説明

弾性ローラの製造方法

【課題】軸芯体の外周面に形成された弾性体層の一部を切断除去して、軸芯体の両端部を露出させる弾性ローラの製造に際し、弾性体層が接着剤や離型剤がなくても軸芯体への接着力がありかつ弾性体層の一部の切断除去が容易な方法を提供する
【解決手段】軸芯体が、表面に無電解ニッケルメッキが施され、さらに、露出させる両端部の無電解ニッケルメッキが、熱処理、照射処理及び化学処理のいずれかによる処理がされ、該ニッケルメッキのX線電子分光法から求める表面酸化度(Ni oxide/Ni metal)が、露出させる両端部で1.0以上3.0以下であり、軸芯体の中央部で0.2以上0.6以下であり、弾性体層として、硫黄及び分子内に硫黄原子を含む加硫剤の一方又は両方を含む原料ゴム組成物の層を軸芯体の外周面に他物質を介さずに形成し、加熱架橋した後、該架橋ゴム層の一部を切断除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に複写機、プリンター、ファクシミリ等の受信装置などの電子写真方式を採用した装置(電子写真装置)に使用される弾性ローラの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やファクシミリ、プリンターの如き画像形成装置には、感光ドラムを帯電させたり、静電潜像を現像したりするのに、その目的にあった弾性ローラが用いられている。弾性ローラとして、導電性を付与したゴム材料からなる弾性体層を軸芯体の外周面に形成したものが一般的に使用されている。弾性ローラに用いられる軸芯体には、寸法精度と、長期使用時の防錆のために、無電解メッキにより形成されたニッケル表面を有する軸芯体が用いられる。
【0003】
ところで、弾性ローラは機器本体の軸受け部にセットされる両端部においては通常軸芯体の周面が露出している。かかる弾性ローラの製造方法として、特許文献1は、表面に形成された無電解ニッケルメッキ層を不活性化処理して形成されている不活性皮膜の一部を物理的に除去し、露出した無電解ニッケルメッキ層に接着性を持たせた芯金にゴム層を形成する方法を開示している。この方法では、使用時には芯金とゴム層とが良好に接着しており、且つ、芯金とゴム層の分離も容易であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−301241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは上記特許文献1に記載の技術を検討した。その結果、芯金表面の不活性被膜の除去工程は工数を増大させ、また除去の際に芯金に傷を生じさせてしまう可能性があり、高品位な弾性ローラを量産する上では、必ずしも最適な方法でないとの結論に至った。そこで、本発明の目的は、軸芯体と弾性体層が十分な接着性を有し、かつ、該軸芯体の両端部の周面にキズや汚れのない弾性ローラを製造する方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究・検討を進め、ついに、本発明を完成するにいたった。
【0007】
すなわち、本発明にかかる弾性ローラの製造方法は、軸芯体と、該軸芯体の軸方向中央部の周面を被覆している弾性体層とを有し、該軸芯体の軸方向両端の外周面が露出している弾性ローラの製造方法であって、
(1)無電解メッキにより形成されたニッケルによって周面が構成されており、軸方向の中央部の周面の酸化度が1.0以上であり、軸方向両端の該ニッケルの周面の酸化度が0.6以下である軸芯体を用意する工程と、
(2)該軸芯体の、該中央部及び該両端部の周面を該弾性体層の原料ゴム組成物の層で被覆する工程と、
(3)該原料ゴム組成物の層を硬化させて弾性体層を形成する工程と、
(4)該両端部の周面を被覆している該弾性体層を除去する工程とを有し、
かつ、該原料組成物は未加硫ゴムと、硫黄および分子内に硫黄原子を含む加硫剤から選ばれる少なくとも一方とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属製の軸芯体上に接着剤を使用することなく、ゴムからなる弾性体層を十分な強度で接着させることができ、かつ、余分なゴムの除去が容易で、軸芯体の精度が良く、軸芯体の露出部の表面もきれいな弾性ローラが製造できる。また、本発明の弾性ローラの製造方法は接着剤を使用しないので、製造工程が簡略化され、接着剤の流れ等による接着不良の発生もなく、また、接着剤の希釈に用いる溶剤を使用しないなど、環境対応にも優れた弾性ローラの製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る弾性ローラの斜視図である。
【図2】本発明に係る弾性ローラの他の例の斜視図である。
【図3】本発明に係る弾性ローラの説明図である。
【図4】熱板による加熱処理を行う装置の説明図である。
【図5】熱風による加熱処理を行う装置の説明図である。
【図6】ハロゲンランプによる加熱処理を行う装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明をより詳細に説明する。本発明に係る弾性ローラの一実施形態を図1及び図2に示す。いずれも、本発明の弾性ローラの全体構成を模式的に示す斜視図である。図1の弾性ローラ1は、中心に軸芯体11とその外周面に少なくとも1層の弾性体層12を有している。図2の弾性ローラ2は、中心に軸芯体11とその外周面に少なくとも1層の弾性体層12を有し、さらにその外周面に被覆層13を有している。なお、図3は、図1の弾性ローラ1を、軸芯体11の中心線を含む形での断面図と、軸芯体11の一例を説明する正面図である。
【0011】
本発明にかかる弾性ローラの製造方法においては、軸芯体11の外周面に弾性体層12を形成し、該弾性体層の一部を切断除去し、該軸芯体の両端部31を露出させる工程を含む。、
【0012】
まず、本発明においては、無電解メッキにより形成されたニッケルによって周面が構成されており、軸方向の中央部の周面の酸化度が1.0以上であり、軸方向両端の該ニッケルの周面の酸化度が0.6以下である軸芯体を用意する。軸芯体11は、無電解メッキにより形成されたニッケルによって周面が形成されている。その周面に形成された弾性体層12は軸心体の両端部31において一部切断除去され、この切断、除去により、該軸芯体の両端部31を露出させる。なお、本発明においては、この露出させる両端部31の周面のメッキは予め処理されて、両端部31と中央部33の無電解ニッケルメッキの表面の酸化状態が異なるようにしてある。
【0013】
すなわち、軸芯体11は、その表面全体に無電解ニッケルメッキが施されている。そして、その両端部31に、熱処理、照射処理及び化学処理のいずれかの処理をする。それにより、該軸芯体11の露出させる両端部31を、X線光電子分光法から求める表面酸化度(Ni oxide/Ni metal)が1.0以上とする。一方、該軸芯体11の長手方向の中央部33では表面酸化度(Ni oxide/Ni metal)は0.6以下である。
【0014】
軸芯体11の原材料には、金属の如き導電性材料で形成されている棒材を用いる。画像形成装置に利用される現像ローラは、電気的なバイアスを印加して、あるいは、接地して、使用されるのが一般的であるので、軸芯体11は、支持部材であることは勿論であるが、現像ローラの電極として機能するものである。なお、帯電ローラ、転写ローラのような他の導電ローラにあっては電気的なバイアスが印加されるので、軸芯体11は、支持部材であるとともに、少なくとも表面が導電性であることが要求される。
【0015】
棒材としては、アルミニウム,銅合金,ステンレス鋼の如き金属又は合金の材質で構成されたものが好ましい。そして、棒材の表面に無電解ニッケルメッキを施す。なお、無電解ニッケルメッキは、工業的に広く使用されているものを、そのまま利用できる。無電解ニッケルメッキの原理は、ニッケルイオンを含む溶液から、還元剤によって、ニッケル金属を析出させることにある。該還元剤には、次亜リン酸ナトリウム、ヒドラジン、ボロン、水素化ホウ素化合物などがある。還元剤として次亜リン酸ナトリウムが広く用いられており、形成される無電解ニッケルメッキの皮膜成分は、主成分がニッケルであり、リンを5〜12質量%含有しているのが一般的である。また、無電解ニッケルメッキはその厚さを均一に保つことが容易である利点がある。本発明における、無電解ニッケルメッキ層の厚さは、3μm以上5μm以下が好ましい。なお、無電解ニッケルメッキは厚さ50μmくらいまで形成することが可能であるが、必要以上に厚くすることは、浸漬時間を長くする必要があり実用的でない。
【0016】
表面に無電解ニッケルメッキを施した軸芯体11の両端部31に対し、熱処理、照射処理及び化学処理のいずれかの処理を行う。
【0017】
軸芯体11の両端部31とは、弾性体層の一部を切断除去し、該軸芯体の外周面の両端において、露出させる部分である。いずれの処理の場合も、少なくとも、両端部31に対して処理が行われていればよい。なお、その処理方法や条件によって、両端部31より少し広い範囲が、処理されていてもよい。以下において、軸心体の露出させる両端部を指すときは、単に「両端部」と記載することがある。
【0018】
直接処理を行う範囲は、両端部31、又は、両端部31と一緒に処理をする部分32(以下、「両端共処理部」という)を合わせた範囲となる。ここで、両端共処理部32は、両端部31に隣り合った位置で、中央部33(後記する)と重なることはない部分である。両端部31を、熱処理、照射処理及び化学処理のいずれかにより処理することにより、その両端部31の表面状態を変える。
【0019】
次に、軸芯体11の中央部33と両端部31の双方の周面を弾性体層の原料ゴム組成物からなる層で被覆する。次いで、該原料ゴム組成物の層を硬化させて弾性体層を形成する。その後、軸芯体11の両端部の周面を被覆している弾性体層が除去されるが、該弾性体層の除去が容易な軸芯体の表面状態とし、効率的に軸芯体の両端部を処理する。具体的には、軸芯体の両端部の無電解ニッケルメッキが処理され、該ニッケルメッキのX線光電子分光法から求める表面酸化度(Ni oxide/Ni metal)が、露出させる両端部で1.0以上とされる。なお、軸芯体の中央部では該表面酸化度(Ni oxide/Ni metal)は0.6以下である。
【0020】
無電解ニッケルメッキ層のX線光電子分光法から求める表面酸化度(Ni oxide/Ni metal)(以下において、特に断らない限り、「表面酸化度」と表す)は、以下のように定義する。
【0021】
軸芯体の表面をX線光電子分光分析(XPS)法により測定し、概ね840eV乃至865eVの範囲に見られる複合ピークを、853.0eV付近に結合エネルギーを持つ成分と856.8eV付近に結合エネルギーを持つ成分とにピーク分離を行う。分離したピークの面積強度を、それぞれ金属ニッケルの成分量「Ni metal」、ニッケル化合物の成分量「Ni oxide」とする。ここで、ニッケル化合物とは、酸化ニッケルやリン酸ニッケルを含む化合物であると考えられるが、便宜的に、「Ni oxide」と称する。
【0022】
本発明において、「Ni metal」、「Ni oxide」とは、
「Ni metal」=853.0eV付近に結合エネルギーを持つ成分の面積強度
「Ni oxide」=856.8eV付近に結合エネルギーを持つ成分の面積強度
であり、この2つの値より、
表面酸化度=「Ni oxide」/「Ni metal」
を計算により求める。
【0023】
両端部の表面酸化度を1.0以上とすることにより、軸芯体とゴムとの接着力は通常の作業で剥離することができる程度に弱く、余分なゴムの除去が可能となる。表面酸化度は大きいほど、軸芯体とゴムとの接着力は弱くなり、1.8以上では軸芯体とゴムとの接着力は殆どなく、換言すると付着している程度となるため、余分なゴムの除去がより容易となる。そして、生産性に優れ、軸芯体の精度が良く、弾性体層を除去した後の軸芯体の表面もきれいな状態に保つことができる。表面酸化度が1.0未満の場合には、軸芯体とゴムとの間に接着力があり、余分なゴムを容易に除去することができない。また、両端部の表面酸化度は3.0以下とすることが好ましい。これは、表面酸化度が3.0を超えるようにするためには処理時間を必要とし、また軸芯体自体の熱伝導により、両端部以外の部分まで酸化されてしまうことを防ぐためである。軸芯体の両端部の表面酸化度を上記の範囲とするために、熱処理、照射処理又は化学処理、もしくはその組合せにより処理する。
【0024】
熱処理として、高温雰囲気での加熱、温度が調整された熱板への接触、ハロゲンランプ等を用いた赤外線による加熱が挙げられる。なお、軸芯体の両端部の無電解ニッケルメッキ層の表面温度が100℃以上350℃以下となることが好ましい。
【0025】
照射処理として、軸芯体の両端部の無電解ニッケルメッキ層の表面に活性光線を照射する方法、例えば、水銀UVランプ照射、エキシマUV照射、コロナ放電、プラズマ放電が挙げられる。これらの処理は、表面が酸化される雰囲気であればよく、通常は大気中で行えばよい。
【0026】
化学処理としてはクロム酸処理が挙げられる。具体的には、濃度0.5g/リットル以上10g/リットル以下のクロム酸溶液中に軸芯体の両端部の所定処理範囲を30秒以上60秒以下浸漬し、その後純水で洗浄し、乾燥する処理である。
【0027】
本発明では、軸芯体の熱処理、照射処理や化学処理を直接行っていない中央部は、接着剤を用いることなく、弾性体層を直接接着させるので、該中央部の表面酸化度は0.6以下とする。なお、本発明では、中央部(軸芯体の外周面の長手方向の中央部)とは、軸芯体の寸法的な中央を中心として、弾性体層が形成される部分の50%に相当する部分である。すなわち、図3下図に示すように、軸芯体11の長手方向の長さをa、弾性体層12が形成される長さをbとしたとき、中央部33とは、軸芯体11の長手方向の中心34より、各b/4(弾性体層の長さの25%)を長手方向に広げた範囲である。
【0028】
軸芯体上に形成される弾性体層が、軸芯体との接触面の少なくとも50%の面積で十分な接着力が得られれば、弾性ローラとして実用的な性能となる。また、製造された弾性ローラをさらに研削加工して弾性体層の表面仕上げを行う場合にも、軸芯体と弾性体層の空回りやずれが殆どないため、加工精度に悪影響しない。また、該弾性ローラの用途が電子写真装置における現像ローラである場合、軸芯体と弾性体層とは、十分な接着性を持ち、空回りや変形等の発生がなく、従って、良好な画像が達成される。
【0029】
なお、そのためには、軸芯体の中央部の表面酸化度が0.6以下であることが、軸芯体と弾性層とが十分な接着力を得るために必要である。軸芯体とゴムからなる弾性体層との接着に関しては、表面酸化度は小さいほど好ましく、0.6以下であれば十分な接着力が得られ、0.5以下であればより安定した接着力を得ることができる。
【0030】
軸芯体の中央部の表面酸化度は、無電解ニッケルメッキを施した後、両端部の処理を行った後の状態を指す。例えば、両端部に対して熱処理を行った場合、処理を直接行っていない中央部においても熱伝導によりその表面酸化度が変化する。しかし、両端部処理の影響を受けて変化した場合であっても、中央部の表面酸化度は上記範囲にあればよい。
【0031】
表面酸化度が0.6を超える場合には、弾性体層との接着力が低下し、実用的な弾性ローラを安定して得ることができない。また、形成するゴムの種類によっては接着性が得られなくなる。一方、通常の無電解ニッケルメッキによる表面では、表面酸化度が0.2未満となることはない。そのため、軸芯体の中央部の表面酸化度は0.2以上0.5以下であることがより好ましい。
【0032】
本発明において、表面酸化度を基準として、軸芯体の外周面の状態を制御することにより、軸芯体上に弾性体層を接着剤なしでも確実に接着させることできることと、弾性体層の一部の切断除去が容易にできることが、両立することが可能となる。表面酸化度は、無電解ニッケルメッキ層の最表面におけるニッケル元素の状態を表しており、その状態は、上記で説明した、熱処理、照射処理又は化学処理の処理により変化させることができる。
【0033】
本発明の効果は、表面酸化度を本発明の条件を満たせば得られるものであるが、その表面状態の変化を推測すると、以下のように考えることもできる。
【0034】
無電解ニッケルメッキの最表面には、金属としてのニッケル、無電解ニッケルメッキ層の含まれるリンからリン酸が生じ結合したリン酸ニッケル及び処理の過程で酸化された酸化ニッケルが混在していると考えられる。その中で金属としてのニッケルは、ゴムに含まれる硫黄と反応し、接着性を示す。接着性を示すかどうかは、全ニッケル中で金属状態のニッケルの存在比率と相関していると考えられる。
【0035】
この存在比率の一指標が表面酸化度であり、熱処理、照射処理や化学処理により高くすることができる。すなわち、これらの処理により、金属状態のニッケルが酸化し、酸化ニッケルとなる、あるいは、メッキ中のリン酸と結合し、リン酸ニッケルになることにより、表面に存在する金属ニッケルが相対的に少なくなる。
【0036】
すなわち、本発明で用いる軸芯体は、外周面に形成される弾性体層に十分な接着性を持たせることが可能な表面と、該軸芯体表面上から弾性体層の一部を切断し除去することが容易な表面とを持っている。この2つの特性を持つ表面が、余分なゴムを除去する境目(つまり、切断箇所)において、切り替わっていることが望ましい。
【0037】
また上記2つの特性を持つ周面が連続して隣り合う場合に、軸芯体の両端部の表面酸化度が1.0以上である、すなわち、余分なゴムの除去が容易である周面を弾性体層が残る側に少し長めにすることが好ましい。
【0038】
電子写真装置において使用される弾性ローラにおいては、軸芯体の外径は、通常4〜12mmの範囲とされる。
【0039】
弾性体層12は、未加硫ゴムと、硫黄及び分子内に硫黄原子を含む加硫剤から選ばれる少なくとも一方とを含む原料ゴム組成物の層を硬化させることにより形成される。
【0040】
原料ゴム組成物には、硫黄及び分子内に硫黄を含む加硫剤の一方又は両方により硬化反応が可能あれば制限されるものではなく、通常弾性ローラの弾性体層に原料ゴムとして使用されるゴムを主成分として使用できる。主成分となる未加硫ゴムとしては、以下のものがあげられる。エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エピクロルヒドリン系ゴム(CO、ECO)、アクリルゴム(ACM)。これらのゴムを単独で、同種のゴムを混合して、あるいは、必要に応じて2種以上のゴムを混合して使用できる。
【0041】
これらの中でも、ジエン系ゴム、及び、第3成分であるジエン成分量が5質量%以上のエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴム(EPDM)が好ましく、これらのいずれか1種を適宜選択して用いることが好ましい。
【0042】
ジエン系ゴムとは、主鎖に二重結合を持つゴムであり、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムである。ジエン系ゴムを用いた場合には、架橋速度が早いと共に、良好な接着性が得られ易い。
【0043】
EPDMを構成するジエン成分としては、通常、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン(DCPD)あるいは1,4−ヘキサジエン(HD)が使用されている。これらの中でも、ジエンが5−エチリデン−2−ノルボルネンであるEPDMは硫黄加硫速度が速く、好ましく用いられている。本発明においては、当該ジエン成分量は5質量%以上であることが、良好な接着性が得られるので好ましい。
【0044】
本発明では、ゴム成分の架橋を硫黄系架橋とする。すなわち、加硫剤として硫黄及び分子内に硫黄原子を含む加硫剤の一方又は両方を使用する。分子内に硫黄を含む原子を含む加硫剤(含硫黄加硫剤)としては、以下のものが挙げられる。トリアジンチオール、テトラメチルチウラムジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド(TRA)、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール(MDB)、4,4’−ジチオジモルホリン。
【0045】
加硫剤の添加量は、弾性ローラの使途に応じて特性を満たしていれば特に制限されるものではないが、通常、ゴム成分100質量部に対し0.1質量部乃至10質量部使用される。
【0046】
硫黄を使用しない架橋方法として、過酸化物による架橋が知られているが、過酸化物はそれ自身に硫黄原子が含まれていないため、軸芯体表面の無電解ニッケルメッキに対し架橋硬化時に接着性を与えられず、本発明では不適当である。
【0047】
弾性体層12となる原料ゴム組成物には、さらに、必要な特性により、導電剤、非導電性充填剤、分散促進剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等の各種添加剤が適宜配合される。
【0048】
導電剤としては、イオン導電機構により導電性を付与するイオン導電性導電剤と、電子導電機構による導電性を付与する電子機構導電剤があり、どちらか一方、或いは併用することが可能である。
【0049】
電子機構導電剤としては、例えば、以下のものを使用することができる。カーボンブラック、グラファイトなどの炭素系導電剤、アルミニウム、銅、錫、ステンレス鋼などの導電性金属又は合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化チタン、酸化錫―酸化アンチモン固溶体、酸化錫―酸化インジウム固溶体などの導電性金属酸化物、これらの導電性材料で被覆された絶縁性物質などの微粉末。これらの中でも、カーボンブラックは、比較的容易に入手可能で、また、主成分の原料ゴムの種類によらず良好な帯電性が得られるため、広く用いられている。
【0050】
非導電性充填剤としては、珪藻土、石英粉末、乾式シリカ、湿式シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミノケイ酸、炭酸カルシウムを挙げることができる。
【0051】
本発明において、該軸芯体の外周面に他物質を介さずに弾性体層を形成する。これは、接着剤の塗布等をすることなく、無電解ニッケルメッキ処理が施された軸芯体上に、弾性体層を形成することにより達成される。
【0052】
軸芯体上に、弾性体層を形成する方法としては、押出し成形、金型を用いた射出による成形、シート状のゴムを軸芯体に巻き付ける等の従来から知られている方法を用いることができる。これらの中でも、クロスヘッド押出し機を用いた押出し成形が好ましく用いられる。軸芯体の外周に、押出し機にて、ポリマー原料と各種添加剤を配合し混練された未架橋の原料ゴム組成物を、連続的にクロスヘッドダイに通過させた軸芯体と共に押出し、軸芯体の周囲に未架橋の原料ゴム組成物を円筒状に形成する。本発明においては、該軸芯体の外周面に円筒状に形成された未架橋の原料ゴム組成物を加熱架橋して、弾性体層とする。加熱架橋には、熱風炉、遠赤外線、水蒸気の如き公知の加熱方法を用いて、ゴムの硬化特性に合わせて、温度及び時間の条件を設定し加熱すればよい。また、金型を用いた射出による成形による場合は、金型を熱板等で加熱し、型内でゴムを硬化することができる。
【0053】
本発明においては、加熱架橋した後に、該弾性体層の一部を切断し除去する。例えば、加熱硬化後の弾性ローラを回転させながら、弾性体層の両端部分をカッター等で軸芯体に達するまで切断し、両端部の弾性体層を剥離し除去する。弾性体層を除去する部分に相当する、軸芯体の両端部の表面酸化度は1.0以上3.0以下となっており、硬化温度や硬化時間を任意に変更しても、除去すべき弾性体層の一部は弊害なく剥離し、容易に除去できる。また、弾性体層除去後に露出される軸芯体の表面は、ゴムの固着がなく、かつきれいに除去されるので、キズ等を生じることがなく、軸芯体として十分な精度を保っている。よって、研磨、表面処理及び表面層の形成等、弾性ローラの性能を達成するために必要な加工も、精度よく行うことが可能となる。
【0054】
本発明では、軸芯体の外周面への弾性体層の形成は、原料ゴムと各種添加剤を配合し混練した未架橋の原料ゴム組成物を、軸芯体と共に押出して、軸芯体の周囲に円筒状し、加熱架橋した後、架橋ゴムの弾性体層の一部を切断し除去することによることが好ましい。未架橋の原料ゴム組成物を、軸芯体と共に押出し、軸芯体の周囲に未架橋ゴム組成物を円筒状に形成する場合、生産性に優れている点から好ましい製造方法である。また、軸芯体と弾性体層の界面に空気や異物を巻き込むことが少なく、安定した精度及び性能の弾性ローラを作成し易い製造方法である。
【0055】
弾性体層の厚さは、弾性ローラの使用目的により種々変え得るが、画像形成装置に用いる場合、0.5mm以上10.0mm以下の範囲が一般的である。弾性体層を過度に厚くすると、製造コストを適正な範囲に抑えることが難しく、現像ローラ自体の寸法精度を安定させることも難しくなる。
【0056】
以上、軸芯体11の外周面に弾性体層12を有する弾性ローラの製造方法について説明したが、弾性体層12と被覆層13を同時に2層押出しにより形成する製造方法であってもよい。
【0057】
また、本発明の製造方法にて作成された弾性ローラは、弾性体層12を設けた状態のままで使用してよく、その目的に応じて、弾性体層12の表面を処理したり、弾性体層12の外周面にさらに被覆層(表層)13を設けて使用してもよい。
【0058】
本発明の弾性ローラの製造方法では、軸芯体上に接着剤を使用することなく、弾性体層を十分な強度で接着させることができ、かつ、余分なゴムの除去が容易で、軸芯体の精度が良く、ゴムを除去した後の軸芯体の表面もきれいな弾性ローラが製造できる。
【0059】
本発明の製造方法で製造された弾性ローラは、必要により、さらに表面処理され、あるいは被覆層が設けられて、電子写真装置の帯電ローラ、現像ローラあるいは転写ローラとして、使用できる。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。ここでは、上記のような軸芯体の外周面に弾性体層有する現像ローラを例にして説明する。これら実施例は、本発明における最良の実施形態の一例ではあり、本発明は、これら実施例によって、何ら限定されるものではない。
【0061】
[軸芯体A又は軸芯体Bの準備]
直径6mm、長さ250mmのSUS製の軸芯体に対し、下記の無電解ニッケルメッキ液A又はBを用いて、90℃で表面に厚さ5μmの無電解ニッケルメッキ処理を施し、無電解ニッケルメッキ処理された軸芯体A又は軸芯体Bを準備した。
【0062】
【表1】

【0063】
[ゴム層用原料組成物の調製]
ゴム(弾性体)層用原料として、以下のものを使用した。
【0064】
<原料ゴム>
・EPDM−A:エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム「EPT4045」(商品名、三井化学株式会社製)。5−エチリデン−2−ノルボルネン(ジエン成分) 8.1質量%。
・EPDM−B:エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム「エスプレン522」(商品名、住友化学株式会社製)。5−エチリデン−2−ノルボルネン(ジエン成分) 5.0質量%。
・EPDM−C:エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム「エスプレン532」(商品名、住友化学株式会社製)。5−エチリデン−2−ノルボルネン(ジエン成分) 3.5質量%。
・BR:ポリブタジエンゴム「JSR BR01」(商品名、JSR株式会社製)。
・NBR:アクリロニトリルブタジエンゴム「JSR N231L」(商品名、JSR株式会社製)。
・EPM:エチレン−プロピレン共重合体ゴム「JSR EP11」(商品名、JSR株式会社製)。
・ECO:エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル3元共重合体「エピクロマーCG」(商品名、ダイソー株式会社製)。
【0065】
<硫黄系加硫剤>
・硫黄:分散性硫黄「Sulfax 200S」(商品名、鶴見化学工業株式会社製)。
・MBTS:ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド「ノクセラーDM」(商品名、大内新興化学工業株式会社製)。
・DPTT:ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド「ノクセラーTRA」(商品名、大内新興化学工業株式会社製。
・TMTM:テトラメチルチウラムモノスルフィド「ノクセラーTS」(商品名、大内新興化学工業株式会社製)。
・TETD:テトラエチルチウラムジスルフイド「ノクセラーTET」(商品名、大内新興化学工業株式会社製)。
【0066】
<架橋剤(非硫黄系加硫剤)>
・架橋剤:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン「パーヘキサ25B−40」(商品名、日油株式会社製)。
・架橋助剤:トリアリルイソシアヌレート「TAIC−M60」(商品名、日本化成株式会社製)。
【0067】
<その他添加物>
・酸化亜鉛:酸化亜鉛2種(ハクスイテック株式会社製)。
・ステアリン酸:ステアリン酸S(商品名、花王株式会社製)。
・カーボンブラック:トーカブラック#7360SB(商品名、東海カーボン株式会社製)。
・可塑剤A:ダイアナプロセスオイルPW−380(商品名、出光興産株式会社製)。
・可塑剤B:ポリサイザーW−1600(商品名、DIC株式会社製)。
【0068】
(ゴム層用原料組成物の調製1:原料ゴム組成物A)
EPDM−A100質量部、酸化亜鉛5質量部、ステアリン酸1質量部、カーボンブラック35質量部及び可塑剤A20質量部を、50℃に調節した密閉型ミキサーにて10分間混練して、ゴムコンパウンドを調製した。
【0069】
さらに、このゴムコンパウンドに対して、硫黄1.2質量部、MBTS1.0質量部、DPTT1.0質量部及びTMTM0.5質量部の各種加硫剤を添加し、20℃に冷却した二本ロール機にて10分間混練して、未硬化の原料ゴム組成物Aを得た。
【0070】
(ゴム層用原料組成物の調製2乃至6:原料ゴム組成物B乃至F)
ゴムコンパウンドの原料及び組成を表2の様にし、さらに加硫剤(架橋剤)を表2の様にする他は、ゴム層用原料組成物の調製1と同様にして、原料ゴム組成物B乃至Fを得た。
【0071】
【表2】

【0072】
(ゴム層用原料組成物の調製7:原料ゴム組成物G)
EPDM−A100質量部、酸化亜鉛5質量部、ステアリン酸1質量部、カーボンブラック35質量部及び可塑剤A40質量部を準備し、50℃に調節した密閉型ミキサーにて10分間混練して、ゴムコンパウンドを調製した。
【0073】
さらに、このゴムコンパウンドに対して、架橋剤8.0質量部と架橋助剤5.0質量部を添加し、20℃に冷却した二本ロール機にて10分間混練して、未硬化の原料ゴム組成物Gを得た。
【0074】
(ゴム層用原料組成物の調製8:原料ゴム組成物H)
EPM100質量部、酸化亜鉛5質量部、ステアリン酸1質量部、カーボンブラック35質量部及び可塑剤A40質量部を準備し、50℃に調節した密閉型ミキサーにて10分間混練して、ゴムコンパウンドを調製した。
【0075】
さらに、このゴムコンパウンドに対して、架橋剤8.0質量部と架橋助剤5.0質量部を添加し、20℃に冷却した二本ロール機にて10分間混練して、未硬化の原料ゴム組成物Hを得た。
【0076】
(ゴム層用原料組成物の調製9:原料ゴム組成物I)
ECO 100質量部、ステアリン酸1質量部、カーボンブラック20質量部、架橋剤 2.5質量部及び架橋助剤1.5部を20℃に冷却した二本ロール機にて30分間混練して、未硬化の原料ゴム組成物Iを得た。
【0077】
上記ゴム層用原料組成物の調製で得た原料ゴム組成物の原料ゴムの種別、原料ゴムがEPDMであるときのジエン量及び架橋の種類を表3にまとめた。
【0078】
【表3】

【0079】
<熱板による加熱処理>
熱板による加熱処理を行う装置の概略構成を図4に示す。軸芯体11の両端部31に対し、接触するように熱板41が上下より配置されている。熱板41は軸心体11と接する部分は半円上となっている。熱板41内に電熱ヒーター42があり、これにより熱板41の温度が制御される。熱板41と少し間を空けて冷却板43が軸心体11の上下に配置されている。冷却板43は、軸芯体と接触する部分は半円上になっており、冷却媒の入口44と出口45があり、冷却板内を循環して冷却できるようになっている。なお、冷却媒としては通常冷却水が使用される。
【0080】
<熱風による加熱処理>
熱風による加熱処理を行う装置の概略構成を図5に示す。軸芯体11の両端部31に対し、送風管51が配置され、熱風(一定温度に加熱された気体)52が上下より当るようになっている。熱風52が両端部31以外の部分に極力当らないように、遮蔽版53が配置されている。遮蔽版53は断熱効果のある素材で作成されている。遮蔽板53と少し間を空けて冷却板54が軸心体11の上下に配置されている。冷却板54は、軸芯体と接触する部分は半円上になっており、冷却媒の入口55と出口56があり、冷却板内を循環して冷却できるようになっている。なお、冷却媒としては通常冷却水が使用される。
【0081】
<ハロゲンランプ照射による加熱処理>
ハロゲンランプ照射による加熱処理を行う装置の概略構成を図6に示す。軸芯体11の両端部31に対し、一方からハロゲンランプ61が照射するように配置され、その反対側に反射板62が配置されている。照射された熱線が両端部31以外の部分に極力当らないように、遮蔽版63が配置されている。遮蔽版63は断熱効果のある素材で作成されている。遮蔽板63と少し間を空けて冷却板64が軸心体11の上下に配置されている。冷却板64は、軸芯体と接触する部分は半円上になっており、冷却媒の入口65と出口66があり、冷却板内を循環して冷却できるようになっている。なお、冷却媒としては通常冷却水が使用される。図6において、67は、軸芯体11とハロゲンランプ61の最短距離を示す。
【0082】
<XPS測定>
XPS測定は、ESCA装置、Quantum2000(商品名、アルバックファイ株式会社製)を用い、以下の条件で行った。
X線源 ; モノクロ AI Kα
Xray Settinng; 100μmφ(25W(15KV))
光電子取り出し角 ; 45度
中和条件 ; 中和銃とイオン銃の併用
分析領域 ; 300μm×300μm
Pass Energy ; 23.5eV
ステップサイズ ; 0.1eV
【0083】
ここでNiピークは、軸芯体表面の金属状態とニッケル化合物状態では、ピーク位置がそれぞれ853.0eV、856.8eVと異なるため、これらのピークを分離して、軸芯体表面の金属状ニッケルのNi原子と、ニッケル化合物のNi原子の比率を求めた。ピーク分離は、金属ニッケルのピーク位置853.0eV、ピーク幅855.0eV乃至845.0eV、ニッケル化合物のピーク位置856.8eV、ピーク幅865.0eV乃至850.0eVと定めて行った。なお、ピーク分離には、Quantum2000(商品名)に付属する制御ソフトウエアMultiPak(商品名)を用いた。
【0084】
分離したピークの面積強度を、それぞれ金属ニッケルの成分量「Ni metal」、ニッケル化合物の成分量「Ni oxide」とし、これら2つの値より表面酸化度を算出した。
「Ni metal」=853.0eV付近に結合エネルギーを持つ成分の面積強度
「Ni oxide」=856.8eV付近に結合エネルギーを持つ成分の面積強度
表面酸化度=「Ni oxide」/「Ni metal」
【0085】
<両端部の表面酸化度>
長さ250mmの軸芯体の端から15mmの位置2ヶ所において、円周方向に120°毎に各3点、計6点につき測定し、その相加平均した値を、両端部の表面酸化度とした。
【0086】
<中央部の表面酸化度>
長さ250mmの軸芯体を、長手方向に4等分した3ヶ所において、円周方向に120°毎に各3点、計9点につき測定し、その相加平均した値を、中央部の表面酸化度とした。
【0087】
[実施例1]弾性ローラ1の作製
(軸芯体の熱板加熱処理)
軸芯体Aの両端部各15mm巾の範囲を、図4に示す装置を用いて、250℃で加熱処理を1時間行った。軸芯体Aの中央部の温度上昇を防ぐため、冷却板には5℃の冷却水を循環した。冷却板の長さは200mmとし、熱板と冷却板との間には10mmの空間を設けた。処理後、室温放置して自然冷却し、40℃以下とした。
【0088】
(弾性ローラの作成)
この軸芯体と未硬化の原料ゴム組成物Aを、クロスヘッドダイを有する押出し機にてローラ状に押し出して、軸芯体の表面上に、厚み3mmの未硬化ゴム層を形成した。次に、160℃の熱風炉中で1時間加熱し、軸芯体上に架橋ゴムの弾性体層を形成した。これを放冷した後、このゴムローラを回転させながら両端部から15mmの位置で弾性体層表面から軸芯体表面までカッターで切断した後、弾性ローラの両端部の弾性体層を剥離、除去して、弾性ローラ1を得た。
【0089】
[実施例2]弾性ローラ2の作製
実施例1の軸芯体の熱板加熱処理の時間を3時間としたこと以外は、実施例1と同様にして現像ローラ2を作製した。
【0090】
[実施例3]弾性ローラ3の作製
実施例2の軸芯体の熱板加熱処理の温度を300℃としたこと以外は、実施例2と同様にして弾性ローラ3を作製した。
【0091】
[実施例4]弾性ローラ4の作製
(軸芯体の熱風加熱処理)
軸芯体Aの両端部各15mm巾の範囲を、図5に示す装置を用いて、250℃の熱風にて加熱処理を2時間行った。軸芯体Aの端から15mmの位置に厚さ5mmの遮蔽板を設けた。中央部の温度上昇を防ぐため、冷却板54に5℃の冷却水を循環した。冷却板の長さは200mmとし、遮蔽板と冷却板との間に5mmの空間を設けた。熱風加熱処理後、室温放置して自然冷却し、40℃以下とした。
【0092】
(弾性ローラの作成)
この軸芯体を用い、以下実施例1の現像ローラの作成と同様にして、弾性ローラ4を得た。
【0093】
[実施例5]弾性ローラ5の作製
実施例4の軸芯体の熱風加熱処理の時間を4時間としたこと以外は、実施例4と同様にして現像ローラ5を作製した。
【0094】
[実施例6]弾性ローラ6の作製
(軸芯体のハロゲンランプ加熱処理)
軸芯体Aの両端部各15mm巾の範囲を、図6に示す装置を用いて、ハロゲンランプにて照射し、加熱処理を30分間行った。なお、ハロゲンランプとして、IRE135−N(商品名、岩崎電気株式会社製)を使用し、15%の出力で、軸芯体とハロゲンランプの最短距離を20cmとした。軸芯体Aの端から15mmの位置に厚さ5mmの遮蔽板を設けた。中央部の温度上昇を防ぐため、冷却板に5℃の冷却水を循環した。冷却板の長さは200mmとし、遮蔽板と冷却板との間には5mmの空間を設けた。照射開始30分後の軸芯体の両端部の表面温度は、非接触温度計で測定したところ170℃から175℃の範囲であった。次に、室温放置して自然冷却し、40℃以下とした。
【0095】
(弾性ローラの作成)
この軸芯体を用いた以外は実施例1の現像ローラの作成と同様にして、弾性ローラ6を得た。
【0096】
[実施例7]弾性ローラ7の作製
実施例6の軸芯体のハロゲンランプ加熱処理において、軸芯体とハロゲンランプの最短距離を15cmとしたこと以外は、実施例6と同様にして現像ローラ7を作製した。照射開始30分後の軸芯体の表面温度は215℃から220℃の範囲であった。
【0097】
[実施例8]弾性ローラ8の作製
原料ゴム組成物として原料ゴム組成物Bを用いたこと以外は、実施例7の現像ローラの作成と同様にして弾性ローラ8を作製した。
【0098】
[実施例9]弾性ローラ9の作製
実施例7の軸芯体のハロゲンランプ加熱処理において、ハロゲンランプの出力を27%としたこと以外は、実施例7と同様にして弾性ローラ9を作製した。照射開始30分後の軸芯体の表面温度は260℃から270℃の範囲であった。
【0099】
[実施例10]弾性ローラ10の作製
(軸芯体のエキシマUV照射処理)
軸芯体Aの両端部各15mm巾の範囲を、細管エキシマランプ(ハリソン東芝ライティング株式会社製)を取り付けたエキシマUV照射装置を用い、ランプと軸芯体の最短距離を2mmとし、20rpmで回転させながら、紫外線照射処理を5分間行った。両端の紫外線照射部分以外は、アルミニウム製の遮蔽板を取り付け、紫外線で照射されないようにした。なお、照射波長は172nmであり、最短距離2mmでの紫外線の光量は3.83mW/cm2であった。その後、室温放置して自然冷却し、40℃以下とした。
【0100】
(弾性ローラの作成)
この軸芯体を用い、以下実施例1の弾性ローラの作成と同様にして、弾性ローラ10を得た。
【0101】
[実施例11]弾性ローラ11の作製
実施例10の軸芯体のエキシマUV照射処理において、紫外線照射処理の時間を15分間とした以外は、実施例10と同様にして弾性ローラ11を作製した。
【0102】
[実施例12]弾性ローラ12の作製
(軸芯体の化学処理)
軸芯体Aの両端部各15mm巾の範囲をクロム酸処理した。クロム酸処理は、軸芯体Aを縦にして一方の端部の15mmを、濃度0.6g/リットルのクロム酸溶液中に30秒間浸漬し、蒸留水でクロム酸溶液を洗い流し、85℃のお湯に水1分間浸漬し、残存するクロム酸を除去した。次いで、軸芯体Aのもう一方の端部の15mmを同様に処理した。その後、軸芯体上の水分を除去するため、80℃のオーブンで10分間乾燥した後、室温放置して自然冷却し、40℃以下とした。
【0103】
(弾性ローラの作成)
この軸芯体を用いた以外は実施例1の弾性ローラの作成と同様にして弾性ローラ12を得た。
【0104】
[実施例13]弾性ローラ13の作製
実施例1の熱板加熱処理において、冷却板に冷却水を循環させなかった以外は、実施例1と同様にして弾性ローラ13を作製した。
【0105】
[実施例14]弾性ローラ14の作製
軸芯体Aに替えて軸身体Bを用いた以外は、実施例6と同様にして弾性ローラ14を作製した。
【0106】
[実施例15]弾性ローラ15の作製
軸芯体Aに替えて軸芯体Bを用いた以外は、実施例7と同様にして弾性ローラ15を作製した。
【0107】
[実施例16]弾性ローラ16の作製
軸芯体Aに替えて軸芯体Bを用いた以外は、実施例9と同様にして弾性ローラ16を作製した。
【0108】
[実施例17乃至20]弾性ローラ17乃至20の作製
原料ゴム組成物として原料ゴム組成物C乃至Fを用いた以外は、実施例7と同様にしてそれぞれ弾性ローラ17乃至20を作製した。
【0109】
[実施例21]弾性ローラ21の作製
実施例2の熱板加熱処理と同様に処理した軸芯体Aを軸芯体に、原料ゴム組成物Aをシート状にしたものを巻きつけ、2つに分割可能な金型内に入れ、加圧しながら160℃で30分間加熱硬化して、軸芯体上に厚み3mmの架橋ゴムの弾性体層を形成した。以下実施例2と同様にして、弾性ローラ21を得た。
【0110】
[比較例1]弾性ローラ22の作製
(軸芯体の調製)
軸芯体Aを250℃に設定した熱風炉中で3時間置き、軸芯体全体を加熱処理した。その後、室温放置により自然冷却し、40℃以下とした。さらに、軸芯体の長手方向の両端各20mmを除く、中央部210mmの円周方向全面に、導電性接着剤「スリーボンド3315E」(商品名、スリーボンド社製)を塗布し、乾燥した。接着剤層は、乾燥後の厚みは5μmとした。
【0111】
(弾性ローラの作成)
この軸芯体を用い、以下実施例1の弾性ローラの作成と同様にして、弾性ローラ22を得た。
【0112】
[比較例2]弾性ローラ23の作製
比較例1において、熱風炉中で処理した軸芯体Aに接着剤を塗布せずに直接弾性体層を形成し、以下比較例1と同様にして、弾性ローラ23を得た。
【0113】
[比較例3]弾性ローラ24の作製
無電解ニッケルメッキ処理を施した軸芯体A(表面酸化度:両端部0.45、中央部0.45)をそのまま使用して、以下実施例1と同様にして、弾性ローラ24を得た。
【0114】
[比較例4]弾性ローラ25の作製
軸芯体として、軸芯体Aを250℃の熱風炉中で30分間置き、軸芯体全体を加熱処理したものを用いた以外は、実施例1と同様にして、弾性ローラ25を得た。
【0115】
[比較例5]弾性ローラ26の作製
原料ゴム組成物として原料ゴム組成物Gを用いた以外は、実施例2と同様にして、弾性ローラ26を作製した。
【0116】
[比較例6]弾性ローラ27の作製
軸芯体として、実施例2におけると同様の熱板加熱処理した軸芯体Aの長手方向中央部210mmに導電性接着剤「スリーボンド3315E」(商品名)を厚み5μmとなるよう塗布し、乾燥したものを用い、以下比較例5と同様にして、弾性ローラ27を作製した。
【0117】
[比較例7]弾性ローラ28の作製
軸芯体として、実施例2におけると同様の熱板加熱処理した軸芯体Aの長手方向中央部210mmに導電性接着剤「スリーボンド3315E」(商品名)を厚み5μmとなるよう塗布し、乾燥したものを用い、以下実施例2と同様にして、弾性ローラ28を作製した。
【0118】
[比較例8、9]弾性ローラ29、30の作製
原料ゴム組成物として、原料ゴム組成物H又はIを用いた以外は、実施例7と同様にして、弾性ローラ29又は30を作製した。
【0119】
[比較例10、11]弾性ローラ31、32の作製
軸芯体として、軸芯体Aを250℃の熱風炉中で3時間置き、軸芯体全体を加熱処理したものの中央部210mmに、導電性接着剤「スリーボンド3315E」(商品名)を塗布し、乾燥したもの又は何も処理しない軸芯体Aを用いた。以下、実施例1と同様にして、弾性ローラ31又は32を得た。
【0120】
実施例及び比較例の弾性ローラを製造するのに用いた軸芯体の表面酸化度、軸芯体への接着剤塗布の有無、弾性体層形成時のげんるようゴム組成物と架橋の種類及び弾性体層の形成方法を下記表4に示す。
【0121】
【表4】

【0122】
作製した弾性ローラ1乃至32につき、以下の評価を行った。
【0123】
<両端部での弾性体層の剥離、除去>
ローラを回転させながら軸芯体の端部15mmの位置で弾性体層表面から軸芯体表面までカッターで切断した後、両端部の弾性体層を剥離、除去する工程における、弾性体層の剥離、除去のし易さを、以下の基準で評価した。
A:除去するゴムを物理的につかむことで簡単に除去できる。
B:物理的につかむことで大部分は除去できるが、残ったゴムは樹脂製のヘラ等を軸芯体に押し当てると容易に剥離し、除去できる。
C:接着剤が流れるなどして固着した部分があり、一部でゴムの除去が困難である。
D:ゴムの除去は接着が強く、困難である。
【0124】
<軸芯体の表面状態>
上記両端部の弾性体層の剥離、除去で形成された軸芯体の露出部を目視で観察し、以下の基準で評価した。
A:ゴムの固着が認められず、表面にキズ等がない。
B:ゴムは綺麗に剥離できているが、加工時のキズが確認される。
C:一部にゴムが固着している。固着したゴムの除去後の軸芯体は表面が変色している。
D:ほぼ全面にゴムが固着している。無理に除去するとメッキ層も剥離してしまう。
【0125】
<中央部の接着性(剪断剥離法)>
得られた弾性ローラの弾性体層と、軸芯体の中央部(125mm巾に相当)との接着性を、剪断剥離法により一定荷重負荷の条件で試験し、以下の基準で評価した。
A:接着面(軸芯体と弾性体層の界面)では剥離せず、弾性体層のゴムが凝集破壊する。
B;接着面での剥離が一部で確認され、軸芯体の表面の一部が目視で確認される。
C;接着面で剥離する。
【0126】
<研磨加工時の接着性>
得られた弾性ローラの弾性体層(220mm巾に相当)と軸心体の接着性を、実際に研磨加工することにより実用上問題がないか、以下の基準で評価した。なお、研磨加工は、弾性ローラの外径を適正な寸法とするために通常行われている加工方法である。本評価では、弾性体層の長手方向を一度に研削加工する巾を有する研削研石を用いた。研削研石の外径は220mmで、砥石回転数を2000rpmとし、外径12mmの弾性ローラを、回転数120rpmで研石とカウンターとなる方向で回転させた。研削砥石の切り込み速度は2mm/minとし、弾性ローラの外径が11mmとなるまで、弾性層のゴム厚として0.5mmを研削加工した。
A:研磨加工後、弾性体層に浮き等がない。
B:研磨加工後、弾性体層一部に浮きが確認される。
C;研磨加工中に、弾性体層が軸芯体に対し空回転し、研磨加工が上手くできない。
【0127】
上記の基準に基づき評価した結果を、表5に示した。
【表5】

【0128】
表5に示すとおり、実施例1乃至21は良好な結果が得られた。軸芯体の露出部分にはゴムの固着が認められず、表面にキズ等もなく、良好であった。また、軸芯体上に形成された弾性体層には十分な接着性があり、実際の研磨加工でも、弾性体層に浮き等がなく、良好な弾性ローラを得ることができた。実施例の中でも、実施例5、7乃至9、11、12及び15及至20は特に良好な結果であった。
【符号の説明】
【0129】
1 現像ローラ
11 軸芯体
12 弾性体層(基層)
31 軸芯体の両端部
32 両端部と一緒に処理をする部分(両端部共処理部分)
33 軸芯体の中央部
34 軸芯体の中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸芯体と、該軸芯体の軸方向の中央部の周面を被覆している弾性体層とを有し、該軸芯体の軸方向両端の外周面が露出している弾性ローラの製造方法であって、
(1)無電解メッキにより形成されたニッケルによって周面が構成されており、軸方向の中央部の周面の酸化度が1.0以上であり、軸方向両端の該ニッケルの周面の酸化度が0.6以下である軸芯体を用意する工程と、
(2)該軸芯体の、該中央部及び該両端部の周面を該弾性体層の原料ゴム組成物の層で被覆する工程と、
(3)該原料ゴム組成物の層を硬化させて弾性体層を形成する工程と、
(4)該両端部の周面を被覆している該弾性体層を除去する工程とを有し、
かつ、該原料組成物は未加硫ゴムと、硫黄および分子内に硫黄原子を含む加硫剤から選ばれる少なくとも一方とを含むことを特徴とする弾性ローラの製造方法。
【請求項2】
前記原料ゴム組成物が主鎖に二重結合を有するジエン系ゴム及びエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴムから選ばれる少なくとも一方を含む請求項1に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−240974(P2010−240974A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91983(P2009−91983)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】