説明

弾性ロール成形用金型、弾性ロール、プロセスカートリッジ及び画像形成装置

【課題】弾性ロールの弾性層の材料を繰り返しの成形する場合においても、十分な耐久性を示す弾性ロール成形用金型を提供する。
【解決手段】軸芯体12と、該軸芯体の外周上に弾性層を有する弾性ロールの製造に用いる弾性ロール成形用金型11において、前記金型の表面に少なくとも金属窒化物層を有し、該金属窒化物層上に無電解メッキ層を有することを特徴とする弾性ロール成形用金型。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現像ロールの製造に際して用いる弾性ロール成形用金型に関する。また、この金型を用いて成形される弾性ロール、及び該弾性ロールを現像ロールとして搭載したプロセスカートリッジ及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属等の剛性のある軸芯体の外周上に、弾性、導電性等の様々な機能を有する種々の材料を配した弾性ロールの弾性層の形成は、研磨などの後工程を必要とせず比較的再現性良く所望の形状精度の弾性ロールが得られることから、金型成形により行われている。
【0003】
この金型成形においては、軸芯体を円筒金型内にその両端を、注入口のついた駒にて支持することにより配し、該注入口から液状の弾性層材料を注入し、その後、加熱することにより、弾性層材料を熱硬化させて所望の形状を有する弾性ロールを得る。
【0004】
近年、弾性ロールに求められる形状精度は非常に厳しく、金型に対して求められる初期の形状精度はもちろんのこと、長期間連続使用した場合の耐久性能が重要な要求特性となっている。即ち、金型には、繰返しの型組、型バラシによっても摩耗、変形、カケ等が発生しないような、機械的強度、耐衝撃性能が求められる。このような背景から、金型に使用される材料としては、各種熱処理を行い、機械的強度を向上させたものが用いられている。
【0005】
しかしながら、上述したような機械的強度を向上させた材料は、加工性に劣るという弱点を併せ持つことが多く、鏡面仕上げのような高精細な加工を必要とする金型の場合には、加工時間延長等の問題が生じる。また、十分な可能性を有する熱処理前の材料を加工後に熱処理して機械的強度を向上させる場合には、精密加工後に熱処理を行うため、加工により材質内に生じる残留応力等により、金型が加工寸法から変形する場合がある。
【0006】
前記課題に対し、熱処理前、若しくは熱処理後であっても加工可能な程度の硬度を有する材料を用い、その加工後に表面にのみ改質処理(窒化処理、炭化処理等)を行う方法が提案されている。
【0007】
例えば、窒化処理は、比較的低温処理で弾性層成形に用いるのに十分な強度を付与することができる方法として提案されている(特許文献1)。
【0008】
弾性ロールを画像形成装置における現像ローラとして用いる場合、近年製品に要求される機能が増加及び高度化しているため、これに伴い弾性ロールの弾性層にも多くの特性が求められるようになってきている。すべての要求に対応するために、弾性層の材料の選択肢の幅は従来よりも狭いものとなり、現在ではシリコーンゴムが多く用いられるようになっている。その中でも金型を用いたインジェクション成形に適するという観点から、付加反応架橋型シリコーンゴムが多く用いられている。付加反応架橋型シリコーンゴムを前記窒化処理表面を持つ金型にて成型加工すると、金型表面に存在する窒化物層により金型の耐久性は向上するが、更なる耐久性の向上が望まれる(特許文献2)。
【特許文献1】特開平11−172411号公報
【特許文献2】特開2007−212516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、弾性ロールの弾性層の材料を繰り返しの成形する場合においても、十分な耐久性を示す弾性ロール成形用金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の弾性ロール成形用金型は、軸芯体と、該軸芯体の外周上に弾性層を有する弾性ロールの製造に用いる弾性ロール成形用金型において、前記金型の表面に少なくとも金属窒化物層を有し、該金属窒化物層上に無電解メッキ層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の弾性ロール成形用金型は、弾性ロールの弾性層の材料を繰り返しの成形する場合においても、十分な耐久性を示す。また、前記金型を用いて製造した弾性ロールを現像ロールとしてプロセスカートリッジ及び画像形成装置に用いる場合、該現像ロールは形状精度が高いため、印字面全体に渡って濃度ムラのない良好な画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
〔弾性ロール成形用金型〕
本発明に係る弾性ロール成形用金型は、軸芯体と、該軸芯体の外周上に弾性層を有する弾性ロールの製造に用いる弾性ロール成形用金型であり、前記金型の表面に少なくとも金属窒化物層を有し、該金属窒化物層上に無電解メッキ層を有することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る弾性ロール成形用金型の一例を図1に示す。
【0014】
弾性ロール成形用金型11は、円筒金型13、駒14a、14bから構成される。
【0015】
軸芯体12は駒14a、14bの中心部に設けられた軸芯体保持部15a、15bに保持され、円筒金型13に載置されるようになっている。駒14aは、弾性層原料を注入するための注入口16を有する。駒14bは、金型内のキャビティ18中の気体及び余剰な弾性層原料を排出するための排出口17を有する。注入口16、排出口17はそれぞれ流路19a、19bを通じて外部と連通している。
【0016】
〔金属窒化物層〕
本発明においては、少なくとも円筒金型3の内表面に金属窒化物層を有し、さらに該金属窒化物層上に無電解メッキ層を有する。
【0017】
前記金属窒化物層は、化学蒸着法(CVD)、物理蒸着法(PVD)、スパッタ法等の公知の方法で金型の内表面に金属窒化物層を堆積させても良いが、簡便には、金型の金属基材表面を窒化する方法が好ましい。弾性ロール成形用金型の基材金属材料としては、機械的強度の観点から鋼鉄を使用するのが一般的であり、鋼鉄製の金型の内表面を窒化処理することで、容易に鉄窒化物層を形成することができる。このような観点から、金属窒化物層としては、鉄窒化物であることが好ましい。
【0018】
前記窒化処理としては、ガス窒化法、塩浴窒化法、ガス軟窒化法、プラズマ窒化法等の方法が挙げられるが、被処理物の寸法変化が少なく、また処理時間も比較的短い等の理由から、ガス軟窒化法が好ましい。ガス軟窒化法は、被処理物の入った電気炉にアンモニアガスを吹き込み、炉内温度を500〜600度にすることで、アンモニアガスの一部が分解して窒素が発生し、この窒素が鋼鉄中表面近傍の金属元素と結びつき、鉄窒化物層を形成することができる。炉内処理温度及び炉内処理時間は適宜選択することができるが、炉内処理温度は480〜520度が好ましく、炉内処理時間は3〜6時間が好ましい。前記窒化処理により、金型の表面(内表面及び外周面全域)から約500μmの深さまで窒素が拡散侵入し、同厚みの鉄窒化物層に覆われたものとなる。金属窒化物層の厚みとしては、1μm以上、150μm以下であることが適切な耐久性の確保と、生産性の観点から好ましい。
【0019】
〔無電解メッキ層〕
本発明に係る弾性ロール成形用金型においては、前記金属窒化物層上に無電解メッキ層を有する。
【0020】
前記金属窒化物層を内表面に形成した金型において、無電解メッキ層を該金属窒化物層上に積層させることにより、付加反応架橋型シリコーンゴムを成形する場合、金型の耐久性が向上する。
【0021】
即ち、金属窒化物層の存在により金型の機械的強度、耐久性は向上する。しかし、金属窒化物層中の窒素原子はシリコーンゴム材料中の白金触媒に対し活性(配位子として作用)であるため、材料注入及び硬化が繰り返されることにより僅かずつではあるが窒素原子がシリコーンゴム材料中に取り込まれ金属窒化物の脱窒が促進させる。そこで、金属窒化物層上に無電解メッキ層を積層することにより、金属窒化物の脱窒を抑制し、金型の機械的強度を向上させるための金属窒化物層の効果を長期間維持することができる。また、無電解メッキによりメッキ層を形成することにより、膜厚が均一であり、耐摩耗性が良好なメッキ層を形成することができる。
【0022】
前記無電解メッキ層の金属としては、ニッケル、金、コバルト、銅等が挙げられるが、ニッケルが好ましい。
【0023】
無電解メッキ層の膜厚としては、3μm以上、8μm以下であることが腐食防止の観点から好ましい。より好ましくは5μmである。また、無電解メッキ層の表面粗さは、下地金属の表面粗さにもよるが、0.2μm以上、3μm以下であることが好ましい。
【0024】
金型の表面に無電解ニッケルメッキ層を形成させる方法としては、例えば、メッキ浴に硫酸ニッケル(NiSO4)、還元剤として次亜リン酸ナトリウム(NaH2PO2)を用い、浴中の処理時間を数分から数十分とすることにより行うことができる。
【0025】
〔軸芯体〕
本発明で用いる軸芯体を構成する材料としては、鉄、アルミニウム、チタン、銅及びニッケル等の合金やこれらの金属を含むステンレス、ジュラルミン、真鍮及び青銅等の合金、さらにカーボンブラックや炭素繊維をプラスチックで固めた複合材料等の剛直で導電性を示す公知の材料を使用することができる。また、ニッケル、銅、亜鉛等のメッキを軸芯体表面に施したものでもよい。
【0026】
本発明で使用する軸芯体は、例えば、炭素鋼合金表面に5μm厚さの工業ニッケルメッキを施した円柱である。また、形状としては円柱状のほかに中心部分を空洞とした円筒形状とすることもできる。
【0027】
〔弾性層材料〕
前記弾性層の材料としては、以下に示すシリコーンゴム、導電剤、触媒等を適宜配合したものを用いることができる。
【0028】
<シリコーンゴム>
弾性層の材料として用いることができるシリコーンゴムとしては、加工性に優れ、硬化反応に伴う副生成物の発生がなく寸法安定性が良好であり、硬化後の物性が安定している点から、付加反応架橋型シリコーンゴムを用いることが好ましい。
【0029】
付加反応架橋型シリコーンゴムは、例えば下記式(1)で表されるオルガノポリシロキサン、及び下記式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを原料として含む。
【0030】
【化1】

【0031】
(式中、R1及びR2のうち少なくとも一方はアルケニル基を表し、xは正の整数である)
【0032】
【化2】

【0033】
(式中、yは2以上の整数であり、zは正の整数である)
前記式(1)で示されるオルガノポリシロキサンは、シリコーンゴム原料のベースポリマーであり、その分子量は特に限定されないが、10万以上、100万以下が好ましく、平均分子量は、40万以上、70万以下が好ましい。さらに、加工特性及び配合時の弾性層原料の物性等の観点から、オルガノポリシロキサンの粘度は、10Pa・s以上、250Pa・s以下が好ましい。
【0034】
前記式(1)で示されるオルガノポリシロキサンのアルケニル基は、前記式(2)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンの活性水素と反応して架橋点を形成する部位であり、その種類は特に限定されない。しかし、活性水素との反応性が高い等の理由から、ビニル基及びアリル基の少なくとも一方であることが好ましく、ビニル基がより好ましい。
【0035】
前記式(2)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、前述したように硬化工程において付加反応の架橋剤の働きをするもので、一分子中のケイ素原子結合水素原子の数は2個以上である。硬化反応を適切に行わせるために、比較的低分子量、具体的には1000以上、5000以下が好ましい。また、前記式(2)中、y及びzで括られた繰り返し単位はランダムに結合していることが架橋の観点から好ましい。
【0036】
<導電剤>
弾性層材料には、前記シリコーンゴムに加えて、必要に応じて導電剤を配合することができる。例えば、アルミニウム、パラジウム、鉄、銅、銀等の金属系の粉体や繊維;酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛等の金属酸化物;硫化銅、硫化亜鉛等の金属化合物粉;又は適当な粒子の表面を酸化スズ、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化モリブテンや、亜鉛、アルミニウム、金、銀、銅、クロム、コバルト、鉄、鉛、白金或いはロジウムを電解処理、スプレー塗工若しくは混合・振とう等により付着させた粉体;及びアセチレンブラック、ケッチェンブラック、PAN系カーボンブラック、ピッチ系カーボンブラック等のカーボン粉等が挙げられる。また、KSCN、LiClO4、NaClO4、4級アンモニウム塩等のイオン伝導物質も使用可能である。
【0037】
導電剤としては、比較的少量の添加で電気抵抗率を低下させることができ、弾性層原料の硬度を大きくすることなく導電性を付与することができるため、特にカーボンブラックが好ましい。
【0038】
<触媒>
また、弾性層材料には前記シリコーンゴムに加えて必要に応じて架橋促進のための触媒を配合することができる。触媒としては、白金、パラジウム等を用いることができる。本発明は、特にこのような触媒を使用する場合に効果的である。
【0039】
また、弾性層材料には、導電剤や触媒以外にも、必要に応じて充填材等を加えることができる。
【0040】
〔弾性ロールの作製〕
弾性層は、前記弾性ロール成形用金型に軸芯体を収納し、キャビティ内に前記弾性層原料を注入し、加熱硬化して成形される。弾性層原料が注入された金型は、加熱炉に納められ、棚段を有する加熱炉に並べられ、或いは、チェーン等の搬送手段に係止して加熱炉中を移動させることにより弾性層が加熱硬化される。硬化終了後、冷却して弾性ロールが取り出される。その後、必要により、弾性ロールは再度の加熱により二次硬化処理が行われる。一方、金型は次の弾性ロール製造に供される。
【0041】
弾性層が形成された弾性ロールの金型の接合部や駒の流路へのはみ出た部分は、必要に応じてトリミングにより取り除く。
【0042】
弾性層の厚さとしては、1mm以上、6mm以下が好ましく、1.5mm以上、5.5mm以下であることがより好ましい。厚さが1mmより薄くなると、現像ロールとして用いた場合、感光体への均一なニップを確保することが困難となる場合がある。一方、厚さを6mmより厚くしても、トナーの帯電性能の向上に繋がらないだけでなく、弾性層の成型コストが上昇し、コスト的に不利となる。
【0043】
また、弾性ロールを現像ロールとして用いる場合、前記導電剤を必要量配合することにより導電性の調節を行うことができる。弾性層の導電性としては、抵抗値が102Ω以上、1010Ω以下が好ましく、104Ω以上、108Ω以下がより好ましい。導電剤にカーボンブラックを用いる場合は、シリコーンゴム100質量部に対し、カーボンブラックの配合量が5質量部以上、60質量部以下であるのが好ましい。
【0044】
また、弾性層の硬さとしては、ゴム硬さ計「マイクロゴム硬度計MD−1」(商品名、高分子計器株式会社製)によって、気温25℃、相対湿度50%RH環境下で、測定したマイクロゴム硬さで、20°以上、60°以下であることが好ましい。
【0045】
〔表面層の形成〕
以上のようにして作製した弾性ロールの弾性層の外周上に、更に表面層を形成することができる。以下、表面層を形成した弾性ロールを多層弾性ロールとする。
【0046】
前記多層弾性ロールは、図2に示すように、軸芯体12の外周上に弾性層21を有し、さらに弾性層21の外周上に表面層22を有する。
【0047】
前記表面層は、弾性ロールの表面特性を制御するため、更には弾性層の低分子量成分の染み出しを防止するため等に設けられる層であり、1層であっても複数層設けられていてもよい。
【0048】
表面層の材料としては、例えば、各種のポリアミド、フッ素樹脂、水素添加スチレン−ブチレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、イミド樹脂、オレフィン樹脂等を用いることができる。
【0049】
これらの材料は、サンドミル、ペイントシェーカー、ダイノミル、パールミル等のビーズを利用した従来公知の分散装置を使用し、メチルエチルケトン、トルエン、メチルイソブチルケトン等の適当な溶媒に分散させることができる。この分散を行うことにより、表面欠損の少ない表面層を得るための塗工液を得ることができる。
【0050】
得られた表面層形成用の分散体は、スプレー塗工法、ディッピング法等により弾性層上に塗工することができる。
【0051】
表面層の厚みとしては、多層弾性ロールを電子写真プロセスの部材として用いる場合、弾性層成分のしみ出しによる画像形成体の汚染をより防止できるため、5μm以上が好ましい。また、多層弾性ロールの表面が硬くなることを防止し、トナーの融着を防止する観点から500μm以下が好ましい。より好ましくは、10μm以上、30μm以下である。
【0052】
多層弾性ロールを現像剤担持ロールとして用いる場合、表面層中に質量平均粒径が1〜20μmの微粒子を分散させることにより、現像剤担持ロール表面の現像剤の搬送を容易にすることができ、充分な量の現像剤を現像領域に搬送することができるため好ましい。前記微粒子としては、例えば、ポリメチルメタクリル酸メチル微粒子、シリコーンゴム微粒子、ポリウレタン微粒子、ポリスチレン微粒子、アミノ樹脂微粒子、フェノール樹脂微粒子等のプラスチックピグメントが挙げられる。特にポリメチルメタクリル酸メチル微粒子及びポリウレタン微粒子が好ましい。これらの微粒子は、この微粒子を除く表面層構成成分の総質量に対し、3質量%以上、200質量%以下の範囲で添加することが好ましい。
【0053】
〔プロセスカートリッジ、画像形成装置〕
前記弾性ロール又は多層弾性ロールを現像ロールとして組み込んでなる接触現像方式の画像形成装置の一例の概略図を図3に示す。
【0054】
本発明におけるプロセスカートリッジは、感光体31、帯電ロール32、現像ロール33及びクリーニング部材38を一体に支持し、画像形成装置に着脱自在であるプロセスカートリッジである。現像ロール33に前記弾性ロール又は多層弾性ロールが用いられている。
【0055】
本発明における画像形成装置は、感光体31、帯電ロール32、現像ロール33、転写ロール42、クリーニング部材38、定着ロール44及び加圧ロール45を有する画像形成装置であって、前記プロセスカートリッジが組み込まれたものである。
【0056】
また、前記プロセスカートリッジが組み込まれていなくても、本発明の弾性ロール又は多層弾性ロールを現像ロール33として有するものであればよい。
【0057】
図3に示す画像形成装置では、帯電ロール32で均一に帯電された感光体31は矢印の方向に回転しており、帯電ロール32と現像ロール33との間でその表面に記録情報を乗せたレーザー光40が照射されて、静電潜像が形成される。一方、撹拌羽36で現像剤供給ロール34に送られた現像剤37は現像剤層厚規制部材35によって現像ロール33表面に均一にコートされ、感光体31表面へと運ばれ、感光体31表面上に形成されている静電潜像がトナー像として顕像化される。感光体31がさらに回転してトナー像が転写領域に到達すると、紙等の記録メディア43にトナー像が感光体31に対し対置された転写ロール42により転写される。感光体31はその表面がクリーニング部材38により記録メディア43に転写せずに残った現像剤が除去された後、帯電ロール32で再び均一に帯電される。
【0058】
記録メディア43に転写された未定着のトナー像は、定着ロール44と加圧ロール45の間を通り、圧力と熱で記録メディア43に定着され、画像形成装置から排出される。
【0059】
一方、現像に使用されずに現像ロール33表面に残った現像剤は現像ロール表面に坦持されたまま現像容器41に戻る。現像容器41の内部では現像剤供給ロール34が戻ってきた現像剤を現像ロール33表面から取り除くとともに、新しい現像剤を現像ロール33表面に供給する。現像ロール33表面に供給された新しい現像剤は、現像剤層厚規制部材35にて厚さが均一に整えられ、現像領域に搬送されていく。この繰り返しによって現像ローラ33は常に新しい現像剤を均一厚みで担持して静電潜像を現像する。
【実施例】
【0060】
以下の実施例によって本発明を詳細に説明するが、これらは本発明をなんら限定するものではない。なお、以下特に明記しない限り、薬品等は市販の高純度品を用いた。
【0061】
〔弾性ロール形状精度測定〕
弾性ロールの形状精度は、図4に示すように、弾性ロール53及びロール外部基準板をレーザー測長器(商品名:「LS−5040」、キーエンス製)のレーザー光間に挿入し、弾性ロール53を回転速度120°/sにて回転させ、弾性ロール53外径端面と外部基準板との間隔を、0.33s毎(回転角3.6°毎)に測定した。得られた弾性ロール53一周分の当該間隔のデータ(100個)のうち、最大値と最小値との差をその測定ポイントでの「フレ」とした。前記測定を、弾性ロール53の弾性層の一方の端部から5mm間隔で行い、もう一方の端部まで行った。各測定ポイントのフレのうち、最大値をその弾性ロールのフレとした。
【0062】
〔金型の耐久性能評価〕
金型の耐久性能は、金型の成形ショット数経過毎に弾性ロールの形状精度の測定を行い、金型の使用経時における形状精度の変化を確認することで評価した。
【0063】
形状精度の測定は、初期1ショット目/1000ショット目/10000ショット目/20000ショット目の前後30本のサンプルに対して行った(初期は1〜30ショット)。
評価は以下に示す基準で行った。
○:初期と比べ20000ショット目のフレの平均値の増加率が5%以内(そのまま使用継続可)
△:初期と比べ20000ショット目のフレの平均値の増加率が20%以内(そのまま使用継続可)
修正要:初期と比べ20000ショット目のフレの平均値の増加率が20%を超える(ラインから除外し修正加工を行う必要有)。
【0064】
〔画像評価〕
後述する多層弾性ロールを現像剤担持ロールとして使用し、画像評価を行った。本評価で使用した電子写真式レーザービームプリンター(商品名:「LBP2510」、キヤノン社製)は、A4版出力用のマシンで、記録メディアの出力スピードはA4縦16枚/分、画像の解像度は600dpiである。感光体はアルミシリンダーにOPC(有機光導電体)層をコートした反転現像方式の感光ドラムであり、最外層には変性ポリカーボネートをバインダー樹脂とする電荷輸送層を有する。
【0065】
感光体上で現像されたトナー像は転写ロールで記録メディアに転写され、定着部で熱定着される。転写ロールで転写しなかったトナーはクリーニングブレードで感光体から掻き取られる。現像部分はカートリッジ化されており、現像剤担持ロールにはトナー層厚規制部材である現像ブレードがカウンタ方向に当接し、トナーの層厚を規制する。
【0066】
画像評価は、ベタ画像及びハーフトーン画像により、以下の基準で行った。
○:画像濃度が十分に濃く、印字面全体に渡って濃度ムラなし
△:微小な濃度ムラは発生するが、実用上問題なし
×:濃度ムラが印字面全体に渡って発生する。
【0067】
なお、本画像評価は、前記弾性ロール形状精度が30μm以下ならば○、30μmより大きく35μm以下であれば△、35μmを超えると×となることが分かっている。
【0068】
[実施例1]
〔弾性層成形用金型の作製〕
本実施例では、図1に示す内径がφ16mm、外径がφ26mmである円筒状の鋼鉄製弾性層形成用金型を作製した。まず、鋼鉄製の金型のパイプ内径を所望の形状に加工した後、その内面にガス軟窒化処理を行うことで、表面に鉄窒化物層を形成した。ガス軟窒化処理条件としては、前記加工済みの金型を加熱炉内に設置後、加熱炉内を500℃に昇温し、アンモニアガスを30%含む窒素ガスを送り込んで加工済みの金型を4時間処理し、該金型表面近傍に鉄窒化物層を形成させた。その後、該窒化処理済み金型表面に、膜厚が5μm、ニッケルとリンの比率が質量比で92:8の無電解ニッケルメッキを施し、弾性層形成用金型を得た。無電解ニッケルメッキは、次亜リン酸の析出方法により金型表面に施した。
【0069】
〔弾性層成形〕
前記弾性層形成用金型の内表面に、フッ素系樹脂からなる離型剤をスプレーにより施した。その後、図1に示すように、直径8mm、長さ280mmの鉄製丸棒に、厚み5μmの化学ニッケルメッキを施した軸芯体11を、金型21の両端に配置された駒22、23に支持されるようにして、金型21内に設置した。
【0070】
駒23の注入口27から、弾性層の原料である付加反応架橋型液状シリコーンゴム(オルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジエンポリシロキサン、導電性カーボンブラック、白金触媒、石英、シリカを適宜配合したもの、液状状態での粘度:150Pa・s、硬化後のアスカC硬度:40°)を、成形機の材料注入ノズルを注入口27に接触させることにより、排出口26から液状シリコーンゴムがオーバーフローするまで、約10秒間一定流速で注入した。その後、金型21を100℃で30分加熱し、金型内の液状シリコーンゴムを硬化させた。硬化後、金型21を80℃に冷却してから脱型することで、軸方向の長さ230mm、厚さ4mmの弾性層を有する弾性ロールを得た。言うまでもないが、加熱された金型から硬化後に直ちに脱型することも可能であるが、適度に冷却させることで、脱型の容易にし、次工程での取り扱いを容易にする。さらに、200℃のオーブン内で4時間加熱することで、二次硬化を行った。金型ショット数1000ショット目/10000ショット目/20000ショット目の二次硬化を行った弾性ロールについて、それぞれ形状精度測定を行った。結果を表1に示す。
【0071】
〔表層形成〕
弾性ロールの弾性層外周上に、ポリウレタン樹脂原料に平均粒径15μmのウレタン粒子及び導電性カーボンブラックを配合した塗工液を、ディッピング法により塗布した。その後、150℃のオーブンで4時間硬化することにより、弾性層の外周上にウレタン樹脂からなる表層を有する多層弾性ロールを得た。金型ショット数20000ショット目の弾性ロールについて多層弾性ロールを作製し、該多層弾性ロールを現像剤担持ロールとして、前記画像評価を実施した。結果を表1に示す。
【0072】
[比較例1]
弾性層成形用金型の内表面に無電解ニッケルメッキを施さなかったこと以外は、実施例1と同様に弾性ロール及び多層弾性ロールを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例2]
弾性層形成用金型の内表面に対してガス軟窒化処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に弾性ロール及び多層弾性ロールを作製し、評価を行った。なお、本比較例では10000ショット目において大きくフレが増加したため、10000ショット目の弾性ロールについて多層弾性ロールを作製し、該多層弾性ロールを現像剤担持ロールとして、画像評価を実施した。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
実施例1においては、弾性層成形用金型の内表面に窒化処理が行われているため、機械的強度が向上している。さらに無電解ニッケルメッキが鉄窒化物層上に施されているため、付加反応架橋型シリコーンゴムの繰返しの成形に耐えることができる。このため、20000ショット使用後においても金型の機械的強度が維持され殆ど摩耗せず、形状精度及び画像性能を満足する弾性ロールを成形することができた。
【0076】
これに対し、比較例1では、弾性層成形用金型の内表面に窒化処理が行われており、機械的強度は向上しているため、10000ショット目までは使用に耐えることができた。しかし、鉄窒化物層表面に無電解ニッケルメッキ層が施されていないため、更なる液状シリコーンゴムの繰返し成形により、その機械的強度が低下し、20000ショット目では初期と比較して50%フレが増加した。そのため、以降の使用に際しては一度ラインから外し、金型の修正を行う必要があった。
【0077】
さらに比較例2では、弾性層成形用金型の内表面に直接無電解ニッケルメッキを施したため、10000ショット目において初期と比較して50%フレが増加し、この場合も金型の修正を行う必要があった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の弾性ロールは、例えば電子写真プロセスカートリッジもしくは電子写真画像形成装置用の現像ロールとして好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明に係る弾性層成形用金型の概念的断面図である。
【図2】本発明に係る弾性ローラの一例の断面図及び斜視図である。
【図3】本発明に係る画像形成装置の一例の概略図である。
【図4】本発明における弾性ロールの形状精度測定装置の概念図である。
【符号の説明】
【0080】
11 弾性ロール成形用金型
12 軸芯体
13 円筒金型
14a、14b 駒
15a、15b 軸芯体保持部
16 注入口
17 排出口
18 キャビティ
19a、19b 流路
21 弾性層
22 被覆層
31 感光体
32 帯電ロール
33 現像ロール
34 現像剤供給ロール
35 現像剤層厚規制部材
36 撹拌羽
37 現像剤(トナー)
38 クリーニング部材
40 レーザー光
41 現像容器
42 転写ロール
43 記録メディア(紙)
44 定着ロール
45 加圧ロール
51 レーザー発光部
52 レーザー受光部
53 弾性ロール
54 外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸芯体と、該軸芯体の外周上に弾性層を有する弾性ロールの製造に用いる弾性ロール成形用金型において、
前記金型の表面に少なくとも金属窒化物層を有し、該金属窒化物層上に無電解メッキ層を有することを特徴とする弾性ロール成形用金型。
【請求項2】
前記金属窒化物層が、金型の金属基材表面を窒化して生成した層であることを特徴とする請求項1に記載の弾性ロール成形用金型。
【請求項3】
前記金属窒化物層が、鉄窒化物層である請求項1又は2に記載の弾性ロール成形用金型。
【請求項4】
前記無電解メッキ層が、無電解ニッケルメッキ層であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の弾性ロール成形用金型。
【請求項5】
前記無電解メッキ層の厚さが、3μm以上、8μm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の弾性ロール成形用金型。
【請求項6】
軸芯体と、該軸芯体の外周上に少なくとも弾性層を有する弾性ロールであって、
前記弾性層が、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の弾性ロール成形用金型を用いて製造されたことを特徴とする弾性ロール。
【請求項7】
前記弾性層が、付加反応架橋型シリコーンゴムを含むことを特徴とする請求項6に記載の弾性ロール。
【請求項8】
前記弾性層の外周上に、少なくとも1層の表面層を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の弾性ロール。
【請求項9】
感光体、帯電ロール、現像ロール及びクリーニング部材を一体に支持し、画像形成装置に着脱自在であるプロセスカートリッジにおいて、
前記現像ロールが、請求項6乃至8のいずれか1項に記載の弾性ロールであることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項10】
感光体、帯電ロール、現像ロール、転写ロール、クリーニング部材、定着ロール及び加圧ロールを有する画像形成装置において、
請求項9に記載のプロセスカートリッジが組み込まれていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項11】
感光体、帯電ロール、現像ロール、転写ロール、クリーニング部材、定着ロール及び加圧ロールを有する画像形成装置において、
前記現像ロールが、請求項6乃至8のいずれか1項に記載の弾性ロールであることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−85838(P2010−85838A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256402(P2008−256402)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】