説明

強磁性金属粒子粉末及びその製造法、並びに磁気記録媒体

【課題】 本発明は、流動性を損なうことなく分散性が改良された強磁性金属粒子粉末及びその製造法並びに該強磁性金属粒子粉末を用いた良好な表面平滑性を有する磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】 ゲータイト粒子粉末を含む含液物を凍結させ、次いで、真空乾燥を行った後、加熱処理を行ってヘマタイト粒子粉末を得、該ヘマタイト粒子粉末を300〜600℃で加熱還元することで、かさが高く粒子同士が強固に凝結していないことによって、わずかな分散力で粒子がほぐれやすい共に、磁性塗料作製時の混練においてトルクがかかりやいすため磁気記録層中への充填率が高く、しかも高い表面平滑性が得られる強磁性金属粒子粉末を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性を損なうことなく分散性が改良された強磁性金属粒子粉末及びその製造法並びに該強磁性金属粒子粉末を用いた良好な表面平滑性を有する磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録技術は、従来、オーディオ用、ビデオ用、コンピューター用等をはじめとしてさまざまな分野で幅広く用いられている。近年、機器の小型軽量化、記録の長時間化及び記録容量の増大等が求められており、記録媒体に対しては、記録密度のより一層の向上が望まれている。
【0003】
従来の磁気記録媒体に対してより高密度記録を行うためには、高いC/N比が必要であり、ノイズ(N)が低く、再生出力(C)が高いことが求められている。近年では、これまで用いられていた誘導型磁気ヘッドに替わり、磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)や巨大磁気抵抗型ヘッド(GMRヘッド)等の高感度ヘッドが開発されており、これらは誘導型磁気ヘッドに比べて再生出力が得られやすいことから、高いC/N比を得るためには、出力を上げるよりもノイズを低減する方が重要となってきている。
【0004】
磁気記録媒体のノイズは粒子性ノイズと磁気記録媒体の表面性に起因して発生する表面性ノイズに大別される。粒子性ノイズの場合、粒子サイズの影響が大きく、微粒子であるほどノイズ低減に有利であることから、磁気記録媒体に用いる磁性粒子粉末の粒子サイズはできるだけ小さいことが必要となる。
【0005】
一方、表面性ノイズの場合、磁気記録媒体の表面平滑性を改良することが重要であり、磁性粒子粉末の磁性塗料中での分散性や磁気記録層中での配向性及び充填性の向上が必要不可欠である。
【0006】
一般に、粉体は微細化するほどハンドリングが難しくなるため、流動性等の特性を改善する必要がある。Hausner比(タップ密度/かさ密度)は粉体の流動性の指標として知られており、この値が1に近いほど、即ちタップ密度とかさ密度の値が近いほど、粉体の流動性は良いとされている。
【0007】
そこで、従来技術では、磁気記録層中への充填率が高く流動性に優れた磁性粒子粉末を設計するために、圧粉処理を行うなどしてタップ密度とかさ密度の両方を高くすることが行われている。
【0008】
磁性粒子粉末の流動性改善を目的として、磁性粒子粉末のタップ密度及び圧縮度を特定の範囲に限定した磁性粒子粉末(特許文献1及び特許文献2)が提案されている。
【0009】
また、磁性粒子粉末の分散性改善を目的として、磁性粒子粉末のかさ密度/真密度の値を特定の範囲に限定した磁性粒子粉末(特許文献3)が提案されている。
【0010】
また、磁性粒子粉末の充填性改善を目的として、磁性粒子粉末のタップ密度を特定の範囲に限定した磁性粒子粉末(特許文献4乃び特許文献5)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−53903号公報
【特許文献2】特開平3−276423号公報
【特許文献3】特開昭62−95729号公報
【特許文献4】特開2007−81227号公報
【特許文献5】特開2004−335744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
カレンダー処理による表面平滑効果が高く、磁気記録層への充填性に優れ、且つ、流動性を損なうことなく分散性が改良された強磁性金属粒子粉末及びその製造法は、現在、最も要求されているところであるが、未だ得られていない。
【0013】
即ち、前出特許文献1及び特許文献2では、強磁性粒子粉末のかさ密度、タップ密度及び圧縮度を特定の範囲に限定しているが、いずれも強磁性粒子粉末の流動性改善を目的としており、強磁性粒子粉末のかさ密度が0.35g/cm以上と高いため磁性塗料作製時の混練においてトルクがかかり難く分散性が悪いため、表面平滑に優れた磁気記録媒体を得ることは困難である。
【0014】
また、前出特許文献3では、強磁性金属微粉末のかさ密度/真密度の値を0.07〜0.16の範囲に限定しているが、かさ密度/真密度の値を前記範囲に調整するために圧密処理を施しているため、強磁性金属微粉末のかさ密度が高くなり、磁性塗料作製時の混練においてトルクがかかり難く分散性が悪いため、表面平滑に優れた磁気記録媒体を得ることは困難である。
【0015】
また、前出特許文献4及び特許文献5では、強磁性粒子粉末のタップ密度を特定の範囲に限定しているが、タップ密度が実施例において0.41g/cm以上と高く、また、かさ密度については考慮されていない。
【0016】
そこで、本発明は、カレンダー処理による表面平滑効果が高く、磁気記録層への充填性に優れ、且つ、流動性を損なうことなく分散性が改良された強磁性金属粒子粉末及びその製造法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、かさ密度が0.25g/cm以下である強磁性金属粒子粉末は、かさが高く粒子同士が強固に凝結していないため磁性塗料作製時の混練においてトルクがかかりやすいので、分散性に優れると共に、磁気記録層中への充填率が高く、表面性に優れた磁気記録媒体を得ることができること、また、分散圧3barにおける体積基準平均径(D503barと分散圧5barにおける体積基準平均径(D505barとの比が1に近い値を有する強磁性金属粒子粉末は、わずかな分散力で粒子がほぐれやすいため分散性に優れること、併せて、タップ密度を0.39g/cm以下と従来の強磁性金属粒子粉末に比べて低く設計することによって、流動性を低下させることなく分散性を改善することができることを見いだし、本発明をなすに至った。
【0018】
即ち、本発明は、かさ密度(ρa)が0.25g/cm以下であることを特徴とする強磁性金属粒子粉末である(本発明1)。
【0019】
また、本発明は、タップ密度が0.39g/cm以下であることを特徴とする本発明1の強磁性金属粒子粉末である(本発明2)。
【0020】
また、本発明は、分散圧3barにおける体積基準平均径(D503barと分散圧5barにおける体積基準平均径(D505barとの比が1.2以下であることを特徴とする本発明1又は本発明2の強磁性金属粒子粉末である(本発明3)。
【0021】
また、本発明は、ゲータイト粒子を含む固形分濃度50重量%以下の含液物を真空凍結乾燥した後に、該乾燥物を加熱脱水してヘマタイト粒子とし、該ヘマタイト粒子粉末を加熱還元して金属磁性粒子とすることを特徴とする本発明1乃至3のいずれかに記載の強磁性金属粒子粉末の製造法である(本発明4)。
【0022】
また、本発明は、非磁性支持体、該非磁性支持体上に形成される非磁性粒子粉末と結合剤樹脂とを含む非磁性下地層及び該非磁性下地層の上に形成される磁性粒子粉末と結合剤樹脂とを含む磁気記録層からなる磁気記録媒体において、前記磁性粒子粉末が本発明1乃至3のいずれかに記載された強磁性金属粒子粉末であることを特徴とする磁気記録媒体である(本発明5)。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末は、わずかな分散力で粒子がほぐれやすいため分散性に優れると共に、磁性塗料作製時の混練においてトルクがかかりやすいため磁気記録層中への充填率が高いので、高密度磁気記録媒体用強磁性金属粒子粉末として好適である。
【0024】
また、本発明に係る磁気記録媒体は、磁性粒子粉末として前述の本発明の強磁性金属粒子粉末を用いることにより、カレンダー処理による高い表面平滑効果が得られると共に、磁気記録層中への強磁性金属粒子粉末の高充填が期待できるので、記録密度が向上した高密度磁気記録媒体として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0026】
まず、本発明に係る強磁性金属粒子粉末について述べる。
【0027】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末の平均一次長軸径は5〜250nmが好ましい。平均一次長軸径が5nm未満の場合には、酸化安定性が急激に低下し、同時に高い保磁力と良好な保磁力分布SFD(Switching Field Distribution)が得られ難くなる。250nmを超える場合には、粒子サイズが大きいため、これを用いて得られた磁気記録媒体の表面平滑性が低下し、それに起因して出力も向上し難くなる。
【0028】
殊に、近年の高密度記録化を考慮すれば、強磁性金属粒子粉末の平均一次長軸径は5〜100nmが好ましく、より好ましくは5〜90nmであり、更により好ましくは5〜80nmである。この場合、100nmを超える場合には、短波長領域における飽和磁化や保磁力が低下すると共に粒子性ノイズが増大する傾向にあるため好ましくない。
【0029】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末の形状は針状であって、軸比(平均一次長軸径と平均一次短軸径の比)(以下、「軸比」という。)は2.0以上が好ましく、より好ましくは2.5〜8.0である。軸比が2.0未満の場合には目的とする高い保磁力を得ることが困難となる。ここで針状とは、文字通りの針状粒子はもちろん、紡錘状、米粒状も含まれる。
【0030】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末のBET比表面積値は35〜200m/gが好ましく、より好ましくは40〜180m/g、更により好ましくは50〜150m/gである。BET比表面積値が35m/g未満の場合には、強磁性金属粒子粉末の製造工程において粒子間に焼結が生じている可能性があり、これを用いて得られた磁気記録媒体の表面平滑性が低下するため、それに起因して出力も向上し難くなる。BET比表面積値が200m/gを超える場合には、強磁性金属粒子粉末の表面積が大きくなりすぎて磁性塗料中のバインダーにぬれ難くなるため磁性塗料の粘度が高くなり、分散できずに凝集するため好ましくない。
【0031】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末のかさ密度(ρa)は0.25g/cm以下であり、好ましくは0.24g/cm以下、より好ましくは0.23g/cm以下である。かさ密度(ρa)が0.25g/cmを超える場合には、粒子同士が強固に凝結しているために磁性塗料作製時の混練においてトルクがかかり難く、良好な分散性を得ること及び磁気記録層への高充填が困難となる。強磁性金属粒子粉末のハンドリング性を考慮すれば、かさ密度(ρa)の下限値は、0.10g/cmである。
【0032】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末のタップ密度(ρt)は0.39g/cm以下であり、好ましくは0.38g/cm以下、より好ましくは0.37g/cm以下である。タップ密度(ρt)が0.39g/cmを超える場合には、本発明のようにかさ密度(ρa)が低い強磁性金属粒子粉末の場合、流動性が低下するため好ましくない。タップ密度(ρt)の下限値は、0.10g/cmである。
【0033】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末のHausner比は1.80以下であることが好ましく、より好ましくは1.73以下、更により好ましくは1.65以下である。Hausner比が1.80を超える場合には、強磁性金属粒子粉末の流動性が悪く、磁性塗料中の分散性やハンドリング性が十分とは言い難い。Hausner比の下限値は1であり、1に近いほど、即ち、タップ密度とかさ密度との値が近いほど、粉体の流動性は良い。
【0034】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末の7.056MPaで圧縮したときの圧縮密度(CD)は0.5〜3.0g/cmであることが好ましく、より好ましくは0.75〜2.75g/cm、更により好ましくは1.0〜2.5g/cmである。圧縮密度(CD)が0.5g/cm未満の場合には、これを用いて得られた磁気記録媒体はカレンダー処理による表面平滑効果が得られ難いと共に磁気記録層中への充填率が上がらないため、磁気記録媒体の表面平滑を改善し、記録密度を向上させることが困難となる。
【0035】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末のかさ密度/圧縮密度(CD)の値は0.50以下であることが好ましく、より好ましくは0.32以下、更により好ましくは0.23以下である。かさ密度/圧縮密度(CD)の値が0.50を超える場合には、これを用いて得られた磁気記録媒体はカレンダー処理による表面平滑効果が得られ難いと共に磁気記録層中への充填率が上がらないため、磁気記録媒体の表面平滑を改善し、記録密度を向上させることが困難となる。
【0036】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末の分散圧3barにおける体積基準平均径(D503barと分散圧5barにおける体積基準平均径(D505barとの比(以下、「(D503bar/(D505bar」という。)は1.30以下であり、好ましくは1.25以下、より好ましくは1.20以下である。(D503bar/(D505barが1に近づくほど、3barにおける体積基準平均粒子径(D503barと分散圧5barにおける体積基準平均径(D505barとがほぼ同じであり、弱い分散力でほぐれやすいことを意味している。(D503bar/(D505barが1.30を超える場合には、粒子同士が強固に凝集しているために、磁性塗料作製時において良好な分散性を得ることが困難となる。
【0037】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末のコバルト含有量は全Feに対してCo換算で4〜50原子%が好ましく、より好ましくは5〜45原子%、更により好ましくは10〜40原子%であり、この範囲でコバルト含有量コントロールすることによって、後述する磁気特性(保磁力及び飽和磁化値)を得ることができる。
【0038】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末のアルミニウム含有量は全Feに対してAl換算で4〜50原子%が好ましく、より好ましくは5〜45原子%、更により好ましくは10〜40原子%である。アルミニウム含有量が4原子%未満の場合には、加熱還元過程における焼結防止効果が低下し、保磁力が低下するため好ましくない。50原子%を超える場合には、非磁性成分の増大に伴い磁気特性が低下すると共に、水素還元に必要な温度が著しく高くなるため、工業的に好ましくない。
【0039】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末の希土類元素含有量は全Feに対して希土類元素換算で2〜30原子%が好ましく、より好ましくは3〜29原子%、更により好ましくは4〜28原子%である。希土類元素含有量が2原子%未満の場合には、加熱還元過程における焼結防止効果が低下し、保磁力が低下するため好ましくない。30原子%を超える場合には、非磁性成分の増大に伴い磁気特性が低下すると共に、水素還元に必要な温度が著しく高くなるため、工業的に好ましくない。なお、ここではSc、Yも希土類元素として扱う。
【0040】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末の保磁力Hcは79.6〜278.5kA/mが好ましく、より好ましくは95.4〜278.5kA/m、更により好ましくは119.4〜278.5kA/mである。保磁力が前記範囲外の場合、短波長領域で高い出力が得られないため、磁気記録媒体の記録密度を向上させることが困難となる。
【0041】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末の飽和磁化値σsは50〜180Am/kgが好ましく、より好ましくは60〜170Am/kg、更により好ましくは70〜160Am/kgである。飽和磁化値σsが50Am/kg未満の場合には、残留磁化値が低下するため、短波長領域で高い出力が得られない。飽和磁化値σsが180Am/kgを超える場合には、過剰な残留磁化を生じ、磁気抵抗ヘッドの飽和を引き起こし、再生特性に歪みを生じやすく、短波長領域での高いC/N出力が得られない。
【0042】
次に、本発明に係る強磁性金属粒子粉末の製造法について述べる。
【0043】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末は、出発原料であるゲータイト粒子粉末を含む含液物を真空凍結乾燥した後、加熱処理を行ってヘマタイト粒子粉末を得、該ヘマタイト粒子粉末を300〜700℃で加熱還元することによって得ることができる。
【0044】
本発明におけるゲータイト粒子粉末は、水酸化アルカリ水溶液と炭酸水素アルカリ水溶液又は炭酸アルカリ水溶液との混合アルカリ水溶液と、第一鉄塩水溶液とを反応させて得られる第一鉄含有沈澱物を含む水懸濁液に空気等の酸素含有ガスを通気してゲータイト粒子を生成させる方法や、水酸化アルカリ水溶液と炭酸水素アルカリ水溶液又は炭酸アルカリ水溶液との混合アルカリ水溶液と、第一鉄塩水溶液とを反応させて得られる第一鉄含有沈澱物を含む水懸濁液に空気等の酸素含有ガスを通気してゲータイトの種晶粒子を生成させ、次いで、該種晶粒子表面にゲータイト層を成長させる方法によって得ることができる。また、水酸化アルカリ水溶液と炭酸水素アルカリ水溶液又は炭酸アルカリ水溶液との混合アルカリ水溶液と、第一鉄塩水溶液とを反応させて得られる第一鉄含有沈澱物を含む水懸濁液に酸化剤を添加して得られるゲータイトの種晶粒子表面にゲータイト層を成長させる方法によっても得ることができ、この場合、より微細な強磁性金属粒子粉末を得ることができる。
【0045】
なお、ゲータイト粒子の生成もしくは成長反応中に、粒子の形状や粒子サイズ、磁気特性等の諸特性を制御するために、Co、Al及び希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素を含む化合物を添加することが好ましい。
【0046】
添加するCo化合物としては、硫酸コバルト、塩化コバルト及び硝酸コバルト等を用いることができる。これらは単独又は必要に応じ2種以上混合して用いられる。また、Co化合物の添加量は、ゲータイト粒子中の全Feに対してCo換算で4〜50原子%が好ましく、より好ましくは5〜45原子%、更により好ましくは10〜40原子%である。
【0047】
添加するAl化合物としては、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アルミン酸アンモニウム等のアルミン酸塩を用いることができる。これらは単独又は必要に応じ2種以上混合して用いられる。また、Al化合物の添加量は、ゲータイト粒子中の全Feに対してAl換算で4〜50原子%が好ましく、より好ましくは5〜45原子%、更により好ましくは10〜40原子%である。
【0048】
添加する希土類元素化合物としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム等の1種又は2種以上の化合物が好適であり、前記希土類元素の硫酸塩、塩化物、硝酸塩等を用いることができる。また、希土類元素含有量は、ゲータイト粒子中の全Feに対して希土類元素換算で2〜30原子%が好ましく、より好ましくは3〜29原子%、更により好ましくは4〜28原子%である。
【0049】
なお、磁気特性の改善や磁性塗料中における分散性改善を目的として、上記以外の元素、例えばSi、Mg、Zn、Cu、Ti、Ni、P等を添加してもよい。
【0050】
本発明においては、真空凍結乾燥を行う前に、あらかじめゲータイト粒子粉末の粒子表面を焼結防止剤で被覆しておくことが好ましい。焼結防止剤による被覆処理は、常法に従って、ゲータイト粒子粉末を含む水懸濁液中に焼結防止剤を添加し、均一になるように混合攪拌した後、ゲータイト粒子表面に焼結防止剤が被覆できるような適切なpH調整を行ってから、濾別、水洗し、その後、真空凍結乾燥を行えばよい。
【0051】
焼結防止剤としては、前述のCo、Al及び希土類元素を含む化合物に加えて、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸、オルトリン酸等のリン化合物、3号水ガラス、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、コロイダルシリカ等のケイ素化合物、ホウ酸等のホウ素化合物、アルミナゾル、水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物、オキシ硫酸チタン等のチタン化合物等の1種又は2種以上を用いることができるが、焼結防止効果及び得られる強磁性金属粒子粉末の磁気特性等を考慮すれば、Co、Al及び希土類元素を含む化合物が好ましい。
【0052】
焼結防止剤の被覆量は、Co、Al及び希土類元素については、前述のゲータイト粒子中の全Feに対する各元素換算による原子%の範囲内であり、その他の元素については、ゲータイト粒子中の全Feに対する各元素換算で0.1〜40原子%が好ましく、より好ましくは0.2〜30原子%、更により好ましくは0.3〜20原子%である。
【0053】
本発明においては、真空凍結乾燥する前のゲータイト粒子粉末を含む含液物の濃度(固形分換算)は5〜50重量%に調整することが好ましい。含液物の固形分が50重量%を超える場合には、真空凍結乾燥後の粒子同士の凝結が生じるため好ましくない。また、含液物の固形分が低い場合には、真空凍結乾燥に時間がかかり、且つ収量も少ないため工業的に不利となる。
【0054】
なお、ゲータイト粒子粉末を含む含液物の固形分濃度は、ゲータイト粒子粉末を含む含液物100gを秤量し、乾燥機を用いて含液物を構成する液体の蒸発する温度以上で24時間乾燥し、液体を揮発させ、その後の乾燥物の重量を測定し、重量比から固形分濃度を算出した。
【0055】
真空凍結乾燥を行う前のゲータイト粒子粉末を含む含液物を構成する液体は水以外に有機溶剤であっても特に問題はない。
【0056】
本発明におけるゲータイト粒子粉末を含む含液物の真空凍結乾燥は、該ゲータイト粒子粉末を含む含液物を0℃以下で予備凍結させ、凍結後に真空度を100Pa以下にした状態で温度を徐々にあげ、0〜80℃の温度範囲で、水分が10%以下になるように乾燥する方法や、該ゲータイト粒子粉末を含む含液物の真空度を100Pa以下になるまで減圧して自己凍結させ、その状態から温度を徐々にあげ、0〜80℃の温度範囲で、水分が10%以下になるように乾燥する方法、のいずれの方法によっても得ることができる。
【0057】
ゲータイト粒子粉末を含む含液物の予備凍結温度は0℃以下が好ましく、より好ましくは−30℃以下である。予備凍結温度が0℃を超えると、ゲータイト粒子粉末を含む含液物を構成する液体が完全に固体に変態できず、真空乾燥時に昇華による液体除去ができないことから、ゲータイト粒子同士の凝結が生じるため好ましくない。
【0058】
真空乾燥条件は、真空度を100Pa以下とすることが好ましく、より好ましくは90Pa以下であり、更により好ましくは80Pa以下である。乾燥温度は、好ましくは0℃〜80℃、より好ましくは10℃〜60℃の温度範囲で、徐々に昇温することが好ましい。
【0059】
本発明における真空凍結乾燥を行ったゲータイト粒子粉末は、真空凍結乾燥を行う前のゲータイト粒子粉末とほぼ同程度の粒子サイズを有しており、平均一次長軸径は5〜250nmである。また、かさ密度(ρa)は0.28g/cm以下が好ましく、より好ましくは0.27g/cm以下、更により好ましくは0.26g/cm以下である。また、(D503bar/(D505barは1.30以下であり、好ましくは1.25以下、より好ましくは1.20以下である。
【0060】
本発明における真空凍結乾燥を行ったゲータイト粒子粉末のかさ密度(ρa)、及び(D503bar/(D505barが上記範囲を外れる場合には、ゲータイト粒子同士が強固に凝集しているために、これを強磁性金属粒子粉末の出発原料とした場合には、得られた強磁性金属粒子粉末もまた強固に凝集しているために、磁性塗料作製時の混練においてトルクがかかりにくく、良好な分散性を得ることが困難となる。
【0061】
本発明における真空凍結乾燥を行ったゲータイト粒子粉末のコバルト含有量は全Feに対してCo換算で4〜50原子%、アルミニウム含有量は全Feに対してAl換算で4〜50原子%、希土類元素含有量は全Feに対して希土類元素換算で2〜30原子%が好ましい。
【0062】
次に、真空凍結乾燥を行ったゲータイト粒子粉末を非還元性雰囲気中において加熱脱水処理を行って、ヘマタイト粒子粉末とする。
【0063】
非還元性雰囲気としては、空気、酸素ガス、窒素ガス等から選択される1種以上のガス流通下が好ましい。また、上記非還元性雰囲気中に水蒸気等が含まれていてもかまわない。
【0064】
加熱脱水温度は100〜650℃の範囲で行うことができる。100℃未満の場合には、加熱脱水処理に長時間を要し、650℃を超える場合には、粒子の変形と粒子及び粒子相互間の焼結を引き起こすため好ましくない。また、前記加熱脱水処理は、1段目と2段目で温度を変える多段加熱脱水処理によっても行うことができる。
【0065】
次に、ヘマタイト粒子粉末の加熱還元処理を行う。
【0066】
本発明における加熱還元処理の温度範囲は300〜700℃が好ましい。300℃未満の場合には、還元反応の進行が遅く長時間を要するため好ましくない。また、強磁性金属粒子粉末の結晶成長が不十分であるため、飽和磁化値、保磁力などの磁気特性が著しく低下する。700℃を超える場合には、還元反応が急激に進行し、粒子の変形と粒子及び粒子相互間の焼結を引き起こすため好ましくない。また、前記加熱還元処理は、1段目と2段目、必要によっては3段目もしくはそれ以上のステップで温度を変える多段加熱還元処理によっても行うことができる。
【0067】
本発明の加熱還元処理における還元性ガスとしては、水素、アセチレン、一酸化炭素等を用いることができ、殊に、水素が好適である。
【0068】
本発明における加熱還元後の強磁性金属粒子粉末は、周知の方法、例えば、トルエン等の有機溶剤中に浸漬する方法、還元後の強磁性金属粒子粉末の雰囲気を一旦不活性ガスに置換した後、不活性ガス中の酸素含有量を徐々に増加させながら最終的に空気とする方法及び酸素と水蒸気を混合したガスを使用して徐酸化する方法等により表面酸化処理を行うことで、空気中に取り出すことができる。
【0069】
本発明においては、還元後の強磁性金属粒子粉末の雰囲気を一旦不活性ガスに置換した後、不活性ガス中の酸素含有量を徐々に増加させながら最終的に空気とする方法及び酸素と水蒸気を混合したガスを使用して徐酸化する方法が好ましく、その場合の処理温度は40〜200℃であり、好ましくは40〜180℃である。表面酸化処理の処理温度が40℃未満の場合には、十分な厚さを有する表面酸化層を形成することが困難である。処理温度が200℃を超える場合には、表面酸化層が厚くなり、磁気特性が劣化するため好ましくない。また、粒子の形骸変化、特に酸化物が多量に生成されるため短軸が極端に膨張し、形骸破壊が起こりやすくなる。
【0070】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末は、前述したとおり、Fe、Co、Al及び希土類元素などからなるゲータイト粒子粉末の粒子表面を、必要により焼結防止剤で被覆し、真空凍結乾燥した後、加熱処理を行ってヘマタイト粒子を得、該ヘマタイト粒子粉末を加熱還元することによって得られるものである。従って、最終的に得られる強磁性金属粒子粉末は、Fe、Co、Al、希土類元素及びそれらの酸化物などから構成させるものである。
【0071】
次に、本発明に係る磁気記録媒体について述べる。
【0072】
本発明における磁気記録媒体は、非磁性支持体、該非磁性支持体上に形成された非磁性下地層及び該非磁性下地層上に形成された磁気記録層とからなる。また、必要に応じて、非磁性支持体の一方の面に形成される磁気記録層に対し、非磁性支持体の他方の面にバックコート層を形成させてもよい。殊に、コンピューター記録用のバックアップテープの場合には、巻き乱れの防止や走行耐久性向上の点から、バックコート層を設けることが好ましい。
【0073】
本発明における非磁性支持体としては、現在、磁気記録媒体に汎用されているポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド、ポリスルフォン、セルローストリアセテート、ポリベンゾオキサゾール等の合成樹脂フィルム、アルミニウム、ステンレス等金属の箔や板及び各種の紙を使用することができる。
【0074】
本発明における非磁性下地層は、非磁性粒子粉末及び結合剤樹脂とからなる。また、必要に応じて、磁気記録媒体の製造に通常用いられている潤滑剤、研磨剤、帯電防止剤等を添加してもよい。
【0075】
非磁性下地層に用いられる非磁性粒子粉末としては、アルミナ、ヘマタイト、ゲータイト、酸化チタン、シリカ、酸化クロム、酸化セリウム、酸化亜鉛、チッ化珪素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、炭酸カルシウム及び硫酸バリウム等を、単独又は組合せて用いることができる。好ましくはヘマタイト、ゲータイト、酸化チタンであり、より好ましくはヘマタイトである。
【0076】
前記非磁性粒子粉末の粒子形状は、針状、紡錘状、米粒状、球状、粒状、多面体状、フレーク状、鱗片状及び板状等のいずれの形状であってもよい。粒子サイズは、好ましくは0.005〜0.30μmであり、より好ましくは0.010〜0.25μmである。また、必要により、粒子表面をアルミニウムの水酸化物、アルミニウムの酸化物、ケイ素の水酸化物及びケイ素の酸化物から選ばれた1種又は2種以上の化合物で被覆してもよく、化合物で被覆しない場合に比べ、非磁性塗料中での分散性を改善することができる。
【0077】
結合剤樹脂としては、磁気記録媒体の製造にあたって汎用されている熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化型樹脂等を単独又は組み合わせて用いることができる。
【0078】
帯電防止剤としては、カーボンブラック、グラファイト、酸化スズ、酸化チタン−酸化スズ−酸化アンチモン等の導電性粉末及び界面活性剤等を用いることができる。帯電防止の他に、摩擦係数低減、磁気記録媒体の強度向上といった効果が期待できることから、帯電防止剤としては、カーボンブラックを用いることが好ましい。
【0079】
本発明における磁気記録層は、本発明に係る強磁性金属粒子粉末と結合剤樹脂とを含んでいる。また、必要に応じて、磁気記録媒体の製造に通常用いられている潤滑剤、研磨剤、帯電防止剤等を添加してもよい。
【0080】
結合剤樹脂としては、前記非磁性下地層を作製するために用いた結合剤樹脂を使用することができる。
【0081】
本発明におけるバックコート層中には、結合剤樹脂と共に、バックコート層の表面電気抵抗値及び光透過率低減、並びに強度向上を目的として、帯電防止剤及び無機粒子粉末を含有させることが好ましい。また、必要に応じて、通常の磁気記録媒体の製造に用いられる潤滑剤、研磨剤等が含まれていてもよい。
【0082】
結合剤樹脂及び帯電防止剤としては、前記非磁性下地層、及び磁気記録層を作製するために用いた結合剤樹脂及び帯電防止剤を使用することができる。
【0083】
無機粉末としては、アルミナ、ヘマタイト、ゲータイト、酸化チタン、シリカ、酸化クロム、酸化セリウム、酸化亜鉛、チッ化珪素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、炭酸カルシウム及び硫酸バリウム等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。粒子サイズは、好ましくは0.005〜1.0μmであり、より好ましくは0.010〜0.5μmである。
【0084】
本発明に係る磁気記録媒体は、保磁力は63.7〜318.3kA/m(800〜4000Oe)が好ましく、より好ましくは71.6〜318.3kA/m(900〜4000Oe)であり、保磁力分布SFDは0.80以下が好ましく、より好ましくは0.75であり、更により好ましくは0.70以下である。塗膜の表面粗度Raは3.0nm以下が好ましく、より好ましくは2.8nm以下、更により好ましくは2.6nm以下である。磁性塗料中における強磁性金属粒子粉末の分散性が不十分であった場合、塗膜の表面粗度Raが大きくなる傾向にある。
【0085】
次に、本発明における磁気記録媒体の製造法について述べる。
【0086】
非磁性下地層、磁気記録層、バックコート層は、各層を構成する成分及び溶剤を一般に使用される混練機及び分散機により混練・分散処理を行い、各塗料を作製する。該各塗料を用いて、非磁性支持体上の一面に非磁性下地層、磁気記録層の順に塗布、乾燥後、カレンダー処理を行う。塗布方法としては、磁性層と非磁性層をほぼ同時に塗布するWet on Wet法でも、非磁性下地層を塗布・乾燥後、その上に磁気記録層を塗布するWet on Dry法のどちらでもよい。また、必要により、バックコート層を設ける場合には、非磁性下地層及び磁気記録層とは反対面の非磁性支持体上にバックコート層用塗料を塗布、乾燥後、カレンダー処理を行い、磁気記録媒体を得る。
【0087】
前記非磁性下地層、磁気記録層、及びバックコート層の形成にあたって用いる溶剤としては、磁気記録媒体に汎用されているアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びテトラヒドロフラン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール及びイソプロピルアルコール等のアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル及び酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル及びジオキサン等のグリコールエーテル類及びその混合物等を使用することができる。
【0088】
<作用>
本発明において最も重要な点は、ゲータイト粒子粉末を含む含液物を真空凍結乾燥した後、加熱処理を行ってヘマタイト粒子粉末を得、該ヘマタイト粒子粉末を300〜600℃で加熱還元することによって得られた強磁性金属粒子粉末は、分散性に優れると共に、磁気記録層中への充填率が高く、また、これを用いて得られる磁気記録媒体は高い表面平滑性が得られるという事実である。
【0089】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末の分散性が優れると共に、磁気記録層中への充填率が高く、また、これを用いて得られる磁気記録媒体は高い表面平滑性が得られる理由として、本発明者は下記のとおり推定している。
【0090】
即ち、ゲータイト粒子粉末を含む含液物に対し真空凍結乾燥を行うことで、含液物を構成する液体を固体の状態から昇華により取り除くことができるため、高温度の熱処理による液体の蒸発による場合と比較して、ゲータイト粒子同士の粒子凝集が抑制でき、該ゲータイト粒子粉末を高温度で熱処理してゲータイト粒子粉末からヘマタイト粒子粉末に、ヘマタイト粒子粉末から強磁性金属粒子粉末にする際の粒子同士の焼結も抑制することができる。また、粒子表面の凹部など乾燥しにくいところの液体まで効率良く除去することができる。その結果、得られた強磁性金属粒子粉末はかさが高く、わずかな分散力で粒子がほぐれるために分散性に優れると共に、磁性塗料作製時の混練においてトルクがかかりやすいため磁気記録層中への充填率が高く、しかも高い表面平滑性が得られたものと、本発明者は考えている。
【実施例】
【0091】
以下、本発明における実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0092】
粒子の平均一次長軸径及び平均一次短軸径は、以下の手順で測定を行った。まず、透過型電子顕微鏡を用いて粒子を観察し、個々の粒子が重ならず、ばらばらに分散している視野において倍率を調整し、写真を撮影した。次に、得られた写真を縦横4倍に拡大した後に、粒子約360個について長軸径及び短軸径を、DIGITIZER(型式:KD 4620、グラフテック株式会社製)を用いて測定し、その平均値で粒子の平均一次長軸径平均一次短軸径を示した。
【0093】
軸比は平均一次長軸径と平均一次短軸径との比で示した。
【0094】
比表面積値はBET法により測定した値で示した。
【0095】
ゲータイト粒子粉末及び強磁性金属粒子粉末の粒子内部や粒子表面に存在するCo量、Al量、及びY量のそれぞれは、「蛍光X線分析装置3063M型」(理学電機工業株式会社製)を使用し、JIS K0119の「けい光X線分析通則」に従って測定した。
【0096】
ゲータイト粒子粉末及び強磁性金属粒子粉末のかさ密度(ρa)は、「パウダテスタ PT−N型」(ホソカワミクロン株式会社製)を用いて測定した。
【0097】
強磁性金属粒子粉末のタップ密度(ρt)は、JIS K5101により測定した。
【0098】
強磁性金属粒子粉末のHausner比は、タップ密度(ρt)/かさ密度(ρa)によって求めた。
【0099】
強磁性金属粒子粉末の圧縮密度(CD)は、強磁性金属粒子粉末を7.056MPaで圧縮したときの密度で示した。
【0100】
強磁性金属粒子粉末のかさ密度(ρa)/圧縮密度(CD)は、上記で得られたかさ密度(ρa)と圧縮密度(CD)との比を取ることによって求めた。
【0101】
ゲータイト粒子粉末及び強磁性金属粒子粉末の(D503bar/(D505barは、まず、あらかじめ試料を60mesh(目開き 250μm)の篩に通した後、「レーザー回折式粒度分布測定装置 model HELOS LA/KA」(SYMPATEC社製)の乾式分散ユニットを用いて、分散圧0.3MPa(3bar)と分散圧0.5MPa(5bar)にて測定した値の比をとることにより求めた。
【0102】
強磁性金属粒子粉末及び磁気記録媒体の磁気特性は、「振動試料型磁力計VSM−3S−15」(東英工業株式会社製)を用いて外部磁場795.8kA/mの下で測定した。
【0103】
塗膜の表面粗度Raは、「Surfcom−575A」(東京精密株式会社製)を用いて塗膜の中心線平均粗さRaを測定した。
【0104】
<実施例1−1:強磁性金属粒子粉末の製造>
ゲータイト粒子1(粒子形状:紡錘状、平均一次長軸径:51nm、軸比:8.8、BET比表面積値:243.5m/g、かさ密度(ρa):0.31g/cm、(D503bar/(D505bar:1.37、Co含有量(Co/Fe):40原子%、Al含有量(Al/Fe):20原子%、Y含有量(Y/Fe):20原子%)のスラリーを、常法により、水洗、濾過を行って固形分濃度を31重量%に調整した後、押し出し成形器にかけてゲータイト粒子1を含む顆粒状の含水物を得た。
【0105】
次に、上記ゲータイト粒子1を含む含水物を、−50℃にて完全に凍結させた。凍結後、真空度を50Paまであげて、そのままの状態で、凍結温度−50℃の状態から50℃まで徐々に昇温して乾燥を行い、ゲータイト粒子6を得た。得られたゲータイト粒子6の水分は0.54%であった。
【0106】
得られたゲータイト粒子6は、平均一次長軸径が51nm、軸比が8.8、BET比表面積値が244.6m/gであり、かさ密度(ρa)が0.22g/cm、(D503bar/(D505barが1.11であった。また、Co含有量(Co/Fe)が40原子%、Al含有量(Al/Fe)が20原子%、Y含有量(Y/Fe)が20原子%であった。
【0107】
<加熱脱水処理>
上記で得られたゲータイト粒子6を大気中、350℃で脱水し、その後、同雰囲気中500℃で加熱脱水してヘマタイト粒子粉末を得た。
【0108】
<加熱還元処理>
得られたヘマタイト粒子粉末100gを内径72mmのバッチ式固定層還元装置に入れ、層高を7cmとした後、水素ガス空塔速度50cm/sで通気しながら、350℃で排気ガス露点が−30℃に達するまで加熱還元して強磁性金属粒子粉末を得た。
【0109】
その後、再び窒素ガスに切り替えて80℃まで冷却し、品温を80℃で保持し、次いで空気を混合して酸素濃度を0.35vol%まで徐々に増加させて品温が[保持温度+1]℃になるまで(最大品温140℃、処理時間2時間)表面酸化処理を行い、粒子表面に表面酸化層を形成した。
【0110】
次に、表面酸化層を形成した強磁性金属粒子粉末水素ガス雰囲気下で600℃まで10分で昇温し、600℃で水素ガス空塔速度60cm/sにて排気ガス露点が−30℃に達するまで再度加熱還元した。
【0111】
その後、再び窒素ガスに切り替えて80℃まで冷却し、品温を80℃で保持し、次いで水蒸気6g/mと空気を混合して酸素濃度を0.35vol%まで徐々に増加させて、品温が[保持温度+1]℃となるまで(最大品温110℃、処理時間3時間)表面酸化処理を行い、粒子表面に安定な表面酸化層を形成して実施例1−1の強磁性金属粒子粉末を得た。
【0112】
得られた実施例1−1の強磁性金属粒子粉末は、粒子形状が紡錘状であり、平均一次長軸径が39nm、軸比が3.6、BET比表面積値が85.4m/gの粒子からなり、かさ密度(ρa)は0.196g/cm、タップ密度(ρt)は0.309g/cm、Hausner比は1.58、圧縮密度(CD)は1.26g/cm、かさ密度(ρa)/圧縮密度(CD)は0.16、(D503bar/(D505barは1.10であった。また、該強磁性金属粒子中のCo含有量は全Feに対して40原子%、Al含有量は全Feに対して18原子%、Y含有量は20原子%であった。また、該強磁性金属粒子粉末の磁気特性は、保磁力Hcが195.0kA/m、飽和磁化値σsが104.5Am/kgであった。
【0113】
<実施例2−1:磁気記録媒体の製造>
ヘマタイト粒子粉末12gと結合剤樹脂溶液(スルホン酸カリウム基を有する塩化ビニル系共重合樹脂30重量%とシクロヘキサノン70重量%)及びシクロヘキサノンとを混合し、自動乳鉢を用いて30分間混練して混練物を得た。
【0114】
この混練物を1.5mmφガラスビーズ95g、追加の結合剤樹脂溶液(スルホン酸ナトリウム基を有するポリウレタン樹脂30重量%、溶剤(メチルエチルケトン:トルエン=1:1)70重量%)、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン及びトルエンと共に140mlガラス瓶に添加し、ペイントシェーカーで6時間混合・分散を行って塗料組成物を得た。その後、潤滑剤及び硬化剤を加え、更に、ペイントシェーカーで15分間混合・分散した後、3μmの平均孔径を有するフィルターを用いてろ過し、非磁性下地層用非磁性塗料を調製した。
【0115】
得られた非磁性下地層用非磁性塗料の組成は、下記の通りであった。
非磁性下地層用ヘマタイト粒子粉末 100.0重量部、
(粒子形状:紡錘状、平均一次長軸径:0.099μm、軸比:6.2、BET比表面積値:59.1m/g)
スルホン酸カリウム基を有する塩化ビニル系共重合樹脂 11.8重量部、
スルホン酸ナトリウム基を有するポリウレタン樹脂 11.8重量部、
シクロヘキサノン 78.3重量部、
メチルエチルケトン 195.8重量部、
トルエン 117.5重量部、
硬化剤(ポリイソシアネート) 3.0重量部、
潤滑剤(ブチルステアレート) 1.0重量部。
【0116】
強磁性金属粒子粉末80g、研磨剤(商品名:AKP−50、住友化学株式会社製)8.0g、カーボンブラック 0.8g、結合剤樹脂溶液(スルホン酸カリウム基を有する塩化ビニル系共重合樹脂30重量%とシクロヘキサノン70重量%)及びシクロヘキサノンとを混合(固形分率70.8%)し、ニーダー(株式会社東洋精機製作所社製 LABO PLASTOMILL)を用いて60分間混練した後、メチルエチルケトンを追加して固形分率を60%とし、更に30分間混練した。
【0117】
上記混練物のうち115gを分取し、メチルエチルケトンとシクロヘキサノンを用いて固形分率を30%にした後、DISPER MAT(VMA−GETZMANN社製)を用いて60分間分散させた。
【0118】
上記分散物29.9gを0.5mmφガラスビーズ105g、追加結合剤樹脂溶液(スルホン酸ナトリウム基を有するポリウレタン樹脂30重量%、溶剤(メチルエチルケトン:トルエン=1:1)70重量%)、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン及びトルエンと共に140mlガラス瓶に添加し、ペイントシェーカーで12時間混合・分散を行って磁性塗料を得た。その後、潤滑剤及び硬化剤を加え、更に、ペイントシェーカーで15分間混合・分散した後、3μmの平均孔径を有するフィルターを用いてろ過し、磁気記録層用磁性塗料を調製した。
【0119】
得られた磁気記録層用磁性塗料の組成は下記の通りであった。
強磁性金属磁性粒子粉末 100.0重量部、
スルホン酸カリウム基を有する塩化ビニル系共重合樹脂 10.0重量部、
スルホン酸ナトリウム基を有するポリウレタン樹脂 10.0重量部、
研磨剤(AKP−50) 10.0重量部、
カーボンブラック 1.0重量部、
潤滑剤(ミリスチン酸:ステアリン酸ブチル=1:2) 3.0重量部、
硬化剤(ポリイソシアネート) 5.0重量部、
シクロヘキサノン 65.8重量部、
メチルエチルケトン 164.5重量部、
トルエン 98.7重量部。
【0120】
得られた非磁性下地層用塗料を厚さ4.5μmの芳香族ポリアミドフィルム上に塗布し、乾燥させることにより非磁性下地層を形成した後、前記非磁性下地層の上に磁気記録層用磁性塗料を塗布し、磁場中において配向・乾燥した。次いで、カレンダー処理を行った後、60℃で24時間硬化反応を行い、12.7mm幅にスリットして磁気記録媒体を得た。
【0121】
得られた磁気記録媒体は、保磁力値が210.3kA/m、角型比(Br/Bm)が0.853、保磁力分布SFDが0.60、表面粗度Raが2.0nmであった。
【0122】
前記実施例1−1及び実施例2−1に従って強磁性金属粒子粉末及び磁気記録媒体を作製した。各製造条件並びに得られた強磁性金属粒子粉末及び磁気記録媒体の諸特性を示す。
【0123】
ゲータイト粒子2〜5:
出発原料としてのゲータイト粒子として、表1に示す諸特性を有するゲータイト粒子2〜5を準備した。
【0124】
【表1】

【0125】
ゲータイト粒子6〜10:
出発原料であるゲータイト粒子の種類、真空凍結乾燥処理の固形分濃度、予備凍結温度、真空度、及び乾燥温度を種々変化させた以外は、実施例1−1と同様にして真空凍結乾燥後のゲータイト粒子を得た。
【0126】
このときの製造条件を表2に、得られた真空凍結乾燥後のゲータイト粒子の諸特性を表3に示す。
【0127】
ゲータイト粒子11:
実施例1−1と同様にして、ゲータイト粒子1を用いてゲータイト粒子1を含む顆粒状の含水物を得た。
【0128】
次に、上記ゲータイト粒子1を含む含水物の真空度を50Paまであげて自己凍結させ、その状態から50℃まで徐々に昇温して乾燥を行い、ゲータイト粒子11を得た。得られたゲータイト粒子6の水分は1.27%であった。
【0129】
得られたゲータイト粒子11の諸特性を表3に示す。
【0130】
【表2】

【0131】
【表3】

【0132】
実施例1−2〜1−6及び比較例1−1〜1−5:
ゲータイト粒子粉末の種類を種々変化させた以外は、前記実施例1−1と同様にして強磁性金属粒子粉末を得た。
【0133】
このときの製造条件及び得られた強磁性金属粒子粉末の諸特性を表4に示す。
【0134】
【表4】

【0135】
<磁気記録媒体の製造>
実施例2−2〜2−6及び比較例2−1〜2−5:
強磁性金属粒子粉末の種類を種々変化させた以外は、前記実施例2−1と同様にして磁気記録媒体を製造した。
【0136】
このときの製造条件及び得られた磁気記録媒体の諸特性を表5に示す。
【0137】
【表5】

【0138】
表5より、本願発明の実施例2−1〜2−6では、磁気記録媒体の表面粗度Raが3.0nm以下であり、得られた磁気記録媒体の特性も優れることが明らかである。一方、比較例2−1〜2−5では、磁気記録媒体の表面粗度Raが3.0nmを超えるものであり、得られる磁気記録媒体の特性も劣ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末は、わずかな分散力で粒子がほぐれやすいため分散性に優れると共に、磁性塗料作製時の混練においてトルクがかかりやすいため磁気記録層中への充填率が高いので、高密度磁気記録媒体用強磁性金属粒子粉末として好適である。
【0140】
また、本発明に係る磁気記録媒体は、磁性粒子粉末として前述の本発明の強磁性金属粒子粉末を用いることにより、カレンダー処理による高い表面平滑効果が得られると共に、磁気記録層中への強磁性金属粒子粉末の高充填が期待できるので、記録密度が向上した高密度磁気記録媒体として好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
かさ密度(ρa)が0.25g/cm以下であることを特徴とする強磁性金属粒子粉末。
【請求項2】
タップ密度が0.39g/cm以下であることを特徴とする請求項1記載の強磁性金属粒子粉末。
【請求項3】
分散圧3barにおける体積基準平均径(D503barと分散圧5barにおける体積基準平均径(D505barとの比が1.2以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の強磁性金属粒子粉末。
【請求項4】
ゲータイト粒子を含む固形分濃度50重量%以下の含液物を真空凍結乾燥した後に、該乾燥物を加熱脱水してヘマタイト粒子とし、該ヘマタイト粒子粉末を加熱還元して金属磁性粒子とすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の強磁性金属粒子粉末の製造法。
【請求項5】
非磁性支持体、該非磁性支持体上に形成される非磁性粒子粉末と結合剤樹脂とを含む非磁性下地層及び該非磁性下地層の上に形成される磁性粒子粉末と結合剤樹脂とを含む磁気記録層からなる磁気記録媒体において、前記磁性粒子粉末が請求項1乃至3のいずれかに記載された強磁性金属粒子粉末であることを特徴とする磁気記録媒体。

【公開番号】特開2009−228136(P2009−228136A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46803(P2009−46803)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】