説明

強吸着性多孔質材料の製造方法

【課題】 安価原料(水ガラス、無機塩)を出発原料とし、非晶質酸化ケイ素ネットワーク中に異種金属を均一導入することによって強い酸点を形成し、かつ、高い比表面積を有する高機能多孔質材料を製造する。
【解決手段】 有機質鋳型を水溶媒に溶解せしめた後に、水ガラスを添加し、次に前記有機質鋳型、前記水溶媒および前記水ガラスの混合物を撹拌しながら、前記混合物に無機酸を滴下し、さらに無機塩水溶液を添加し、前記無機塩の自己加水分解反応を進行させて、高比表面積、強吸着機能を有する多孔質材料を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高比表面積、強吸着性を有する多孔質材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MCM−41に代表されるメソ多孔質材料は、種々のケイ素源を有機質鋳型の共存下で反応させて製造される。その後、400〜700℃程度の高温で有機質鋳型を燃焼除去すると、有機質鋳型が存在した箇所が空孔となり、1000 m/g級の高い比表面積をもつ多孔質材料となる。
上記の多孔質材料は比表面積は高いものの、表面化学的には酸化ケイ素であるため、さほど高い吸着性能(酸性度)を持たない。
【0003】
吸着性能を高めるために、非晶質酸化ケイ素ネットワーク中に異種金属を導入する既存技術がある(特許文献1)。例えば、4配位のSi−Oネットワーク中のSiの替わりに6配位のTiを導入することで、結合の「手」が2本余る。この余った手が固体酸として働き、強い吸着点となる。
こうした異種金属導入にあたっては、用いる出発原料に制約が生じる。すなわち、高価な金属アルコキシドを用いた加水分解反応を詳細に制御することによってのみ、そうした酸点導入が可能であるのが現状技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−173894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先行技術において用いられている出発原料としての金属アルコキシドは、それ自体が高価であるだけでなく、有機物質として人体および地球環境への悪影響が懸念される。また、大量合成を見据えるならば、可燃性の有機溶剤を用いるための防爆対応も必要となり、生産のための設備投資も大きく嵩むことになる。したがって先行技術において高い比表面積を有する高機能多孔質材料の製造方法を量産することは非常に困難であると言わざるを得ない。
【0006】
もし、安価原料の水ガラス(ケイ酸ナトリウム)をケイ素源、TiOClなどの無機塩をチタン源として同様の合成を行った場合、水ガラスの塩基性は直ちにTiOClなどの無機塩を沈殿析出させてしまうため、チタンがSi−Oネットワークに組み込まれないことは言うに及ばず、共存させた有機質鋳型も細孔形成に寄与しない。したがって、安価原料を用いた高比表面積、強吸着機能を有する多孔質材料を製造することができない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、以下の方法により安価原料を用いて高比表面積、強吸着機能を有する多孔質材料を製造しうることに想到した。
すなわち、本発明は、多孔質材料製造方法であって、有機質鋳型を水溶媒に溶解せしめた後に、水ガラスを添加し、
次に前記有機質鋳型、前記水溶媒および前記水ガラスの混合物を撹拌しながら、前記混合物に無機酸を滴下し、
さらに無機塩水溶液を添加し、前記無機塩の自己加水分解反応を進行させて、高比表面積、強吸着機能を有する多孔質材料を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安価原料(水ガラス、無機塩)を出発原料とし、非晶質酸化ケイ素ネットワーク中に異種金属を均一導入することによって強い酸点を形成し、かつ、1000m/g級の高い比表面積を有する高機能多孔質材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1〜2および比較例1〜2に関する比表面積および酸性度を示すグラフ。
【図2】参考例1〜4に関する比表面積および酸性度を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において採用した溶解順序は、水溶媒に対し、有機質鋳型、水ガラス、pH調整剤(塩酸など)、無機塩(TiOClなど)である。それ以外の溶解順序では本発明は達成し難い。
【0011】
<有機質鋳型、水ガラスの溶解>
前述の通り、水ガラスに酸を添加すると、ケイ素成分が直ちに沈殿析出してしまい、有機質鋳型を導入した多孔質前駆体の製造には甚だ及ばない。
本発明においては、最初の段階において、必ずしも易溶性でない有機質鋳型を加温し充分に水溶媒に溶解せしめる。有機質鋳型の溶解が不十分であると、その後に水ガラスを添加した場合の溶液粘度増加が著しく、プロセス制御において多大な困難を生じる。したがって、この第一の手段は肝要である。
「有機質鋳型」とは、例えばセチルトリメチルアンモニウムクロライドのような長い直鎖を有するイオン性界面活性剤である。
「有機質鋳型を時間をかけて充分に水溶媒に溶解せしめる」とは、例えば、50℃程度に加温した水に添加し5分以上攪拌して、光に翳した溶液が目視で透明と見なせるまで溶解せしめることを言う。
【0012】
<pH調整剤の溶解>
次にpH調整のために塩酸等の無機酸水溶液を導入する。このとき、例えば塩酸を一滴滴下するだけでも部分的な溶液粘度は上昇する。したがって、撹拌を充分に行う必要がある。滴下速度も重要であり、過度に速く滴下すると溶液のゲル化が著しく、過度に遅ければ生産性が極めて悪い。適当に低い溶液粘性を保ちつつ、pH値を2程度にまで下げることが本発明の第二の肝要となる。
「滴下速度」は、例えば0.1ミリリットル毎分以上0.5ミリリットル毎分以下が好ましい。0.5ミリリットル毎分を超えると、溶液のゲル化が著しく、0.1ミリリットル毎分未満では生産性が悪い。
「適当に低い溶液粘性」とは例えば、50センチポイズ以下が好ましい。50センチポイズを超えると、攪拌がうまく行えず追加で導入する酸水溶液の均一導入が困難になる。
【0013】
<無機塩水溶液の添加>
その後は、TiOClのような無機塩水溶液を添加し、温度を上昇させるのみで無機塩は自発的に加水分解するのでさしたる手間は必要としない。このようなプロセスにより、シリカネットワークの形成と無機塩の自己加水分解反応を適度に進行させ、安価原料から高比表面積、強吸着機能を有する多孔質材料を製造することに成功した。
【0014】
<残存イオンの除去>
80℃、90分の加熱後、無機塩の自己加水分解が概ね終結した時点、得られた沈殿物を遠心分離により固液分離し、上澄みを清浄な水によって置換洗浄する。この際、超音波処理等により充分に沈殿物を物理的に解膠せしめ、沈殿粒子間隙に存在する残存イオンを充分に除去しておかないと、乾燥後に得られる最終製品が極めて取り扱いづらい堅固な凝集体となりうる。
【実施例】
【0015】
以下では実施例、比較例および参考例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の記載によってなんら制限されるものではない。
[実施例1〜2]
<有機質鋳型、水ガラスの溶解>
有機質鋳型としてセチルトリメチルアンモニウムクロライド(C16TAC)を2.8g秤量し、50℃、30ミリリットルのイオン交換水に溶解した。溶液はマグネティックスターラで5分以上攪拌し、光に翳して透明となることを目視で確認した。その後、3.6g水ガラスを添加して溶解した。その後、均一化のため、30分間攪拌した。
【0016】
<pH調整剤の溶解>
水ガラス水溶液をマグネティックスターラで強く攪拌しながら、4ミリリットルの2M塩酸水溶液を、0.5ミリリットル毎分の速度でゆっくりと滴下した。滴下終了後の溶液のpHは6.2であった。
【0017】
<無機塩水溶液の添加>
Ti/Si比は添加量によって変化させた。
Ti/Si比=0.05の場合(実施例1)は、塩酸を添加した水ガラス水溶液をマグネティックスターラで強く攪拌しながら、0.55ミリリットルのオキシ塩化チタニウム(TiOCl)2M水溶液を、0.5ミリリットル毎分の速度でゆっくりと滴下した。
Ti/Si比=0.1の場合(実施例2)は、塩酸を添加した水ガラス水溶液をマグネティックスターラで強く攪拌しながら、1.1ミリリットルのオキシ塩化チタニウム(TiOCl)2M水溶液を、0.5ミリリットル毎分の速度でゆっくりと滴下した。
その後、水浴を用いて、この溶液を80℃まで加温し90分保持した。
【0018】
<残存イオンの除去および仮焼>
得られた白色沈殿物を3000rpmの遠心分離装置にて固液分離し、上澄みを水置換して水洗する操作を3回繰り返し、水ガラス由来のナトリウムイオンおよびオキシ塩化チタニウム由来の塩化物イオンを除去した。水洗時には、超音波洗浄器を用いて沈殿物が充分に解膠するまで10分間処理した。最後に、エタノールを用いて上澄み置換を行い、50℃で18時間乾燥した。得られた白色粉体(多孔質材料)を電気炉にて空気中、600℃で4時間焼成した。
【0019】
<比表面積の測定>
粉体試料約0.05gを採取し、真空中100℃、6時間前処理した後、窒素吸脱着測定を行った。
測定結果を表1および図1に示した。
【0020】
<酸性度の測定>
粉体試料約0.5gを採取し、メチルイエロー(pKa=3.3)の0.1mass%ベンゼン溶液2ミリリットルに投入した。試料表面の酸点により赤く呈色したメチルイエローの色を指標として、アミン滴定を行った。マイクロビュレットを用い、n−ブチルアミン0.5Nベンゼン溶液を1滴ずつ滴下し、試料表面の赤色が無くなる点を滴定の終点とし、酸性度を算出した。
測定結果を表1および図1に示した。
【0021】
[比較例1]
オキシ塩化チタニウム(TiOCl)2M水溶液の添加量を0とした以外は実施例1と同様にして、多孔質材料を製造した。
比表面積と酸性度を測定し、測定結果を表1および図1に示した。
[比較例2]
オキシ塩化チタニウム(TiOCl)2M水溶液の添加量を2.2ミリリットルとした以外は実施例1と同様にして、多孔質材料を製造した。
比表面積と酸性度を測定し、測定結果を表1および図1に示した。
【0022】
[比較例3]
水に対する有機質鋳型の溶解が不十分なまま、それ以外は実施例1と同様にして、多孔質材料の製造を試みた。
しかし、水ガラス添加後も溶液の白濁は消失しなかったため、その後、オキシ塩化チタニウム水溶液を添加して加温したときの沈澱生成が確認できず、比表面積および酸性度を測定可能な多孔質材料の製造には至らなかった。
【0023】
[比較例4]
pH調整剤の添加量を変えて塩酸添加後のpHを4に変え、それ以外の合成条件は実施例1と同様にして多孔質材料の製造を試みた。
しかし、実施例1以外のpH条件では、得られた多孔質材料の比表面積は著しく低下した。
【0024】
[比較例5]
pH調整剤および無機塩水溶液の添加速度を実施例1の2倍、すなわち1ミリリットル毎分とした以外は実施例1と同様にして多孔質材料の製造を試みた。
しかし、水ガラスのゲル化が顕著となって溶液の粘性が上昇し、比表面積および酸性度を測定可能な多孔質材料の製造には至らなかった。
【0025】
[比較例6]
合成終了後の洗浄を1回しか行わず、それ以外は実施例1と同様にして多孔質材料を製造した。
しかし、得られたゲルは粉砕しがたい堅固な凝集体となり、比表面積および酸性度を測定可能な多孔質材料の製造には至らなかった。
【0026】
[参考例1]
ケイ素源をテトラエトキシシラン(TEOS)とし、チタン源をテトラエトキシチタン(TEOT)として、実施例1と同様の多孔質材料を製造した。その手法は既に知られているゾルゲル法であり、その手順は下記の文献に示されている。
M. Inada, N. Enomoto and J. Hojo, Synthesis and photocatalytic activity of mesoporous SiO2-TiO2, Research on Chemical Intermediates, Volume 36, Number 1, 115-120,
【0027】
テトラエトキシチタン(TEOT)とテトラエトキシシラン(TEOS)とを用いて多孔質材料を製造する方法は具体的には以下のとおりである。
テトラエトキシチタン(TEOT)は水に対する反応性が高すぎるため、プロセスの制御が困難である。そこで、TEOT0.2ミリリットルとアセチルアセトン(acac)0.2ミリリットルを乾燥窒素中で30分間攪拌し、TEOTにacacを配位させてキャッピングすることによって、反応制御しやすくした。その後、テトラエトキシシラン(TEOS)2.2ミリリットルを添加し90分間攪拌して、混合アルコキシドを調製した。他方、実施例1と同じ有機質鋳型0.69gを溶解した塩酸酸性(pH=2)の水3.6mLを調製した。50℃に加温した混合アルコキシドに対して、この水を添加して30分間攪拌し、加水分解反応を進行させた。その後、実施例1と同様の操作により、白色粉体試料を得た。
実施例1と同様に比表面積および酸性度を測定し、測定結果を表2および図2に示した。
【0028】
[参考例2]
TEOTの添加量を0、acacの添加量を0とした以外は、参考例1と同様にして多孔質材料を製造した。実施例1と同様に比表面積および酸性度を測定し、測定結果を表2および図2に示した。
【0029】
[参考例3]
TEOTの添加量を0.4ミリリットル、acacの添加量を0.4ミリリットルとした以外は、参考例1と同様にして多孔質材料を製造した。実施例1と同様に比表面積および酸性度を測定し、測定結果を表2および図2に示した。
【0030】
[参考例4]
TEOTの添加量を0.8ミリリットル、acacの添加量を0.8ミリリットルとした以外は、参考例1と同様にして多孔質材料を製造した。実施例1と同様に比表面積および酸性度を測定し、測定結果を表2および図2に示した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
本発明の製造方法(実施例1、2)により、安価原料の水ガラスをケイ素源、TiOCl(無機塩)をチタン源として、チタンがSi−Oネットワークに組み込まれた、高比表面積、強吸着機能を有する多孔質材料を製造することができた。
なお、Ti/Si比=0の場合(比較例1)、比表面積および酸性度は表1に示したとおりであった。
【0034】
Ti/Si比に応じてネットワーク組み込みの状況が変わる。TiOCl2を入れすぎると析出してしまい、表1に示すように、性能(比表面積および酸性度)は低下する(比較例2)。Ti/Si比には最適値が存在する。この点は金属アルコキシド原料を用いた場合と同様である(参考例4)。
また、比較例3〜5に示したように、本発明の製造方法によらなければ、水ガラスの塩基性は直ちにTiOCl2などの無機塩を沈殿析出させてしまうため、チタンがSi−Oネットワークに組み込まれないことは言うに及ばず、共存させた有機質鋳型も細孔形成に寄与しない。したがって、安価原料を用いた高比表面積、強吸着機能を有する多孔質材料を製造することができない。
【0035】
水ガラスは塩基性であるから、そのままTiOClを入れたら水酸化物となって沈殿してしまい、Si−Oネットワークに組み込まれようがない。
シリカ単体あるいはシリカ・チタニアの単純な混合物では、表1に示したような酸性度(1.29〜1.46mmol/g)を示すことはあり得ない。酸性度のかかる値からチタンがSi−Oネットワークに組み込まれたと考えられる。
【0036】
また、水ガラス、無機塩は可燃性をもたず、水溶液でのプロセシングが可能となっているため、防爆対応が不要となり、生産のための設備投資が大きく嵩むことはない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機質鋳型を水溶媒に溶解せしめた後に、水ガラスを添加し、
次に前記有機質鋳型、前記水溶媒および前記水ガラスの混合物を撹拌しながら、前記混合物に無機酸を滴下し、
さらに無機塩水溶液を添加し、前記無機塩の自己加水分解反応を進行させて、高比表面積、強吸着機能を有する多孔質材料を製造する多孔質材料製造方法。
【請求項2】
前記有機質鋳型がセチルトリメチルアンモニウムクロライド(C16TAC)で、前記無機酸が塩酸で、前記無機塩がオキシ塩化チタニウム(TiOCl2)であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質材料製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−171859(P2012−171859A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39104(P2011−39104)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】