説明

強誘電性液晶組成物および液晶表示素子

【課題】液晶表示素子に用いた場合に耐衝撃性が得られる強誘電性液晶組成物を提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるキラル化合物を含有強誘電性液晶組成物。


(上記式(1)において、、R1は、非キラルな基であり、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数4〜18の飽和もしくは不飽和のアルキル基もしくはアルコキシアルキル基である。Rは、キラルな基である。X〜Xは、それぞれ独立して−CH、−CF、ハロゲン原子または水素原子を表す。ただし、X〜Xのうち1つ以上は、それぞれ独立して−CH、−CFまたはハロゲン原子である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性を有する強誘電性液晶組成物を用いた液晶表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は薄型で低消費電力などといった特徴から、大型ディスプレイから携帯情報端末までその用途を広げており、その開発が活発に行われている。これまで液晶表示素子は、TN方式、STNのマルチプレックス駆動、TNに薄層トランジスタ(TFT)を用いたアクティブマトリックス駆動等が開発され実用化されているが、これらはネマチック液晶を用いているために、液晶材料の応答速度が数ms〜数十msと遅く、動画表示に充分対応しているとはいえない。
【0003】
強誘電性液晶は、応答速度がμsオーダーと極めて短く、高速デバイスに適した液晶であり、視野角が広いなどの優位性を有するため、高性能な液晶表示素子が提供できるとして期待されている。
しかしながら、強誘電性液晶は、ネマチック液晶に比べて分子の秩序性が高いために、衝撃により分子配向の規則性が乱されると元の状態に戻りにくい、すなわち外部衝撃に非常に弱いという問題を抱えている。
【0004】
耐衝撃性を向上させる手段としては、例えば、一対の基板間に隔壁(リブとも称する。)を配置する方法が提案されている(例えば特許文献1および特許文献2参照)。しかしながら、隔壁が設けられている場合であっても、液晶表示素子に局所的に衝撃が加わった場合には、配向乱れが生じてしまうという問題がある。
また、耐衝撃性を向上させる手段として、例えば、強誘電性液晶組成物にゲル化剤を添加する方法(特許文献3参照)、強誘電性液晶組成物に硬化型樹脂を添加する方法、強誘電性液晶組成物に熱可塑性樹脂を添加する方法(特許文献4参照)、強誘電性液晶構造を側鎖に有する強誘電性高分子液晶を用いる方法、液晶高分子化合物と低分子の強誘電性液晶化合物を混合する方法(特許文献5参照)が提案されている。しかしながら、これらの方法では、駆動電圧が高くなるという問題がある。また、強誘電性液晶組成物に高分子化合物を用いたとしても、ある程度の弱い衝撃に対して分子配向の規則性が乱れにくくなるという効果は示すものの、強い衝撃によって配向の規則性が乱れると元の状態に戻りにくいという本質的な問題は解決されていない。
【0005】
最近では、耐衝撃性の向上を目的として、強誘電性液晶組成物自体の耐衝撃性を高める試みがなされており、強誘電性液晶組成物に用いるキラル化合物の構造が種々検討されている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−77541号公報
【特許文献2】国際公開第02/03131号パンフレット
【特許文献3】特開2004−233414号公報
【特許文献4】特開2003−114440号公報
【特許文献5】特許第3541437号公報
【特許文献6】国際公開第2010/031431号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献6によれば、4個のベンゼン環が直接結合された所定の構造を有するキラル化合物を含有する強誘電性液晶組成物を用いた場合には、衝撃を加えた後でもコントラスト比が良好であったことが報告されている。
一方、特許文献6には、3個もしくは5個のベンゼン環が直接結合された所定の構造を有するキラル化合物も開示されているが、耐衝撃性についての詳しい記述はない。さらに、3個のベンゼン環が直接結合された所定の構造を有するキラル化合物を含有する強誘電性液晶組成物を用いた場合には、衝撃を加えるとコントラスト比が悪くなったことが報告されており、耐衝撃性には改善の余地がある。
また、4個もしくは5個のベンゼン環が直接結合された所定の構造を有するキラル化合物を含有する強誘電性液晶組成物を用いた場合には、複屈折が高くなるので、セルギャップを狭くする必要があり、液晶表示素子とした場合に歩留りが悪くなる。
複屈折の改善のためには、3個のベンゼン環が直接結合された所定の構造を有するキラル化合物を用いることが望ましいが、上述のように耐衝撃性に劣ってしまうことが懸念される。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、液晶表示素子に用いた場合に耐衝撃性が得られる強誘電性液晶組成物を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、強誘電性液晶組成物を用いた液晶表示素子の耐衝撃性について種々検討を重ねた結果、3個のベンゼン環と1個のシクロヘキサン環とが直接結合された所定の構造を有するキラル化合物を含有する強誘電性液晶組成物を用いた場合に良好な耐衝撃性を達成できることを見出し、このような知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されるキラル化合物を含有することを特徴とする強誘電性液晶組成物を提供する。
【0011】
【化1】

【0012】
(上記式(1)において、R1は、非キラルな基であり、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数4〜18の飽和もしくは不飽和のアルキル基もしくはアルコキシアルキル基である。
は、キラルな基であり、下記一般式(2)で表される基である。
【0013】
【化2】

【0014】
(上記式(2)において、Rは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜10の飽和もしくは不飽和のアルキル基もしくはアルコキシアルキル基である。
は、−CHまたはフッ素原子を表す。mは0または1である。nは0または1である。*印はキラル中心を示す。)
〜Xは、それぞれ独立して−CH、−CF、ハロゲン原子または水素原子を表す。ただし、X〜Xのうち1つ以上は、それぞれ独立して−CH、−CFまたはハロゲン原子である。)
【0015】
本発明の強誘電性液晶組成物は上記式(1)で表されるキラル化合物を含有するので、液晶表示素子に用いた場合には高い耐衝撃性を達成することが可能である。
【0016】
上記発明においては、上記キラル化合物の含有量が5質量%〜35質量%の範囲内であることが好ましい。キラル化合物の含有量が上記範囲内であることにより、本発明の強誘電性液晶組成物を液晶表示素子に用いた場合には、優れた耐衝撃性が得られるからである。
【0017】
また本発明は、第1基材、上記第1基材上に形成された第1電極層、および、上記第1電極層上に形成された第1配向層を有する第1配向処理基板と、第2基材、上記第2基材上に形成された第2電極層、および、上記第2電極層上に形成された第2配向層を有する第2配向処理基板と、上記第1配向層および上記第2配向層の間に形成された液晶層とを有する液晶表示素子であって、上記液晶層が、上述の強誘電性液晶組成物を含有することを特徴とする液晶表示素子を提供する。
【0018】
本発明によれば、液晶層が上述の強誘電性液晶組成物を含有するので、耐衝撃性を高めることが可能である。
【0019】
上記発明においては、上記第1配向層の構成材料および第2配向層の構成材料が互いに異なる組成を有することが好ましい。配向欠陥の発生を抑制し、コントラストを向上させることができるからである。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、強誘電性液晶組成物が所定のキラル化合物を含有するので、強誘電性液晶組成物を用いた液晶表示素子では耐衝撃性を高めることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明における液晶分子の配向状態の一例を示す模式図である。
【図2】液晶表示素子の印加電圧に対する透過光量の変化を示したグラフである。
【図3】本発明の液晶表示素子の一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明における液晶分子の配向状態の他の例を示す模式図である。
【図5】本発明における液晶分子の配向状態の他の例を示す模式図である。
【図6】本発明における液晶分子の配向状態の他の例を示す模式図である。
【図7】本発明における液晶分子の自発分極を示す模式図である。
【図8】本発明における液晶分子の配向状態の他の例を示す模式図である。
【図9】本発明の液晶表示素子の他の例を示す概略断面図である。
【図10】本発明の液晶表示素子の他の例を示す概略斜視図である。
【図11】本発明における液晶分子の配向状態の他の例を示す模式図である。
【図12】実施例における強誘電性液晶組成物の塗布跡の評価を説明するための写真である。
【図13】実施例における本発明例の液晶表示素子の一例を示す写真である。
【図14】実施例における比較例の液晶表示素子の一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の強誘電性液晶組成物および液晶表示素子について詳細に説明する。
【0023】
A.強誘電性液晶組成物
本発明の強誘電性液晶組成物は、下記一般式(1)で表されるキラル化合物を含有することを特徴とするものである。
【0024】
【化3】

【0025】
(上記式(1)において、R1は、非キラルな基であり、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数4〜18の飽和もしくは不飽和のアルキル基もしくはアルコキシアルキル基である。
は、キラルな基であり、下記一般式(2)で表される基である。
【0026】
【化4】

【0027】
(上記式(2)において、Rは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜10の飽和もしくは不飽和のアルキル基もしくはアルコキシアルキル基である。Yは、−CHまたはフッ素原子を表す。mは0または1である。nは0または1である。*印はキラル中心を示す。)
〜Xは、それぞれ独立して−CH、−CF、ハロゲン原子または水素原子を表す。ただし、X〜Xのうち1つ以上は、それぞれ独立して−CH、−CFまたはハロゲン原子である。)
【0028】
ベンゼン環は平面的な構造をとるため結晶化しやすいが、シクロヘキサン環は立体的な構造をとるため結晶化を阻害するものと推量される。強誘電性液晶組成物が結晶化しやすいものであると、衝撃が加わって液晶分子が移動したときに元の状態に戻りにくくなり、耐衝撃性が劣ってしまう。これに対し本発明においては、上記のようなキラル化合物を含有することにより、耐衝撃性を高めることができる。
以下、本発明の強誘電性液晶組成物における各成分について説明する。
【0029】
1.キラル化合物
本発明に用いられるキラル化合物は、上記式(1)で表されるものである。
【0030】
上記式(1)において、R1は、非キラルな基であり、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数4〜18の飽和もしくは不飽和のアルキル基もしくはアルコキシアルキル基である。
炭素数は4〜18であればよいが、中でも6〜18が好ましく、6〜12がさらに好ましい。炭素数が上記範囲よりも多いと、キラル化合物の合成が困難となり、コストが嵩むからである。一方、炭素数が上記範囲よりも少ないと、本発明の強誘電性液晶組成物がスメクチック相を発現しない場合があるからである。なお、アルキル基およびアルコシキアルキル基がハロゲン原子で置換されている場合には、炭素数が比較的少なくとも、本発明の強誘電性液晶組成物がスメクチック相を発現する場合がある。
アルキル基またはアルコシキアルキル基は、ハロゲン原子で置換されていてもよく、ハロゲン原子で置換されていなくてもよいが、中でも、ハロゲン原子で置換されていないことが好ましい。
アルキル基またはアルコキシアルキル基は、直鎖状または分岐状である。
アルキル基またはアルコシキアルキル基は、飽和であっても不飽和であってもよいが、中でも飽和であることが好ましい。環状の不飽和アルカン以外の不飽和アルカンにおいては、不飽和アルカンは飽和アルカンに比べて反応性が高く、長期の保存・駆動や温度変化により材質が変化し、本発明の強誘電性液晶組成物を液晶表示素子に用いた場合に表示品質が劣化するおそれがあるからである。
1はアルキル基であってもアルコキシアルキル基であってもよいが、中でもアルキル基であることが好ましい。
【0031】
上記式(1)において、Rは、1個以上のキラル中心をもつキラルな基であり、上記式(2)で表される基である。
【0032】
上記式(2)において、Rは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜10の飽和もしくは不飽和のアルキル基もしくはアルコキシアルキル基である。
アルキル基またはアルコシキアルキル基は、ハロゲン原子で置換されていてもよく、ハロゲン原子で置換されていなくてもよい。
アルキル基またはアルコキシアルキル基は、直鎖状、分岐状または環状である。
はアルキル基であってもアルコキシアルキル基であってもよいが、中でもアルキル基であることが好ましい。
【0033】
上記式(2)において、Yは、−CHまたはフッ素原子を表す。−CHの場合には、キラル化合物の合成が容易であるという利点を有する。一方、フッ素原子の場合には、液晶分子の自発分極が大きくなり、本発明の強誘電性液晶組成物を液晶表示素子に用いた場合に応答速度を速くすることができるという利点を有する。
は−CHであってもフッ素原子であってもよいが、中でも−CHであることが好ましい。上述したようにキラル化合物の合成が容易であり、安定してキラル化合物を製造することができ、強誘電性液晶組成物を安価に得ることができるからである。
【0034】
上記式(2)において、mは0または1である。
また、上記式(2)において、*印はキラル中心を示す。m=0のとき、1位の炭素原子がキラル中心となり、m=1のとき、2位の炭素原子がキラル中心となる。
【0035】
上記式(2)において、nは0または1である。
【0036】
上記式(1)において、X〜Xは、それぞれ独立して−CH、−CF、ハロゲン原子または水素原子を表す。ただし、X〜Xのうち1つ以上は、それぞれ独立して−CH、−CFまたはハロゲン原子である。
〜Xのすべてが水素原子である場合には、キラル化合物の溶解性が低下するため、キラル化合物の合成、精製が困難になり、コストが高くなったり、また本発明の強誘電性液晶組成物が結晶化しやすいものとなり、液晶表示素子に用いた場合に所望の耐衝撃性が得られなかったりするおそれがある。これに対し、本発明のようにX〜Xのうち1つ以上が−CH、−CFまたはハロゲン原子である場合には、キラル化合物の溶媒への溶解性が高くなり、大量合成、精製が可能になる。また、キラル化合物の立体構造に歪みが生じ、この歪みによって強誘電性液晶組成物の結晶化が阻害されるので、高い耐衝撃性を得ることができると考えられる。
【0037】
中でも、X〜X、X〜Xのいずれか1つ以上が、それぞれ独立して−CH、−CFまたはハロゲン原子であることが好ましい。X〜X、X〜Xの位置に置換基を有する場合はX、Xの位置の場合よりもキラル化合物の溶解性が良いからである。これは、X、Xの位置の場合は他の位置の場合に比べて置換基による歪みが少ないためであると考えられる。
【0038】
〜Xが結合している2個のベンゼン環のうち、置換基を有するベンゼン環は、1〜4個の置換基を有することができるが、中でも1個の置換基を有することが好ましい。すなわち、X、X、X、Xが結合しているベンゼン環が置換基を有する場合には、X、X、X、Xのうちいずれか1つが、−CH、−CFまたはハロゲン原子であることが好ましい。またX、X、X、Xが結合しているベンゼン環が置換基を有する場合には、X、X、X、Xのうちいずれか1つが、−CH、−CFまたはハロゲン原子であることが好ましい。
【0039】
また、置換基を有するベンゼン環が、2個の置換基を有することも好ましい。この場合、上記2個の置換基の位置としては、例えばXおよびXがフッ素原子である場合のようにベンゼン環の隣り合う炭素原子にそれぞれフッ素原子が置換していることが好ましい。ベンゼン環が対称的に置換されている場合には、カイラルスメクチックC相が安定し、液晶分子のチルト角を大きくすることができるため、液晶表示素子の透過率を高めることができる。また、2個の置換基がより近くに位置する炭素原子に結合していることにより、上記キラル化合物の棒状の構造を崩さないため、耐衝撃性を維持することができる。
さらに、X〜Xが結合している2個のベンゼン環のうち、1個のベンゼン環が2個の置換基を有することが好ましく、中でも、X、X、X、Xが結合しているベンゼン環が2個の置換基を有することが好ましい。直接結合された3個のベンゼン環のうち、真ん中に位置するベンゼン環が置換基を有することにより、強誘電性液晶組成物が結晶化しにくくなるからである。
特に、XおよびX、または、XおよびXがフッ素原子であることが好ましい。
【0040】
また、ベンゼン環が有する置換基は、置換基が1個の場合には−CH、フッ素原子または塩素原子であることが好ましく、−CHまたはフッ素原子であることが特に好ましい。一方、置換基が2個の場合にはいずれの置換基もフッ素原子であることが好ましい。なお、ベンゼン環に2個のフッ素原子が置換している場合には、上記2個のフッ素原子は隣り合う炭素原子にそれぞれ置換していることが好ましい。
【0041】
上記式(1)で表されるキラル化合物の具体例としては、下記一般式(1−1)〜(1−2)および(1−3)〜(1−4)で表されるキラル化合物が挙げられる。
【0042】
【化5】

【0043】
(上記式(1−1)〜(1−2)および(1−3)〜(1−4)において、Rは炭素数1〜10の飽和または不飽和のアルキル基であり、*印はキラル中心を示し、mは0または1であり、pは4〜18であり、X11およびX12はそれぞれ独立して−CH、−CFまたはハロゲン原子を表し、上記式(1−1)〜(1−2)におけるjおよびkは一方が0、他方が1である。)
【0044】
上記式(1−1)〜(1−2)および(1−3)〜(1−4)において、pは4〜18であり、好ましくは6〜18、より好ましくは6〜12である。上述したように、炭素数が上記範囲よりも多いと、キラル化合物の合成が困難となるからである。一方、炭素数が上記範囲よりも少ないと、本発明の強誘電性液晶組成物がスメクチック相を発現しない場合があるからである。
【0045】
上記式(1−1)〜(1−2)および(1−3)〜(1−4)において、Rは炭素数1〜10の飽和または不飽和のアルキル基である。アルキル基は、直鎖状、分岐状または環状である。中でも、Rは、直鎖状もしくは分岐状の飽和のアルキル基、またはフェニルアルキル基であることが好ましい。
【0046】
上記式(1−2)および(1−4)において、mは0または1である。
また、上記式(1−1)〜(1−2)および(1−3)〜(1−4)において、*印はキラル中心を示す。上記式(1−1)および(1−3)では、1位の炭素原子がキラル中心となる。上記式(1−2)および(1−4)では、m=0のとき、1位の炭素原子がキラル中心となり、m=1のとき、2位の炭素原子がキラル中心となる。
【0047】
上記式(1−1)および(1−2)において、X11およびX12は、それぞれ独立して−CH、−CFまたはハロゲン原子を表す。中でも、−CH、フッ素原子または塩素原子が好ましく、特に−CHまたはフッ素原子が好ましい。
11およびX12の位置としては、上述のX〜Xの位置と同様である。
【0048】
また、上記式(1−1)および(1−2)において、jおよびkは、一方が0、他方が1である。
【0049】
上記式(1−1)および(1−2)で表されるキラル化合物の具体例としては、下記式で表されるキラル化合物を挙げることができる。
【0050】
【化6】

【0051】
【化7】

【0052】
また上記式(1−3)および(1−4)で表されるキラル化合物の具体例としては、下記式で表されるキラル化合物を挙げることができる。なお、右旋性を(+)、左旋性を(−)で示す。
【0053】
【化8】

【0054】
このようなキラル化合物としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用-いてもよい。
【0055】
強誘電性液晶組成物中のキラル化合物の含有量としては、耐衝撃性の効果が得られる程度であれば特に限定されるものではない。上記キラル化合物を1種単独で用いる場合にはそのキラル化合物の含有量が、上記キラル化合物を2種以上混合する場合には2種以上のキラル化合物の各含有量が、強誘電性液晶組成物中にて5質量%以上であることが好ましい。中でも、上記キラル化合物を1種単独で用いる場合にはそのキラル化合物の含有量が、上記キラル化合物を2種以上混合する場合には2種以上のキラル化合物の合計含有量が、強誘電性液晶組成物中で5質量%〜35質量%の範囲内であることが好ましく、15質量%〜30質量%の範囲内であることがより好ましい。キラル化合物の含有量が上記範囲よりも少ないと、所望の耐衝撃性が得られない場合があるからである。一方、キラル化合物の含有量が上記範囲よりも多いと、強誘電性液晶組成物が、粘度が高くなったり、結晶化しやすくなったりして、十分な耐衝撃性が得られない場合があり、また液晶表示素子を作製する際に液晶層の形成が困難となる場合があるからである。
【0056】
キラル化合物は、例えば、国際公開第2010/031431号パンフレットに記載の方法により合成することができる。
【0057】
2.ホスト液晶
本発明の強誘電性液晶組成物は、上記キラル化合物の他に、ホスト液晶を含有していてもよい。
【0058】
ホスト液晶としては、強誘電性液晶組成物のホスト液晶として一般的に用いられるものを使用することができ、例えば、フェニルピリミジン化合物を挙げることができる。
ホスト液晶は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0059】
中でも、ホスト液晶として用いられるフェニルピリミジン化合物は、フェニル基がフッ素原子で置換されたものであることが好ましく、フェニル基が1個または2個のフッ素原子で置換されたものであることがより好ましい。フェニル基がフッ素原子で置換されたフェニルピリミジン化合物を用いることで、本発明の強誘電性液晶組成物のカイラルスメクチックC相の相転移温度が広がるので、本発明の強誘電性液晶組成物を液晶表示素子に用いた場合に、低温および高温で安定して液晶表示素子を駆動することが可能となるからである。また、本発明の強誘電性液晶組成物の粘度が低くなるので、液晶表示素子の製造工程にて液晶層の形成が容易となるという利点を有する。さらには、フェニル基がフッ素原子で置換されているフェニルピリミジン化合物を用いることにより、液晶表示素子を製造する際に強誘電性液晶組成物を塗布または滴下する場合には、塗布跡および滴下跡が生じにくくなるので、塗布跡や滴下跡による液晶分子の配向乱れを防ぎ、配向欠陥の発生を抑制することができる。なお、これは、フッ素原子により強誘電性液晶組成物と配向膜との相互作用が弱まり、強誘電性液晶組成物を塗布もしくは滴下した際に液晶分子が配向していない状態で配向膜に固着されてしまうのが抑制されるためであると推量される。
【0060】
このようなフェニルピリミジン化合物としては、具体的には、下記一般式(3−1)〜(3−4)で表されるものを挙げることができる。
【0061】
【化9】

【0062】
上記式(3−1)〜(3−4)において、R21はアルキル基であり、R22はアルコキシ基またはカルボキシル基である。
【0063】
また、フェニルピリミジン化合物は、1個のピリミジン環と1個のベンゼン環とを有する二環化合物、1個のピリミジン環と2個のベンゼン環とを有する三環化合物、1個のピリミジン環と1個のベンゼン環と1個のシクロヘキサン環とを有する三環化合物等のいずれであってもよい。
中でも、フェニルピリミジン化合物としては、上記二環化合物に上記三環化合物を混合させて用いることが好ましい。フェニルピリミジン化合物として、上記二環化合物のみを用いるよりも、上記二環化合物に上記三環化合物を混合して用いるほうが、本発明の強誘電性液晶組成物のカイラルスメクチックC相の相転移温度が広がり、液晶表示素子に用いた場合に使用可能範囲が広がるからである。
さらには、上記三環化合物の中でも、1個のピリミジン環と1個のベンゼン環と1個のシクロヘキサン環とを有する三環化合物を用いることが好ましい。1個のピリミジン環と1個のベンゼン環と1個のシクロヘキサン環とを有する三環化合物を用いた場合には、1個のピリミジン環と2個のベンゼン環とを有する三環化合物を用いた場合と比較して、共役系が短くなるため、本発明の強誘電性液晶組成物の複屈折が小さくなるので、液晶表示素子に適用した場合により広いセルギャップで使用可能となるからである。
【0064】
強誘電性液晶組成物中のホスト液晶の含有量としては、上記キラル化合物の含有量を上記範囲とすることができれば特に限定されるものではない。
中でも、ホスト液晶としてフェニルピリミジン化合物を用い、そのフェニルピリミジン化合物が、フェニル基がフッ素原子で置換されたものである場合には、強誘電性液晶組成物中のフェニルピリミジン化合物の含有量は10質量%〜30質量%の範囲内であることが好ましい。フェニルピリミジン化合物の含有量が少ないと、上述の効果が十分に得られない場合があるからである。一方、フェニルピリミジン化合物の含有量が多すぎると、本発明の強誘電性液晶組成物が結晶化しやすくなるため、液晶表示素子に用いた場合に保存安定性が悪くなり、強誘電性液晶組成物に含まれる化合物の析出が起こり、表示品質が低下するおそれがあるからである。
【0065】
3.強誘電性液晶組成物
本発明の強誘電性液晶組成物としては、カイラルスメクチックC(SmC)相を発現するものであれば特に限定されるものではない。強誘電性液晶組成物の相系列としては、例えば、降温過程においてネマチック(N)相−コレステリック(Ch)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化するもの、ネマチック(N)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化するもの、ネマチック(N)相−スメクチックA(SmA)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化するもの、ネマチック(N)相−コレステリック(Ch)相−スメクチックA(SmA)相−カイラルスメクチックC(SmC)相と相変化するもの、などを挙げることができる。
【0066】
また、強誘電性液晶組成物としては、双安定性を示すものおよび単安定性を示すもののいずれも用いることができる。中でも、単安定性を示す強誘電性液晶組成物が好ましい。単安定性を示す強誘電性液晶組成物を用いた場合には、電圧変化により液晶のダイレクタ(分子軸の傾き)を連続的に変化させ、透過光度をアナログ変調することで、階調表示が可能となるからである。特に、液晶表示素子をフィールドシーケンシャルカラー方式により駆動させる場合には、単安定性を示す強誘電性液晶組成物を用いることが好ましい。単安定性を示す強誘電性液晶組成物を用いることにより、TFTを用いたアクティブマトリックス方式による駆動が可能になり、また、電圧変調により階調制御が可能になり、高精細で高品位の表示を実現することができるからである。
【0067】
なお、「単安定性を示す」とは、電圧無印加時の液晶分子の状態がひとつの状態で安定化している状態をいう。強誘電性液晶組成物は、図1に例示するように、液晶分子25が層法線zから傾いており、層法線zに垂直な底面を有する円錐(コーン)の稜線に沿って回転する。このような円錐(コーン)において、液晶分子25の層法線zに対する傾き角をチルト角θという。このように、液晶分子25は層法線zに対しチルト角±θだけ傾く二つの状態間をコーン上に動作することができる。具体的に説明すると、単安定性を示すとは、電圧無印加時に液晶分子25がコーン上のいずれかひとつの状態で安定化している状態をいう。
【0068】
また、強誘電性液晶組成物としては、単安定性を示すものであればよく、正負いずれかの電圧を印加したときのみ液晶分子が動作するハーフV字型スイッチング特性を示すもの、正負いずれの電圧に対しても同程度液晶分子が動作するV字型スイッチング特性を示すもの、正負いずれかの電圧に対する液晶分子の動作が他方の極性の電圧に対する液晶分子の動作に比べて大きくなる非対称のスイッチング特性を示すもの、のいずれも使用することができる。
【0069】
中でも、図2(a)、(b)に例示するような、ハーフV字型スイッチング特性を示すものは、コーン角が比較的小さくても透過率を明るくすることができる。コーン角が十分大きい場合は、図2(c)に例示するようなV字型スイッチング特性にすることで、正負の電圧に対する液晶分子の動作が対称になり、電気的中性になり、安定性の点で好ましい。また、非対称のスイッチング特性であっても、駆動方法を工夫することで使用することができる。
【0070】
このような強誘電性液晶組成物としては、一般に知られる液晶材料の中から要求特性に応じて種々選択することができる。特に、Ch相からSmA相を経由しないでSmC相を発現する強誘電性液晶組成物は、温度変化に対して、電圧に対する動作特性の変化が少ないことから好ましい。
【0071】
B.液晶表示素子
本発明の液晶表示素子は、第1基材、上記第1基材上に形成された第1電極層、および、上記第1電極層上に形成された第1配向層を有する第1配向処理基板と、第2基材、上記第2基材上に形成された第2電極層、および、上記第2電極層上に形成された第2配向層を有する第2配向処理基板と、上記第1配向層および上記第2配向層の間に形成された液晶層とを有する液晶表示素子であって、上記液晶層が、上述の強誘電性液晶組成物を含有することを特徴とするものである。
【0072】
本発明の液晶表示素子について図面を参照しながら説明する。
図3は、本発明の液晶表示素子の一例を示す断面図である。図3に例示するように、液晶表示素子1は、第1基材2a、上記第1基材2a上に形成された第1電極層3a、および、上記第1電極層3a上に形成された第1配向層4aを有する第1配向処理基板11aと、第2基材2b、第2基材2b上に形成された第2電極層3b、および、上記第2電極層3b上に形成された第2配向層4bを有する第2配向処理基板11bと、上記第1配向層4aおよび第2配向層4bの間に形成された液晶層5とを有しており、上記液晶層5が上述の強誘電性液晶組成物を含有している。
【0073】
本発明によれば、液晶層が上述の強誘電性液晶組成物を含有することにより、耐衝撃性を高めることが可能となる。
【0074】
以下、本発明の液晶表示素子における各構成について説明する。
【0075】
1.液晶層
本発明における液晶層は、第1配向処理基板の第1配向層および第2配向処理基板の第2配向層の間に形成され、上述の強誘電性液晶組成物を含有するものである。
なお、強誘電性液晶組成物については、上記「A.強誘電性液晶組成物」の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0076】
液晶層の厚みは、1.0μm〜10.0μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1.3μm〜5.0μmの範囲内、さらに好ましくは1.4μm〜3.0μmの範囲内である。液晶層の厚みが薄すぎるとコントラストが低下するおそれがあり、逆に液晶層の厚みが厚すぎると液晶分子が配向しにくくなる可能性があるからである。液晶層の厚みは、ビーズスペーサ、柱状スペーサ、隔壁等により調整することができる。
【0077】
液晶層の形成方法としては、一般に液晶セルの作製方法として用いられる方法を使用することができ、例えば真空注入方式、液晶滴下方式等を用いることができる。
真空注入方式では、例えば、まず、あらかじめ第1配向処理基板および第2配向処理基板を用いて作製した液晶セルに、加温することによって等方性液体とした強誘電性液晶組成物を、キャピラリー効果を利用して注入する。次に、強誘電性液晶組成物が注入された液晶セルを、接着剤で封鎖することにより液晶層を形成することができる。
また液晶滴下方式では、例えば、まず、第2配向処理基板の第2配向層上に、加温したもしくは常温の強誘電性液晶組成物を滴下または塗布する。次いで、第1配向処理基板の周縁部にシール剤を塗布する。続いて、減圧下で第1配向処理基板および第2配向処理基板を重ね合わせ、シール剤を介して接着させることにより液晶層を形成することができる。
【0078】
中でも、液晶層の形成方法は、液晶滴下方式であることが好ましい。タクトタイムの短縮により、液晶表示素子を効率的に製造することができるからである。また、強誘電性液晶組成物を滴下または塗布する際には、常温とすることが好ましい。熱による強誘電性液晶組成物の劣化を防ぐことができるからである。
【0079】
強誘電性液晶組成物を配向させる際には、冷却すればよく、液晶層に電圧を印加する必要はない。冷却時には徐冷することが好ましい。
【0080】
2.第1配向処理基板
本発明に用いられる第1配向処理基板は、第1基材と、第1基材上に形成された第1電極層と、第1電極層上に形成された第1配向層とを有するものである。
以下、第1配向処理基板における各構成について説明する。
【0081】
(1)第1配向層
本発明に用いられる第1配向層は、強誘電性液晶組成物の配向制御が可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、光配向膜、ラビング配向膜、斜方蒸着配向膜等が挙げられる。以下、これらの配向膜について説明する。
【0082】
(a)光配向膜
光配向膜は、光配向処理が非接触配向処理であることから静電気や塵の発生がなく、定量的な配向処理の制御ができる点で有用である。
【0083】
光配向膜に用いられる材料としては、大きく、光反応を生じることにより膜に異方性を付与する光反応型材料と、光異性化反応を生じることにより膜に異方性を付与する光異性化型材料とに分けることができる。以下、光反応型材料および光異性化型材料に分けて説明する。
【0084】
(光反応型材料)
光反応型材料としては、光二量化反応を生じることにより膜に異方性を付与する光二量化型材料または光分解反応を生じることにより膜に異方性を付与する光分解型材料であることが好ましい。中でも、露光感度が高く、材料選択の幅が広いことから、光二量化型材料がより好ましい。
【0085】
光二量化型材料および光分解型材料としては、例えば、特開2006−350322号公報、特開2006−323214号公報、特開2005−258429号公報、特開2005−258428号公報等に記載のものを用いることができる。
【0086】
光二量化型材料に用いられる光二量化反応性化合物は、側鎖としてケイ皮酸エステル、クマリンまたはキノリンのいずれかを含む二量化反応性ポリマーであることが好ましい。
【0087】
光二量化反応性化合物としては、上記化合物の中から、要求特性に応じて光二量化反応部位や置換基を種々選択することができる。また、光二量化反応性化合物は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0088】
また、光二量化型材料は、上記光二量化反応性化合物のほか、配向膜の光配列性を妨げない範囲内で添加剤を含んでいてもよい。上記添加剤としては、重合開始剤、重合禁止剤などが挙げられる。
【0089】
(光異性化型材料)
光異性化型材料としては、例えば、特開2006−350322号公報、特開2006−323214号公報、特開2005−258429号公報、特開2005−258428号公報等に記載のものを用いることができる。
【0090】
光異性化型材料が生じる光異性化反応は、シス−トランス異性化反応であることが好ましい。また、光異性化型材料に用いられる光異性化反応性化合物は、分子内にアゾベンゼン骨格を有する化合物であることが好ましい。
光異性化反応性化合物としては、単分子化合物または重合性モノマーを挙げることができ、中でも、光照射により膜に異方性を付与した後、ポリマー化することにより、その異方性を安定化することができることから、重合性モノマーが好ましい。また、重合性モノマーの中でも、膜に異方性を付与した後、その異方性を良好な状態に維持したまま容易にポリマー化できることから、アクリレートモノマー、メタクリレートモノマーが好ましい。
【0091】
このような光異性化反応性化合物の中から、要求特性に応じて、シス−トランス異性化反応性骨格や置換基を種々選択することができる。なお、光異性化反応性化合物は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0092】
また、光異性化型材料は、上記光異性化反応性化合物のほか、配向膜の光配列性を妨げない範囲内で添加剤を含んでいてもよい。上記光異性化反応性化合物として重合性モノマーを用いる場合には、添加剤としては、重合開始剤、重合禁止剤などが挙げられる。
【0093】
(光配向膜)
光配向膜に用いられる材料が光励起反応(光二量化、光分解、光異性化)を生じる光の波長領域は、紫外光域の範囲内、すなわち10nm〜400nmの範囲内であることが好ましく、250nm〜380nmの範囲内であることがより好ましい。
【0094】
光配向膜の形成方法としては、一般的な方法を用いることができる。
光配向膜の厚みは、1nm〜1000nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは3nm〜100nmの範囲内である。光配向膜の厚みが上記範囲より薄いと十分な光配列性を得ることができない可能性があり、逆に光配向膜の厚みが上記範囲より厚いとコスト的に不利になる場合があるからである。
【0095】
(b)ラビング配向膜
ラビング配向膜は、比較的高いプレチルト角を実現することができる点で有用である。
ラビング配向膜に用いられる材料および形成方法としては、一般的なものを適用することができる。
ラビング配向膜の厚みは、1nm〜1000nm程度で設定され、好ましくは50nm〜100nmの範囲内である。
【0096】
(c)斜方蒸着配向膜
斜方蒸着配向膜は、斜め蒸着法により形成されるものである。斜方蒸着配向膜は、比較的高いプレチルト角を実現することができる点で有用である。
斜方蒸着配向膜に用いられる材料および形成方法としては、一般的なものを適用することができる。なお、斜方蒸着配向膜については、液晶便覧編集委員会編「液晶便覧」 丸善株式会社 平成12年10月30日 p.229−230を参照することができる。
斜方蒸着配向膜の厚みは、10nm〜500nm程度で設定され、好ましくは30nm〜200nmの範囲内である。
【0097】
(d)第1配向層および第2配向層の構成材料の組成
本発明においては、第1配向層および第2配向層の構成材料が液晶層を挟んで互いに異なる組成を有することが好ましい。第1配向層および第2配向層を互いに異なる組成を有する材料を用いて形成することにより、それぞれの材料に応じて第1配向層表面および第2配向層表面の極性を異ならせることができる。これにより、強誘電性液晶組成物および第1配向層の極性表面相互作用と、強誘電性液晶組成物および第2配向層の極性表面相互作用とが異なるものとなるため、第1配向層および第2配向層の表面極性を考慮して材料を適宜選択することによって、ジグザグ欠陥、ヘアピン欠陥、ダブルドメイン等の配向欠陥の発生を抑制することができるからである。その結果、コントラストを向上させることができる。
【0098】
第1配向層および第2配向層の構成材料を液晶層を挟んで互いに異なる組成を有するものとするには、例えば、一方を光配向膜とし、他方をラビング配向膜とすればよい。
また例えば、両方をラビング配向膜として、ラビング配向膜の構成材料の組成を異なるものとする;両方を光配向膜として、光配向膜の構成材料の組成を異なるものとする;両方を斜方蒸着配向膜として、斜方蒸着配向膜の構成材料の組成を異なるものとすればよい。
【0099】
第1配向層および第2配向層がラビング配向膜である場合、添加剤の添加量を変えることや、添加剤の有無によって、組成を変化させることもできる。
【0100】
また、第1配向層および第2配向層が光配向膜である場合、例えば一方の光配向膜に光異性化型材料を用い、他方の光配向膜に光反応型材料を用いることにより、光配向膜の構成材料の組成を異なるものとすることができる。
さらに、第1配向層および第2配向層が光異性化型材料を用いた光配向膜である場合、光異性化反応性化合物の中から、要求特性に応じて、シス−トランス異性化反応性骨格や置換基を種々選択することにより、光配向膜の構成材料の組成を異なるものとすることができる。さらに、添加剤の添加量を変えることや、添加剤の有無によって、組成を変化させることもできる。
またさらに、第1配向層および第2配向層が光二量化型材料を用いた光配向膜である場合、光二量化反応性化合物、例えば光二量化反応性ポリマーを種々選択することにより、光配向膜の構成材料の組成を異なるものとすることができる。さらに、添加剤の添加量を変えることや、添加剤の有無によって、組成を変化させることもできる。
【0101】
光二量化型材料を用いた光配向膜は、光異性化型材料を用いた光配向膜よりも相対的に正の極性が強い傾向にあるため、この組み合わせの場合には、極性表面相互作用によって、液晶分子の自発分極が、光異性化型材料を用いた光配向膜側を向く傾向にある。
光二量化型材料を用いた光配向膜は、ラビング配向膜よりも相対的に正の極性が強い傾向にあるため、極性表面相互作用によって、液晶分子の自発分極が、ラビング配向膜側を向く傾向にある。
また、ラビング配向膜は、光異性化型材料を用いた光配向膜よりも相対的に正の極性が強い傾向にあるため、極性表面相互作用によって、液晶分子の自発分極が、光異性化型材料を用いた光配向膜側を向く傾向にある。
このような組み合わせの場合には、液晶分子の自発分極の向きを制御することができ、配向欠陥の発生を効果的に抑制することができる。
【0102】
本発明においては、上述したように、第1配向層と第2配向層とで、第2配向層の方が相対的に正の極性が強い傾向にある場合には、第2電極層に負の電圧を印加したときに、表示を行うことが好ましい。
第1配向層と第2配向層とで、第2配向層の方が相対的に正の極性が強い傾向にある場合としては、上記の組み合わせが挙げられ、具体的には、第1配向層を光異性化型材料を用いた光配向膜とし、第2配向層を光二量化型材料を用いた光配向膜とする;第1配向層をラビング配向膜とし、第2配向層を光二量化型材料を用いた光配向膜とする;あるいは、第1配向層を光異性化型材料を用いた光配向膜とし、第2配向層をラビング配向膜とすることが好ましい。
なお、液晶表示素子の駆動方法については後述するので、ここでの説明は省略する。
【0103】
(2)第1電極層
本発明に用いられる第1電極層は、一般に液晶表示素子の電極として用いられているものであれば特に限定されるものではないが、第1配向処理基板の第1電極層および第2配向処理基板の第2電極層のうち少なくとも一方が透明導電体で形成されることが好ましい。透明導電体材料としては、酸化インジウム、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)等が好ましく挙げられる。
【0104】
本発明の液晶表示素子を、TFTを用いたアクティブマトリックス方式で駆動させる場合には、第1配向処理基板および第2配向処理基板のうち、一方に上記透明導電体で形成される全面共通電極を設け、他方にはゲート電極とソース電極をマトリックス状に配列し、ゲート電極とソース電極で囲まれた部分にTFT素子および画素電極を設ける。
【0105】
第1電極層の形成方法としては、化学蒸着(CVD)法や、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等の物理蒸着(PVD)法などが挙げられる。
【0106】
(3)第1基材
本発明に用いられる第1基材は、一般に液晶表示素子の基材として用いられるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ガラス板、プラスチック板などが好ましく挙げられる。
【0107】
(4)その他の構成
本発明おける第1配向処理基板においては、第1基材上に隔壁または柱状スペーサが形成されていてもよい。第2配向処理基板において第2基材上に隔壁または柱状スペーサが形成されている場合には、第1配向処理基板において第1基材上には隔壁または柱状スペーサが形成されない。すなわち、第1配向処理基板に隔壁または柱状スペーサが形成されていてもよく、第2配向処理基板に隔壁または柱状スペーサが形成されていてもよい。
隔壁および柱状スペーサとしては、一般的な隔壁および柱状スペーサを適用することができる。
【0108】
また、本発明における第1配向処理基板おいては、第1基材上に着色層が形成されていてもよい。第2配向処理基板において第2基材上に着色層が形成されている場合には、第1配向処理基板において第1基材上には着色層が形成されない。すなわち、第1配向処理基板に着色層が形成されていてもよく、第2配向処理基板に着色層が形成されていてもよい。
【0109】
着色層が形成されている場合には、着色層によってカラー表示を実現することができるカラーフィルタ方式の液晶表示素子を得ることができる。
【0110】
着色層の形成方法としては、一般的なカラーフィルタにおける着色層を形成する方法を用いることができ、例えば、顔料分散法(カラーレジスト法、エッチング法)、印刷法、インクジェット法などを用いることができる。
【0111】
3.第2配向処理基板
本発明に用いられる第2配向処理基板は、第2基材と、第2基材上に形成された第2電極層と、第2電極層上に形成された第2配向層とを有するものである。
【0112】
なお、第2基材、第2電極層、第2配向層およびその他の構成については、上記第1配向処理基板における第1基材、第1電極層、第1配向層およびその他の構成とそれぞれ同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0113】
4.その他の構成
本発明の液晶表示素子は、偏光板を有していてもよい。
本発明に用いられる偏光板としては、光の波動のうち特定方向のみを透過させるものであれば特に限定されるものではなく、一般に液晶表示素子の偏光板として用いられているものを使用することができる。
【0114】
5.液晶表示素子の駆動方法
本発明においては、強誘電性液晶組成物が単安定性を示す場合であって、第1配向層と第2配向層とで、第2配向層の方が相対的に正の極性が強い傾向にある場合、第2電極層に負の電圧を印加したときに、表示を行うことが好ましい。
【0115】
図4は、単安定性を示し、ハーフV字型のスイッチング特性を示す強誘電性液晶組成物の配向状態の一例を示す模式図である。図4(a)は電圧無印加の場合、図4(b)は第2電極層に負の電圧を印加した場合、図4(c)は第2電極層に正の電圧を印加した場合をそれぞれ示す。電圧無印加の場合、液晶分子25は、コーン上のひとつの状態で安定化している(図4(a))。第2電極層に負の電圧を印加した場合、液晶分子25は、安定化している状態(破線)から一方の側に傾く(図4(b))。また、第2電極層に正の電圧を印加したときに、液晶分子25は、安定化している状態(破線)から第2電極層に負の電圧を印加したときとは逆側に傾く(図4(c))。このとき、第2電極層に負の電圧を印加したときの傾斜角δは、第2電極層に正の電圧を印加したときの傾斜角ωよりも大きい。なお、図4において、Dは第1配向層および第2配向層の配向処理方向、zは層法線を示す。
【0116】
このように第2配向層の方が相対的に正の極性が強い傾向にある場合には、第2電極層の負の電圧を印加したときの液晶分子の単安定化状態からの傾斜角が、第2電極層の正の電圧を印加したときの液晶分子の単安定化状態からの傾斜角よりも大きくなる。したがって、第2電極層の負の電圧を印加したときは、第2電極層に正の電圧を印加したときよりも、透過光量が多くなる。すなわち、第2電極層の正の電圧を印加したときは、第2電極層に負の電圧を印加したときよりも、透過光量が少なくなる。そのため、第2電極層の正の電圧を印加したときは、第2電極層に負の電圧を印加したときよりも、表示に不利となる。よって、液晶分子の単安定化状態からの傾斜角がより大きくなる、第2電極層に負の電圧を印加したときに、表示を行うことが好ましいのである。
【0117】
なお、「第2電極層に負の電圧を印加したときに、表示を行う」とは、電圧無印加時に液晶分子がコーン上のひとつの状態で安定化しており、第2電極層に負の電圧を印加したときに、液晶分子が単安定化状態からコーン上の一方の側に傾き、第2電極層に正の電圧を印加したときに、液晶分子が、単安定化状態を維持するか、または単安定化状態から第2電極層に負の電圧を印加したときとは逆側に傾き、第2電極層に負の電圧を印加したときの、液晶分子の単安定化状態からの傾斜角が、第2電極層に正の電圧を印加したときの、液晶分子の単安定化状態からの傾斜角よりも大きいことをいう。このとき、液晶分子の単安定化状態での配向方向と一方の偏光板の偏光軸とは略平行にされる。
【0118】
第1配向層と第2配向層とで、第2配向層の方が相対的に正の極性が強い傾向にある場合、電圧無印加状態では、図5に例示するように、極性表面相互作用によって、液晶分子25の自発分極Psが第1配向層4a側を向く傾向にある。このとき、図8(a)に例示するように液晶分子25が第1配向層および第2配向層の配向処理方向Dに沿って配向し、一様な配向状態となる。また、第2電極層3bに負の電圧を印加すると、図6に例示するように、印加電圧の極性の影響により、液晶分子25の自発分極Psは第2配向層4b側を向くようになる。このときも、図8(b)に例示するように液晶分子25は一様な配向状態となる。さらに、第2電極層3bに正の電圧を印加すると、図5に例示するように、印加電圧の極性の影響によって、液晶分子25の自発分極Psは第1配向層4a側を向くようになる。この場合、自発分極の向きは、電圧無印加状態と同様になる。自発分極の向きがこのような方向になるのは、上述したように、自発分極の向きが、液晶分子の分極と配向膜の分極または電圧の極性とが電気的につり合う方向になり、液晶分子が電気的に安定な状態になるためである。
なお、図8(a)は、図5の上面からの液晶分子の配向状態を示す模式図であり、自発分極Psは紙面手前から奥方向に向いている(図8(a)中の×印)。また、図8(b)は、図6の上面からの液晶分子の配向状態を示す模式図であり、自発分極Psは紙面奥から手前方向に向いている(図8(b)中の●印)。
【0119】
電圧無印加状態あるいは第2電極層への正の電圧印加状態(図5)から、第2電極層への負の電圧印加状態(図6)としたとき、この印加電圧の負の極性と、液晶分子の自発分極の負の極性との反発によって、図7に例示するように、液晶分子25が角度約2θ回転する。すなわち、第2電極層に負の電圧を印加したときに、液晶の分子方向が、第1配向処理基板面に対して平行に、液晶のチルト角θの約2倍変化する。
【0120】
このように、第1配向層と第2配向層とで第2配向層の方が相対的に正の極性が強い傾向にある場合、第1配向層側に液晶分子の自発分極が向く傾向にあることを利用して、液晶分子の自発分極の向きを制御することが可能である。
【0121】
なお、V字型スイッチング特性や非対称のスイッチング特性を示す強誘電性液晶組成物を用いた液晶表示素子においても、同様に液晶分子の自発分極の向きを制御することで駆動することが可能である。
【0122】
第2電極層に負の電圧を印加したとき、液晶の分子方向がチルト角の約2倍変化するものは70%以上存在することが好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上である。上記範囲であれば、良好なコントラスト比を得ることができるからである。
【0123】
なお、上記の比率は、次のようにして測定することができる。
例えば図9に示すような、第1配向処理基板11aおよび第2配向処理基板11bの外側にそれぞれ偏光板17a、17bが設けられ、2枚の偏光板17a、17bがそれぞれの偏光軸が略垂直に、かつ、偏光板17aの偏光軸と第1配向層4aのラビング処理方向(液晶分子の配向方向)とが略平行になるように配置された液晶表示素子を用いる。電圧無印加状態では暗状態、電圧印加状態では明状態となる。
第2電極層に負の電圧を印加したとき、液晶の分子方向がチルト角の約2倍変化すると明状態が得られる。一方、第2電極層に負の電圧を印加したとき、例えば液晶の分子方向が変化しないものが部分的に存在する場合には、部分的に暗状態が得られる。したがって、電圧印加時に得られる白黒(明暗)表示の白・黒の面積比から、第2電極層に負の電圧を印加したときに液晶の分子方向がチルト角の約2倍変化するものの比率を算出することができる。
【0124】
第2電極層に負の電圧を印加したとき、液晶分子は、印加電圧の大きさに応じた角度で、単安定化状態からコーン上の一方の側に傾く。また、強誘電性液晶組成物では、図4(a)に例示するように、位置A(液晶分子25の方向)と、位置B(配向処理方向D)と、位置Cとが、必ずしも一致するわけではない。そのため、図4(b)に例示するように、第2電極層に負の電圧を印加したときの最大の傾斜角δは、チルト角θの約2倍となる。
【0125】
なお、液晶の分子方向が第1配向処理基板面に対して平行に変化した角度は、次のようにして測定することができる。まず、偏光板をクロスニコルに配置した偏光顕微鏡および液晶表示素子を、一方の偏光板の偏光軸と液晶層の液晶分子の配向方向とが平行になるように配置し、この位置を基準とする。電圧を印加すると液晶分子が偏光軸と所定の角度を持つようになるため、一方の偏光板を透過した偏光が他方の偏光板を透過して明状態となる。この電圧を印加した状態で液晶表示素子を回転させ暗状態にする。そして、このときの液晶表示素子を回転させた角度を測定する。液晶表示素子を回転させた角度が、液晶の分子方向が第1配向処理基板面に対して平行に変化した角度である。
【0126】
上述したように、第2電極層に負の電圧を印加したとき、液晶分子は、印加電圧の大きさに応じた角度で、単安定化状態からコーン上の一方の側に傾くので、実際に液晶表示素子を駆動している際、第2電極層に負の電圧を印加したときに、液晶分子の方向がチルト角の約2倍変化するわけではない。
【0127】
単安定性を示す強誘電性液晶組成物を用いた液晶表示素子においては、透過光量は、電圧を印加したときの液晶分子の傾斜角に依存する。正負いずれかの電圧を印加すると液晶分子がコーン上を傾くので、例えば図2に示すように印加電圧の大きさに応じて液晶分子の傾斜角が変化して透過光量が変化する。このとき、液晶分子の単安定状態からの傾斜角が45°の場合に透過光量が最大になる。
したがって、高い透過光量を実現するためには、実際の駆動時に第2電極層に負の電圧を印加した場合に、液晶分子の単安定状態からの傾斜角が45°になり得る強誘電性液晶組成物を用いることが好ましい。
例えば、図4に示すような液晶分子の単安定状態からの最大の傾斜角δが45°よりも大きい強誘電性液晶組成物を用いた場合には、実際に液晶表示素子を駆動している際、第2電極層に負の電圧を印加したときに、液晶分子の単安定状態からの傾斜角を45°とすることができる。上述したように、実際の駆動時に第2電極層に負の電圧を印加した場合に、液晶分子の方向がチルト角の約2倍変化するわけではないからである。
【0128】
本発明の液晶表示素子の駆動方法としては、強誘電性液晶組成物の高速応答性を利用することができるので、1画素を時間分割し、良好な動画表示特性を得るために高速応答性を特に必要とするフィールドシーケンシャルカラー方式にも好適に用いることができる。
【0129】
また、本発明の液晶表示素子の駆動方法は、フィールドシーケンシャル方式に限定されるものではなく、着色層を用いてカラー表示を行う、カラーフィルタ方式であってもよい。
【0130】
本発明の液晶表示素子の駆動方法としては、薄膜トランジスタ(TFT)を用いたアクティブマトリックス方式が好ましい。TFTを用いたアクティブマトリックス方式を採用することにより、目的の画素を確実に点灯、消灯できるため高品質なディスプレイが可能となるからである。
【0131】
本発明においては、第1配向処理基板がTFT基板、第2配向処理基板が共通電極基板であってもよく、第1配向処理基板が共通電極基板、第2配向処理基板がTFT基板であってもよい。中でも、第1配向層と第2配向層とで、第2配向層の方が相対的に正の極性が強い傾向にある場合、第1配向処理基板がTFT基板、第2配向処理基板が共通電極基板であることが好ましい。
【0132】
例えば図10に示す液晶表示素子1において、ゲート電極26xを30V程度の高電位にするとTFT素子27のスイッチがオンになり、ソース電極26yによって信号電圧が強誘電性液晶組成物に加えられ、ゲート電極26xを−10V程度の低電位にするとTFT素子27のスイッチがオフになる。スイッチオフ状態では、図11に例示するように、共通電極(第2電極層3b)およびゲート電極26x間には、共通電極(第2電極層3b)側が正になるように電圧が印加される。このスイッチオフ状態のとき、液晶分子は動作しないので、その画素は暗状態となる。
【0133】
第1配向層と第2配向層とで、第2配向層の方が相対的に正の極性が強い傾向にある場合、電圧無印加状態では、極性表面相互作用によって液晶分子の自発分極が第1配向層側を向く傾向にある。すなわち、スイッチオフ状態のとき、図11に例示するように、液晶分子25の自発分極PsがTFT基板(第1配向処理基板11a)側を向く。したがって、自発分極の向きは、共通電極(第2電極層3b)およびゲート電極26x間に印加された電圧の影響を受けることがない。よって、自発分極の向きを制御し、第1配向処理基板をTFT基板、第2配向処理基板を共通電極基板とすることにより、ゲート電極付近の光漏れを防止することができる。
【0134】
また、本発明の液晶表示素子の駆動方法は、セグメント方式であってもよい。
【0135】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0136】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0137】
[実施例1]
(強誘電性液晶組成物)
下記に示すキラル化合物1〜15を用い、下記表1〜3に示すように強誘電性液晶組成物を準備した。
【0138】
【化10】

【0139】
【化11】

【0140】
【表1】

【0141】
【表2】

【0142】
【表3】

【0143】
(液晶表示素子の作製)
まず、ITOコーティングされたガラス基板1上にΦ5.0μmの円状で、高さ2.5μmの樹脂スペーサを0.1mmピッチで形成した。次いで、その上にラビング配向膜材料(SE610:日産化学工業株式会社)を回転数1500rpmで30秒間スピンコーティングした。その後、オーブンで180℃、30分間乾燥後、ラビング処理を行った。
【0144】
また、ITOコーティングされたガラス基板2上に光異性化型の光配向膜材料(LIA012:DIC株式会社)の溶液を1500rpmで30秒間スピンコーティングした。その後、オーブンで100℃、3分間乾燥後、偏光露光機で2J偏光露光処理を行った。
【0145】
次に、基板上に四角い枠状にシール材を塗布した。その基板上に、上述の強誘電性液晶組成物を点状に塗布し、二つの基板をラビング処理の方向と偏光処理の方向が垂直になるように組み立て熱圧着を行った。その後、液晶セルを冷却し、強誘電性液晶組成物を配向させた。
【0146】
(評価)
1)耐衝撃性
得られた液晶表示素子について、耐衝撃性のテストを行った。
耐衝撃性のテストは、プッシュアップスケール(FB−30N:イマダ製)を用い、押し面積1.3cmで3Nと5Nの荷重をかけたときの液晶配向の変化を観察した。
5Nの荷重をかけた後に液晶配向が変化しなかった場合は「○」、3Nの荷重をかけた後には液晶配向が変化せず、5Nの荷重をかけた際には配向が変化して戻らなかった場合は「△」、3Nの荷重をかけた際に配向が変化して戻らなかった場合は「×」と評価した。
2)塗布跡
図12(a)に例示するように強誘電性液晶組成物を点状に塗布した場所の配向が乱れていた場合には「×」、図12(b)に例示するように塗布跡を目視で確認できた場合は「△」、図12(c)に例示するように塗布跡を目視で確認できなかった場合は「○」と評価した。
耐衝撃性および塗布跡の評価結果を表4に示す。
【0147】
【表4】

【0148】
3)表示品質
図13(a)に例示するようなホスト液晶Aを用いた液晶表示素子は、図13(b)に例示するようなホスト液晶Bを用いた液晶表示素子と比較して、複屈折が小さいために表示品質が良好であった。
【0149】
[実施例2]
(強誘電性液晶組成物)
上記に示すキラル化合物1〜11を用い、上記表1〜2に示すように強誘電性液晶組成物を準備した。
【0150】
(液晶表示素子の作製)
まず、ITOコーティングされたガラス基板1上にΦ5.0μmの円状で、高さ2.5μmの樹脂スペーサを0.1mmピッチで形成した。次いで、その上に光異性化型の光配向膜材料(LIA012:DIC株式会社)の溶液を1500rpmで30秒間スピンコーティングした。その後、オーブンで100℃、3分間乾燥後、偏光露光機で2J偏光露光処理を行った。
【0151】
また、ITOコーティングされたガラス基板2の基板に光異性化型の光配向膜材料(LIA012:DIC株式会社)の溶液を1500rpmで30秒間スピンコーティングした。その後、オーブンで100℃、3分間乾燥後、偏光露光機で2J偏光露光処理を行った。
【0152】
次に、ガラス基板1上にシール材を四角の枠状にて切れ目がないように塗布した。その基板上にシール材の内側になるように強誘電性液晶組成物を点状に塗布し、二つの基板を偏光処理の方向が平行になるように組み立て熱圧着を行った。その後、液晶セルを冷却し、強誘電性液晶組成物を配向させた。
【0153】
(評価)
1)耐衝撃性
得られた液晶表示素子について、耐衝撃性のテストを行ったところ、5Nの荷重をかけた後で液晶配向に変化はなかった。
2)配向
実施例1で得られた液晶表示素子No.1−1〜1−12、2−1〜2−12の液晶配向を観察したところ、均一な配向が得られた。
一方、実施例2で得られた液晶表示素子の液晶配向を観察したところ、図14に例示するように部分的にダブルドメインの配向欠陥が発生した。
結果を表5に示す。
【0154】
【表5】

【0155】
[実施例3]
(強誘電性液晶組成物)
下記表6に示すキラル化合物16〜20を用い、下記表7に示すように強誘電性液晶組成物を準備した。
【0156】
【表6】

【0157】
【表7】

【0158】
(液晶表示素子の作製)
実施例1、2と同様にして液晶表示素子を作製した。
【0159】
(評価)
1)耐衝撃性
得られた液晶表示素子について、耐衝撃性のテストを行ったところ、押し面積1cmに5Nの荷重をかけた後で液晶配向に変化はなかった。
2)配向
得られた液晶表示素子の液晶配向を観察したところ、実施例1と同様に均一な配向が得られた。
3)チルト角
液晶分子の動いた角度は、偏光顕微鏡にて測定した。クロスニコルの状態に設定した2枚の偏光板の間に、強誘電性液晶組成物が充填された液晶セルを置き、電圧無印加状態の黒表示の位置を基準とし、正電圧(+10V)および負電圧(−10V)印加時に動いた液晶分子の角度を測定した。ここでは、正電圧印加時に液晶分子が動いた角度と負電圧印加時に液晶分子が動いた角度の合計をチルト角とした。
その結果、置換基にフッ素原子を2つ有するキラル化合物を用いた場合には、置換基としてフッ素原子を1つ有するキラル化合物、あるいはフッ素原子を有さないキラル化合物のいずれかを用いた場合に比べてチルト角が大きくなった。
耐衝撃性、配向およびチルト角の評価結果を表8に示す。
【0160】
【表8】

【符号の説明】
【0161】
1 … 液晶表示素子
2a … 第1基材
2b … 第2基材
3a … 第1電極層
3b … 第2電極層
4a … 第1配向層
4b … 第2配向層
5 … 液晶層
11a … 第1配向処理基板
11b … 第2配向処理基板
25 … 液晶分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるキラル化合物を含有することを特徴とする強誘電性液晶組成物。
【化1】

(上記式(1)において、R1は、非キラルな基であり、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数4〜18の飽和もしくは不飽和のアルキル基もしくはアルコキシアルキル基である。
は、キラルな基であり、下記一般式(2)で表される基である。
【化2】

(上記式(2)において、Rは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜10の飽和もしくは不飽和のアルキル基もしくはアルコキシアルキル基である。
は、−CHまたはフッ素原子を表す。mは0または1である。nは0または1である。*印はキラル中心を示す。)
〜Xは、それぞれ独立して−CH、−CF、ハロゲン原子または水素原子を表す。ただし、X〜Xのうち1つ以上は、それぞれ独立して−CH、−CFまたはハロゲン原子である。)
【請求項2】
前記キラル化合物の含有量が5質量%〜35質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の強誘電性液晶組成物。
【請求項3】
第1基材、前記第1基材上に形成された第1電極層、および、前記第1電極層上に形成された第1配向層を有する第1配向処理基板と、
第2基材、前記第2基材上に形成された第2電極層、および、前記第2電極層上に形成された第2配向層を有する第2配向処理基板と、
前記第1配向層および前記第2配向層の間に形成された液晶層とを有する液晶表示素子であって、
前記液晶層が、請求項1または請求項2に記載の強誘電性液晶組成物を含有することを特徴とする液晶表示素子。
【請求項4】
前記第1配向層の構成材料および第2配向層の構成材料が互いに異なる組成を有することを特徴とする請求項3に記載の液晶表示素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−67775(P2013−67775A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−135004(P2012−135004)
【出願日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】