説明

強度が非常に高い最終製品の熱機械的成形方法およびその方法により製造された製品

本発明は、非常に高い強度を有する最終製品を熱機械的成形する方法であって、(全て重量%で)0.04%<炭素<0.5%、0.5%<マンガン<3.5%、ケイ素<1.0%、0.01%<クロム<1%、チタン<0.2%、アルミニウム<2.0%、リン<0.1%、窒素<0.015%N、硫黄<0.05%、ホウ素<0.015%、不可避不純物、残部鉄を含んでなり、亜鉛合金被覆層で被覆されており、該亜鉛合金が、Mg0.3〜4.0%及びAl0.05〜6.0%、所望により一種以上の追加元素0.2%以下、不可避不純物、残部亜鉛からなる、被覆され、熱間圧延及び/または冷間圧延された鋼ストリップまたはシートを用意する工程、該鋼シートを切断し、鋼シートブランクを得る工程、該鋼シートブランクを、最終的な特性を有する最終的な製品に熱機械的成形する工程を含んでなる、方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度が非常に高い最終製品の熱機械的成形方法およびその方法により製造された製品に関する。
【背景技術】
【0002】
公知の高強度鋼解決策の多くでは、強度増加と共に成形性の低下が起こる。TRIP-鋼、二相組織鋼及びTEIP-鋼のような鋼は、化学組成及び処理を注意深く調整して組み合わせることにより、鋼の強度を増加しようとしている。これらの鋼の多くは、溶接性に問題がある。鋼の化学組成が溶接性を損なう場合もあれば、溶接の際に熱が加えられる結果、慎重に製造された微小構造が溶接により破壊されることもある。つまり、別の部品に溶接された、製造された部品は、全体的には強いが、溶接部の位置で弱い場合がある。その上、上記の鋼は全て、成形後のスプリングバックがあり、これが、降伏強度の増加と共に大きくなるのが難点である。
【0003】
成形特性及び使用に必要な特性を分けることにより、これらの問題の少なくとも幾つかは解決できる。使用に必要な特性は、鋼部品の熱機械的成形処理により得られる。熱機械的成形処理とは、成形操作の後に熱的処理を行うか、または熱的処理の最中に成形を行うことにより、成形および熱的処理を統合する処理を意味する。通常、腐食保護のために完成した部品の被覆を行うが、被覆には、表面及び中空部分を注意深く洗浄することが必要である。さらに、シート中の金属の脱炭及び/または酸化を阻止するために、熱機械的処理を調整された雰囲気下で行う必要がある。予備被覆を施していない鋼シートは、表面の後処理、例えばデスケーリング及び/または被覆、を必要とする。完成した部品に被覆を施す場合、部品の表面及び中空区域を注意深く洗浄しなければならない。該洗浄は、酸または塩基の使用を必要とし、それらの薬品の循環使用及び貯蔵には多額の経費及び作業員及び環境に対する危険性が伴う。機械的特性が非常に高い鋼の後処理により、電気亜鉛めっきで水素により誘発される亀裂または前に形成された部品の亜鉛めっき浴中における鋼の機械的特性変化が引き起こされることもある。
【0004】
この理由から、熱機械的成形処理に好適な予備被覆された鋼が提案されている。これらの被覆された鋼に関連する問題は、鋼基材に対する被覆の密着性が不十分であり、熱機械的成形処理の前、最中または後に剥離することである。金属表面上に堆積した亜鉛合金被覆に関連するもう一つの問題は、これまで、亜鉛の融解温度を超える温度での熱処理の際に融解し、流動し、高温成形工具を汚し易いと考えられていることである。つまり、成形された製品の品質が、形態及び表面品質の両方で、一連の製造工程全体にわたって低下し易いか、またはこの品質低下を防止するために、成形工具を頻繁に洗浄する必要がある。さらに、熱成形方法では、炭素の蓄積により、摩耗のために成形工具が損傷を受け、これによって、製造される部品の寸法及び美観的品質が低下するか、または経費のかかる工具の修理を頻繁に行うことが必要になる。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、予備被覆され、熱間または冷間圧延された、所望の厚さを有し、優れた成形性を有する鋼ストリップまたはシートの製造方法を提供することであり、該ストリップまたはシートは、完成したストリップまたはシートに対して行う熱機械的成形処理の後、1000 MPaを超える降伏強度、衝撃、疲労、摩擦及び摩耗に対して非常に大きな耐性を有することができ、一方、良好な耐食性ならびに良好な塗装、接着及びリン酸塩処理能力を維持しており、該被覆は、熱機械的成形処理の前、最中及び後に、優れた鋼基材に対する密着性及び基材の隠蔽特性を示し、それによって、あらゆる時点で腐食に対する優れた保護特性を示す。
【0006】
熱機械的処理の機械的部分を高温で行い、続いて成形工具中で硬化させることができる、上記の被覆された鋼を提供することも本発明の目的であり、該被覆は、熱機械的処理の前、最中及び後に、優れた密着性及び隠蔽特性を示す。
【0007】
これらの目的の一つ以上は、非常に高い強度を有する最終製品を熱機械的成形する方法であって、
− (全て重量%で)
・0.04%<炭素<0.5%
・0.5%<マンガン<3.5%
・ケイ素<1.0%
・0.01%<クロム<1%
・チタン<0.2%
・アルミニウム<2.0%
・リン<0.1%
・窒素<0.015%N
・硫黄<0.05%
・ホウ素<0.015%
・不可避不純物
・残部鉄
を含んでなる、被覆され熱間圧延及び/または冷間圧延された鋼ストリップまたはシートを用意し、
・該鋼が、Mg0.3〜4.0%及びAl0.05〜6.0%、所望により一種以上の追加元素0.2%以下、不可避不純物、残部亜鉛からなる亜鉛合金被覆層で被覆されてなる工程、
− 該鋼シートを切断して鋼シートブランクを得る工程、および
− 該鋼シートブランクを最終的な特性を有する最終的な製品に熱機械的成形する工程
を含んでなる方法を提供することにより、達成される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
好ましくは、チタン含有量は、窒素を化学量論的に結合するのに必要な量よりも大きく、Ti>3.4Nである。全ての窒素がチタンに結合している場合、窒素はホウ素と最早反応し得ない。FeとZnの全ての反応を阻止することは重要ではないので、最小レベル0.05%のアルミニウムを使用することができる。アルミニウムを全く含まない場合、厚い固体のFe-Zn合金が鋼表面上に成長し、ガスで吹き飛ばすことにより、被覆厚さを平滑に調整することはできない。問題となるFe-Zn合金の形成を阻止するには、0.05%のアルミニウム含有量で十分である。好ましくは、亜鉛合金被覆層中の最小アルミニウム含有量は、少なくとも0.3%である。ホウ素は、フェライト形成を抑制し、より低い臨界冷却速度でマルテンサイトを形成し、それによって、形成された製品が冷却の際に変形する危険性を制限するためにのみ、必要である。ホウ素が窒素と反応する場合、得られるBNは最早効果的ではない。チタンは高価な合金化元素であるので、チタンをあまり多く添加しないように、好ましくはチタンの量を窒素含有量に合わせて調整する。その上、過剰のチタンは、炭素と反応して炭化チタン粒子を形成し、これらの硬い粒子が、成形工具に損傷を与えるか、または工具の過剰摩耗を引き起こすことがある。従って、好ましくは、最大チタン含有量をTi-3.4N<0.05%に、より好ましくはTi-3.4N<0.02%に制限する。好ましくは、亜鉛合金中の追加元素の総量は、0.2%以下である。本発明の鋼組成物には、クロム、マンガン及び炭素を、それらの焼入性効果のために添加する。さらに、炭素は、そのマルテンサイト硬度に対する効果のために、高い機械的特性を達成することができる。アルミニウムは、酸素を捕獲し、ホウ素の効果を保護するために、組成物中に導入する。アルミニウムは、オーステナイト粒子成長を阻止するとも考えられている。シート形状の鋼は、カルシウムで行う硫化物の球状化(globularization)処理を受けることができ、この処理には、シートの疲労耐性を改良する効果がある。リンは好ましくは<0.05%である。
【0009】
亜鉛合金被覆は、溶融亜鉛めっきラインで施すことができ、連続的再結晶化または回復焼きなまし工程と組み合わせることができる。本発明の一実施態様では、熱機械的成形操作はプレス成形操作である。
【0010】
本発明の被覆された鋼ストリップは、優れた腐食特性を与える。その上、マグネシウム含有亜鉛合金層は、熱機械的成形工程の際に潤滑性を与え、熱機械的成形処理の前、最中及び後の被覆層の密着性が良好である。さらに、被覆された鋼材料を熱間成形前に加熱した時、熱に長時間露出している間に、亜鉛合金被覆層の元素が鋼基材の中に拡散し、それによって拡散被覆を引き起こし、マグネシウム及びアルミニウムが酸化される。この拡散被覆は、鋼基材に腐食保護性をすでに与えており、亜鉛合金被覆層の鋼基材に対する密着性も強化すると考えられる。Zn拡散層の厚さは、成形及び冷却工程の後に能動的な腐食保護性が達成されるように選択すべきである。
【0011】
Mg含有亜鉛層は、Mgを含まない亜鉛層よりも硬いと一般的に考えられている。これは、一般的にはこれらの層がより脆いことを意味しているにも関わらず、本発明者らは、亜鉛合金被覆層の密着性は非常に優れているので、成形中の高い接触圧の際でも、亜鉛合金被覆層は圧力に屈することなく、所定の位置に止まり、成形の際及び後に、製品を腐食から保護することを見出した。これは、Mg添加が、被覆された鋼と(高温)成形工具との間の潤滑性を強化するのに有効であると考えられるためである。本発明者らは、亜鉛層上でのMg酸化物形成が、亜鉛の蒸発に対して保護すると考えている。亜鉛蒸発の低下は、溶融亜鉛めっきの際のスナウト(snout)区域にも有益である。スナウトは、ストリップが亜鉛浴に入る箇所である。通常、亜鉛は蒸発し、低温区域で粉塵(亜鉛及び酸化亜鉛)を形成し、この粉塵がスナウトでストリップ及び亜鉛浴表面上に落下することがある。これが亜鉛被覆に欠陥を引き起こすことがある。浴表面上のMg酸化物は、この区域における亜鉛の蒸発を抑制し、従って、亜鉛被覆の欠陥が生じる可能性が低くなる。最後に、Mgの添加により、鋼のリン酸塩処理性が改良される。
【0012】
FeAlの形成により、被覆層を堆積させる浴が上記のような追加元素としての鉄を含まなくても、被覆層は、常に少量の鉄を含む。この鉄は、鋼基材を使用するために、不可避不純物を構成する。鉄は、追加の元素ではなく、1.5%以上、好ましくは1.0%を超えないのが好ましい。本発明の一実施態様では、被覆層中の鉄含有量は、0.6%未満、好ましくは0.4%未満に制限する。さらに好ましくは、この量は0.2%未満に制限する。
【0013】
本発明者らは、本発明の鋼は、本発明の亜鉛合金被覆層に対する優れた基材湿潤性、熱機械的成形処理の際の優れた密着性、高温にさらされた時に鉄-亜鉛金属間層の急速な形成、成形の際に被覆中に形成された全ての亀裂の優れた亀裂閉鎖性、成形の際の摩擦に対する良好な耐性を与え、熱機械的操作の前、最中及び後に、亜鉛と鋼の電流挙動(galvanic behaviour)による部品の縁部保護を包含する、良好な耐食性を与えることを見出した。従って、所望の機械的特性有する鋼基材と優れた腐食保護特性の組合せが得られる。アルミニウム含有量は、6%を超えると溶接性が損なわれるので、6%に制限する。
【0014】
少量、0.2重量%未満、で加えることができる追加の元素は、PbまたはSb、Ti、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Ni、ZrまたはBiでよい。Pb、Sn、Bi及びSbは、通常、スパングル(spangle)を形成するために添加する。これら少量の追加元素は、被覆または浴の特性を、通常の用途に関してはあまり大きく変化させない。好ましくは、亜鉛合金被覆中に一種以上の追加元素が存在する場合、それぞれ<0.02重量%、好ましくはそれぞれ<0.01重量%の量で存在する。これは、追加元素は、マグネシウムやアルミニウムの添加と比較して、耐食性をあまり大きく変化させず、追加元素は被覆された鋼ストリップのコストを増加させるためである。追加元素は、通常、溶融亜鉛めっき用の溶融亜鉛合金を含む浴における垢形成を阻止するためか、または被覆層中にスパングルを形成するためにのみ添加する。従って、追加元素は、できるだけ低く抑える。鋼ストリップの片側上の亜鉛合金の量は、25〜600 g/mにすべきである。これは、約4〜95μmの厚さに相当する。好ましくは、厚さは4〜20μm(50〜140 g/m)であるが、これは、それより厚い被覆はほとんどの用途に必要ないためである。本発明の亜鉛合金被覆層は、12μm以下の厚さで腐食に対する保護性を改良する。薄い被覆層は、本発明の被覆層を有する2枚の鋼シートを、例えばレーザー溶接により、溶接する場合に有利である。好ましい実施態様では、亜鉛合金被覆層の厚さは3〜10μmであり、これは、自動車用途に好ましい厚さ範囲である。別の好ましい実施態様では、亜鉛合金被覆層の厚さが3〜8μm、さらには7μmである。この厚さは、スペーサを使用せずに形成されるレーザー溶接部が重要である場合に、好ましい。
【0015】
本発明の一実施態様では、被覆された鋼は、下記の組成物 (全て重量%で)、すなわち
− 0.15%<炭素<0.5%
− 0.5%<マンガン<3%
− 0.1%<ケイ素<0.5%
− 0.01%<クロム<1%
− チタン<0.2%
− アルミニウム<0.1%
− リン<0.1%
− 窒素<0.01%N
− 硫黄<0.05%
− 0.0005%<ホウ素<0.015%
− 不可避不純物
− 残部鉄
を含んでなる。
【0016】
本発明の一実施態様では、鋼基材は、特許権請求する合金化元素のみからなる。他の元素、例えば酸素または希土類元素、は不可避不純物としてのみ存在することができ、残部は鉄である。
【0017】
亜鉛合金被覆の品質をさらに改良するために、亜鉛合金被覆工程の後で、周囲温度に冷却する工程の前に、ガルバニーリング工程を使用することができる。ガルバニーリング工程は、ストリップを例えば20〜40秒間、470〜550℃に加熱し、次いで直ちに溶融めっきを行い、亜鉛合金被覆中の鉄含有量を15%まで、好ましくは7〜13%、例えば約10%にすることを含んでなることができる。
【0018】
本発明の一実施態様では、熱機械的成形は、鋼シートブランクを周囲温度で製品に成形し、該製品を、Ac1よりも高く加熱することにより、熱処理にかけ、製品を少なくとも部分的にオーステナイト化し、続いて製品を急冷し、最終的な特性を有する最終製品を得ることを含んでなる。急冷は、好ましくは製品を例えば成形工具または加熱工具中に拘束した状態で行い、冷却の際に形状欠陥または座屈(buckling)が起こるのを回避する。所望により、製品を成形した後、熱処理の前に、過剰の材料を全てトリミングする。代わりに、または追加で、最終製品の、すなわち熱処理の後の、トリミングを、例えばレーザー切断により、行うことができる。
【0019】
この実施態様は、機械的処理を熱処理から分離する、すなわち成形工程を周囲温度で行い、成形工程の後に熱処理を行い、最終製品にその最終的な特性を与える状況を提供する。鋼シートを切断して鋼シートブランクを形成し、その鋼シートブランクを成形して製品を製造し、次いで、こうして得られた部品をAc1より高い温度に加熱し、ブランクを少なくとも部分的にオーステナイト化し、好ましくは臨界冷却速度より高い冷却速度で、好ましくはプレス中で急冷し、製品に高い機械的特性を付与する。
【0020】
この実施態様は、被覆されたシートから出発して製品を製造する方法にも関連し、そこでは、成形の後に、製品の被覆を、5℃/sを超え、600℃/sを超えることができる速度で温度増加にかける。本発明の別の実施態様では、熱機械的成形が、鋼シートブランクをAc1より高い温度、例えば750℃を超える温度、に加熱し、ブランクを少なくとも部分的にオーステナイト化し、ブランクを製品に高温で成形し、製品を急冷し、最終的な特性を有する最終製品を得ることを含んでなる。
【0021】
この実施態様では、鋼シートを切断して鋼シートブランクを形成し、鋼シートをAc1より高い温度に加熱し、ブランクを少なくとも部分的にオーステナイト化し、この鋼シートブランクを成形して製品を製造し、次いで、こうして得られた部品を、好ましくは臨界冷却速度より高い速度で急冷し、その部品に高い機械的特性を付与する。過剰材料のトリミング及び製品の冷却は上に説明した通りである。好ましい実施態様では、トリミング操作を成形操作と一体化し、トリミング手段を成形工具の中に備え、プレス中で製品を形成した直後に製品をトリミングする。
【0022】
本発明のさらに別の態様では、熱機械的成形が、鋼シートブランクを周囲温度で前駆製品に成形し、該前駆製品を、Ac1よりも高く加熱することにより熱処理にかけ、前駆製品を少なくとも部分的にオーステナイト化し、前駆製品を高温で製品に成形し、製品を急冷して最終的な特性を有する最終製品を製造することを含んでなる。このようにして、前駆製品変形の応力が、高温における第二変形の前に実質的に、または完全に解除されるので、著しく高い程度の変形を達成することができる。好ましい実施態様では、トリミング操作を成形操作と一体化し、トリミング手段を成形工具の中に備え、プレス中で製品を形成した直後に製品をトリミングする。
【0023】
従って、本発明の鋼は、ストリップまたはシートから製造されたブランクから出発する、3種類の熱機械的成形操作の一つに使用する。
A)ブランクを製品に成形し、該製品を、Ac1よりも高く加熱することにより熱処理にかけ、製品を少なくとも部分的にオーステナイト化し、続いて製品を急冷して最終的な特性を有する最終製品を製造する。これは冷間成形と呼ばれることがある。
B)ブランクをAc1より高い温度に加熱し、ブランクを少なくとも部分的にオーステナイト化し、ブランクを高温で製品に成形し、続いて製品を急冷して最終的な特性を有する最終製品を製造する。これは熱間成形と呼ばれることがある。
C)ブランクを前駆製品に成形し、該前駆製品を、Ac1よりも高く加熱することにより熱処理にかけ、製品を少なくとも部分的にオーステナイト化し、前駆製品を高温で製品に成形し、続いて製品を急冷して最終的な特性を有する最終製品を製造する。これは、冷間成形に続く熱間成形と呼ばれることがある。
【0024】
全ての場合で、急冷は、好ましくは臨界冷却速度より高い冷却速度で行い、高い機械的特性を付与する。得られる最終製品は、成形工程で誘発された応力が熱処理により除去されているので、スプリングバックを示さない。冷却は、製品がまだ成形プレスの中にある間に行うのが好ましい。
【0025】
全ての場合で、鋼の処理は、少なくとも鋼がオーステナイトに変換し始める温度(Ac1)への加熱工程を含んでなる。再加熱温度は、所望のオーステナイト化程度によって異なり、完全オーステナイト化はAc3より高い温度域で達成される。高い方の温度は、高温における粒子成長及び被覆層の蒸発により制限される。従って、好適な最高再加熱温度はAc3+50℃、さらにはAc3+20℃である。再加熱時間は、到達すべき温度及び材料の厚さによって異なり、材料が厚い程、全体にわたって均質な温度に達するまでに、より多くの時間を必要とする。鋼の組成は、熱処理の時点で粒子の拡大を制限するように最適化する。冷却後の所望の微小構造が完全にマルテンサイトである場合、再加熱温度はAc3を超えるべきである。これらの温度Ac1及びAc3は、膨脹計で容易に決定することができる。完全にマルテンサイト系構造及び例の組成を有する鋼では、冷却速度は、厚さ約1.5 mmの鋼を950℃で5分間オーステナイト化するのに約30℃/sである、硬化の臨界速度を超えているべきである。臨界冷却速度は、膨脹計、例えばBaehr 805A/D、を使用して決定することもできる。
【0026】
フェライト-ベイナイトまたはフェライト-マルテンサイト構造を、製法A、BまたはCのいずれにおいても、Ac1〜Ac3の温度に加熱し、続いて適切に冷却することにより、得ることができる。達成すべき耐性のレベル及び適用する熱処理に応じてこれらの相の一つ以上が適切な比率で最終的な微小構造中に存在する。焼きなまし温度の選択により、焼きなまし中のオーステナイト画分が決定される。組成及び冷却速度との組合せで、冷却後に所望の微小構造を得ることができる。最高強度レベルを得るには、最終的な微小構造が、ほとんど、または完全にマルテンサイトから構成される。最終的な微小構造中には、ある程度の残留オーステナイトが存在してもよい。膨脹計中における熱的または熱機械的成形処理後の金属組織学的研究により、鋼の特定の化学組成に対して正しい処理パラメータを決定することができる。
【0027】
本発明の一実施態様では、亜鉛合金は、マグネシウム0.3〜2.3重量%及びアルミニウム0.05〜2.3重量%を含んでなる。マグネシウムレベルを2.3%以下に制限することにより、亜鉛浴上の酸化物系垢の形成が少なくなり、腐食保護性が十分に高いレベルに維持される。アルミニウム含有量を制限することにより、溶接性が改良される。好ましくは、アルミニウムは0.6〜2.3重量%である。好ましい実施態様では、亜鉛合金中のケイ素含有量は0.0010重量%未満である。本発明の一実施態様では、亜鉛合金は、マグネシウム0.3〜4.0重量%及びアルミニウム0.05〜1.6重量%を含んでなる。好ましくは、アルミニウムは0.3〜2.3重量%である。
【0028】
好ましい実施態様では、鋼ストリップが、亜鉛合金被覆層を備えており、その際、亜鉛合金が、マグネシウム1.6〜2.3重量%及びアルミニウム1.6〜2.3重量%を含む。これは、これらの値では、被覆の腐食保護性が最大であり、腐食保護性が、小さな組成変動により影響されないので、好ましい実施態様である。マグネシウム及びアルミニウムが2.3重量%を超えると、被覆がかなり高価になり、被覆が脆くなることがあり、被覆の表面品質が低下することがある。
【0029】
本発明の一実施態様では、鋼ストリップが、亜鉛合金被覆層を備えており、その際、亜鉛合金が、アルミニウム0.05〜1.3重量%及び/またはマグネシウム0.3〜1.3重量%を含む。好ましくは、アルミニウムは0.6〜2.3重量%である。これらの少量のアルミニウム及びマグネシウムでは、従来の溶融亜鉛めっき浴及び装置を大きく変更する必要が無いのに対し、0.3〜1.3重量%レベルのマグネシウムは、耐食性を著しく改良する。通常、これらの量のマグネシウムには、従来の浴よりも多くの酸化物系垢が形成されるのを阻止するために、0.5重量%を超えるアルミニウムを加える必要があり、垢は被覆中に欠陥を引き起こすことがある。これらの量のマグネシウム及びアルミニウムを含む被覆は、表面品質及び耐食性の改良に対する要求が高い用途に最適である。
【0030】
好ましくは、亜鉛合金は、アルミニウム0.8〜1.2重量%及び/またはマグネシウム0.8〜1.2重量%を含む。これらの量のマグネシウム及びアルミニウムは、高い耐食性、優れた表面品質、優れた成形性、及び良好な溶接性を、従来の溶融亜鉛めっきと比較して限られた追加コストで与えるのに最適である。
【0031】
好ましい実施態様では、鋼ストリップが、溶融めっきされた亜鉛合金被覆層を備えており、該被覆層中では、アルミニウムの量がマグネシウムの量±0.3重量%以下に等しい。アルミニウムの量がマグネシウムの量と等しいか、またはほとんど等しい場合に、浴上に形成される垢がかなりのレベルに抑制されることが分かった。
【0032】
本発明の一実施態様では、被覆された鋼基材は、
− 0.15%<炭素<0.40%
− 0.8%<マンガン<1.5%
− 0.1%<ケイ素<0.35%
− 0.01%<クロム<1%
− チタン<0.1%
− アルミニウム<0.1%
− 窒素<0.01%N
− リン<0.05%
− 硫黄<0.03%
− 0.0005%<ホウ素<0.01%
− 不可避不純物
− 残部鉄
を含んでなり、Ti>3.4Nである。
【0033】
好ましい実施態様では、被覆された鋼基材は、
− C 0.15〜0.25%
− Mn 1.0〜1.5%
− Si 0.1〜0.35%
− Cr 最大0.8%、好ましくはCr0.1〜0.4%
− Al 最大0.1%
− Nb 0〜0.05%、好ましくは最大0.03%
− N 0〜0.01%
− Ti 0.01〜0.07%
− リン<0.05%、好ましくは<0.03%
− 硫黄<0.03%
− 0.0005%<ホウ素<0.008%
− 不可避不純物
− 残部鉄
を含んでなり、Ti>3.4Nである。
【0034】
好ましくは、Bは少なくとも0.0015%である。ホウ素の効果は、ホウ素含有量が少なくとも15 ppmである場合に特に顕著になることが分かった。
【0035】
好ましい実施態様では、被覆された鋼基材は、
− C 0.15〜0.25%
− Mn 1.0〜1.5%
− Si 0.1〜0.35%
− Cr 最大0.8%、好ましくはCr0.1〜0.4%
− Al 最大0.1%
− Nb 0〜0.05%、好ましくは最大0.03%
− N 0〜0.01%
− B 0.0015〜0.008%
− Ti 0.01〜0.07%、その際、Ti>3.4N
− 不可避不純物
− 残部鉄
を含んでなる。
【0036】
本発明は、被覆され、熱間圧延された、及び/または冷間圧延された鋼の、陸上自動車用の構造的及び/または侵入防止または準構造的部品、例えば自動車のバンパービーム、ドア補強部、もしくはB-ピラー補強部、を製造するための使用にも関する。
【0037】
本発明のストリップまたはシートは、好ましくは連続的に厚いまたは薄い、通常は厚さが300〜50 mmの鋳造スラブを熱間圧延することにより、製造される。これは、厚さ1〜20 mmの厚さにストリップキャスティングし、所望により続いて1回以上の熱間圧延通しにより、製造することもできる。この熱間圧延された前駆材料は、本発明により被覆し、使用することもできるが、所望の最終厚さに応じて冷間圧延することもできる。冷間圧延した後、本発明により被覆する。被覆工程の前に、焼きなまし工程を行い、冷間圧延されたストリップの変形した微小構造を回復または再結晶化により変化させ、成形性をより高めることができる。続いて、このストリップまたはシートを熱機械的成形工程で使用することができる。
【0038】
被覆は、特に基礎シートを高温または低温腐食から保護する機能を有する。本発明のシートの出荷状態における機械的特性により、非常に様々な成形、特にディープスタンピング、が可能である。熱間成形工程の時点または成形後に行う熱処理により、引張強度1500 MPa及び降伏強度1200 MPaを超えることがある高い強度値を得ることができる。最終的な機械的特性は、調節でき、鋼の化学組成、特に炭素含有量、及び熱処理によって異なる。
【0039】
例として、炭素0.21%、マンガン1.27%、リン0.012%、硫黄0.001%、ケイ素0.18%、アルミニウム0.031%、銅0.014%、ニッケル0.020%、クロム0.18%、窒素0.0050%、チタン0.018%、ホウ素0.002%を含む、本発明のカルシウム処理した鋼シートを本発明の亜鉛合金被覆層で被覆する。
【0040】
本発明により、このシートは、厚さが0.25 mm〜15 mm、好ましくは0.3〜5 mmでよく、コイルまたはシートとして供給することができ、良好な成形特性及び良好な耐食性ならびに良好な塗装、接着またはリン酸塩処理能力を有する。
【0041】
この、被覆された鋼製品であるシートは、供給された時の状態で、熱機械的成形処理の際、ならびに完成した成形製品を使用する際に、良好な耐食性を与える。熱処理の後、1200 MPaを優に超える、非常に大きな引張強度が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非常に高い強度を有する最終製品を熱機械的成形する方法であって、
− (全て重量%で)
・0.04%<炭素<0.5%
・0.5%<マンガン<3.5%
・ケイ素<1.0%
・0.01%<クロム<1%
・チタン<0.2%
・アルミニウム<2.0%
・リン<0.1%
・窒素<0.015%N
・硫黄<0.05%
・ホウ素<0.015%
・不可避不純物
・残部鉄
を含んでなる、被覆され熱間圧延及び/または冷間圧延された鋼ストリップまたはシートを用意し、
・該鋼が、Mg0.3〜4.0%及びAl0.05〜6.0%、所望により一種以上の追加元素0.2%以下、不可避不純物、残部亜鉛からなる亜鉛合金被覆層で被覆されてなる工程、
− 前記鋼シートを切断して鋼シートブランクを得る工程、および
− 前記鋼シートブランクを最終的な特性を有する最終的な製品に熱機械的成形する工程
を含んでなる、方法。
【請求項2】
非常に高い強度を有する製品を熱機械的成形する方法であって、
− (全て重量%で)
・0.15%<炭素<0.5%
・0.5%<マンガン<3%
・0.1%<ケイ素<0.5%
・0.01%<クロム<1%
・チタン<0.2%
・アルミニウム<0.1%
・リン<0.1%
・窒素 0〜0.01%
・硫黄<0.05%
・0.0005%<ホウ素<0.015%
・不可避不純物
・残部鉄
を含んでなる、被覆され熱間圧延及び/または冷間圧延された鋼ストリップまたはシートを用意し、
・該鋼が、Mg0.3〜4.0%及びAl0.05〜6.0%、所望により一種以上の追加元素0.2%以下、不可避不純物、残部亜鉛からなる亜鉛合金被覆層で被覆されてなる工程、
− 前記鋼シートを切断して鋼シートブランクを得る工程、および
− 前記鋼シートブランクを最終的な特性を有する最終的な製品に熱機械的成形する工程
を含んでなる、方法。
【請求項3】
前記熱機械的成形が、前記ブランクを周囲温度で製品に成形し、前記製品をAc1よりも高く加熱することにより熱処理に付して前記製品を少なくとも部分的にオーステナイト化し、前記製品を急冷して前記最終的な特性を有する最終製品を得ることを含んでなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱機械的成形が、前記ブランクをAc1よりも高く加熱して前記ブランクを少なくとも部分的にオーステナイト化し、前記ブランクを高温で製品に成形し、前記製品を急冷して前記最終的な特性を有する最終製品を得ることを含んでなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記熱機械的成形が、前記ブランクを周囲温度で前駆製品に成形し、前記前駆製品をAc1よりも高く加熱することにより熱処理に付して前記前駆製品を少なくとも部分的にオーステナイト化し、前記前駆製品を高温で製品に成形し、前記製品を急冷して前記最終的な特性を有する最終製品を得ることを含んでなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
− 前記亜鉛合金被覆層がマグネシウム0.3〜2.3重量%及びアルミニウム0.6〜2.3重量%を含んでなるか、または
− 前記亜鉛合金被覆層がマグネシウム1.6〜2.3重量%及びアルミニウム1.6〜2.3重量%を含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記鋼が、
− 0.15%<炭素<0.40%
− 0.8%<マンガン<1.5%
− 0.1%<ケイ素<0.35%
− 0.01%<クロム<1%
− 窒素 0〜0.01%
− チタン<0.1%
− アルミニウム<0.1%
− リン<0.05%
− 硫黄<0.03%
− 0.0005%<ホウ素<0.01%
− 不可避不純物
− 残部鉄
を含んでなり、Ti>3.4Nである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記鋼が、
− C 0.15〜0.25%
− Mn 1.0〜1.5%
− Si 0.1〜0.35%
− Cr 最大0.8%
− Al 最大0.1%
− Nb 0〜0.05%
− N 0〜0.01%
− Ti 0.01〜0.07%
− リン<0.05%
− 硫黄<0.03%
− 0.0005%<ホウ素<0.008%
− 不可避不純物
− 残部鉄
を含んでなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記鋼が、少なくとも0.0015%のBを含んでなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記鋼が、
− C 0.15〜0.25%
− Mn 1.0〜1.5%
− Si 0.1〜0.35%
− Cr 最大0.8%
− Al 最大0.1%
− Nb 0〜0.05%
− N 0〜0.01%
− B 0.0015〜0.008%
− Ti 0.01〜0.07%、ただし、Ti>3.4N
− 不可避不純物
− 残部鉄
を含んでなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記鋼が、Ti-3.4N<0.05%、好ましくはTi-3.4N<0.02%を含んでなる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記最終製品が自動車用部品である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項により製造された、陸上自動車用の構造的及び/または侵入防止または準構造的部品、例えば自動車のバンパービーム、ドア補強部、もしくはB-ピラー補強部。

【公表番号】特表2010−527407(P2010−527407A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550726(P2009−550726)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052213
【国際公開番号】WO2008/102012
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(500252006)コラス・スタール・ベー・ブイ (16)
【Fターム(参考)】