説明

弾性ローラの製造方法、およびリング塗工機

【課題】軸芯体の周りに液状ゴムを塗工して弾性ローラを製造する際、その塗工時に装置可動部の振動でローラ形状が安定しないことがある。
【解決手段】リング塗工機において、軸芯体101の上下部を保持する保持軸9,10に複数の動吸振器21を永久磁石で取り付け、塗工ヘッド8の環状スリットの中に軸芯体101を通しながら軸芯体101の外周面に液状ゴムを塗布する。動吸振器21は、塗工時の可動体の発生振動をあらかじめ計測器で観察しながら最も効果的に制振できる位置に取り付けられている。さらに、塗工時に可動体に発生した固有振動数に応じて、振動数を調整可能な制振装置を用いてアクティブに振動を収めることも追加可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンター、複写機等の画像形成装置における電子写真プロセスカートリッジなどに用いられる弾性ローラを製造する方法と、この製法に用いられるリング塗工機に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザープリンター等に代表される画像形成装置のプロセスカートリッジに用いられる弾性ローラ基体を得るには、環状スリットを有するリング塗工機を使用する。そして、リング塗工機における棒状の軸芯体の周囲に未硬化の液状材料をリング塗工してローラ形状とし、その直後に加熱・加硫・硬化させることにより、該弾性ローラ基体を得ることが出来る。
【0003】
このような弾性ローラを製造する方法および、その製造装置は、従来からよく行われている金型を用いた成形方法に代わって採用されつつある。理由は、金型を用いた成形方法に対して製造装置を簡素に構成でき、設備投資費が安くなり投資回収性が向上し、その結果減価償却費を低減できるからである。さらに、リング塗工機のノズル部分の交換が容易に短時間でできるので、成形する弾性ローラの品種毎の機種段取り替え作業が簡素化し、少量多品種生産に柔軟に対応できる点もある。この優位性は結果的に製品別の専用金型製造ラインを構築せずに済み、更に投資回収性が向上し減価償却費の更なる低減、そして製造ライン据付面積の大幅な縮小ができる等、数々の利点をもたらす。
【特許文献1】特開平08-323264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子写真用弾性ローラを前述のリング塗工機を使用して成形する方法において、オープン系で(大気に開放で)、弾性部材が未硬化であるローラ部品を、加熱加硫機まで把持搬送する必要がある。その理由から、弾性ローラの材料としては、できるだけ垂れにくい材料が適している。求められる弾性ローラの仕様により、垂れ易い液状材料を弾性ローラの弾性体材料を使用することもある。
【0005】
現在用いている前述のリング塗工機は、上記のような垂れ易い液状材料を用いた場合でも、機械振動等で成形物の外形精度が影響を受けぬよう極力丈夫な装置躯体や駆動機構を用いる工夫をしている。これにより、成形品の弾性体の形状が安定し寸法精度の良い成形物を得られるようにしている。しかしながら、電子写真画像の更なる画質向上を目指し、電子写真用弾性ローラの外形精度(真円度など)の更なる向上が求められている。
【0006】
本発明の目的は、前述の様な製造方法および装置に更なる工夫をして、成形品の弾性ローラ形状が更に安定し寸法精度の良い成形品を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、発明者らが鋭意検討を進めた結果、以下の手法を見いだした。
【0008】
すなわち、軸芯体を鉛直線方向に向けて把持する把持機構と、軸芯体を通す貫通穴とその貫通穴の内側面に開口した環状スリットを有するリングヘッドと、把持された軸芯体とリングヘッドを相対的に鉛直線方向に移動させる移動機構とを有し、軸芯体を移動しながら軸芯体の外周に液状材料を環状スリットから吐出塗布してローラ形状にする塗工装置を用い、ローラ形状塗布後に液状材料を硬化する弾性ローラを製造する。この製法において、塗工装置は動吸振器を有するものとし、塗布時に生じる振動を動吸振器で制振することとした。
【発明の効果】
【0009】
上述した本発明の方法によれば、ローラ軸芯に対してリング状ゴム材を塗工する塗工装置において、設備投資を増加させることなく、ローラ外形真円度を向上させることが出来る。とりわけ、材料降伏応力が20〜600Paの未硬化の液状材料をローラ状に成形する場合、さらには、より垂れ易い即ち機械振動の影響を受け易い100Pa未満で20Pa以上の液状材料をローラ状に成形する場合において効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態として、電子写真用現像用ローラを本発明の被加工部品として用いた形態を説明するが、本発明はこれによって現像用ローラ(電子写真用ローラ)に限定されるものではない。
【0011】
[装置類]
まず現像ローラ用弾性材の塗工および塗工後の加熱炉までの製造工程は図1に示すように、芯金投入機、リング塗工機、液状材料供給装置、リング成形品搬送用ロボット、および加熱炉の順番に移行する。本発明で用いたリング塗工機を図2、図3に示す。リング塗工ヘッドは図4の構造のものを用いた。
【0012】
図2,3に示すようにリング塗工機は、架台1上にガイドレール14がコラム2で鉛直方向に支持されている。ガイドレール14上には、ガイドレール14に沿って移動する移動機構であるLMガイド4が存在する。LMガイド4の駆動装置はボールねじ3、サーボモータ4、プーリ6等からなる。LMガイド4には、塗工される軸芯体101の両端を鉛直上下方向(鉛直線方向)から把持する把持機構であるワーク下保持軸9とワーク上保持軸10がブラケット7により取り付けられている。また、軸芯体101が、これの外周に液状ゴムを塗工するリング形状の塗工ヘッド(リングヘッド)8の貫通穴に通されている。塗工ヘッド8はコラム2に支持されており、材料供給弁13と配管12を経て液状ゴムが供給される供給口11に連結されている。
【0013】
このようなリング塗工機では、塗工ヘッド8に開いた貫通穴に軸芯体101を通過させ、かつ、軸芯体101を鉛直上下方向からワーク下保持軸9とワーク上保持軸10で挟持する。そして、軸芯体101の軸線を鉛直上下方向に向けた状態で、塗工ヘッド8の貫通穴の側面から液状ゴムを吐出しながら、該貫通穴内の軸芯体101をLMガイド4の移動に伴って移動させる(図3)。これにより軸芯体101の外周面に未加硫(未硬化)の液状ゴムが吐出塗布され、液状ゴムによるローラ形状塗布後、それを加熱加硫して弾性ローラを製造する。
【0014】
塗工ヘッド8は、図4に示すように、供給口11に連結された材料注入口203を有する。塗工ヘッド8はリング状に構成され、リングヘッド上部201とリングヘッド下部202とを上下一体に接合してなる。リング状塗工ヘッド8の貫通穴の内側面に、材料吐出口205としての環状スリットが開口している。この材料吐出口205は、リングヘッド上部201とリングヘッド下部202の接合面に形成され、材料流路204を経て、材料注入口203に連通している。
【0015】
[動吸振器]
本発明では、ローラ外形真円度を向上させるため、図2に示したリング塗工機(成形装置)に、液状ゴム材の塗布時に生じる振動を吸収する動吸振器として、下記のような機構を組み込んだ。
【0016】
まず、図6に示す動吸振器21(ダイナミックダンパ)を用意した。この動吸振器21は円柱状の副振動系用錘30と円柱状の副振動系用振動体31を連結してなる。また、動吸振器21の端部に永久磁石32が内蔵されている。
【0017】
動吸振器21の詳細は以下のとおりである。
【0018】
副振動系用振動体31として、熱可塑性エラストマ・サントプレーン8211-25、直径14mm×長さ185mm、重量20グラムのものを使用した。永久磁石32にミスミHXNH型直径8mmm×長さ8mmのものを使用し、副振動系用錘30に鋼鉄製棒状ウエイト・8グラムのものを使用した。
【0019】
動吸振器21は、リング塗工機のLMガイド4が塗工時に鉛直軸方向に下から上へ上がり停止するまでの間、リング塗工機を構成する可動体に発生する振動を速やかに収拾させる効果を持つ。
【0020】
また、動吸振器21は永久磁石32により、リング塗工機が磁性材料(炭素鋼など)で製作されるので、弾性ローラの軸芯体101を把持する上保持軸10、下保持軸9、および/またはリング状の塗工ヘッド8等、どこにでも任意の数を装着できる。
【0021】
この図6の動吸振器21は、図7に示すように任意の位置に装着しても、また図8の様に取り付けても、成形されるローラの真円度精度等に良い結果を得ることが出来る。
【0022】
さらに、図2に示したリング塗工機(成形装置)には、上記のような動吸振器21と共に、アクティブ制振機構を有する動吸振器を装着することが好ましい。
【0023】
このアクティブ制振機構を有する動吸振器について説明する。
【0024】
図9に示すように、電磁可変振動体33を動吸振器とするアクティブ制振機構をリング塗工機に組み込んだ。電磁可変振動体33には神鋼電気製の電磁バイブレータV-2Bを用いた。バイブレータの振動数可変域は6000〜7200(VPM)、定格電流は0.2アンペアで駆動電圧は交流100V、外形寸法と重量は直径72mm×高さ75mm、1.2kgである。インバータにより電圧可変とした。
【0025】
上記の電磁可変振動体33は、弾性ローラの軸芯体101を把持する上保持軸10、下保持軸9、および/またはリング状の塗工ヘッド8等、任意の位置に任意の数を取付けられる。これにより、成形される弾性ローラの真円度精度等に、よい結果が得られる。本実施形態では図9に示すように、ワーク下保持軸9に2個の電磁可変振動体33を取り付けた。
【0026】
[塗工後の加熱加硫炉までの搬送]
本形態では、搬送用6軸ロボット(デンソー製)を用い、該リング塗工機から加熱炉(加硫炉)まで、塗工直後の弾性ローラを搬送した(図1)。
【0027】
加熱炉にはエスペック製の熱風循環式高温槽を用い、未加硫のローラ材料を加熱温度200℃で2時間加熱して加硫した。
【0028】
[振動測定・評価]
リング塗工機の塗工動作時の振動増加分を動吸振器21(ダイナミックダンパ)が吸収出来ているか否かの効果を測定する。そのため、TアンドD社の加速度計「GセンサーVR-00S1」と、同じくTアンドD社の電圧データーロガー「VR71」を用い、得られた加速度「G」の値を持って、振動測定の代りとして評価した。この加速度計の加速度プローブ(振動センサ)の貼り付けに関しては、後述する実施例4と5と6、および比較例1において、ワーク上保持軸10の軸芯体101寄りに、両面粘着テープにて固定した。実施例1と2および3(図9参照)では、上記の加速度プローブを、電動スライダー(LMガイド4)とワーク上下保持軸9,10との連結板(ブラケット7)に固定した。
【0029】
[弾性ローラの真円度精度測定・評価]
得られた加硫済の弾性ローラの外形振れ精度を以下の方法にて測定した。
【0030】
レーザー測長機(東京精密株式会社製)によって、弾性ローラの軸芯体101の軸方向両端からそれぞれ20mmの位置を測定点P1,P5と定め、この間を4等分する位置を測定点P2,P3,P4と定めた。その後、P1〜P5の各点における半径を測定し、これを測定点ごとに360°回転させながら数回実施し、その平均を各5点での半径とした。さらに、測定した5点における半径を比較し、360°周囲半径と(表1の5点平均欄)、最大値と最小値の差をとって、真円度精度を評価した。その評価は、弾性ローラの軸方向5点の平均値(μm)および、最大値と最小値の差(μm)を比較する。
【0031】
[降伏応力測定法]
粘弾性測定装置による液状ゴム材料の降伏応力測定法を以下に記す。
【0032】
粘弾性測定装置にはHaake社製RheoStress600を用いた。液状ゴム材料約1gを採取し試料台の上に載せ、コーンプレートの円錐形の頂点を徐々に近づけて、試料台から約50μmの位置で測定ギャップを設定した(コーンプレートにはφ35mm、円錐形の傾斜角度1°の物を用いた)。そのとき、コーンプレートの周りに押し出された材料を奇麗に除去して測定に影響しないようにした。材料温度が25℃になるように試料台の温度は設定され、液状ゴム材料の試料をセットしてから10分間放置後、測定を開始した。試料にかける応力は0.00Paからスタートし50000Paまでの範囲(周波数は1Hz)を、180秒かけて変動させ、そのときの貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”、位相差tanδの変化を32ポイント測定した。貯蔵弾性率G’ははじめ線形粘弾性領域で一定の値となり、その後貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”が交差する点の応力値を読み取り、降伏応力とした。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0034】
[実施例1]
現像ローラを製造するのに以下のようなローラ用液状材料、現像ローラの軸芯体、およびリング塗工装置を準備する。
【0035】
ローラ用液状材料として、降伏応力210〔Pa〕のシリコーンゴムベース材料を調製する。そのため、次の配合物を用意する。
分子鎖量末端ビニル基封鎖ジメチルポリシロキサン(分子量 Mw=10万)80質量%
カーボンブラック (電気化学工業製デンカブラック粉状) 7質量%
シリカ (日本アエロジル製:商品名:AEROSIL50) 13質量%
そして、上記の配合物をプラネタリーミキサーを用いて30分間混合脱泡し、降伏応力210〔Pa〕のシリコーンゴムベース材料を得た。さらに、このベース材料100部に対して、塩化白金酸のイソプロピルアルコール溶液(白金含有量3質量%)0.02部を加えて混合することで混合物Aを作る。また、そのベース材料100部に対し、粘度10cpsのオルガノハイドロジェンポリシロキサン(SiH含有量1質量%)1.5部を加えて混合することで混合物Bを作る。それから、混合物Aと混合物Bをそれぞれ、原料タンク1、原料タンク2にセットし、圧送ポンプを使用してスタチックミキサーに送り出し混合物Aと混合物Bを1:1の比率で混合した。
【0036】
軸芯体101(芯金)としては、直径φ6mm、長さ275mmの丸棒状鋼材製芯金で、表面に化学ニッケルメッキを施したものを500本用意した。
【0037】
次に、内側に環状スリットが開いた塗工ヘッド8と、ダイナミックダンパ(リアクティブな動吸振器21)および、電磁可変振動体33とその制御回路34(アクティブ制振機構を有する動吸振器)を装備している、リング塗工機(図9)を用意した。ダイナミックダンパ(リアクティブな動吸振器21)の構造は図6で示す。これをワーク上保持軸10(上把持部材)に4個、Y軸方向に沿って縦に装着するとともに、塗工ヘッド8にも取り付けた(図3,9参照)。装着する場所は、試験的に軸芯体101を重力軸鉛直方向(Y+)に動かしながら、前述の加速度計での電圧データーロガーの出力波形を見て、最適な位置を決定した。図10に示すのは動吸振器21が最も効果的に表れた位置での加速度グラフ(横軸が時間:1目盛10秒、縦軸が加速度:1目盛0.01G)で、図11に示すのは動吸振器21の効果が無い位置での加速度グラフである。
【0038】
このような測定において動吸振器21の取付け手段に永久磁石32を使ったことにより、動吸振器21の取付け位置を自在に最適に決めることができた。
【0039】
また、本実施形態では図9に示すようにアクティブな動吸振器(電磁可変振動体33)をワーク下保持軸9(下把持部材)に2個取り付けるが、この場合も、前述同様に磁石32を利用し、加速度計でのデーターロガーの出力波形により最適位置を調整した。
【0040】
さらに、アクティブ制振機構(電磁可変振動体33)の最適加振・振動数と出力エネルギー設定は次のとおりである。第一に、電磁可変振動体(バイブレータ)33とリング塗工機動作時の複合された振動周波数を振動センサ35により検出し制御回路34に入力する。そして、最適加振・振動数と電圧を演算する。この結果を信号処理して電磁可変振動体33に出力し、これに基づき電磁可変振動体33を加振する。この加振後の振動数を再び振動センサ35により検出し制御回路34に入力する。このようなネガティブフィードバック(負帰還)によるオートチューニング設定で、ゴム材料塗工時の振動をアクティブ制振した。
【0041】
以上説明した液状材料、軸芯体、リング塗工装置を用いて、以下の要領で軸芯体の外周面に液状材料を塗布した。以下、図1、図2、図3、図4、図5、図9に基づき説明する。
【0042】
直径6mmの軸芯体101の外周面上の加硫前液状樹脂層の厚さが約3mmとなるように、塗工ヘッド8(塗工リング)の環状スリットを設計製作した。即ち、得られる現像ローラの外径はφ12mmである。
【0043】
軸芯体101を図1に示す芯金投入器からリング塗工機に搬送し、塗工ヘッド8の環状スリットに通してワーク下保持軸9とワーク上保持軸10で把持させる。その後、軸芯体101を塗工ヘッド8の鉛直上方から下方に鉛直方向に移動させ(図2および図3)、一旦塗工ヘッド8の鉛直下方に位置させた。次に、図9に示すアクティブ制振機構用の制御回路34を作動させた。
【0044】
そして、図1に示す液状材料供給装置によりシリコーンゴム材料をリング塗工機に適量供給させながら、軸芯体101を鉛直上方に60mm/秒で移動させ、塗工ヘッド8により軸芯体101の外周面に液状樹脂層を形成した。
【0045】
このような手順により加硫前の現像ローラ用基層(硬化前の液状樹脂層、すなわち図5に示した弾性体層102)を得た。その後、搬送用6軸ロボット(デンソー製VS-6556)を用い、該リング塗工機から加熱炉(加硫炉)まで、成形された直後の現像ローラを搬送した(図1)。加熱加硫はエスペック製の熱風循環式高温槽を用い、加熱温度200℃で2時間加硫した。
【0046】
以上の動作を繰り返し、実施例1による100本の現像ローラ用基体を得た。試作した100本の加硫済ローラの真円度を測定した結果を表1に示す。
【0047】
[実施例2]
実施例2では、実施例1で用いた動吸振器21(ダイナミックダンパー)とアクティブ制振機構(電磁可変振動体33)を永久磁石ではなくボルトにて強固に取り付けた。この他は、実施例1と同様の手法、材料、装置を用いて、前述の弾性体形成用材料を前述の鋼材製芯金の外周面に塗布し、加熱加硫し、100本の現像ローラ用基体を得た。
【0048】
実施例2で試作した100本の加硫済ローラの真円度を測定した結果を表1に示す。表1で明らかなように、動吸振器21(ダイナミックダンパー)とアクティブ制振機構の各々の取付け方法を磁石からボルト&ナットに変えても、実施例1と同じ効果が得られた。
【0049】
[実施例3]
実施例3では、実施例1で用いた動吸振器21(ダイナミックダンパー)をワーク上保持部10(上把持部材)に永久磁石で取り付けただけで、塗工ヘッド8(塗工リング)には取り付けなかった。一方、ワーク下保持部9(下把持部材)には実施例1同様、アクティブ制振機構(電磁可変振動体33)を永久磁石で取り付けた。この他は、実施例1同様の手法、材料、装置を用いて、前述の弾性体形成用材料を前述の鋼材ローラの外周面に塗布し、加熱加硫し、100本の現像ローラー用基体を得た。
【0050】
実施例3で試作した100本の加硫済ローラの真円度を測定した結果を表1に示す。表1で明らかなように、実施例1、2と同様の効果が得られた。
【0051】
[実施例4]
実施例4では、実施例1で用いた動吸振器21(ダイナミックダンパー)とアクティブ制振機構(電磁可変振動体33)を永久磁石ではなくボルトにて強固に取り付けた。一方、ワーク下保持部9(下把持部材)には、アクティブ制振機構(電磁可変振動体33)を取り付けなかった。
【0052】
この他は、実施例1同様の手法、材料、装置を用いて、前述の弾性体形成用材料を前述の鋼材製芯金の外周面に塗布し、加熱加硫し、100本の現像ローラ用基体を得た。実施例4で試作した100本の加硫済ローラの真円度を測定した結果を表1に示す。表1で明らかなように、ローラ真円度が良くなっているので動吸振器21は効果有りとみなす。
【0053】
[実施例5]
実施例5では、現像ローラ用液状材料を以下のシリコーンゴム材料を用いた他は、実施例4のリング塗工装置を用い、実施例4と同様の手法で現像ローラを作製した。
【0054】
現像ローラ用液状材料として降伏応力20〔Pa〕のシリコーンゴムベース材料を調製するため、次の配合物を用意する。
分子鎖量末端ビニル基封鎖ジメチルポリシロキサン(分子量 Mw=10万) 80質量%
カーボンブラック (電気化学工業製デンカブラック粉状) 5質量%
石英 (Pennsilvania Glass Sand製:商品名:Min-Usil 15質量%
上記の配合物をプラネタリーミキサーを用いて30分間混合脱泡し、降伏応力20〔Pa〕のシリコーンゴムベース材料を得た。
【0055】
この材料を実施例4のリング塗工装置により前述の鋼材製芯金の外周面に塗布した後、加熱加硫し、100本の現像ローラ用基体を得た。
【0056】
実施例5で試作した100本の加硫済ローラの真円度を測定した結果を、表1に示す。
【0057】
表1から、ローラ真円度が5点平均で13μm、Max平均14μmで形状安定性指標の15μm以下に収まっていることが判る。材料の降伏応力が低い影響で、得られたローラの端部形状に垂れが生じていた。しかし、その垂れは画像領域外なので電子写真画像上の影響は無い。
【0058】
[実施例6]
実施例6においても、現像ローラ用液状材料を以下のシリコーンゴム材料を用いた他は、実施例4のリング塗工装置を用い、実施例4と同様の手法で現像ローラを作製した。
【0059】
現像ローラ用液状材料として降伏応力600〔Pa〕のシリコーンゴムベース材料を調製するため、次の配合物を用意する。
分子鎖量末端ビニル基封鎖ジメチルポリシロキサン(分子量 Mw=10万) 60質量%
分子鎖量末端ビニル基封鎖ジメチルポリシロキサン(分子量 Mw=50万) 30質量%
カーボンブラック (三菱化学製:商品名:MA11) 5質量%
シリカ (日本アエロジル製:商品名:AEROSIL380) 5質量%
上記の配合物をプラネタリーミキサーを用いて30分間混合脱泡し、降伏応力600〔Pa〕のシリコーンゴムベース材料を得た。
【0060】
実施例6で試作した100本の加硫済ローラの真円度を測定した結果を表1に示す。表1で明らかなように、ローラ真円度が5点平均で13μm、Max平均14μmで形状安定性指標の15μm以下に収まっていることが判る。ところが、材料の降伏応力が低い影響で、得られたローラの表面にレベリング不足による縦スジが観察された。しかし、その縦スジはごく僅かなもので、基層に表面層103を塗った状態(図5)では表層塗料に縦スジはカバーされるので、電子写真画像上の影響は無い。
【0061】
[比較例1]
比較例1では、リアクティブ制振用の動吸振器21、アクティブ制振機構の動吸振器(電磁可変振動体33)をどちらも取り外し、従来のリング塗工機の状態にした装置を用いた(図2)。その他は実施例1で用いた同様の手法、材料を用いて、前述の弾性体形成用材料を前述の鋼材製芯金の外周面ローラし、加熱加硫し、100本の現像ローラー用基体を得た。
【0062】
比較例1で試作した100本の加硫済ローラの真円度を測定した結果を表1に示す。ローラの真円度は、5点平均で13μm、Max平均14μmで形状安定性指標の15μm以下に収まっている、若干実施例1〜6に比べより劣る結果となった。
【0063】
【表1】

【0064】
以上説明したように、成形機(リング塗工機)の、上下のワーク保持軸9,10の任意の位置に、ゴム製の弾性部材による動吸振器(ダイナミックダンパ)21が取り付けられている。これにより、塗工ヘッド8に対して軸芯体101を鉛直軸方向に下から上へ移動させて液状ゴムを塗布する間、成形機を構成する可動体に発生する振動を速やかに収拾させることができる。
【0065】
動吸振器21の固定に永久磁石を用いることで、計測器で発生振動を観察しながら最も効果的な位置に自在に動吸振器21をセットできる。
【0066】
更に、塗工時にLMガイド4などの可動体に発生した固有振動数に応じて、振動数を調整可能なアクティブ制振機構を追加的に用いることも可能である。
【0067】
以上のような本発明の工夫により、塗工機工程の可動体の振動を収拾させ、液状ゴム材料がずれる(振れて真円度が悪化する)ことを極力防止でき、ローラ形状安定させることが出来る。また、A3サイズ用ローラ成形におけるリング塗工で、ローラが長く(相対的に径が細く)なっても、塗工装置のサーボモータ系の振動等がローラに伝わることなく、A4サイズ同様に高精度のリング成形が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明で説明する製造装置の全貌を示す図(概略説明図)である。
【図2】リング塗工機の概略説明図である。
【図3】本発明の実施例4、実施例5、および実施例6で動吸振器21をリング塗工機に取り付けた様子を示した概念図である。
【図4】塗工ヘッド(リングヘッド)の断面概略説明図である。
【図5】現像用ローラの構成説明図である。
【図6】実施例1〜6で用いた動吸振器21を示す概略図である。
【図7】永久磁石により動吸振器21をリング塗工機の任意の位置に取り付ける様子を示した概念図である。
【図8】動吸振器21をワーク上保持軸に取り付けてローラの軸芯体を把持している様子を示した概念図である。
【図9】アクティブ制振機構の説明図である。
【図10】実施例1での塗工時に測定した加速度のグラフである。
【図11】比較例1での塗工時に測定した加速度のグラフである。
【符号の説明】
【0069】
1 架台
2 コラム
3 ボールねじ
4 LMガイド
5 サーボモータ
6 プーリ
7 ブラケット
8 リング形状の塗工ヘッド
9 ワーク下保持軸
10 ワーク上保持軸
11 供給口
12 配管
13 材料供給弁
14 ガイドレール
15 ガイドレール取付け板
21 動吸振器(ダイナミックダンパ)
30 動吸振器(ダイナミックダンパ)の副振動系用錘
31 動吸振器(ダイナミックダンパ)の副振動系用振動体
32 永久磁石
33 アクティブ制振機構用電磁可変振動体(バイブレータ)
34 アクティブ制振機構用制御回路
101 軸心体
102 弾性体層(加硫前または加硫後)
103 表面層
201 リングヘッド上部
202 リングヘッド下部
203 材料注入口
204 材料流路
205 材料吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸芯体を鉛直線方向に向けて把持する把持機構と、前記軸芯体を通す貫通穴とその貫通穴の内側面に開口した環状スリットを有するリングヘッドと、把持された前記軸芯体と前記リングヘッドを相対的に鉛直線方向に移動させる移動機構とを有し、前記軸芯体を移動しながら前記軸芯体の外周に液状材料を前記環状スリットから吐出塗布してローラ形状にする塗工装置を用い、ローラ形状塗布後に前記液状材料を硬化する弾性ローラの製造方法において、
前記塗工装置に動吸振器が取り付けられ、塗布時に前記塗工装置に生じる振動を該動吸振器で制振することを特徴とする弾性ローラの製造方法。
【請求項2】
前記液状材料は降伏応力が20〜600Paの未硬化の液状材料であることを特徴とする請求項1に記載の弾性ローラの製造方法。
【請求項3】
前記動吸振器には、弾性部材からなる動吸振器および/または、アクティブ制振機構を有する動吸振器が使用されることを特徴とする請求項1または2に記載の弾性ローラの製造方法。
【請求項4】
前記動吸振器が、前記軸芯体を把持する部材および/または前記リングヘッドに取付けられることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の弾性ローラの製造方法。
【請求項5】
前記動吸振器が、永久磁石により任意の位置に取付け可能なものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の弾性ローラの製造方法。
【請求項6】
製造される弾性ローラが電子写真用ローラであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の弾性ローラの製造方法。
【請求項7】
軸芯体を鉛直線方向に向けて把持する把持機構と、前記軸芯体を通す貫通穴とその貫通穴の内側面に開口した環状スリットを有するリングヘッドと、把持された前記軸芯体を前記リングヘッドに対し相対的に鉛直線方向に移動させる移動機構とを有し、前記軸芯体を移動しながら前記軸芯体の外周に液状材料を前記環状スリットから吐出塗布してローラ形状にする塗工装置において、
塗布時に前記塗工装置に生じる振動を制振する動吸振器を備えたことを特徴とする塗工装置。
【請求項8】
前記動吸振器には、弾性部材からなる動吸振器および/または、アクティブ制振機構を有する動吸振器が使用されることを特徴とする請求項7に記載の塗工装置。
【請求項9】
前記動吸振器が、前記軸芯体を把持する部材および/または前記リングヘッドに取付けられていることを特徴とする請求項7または8に記載の塗工装置。
【請求項10】
前記動吸振器が永久磁石により取り付け可能であることを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載の塗工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−296142(P2008−296142A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145243(P2007−145243)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】