説明

強磁性粉末組成物及びその製造方法

本発明は、強磁性粉末組成物であって、見掛け密度3.2〜3.7g/mlを有する軟磁性鉄基コア粒子を含み、又コア粒子の表面が、リン系無機絶縁層と、この第1のリン系無機絶縁層の外側に位置する、少なくとも1層の金属−有機層とを備えている粉末組成物に関する。本発明はさらに、この組成物の製造方法及びこの組成物から調製した軟磁性複合部品の製造方法並びに得られた部品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁性鉄基粉末(iron−based powder)を含む粉末組成物及びその製造方法に関する。本発明はさらに、この組成物から調製される軟磁性複合部品の製造方法並びに得られた部品に関する。
【背景技術】
【0002】
軟磁性材料は、電気機械用誘導子、固定子及び回転子におけるコア材料、アクチュエータ、センサ並びに変圧器コアなどの用途に対して使用されている。従来、電気機械内の回転子及び固定子などの軟磁性コアは、積重ねた鋼積層体で作製される。軟磁性複合体(SMC)材料は、通常は鉄基の、軟磁性粒子をベースにしており、それぞれの粒子上に電気絶縁性コーティングを有する。SMC部品は、伝統的な粉末冶金(PM)成形方法を使用し、所望によって潤滑剤及び/又は結合剤と一緒に、その絶縁性粒子を成形する(compact)ことによって得られる。粉末冶金技術を使用することで、SMC材料が、三次元磁束を帯びることができまた成形方法により三次元形状を得ることができるので、鋼積層体の使用による場合よりも、SMC部品の設計においてより高い自由度を有する材料を製造することが可能である。
【0003】
鉄芯部品の2つの重要な特性は、その透磁率及びコア損失特性である。材料の透磁率は、その磁化される能力又はその磁束を帯びる能力の現れである。透磁率は、誘導磁束 対 磁化力又は磁界強度の比率として定義される。磁性材料が変動する磁界に曝されると、ヒステリシス損失及び渦電流損失の両方のためエネルギー損失が生じる。ヒステリシス損失(DC−損失)は、大抵のモータの全コア損失の大部分を占めるものであり、鉄芯部品内に保持された磁力を克服するのに必要なエネルギー消費によってもたらされる。この力は、ベース粉末の純度及び品質を向上させることによって最小とすることができるが、この部品の熱処理(すなわち、応力解放)の温度及び/又は時間を増大させることによるのが最も重要である。渦電流損失(AC−損失)は、交流(AC)条件に起因する磁束の変化のため鉄芯部品内に生じる電流によりもたらされる。渦電流を最小にするため、部品の高い電気抵抗率が望ましい。AC損失を最小にするため必要な電気抵抗率レベルは、用途の種類(動作周波数)及び部品サイズに依存している。
【0004】
ヒステリシス損失は、交流電界の周波数に比例し、一方渦電流損失は、周波数の二乗に比例する。したがって、高い周波数では、渦電流損失が非常に問題となり、渦電流損失を少なくし、かつヒステリシス損失の低レベルを保持することが特に要求される。絶縁された軟磁性粉末が使用される高い周波数で動作する用途では、個々の粉末粒子の電気絶縁性が十分であることを前提に、作り出される渦電流がより小さい体積に限定される可能性がある(粒子内渦電流)ので、より微細な粒径を有する粉末を使用することが望ましい。したがって、高い周波数で働く部品については、微粉末並びに高い電気抵抗率がより重要になる。粒子の絶縁がどんなに良好に働くかとは無関係に、その部品の大部分では制約されない渦電流の部分が常に存在し、損失をもたらす。全体の渦電流損失は、磁束を帯びる成形部分の断面積に比例する。したがって、磁束を帯びる、大きな断面積を有する部品は、全体の渦電流損失を抑制するために、より高い電気抵抗率を要することになる。
【0005】
100〜400μmの、例えば、約180μmと250μmの間の、平均粒径を有する、また45μm未満の粒径を有する粒子が10%未満(40メッシュ粉末)の、絶縁された鉄基軟磁性粉末は、通常、1kHzまでの周波数で動作する部品向けに使用される。50〜150μmの、例えば、約80μmと120μmの間の、平均粒径を有する、また45μm未満が10〜30%(100メッシュ粉末)の粉末は、200Hzから10kHzまで動作する部品向けに使用でき、一方2kHzから50kHzまでの周波数で動作する部品は、約20〜75μmの、例えば、約30μmと50μmの間の、平均粒径を有する、また50%を超えるものが45μm未満である(200メッシュ粉末)、絶縁された軟磁性粉末に基づいている。平均粒径及び粒度分布は、好ましくはその用途の要求条件により最適化されるべきである。したがって、重量平均粒度の例は、10〜450μm、20〜400μm、20〜350μm、30〜350μm、30〜300μm、20〜80μm、30〜50μm、50〜150μm、80〜120μm、100〜400μm、150〜350μm、180〜250μm、120〜200μmである。
【0006】
被覆した鉄基粉末を使用した磁性コア部品の粉末冶金的製造の研究は、最終部品の他の特性に悪影響を及ぼさずに、ある物理的及び磁気的特性を向上させる鉄粉末組成物の開発に向けられている。望まれる部品特性には、例えば、広い周波数範囲にわたる高い透磁率、低いコア損失、高い飽和誘導及び高い機械的強度が含まれる。望まれる粉末特性には、圧縮成形技術への適応性がさらに含まれ、これは粉末が、部品表面上への損傷がなく成形装置から容易に抜き出すことができる高密度部品に容易に成形できることを意味する。
【0007】
公開された特許の例が、以下に概説される。
【0008】
Lashmoreへの米国特許第6309748号は、約40〜約600ミクロンの直径サイズ、及びそれぞれの粒子上に配された無機酸化物のコーティングを有する強磁性粉末を記載している。
【0009】
Janssonへの米国特許第6348265号は、薄いリン及び酸素含有コーティングで被覆された鉄粉末であり、この被覆された粉末が、加熱処理できる軟磁性コアとして成形するのに適している粉末を教示している。
【0010】
Soileauへの米国特許第4601765号は、最初にアルカリ金属ケイ酸塩の膜を被覆し、次いでシリコーン樹脂ポリマーを重ねて被覆した鉄粉末を利用する成形した鉄芯を教示している。
【0011】
Moroへの米国特許第6149704号は、フェノール樹脂及び/又はシリコーン樹脂のコーティング及び所望によって酸化チタン又は酸化ジルコニウムのゾルにより電気絶縁性とした強磁性粉末を記載している。得られた粉末は、金属ステアリン酸塩潤滑剤と混合し、成形してダストコアとする。
【0012】
Moroへの米国特許第7235208号は、その中に強磁性粉末が分散されている絶縁性結合剤を有する強磁性粉末製のダストコアであって、その絶縁性結合剤が3官能性アルキル−フェニルシリコーン樹脂及び所望によって無機酸化物、炭化物又は窒化物を含む上記ダストコアを教示している。
【0013】
軟磁性体の分野内のさらなる資料は、Yuuichiへの日本特許出願特願2005−322489であり、公開番号特開2007−129154を有するもの;Maedaへの日本特許出願特願2005−274124であり、公開番号特開2007−088156を有するもの;Masakiへの日本特許出願特願2004−203969であり、公開番号特開2006−0244869を有するもの;Uedaへの日本特許出願特願2005−051149であり、公開番号特開2006−233295を有するもの、及びWatanabeへの日本特許出願特願2005−057193であり、公開番号特開2006−245183を有するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の一目的は、鉄基粉末組成物であって、成形されて高抵抗率及び低コア損失を有する軟磁性部品となる電気絶縁性の鉄基粉末を含む上記組成物を提供することである。
【0015】
本発明の一目的は、鉄基粉末組成物であって、成形されて高強度を有する軟磁性部品となり、この部品を、鉄基粉末の電気絶縁性コーティングが劣化されずに、最適な熱処理温度で熱処理することができる電気絶縁性鉄基粉末を含む上記組成物を提供することである。
【0016】
本発明の一目的は、鉄基粉末組成物であって、成形されて高強度、高い最大透磁率及び高誘導を有する一方、ヒステリシス損失を最小とし、且つ渦電流損失を低レベルに保持する軟磁性部品となる電気絶縁性鉄基粉末を含む上記組成物を提供することである。
【0017】
本発明の一目的は、成形及び熱処理した軟磁性部品の製造方法であって、渦電流損失を低レベルに保持しながらヒステリシス損失を最小とすることによって得られる高強度、高い最大透磁率、高誘導及び低コア損失を有する上記部品の製造方法を提供することである。
【0018】
本発明の一目的は、鉄基粉末組成物の製造方法であって、有害な若しくは環境に好ましくない溶媒又は乾燥手順を必要としない上記方法を提供することである。
【0019】
一目的は、成形し、又所望により熱処理した軟磁性鉄基複合部品の製造方法であって、十分な機械的強度及び許容できる磁束密度(誘導)並びに最大透磁率とともに、低コア損失を有する上記複合部品を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
少なくとも1つの上述の目的、及び/又は下記の記述から見えてくることになる言及されていないさらなる目的を達成するために、本発明は、強磁性粉末組成物であって、見掛け密度3.2〜3.7g/mlを有する軟磁性鉄基コア粒子を含み、コア粒子の表面が、リン系無機絶縁層を備えている上記組成物に関する。
【0021】
所望により、他の実施形態において、少なくとも1層の金属−有機層であって、下記の一般式:
[(R(R(MOn−1)]
(式中、Mは、Si、Ti、Al又はZrから選択される中心原子であり、
Oは酸素であり、
は、4個未満、好ましくは3個未満の炭素原子を有するアルコキシ基から選択される加水分解可能な基であり、
は有機部分であり、この場合少なくとも1つのRが少なくとも1つのアミノ基を含有し、
式中nは、反復可能単位の数であり、1と20の間の整数であり、
式中xは、0と1の間の整数であり、
式中yは1と2の間の整数である。)を有する金属−有機化合物の金属−有機層が、前記第1のリン系無機絶縁層の外側に位置している。
【0022】
本発明による好ましい実施形態は、強磁性粉末組成物であって、見掛け密度3.2〜3.7g/mlを有する軟磁性鉄基コア粒子を含み、又コア粒子の表面が、リン系無機絶縁層と、少なくとも1層の金属−有機層であり、第1のリン系無機絶縁層の外側に位置している、下記の一般式:
[(R(R(MOn−1)]
(式中、Mは、Si、Ti、Al又はZrから選択される中心原子であり、
Oは酸素であり、
は、4個未満の炭素原子を有するアルコキシ基であり、
は有機部分であり、この場合少なくとも1つのRが、少なくとも1つのアミノ基を含有し、
式中nは、反復可能単位の数であり、1と20の間の整数であり、
式中xは、0と1の間の整数であり、
式中yは1と2の間の整数である。)を有する金属−有機化合物の金属−有機層とを備えている上記組成物に関する。
【0023】
他の実施形態において、3.5未満のモース硬度を有するさらなる金属又は半金属微粒子化合物が、少なくとも1層の金属−有機層に接着される。
【0024】
さらに他の実施形態において、本粉末組成物は、微粒子潤滑剤を含む。この潤滑剤は、リン系無機絶縁層及び少なくとも1層の金属−有機層を備えているコア粒子を含む組成物に添加することができ;又は所望によって、金属若しくは半金属微粒子化合物をも含んでいる組成物に添加することができる。
【0025】
本コア粒子は、3.2〜3.7g/mlの、好ましくは3.3〜3.7g/ml、好ましくは3.3〜3.6g/ml、より好ましくは3.3g/mlを超え3.6g/ml以下、好ましくは3.35及び3.6g/ml若しくは3.4及び3.6g/ml若しくは3.35及び3.55g/mlの間の、又は3.4及び3.55g/mlの間の範囲における、ISO−3923−1により測定した見掛け密度(AD)を有するものとする。
【0026】
本発明はさらに、強磁性粉末組成物の調製方法であって、3.2〜3.7g/mlの、又は、例えば、上述のより好ましい範囲の見掛け密度を有する軟磁性鉄基コア粒子にリン系無機絶縁層を被覆して、コア粒子の表面が電気絶縁性となるようにするステップを含む上記方法に関する。
【0027】
所望により、他の実施形態において、さらに、a)リン系無機絶縁層によって電気的に絶縁された前記軟磁性鉄基コア粒子を、上述の金属−有機化合物と混合するステップと、b)得られた粒子を、所望によりさらなる上述の金属−有機化合物と混合するステップとを含む。
【0028】
本発明による好ましい実施形態は、強磁性粉末組成物の調製方法であって、見掛け密度3.2〜3.7g/mlを有する軟磁性鉄基コア粒子にリン系無機絶縁層を被覆して、コア粒子の表面が電気絶縁性となるようにするステップ;並びに
a)リン系無機絶縁層によって絶縁された前記軟磁性鉄基コア粒子を金属−有機化合物と混合するステップであり、その際、下記の一般式:
[(R(R(MOn−1)]
(式中、Mは、Si、Ti、Al又はZrから選択される中心原子であり、
Oは酸素であり、
は、4個未満の炭素原子を有するアルコキシ基であり、
は有機部分であり、この場合少なくとも1つのRが、少なくとも1つのアミノ基を含有し、
式中nは、反復可能単位の数であり、1と20の間の整数であり、
式中xは、0と1の間の整数であり、
式中yは1と2の間の整数である。)を有する金属−有機化合物の少なくとも1層の金属−有機層が、第1のリン系無機絶縁層の外側に設けられる上記ステップ;及び
b)得られた粒子を、所望によりさらなるa)において開示した金属−有機化合物と混合するステップを含む上記方法に関する。
【0029】
他の実施形態において、この方法は、c)この粉末を、3.5未満のモース硬度を有する金属又は半金属微粒子化合物と混合するステップをさらに含む。ステップcは、所望により、ステップbの後に加えて、ステップbの前にも行うことができ、又はステップbの後の代わりに、ステップbの前に行うこともできる。
【0030】
さらに他の実施形態において、この方法は、d)この粉末を微粒子潤滑剤と混合するステップを含む。このステップは、本組成物中に金属又は半金属微粒子化合物が含まれない場合、ステップb)の直後に行うことができる。
【0031】
本発明はさらに、軟磁性複合材料の調製方法であって、本発明による組成物をダイ(金型)内で、少なくとも約600MPaの成形圧で単軸成形するステップと;所望により、このダイを、添加した微粒子潤滑剤の溶融温度未満の温度まで予熱するステップと;得られた未焼結成形体(green body)を抜き出すステップと;所望により、この未焼結成形体を熱処理するステップとを含む上記方法に関する。本発明による複合部品は、典型的には、0.01〜0.1重量%の間のPの含量、0.02〜0.12重量%の間の、ベース粉末に添加したSiの含量を有し、又、3.5未満のモース硬度を有する金属若しくは半金属微粒子化合物の形態でBiが添加される場合、Biの含量は、0.05〜0.35重量%の間になる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
ベース粉末
鉄基軟磁性コア粒子は、水アトマイズ(atomize)、ガスアトマイズ又はスポンジ鉄粉末とすることができるが、水アトマイズ粉末が好ましい。
【0033】
鉄基軟磁性コア粒子は、本質的に、純鉄;7重量%まで、好ましくは3重量%までのケイ素を有する合金鉄Fe−Si;Fe−Al、Fe−Si−Al、Fe−Ni、Fe−Ni−Coの群から選択される合金鉄、又はこれらの組合せからなる群から選択することができる。本質的に純鉄が好ましい、すなわち避けられない不純物を有する鉄である。
【0034】
ここに又、驚くべきことに、粗さがより少ない粒子表面を有するベース粉末が使用される場合、本発明による成形及び熱処理した部品の電気抵抗率のさらなる改善を得ることができる点が見出されている。このような適切な組織形態(morphology)は、例えば、鉄若しくは鉄基粉末について7%を超える若しくは10%を超える、又は12%を超える若しくは13%を超える見掛け密度の上昇、すなわち3.2〜3.7g/mlの、好ましくは3.3g/mlを超え3.6g/ml以下の、好ましくは3.4及び3.6g/mlの間の、又は3.35及び3.55g/mlの間の見掛け密度をもたらす見掛け密度の上昇によって明示される。所望の見掛け密度を有するこのような粉末は、ガス−アトマイズ方法又は水アトマイズ粉末から得ることができる。水アトマイズ粉末が使用される場合、それらの粉末は、粉砕、摩砕又は他の方法に供されることが好ましく、これにより水アトマイズ粉末の不規則形状の表面が物理的に変化する。これらの粉末の見掛け密度が、約25%を超えて、又は20%を超えてあまり増加し過ぎる場合、このことは、水アトマイズ鉄基粉末については約3.7又は3.6g/mlを超えることを意味するが、全コア損失が増加することになる。
【0035】
粉末粒子の形状が、例えば、抵抗率の結果に影響を及ぼすことも見出されている。不規則形状の粒子の使用は、これらの粒子がより凹凸が少なく、平滑な形状である場合よりも、低い見掛け密度及び低い抵抗率をもたらす。したがって、本発明により、粒子がノジュール状であること、すなわち、丸みを帯びた不規則形状の粒子であること、又は球状若しくはほとんど球状の粒子が好ましい。
【0036】
高い周波数で動作する部品については、高い抵抗率がより重要となるので、より微細な粒度(100及び200メッシュなど)を有する粉末が好ましく使用される場合、これらの粉末については「高AD」がより重要となる。しかし、より粗い粉末(40メッシュ)についても、抵抗率の改善が示される。通常低周波数の用途(<1kHz)に適するより粗い粉末が、本発明によれば、粉砕操作又は同様な操作により見掛け密度が増加することによって、著しく改善された電気抵抗率を得ることができる。したがって、磁束を帯びるためより大きな断面積を有するが、依然として低いコア損失を示す部品を、本発明により製造することができる。
【0037】
鉄基粉末を含有する本発明による組成物は、この鉄基粉末の見掛け密度に近い見掛け密度を有することを示す。
【0038】
第1のコーティング層(無機)
コア粒子は、第1の無機絶縁層を備えており、これはリン系であることが好ましい。この第1のコーティング層は、鉄基粉末を、水又は有機溶媒のいずれかに溶解したリン酸で処理することにより達成することができる。水性溶媒中に、防錆剤及び界面活性剤が所望により添加できる。鉄基粉末粒子の好ましいコーティング方法は、米国特許第6348265号中に記載されている。リン酸化処理は、反復することができる。鉄基コア粒子のリン系絶縁無機コーティングは、ドーパント、防錆剤又は界面活性剤などの添加を全く伴わないことが好ましい。
【0039】
層1としてのリン酸塩の含量は、本組成物の0.01及び0.15重量%の間とすることができる。
【0040】
金属−有機層(所望による第2のコーティング層)
所望により、第1のリン系層の外側に位置して、少なくとも1層の金属有機層が存在する。この金属−有機層は、一般式:
[(R(R(MOn−1)]
(式中、
Mは、Si、Ti、Al又はZrから選択される中心原子であり、
Oは酸素であり、
は、4個未満、好ましくは3個未満の炭素原子を有するアルコキシ基から選択される加水分解可能な基であり、
は有機部分であり、このことはR基が有機部分であって、少なくとも1つのRが少なくとも1つのアミノ基を含有することを意味し、
式中nは、反復可能単位の数であり、1と20の間の整数であり、
式中xは、0と1の間の整数であり、又式中yは1と2の間の整数である(したがって、xは0又は1とすることができ、yは1又は2とすることができる。))を有する、金属−有機化合物の層である。
【0041】
金属−有機化合物は、次の群:表面改質剤、カップリング剤又は架橋剤から選択できる。
【0042】
は、1〜6個、好ましくは1〜3個の炭素原子を含むことができる。Rは、N、O、S及びPからなる群から選択される1個又は複数のヘテロ原子をさらに含むことができる。R基は、直鎖、分岐、環状又は芳香族とすることができる。
【0043】
は、1個又は複数の次の官能基:アミン、ジアミン、アミド、イミド、エポキシ、ヒドロキシ、エチレンオキシド、ウレイド、ウレタン、イソシアナート、アクリレート、グリセリルアクリレート、ベンジル−アミノ、ビニル−ベンジル−アミノを含むことができる。
【0044】
金属−有機化合物は、シラン、シロキサン及びシルセスキオキサン(この場合、中心原子はSiからなる)又は対応するチタン酸塩、アルミン酸塩若しくはジルコン酸塩(この場合、中心原子は、それぞれTi、Al及びZrからなる)の誘導体、中間体若しくはオリゴマー、或いはこれらの混合物から選択できる。
【0045】
一実施形態によれば、1層の金属−有機層における少なくとも1種の金属−有機化合物は、モノマー(n=1)である。
【0046】
他の実施形態によれば、1層の金属−有機層における少なくとも1種の金属−有機化合物は、オリゴマー(n=2〜20)である。
【0047】
他の実施形態によれば、第1層の外側に位置した金属−有機層は、金属−有機化合物のモノマーの層であり、この場合最も外側の金属−有機層は、金属−有機化合物のオリゴマーの層である。モノマー及びオリゴマーの化学的官能性は必ずしも同じではない。金属−有機化合物のモノマーの層と金属−有機化合物のオリゴマーの層との重量比は、1:0と1:2の間、好ましくは2:1〜1:2の間とすることができる。
【0048】
金属−有機化合物がモノマーである場合、それはトリアルコキシ及びジアルコキシシラン、チタン酸塩、アルミン酸塩又はジルコン酸塩の群から選択できる。したがって、金属−有機化合物のモノマーは、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピル−メチル−ジエトキシシラン、N−アミノエチル−3−アミノプロピル−トリメトキシシラン、N−アミノエチル−3−アミノプロピル−メチル−ジメトキシシラン、1,7−ビス(トリエトキシシリル)−4−アザヘプタン、トリアミノ−官能性プロピル−トリメトキシシラン、3−ウレイドプロピル−トリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピル−トリエトキシシラン、トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)−イソシアヌレート、0−(プロパルギルオキシ)−N−(トリエトキシシリルプロピル)−ウレタン、1−アミノエチル−メチル−ジメトキシシラン、又はこれらの混合物から選択できる。
【0049】
金属−有機化合物のオリゴマーは、シラン、チタン酸塩、アルミン酸塩又はジルコン酸塩のアルコキシ末端アルキル−アルコキシ−オリゴマーから選択できる。したがって、金属−有機化合物のオリゴマーは、メトキシ、エトキシ若しくはアセトキシ末端アミノ−シルセスキオキサン、アミノ−シロキサン、オリゴマー性3−アミノプロピル−メトキシ−シラン、3−アミノプロピル/プロピル−アルコキシ−シラン、N−アミノエチル−3−アミノプロピル−アルコキシ−シラン若しくはN−アミノエチル−3−アミノプロピル/メチル−アルコキシ−シラン又はこれらの混合物から選択できる。
【0050】
金属−有機化合物の合計量は、本組成物の0.05〜0.8重量%、又は0.05〜0.6重量%、又は0.1〜0.5重量%、又は0.2〜0.4重量%、又は0.3〜0.5重量%とすることができる。これらの種類の金属−有機化合物は、Evonik Ind.、Wacker Chemie AG、Dow Corning、Mitsubishi Int.Corp.、Famas Technology Sarlなどの会社から商業的に得ることができる。
【0051】
金属又は半金属微粒子化合物
被覆した軟磁性鉄基粉末は、使用される場合、少なくとも1種の微粒子化合物、すなわち金属又は半金属化合物をさらに含有すべきである。金属又は半金属微粒子化合物はモース硬度3.5未満を有して軟らかく、微粒子又はコロイドで構成されるべきである。化合物は、5μm未満、好ましくは3μm未満、又最も好ましくは1μm未満の平均粒径を有することが好ましいであろう。金属又は半金属微粒子化合物のモース硬度は、3以下、より好ましくは2.5以下であることが好ましい。SiO、Al、MgO及びTiOは研磨剤であり、十分3.5を超えるモース硬度を有し、本発明の範囲内ではない。研磨剤化合物は、ナノサイズ粒子としても、電気絶縁性コーティングへの不可逆性損傷の原因となり抜出し性が悪くなり、又熱処理部品の磁気的及び/又は機械的特性がより悪くなる。
【0052】
金属又は半金属微粒子化合物は、鉛系、インジウム系、ビスマス系、セレン系、ホウ素系、モリブデン系、マンガン系、タングステン系、バナジウム系、アンチモン系、スズ系、亜鉛系、セリウム系化合物の群から選択される少なくとも1種とすることができる。
【0053】
金属若しくは半金属微粒子化合物は、酸化物、水酸化物、水和物、炭酸塩、リン酸塩、フルオライト、硫化物、硫酸塩、亜硫酸塩、オキシ塩化物、又はこれらの混合物とすることができる。好ましい実施形態により、金属若しくは半金属微粒子化合物はビスマス、又はより好ましくは酸化ビスマス(III)である。
【0054】
金属又は半金属微粒子化合物は、アルカリ又はアルカリ土類金属から選択した第2の化合物と混合でき、この場合、この化合物は炭酸塩、好ましくはカルシウム、ストロンチウム、バリウム、リチウム、カリウム又はナトリウムの炭酸塩とすることができる。
【0055】
金属又は半金属微粒子化合物又は化合物混合物は、本組成物の0.05〜0.8重量%、又は0.05〜0.6重量%、又は0.1〜0.5重量%、又は0.15〜0.4重量%の量で存在できる。
【0056】
金属又は半金属微粒子化合物は、少なくとも1層の金属−有機層に接着される。本発明の一実施形態において、金属又は半金属微粒子化合物は、最も外側の金属−有機層に接着される。
【0057】
潤滑剤
本発明による粉末組成物は、所望により微粒子潤滑剤を含むことができる。微粒子潤滑剤は、重要な役割を果たし、ダイ壁の潤滑を施す必要がなく成形を可能にする。微粒子潤滑剤は、第一級及び第二級脂肪酸アミド、トランス−アミド(ビスアミド)又は脂肪酸アルコールからなる群から選択できる。微粒子潤滑剤の潤滑部分は、12〜22個の間の炭素原子を含有する飽和又は不飽和鎖とすることができる。微粒子潤滑剤は、ステアルアミド、エルカアミド、ステアリル−エルカアミド、エルシル−ステアルアミド、ベヘニルアルコール、エルシルアルコール、エチレン−ビスステアルミド(すなわちEBS又はアミドワックス)から選択できることが好ましい。微粒子潤滑剤は、該組成物の0.1〜0.6重量%、又は0.2〜0.4重量%、又は0.3〜0.5重量%、又は0.2〜0.6重量%の量で存在できる。
【0058】
組成物の調製方法
本発明による強磁性粉末組成物の調製方法は:見掛け密度3.2〜3.7g/mlを得るように製造及び処理した軟磁性鉄基コア粒子を、リン系無機化合物で被覆して、リン系無機絶縁層を得て、コア粒子の表面が電気絶縁性になるようにするステップを含む。
【0059】
これらのコア粒子は、a)上記において開示した金属−有機化合物と混合され、また、b)得られた粒子は、所望により、上記において開示したさらなる金属−有機化合物と混合される。
【0060】
又、この方法の他の所望によるステップとして、c)この粉末を、3.5未満のモース硬度を有する金属又は半金属微粒子化合物と混合するステップも存在する。ステップcは、所望により、ステップbの後に加えて、ステップbの前にも行うことができ、又はステップbの後の代わりに、ステップbの前に行うこともできる。ステップcは、ステップaとbの間に行うことが好ましい。
【0061】
この方法のさらなる所望によるステップは、d)この粉末を、微粒子潤滑剤と混合するステップである。
【0062】
第1の無機絶縁層を備えたコア粒子は、それが金属−有機化合物と混合される前にアルカリ性化合物で前処理することができる。前処理は、第1の層と第2の層の間のカップリングのための前提条件を改善することができ、これにより磁性複合部品の電気抵抗率及び機械的強度の両方を向上させ得る。アルカリ性化合物は、アンモニア、ヒドロキシルアミン、水酸化テトラアルキルアンモニウム、アルキル−アミン、アルキル−アミドから選択できる。この前処理は、上掲の薬品のいずれを使用しても実施でき、これらは好ましくは適切な溶媒中に希釈され、粉末と混合され、且つ所望によって乾燥される。
【0063】
軟磁性部品の製造方法
本発明による軟磁性複合材料の調製方法は、本発明による組成物をダイ内で、少なくとも約600MPaの成形圧で単軸成形するステップと;所望によりダイを、添加した微粒子潤滑剤の溶融温度未満の温度まで予熱するステップと;所望により、成形前に粉末を25〜100℃の間まで予熱するステップと;得られた未焼結成形体を抜き出すステップと;所望によりこの未焼結成形体を熱処理するステップと、を含む。
【0064】
熱処理方法は、真空、非還元性、不活性、N/H又は弱酸化性、例えば酸素0.01〜3%雰囲気中とすることができる。所望により、この熱処理は、不活性雰囲気中で行われ、その後速やかに、水蒸気などの酸化性雰囲気中に曝して、より高強度の表面外皮又は層を造る。温度は、750℃までとしてよい。
【0065】
熱処理条件は、できる限り完全に潤滑剤を蒸発させるものとする。この蒸発は、通常、約150〜500℃を超える、好ましくは約250〜500℃を超える熱処理サイクルの最初の部分の間に得られる。より高温で、金属又は半金属微粒子化合物が金属−有機化合物と反応し、一部網目構造を形成することができる。これは、部品の機械的強度並びに電気抵抗率をさらに増加させることになる。最高温度(550〜750℃、又は600〜750℃、又は630〜700℃、又は630〜670℃)で、成形体は完全な応力解放を達成することができ、この点で複合材料の保磁力、したがってヒステリシス損失が最小となる。
【0066】
本発明により調製し、成形及び熱処理した軟磁性複合材料は、部品の0.01〜0.15重量%の間のPの含量、部品の0.02〜0.12重量%の間の、ベース粉末に添加したSiの含量を有することが好ましく、又、3.5未満のモース硬度を有する金属若しくは半金属微粒子化合物の形態でBiが添加される場合、Biの含量は、部品の0.05〜0.35重量%の間になる。
【実施例】
【0067】
本発明はさらに、下記の実施例によって例示される。例1〜4は、本発明の特定の見掛け密度を有しない軟磁性粉末組成物の集合体(build up)について開示し、又下記の例5〜7について、本発明による手順を例示する。
【0068】
(例1)
例1は、見掛け密度3.0g/mlを有する40メッシュ鉄粉末から製造し、成形及び熱処理した部品の磁気的、電気的及び機械的特性に及ぼす、種々のコーティング層からの影響、並びに金属又は半金属微粒子化合物添加からの影響について例示する。
【0069】
鉄基水アトマイズ粉末は、平均粒径約220μmを有し、且つ45μm未満の粒径を有する粒子が5%未満である(40メッシュ粉末)。この粉末は、純鉄粉末であり、最初に、電気絶縁性リン系薄層が設けられた(リン含量は、被覆した粉末の重量当り約0.045%である)。その後、この粉末を撹拌により、0.2重量%のアミノアルキル−アルコキシシランのオリゴマー(Dynasylan(いずれかの国における登録商標)1146、Evonik Ind.)と混合した。この組成物をさらに、0.2重量%の、酸化ビスマス(III)の微粉末と混合した。それぞれ、シラン及びビスマスを使用した表面改質を行わない対応する粉末を、比較用に使用した(A3、A4、A5)。これらの粉末は、最後に、成形する前に微粒子潤滑剤EBSと混合した。使用した潤滑剤の量は、組成物の0.3重量%であった。
【0070】
内側直径45mm及び外側直径55mm及び高さ5mmを有する磁性トロイドを、それぞれ800及び1100MPaの異なる成形圧で、ダイ温度60℃で、単一ステップにおいて単軸成形した。成形後、これらの部品を、窒素中において650℃で30分間熱処理した。対照材料A6及びA8は、空気中において530℃で30分間処理し、また対照材料A7は、水蒸気中において530℃で30分間処理した。得られた熱処理したトロイドに、100センス(sense)ターン及び100ドライブ(drive)ターンで巻き付けた。磁気的測定は、Brockhausヒステリシスグラフを使用して、100ドライブターン及び100センスターンを有するトロイド試料について測定した。全コア損失は、それぞれ、1テスラ、400Hz及び1000Hzで測定した。ISO3995により横破断強度(Transverse Rupture Strength、TRS)を測定した。リング試料について、4点測定法により固有電気抵抗率を測定した。
【0071】
下記の表1は、得られた結果を示す:
【表1】

【0072】
磁気的及び機械的特性は、1層又はそれ以上のコーティング層が除かれると悪影響を受ける。リン酸塩系層を省くと、より低い電気抵抗率、したがってより高いコア損失(渦電流損失)を生じる(A3)。金属−有機化合物を省くと、より低い電気抵抗率又はより低い機械的強度のいずれかを生じる(A4、A5)。
【0073】
Hoganas AB(スウェーデン)から得られるSomaloy(いずれかの国における登録商標)700又はSomaloy(いずれかの国における登録商標)3Pなどの既存の商業的対照材料(A6〜A8)と比較すると、複合材料A1及びA2は、より高温で熱処理することができ、それによりヒステリシス損失(DC−損失/サイクル)をかなり減少させる。
【0074】
(例2)
例2は、見掛け密度約3.0g/mlを有する40メッシュ鉄粉末から製造し、成形及び熱処理した部品の磁気的、電気的及び機械的特性に及ぼす、種々の量の二重金属−有機コーティング層からの影響、並びに種々の添加量の金属又は半金属微粒子化合物からの影響について例示する。
【0075】
同一のリン系絶縁層を有する、例1と同一のベース粉末を使用した。この粉末を撹拌により、異なる量の、最初に塩基性アミノアルキル−アルコキシシラン(Dynasylan(いずれかの国における登録商標)Ameo)と、その後アミノアルキル/アルキル−アルコキシシランのオリゴマー(Dynasylan(いずれかの国における登録商標)1146)と1:1の関係を用いて混合した。両方とも、Evonik Ind.により製造されたものである。この組成物をさらに、種々の量の、酸化ビスマス(III)の微粉末(>99重量%;D50〜0.3μm)と混合した。試料C6は、より低純度及びより大粒径のBi(>98重量%;D50〜5μm)と混合している。1100MPaで成形する前に、これらの粉末を、最後に、種々の量の、アミドワックス(EBS)と混合した。これらの粉末組成物はさらに、例1において記述したように処理した。これらの結果を、表2に掲げ、磁気的特性及び機械的強度(TRS)への効果を示した。
【表2】

【0076】
試料C1〜C5は、種々の量の金属−有機化合物、酸化ビスマス又は潤滑剤を使用した効果を例示している。試料C5と比較して、試料C6において電気抵抗率はより低く、しかしTRSは幾分向上している。
【0077】
(例3)
例3は、見掛け密度約3.0g/mlを有する40メッシュ鉄粉末から製造し、成形及び熱処理した部品の磁気的、電気的及び機械的特性に及ぼす、種々の量及び型の二重金属−有機コーティング層からの影響、並びに種々の添加量の金属又は半金属微粒子化合物からの影響について例示する。
【0078】
試料D10(P0.06重量%)及びD11(P0.015重量%)を除いて同一のリン系絶縁層を有する、例1と同一のベース粉末を使用した。粉末試料D1〜D11は、表3に従いさらに処理したものである。全試料は、最後にEBS0.3重量%と混合し、800MPaで成形した。その後軟磁性部品は、窒素中において650℃で30分間熱処理した。
【0079】
試料D1〜D3は、第1又は第2の金属−有機層(2:1又は2:2)のいずれかを省略できることを例示しているが、最良の結果は両層を組み合せることにより得られることになる。試料D4及びD5は、希釈アンモニアを使用し、続いて空気中で120℃、1時間乾燥した前処理粉末を例示する。この前処理粉末は、アミノ官能性オリゴマー質シランとさらに混合して、許容できる特性を示した。
【0080】
試料D10及びD11は、層1のリン含量の効果を例示する。粒度分布及び粒子の組織形態などのベース粉末の特性に応じて、最適なリン濃度(0.01及び0.15重量%の間)が存在する。表3は、得られた結果を示す。
【表3】

【0081】
(例4)
例4は、見掛け密度約3.0g/mlを有する40メッシュ鉄粉末から製造し、成形及び熱処理した部品の磁気的、電気的及び機械的特性に及ぼす、種々の量及び型の、金属又は半金属微粒子化合物からの影響について例示する。
【0082】
同一のリン系絶縁層を有する、例1と同一のベース粉末を使用した。全ての3点の試料は、金属又は半金属微粒子化合物の添加が異なっている点を除いて、試料D1と同様に処理した。試料E1は、酸化ビスマス(III)に微量の炭酸カルシウムを添加すると、電気抵抗率が向上することを例証している。試料E2は、他の軟金属化合物MoSの効果を実証している。表4は、得られた結果を示す。
【表4】

【0083】
モース硬度3.5未満の研磨剤及び硬質化合物の添加とは異なり、モース硬度3.5を十分に超える研磨剤及び硬質化合物例えばコランダム(Al)又は石英(SiO)などを添加すると(E3)、ナノサイズ粒子であっても、軟磁性特性及び機械的特性が悪影響を受ける。
【0084】
(例5)
例5は、指定の見掛け密度(AD)の範囲内及び範囲外の、種々の見掛け密度を有する40メッシュ鉄粉末を使用して、本発明の他の特徴と組み合せた場合の、成形及び熱処理した部品の電気的及び磁気的性状への影響を示す。使用した出発粉末は、見掛け密度約3.0g/mlを有していた。
【0085】
鉄基水アトマイズ粉末は、平均粒径約220μmを有し、45μm未満粒径を有する粒子が5%未満である(40メッシュ粉末)。純鉄粉末であるこの粉末を粉砕した。それぞれE1,E2及びE3で示される3種の異なった見掛け密度、すなわち3.04、3.32及び3.50g/mlが開示されている。これらの3種の試料は、さらに電気絶縁性リン系薄層を備えていた(リン含量は、被覆した粉末の重量当り約0.045%であった)。その後、これらの試料を撹拌により、0.3重量%の塩基性アミノアルキル−アルコキシシラン(Dynasylan(いずれかの国における登録商標)Ameo)と混合し、また第2にアミノアルキル−アルコキシシランのオリゴマー(Dynasylan(いずれかの国における登録商標)1146)と混合した。両者は、1:1の関係で使用され、いずれもEvonik Ind.製である。これらの組成物は、さらに、0.2重量%の酸化ビスマス(III)の微粉末(>98重量%;D50〜5μm)と混合した。これらの組成物はさらに、アミドワックス(EBS)(0.3重量%を使用)と混合し、1100MPa、ダイ温度60℃を使用して、例1で記述した通り加工した。熱処理は、窒素中において650℃で30分間行った。例1に従い、試験を行った。表5は、得られた結果を示す。
【表5】

【0086】
表5において観察されるように、ベース粉末のADを増加させると、抵抗率及びコア損失を劇的に改善することができる。より高いADについて成形部品の電気抵抗率が向上し、このことがより高い動作周波数(2kHz)における、且つ/又はより大きい断面積の部品(20×20mm)について、コア損失の改善をもたらす。
【0087】
(例6)
例6は、指定の見掛け密度の範囲内及び範囲外の、種々の見掛け密度を有する100メッシュ鉄粉を使用して、本発明の他の特徴と組み合せた場合の、成形及び熱処理した部品の電気的及び磁気的性状への影響を示す。使用した出発粉末は、見掛け密度約3.0g/mlを有していた。
【0088】
平均粒径約95μmを有し、45μm未満10〜30%の鉄基水アトマイズ粉末(100メッシュ粉末)を、機械的に粉砕した。2.96〜3.57g/mlの4種の異なった見掛け密度を提供する。これらの鉄粒子を、粉砕後、リン酸塩系電気絶縁性コーティング(被覆した粉末のリン0.060重量%)によって取り囲んだ。被覆された粉末は、撹拌により、0.2重量%のアミノアルキル−トリアルコキシシラン(Dynasylan(いずれかの国における登録商標)Ameo)と混合し、その後0.15重量%のアミノアルキル/アルキル−アルコキシシランのオリゴマー(Dynasylan(いずれかの国における登録商標)1146)とさらに混合した。両者ともEvonik Ind.製である。組成物をさらに、0.2重量%の酸化ビスマス(III)の微粉末と混合した。これらの粉末は最後に、成形前に、微粒子潤滑剤EBSと混合した。使用した潤滑剤の量は、組成物の0.3重量%であった。粉末組成物はさらに、1100MPa及びダイ温度100℃だけを使用する点を除いて、例1で記述した通り加工した。熱処理は、窒素中において665℃で35分間行った。例1に従い、試験を行った。表6は、得られた結果を示す。
【表6】

【0089】
ベース粉末の見掛け密度を少なくとも約3.3g/mlを超えるまで増加させると、100メッシュ粉末の抵抗率及びコア損失磁気特性を著しく改善することができる。より高い動作周波数(>1kHz)におけるコア損失は、電気抵抗率の改善のおかげで、かなり低下する。
【0090】
(例7)
例7は、指定の見掛け密度の範囲内及び範囲外の、種々の見掛け密度を有する200メッシュ鉄粉末を使用して、本発明の他の特徴と組み合せた場合の、成形及び熱処理した部品の電気的及び磁気的性状への影響を示す。使用した出発粉末は、見掛け密度約3.0g/mlを有していた。
【0091】
平均粒径約40μmを有し、45μm未満60%の鉄基水アトマイズ粉末(200メッシュ粉末)を、機械的に粉砕し、こうして2種の異なった見掛け密度を提供する。これらの鉄粒子を、その後、リン酸塩系電気絶縁性コーティング(被覆した粉末のリン0.075重量%)によって取り囲んだ。被覆された粉末は、撹拌により、0.25重量%のアミノアルキル−トリアルコキシシラン(Dynasylan(いずれかの国における登録商標)Ameo)と混合し、その後0.15重量%のアミノアルキル/アルキル−アルコキシシランのオリゴマー(Dynasylan(いずれかの国における登録商標)1146)とさらに混合した。両者とも、Evonik Ind.製である。組成物をさらに、0.3重量%の、酸化ビスマス(III)の微粉末と混合した。これらの粉末は最後に、成形前に、微粒子潤滑剤EBSと混合した。使用した潤滑剤の量は、組成物の0.3重量%であった。
【0092】
粉末組成物はさらに、1100MPa及びダイ温度100℃だけを使用する点を除いて、例1で記述した通り加工した。熱処理は、窒素中において665℃で35分間行った。例1に従い、試験を行った。表7は、得られた結果を示す。
【表7】

【0093】
ベース粉末の見掛け密度を少なくとも約3.4g/mlを超えるまで増加させると、200メッシュ粉末の抵抗率及びコア損失を著しく改善することができる。より高い動作周波数(>1kHz)におけるコア損失は、電気抵抗率の改善のおかげで、かなり低下する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性粉末組成物であって、見掛け密度3.2〜3.7g/mlを有する軟磁性鉄基コア粒子を含み、かつ、該コア粒子の表面に、リン系無機絶縁層、及び少なくとも1層の金属−有機層であって、該第1のリン系無機絶縁層の外側に位置している、下記の一般式:
[(R(R(MOn−1)]
(式中、Mは、Si、Ti、Al又はZrから選択される中心原子であり、
Oは酸素であり、
は、4個未満の炭素原子を有するアルコキシ基であり、
は有機部分であり、この場合少なくとも1つのRが、少なくとも1つのアミノ基を含有し、
式中nは、反復可能単位の数であり、1と20の間の整数であり、
式中xは、0と1の間の整数であり、
式中yは1と2の間の整数である。)を有する金属−有機化合物の金属−有機層、
を備えている上記組成物。
【請求項2】
前記コア粒子が、3.3〜3.7g/ml、好ましくは3.3〜3.6g/ml、好ましくは3.35〜3.6g/ml、例えば、3.4〜3.6g/ml、3.35〜3.55g/ml又は3.4〜3.55g/mlの見掛け密度を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
が、3個未満の炭素原子を有するアルコキシ基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
3.5未満のモース硬度を有する金属又は半金属微粒子化合物が、前記少なくとも1層の金属−有機層に付着している、請求項1から3までのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記粉末組成物が、微粒子潤滑剤をさらに含む、請求項1から4までのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
1層の金属−有機層中の前記金属−有機化合物が、モノマー(n=1)である、請求項1から3までのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
1層の金属−有機層中の前記金属−有機化合物が、オリゴマー(n=2〜20)である、請求項1から3までのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
が、1〜6個の、好ましくは1〜3個の炭素原子を含む、請求項1から3及び6から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記金属−有機化合物の前記R基が、N、O、S及びPからなる群から選択される1個又はそれ以上のヘテロ原子を含む、請求項1から3及び6から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
が、1つ又はそれ以上の次の官能基:アミン、ジアミン、アミド、イミド、エポキシ、メルカプト、ジスルフィド、クロロアルキル、ヒドロキシ、エチレンオキシド、ウレイド、ウレタン、イソシアナート、アクリレート、グリセリルアクリレートを含む、請求項1から3及び6から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記金属−有機化合物が、トリアルコキシ及びジアルコキシシラン、チタン酸塩、アルミン酸塩又はジルコン酸塩から選択されるモノマーである、請求項1から3及び6から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記金属−有機化合物が、シラン、チタン酸塩、アルミン酸塩又はジルコン酸塩のアルコキシ末端アルキル/アルコキシオリゴマーから選択されるオリゴマーである、請求項1から3及び6から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記金属−有機化合物のオリゴマーが、アルコキシ末端アミノ−シルセスキオキサン、アミノ−シロキサン、オリゴマー性3−アミノプロピル−アルコキシ−シラン、3−アミノプロピル/プロピル−アルコキシ−シラン、N−アミノエチル−3−アミノプロピル−アルコキシ−シラン若しくはN−アミノエチル−3−アミノプロピル/メチル−アルコキシ−シラン、又はこれらの混合物から選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項14】
前記金属又は半金属微粒子化合物がビスマス、又は好ましくは酸化ビスマス(III)である、請求項4に記載の組成物。
【請求項15】
前記ベース粉末の見掛け密度が、不規則形状の表面を物理的に変化させる粉砕、摩砕又は他の方法によって、少なくとも7〜25%の間で増加されている、請求項1から14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
強磁性粉末組成物の調製方法であって、見掛け密度3.2〜3.7g/mlを有する軟磁性鉄基コア粒子にリン系無機絶縁層を被覆して、該コア粒子の表面が電気絶縁性となるようにするステップ;並びに
a)リン系無機絶縁層によって絶縁されている前記軟磁性鉄基コア粒子を、請求項1から3及び6から10のいずれか一項に記載の金属−有機化合物と混合するステップ;
b)所望により、該得られた粒子を、さらなる、請求項1から3及び6から10のいずれか一項に記載の金属−有機化合物と混合するステップ、
を含む上記方法。
【請求項17】
c)前記粉末を、3.5未満のモース硬度を有する金属又は半金属微粒子化合物と混合するステップ
をさらに含み、
ステップcを、所望により、ステップbの後に加えてステップbの前にも行うことができ、又はステップbの後の代わりに、ステップbの前に行うことができる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
d)前記粉末を微粒子潤滑剤と混合するステップ
をさらに含む、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
請求項16から18までにより得ることができる強磁性粉末組成物。
【請求項20】
軟磁性複合材料の調製方法であって、
a)請求項1から14までのいずれか一項に記載の組成物を、ダイ内で、少なくとも約600MPaの成形圧で単軸成形するステップ;
b)所望により、該ダイを、該添加された微粒子潤滑剤の溶融温度未満の温度まで予熱するステップ;
c)得られた未焼結成形体を抜き出すステップ;及び
d)該未焼結成形体を、真空、非還元性、不活性、N/H又は弱酸化性雰囲気において550〜750℃の間の温度で熱処理するステップ、
を含む上記方法。
【請求項21】
請求項20により調製した、成形及び熱処理した軟磁性複合材料であって、部品の0.01〜0.1重量%の間のPの含量、部品の0.02〜0.12重量%の間の、ベース粉末への添加したSiの含量、及び部品の0.05〜0.35重量%の間のBiの含量を有する上記複合材料。

【公表番号】特表2013−505563(P2013−505563A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529235(P2012−529235)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/063448
【国際公開番号】WO2011/032931
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(595054486)ホガナス アクチボラゲット (66)
【Fターム(参考)】