説明

強誘電性ポリマー層のパターニング方法

感光性架橋剤を含んでなる強誘電性スピンコーティング溶液から基材上に強誘電性ポリマーの層をスピンコーティングした後、強誘電性ポリマー層をマスクを通して照射し、強誘電性ポリマー層の非露光部分を除去することにより、例えば二フッ化ビニリデン(VDF)およびトリフルオロエチレン(TrFE)のコポリマーのような強誘電性ポリマーがパターニングされることができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、強誘電性デバイス、例えば強誘電性メモリ素子、および他の電子部品、例えば本方法により製造されたメモリ素子、に使用する強誘電性ポリマー層のパターニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メモリ技術は、二つのカテゴリー、すなわち揮発性メモリおよび不揮発性メモリに大別することができる。揮発性メモリ、例えばSRAM(スタティックランダムアクセスメモリ)およびDRAM(ダイナミックランダムアクセスメモリ)は、電力が切れるとそれらの内容を失うのに対し、ROM(読出し専用メモリ)技術に基づく不揮発性メモリは、内容を失わない。DRAM、SRAMおよび他の半導体メモリは、コンピュータおよび他のデバイスにおける情報の処理および高速記憶に広く使用されている。近年、EEPROMおよびフラッシュメモリが、データを電荷として浮遊ゲート電極に記憶する不揮発性メモリとして導入されている。不揮発性メモリ(NVM)は、多種多様な商業的および軍用電子デバイスおよび装置、例えば携帯電話、ラジオおよびデジタルカメラに使用されている。これらの電子デバイスの市場では、より低い電圧、より低い電力消費および小型化されたチップサイズを有するデバイスが依然として求められている。しかし、EEPROMおよびフラッシュメモリは、データ書込に長時間を要し、データを再書き込みできる回数が限られている。
【0003】
上記種類のメモリの欠点を回避する方法として、強誘電性フィルムの電気的分極によりデータを記憶する強誘電性ランダムアクセスメモリ(FRAM)が提案された。強誘電性メモリセルは、強誘電性キャパシタおよびトランジスタを含んでなる。その構造は、DRAMの記憶セルに類似している。その違いは、FRAMの場合には強誘電性材料である、キャパシタの電極間の材料の誘電特性にある。ある材料が、永久的な電気双極子モーメントを特徴とする、すなわち外部電界を作用させなくても、破壊電圧より低い電界で、その電気双極子モーメントが少なくとも二つの状態間で切り換えできる場合、その材料は強誘電性であると云われる。この場合、その格子構造の単位セル中に、二つ以上の安定した電気的分極状態がある。これによって、その材料の誘電率は、印加される電界(E)の非線形関数になる。表面電荷密度D対キャパシタに印加される電界Eをプロットすると、図1に概略的に示されるような特徴的なヒステリシスループが得られる。正および負の飽和分極(P)は、メモリセルの二値論理状態、例えば「1」および「0」に対応するのに対し、残留分極(P)は、電源の電圧、従って電界Eが切れた時にセルが存在する状態に対応する。従って、残留分極は、メモリセルの不揮発性を与える。
【0004】
メモリセルキャパシタ上の強誘電性被膜は、無機材料、例えばチタン酸バリウム(BaTiO)、ジルコニウム酸チタン酸鉛(PZT−Pb(Zr,Ti)O))、PLZT((Pb,La)(Zr,Ti)O))またはSBT(SrBiTa)から、または有機分子材料、例えばトリグリシンサルフェート(TGS)または極性基を含む有機オリゴマーまたはポリマー、例えばポリビニリデンジフルオリドp(VDF)(CH−CF、奇数番号のナイロンまたはポリビニリデンシアニドp(VCN)で出来たものであってよい。これらの極性層の最適化は、例えばp(VDF)とトリフルオロエチレンTrFE(CHF−CFまたはテトラフルオロエチレンTFE,(CF−CFまたはそれらのターポリマーもしくはより高いオーダーのポリマー組合せの、(ランダム)コポリマーの使用によりなされてよい。一般的に、電気的破壊フィールドが、極性を反転させるのに必要な切り換えフィールド(保磁フィールドに関連)より高い限り、非対称性空間群(結晶単位セル中での非対称)に属する結晶構造を有する結晶相を有するすべての材料を使用できる。
【0005】
ポリマー集積回路に使用する不揮発性メモリセルの場合、後者の群から選択される材料、すなわち有機強誘電性材料、例えば上記のような材料は、例えば処理の際のコスト、集積性または工面可能な一次的予算に関して、強誘電性層として好ましい。
【0006】
しかし、これらの材料をデバイスに集積することは、簡単なことではない。一般的に、これらの材料は、一般的な極性有機溶剤に対して優れた溶解性を有する。さらに、これらの材料は疎水性であり、従って、水溶液に適さない。その上、これらの材料は、他のデバイス層に対して低い密着性を示す。加えて、これらの材料は、薬品および放射線に対してかなり不活性である。そのため、標準的な手順、例えば標準的な写真平版印刷による強誘電性層のパターニングが妨げられる。様々な用途において、パターニングは不要であるか、または底部および/または上部電極層のパターニングにより回避されるが、例えば能動ゲート誘電体のようなポリマーエレクトロニクスにおける用途では、例えばソース/ドレンおよび/またはゲート層と接触させる経路の製造が必要になる。
【0007】
すでに述べたように、パターニングに標準的な平版印刷を応用することは困難である。これは、強誘電性ポリマーが、フォトレジストの除去に一般的に使用されている極性溶剤に溶解するためである。このために、上側層のすべてが完全に持ち上がるが、これは無論、電子デバイスの処理には好ましくない。
【0008】
US2003/0001151では、電極列間に挟まれた、パターニングされた強誘電性ポリマー構造を備え、それらの電極列が強誘電性ポリマー構造を横切って電気信号を実現する、強誘電性ポリマー(FEP)記憶またはメモリデバイスが記載されている。この強誘電性メモリデバイスは、写真平版印刷技術を使用する、スピン−オンポリマー処理およびエッチングにより製造される。この文献では、強誘電性層のパターニングは、下記のように行われる。先ず、フォトレジストを強誘電性層上にスピンコーティングする。次いで、フォトレジストを例えばUV光に露出し、続いてパターニングしてマスクを形成する。その後、酸素プラズマエッチングを温度約23℃および圧力約1気圧で行う。エッチング剤がFEP層の露光部分を効果的に除去し、非露光またはマスク被覆した部分を留置し、区分された細長いFEP構造が得られる。しかし、酸素プラズマエッチングの使用により、プラスチックまたはポリマー集積回路の場合、有機層で出来てなることが多い、FEPを支持する基材に損傷を生じるか、あるいは異原子またはイオンが注入される場合がある。これは、漏電の問題を引き起こすことがあるので、電子またはメモリデバイスの処理では不利である。さらに、不完全エッチングの場合、好ましくない残留層がFEPを支持する基材表面上に残ることがある。
【0009】
例えば電子的またはメモリデバイスの処理に使用できる、簡単で、低コストで、US2003/0001151に記載されている方法の欠点が無く、強誘電性層がパターニングの後にも強誘電性のままである、強誘電性層のパターニング方法が望ましい。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、好ましくないイオン形成および/または注入を引き起こさず、好ましくは少なくとも部分的に、本来の強誘電特性ならびに好ましくは基材またはその下にある層を無傷のまま残す、強誘電性層のパターニング方法を提供することにある。
【0011】
上記の目的は、本発明による方法およびデバイスによって達成される。
【0012】
本発明は、強誘電性ポリマーまたはオリゴマー層のパターニング方法であって、
架橋剤を有する強誘電性ポリマーまたはオリゴマー組成物を用意し、
該強誘電性ポリマーまたはオリゴマー組成物を基材に塗布し、該基材上に強誘電性ポリマーまたはオリゴマー層を形成し、
該強誘電性ポリマーまたはオリゴマー層の一部を選択的に架橋させ、そして
該強誘電性ポリマーまたはオリゴマー層の未架橋部分を除去する
工程を含んでなる方法を提供する。
【発明の具体的説明】
【0013】
本発明の方法により形成される強誘電性ポリマー層は、残留分極Pr>10mC/m、好ましくは>50mC/m、例えば約100mC/mを有することができる。強誘電性ポリマーは、好ましくは主鎖ポリマーでよい。しかし、強誘電性ポリマーは、ブロックコポリマーまたは側鎖ポリマーでもよい。強誘電性ポリマーまたはオリゴマーは、少なくとも部分的にフッ素化された材料を含んでなることができる。少なくとも部分的にフッ素化されたポリマーまたはオリゴマー材料は、(CH−CF、(CHF−CF(CF−CF、またはそれらの組合せから選択し、(ランダム)コポリマー、例えば(CH−CF(CHF−CFまたは(CH−CF(CF−CF、を形成することができる。
【0014】
強誘電性ポリマーまたはオリゴマー組成物を基材に塗布する工程は、例えば滴下流し込み、ドクターブレード、予備形成された複合材料フィルムの張り合わせ、印刷またはスピンコーティングにより行うことができる。
【0015】
本発明の実施態様では、架橋剤は感光性、薬品感応性または感熱性でよい。架橋剤は、放射線架橋剤であることができる。放射線は、光、例えばレーザー光でよく、その光は、いずれかの好適な波長、例えば光学的、IR、UV波長を有することができる。あるいは、放射線は、強誘電性ポリマーに損傷を起こさないか、またはさほどの損傷を起こさない限りにおいて、例えば低エネルギー電子線またはX線によって与えられる、光線または粒子でもよい。次いで、強誘電性層の一部を、マスクを通して放射線に露出することにより、選択的な架橋を行うことができる。もう一つの方法は、例えばレーザースポットを通して伝達されてよい熱の適用により誘発される架橋剤を使用することである。
【0016】
さらに、架橋剤は、架橋後のイオン系生成物が最少に抑えられるという制限付きで、電子不足中間体を形成するものであってよい。電子不足中間体は、例えばラジカル、カルベンまたはニトレン中間体であってよい。架橋剤は、例えばアジド、例えばビスアジドであってよい。より具体的には、ビスアジドは、例えば2,6−ビス(4−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノンであってよい。
【0017】
別の実施態様では、スピンコーティング溶液は、有機溶剤をさらに含んでなることができ、これは例えばジメチルホルムアミドまたは2−ブタノンであってよい。
【0018】
強誘電性ポリマー層のパターニングは、例えば強誘電性ポリマー層中に穴を形成し、後で例えば2つの導電性層の間で接触させ、通路を形成するのに使用できる。
【0019】
本発明は、パターニングされ、架橋された強誘電性層を含んでなるデバイスをさらに提供する。強誘電性層は、本発明の方法によりパターニングすることができる。一実施態様では、デバイスはキャパシタでよい。別の実施態様では、電子デバイスはメモリ素子でよい。架橋された強誘電性層は、放射線架橋、薬品架橋または熱架橋されたものであってよい。
【0020】
本発明の優位性は、強誘電性ポリマーの露光部分を除去するのにドライエッチングを必要とせず、従って、基材の損傷およびエッチング剤化学種、例えばイオンまたは分子、またはガスによる汚染が実質的に起こらないことである。本発明における方法のもう一つの利点は、容易かつ迅速に行うことができ、従って、低コスト製法であることである。
【0021】
本発明の方法により、強誘電性誘電体を備えたものであってよいキャパシタ、および非強誘電性誘電体を備えたものであってよいトランジスタを備えたデバイスを加工することができる。キャパシタの強誘電性誘電体を本発明の方法を使用してパターニングしてから、トランジスタの非強誘電性誘電体を堆積させることができる。
【0022】
本発明のこれらのおよび他の特性、特徴、および利点は、例として本発明の原理を説明する添付の図面と共に、下記の詳細な説明から明らかとなろう。この説明は、例として記載するだけであり、本発明の範囲を制限するものではない。下記の参照番号は、添付の図面に対応する。
【0023】
本発明を、特別な実施態様に関して、特定の図面を参照しながらしながら説明するが、本発明は、この実施態様に限定されるものではなく、請求項によってのみ、規定される。これらの図面は図式的に示すだけであり、限定的ではない。図面中、一部の図は説明のために誇張されており、原寸ではない。本説明および請求項で用語「含んでなる(備えてなる)」を使用する場合、他の部品または工程を排除しない。単数の名詞に不定冠詞または定冠詞、例えば「ある(a)」、「ある(an)」、「その(the)」が使用されている場合、それは、別の内容が具体的に記載されていない限り、その名詞の複数を含む。
【0024】
さらに、説明および請求項中で、第一、第二、第三、等の用語は、類似の部品間を区別するためであって、必ずしも順次的または時間的な順序を説明するために使用するのではない。そのように使用される用語は、適切な状況下では互換的であり、本明細書に記載される本発明の実施態様は、ここに記載または例示された以外の順序で操作可能なものと理解されるべきである。
【0025】
その上、説明および請求項中で、上部、底部、上および下、等の用語は、説明目的に使用するのであって、必ずしも相対的な位置を説明するためではない。そのように使用される用語は、適切な状況下では互換的であり、本明細書に記載される本発明の実施態様は、ここに記載または例示された以外の向きで操作可能なものと理解されるべきである。
【0026】
本発明の一態様は、強誘電性ポリマー層をポリマーの架橋後にパターニングするものである。
【0027】
当業者には公知のように、架橋は多くの方法で達成することができる。強誘電性p(VDF)材料に関しては、3通りの方法だけが公知である。第一の方法では、ポリマーを、マスクを通して、上記のように酸素プラズマに、または高エネルギー照射、例えばシンクロトロンX線(2〜10keV、100J/cm)、電子線(3MeV5 10rads)、イオン線(1keV〜100MeV)、エキシマーレーザー(ArF−6.4eVおよびKrF−5eV)またはUV(2.25〜3.96eV)に露出することにより、架橋を達成することができる(E. Katan J.Appl. Polym. Sci. 70 1998 1471-1481)。しかし、この手法は、一般的に本来のポリマー中に欠陥を導入し、メモリ用途に必要な強誘電性効果を低下させる。この処理は、強誘電性相を常誘電性相に変換するので、この方法は、強誘電特性が減少した、リラクサ強誘電体を製造するのに使用される[Q.M. Zhang, Science 280, 1998, 2101-22104]。その上、この方法のコストは、大量生産でも高いことがあり、例えばメモリデバイスの処理に使用するにはあまり適していない。それにも関わらず、上記種類の放射線を使用する直接光エッチングによるパターニングが行われている[H.M. Manohara et al. J. Micromechanical Systems 8(4) 1999 417-422およびJ. Choi, Appl. Phys. Lett., 76(3)2000, 381-383]。
【0028】
第二の方法は、スピンコーティング溶液に化学試薬を加えることを通して、ポリマーを架橋させることを含んでなる。メモリのパターニングおよび製造とは異なった目的に関して説明されているが、架橋の成功した試みが最近の文献R. Casalini et al. Appl. Phys. Lett. 79(16), 2001, pp.2627-2029およびG.S. Buckley et al. Appl. Phys. Lett. 78(5), 2001, pp.622-624、およびC.M. RolandおよびR. CasaliniのUS2006/0187143中に記載されている。この方法は、スピンコーティングした、強誘電性ポリマー、過酸化物およびラジカルトラップからなる被膜を加熱することを伴うものである。しかし、架橋反応から好ましくないイオン系化学種が副生成物として形成され、架橋した網目中に残留する。ポリマー層中の可動イオンまたは他の化学種は、製造されたデバイス中に漏電問題ならびに強誘電性効果の低下を引き起こすことがあるので、これはかなり好ましくない。さらに、熱は閉じ込めるのが困難であり、パターニングに関連する箇所で分解能の問題を引き起こす。従って、パターニングが感光性過酸化物を必要とすることになるが、これは上記の先行技術では使用されていない。
【0029】
第三の方法では、架橋されるべきポリマーが好適な塩基、例えばビスアミンを含むことができる。VDF単位の−CH部分は、酸性水素原子を含み、これらの単位のそれぞれがアミン基と反応し、イミンを形成する[D.K. Thomas, J. Appl. Pol. Sci. 8, 1964 1415-1427]。しかし、各イミン基形成毎に2個のHF分子が放出されるが、これは強誘電特性に有害である。過酸化物法と同様に、熱活性化が必要であり、これはマスクを通したパターニングにはあまり適当ではない。
【0030】
本発明にあっては、強誘電性ポリマーをパターニングするための、好ましくないイオン形成を引き起こさず、本来の強誘電特性を少なくとも部分的に無傷で残す架橋方法が提案される。その上、ポリマーの強誘電特性を劣化させる上記の欠陥が最少に抑えられる。
【0031】
本発明の一実施態様では、溶液から、例えばスピンコーティングまたはシルクスクリーン印刷もしくはインクジェット印刷により、強誘電性ポリマー層が基材上に堆積させてよい。用語「基材」は、使用されることができる、またはデバイス、回路もしくはエピタキシャル層が上に形成されることができる、下にある材料を含むことができる。さらに、「基材」は、半導体基材、例えばドーピングしたシリコン、ヒ化ガリウム(GaAs)、ヒ化リン化ガリウム(GaAsP)、リン化インジウム(InP)、ゲルマニウム(Ge)、またはシリコンゲルマニウム(SiGe)基材を包含することができる。「基材」は、半導体基材部分に加えて、例えば絶縁層、例えばSiOまたはSi層を包含することができる。従って、用語基材は、ガラス上シリコン、サファイア上シリコン基材も包含する。このように、用語「基材」は、一般的に、問題とする層または部分の下に位置する層の部品を規定するのに使用される。また、「基材」は、層が上に形成される何らかの他のベース、例えばガラス、プラスチックまたは金属層であってもよい。
【0032】
従って、先ず、放射線架橋し得る絶縁ポリマーを、例えば本発明の一実施態様により、強誘電性ポリマーおよび架橋剤を含んでなる溶液を調製し、次いでその層をスピンコーティングにより塗布することによって、基材に塗布する。この層を塗布するために、他の方法、例えば印刷技術、例えばインクジェット印刷またはシルクスクリーン印刷も使用できる。その上、ポリマー層を基材上に塗布するための一般的に使用されているどの手順、例えば滴下流し込み、ドクターブレード、予備形成された複合材料フィルムの張り合わせ等、も使用できる。所望により、ポリマー溶液は、例えば2−ブタノンまたはジメチルホルムアミドであってよい、溶剤を含んでいてもよい。
【0033】
強誘電性ポリマーは、例えばフッ素原子を含むポリオレフィン(例えば二フッ化ビニリデン(VDF)とトリフルオロエチレン(TrFE)またはクロロトリフルオロエチレンのランダムコポリマーおよび他のフッ素化ポリマー)を基材とすることができる。しかし、他の強誘電性ポリマー、例えばナイロン、シアノポリマー(ポリアクリロニトリル)、ポリ(シアン化ビニリデン)および側鎖中にシアノ基を含むポリマー、ポリ尿素、ポリチオ尿素およびポリウレタン、も使用できる。
【0034】
さらに、強誘電性液晶ポリマーも、例えばディスプレイまたは記憶用途に使用できる。しかし、これらの材料の残留分極Pは、一般的に低く(〜5−10mC/m)、大分子に由来する双極子モーメントに依存する。これはメモリ用途には低過ぎる場合がある。さらに、操作条件は、液晶特性のために、温度に非常に敏感である。
【0035】
メモリ用途には、−20〜150℃の温度で安定した特性が望まれる。さらに、強誘電性ポリマーの残留分極Pは、できるだけ高いことが重要である。従って、残留分極が>10mC/m、好ましくは>50mC/m、例えば〜100mC/mであるフッ素含有ポリマーの場合のように、大きな双極基の密度が高い材料が好ましい。上限は、正確な用途により、決定することができる。例えば、1T−1C(1トランジスタ、1キャパシタ)デバイスは、破壊読出しの際に十分な電荷を発生するのに可能な、最も高いPを必要とする。強誘電性トランジスタ構造には、Pが、半導体が保持すべきトランジスタチャネルにおけるカウンター電荷を決定する。従って、半導体特性が重要である。Pは、必ずしもできるだけ高い必要はなく、良好なメモリウインドを得るために、VとIsdの十分な差を誘発するだけ高いのが好ましい。
【0036】
が低過ぎてはならないことのもう一つの重要な理由は、記憶した状態(分極)の安定性が少なくとも部分的にそれに依存することである。これに関して、保磁フィールドも重要である。Eが高過ぎると、切換電圧が高くなる(一般的に2xEx分極飽和のための層の厚さ)。しかし、Eが低過ぎると、寄生キャパシタンスを有する他の回路に接続した時に、キャパシタ中で有害な分極フィールドが現れる。
【0037】
従って、他のポリマーまたは分子が存在するが、フッ素含有材料は、最も有益な特性を有すると思われる。フッ素化ポリマーは、好ましくは主鎖ポリマーでよい。しかし、フッ素化ポリマーは、ブロックコポリマーまたは側鎖ポリマーでもよい。フッ素化ポリマーは、例えば(CH−CF、(CHF−CF(CF−CF、またはそれらの組合せで、(ランダム)コポリマー、例えば(CH−CF(CHF−CFまたは(CH−CF(CF−CF、を形成することができる。問題は、これらのポリマーが放射線および薬品の両方に対してかなり不活性なことである。従って、化学会社から安価で入手できる純粋な主鎖フッ素化ポリマーを使用する場合、反応性の高い(架橋性)試薬で架橋がなされるべきである。
【0038】
架橋剤は、架橋後のイオン系(副)生成物が最少に抑えられるという制限付きで、反応性の電子不足中間体を形成してよい。電子不足中間体は、例えばラジカル、ニトレンまたはカルベン中間体であってよい。ラジカル中間体は不対電子を有し、ラジカル重合または架橋を開始することができるのに対し、カルベンおよびニトレン中間体は、厳密にラジカルではない。すなわち、三重項状態では、これらの中間体はビラジカルであるが、それらの共通の一重項状態では、2個の遊離電子が対になる。そのような対になった電子を有する化学種は、単結合中に挿入することができる。これは、反応性カルベンまたはニトレンの形成を伴う生成物以外の反応生成物を残さないので、非常に魅力的な特徴である。架橋剤は、例えば感光性または感熱架橋剤であってよい。本発明で使用できる架橋剤の具体的な例は、アジド、例えばビスアジド(例えば2,6−ビス(4−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン)またはジアゾキノンである。本発明で使用できる他の可能な架橋剤は、アゾ化合物、例えば1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(両方共、ラジカル開始剤で、感熱性のみである)、またはアジド化合物、例えば4−4−ジチオビスフェニル−アジド、3,3’−ジアゾドジフェニルスルホン(両方共、感熱性で、深UV感応性<300nmである)またはジアゾ化合物(2,3−ビス−ジアゾメチル−6−フェニル−2,3,3A,6−テトラヒドロ−1H−インデン、N,N’−4,4’−ビスフェニリレンビス(6−ジアゾ−5,6−ジヒドロ−5−オキソ−1−ナフタレンスルホンアミド(両方共、感熱性で、感光性である)であってよい。
【0039】
第二に、架橋性試薬は、好ましくはかなり反応性であるべきであるが、イオンが強誘電性層中の電荷を相殺するので、デバイスの作動をひどく損なうであろうような汚染物としての副生成物を全くまたは大量に残さないことが重要である。従って、上記のように、重大なイオン系汚染物を残さない架橋剤が本発明において提案される。ラジカル架橋剤である過酸化物は、イオン系汚染物を与えることが示されているので、本発明では使用しないのが好ましい。
【0040】
スピンコーティングの後、強誘電性ポリマー層にマスクを付ける。マスクは、例えば強誘電性ポリマー層上にフォトレジスト層を例えばスピンコーティングにより堆積させ、続いて照射およびフォトレジストのパターニングを行うことにより、形成されることができる。フォトレジスト層は、例えばフォトレジストとして使用できるいずれかの好適なポリマー、例えばポリ(ビニルシンナメート)またはノボラック系ポリマー、から製造されることができる。
【0041】
あるいは、予備形成されたマスク、例えばレチクル、を通したスピンコーティング混合物の接触露光も使用できる。その場合、レジスト工程を行う必要がない。非露光部分は、好適な手順、例えばアセトン中に溶解させることで直接除去することができる。
【0042】
次いで、強誘電性ポリマー層が、マスクを通して、好適な放射線エネルギー、例えばUV光で照射される。強誘電性ポリマーの露光部分の照明により、架橋したポリマー網目、従って、不溶層が形成される。マスクは、パターニングされたフォトレジスト層により規定される場合、使用されたレジストに応じて、強誘電性層の非露光部分が除去される前または後に除去されることができる。非露光部分を除去した後のマスク除去は、例えばストリッピングにより行なれることができる。続いて、架橋されていない、ポリマー層の望まれておらずそれ故非露光の部分は、例えばアセトンで洗浄することにより除去されて、強誘電性ポリマー材料のパターニングされた被膜を残すことができる。パターニングされた、架橋した強誘電性ポリマー層は、例えば140℃で2時間アニーリングし、強誘電特性を増大する、例えば残留分極Pを〜20mC/mより高いレベルに増大することができる。
【0043】
本発明の方法の、標準的な写真平版印刷法に対する利点は、追加の処理工程を必要としないことである。これによって、処理時間が短縮され、従って、パターニングされた強誘電性ポリマー層をいずれかの様式で必要とする、低コストのデバイス製造方法が得られる。本発明の方法を適用することにより、すなわち好適な架橋剤をスピンコーティング溶液に加えることにより、先行技術で開示されている方法の欠点を全く伴わないで、強誘電性ポリマー層をパターニングすることができる。
【0044】
その上、本発明による架橋したポリマーにあっては、元の架橋していないポリマーに由来する結晶部分が、架橋したポリマー中に見られる。従って、スピンコーティングの後、層が、同じポリマーおよび架橋剤からなる無定形マトリックス中に埋め込まれた結晶性フッ素化ポリマー材料の小さな部分を含んでなる構造を有する、と結論付けることができる。従って、露光により無定形部分における架橋が引き起こされ、結晶性部分は変化せずに残る。従って、デバイスの切換を行うポリマーの部分は架橋を含まないままであり、これは、本発明により形成されるデバイスにとって非常に重要である。従って、本発明による方法は、電子デバイス、例えばキャパシタ、メモリ素子、および能動的強誘電性層を必要とする他のデバイス、に使用するのに特に好適である。これは、ディスプレイに使用されるPDLC(多分散液晶)に対する利点である。PDLCは2つの部分、すなわちポリマーマトリックスであるベースポリマー、および特別な分子である強誘電性部分、を含んでなる。従って、PDLCの場合、強誘電性部分は完全な分子に関係するのに対し、本発明の場合、強誘電性部分はポリマーの一部でよく、完全な分子ではない。従って、架橋の後、PDLCは実質的に固定され、そのため、低い双極子モーメントを有する。双極子モーメントが小さい程、残留分極は低く、従って、その低い双極子モーメントのために、PDLCは残留分極が低く、従って、電子デバイスに使用するには不適当である。
【0045】
本発明の特別な実施態様では、第一実施態様に記載するような、強誘電性ポリマー層をパターニングするための方法を、キャパシタの処理に応用する。この実施態様は、例として与えられるだけであり、本発明の方法はキャパシタの処理に限定されるものではない。
【0046】
強誘電性ポリマー層が、強誘電性ポリマー材料および感光性架橋剤を含んでなる溶液から基材上にスピンコーティングされる。この溶液は、例えばTrFe(50%)/VDF(50%)コポリマー(VDFおよびTrFEの他の百分率比も使用できる)2.01g、2,6−ビス(4−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン0.20g、および2−ブタノン49.51gの混合物を含んでなることができる。基材は、例えばガラス、半導体、導電性ポリマー、または他のいずれかの好適な導電性基材でよく、キャパシタの第一電極として酸化インジウムスズ(ITO)電極を含むことができる。基材は、例えば標準的なAnnemas洗浄手順により洗浄することができる。Annemas洗浄手順は、強アルカリ性洗剤溶液で満たした超音波洗浄浴中で洗浄した後、水洗し、続いてイソプロピルアルコールで濯ぎ、イソプロピルアルコール蒸気で乾燥させることを含む。Annemas洗浄手順は、非常に強いアルカリ性石鹸を使用するので、ガラス基材および与えられたガラスの洗浄にのみ使用される。
【0047】
スピンコーティング工程の際、基材を、例えば2000rpmで20秒間回転させた後、500rpmで30秒間回転させることができる。続いて、堆積した強誘電性ポリマー層を例えば60℃で60秒間乾燥させることができる。上記の手順により、厚さ200〜250nmの強誘電性ポリマー層が基材上に堆積する。異なった状況下では、必要に応じて他の厚さも得られてよい。強誘電性ポリマーの基材上への密着性を強化するために、Annemas洗浄した基材をアミノシラン密着性促進剤で処理することができる。しかし、この工程は、所望により行なうものであり、使用する基材の種類によって異なる。
【0048】
次いで、ポリマー層を、感光性架橋剤の吸収波長に対応する波長の光、例えば波長365nm(これはビスアジドの吸収波長である)の光、N雰囲気中の光に露出することができる。窒素雰囲気が好ましいが、架橋剤の効果を高めるために、酸素および水を含まない環境を使用することができ、酸素および水を含まなければ、他の雰囲気も使用できる。露光は、キャパシタの第一電極であるITO電極パターンと同一のパターンを有するマスクを通して行うことができる。薄い強誘電性ポリマー層の架橋は、空気中に存在する酸素により抑制されるので、空気中で露光させることはできない。マスクは、本発明の第一実施態様で記載したように、強誘電性ポリマー層の上に付ける。露光の際、上記の例では、アジド基が分子状窒素を連続的に失う。各分裂がニトレンを生成する。ニトレンは、高反応性の電子不足中間体である。架橋は、ニトレン中間体が炭素−水素または炭素−炭素結合中に入り、ポリマーを不溶性網目に転化することにより、達成されることができる。次いで、強誘電性ポリマー層の露光部分を、例えばアセトン噴霧により現像することができる。このようにして、強誘電性ポリマー層の非露光部分が溶解し、パターニングされた強誘電性ポリマー層が得られてよい。
【0049】
最後の工程では、パターニングされた強誘電性ポリマー層をアニーリングし、強誘電特性を強化することができる。強誘電性ヒステリシスループは、例えばSawyer-Tower設定で10Hz正弦波電圧で測定することができる。架橋前(図2のグラフ1)および架橋後(図2のグラフ2および3)の強誘電性ヒステリシスループが図2で比較される。後者の場合、アニーリングした場合(図2のグラフ2)およびアニーリングしていない場合(図2のグラフ3)の両方のヒステリシスループが示される。図2から、アニーリングにより、残留分極Pがほとんど2倍になることが明らかであり、これは、電源の電圧を切った時にメモリセルが存在する状態に対応する。
【0050】
続いて、例えば金属(例えばアルミニウム、金、銅、等)、導電性ポリマー、または他の好適な導電性材料であってよい導電性層を強誘電性ポリマーパターンの上に、キャパシタを形成するための第二電極として蒸着させることができる。
【0051】
強誘電性ポリマーをパターニングするための本発明の方法を使用することにより、強誘電性ゲートアイソレータ層を含んでなる十分にパターニングされた積重構造を製造することができる。
【0052】
好ましい実施態様、特定の構造および配置、ならびに材料を本発明のデバイス用に説明したが、無論、本発明の範囲および精神から離れることなく、形態および詳細における様々な変形または修正を加えることができるものと理解されるべきである。
【0053】
強誘電性ポリマー、例えば二フッ化ビニリデン(VDF)およびトリフルオロエチレン(TrFE)のコポリマーを、その強誘電性ポリマーの層を、感光性架橋剤を含んでなる強誘電性スピンコーティング溶液から基材上にスピンコーティングした後、強誘電性ポリマー層をマスクを通して照射し、強誘電性ポリマー層の非露光部分を除去することにより、パターニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】強誘電性キャパシタ上の表面電荷密度Dと印加された電界Eの関係を示すグラフである。
【図2】本発明の特別な実施態様により、アニーリングを行った場合と行わなかった場合の、架橋前と架橋後の強誘電性ヒステリシスループを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電性ポリマーまたはオリゴマー層のパターニング方法であって、
架橋剤を有する強誘電性ポリマーまたはオリゴマー組成物を用意し、
前記強誘電性ポリマーまたはオリゴマー組成物を基材に塗布し、前記基材上に強誘電性ポリマーまたはオリゴマー層を形成し、
前記強誘電性ポリマーまたはオリゴマー層の一部を選択的に架橋させ、そして、
前記強誘電性ポリマーまたはオリゴマー層の未架橋部分を除去する
工程を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記強誘電性ポリマーまたはオリゴマーが、主鎖ポリマー、ブロックコポリマーまたは側鎖ポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記強誘電性ポリマーまたはオリゴマー層が、少なくとも部分的にフッ素化された材料を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも部分的にフッ素化されたポリマーまたはオリゴマー材料が、(CH−CF、(CHF−CF(CF−CF、またはそれらの組合せから選択され、(ランダム)コポリマー、例えば(CH−CF(CHF−CFまたは(CH−CF(CF−CF、を形成する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記架橋剤が、電子不足中間体を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記電子不足中間体が、ラジカル、カルベンまたはニトレン中間体である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記架橋剤がビスアジドである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記スピンコーティング溶液が、有機溶剤をさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記有機溶剤が2−ブタノンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
パターニングされ、架橋された強誘電性層を備えた、電子的デバイス。
【請求項11】
前記電子的デバイスがキャパシタである、請求項10に記載の電子的デバイス。
【請求項12】
前記電子的デバイスがメモリ素子である、請求項10に記載の電子的デバイス。
【請求項13】
前記架橋された強誘電性層が、放射線架橋、薬品架橋または熱活性化架橋された層である、請求項10に記載の電子的デバイス。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−525337(P2007−525337A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544639(P2006−544639)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【国際出願番号】PCT/IB2004/052688
【国際公開番号】WO2005/064653
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.FRAM
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】