックス樹脂のうち、成型が容易でリサイクル面でも有利な為注目されているポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などのいわゆる熱可塑性樹脂を用いた繊維強化複合材料の場合、補強繊維は一般的に1〜15mm長に切断されたチョップドファイバー形状で使用されることが多い。このチョップドファイバーと熱可塑性樹脂とを混練したペレットを製造する際には、チョップドファイバーの集束性が重要で、これが不適切であると、チョップドファイバーの供給量の不安定化、ストランド切れなどが発生し、得られた複合材料の物性が低下することがある。これを防止するため、繊維に適切な集束性を付与する目的で、各種熱可塑性樹脂を主剤とするサイジング剤を付与する技術が多数提案され(特許文献1〜3参照)、工業的に広く利用されている。
【0004】
一方、近年においては、補強剤として用いる繊維の引張強度などの特性をより効果的に得るため、長繊維ペレットと呼ばれる形態や、熱硬化性樹脂をマトリックスとする複合材料の様に、繊維を一方向シートやテープ状、織物の状態で熱可塑性樹脂を含浸させて成型するケースも増加している。このような場合には、コンポジット成型時に熱溶融した熱可塑性樹脂が速やかに繊維ストランド内部、具体的に繊維−繊維間に含浸することが、成型工程時間の短縮化、得られた複合材料の物性向上の面で重要である。
【0005】
しかしこの様な、繊維強化複合材料の用途・用法の多様化、さらなる機械的強度向上が望まれる昨今において、従来技術に記載されたサイジング剤の適用では、満足され得るレベルに達しないという問題があった。特にマトリックス樹脂がポリオレフィン系樹脂であると、高温で処理される場合があり、それに伴いサイジング剤も耐熱性が要求されることがある。サイジング剤が耐熱性不足となるとマトリックス樹脂との高温処理時にサイジング剤の熱分解ガスの発生により、マトリックス樹脂と強化繊維との接着阻害が生じることがある。
また、従来のサイジング剤では、造膜性が高く常温で固体であるので、強化繊維がチョップドファイバー形態で使用される場合は、集束性に優れ良好な加工性を有する点で有利であるものの、長繊維形態での適用においては、上述のマトリックス樹脂含浸性に劣る。さらに、強化繊維を一方向シートや織物に加工する時に、成型工程のガイドバーなどで繊維ストランドが速やかに開繊することが重要であるが、従来のサイジング剤では、高い造膜性のため、著しく開繊性に劣る。また、強化繊維ストランドの風合いが硬くなりすぎ、ボビン状に固く巻いて製品パッケージにし難くなる。その結果、製品パッケージの輸送時にパッケージの強化繊維ストランドが巻き崩れる等の問題が起きやすい。
よって、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化複合材料の分野において、より繊維とマトリックス樹脂との親和性を高め、強固に接着し、さらには開繊性が良好で且つ耐熱性の高いサイジング剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−2274号公報
【特許文献2】特開2002−138370号公報
【特許文献3】特開2003−165849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかる従来の技術背景に鑑み、本発明の目的は、優れた耐熱性を有し、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維に対して、優れた接着性と開繊性を同時に付与できる強化繊維用サイジング剤と、それを用いた合成繊維ストランド及び繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の成分を必須に含有する強化繊維用サイジング剤であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用サイジング剤であって、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体及びエチレン−プロピレン−ブテン共重合体から選ばれる少なくとも1種に対し、不飽和カルボン酸及びその酸無水物から選ばれる少なくとも1種を0.1〜20重量%グラフト共重合してなる酸変性ポリオレフィン樹脂、ビニルエステル化合物及び水を必須に含有する、強化繊維用サイジング剤である。
【0010】
前記酸変性ポリオレフィン樹脂と前記ビニルエステル化合物との重量比(酸変性ポリオレフィン樹脂:ビニルエステル化合物)は10:90〜50:50であることが好ましい。
前記熱可塑性マトリックス樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0011】
本発明の合成繊維ストランドは、原料合成繊維ストランドに対して、上記の強化繊維用サイジング剤を付着させたものである。
前記合成繊維は、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、ポリフェニレンサルフィド繊維及びポリケトン繊維から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
本発明の繊維強化複合材料は、熱可塑性マトリックス樹脂と上記の合成繊維ストランドとを含むものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の強化繊維用サイジング剤は、耐熱性に優れ、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維に対して、優れた接着性と開繊性を同時に付与できる。
本発明の合成繊維ストランドは、耐熱性に優れた強化繊維用サイジング剤が処理されており、熱可塑性マトリックス樹脂に対して優れた接着性と開繊性を同時に有する。本発明の合成繊維ストランドを使用することにより、優れた物性を有する繊維強化複合材料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用のサイジング剤であり、酸変性ポリオレフィン樹脂、ビニルエステル化合物及び水を必須に含有するものである。以下に詳細に説明する。
【0015】
[酸変性ポリオレフィン樹脂]
酸変性ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体及びエチレン−プロピレン−ブテン共重合体から選ばれる少なくとも1種に対し、不飽和カルボン酸及びその酸無水物から選ばれる少なくとも1種を0.1〜20重量%グラフト共重合してなるものである。
酸変性ポリオレフィン樹脂の主鎖におけるプロピレン構成単位の割合は、50〜98モル%であることが好ましい。プロピレン構成単位の割合が50モル%より少ないと、強化繊維と熱可塑性樹脂マトリックスとの接着性が低下する傾向がある。プロピレン構成単位割合が98モル%より多いと強化繊維自身の柔軟性が低下する傾向がある。酸変性ポリオレフィン樹脂の主鎖がエチレン−プロピレン−ブテン共重合体からなる場合、主鎖中のブテン構成単位の割合は0〜10モル%が好ましい。
【0016】
酸変性ポリオレフィン樹脂の主鎖をグラフト変性する不飽和カルボン酸としては、炭素数3〜8のものが好ましい。この不飽和カルボン酸としては、不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸、及びこれらのエステルや酸無水物等の誘導体を使用できる。具体的には、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル等を挙げることができる。これらのうち、特に、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチルが好ましい。不飽和カルボン酸の主鎖に対するグラフト量は、酸変性ポリオレフィン樹脂全量に対し0.1〜20重量%であり、1〜15重量%が好ましく、2〜10重量%がより好ましい。グラフト量が0.1重量%より少ないと、強化繊維と熱可塑性樹脂マトリックスとの接着性が低下する。グラフト量が20重量%を超える場合は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に占めるプロピレン構成単位の含有量が相対的に減少するため、強化繊維と熱可塑性樹脂マトリックス樹脂との接着性が低下する。また、通常の反応条件では、20重量%を超える不飽和カルボン酸のグラフト変性は困難になる。
【0017】
主鎖のグラフト変性方法は、以下の公知の方法が用いられる(特開平2‐84566号公報、特開平3‐181528号公報等)。
溶液法は、主鎖となる共重合体をトルエン又はキシレンなどの有機溶剤に溶解させ、次いで、この溶液に不飽和カルボン酸類と有機過酸化物とを添加して加熱することにより、グラフト重合させる方法である。
溶融法は、オートクレーブ、混練押出機などを使用して、主鎖となる共重合体を加熱溶
融した後、不飽和カルボン酸類と有機過酸化物とをこれに添加して、120〜300℃に加熱する方法である。
【0018】
酸変性ポリオレフィン樹脂が不飽和カルボン酸に由来するカルボキシル基を有している場合、このカルボキシル基は必要により任意の割合で中和されていてもよい。カルボキシル基の中和に用いる塩基性化合物としては、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属塩;アルカリ土類金属塩;アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、モルフォリン等のアミン類等が挙げられる。
【0019】
酸変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、3,000〜200,000が好ましく、5,000〜200,000がより好ましく、10,000〜150,000がさらに好ましい。重量平均分子量が3,000より小さい場合、強化繊維と熱可塑性樹脂との接着性が不足し、十分強化された繊維強化熱可塑性樹脂が得られない。更に、強化繊維ストランド自身の集束性が不足し、これを用いて繊維強化熱可塑性樹脂等を製造する際の作業性が悪くなる。重量平均分子量が200,000より大きい場合、水に懸濁させることが困難になり、その結果水性のサイジング剤の製造が困難になる。また、懸濁できても懸濁粒子の粒径が大きく不安定になり、サイジング剤は長期間の操業に耐えられなくなる。
【0020】
サイジング剤に含まれる酸変性ポリオレフィン樹脂、酸変性ポリプロピレン樹脂の分析は、カラム分別法、溶解分別法などにより分子量分別を行なった上で、それらの分取物をIRやNMRで組成分析する方法や、結晶化分別法により組成分別を行なった後、それらの分取物をGPC(GelPermeation Chromatography)を使って分子量を求める方法など公知の方法を使うことが出来る。さらに、高温GPC−FTIRやTREF(Temperature Rising Elution Fractionation)‐FTIR、CFC(Cross Fractionation Chromatograph y)−FTIRなどを使うことも可能である。
【0021】
[ビニルエステル化合物]
ビニルエステル化合物とは、化合物主鎖の末端にビニル基、アクリレート基、メタクリレート基等の高反応性二重結合をもつ化合物であり、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も選択できる。
【0022】
ビニルエステル化合物としては、たとえば、アルキル(メタ)アクリル酸エステル、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリル酸エステル、ベンジル(メタ)アクリル酸エステル、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリル酸エステル、グリシジル(メタ)アクリレート、2−メタクリロイロキシエチル2−ヒドロキシプロピルフタレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、フェノキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル、フェノキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリル酸エステル、2−ヒドロキシ−3フェノキシプロパノール(メタ)アクリル酸エステル、ポリアルキレングリコールノニルフェニルエーテル(メタ)アクリル酸エステル、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、アルキレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリル酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマーなどが挙げられる。
【0023】
これらの中でも、耐熱性の観点から、2−メタクリロイロキシエチル2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物が好ましく、ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物がさらに好ましい。
【0024】
[強化繊維用サイジング剤]
本発明の強化繊維用サイジング剤は、前述の酸変性ポリオレフィン樹脂、ビニルエステル化合物及び水を必須に含有するものである。このような構成により、サイジング剤の耐熱性が向上し、熱可塑性マトリックス樹脂との高温処理時にサイジング剤の熱分解ガスの発生を抑制することができ、熱可塑性マトリックス樹脂に対して接着性と開繊性を同時に向上させることができる。特に、熱可塑性マトリックス樹脂がポリオレフィン系樹脂の場合にこれら効果が優れる。
酸変性ポリオレフィン樹脂とビニルエステル化合物との重量比(酸変性ポリオレフィン樹脂:ビニルエステル化合物)は、熱可塑性マトリックス樹脂と強化繊維との接着性及び開繊性を向上させる観点から、10:90〜50:50が好ましく、15:85〜50:50がより好ましく、20:80〜45:55がさらに好ましく、25:75〜35:65が特に好ましい。
【0025】
サイジング剤の不揮発分に占める酸変性ポリオレフィン樹脂の重量割合は、5〜50重量%が好ましく、5〜40重量%がより好ましく、15〜35重量%がさらに好ましく、20〜30重量%が特に好ましい。サイジング剤の不揮発分に占めるビニルエステル化合物の重量割合は、50〜90重量%が好ましく、50〜70重量%がより好ましく、50〜65重量%がさらに好ましく、55〜65重量%が特に好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂及びビニルエステル化合物の重量割合がこれらの範囲にあることにより、より優れた耐熱性を有し且つ熱可塑性マトリックス樹脂に対してより優れた接着性と開繊性を同時に有することができる。なお、本発明における不揮発分とは、サイジング剤を105℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分をいう。
【0026】
本発明のサイジング剤は、取扱い時の人体への安全性や、火災等の災害防止、自然環境の汚染防止等の観点から、水を必須に含有するものである。つまり水を主溶媒とするものである。本発明の効果を損なわない範囲で、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン等の有機溶剤を用いてもよい。
【0027】
本発明のサイジング剤において、酸変性ポリオレフィン樹脂は水に乳化分散されてなるものである。その平均粒子径は0.001〜5μmが好ましく、0.005〜3μmがより好ましく、0.01〜1μmがさらに好ましい。平均粒子径が0.001μm未満の場合、強化繊維のストランド間を酸変性ポリオレフィン樹脂水分散体が通り抜けてしまうおそれがあり、強化繊維へ目標の付着量を付与することが困難となることがある。一方、平均粒子径が5μm超の場合、強化繊維へ均一付着できないばかりか、サイジング剤自体が数日で分離してしまうおそれがあり、保管安定性が悪く実用的でないとなることがある。
本発明のサイジング剤において、ビニルエステル化合物は水に乳化分散してなるものである。ビニルエステル化合物の平均粒子径は、特に限定はないが、0.03〜10μmが好ましく、0.05〜5μmがより好ましく、0.1〜1μmがさらに好ましい。該平均粒子径が0.03μm未満の場合、強化繊維のストランド間をビニルエステル化合物水分散体が通り抜けてしまうおそれがあり、強化繊維へ目標の付着量を付与することが困難となることがある。一方、該平均粒子径が10μm超の場合、強化繊維へ均一付着できないばかりか、サイジング剤自体が数日で分離してしまうおそれがあり、保管安定性が悪く実用的でないとなることがある。
なお、本発明でいう平均粒子径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製LA−910)で測定された粒度分布より算出された平均値をいう。
【0028】
本発明のサイジング剤を構成する上記で説明した以外の成分としては、たとえば、各種界面活性剤や、各種平滑剤、酸化防止剤、難燃剤、抗菌剤、結晶核剤、消泡剤等を挙げることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
特に、界面活性剤は、ビニルエステル化合物、酸変性ポリオレフィン樹脂、その他サイジング剤中に水不溶性又は難溶性である樹脂成分を有する場合に、乳化剤として使用することによって、水系乳化を効率よく実施することができる。サイジング剤の不揮発分に占める界面活性剤の重量割合は、サイジング剤の耐熱性の点から、0.1〜30重量%が好ましく、1〜25重量%がより好ましく、5〜20重量%がさらに好ましい。
界面活性剤としては、特に限定されず、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤及び両性界面活性剤から、公知のものを適宜選択して使用することができる。界面活性剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0030】
非イオン系界面活性剤としては、たとえば、アルキレンオキサイド付加非イオン系界面活性剤(高級アルコール、高級脂肪酸、アルキルフェノール、スチレン化フェノール、ベンジルフェノール、ソルビタン、ソルビタンエステル、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド(2種以上の併用可)を付加させたもの)、ポリアルキレングリコールに高級脂肪酸等を付加させたもの、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体等を挙げることができる。
アニオン系界面活性剤としては、たとえば、カルボン酸(塩)、高級アルコール・高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、スルホン酸塩、高級アルコール・高級アルコールエーテルの燐酸エステル塩等を挙げることができる。
【0031】
カチオン系界面活性剤としては、たとえば、第4級アンモニウム塩型カチオン系界面活性剤(ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、オレイルメチルエチルアンモニウムエトサルフェート等)、アミン塩型カチオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルアミン乳酸塩等)等を挙げることができる。
両性界面活性剤としては、たとえば、アミノ酸型両性界面活性剤(ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等)、ベタイン型両性界面活性剤(ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等)等を挙げることができる。
【0032】
本発明のサイジング剤の不揮発分の濃度については、特に限定はなく、水分散体としての安定性や、製品として取り扱いやすい粘度等を考慮して適宜選択されるものである。製品の輸送コスト等を考慮すれば、サイジング剤全体に占める不揮発分の重量割合は、10〜60重量%が好ましく、15〜60重量%がさらに好ましく、20〜50重量%が特に好ましい。
また、サイジング剤全体に占める水と不揮発分の合計の重量割合は、90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましく、99重量%以上がさらに好ましく、100重量%が特に好ましい。90重量%未満の場合、すなわち、熱処理時に不揮発分として残存しない前述の有機溶剤やその他低沸点化合物を10重量%以上含有する場合、取扱い時の人体への安全性や、自然環境の汚染防止の観点で好ましくないことがある。
【0033】
本発明の強化繊維用サイジング剤は、サイジング剤の不揮発分を差動型示差熱天秤(TG−DTA)で測定したときの400℃における重量減少率が15%を超えないことが好ましく、12%を超えないことがより好ましく、10%を超えないことがさらに好ましい。400℃における重量減少率が15%を超えると、サイジング剤の熱分解ガスの発生により、マトリックス樹脂と強化繊維との接着阻害が生じることがある。
【0034】
なお、上記水分散体や水溶液には、前述の人体安全性や環境汚染防止の観点に加え、水分散体や水溶液の経時増粘・固化防止の観点から、有機溶剤等の水以外の溶媒を含有しないか、含有する場合であってもサイジング剤全体に対して10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましく、1重量%以下であることが更に好ましい。
【0035】
本発明のサイジング剤を製造する方法については、特に限定はなく、公知の手法が採用できる。例えば、サイジング剤を構成する各成分を攪拌下の温水中に投入して乳化分散する方法、サイジング剤を構成する各成分を予め乳化分散した乳化分散液を混合する方法、サイジング剤を構成する各成分を混合し、得られた混合物を軟化点以上に加温後、ホモジナイザー、ホモミキサー、ボールミル等を用いて機械せん断力を加えつつ、水を徐々に投入して転相乳化する方法等が挙げられる。
【0036】
〔合成繊維ストランド及びその製造方法〕
本発明の合成繊維ストランドは、原料合成繊維ストランドに対して、上記の強化繊維用サイジング剤を付着させたものであり、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するための強化繊維である。本発明の合成繊維ストランドは熱可塑性マトリックス樹脂に対して優れた接着性と開繊性を同時に有する。さらに、耐熱性に優れた強化繊維用サイジング剤が処理されているので、熱可塑性マトリックス樹脂との高温処理時にサイジング剤の熱分解を抑制することができ、熱分解に起因した熱可塑性マトリックス樹脂との接着阻害を抑制できる。
【0037】
原料合成繊維ストランドへのサイジング剤の不揮発分の付着量は適宜選択でき、合成繊維ストランドが所望の機能を有するための必要量とすればよいが、その付着量は原料合成繊維ストランドに対して0.1〜20重量%であることが好ましい。長繊維形態の合成繊維ストランドにおいては、その付着量は原料合成繊維ストランドに対して0.1〜10重量%であることがより好ましく、0.5〜5重量%がさらに好ましい。また、チョップドファイバー形態(所定の長さに切断された状態)のストランドにおいては0.5〜20重量%であることがより好ましく、1〜10重量%がさらに好ましい。
サイジング剤の付着量が少ないと、耐熱性、樹脂含浸性、接着性に関する本発明の効果が得られにくく、また、合成繊維ストランドの集束性が不足し、取扱い性が悪くなることがある。また、サイジング剤の付着量が多過ぎると、合成繊維ストランドが剛直になり過ぎて、かえって取扱い性が悪くなったり、コンポジット成型の際に樹脂含浸性が悪くなったりすることがあり好ましくない。
【0038】
本発明の合成繊維ストランドの製造方法は、前述のサイジング剤を含み、不揮発分の重量割合が0.5〜10重量%であり、水と不揮発分の合計の重量割合が90重量%以上である処理液を調製する調製工程と、原料合成繊維ストランドに対して不揮発分の付着量が0.1〜20重量%となるよう、原料合成繊維ストランドに該処理液を付着させる付着工程とを含むものである。
調製工程において、処理液に占める不揮発分の重量割合は、1〜10重量%がより好ましく、2〜5重量%がさらに好ましい。水と不揮発分の合計の重量割合は、95重量%以上であることがより好ましく、99重量%以上であることがさらに好ましく、100重量%が特に好ましい。
付着工程において、好ましい不揮発分の付着量については、前段落の通りである。サイジング剤を原料合成繊維ストランドに付着させる方法については、特に限定はないが、サイジング剤をキスローラー法、ローラー浸漬法、スプレー法その他公知の方法で、原料合成繊維ストランドに付着させる方法であればよい。これらの方法のうちでも、ローラー浸漬法が、サイジング剤を原料合成繊維ストランドに均一付着できるので好ましい。
得られた付着物の乾燥方法については、特に限定はなく、例えば、加熱ローラー、熱風、熱板等で加熱乾燥することができる。
【0039】
なお、本発明のサイジング剤の原料合成繊維ストランドへの付着にあたっては、サイジング剤の構成成分全てを混合後に付着させてもよいし、構成成分を別々に二段階以上に分けて付着させてもよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂及び/又は本発明のポリマー成分以外のウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、アクリル系樹脂などの熱可塑性樹脂を原料合成繊維ストランドに付着させてもよい。
【0040】
本発明の合成繊維ストランドは、各種熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする複合材料の強化繊維として使用され、使用させる形態としては、長繊維形態でも、チョップドファイバー形態でもよいが、優れた開繊性と接着性を同時に付与できる点から、長繊維形態が好適である。
【0041】
本発明のサイジング剤を適用し得る(原料)合成繊維ストランドの合成繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの各種無機繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、ポリフェニレンサルフィド繊維、ポリケトン繊維などの各種有機繊維が挙げられる。得られる繊維強化複合材料としての物性の観点から、合成繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、ポリフェニレンサルフィド繊維及びポリケトン繊維から選ばれる少なくとも1種が好ましく、炭素繊維がさらに好ましい。
【0042】
〔繊維強化複合材料〕
本発明の繊維強化複合材料は、熱可塑性マトリックス樹脂と前述の強化繊維としての合成繊維ストランドを含むものである。合成繊維ストランドは本発明のサイジング剤により処理されているので、サイジング剤の合成繊維ストランド及び熱可塑性マトリックス樹脂との親和性が良好となり、接着性に優れた繊維強化複合材料となる。さらに、高温処理時のサイジング剤の熱分解を抑制でき、熱分解に起因した熱可塑性マトリックス樹脂との接着阻害を抑制できる。
ここで、熱可塑性マトリックス樹脂とは、熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂をいい、1種又は2種以上含んでいてもよい。熱可塑性マトリックス樹脂としては、特に制限はなく、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、フェノキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等が挙げられる。これらの中でも本発明のサイジング剤による接着性向上効果がより高いポリオレフィン系樹脂が好ましい。ここで、ポリオレフィン系樹脂とは、単純なオレフィン類をモノマーとして合成される高分子化合物であり、ホモポリマーやコポリマー(共重合体)なども含まれる。また、主鎖や末端に置換基を導入した変性体でもよい。
これら熱可塑性マトリックス樹脂は、合成繊維ストランドとの接着性をさらに向上させるなどの目的で、その一部又は全部が変性したものであっても差し支えない。
【0043】
繊維強化複合材料の製造方法としては、特に限定はなく、チョップドファイバー、長繊維ペレットなどによるコンパウンド射出成型、UDシート、織物シートなどによるプレス成型、その他フィラメントワインディング成型など公知の方法を採用できる。
熱可塑性マトリックス樹脂と強化繊維を混練する際には、熱可塑性マトリックス樹脂が汎用エンジニアプラスチックやスーパーエンジニアプラスチックの様な高融点の場合、融点以上の温度200℃〜400℃で強化繊維と混練し、繊維強化複合材料を製造する。
繊維強化複合材料中の合成繊維ストランドの含有量についても特に限定はなく、繊維の種類、形態、熱可塑性マトリックス樹脂の種類などにより適宜選択すればよいが、得られる繊維強化複合材料に対して、5〜70重量%が好ましく、20〜60重量%がより好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、ここに記載した実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例に示されるパーセント(%)、部は特に限定しない限り、「重量%」、「重量部」を示す。各特性値の測定は以下に示す方法に基づいて行った。
【0045】
<接着性>
複合材料界面特性評価装置HM410(東栄産業株式会社製)を使用し、マイクロドロップレット法により接着性を評価した。
実施例及び比較例で製造した炭素繊維ストランドより、炭素繊維フィラメントを取り出し、複合材料界面特性評価装置にセッティングする。装置上で溶融したポリプロピレン樹脂J−900GP(出光石油化学社製)のドロップを炭素繊維フィラメント上に形成させ、室温で十分に冷却し、測定用の試料を得た。再度測定試料を装置にセッティングし、ドロップを装置ブレードで挟み、炭素繊維フィラメントを装置上で0.06mm/分の速度で走行させ、炭素繊維フィラメントからドロップを引き抜く際の最大引き抜き荷重Fを測定した。
次式により界面剪断強度τを算出し、炭素繊維フィラメントとポリプロピレン樹脂との接着性を評価した。
界面剪断強度τ(単位:MPa)=F/πdl
(F:最大引き抜き荷重 d:炭素繊維フィラメント直径 l:ドロップの引き抜き方向の粒子径)
【0046】
<開繊性>
サイジング剤未処理炭素繊維ストランド(繊度800tex、フィラメント数12000本)に対して、サイジング剤の不揮発分の付着量が1.0重量%となるよう、サイジング剤を付着させた。得られた付着炭素繊維ストランド(長さ:約50cm)の開繊性を、風合い試験機(HANDLE−O−METERHOM−2 大栄科学精器製作所(株)製、スリット幅5mm)で測定した。なお、測定は10回行い、その平均値が小さいほど開繊性が良好と判断した。
(判定基準)
◎:50g以下 炭素繊維ストランドが柔らかく開繊性が非常に良好
○:50g〜60g 炭素繊維ストランドが柔らかく開繊性が良好
×:60g以上 炭素繊維ストランドが硬く開繊性が不良
【0047】
<重量減少率>
サイジング剤を105℃で熱処理して溶媒等を除去、恒量に達しせしめサイジング剤の不揮発分を得る。得られた不揮発分を重量既知のアルミパンに約4mg採り、重量(W)を測定した。アルミパンに入った不揮発分を示差熱天秤TG−8120(株式会社リガク社製)にセットし、空気中25℃から500℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、300℃時点における重量(W)を測定した。その後重量減少率を次式により算出した。
重量減少率(%)=( (W−W)/W)×100
【0048】
<平均粒子径>
サイジング剤を透過率が70%以上になるように水で希釈し、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製LA−910)で測定された粒度分布より平均値を算出した。
【0049】
[酸変性ポリオレフィン樹脂の乳化物A1〜A4の製造例]
(製造例A1−1〜A1−3)
ポリプロピレン樹脂100gと、トルエン400gとを混合し、オートクレーブで攪拌しながら加熱溶解させた。オートクレーブ内部の温度をポリプロピレン樹脂の融点以上に保持しながら無水マレイン酸、メタクリル酸メチル、パーブチルIを添加して、ポリプロピレンに無水マレイン酸とメタクリル酸メチルをグラフト重合させ、酸変性ポリプロピレン樹脂を得た。
次に、得られた酸変性ポリプロピレン樹脂245部、ポリオキシエチレンアルキル系界面活性剤20部、水酸化カリウム15部及びモルフォリン20部を仕込み、窒素ガス還流、撹拌下で170〜180℃まで昇温した。ついで撹拌下水700部を徐々に投入、170〜180℃で2時間撹拌し、酸変性ポリプロピレン樹脂を完全に均一溶解させた。その後常温まで冷却し、水分調整を行い、不揮発分30重量%の酸変性ポリプロピレン樹脂の乳化物A1−1〜A1−3を得た。
乳化物A1−1〜A1−3の酸変性ポリプロピレン樹脂の平均粒子径を測定したところ、0.03μmであった。また、水分散体A1−1〜A1−3は50℃で1ヶ月放置しても凝集分離や浮上分離は全く見られず、静置安定性に優れたものであった。なお、乳化物A1−1〜A1−3の酸変性ポリプロピレン樹脂は、以下の通りである。
A1−1:主鎖=ポリプロピレン樹脂、グラフト量=5重量%、MW=4500
A1−2:主鎖=ポリプロピレン樹脂、グラフト量=5重量%、MW=28000
A1−3:主鎖=ポリプロピレン樹脂、グラフト量=15重量%、MW=37000
【0050】
(製造例A2−1〜A2−3)
エチレン−プロピレン共重合体100gと、トルエン400gとを混合し、オートクレーブ中で攪拌しながら加熱溶解させた。オートクレーブ内部の温度をポリオレフィン共重合体樹脂の融点以上に保持しながら無水マレイン酸、メタクリル酸メチル、パーブチルIを添加して、ポリオレフィン共重合体に無水マレイン酸とメタクリル酸メチルをグラフト重合させ、酸変性ポリオレフィン樹脂を得た。
次に、得られた酸変性ポリオレフィン樹脂250部、ポリオキシエチレンアルキル系界面活性剤15部、水酸化カリウム15部、及びモルフォリン20部を仕込み、窒素ガス還流、撹拌下で170〜180℃まで昇温した。ついで撹拌下水700部を徐々に投入、170〜180℃で2時間撹拌し、酸変性ポリオレフィン樹脂を完全に均一溶解させた。その後常温まで冷却し、水分調整を行い、不揮発分30重量%の酸変性ポリオレフィン樹脂の乳化物A2−1〜A2−3を得た。
乳化物A2−1〜A2−3の酸変性ポリオレフィン樹脂の平均粒子径を測定したところ、0.02μmであった。また、水分散体A2−1〜A2−3は50℃で1ヶ月放置しても凝集分離や浮上分離は全く見られず、静置安定性に優れたものであった。なお、乳化物A2−1〜A2−3の酸変性ポリオレフィン樹脂は、以下の通りである。
A2−1:主鎖=エチレン−プロピレン共重合体、グラフト量=3重量%、MW=58000
A2−2:主鎖=エチレン−プロピレン共重合体、グラフト量=5重量%、MW=63000
A2−3:主鎖=エチレン−プロピレン共重合体、グラフト量=10重量%、MW=65000
【0051】
(製造例A3−1〜A−3)
プロピレン−ブテン共重合体100gと、トルエン400gとを混合し、オートクレーブ中で攪拌しながら加熱溶解させた。オートクレーブ内部の温度をポリオレフィン共重合体樹脂の融点以上に保持しながら無水マレイン酸、メタクリル酸メチル、パーブチルIを添加して、ポリオレフィン共重合体に無水マレイン酸とメタクリル酸メチルをグラフト重合させ、酸変性ポリオレフィン樹脂を得た。
次に、得られた酸変性ポリオレフィン樹脂245部、ポリオキシエチレンアルキル系界面活性剤15部、水酸化カリウム15部、及びモルフォリン25部を仕込み、窒素ガス還流、撹拌下で170〜180℃まで昇温した。ついで撹拌下水700部を徐々に投入、170〜180℃で2時間撹拌し、酸変性ポリオレフィン樹脂を完全に均一溶解させた。その後常温まで冷却し、水分調整を行い、不揮発分30重量%の酸変性ポリオレフィン樹脂の乳化物A3−1〜A3−3を得た。
乳化物A3−1〜A3−3の酸変性ポリオレフィン樹脂の平均粒子径を測定したところ、0.02μmであった。また、水分散体A3−1〜A3−3は50℃で1ヶ月放置しても凝集分離や浮上分離は全く見られず、静置安定性に優れたものであった。なお、乳化物A3−1〜A3−3の酸変性ポリオレフィン樹脂は、以下の通りである。
A3−1:主鎖=プロピレン−ブテン共重合体、グラフト量=5重量%、MW=35000
A3−2:主鎖=プロピレン−ブテン共重合体、グラフト量=10重量%、MW=60000
A3−3:主鎖=プロピレン−ブテン共重合体、グラフト量=20重量%、MW=71000
【0052】
(製造例A4−1〜A4−3)
エチレン−プロピレン−ブテン共重合体100gと、トルエン400gとを混合し、オートクレーブ中で攪拌しながら加熱溶解させた。オートクレーブ内部の温度をポリオレフィン共重合体樹脂の融点以上に保持しながら無水マレイン酸、メタクリル酸メチル、パーブチルIを添加して、ポリオレフィン共重合体に無水マレイン酸とメタクリル酸メチルをグラフト重合させ、酸変性ポリオレフィン樹脂を得た。
次に、得られた酸変性ポリオレフィン樹脂250部、ポリオキシエチレンアルキル系界面活性剤10部、水酸化カリウム15部、及びモルフォリン25部を仕込み、窒素ガス還流、撹拌下で170〜180℃まで昇温した。ついで撹拌下水700部を徐々に投入、170〜180℃で2時間撹拌し、酸変性ポリオレフィン樹脂を完全に均一溶解させた。その後常温まで冷却し、水分調整を行い、不揮発分30重量%の酸変性ポリオレフィン樹脂の乳化物A4−1〜A4−3を得た。
乳化物A4−1〜A4−3の酸変性ポリオレフィン樹脂の平均粒子径を測定したところ、0.02μmであった。また、水分散体A4−1〜A4−3は50℃で1ヶ月放置しても凝集分離や浮上分離は全く見られず、静置安定性に優れたものであった。なお、乳化物A4−1〜A4−3の酸変性ポリオレフィン樹脂は、以下の通りである。
A4‐1:主鎖=エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、グラフト量=5重量%、MW=42000
A4‐2:主鎖=エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、グラフト量=10重量%、MW=62000
A4‐3:主鎖=エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、グラフト量=15重量%、MW=68000
【0053】
[ビニルエステル化合物の水分散体B1〜B4の製造例]
(製造例B1)
ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物/エチレンオキサイド150mol付加硬化ヒマシ油エーテル=80/20(重量比)よりなる組成物を乳化装置に仕込み、撹拌下水を序々に加え転相乳化させ、均一なビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物水分散体B1を得た。水分散体B1の不揮発分は40重量%であった。
水分散体B1のビニルエステル化合物の平均粒子径を測定したところ、0.19μmであった。また、水分散体B1は50℃で1ヶ月放置しても凝集分離や浮上分離は全く見られず、静置安定性に優れたものであった。
【0054】
(製造例B2)
製造例B1において、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物に代わり、エチレンオキサイド4mol付加ビスフェノールAアクリル酸付加物を使用した以外は製造例A−1と同様にしてエチレンオキサイド4mol付加ビスフェノールAアクリル酸付加物水分散体B2を得た。水分散体B2の不揮発分は40重量%であった。
水分散体B2のビニルエステル化合物の平均粒子径を測定したところ、0.25μmであった。また、水分散体B2は50℃で1ヶ月放置しても凝集分離や浮上分離は全く見られず、静置安定性に優れたものであった。
【0055】
(製造例B3)
2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸/エチレンオキサイド150mol付加硬化ヒマシ油エーテル/オキシエチレン−オキシプロピレンブロック重合体(重量平均分子量15,000、オキシプロピレン/オキシエチレン=20/80(重量比))=70/20/10(重量比)よりなる組成物を乳化装置に仕込み、撹拌下水を序々に加え転相乳化させ、均一な2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸水分散体B3を得た。水分散体B3の不揮発分は40重量%であった。
水分散体B3のビニルエステル化合物の平均粒子径を測定したところ、0.29μmであった。また、水分散体B3は50℃で1ヶ月放置しても凝集分離や浮上分離は全く見られず、静置安定性に優れたものであった。
【0056】
(製造例B4)
トリメチロールプロパントリメタクリレート/オキシエチレン−オキシプロピレンブロック重合体(重量平均分子量15,000、オキシプロピレン/オキシエチレン=20/80(重量比))/オキシエチレン−オキシプロピレンブロック重合体(重量平均分子量2,000、オキシプロピレン/オキシエチレン=60/40(重量比))=70/15/15(重量比)よりなる組成物を乳化装置に仕込み、撹拌下水を序々に加え転相乳化させ、均一なトリメチロールプロパントリメタクリレート水分散体B4を得た。水分散体B4の不揮発分は40重量%であった。
水分散体B4のビニルエステル化合物の平均粒子径を測定したところ、0.21μmであった。また、水分散体B4は50℃で1ヶ月放置しても凝集分離や浮上分離は全く見られず、静置安定性に優れたものであった。
【0057】
[その他水分散体の製造例]
(製造例PE)
反応器中に窒素ガスを封入下、ジメチルイソフタレート950部、ジエチレングリコール1000部、酢酸亜鉛0.5部及び三酸化アンチモン0.5部を仕込み、140〜220℃で3時間エステル交換反応を行った。次に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30部を添加し、220〜260℃で1時間エステル化反応を行った後、240〜270℃で減圧下2時間重縮合反応を行った。得られた芳香族系ポリエステル樹脂のNMRによる組成分析結果は以下の通りであった。
イソフタル酸 49モル%
ジエチレングリコール 50モル%
5−ナトリウムスルホイソフタル酸 1モル%
続いて得られた芳香族系ポリエステル樹脂200部とエチレングリコールモノブチルエーテル100部を乳化器に仕込み、150〜170℃で撹拌し、均一化した。続いて撹拌下で水700を徐々に加え、不揮発分20重量%の芳香族系ポリエステル樹脂の水分散体PEを得た。
【0058】
(製造例PU)
反応器中に窒素ガスを封入下、テレフタル酸498部、イソフタル酸332部、エチレングリコール248部、ジエチレングリコール106部、テトラメチレングリコール45部及びジブチル錫オキサイド0.2部を仕込み、190〜240℃で10時間エステル化反応を行い、芳香族ポリエステルポリオールを得た。次に、得られた芳香族ポリエステルポリオール1000部を120℃で減圧により脱水し、80℃まで冷却後、メチルエチルケトン680部を仕込み撹拌溶解した。引き続きイソホロンジイソシアネート218部及び鎖伸張化剤として2,2−ジメチロールプロピオン酸67部を仕込み、70℃で12時間ウレタン化反応を行った。反応終了後、40℃まで冷却し、13.6%アンモニア水97部を加えて中和反応後、水2950部を加え水エマルジョンとした。得られた水エマルジョンを65℃で減圧処理してメチルエチルケトンを留去し、水分調整を行い、不揮発分30重量%の芳香族ポリエステル系ウレタン樹脂の水分散体PUを得た。
【0059】
(製造例EP)
JER1001(ジャパンエポキシレジン株式会社製、固状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量450〜500)/JER828(ジャパンエポキシレジン株式会社製、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:184〜194)/POE(150)硬化ヒマシ油エーテル=40/40/20(重量比)よりなる組成物を乳化装置に仕込み、撹拌下水を序々に加え転相乳化させ、不揮発分濃度30重量%のエポキシ樹脂の水分散体EPを得た。
【0060】
(製造例PAA)
冷却還流装置を備えた反応容器中にN−メトキシメチル化ポリアミド(DIC社製“ラッカマイド(登録商標)5003”、N−メトキシメチル化率:30%)200部、メタノール800部を仕込み、50〜60℃で撹拌溶解した。次いで、アクリル酸100部、アゾビスイソブチロニトリル2.4部を加え、窒素雰囲気下50〜60℃で4時間グラフト重合した。水860部、13.6%アンモニア水175部を加え、メタノールを留去(メタノール残留量は0.63%)し、不揮発分20重量%の親水性ポリアミド樹脂の水分散体PAAを得た。
【0061】
[実施例1〜21、比較例1〜8]
上記で製造した酸変性ポリオレフィン樹脂の乳化物、ビニルエステル化合物の水分散体、その他の分散体について、表1〜3の重量割合になるよう混合撹拌し、水で希釈して不揮発分濃度が10重量%のサイジング剤を調製した。なお、表1〜3の数値は、乳化物又は水分散体の重量%を示し、100重量%の場合は、その乳化物又は水分散体が単独であることを示す。得られたサイジング剤を用いて、前述の方法により、開繊性、重量減少率を評価した。
次いで、サイジング剤未処理炭素繊維ストランド(繊度800tex、フィラメント数12000本)を調製したサイジング剤に浸漬・含浸させた後、105℃で15分間熱風乾燥させて、サイジング剤の不揮発分の付着量が炭素繊維ストランドに対して5重量%であるサイジング剤処理炭素繊維ストランドを得た。本ストランドについて、前述の方法によりマトリックス樹脂接着性を評価した。
これらの結果を表1〜3に示した。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
表1〜3から明らかなように、比較例と比較して、実施例のサイジング剤は耐熱性に優れている。また、サイジング剤を処理したストランドは、熱可塑性マトリックス樹脂に対して、良好な接着性と開繊性を同時に有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用サイジング剤であって、
ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体及びエチレン−プロピレン−ブテン共重合体から選ばれる少なくとも1種に対し、不飽和カルボン酸及びその酸無水物から選ばれる少なくとも1種を0.1〜20重量%グラフト共重合してなる酸変性ポリオレフィン樹脂、ビニルエステル化合物及び水を必須に含有する、強化繊維用サイジング剤。
【請求項2】
前記酸変性ポリオレフィン樹脂と前記ビニルエステル化合物との重量比(酸変性ポリオレフィン樹脂:ビニルエステル化合物)が10:90〜50:50である、請求項1に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項3】
前記熱可塑性マトリックス樹脂が、ポリオレフィン系樹脂である、請求項1又は2に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項4】
原料合成繊維ストランドに対して、請求項1〜3のいずれかに記載の強化繊維用サイジング剤を付着させた、合成繊維ストランド。
【請求項5】
前記合成繊維が、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、ポリフェニレンサルフィド繊維及びポリケトン繊維から選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の合成繊維ストランド。
【請求項6】
熱可塑性マトリックス樹脂と、請求項4又は5に記載の合成繊維ストランドとを含む、繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2013−67915(P2013−67915A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207477(P2011−207477)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】