説明

強誘電性を示す柱状液晶化合物

【課題】
従来の光学活性な強誘電性化合物よりも合成が容易で安価であり、分子の配向性が高く、高密度な情報記録も可能な化合物を供給すること。
【解決手段】
強誘電性を示す液晶化合物において、分子中央付近に分極部を有し、かつ柱状液晶相を示す液晶化合物とする。この柱状構造体は、光学活性基がなくても強誘電性を有するとともに配向性が高く、さらに、柱状構造体間の電気的反発が小さいので、柱状構造体ごとの分極の制御が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電性の液晶相を示す液晶化合物に関し、特に柱状構造体からなる強誘電性液晶相を示す液晶化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電性を示す液晶化合物は、外部から印加される電界に沿って分極の向きを揃えることができ、この電界を取り去っても分極の向きを維持することができる。しかもこの強誘電性を示す液晶化合物の電界に対する応答は非常に高速である。よって、強誘電性を示す液晶化合物は主に高速応答かつメモリ性のある表示素子・記録素子への応用を中心に研究されている。なお他の応用例としては、電界をかけた状態で高分子化して各分子の配置を固定した材料が知られており、表裏の電圧が圧力により変化する圧電性材料や温度により変化する焦電性材料などがある。
【0003】
まず強誘電性液晶化合物の一例として、光学活性なスメクチックC相を示す液晶化合物が知られている。この相は複数の層が積層されたような層状構造を有しており、その各層では光学活性な棒状分子が層の垂線方向に対しある一定の角度で傾いて存在している。光学活性なスメクチックC相では分子が光学活性であるため、棒状分子の傾き方向と垂直な方向に分極が生じており、これが強誘電性を発現させるもととなる。そしてこの液晶化合物を数ミクロンの間隔で配置される面状の電極間に充填することで強誘電性を発現させることができる(図3参照)。この電極の間に電界を印加することで液晶分子の傾きを逆方向に向かせることができ、かつ、その電界を取り去っても、その状態を保つことができるのである。
【0004】
しかしながら、この“電界を取り去っても、分極が残る性質”(強誘電性)は、分極を維持する分子の数が減少すると生じなくなってしまう。たとえば、一層の半分の分子を逆方向に傾けて維持したり(図4参照)、縦方向に全ての層において数分子の幅でのみ、傾きを逆向きにして維持する(図5参照)ことはできない。これは他の層の分子やその層の他の分子における立体的または電子的影響を受けるためであり、仮に、局部的な電圧で、このような一部の分子のみを逆方向に傾けられたとしても、電圧を取り去れば他の分子の影響を大きく受け、他の分子と同一の方向に傾きは戻ってしまう。特に現状では小さくても数μm四方程度の領域で強誘電性を制御できる程度である。
【0005】
また、反強誘電性を示す液晶化合物も知られており、光学活性なスメクチックCA相を示す液晶化合物が知られている。この相では、棒状分子が長軸方向に層状構造を形成し、一層ごとに分子は所定の角度で逆方向に傾いている(図6参照)。この相では、強誘電性液晶に見られる二つの安定状態に加えて、交互に分子が傾いた安定状態が存在する。このスメクチックCA相のうち隣接層間の電子反発の少ないものは、各層毎に層内の分子の傾きを制御する可能性を有している。しかし、各層の部分的な分子の傾きの制御についてまでは立体的な影響により困難である。
【0006】
一方、楕円形の分子が柱状に積み重なった構造体(「分子が柱状に積み重なった構造体」を以下単に「柱状構造体」という。)を有する液晶化合物を利用した強誘電性を示す液晶化合物の開発も行われている(以下、柱状構造体から構成される液晶相を相系列に有する液晶化合物を単に「柱状液晶化合物」という。)。楕円形の分子が柱状構造体を形成し、しかも傾きを有している場合、この分子に光学活性を導入することでスメクチックC相と同様な原理で、強誘電性を柱状構造体の軸と垂直な方向に生じさせることができるのである。ただし、この場合においても柱状構造体の一つ一つを独立に制御することはできない。
【0007】
これに対し、柱状構造体の長軸と平行な方向に分極を有する柱状液晶化合物を合成する試みも行われている。ボウル状、円錐状の化合物は互いに同じ方向で重なる性質があるため、一つの柱状構造体において長軸と平行な方向に分極した構造を形成することができる。しかし、この場合であっても、結局、自発的に隣合う柱状構造体の分極が逆を向いて並び、分極を打ち消してしまう。そのため電圧を印加して柱状構造体を同一方向に並べても、自発的に分極を打ち消す方向に配列してしまい、強誘電性は示さない(図7参照)。なおこの柱状液晶化合物については下記非特許文献1に記載がある。
【非特許文献1】バシェーら、「新しい芳香族化合物の集合体からなる一次元ナノ構造体の合成、自己集合、および、スイッチング」、ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミストリー、125巻、2003年、p8264−p8269(Mark L.Bushey et al., 「Synthesis, Self−Assembly, and Switching of One−Dimensional Nanostructures from New Crowded Aromatics」Journal of the American Chemistry,2003,124,p8264−p8269)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、柱状液晶化合物において、柱状構造体の長軸に分極の軸が平行で、かつ、各柱状構造体が独立にその分極の方向を外部電場で制御できかつ保持できるならば、柱状構造体毎に物理的な性質を変化させることができる。即ちこれを利用した情報記録素子や表示素子としての応用が可能となり、しかも数μm四方ではなく、分子の大きさレベルで強誘電性を制御できるためこの記録密度や表示密度は飛躍的に向上させることが期待できる。また、分子の分極方向を高効率で一方向に配列することができるので、圧電素子や焦電素子として用いた場合も性能の向上が期待できる。
【0009】
本発明は以上の見地に基づいて行われるものであり、柱状構造体を有する強誘電性液晶相を示す液晶化合物を提供し、更にはそれを用いて高記録密度な情報記録素子、高画素密度な表示素子等の各種高性能な製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明者が鋭意検討を重ねた結果、柱状構造を有する液晶相の分子の中心部近傍に分極部位を有し、柱状構造体内部で分子が柱状構造体の軸に沿って同じ方向を向くことが有用であることに思い至った。即ち、分子の中心部近傍に分極部位を持たせれば、形成された柱状構造体の中心部付近に分極が集中し、隣接する柱状構造体の分極から離れた位置が確保でき、柱状構造体同士の電子反発がもっとも弱くなるのである。なおこの場合において外部から電場を印加する方向も柱状構造の長軸方向とほぼ同じ方向に印加させることが望ましい。そして更に、分極部に近いところ(または同一のところ)に分子間水素結合の作用する部位を配置すれば、柱状構造体における分子間の関係をより接近させ、より強く固定することができて極めて望ましい(図8参照)。さらに、柱状構造内のほぼすべての分子が柱状構造体の軸に沿って同一方向を向けば、柱状構造全体で大きな分極が発生して強誘電性を発現させ、印加電圧によって分極方向を制御できる。前述のように、液晶化合物の分子の分極部位が分子の中央近傍に配置されているため、分極部位同士が離れて存在しているので、印加電圧を除去した後も、隣接する柱状構造体の分極の影響を受けることなく、分極方向は維持される。
【0011】
即ち、本発明は具体的な手段として、以下の手段を採用する。
まず、第一の手段として、分子の中央近傍に分極部位を有する強誘電性を示す柱状液晶化合物とする。ここで、柱状液晶化合物とは、柱状構造体からなる液晶相を相系列に有する液晶化合物をいう。また分極部位とは、原子の電気陰性度の差異によりモーメントを発生させる官能基などの部位をいい、例えばウレア基が該当し、それ以外にも、−CONH−(アミド)、−O−CO−NH−(ウレタン)、−NH−(アミン)、−CH(OH)−(アルコール)、などが該当する。
またこの場合、分子の中央近傍に水素結合部位を有することも極めて望ましい。これにより、柱状構造体における分子の間に水素結合を形成することができ、柱状構造体を固定し、より強誘電性を安定化させることができるのである。この具体的な例としては、ウレア基、−CONH−(アミド)、−O−CO−NH−(ウレタン)、−NH−(アミン)、−CH(OH)−(アルコール)、などが該当する。特にこれらの場合は、分極部位と水素結合部位とを双方有しているため、より効率よく強誘電性を発現させることができる。なお、水素結合が強度及び合成の容易さの観点からより望ましいが、金属−金属の相互作用、金属−ヘテロ結合の配位結合、イオン結合もありえる。
また、分極部位及び水素結合以外の部位においては、柱状液晶相を発現させるためにできるかぎり電気的に中性である程度の長さを有する部位が望ましく、例えば、アルキル、アルキル基又はアルコキシ基で置換された芳香族化合物、アルキル基又はアルコキシ基で置換された脂環式化合物、アルキル基で置換されたフェニル基、アルキル基で置換されたナフチル基、アルキル基で置換されたアントラニル基、アルキル基で置換されたシクロアルキル基、アルコキシ基で置換されたフェニル基、アルコキシ基で置換されたナフチル基、アルコキシ基で置換されたアントラニル基、アルコキシ基で置換されたシクロアルキル基、フッ素で一部又は全部を置換されたアルキル基で置換されたフェニル基、フッ素で一部又は全部を置換されたアルキル基で置換されたナフチル基、フッ素で一部又は全部を置換されたアルキル基で置換されたアントラニル基、フッ素で一部又は全部を置換されたアルキル基で置換されたシクロアルキル基、フッ素で一部又は全部を置換されたアルコキシ基で置換されたフェニル基、フッ素で一部又は全部を置換されたアルコキシ基で置換されたナフチル基、フッ素で一部又は全部を置換されたアルコキシ基で置換されたアントラニル基、フッ素で一部又は全部を置換されたアルコキシ基で置換されたシクロアルキル基のいずれかであることが望ましい。なおこれは下記で示す第二若しくは第三の手段において同様である。
またこの場合において、分子の中央近傍以外の部分にアクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、けい皮酸誘導体、アリル基、又はビニル基の導入により重合されたものとすることも望ましい。液晶状態は液体であるため、この場合光、開始剤、触媒、酸、塩基などを使って、その組織のまま重合体へと導け、固体化するので材料として利用しやすくなる。
【0012】
また、第二の手段として、R−NH−CO−NH−Rの分子構造を有する強誘電性を示す柱状液晶化合物とする(図1参照)。ここで、RとRは、水素、アルキル、又はアルキル基若しくはアルコキシ基で置換された芳香族若しくは脂環式化合物の置換基が望ましい。
【0013】
また、第三の手段として、Ar−NH−CO−NH−Arの分子構造を有する強誘電性を示す柱状液晶化合物とする(図2参照)。ここで、ArとArは、アルキル基、アルコキシ基、フッ素で一部または全てを置換されたアルキル基若しくはアルコキシ基、で置換されたフェニル基、ナフチル基、アントラニル基、又はシクロアルキル基が望ましい。
【0014】
また、第二の手段におけるR、Rに、又は第三の手段におけるAr、Arに、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、けい皮酸誘導体、アリル基、ビニル基等の重合性の置換基を導入すれば、液晶状態は液体であるため、光、開始剤、触媒、酸、塩基などを使って、その組織のまま重合体へと導け、固体化するので材料として利用しやすくなる。
【0015】
また、上記第一乃至第三の手段のうちいずれかを用いた記録素子、又は表示素子とする。第一乃至第三の手段の液晶化合物は分子の中央近傍に分極を有するため、隣り合う柱状構造体間の電気的作用が小さく、一つの柱状構造体ごとに独立にその分極の方向を制御又は維持できる。現在、操作型トンネル顕微鏡(STM)などにより、分子ごとに電圧をかけることが可能でなり、この技術と組み合わせることで柱状構造体ごとに分極を制御することが可能となり、特に分極部分にカルボニル酸素が存在しているような場合(例えば図9参照)、表面にカルボニル酸素があるか否かを見分けることもできるので分子レベルの記録素子や表示素子として利用ができる。
【0016】
また、上記第一乃至第三の手段のうちいずれかを用いた焦電素子、又は圧電素子とする。第一乃至第三の液晶化合物は効率よく大きな分極を生じるため、圧電素子や焦電素子の材料として利用すれば、より少量で同等な効果を得ることができる。しかもこれによって、より小さく、より軽く、より薄い素子の開発が可能となる。
【0017】
なお、第一乃至第三の手段のいずれかを用いてコンデンサーとすることも可能である。第一乃至第三の液晶化合物はいずれも、効率的に柱状構造体全体で非常に大きな分極を生じるため、一対の電極間にこの強誘電性物質をコンデンサーの電極間物質として配置すれば、非常に薄い膜で十分な電荷を保持することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上本発明により、柱状構造を有する強誘電性液晶相を示す液晶化合物、更にはそれを用いた高記録密度な情報記録素子、高い画素密度の表示素子等の各種高性能な製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明するが、本発明については種々の変更が可能であり、実施の形態及び実施例に記載される発明に狭く限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明の液晶化合物についての実施例を示す。
(合成方法)
まず、ピロガロール4.15gとオクチルブチルブロミド24.5gとをKCO26.2gを塩基としてDMF(50ml)中において60℃で4時間反応させ、1,2,3‐トリオクチロキシベンゼン9.59gを得た。そして硝酸を吸着させたシリカゲル24.6gを用いてこの1,2,3‐トリオクチロキシベンゼンをジクロロメタン30ml中で室温でニトロ化し、3,4,5−トリオクチロキシニトロベンゼン6.94gを得た。更にこの3,4,5−トリオクチロキシニトロベンゼン5.05gをグラファイト存在下でヒドラジン一水和物3mlにエタノール10mlを加え、24時間加熱還流により還元し、3、4、5−トリオクチロキシアニリン3.56gを得た。そして更にこの3,4,5−トリオクチロキシアニリン2.50gとN,N’−カルボニルジイミダゾールと0.69gとをDMF50ml中、室温で6時間反応させて、N,N’‐ビス(3、4、5−トリオクチロキシ)フェニル尿素1.83gを合成した(以下この化合物を単に「A」と表記する。)。
【0021】
なお、上記において、オクチルブロミドの代わりにドデシルブロミド、ヘキサデシルブロミドを用い、同様な反応を行うことによって同様のN、N’
‐ビス(3、4、5−トリドデシロキシフェニル)尿素(以下、この化合物を単に「B」と表記する。)、N、N’ ‐ビス(3、4、5−トリヘキサデシロキシフェニル)尿素(以下、この化合物を単に「C」と表記する。)、をそれぞれ得た。なお液晶化合物A、B、Cとは炭素の数において差異を有している。
【0022】
(相系列及び粉末X線回折)
次にこの化合物が示す液晶性について確認する実験を行い、相転移温度について測定を行った。図10に上記各液晶化合物の相系列を示す。なおこの測定は、DSC測定(5℃/分)によって行った(なおDSCにおける温度変化は5℃/分である。)。ここで、Crは結晶相を、Colrは矩形柱状液晶相を、Colhは六方柱状相を、Iは等方相を示す。
【0023】
なお上記各化合物に対する相構造の特定は、粉末X線回折試料A、B、Cに対してそれぞれ粉末X線回折測定を行った。解析結果を下記表1に示す。この結果から、観測された相は柱状構造のColr(矩形柱状液晶相)とColh(六方柱状液晶相)に分類された。なおこのうち、強誘電性を示す相はColh相であった。
【0024】
【表1】

【0025】
(自発分極の測定)
次に、これら液晶化合物それぞれについて自発分極の大きさについての測定を行った。この測定は、1cm×1cmのITO(Indium‐Tin‐Oxide)が形成されたガラス基板を5μmの間隔を対向するよう配置し、その間に液晶化合物を注入して液晶セルを作成し、この液晶セルに三角波電圧(振幅±20V/μm、6Hz周期)を印加することで行った。この結果、いずれの液晶化合物も六方柱状相のときに液晶分子の反転ピークが観察され、強誘電性液晶であることを確認できた。図11〜13に自発分極により生ずる電流のピークを示す。図11は液晶化合物Aについて、図12は液晶化合物Bについて、図13は液晶化合物Cについてそれぞれ示すものである。この測定の結果、Aの液晶化合物の自発分極は1100nC/cm、Bの液晶化合物の自発分極は1570nC/cm、Cの液晶化合物の自発分極は1260nC/cm、であった(この自発分極を測定したときの温度はそれぞれ175℃、160℃、145℃であった)。
【0026】
(顕微鏡観察)
また、自発分極の測定において使用した液晶セルを用い、偏光顕微鏡による観察を行ったところ、30V(即ち6V/μm)の電圧を印加することにより、水平配向の組織(フォーカルコニック組織)が、真っ暗な垂直配向組織(ホメオトロピック組織)へと変化し、電圧を取り去っても垂直配向組織のまま水平配向組織へ戻ることは無かった。
【0027】
以上本実施例によると、柱状液晶化合物において、光学不活性な化合物であっても強誘電性液晶相を実現することができる。スメクチックC相、スメクチックC相、および、傾いて楕円形分子が重なった柱状液晶相の場合には、光学活性な置換基の導入が必要であり、このことにより、合成はステップ数が多くなり、ラセミ体の分離などが困難になり、合成のコストが高くなるが。本実施例による強誘電性液晶化合物は、不斉炭素を持たないため、合成が簡単であり、合成コストの大幅な削減が可能となる。なお光学活性な置換基を持たないバナナ型液晶化合物も、強誘電性液晶や反強誘電性液晶になるが、配列制御が難しくデバイスへの応用が困難である一方、これら化合物は電圧印加によりその配列を簡単に制御できる。更に、本実施例における強誘電性液晶化合物は、外部からの印加電圧に応答して、その分極方向を揃えるとともに、印加電圧を除去しても、その分極を維持することができる。他の光学不活性な柱状液晶化合物では、隣り合う柱状構造体同士の電気的な作用で、柱状構造体が自発的に再配列し分極の維持ができないが、本発明の液晶化合物では、このような再配列が起こらないので、分極を維持することができる。
【0028】
(比較例についての検討)
一方で、本実施例と同様に炭素数が4のN、N’ ‐ビス(3、4、5−トリブチロキシフェニル)尿素についても合成を行い、相系列及びX線回折について同様の測定を行ったが、この液晶化合物では結晶を示すのみで、強誘電性の液晶相を示すことはなかった。
従って分局部位や水素結合部位以外の直鎖アルキル分の炭素(以下単に「炭素の数」という)の数は4より大きくする必要があり、望ましくは8以上であることがより望ましい。
またこの結果の別の見地によると、形成された柱状構造体の中心部付近に分極を集中させ、かつ、隣接する柱状構造体の分極から離れた位置を確保するために、分極部位は少なくとも炭素数が8の全分子長に対する分極部位の長さ以下の範囲に入っていることが望ましいといえる。一方で、実際の分子長については測定が極めて難しいため、分子の設計は計算方法により分子長を求めて判定の目安とすることができる。具体的には、例えば分子動力学計算MM2によると直鎖アルキル分の炭素数が8である場合の液晶化合物Aの全体の長さはおよそ36Åであり、その分極部分長さはおよそ2.5Åと見積もることができる。このことから全分子長に対する分極部分の長さの比が0.069以下であることが望ましいといえ、「分子の中心近傍」の範囲にあるといってよい。尚、A、B、Cそれぞれの表1における柱状構造体の直径の実測値をこれに取り入れた場合は、2.5Åをそれぞれの実測値で割るり0.11、0.10、0.09の値が求まり、0.11以下であることが望ましくなる。
【実施例2】
【0029】
(圧電、焦電素子)
強誘電性を示す化合物Aの置換基として、R=(CH11−OCOCH=CHや(CH2)11−OCHCH=CHのような重合性の置換基を用い、薄膜としてColh相の状態で、一方向に電圧をかけながら重合反応を行うことで強誘電性における分子配向が保持されたままポリマー化できる。この材料は圧力などでの変形や温度変化による変形がおこると分子配置に変化がおこり、薄膜の裏表の電圧差に変化をおこすことができる。この電圧差を検知することにより、圧力や温度のセンサーとして利用できる。
もちろん、実施例1における液晶化合物B、Cについても同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の液晶化合物の一例を示す図。
【図2】本発明の液晶化合物の一例を示す図。
【図3】強誘電性を示す液晶化合物の外部電界への応答の概略図。
【図4】強誘電性を示す液晶化合物についての説明図。
【図5】反強誘電性を示す液晶化合物についての説明図。
【図6】強誘電性を示す液晶化合物についての説明図。
【図7】ボウル型、円錐型の柱状構造体を有する液晶化合物の概略図。
【図8】本発明の液晶化合物における柱状構造体の概略図。
【図9】本発明の液晶化合物に対し操作型トンネル顕微鏡を用いて分子ごとに電圧をかける場合を示す概略図。
【図10】実施例1において合成した液晶化合物の相系列を示す図。
【図11】液晶化合物Aを用いたセルに三角波電圧を印加した場合の実験結果を示す図。
【図12】液晶化合物Bを用いたセルに三角波電圧を印加した場合の実験結果を示す図。
【図13】液晶化合物Cを用いたセルに三角波電圧を印加した場合の実験結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子の中央近傍に分極部位を有する強誘電性を示す柱状液晶化合物。
【請求項2】
分子の中央近傍に水素結合部位を有することを特徴とする請求項1記載の柱状液晶化合物。
【請求項3】
−NH−CO−NH−Rの分子構造を有する強誘電性を示す柱状液晶化合物(RとRは、水素、アルキル、アルキル基若しくはアルコキシ基で置換された芳香族、又は、アルキル基若しくはアルコキシ基で置換された脂環式化合物の置換基のいずれか)。
【請求項4】
Ar−NH−CO−NH−Arの分子構造を有する強誘電性を示す柱状液晶化合物(ArとArは、アルキル基、アルコキシ基、フッ素で置換されたアルキル基、又は、フッ素で置換されたアルコキシ基、のいずれかで置換されたフェニル基、ナフチル基、アントラニル基、又はシクロアルキル基のいずれか)。
【請求項5】
前記R、Rの炭素の数は8以上であることを特徴とする請求項3記載の柱状液晶化合物。
【請求項6】
前記R、Rにアクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、けい皮酸誘導体、アリル基、又はビニル基を導入することにより重合されたことを特徴とする請求項3記載の柱状液晶化合物。
【請求項7】
前記Ar、Arにアクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、けい皮酸誘導体、アリル基、ビニル基を導入することにより重合されたことを特徴とする請求項4記載の柱状液晶化合物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の柱状液晶化合物を利用した記録素子。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の柱状液晶化合物を利用した表示素子。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の柱状液晶化合物を利用した焦電素子。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載の柱状液晶化合物を利用した圧電素子。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−16352(P2006−16352A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197064(P2004−197064)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】