説明

弾性体付き軸のリサイクル方法及びその装置

【課題】軸に強固に固着された使用済みの弾性体を軸から簡単に抜き取ることができて、コスト的に有利な弾性体付き軸のリサイクル方法及びその装置を提供する。
【解決手段】軸2の外周面2aが磁性体で形成されるかもしくは弾性体3の軸孔3a内周面に磁性体が配置されると共に、軸2と弾性体3との間に介装された接着剤4が熱硬化されることにより弾性体3が軸2に固着された弾性体付き軸のリサイクル装置であって、弾性体付き軸を支持する軸支持手段5と、該軸支持手段で支持された弾性体付き軸の外周面側に配置された加熱コイル7と、該加熱コイル7に高周波電流を供給する高周波発振器8と、前記磁性体を誘導加熱した状態で弾性体3か軸2を軸方向に移動させて弾性体3を軸2から抜き取る抜き取り手段10と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプリンタの紙送りローラ等のように表面が弾性体で形成された弾性体付き軸のリサイクル方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、金属軸の外周面にスポンジやゴム等の弾性体が嵌挿固着されたローラ等において、弾性体を軸に接着剤によって固着する場合、所定の固着強度と安定した固着強度を得るために、弾性体を軸に接着剤を介して嵌挿させた状態で、高温炉にいれ、所定温度で所定時間加熱することによって接着剤を熱硬化させることで行っている。そして、このような弾性体付き軸を使用後にリサイクルする場合、金属製の軸から弾性体を抜き取る必要があるが、従来、その抜き取り方法としては、例えば特許文献1及び特許文献2に示す方法が知られている。
【0003】
このうち、特許文献1に開示の抜き取り方法は、軸の外周面と弾性体間に断面円弧状の可撓性を有する薄肉材料からなるリバース部材を介装し、このリバース部材の弾性体から突出した先端部分に軸から剥離した操作用摘みを設け、この摘みを基端側へ引っ張って反転移動させることにより、リバース部材を軸から抜脱させて、弾性体を軸から抜き取る(剥離する)ようにしたものである。また、特許文献2に開示の抜き取り方法は、軸の外周と弾性体間に直線状に線材を伸ばして配置し、その基端を軸の一端側に結んで取付けると共に先端を他端側に向けて伸ばし、この線材を弾性体側に引っ張ることにより、弾性体を切り裂いて弾性体を軸から抜き取る(剥離する)ようにしたものである。
【特許文献1】特開平9−2692号公報
【特許文献2】特開平9−77297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような抜き取り方法においては、いずれも、軸の外周面と弾性体間に予めリバース部材や線材を介装させる必要があり、弾性体付き軸の部材数が増えて部材コストが嵩むと共に、介装させるための作業が必要となって製造コストもアップする等、コスト的に不利になり易い。また、弾性体と軸の固着面となる軸の外周面にリバース部材や線材が位置するため、これらの部材部分で固着強度が低下し易く、弾性体と軸との間に十分で安定した固着強度を長期に亘り維持することが難しい。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、軸に強固に固着された使用済みの弾性体を軸から簡単に抜き取ることができて、コスト的に有利な弾性体付き軸のリサイクル方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載のリサイクル方法は、軸の外周面が磁性体で形成されるかもしくは弾性体の軸孔内周面に磁性体が配置されると共に、軸と弾性体との間に介装された接着剤が熱硬化されることにより弾性体が軸に固着された弾性体付き軸のリサイクル装置であって、前記磁性体を誘導加熱しつつ、弾性体か軸を軸方向に移動させることにより、使用済みの弾性体を軸から抜き取ることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載のリサイクル装置は、軸の外周面が磁性体で形成されるかもしくは弾性体の軸孔内周面に磁性体が配置されると共に、軸と弾性体との間に介装された接着剤が熱硬化されることにより弾性体が軸に固着された弾性体付き軸のリサイクル装置であって、 弾性体付き軸を支持する軸支持手段と、該軸支持手段で支持された弾性体付き軸の外周面側に配置された加熱コイルと、該加熱コイルに高周波電流を供給する高周波発振器と、前記磁性体を誘導加熱した状態で弾性体か軸を軸方向に移動させて弾性体を軸から抜き取る抜き取り手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
そして、この場合、前記抜き取り手段は、請求項3に記載の発明のように、軸の外径に対応した内径の筒状の治具を有することが好ましく、また、前記高周波発振器は、請求項4に記載の発明のように、半導体スイッチング素子を使用したインバータ回路と、該インバータ回路の出力側に接続された出力変成器を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1に記載のリサイクル方法明によれば、軸の外周面かこの外周面と弾性体との間に介装された磁性体を誘導加熱しつつ、弾性体か軸を軸方向に移動させることにより、使用済みの弾性体を軸から抜き取るため、熱硬化した接着剤が誘導加熱により効率的に溶融され、使用後の弾性体を軸から簡単に抜き取ることができて、弾性体付き軸のリサイクルを容易かつ安価に行うことができる。
【0010】
また、請求項2に記載のリサイクル装置は、軸支持手段で支持された弾性体付き軸の外周面側に配置された加熱コイル及びこの加熱コイルに高周波電流を供給する高周波発振器と、磁性体を誘導加熱した状態で弾性体か軸を軸方向に移動させて弾性体を軸から抜き取る抜き取り手段等を備えるため、熱硬化した接着剤が誘導加熱により効率的に溶融され、使用後の弾性体を軸から簡単に抜き取ることができて、弾性体付き軸のリサイクルを容易かつ安価に行うことができる。
【0011】
また、請求項3に記載の発明によれば、請求項2に記載の発明の効果に加え、抜き取り手段が軸の外径に対応した内径の筒状の治具を有するため、治具により硬化した弾性体を軸からスムーズに抜き取りすることができる。
【0012】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、請求項2または3に記載の発明の効果に加え、高周波発振器が半導体スイッチング素子を使用したインバータ回路と、このインバータ回路の出力側に接続された出力変成器を有するため、小型で省エネ化に優れた高周波発振器の使用が可能となり、リサイクルコストを一層低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係わる抜き取り装置の一実施例を示している。図において、抜き取り装置1は、その外周面2aに接着剤4を介して弾性体3の軸孔3aが嵌挿された軸2を支持する軸支持手段5と、この軸支持手段5に支持された軸2を所定方向に所定の速度で回転させる軸回転手段6と、弾性体3の外周面の外側に所定の間隔を有して配置された加熱コイル7と、この加熱コイル7に高周波電流を供給する高周波発振器8と、これらを制御するシーケンサ、マイコン等からなる制御手段9と、弾性体抜き取り手段10等を有している。
【0014】
前記軸2は、例えばステンレススチール材等の磁性体からなる金属棒で形成され、また、前記弾性体3は、例えばスポンジ、ゴム等で形成され、その軸芯位置に前記軸2の外径と略同一か僅かに大きい前記軸孔3aが形成されている。そして、軸2の外周面2aと弾性体3の軸孔3aとの間に所定温度で溶融しつつ硬化する熱硬化性の樹脂からなる接着剤4が介装されている。
【0015】
前記軸支持装置5は、軸2を例えば水平状態で回転可能に支持し得るように軸方向の両端部を設けられている。前記軸回転装置6は、例えばモータ等で構成され、制御装置9の制御信号により所定の回転速度で可能するようになっている。
【0016】
また、前記加熱コイル7は、例えば絶縁材で被覆された銅パイプを所定回数巻回することにより外周形状が略円筒形状に形成され、銅パイプの両端部が高周波発振器8の図示しない出力変形器に接続されている。なお、この加熱コイル7は円筒形状に限らず、馬蹄形状や他の適宜の形状に形成することも勿論可能である。
【0017】
前記高周波発振器8は、IGBT、FET、SIT等の半導体スイッチング素子を使用したインバータ回路、及びこのインバータ回路の出力側に接続された出力変性器等を有し、所定周波数で所定出力の高周波電流を前記加熱コイル7に出力するようになっている。
【0018】
この抜き取り装置1によれば、先ず、嵌挿工程の自動機等により軸2に弾性体3の軸孔3aを嵌挿させ(以下、これを弾性体付き軸2という)、この弾性体付き軸2を加熱工程位置まで搬送して軸支持手段5上に支持させる。この軸2への弾性体3の嵌挿時に軸2の外周面2aや軸孔3aの内周面に接着剤4を直接塗布するかあるいは接着剤4が塗布されたテープ等を軸の外周面2aに巻回することにより、軸2の外周面2aと弾性体3の軸孔3aとの間に接着剤4を介装させる。
【0019】
そして、この状態で、制御装置9の制御信号により軸回転装置6を作動させて弾性体付き軸2を回転させる。また、この弾性体付き軸2の回転と同時もしくは回転開始の所定時間前後に、制御装置9の制御信号で高周波発振器8を作動させて加熱コイル7に所定周波数の高周波電流を供給する。
【0020】
加熱コイル7に高周波電流が供給されると、該加熱コイル7から磁束が発生して磁性体からなる軸2の外周面2aに渦電流が誘起されて、外周面2a部分が所定温度まで高速で誘導加熱される。この時、渦電流は磁性体からなる軸2のみに作用し、軸2が局部的に誘導加熱されるため、従来のような弾性体3の直接的な加熱が防止されて、弾性体3の弾性率の変化等が確実に防止されることになる。
【0021】
軸2の外周面2aが所定時間誘導加熱されると、軸2の外周面2aと弾性体3の軸孔3aとの間に介装されている接着剤4が誘導加熱の熱により溶融しつつ所定温度の熱で硬化する。そして、この接着剤4が熱硬化した弾性体付き軸2を、自然冷却もしくはファン等による強制冷却することにより、接着剤4が完全に硬化して軸2の外周面2aに弾性体3が強固に接着固定される。つまり、前記抜き取り装置1によりば、弾性体3を軸2に固着する固着装置としても使用できることになる。
【0022】
このようにして製造された弾性体付き軸2は、誘導加熱の利用により、軸2の所定部位を急速加熱できて加熱時間の短縮が図れると共に、軸2を回転しつつ誘導加熱することから外周面2a全域に亘り均一な加熱状態が容易に得られる等、品質的に優れた弾性体付き軸2を低コストで製造することが可能になる。その結果、この弾性体付き軸2を、例えばプリンターの紙送りローラや紙幣印刷用のローラ等として使用しても、長期に亘り安定した品質の元での使用が可能になる。
【0023】
また、例えばローラの使用により弾性体3が摩耗した場合等には、上記抜き取り装置1により次のようにして弾性体3が軸2から抜き取られる。すなわち、図1に示す前記抜き取り手段10を、軸2の外周面2aに沿って移動する筒状の治具で形成する。そして、この治具を、軸2の誘導加熱状態で制御装置9の制御信号で移動させることにより、使用により硬化した弾性体3を軸2から抜き取ることができる。なお、この例では、抜き取り手段10としての治具を軸方向に移動させて弾性体3を軸2から抜き取ったが、その逆の構成を採用することもできる。
【0024】
このリサイクル方法によれば、誘導加熱により熱硬化した接着剤4の溶融を固着時と同様に効率的に行うことができて、弾性体3を軸2から簡単に剥離(抜き取り)でき、耐久性に優れ高価な軸2のリサイクル使用が可能となり、結果として弾性体付き軸2のコストを一層低減させることができる。また、抜き取り手段10としての治具の内径が図1に示すように、軸2の外径に対応した内径を有するため、硬化した弾性体3を治具の使用で軸2からスムーズに抜き取りすることができる。さらに、誘導加熱に使用される高周波発振器8が半導体スイッチング素子を使用したインバータ回路と、このインバータ回路の出力側に接続された出力変成器を有するため、小型で省エネ化に優れた高周波発振器8の使用が可能となり、リサイクルコストを一層低減させること等ができる。
【0025】
図2は、本発明の抜き取り装置1の他の実施例を示している。なお、上記実施例と同一部位には同一符号を付して説明する。この実施例の抜き取り装置1の特徴は、軸2の誘導加熱を真空状態にして行う点にあり、真空ケース11内に弾性体付き軸2を支持すると共に、該真空ケース11を真空装置12に接続して、制御装置9の制御信号で真空装置12を作動させることにより真空ケース11内を真空状態とする。
【0026】
そして、この真空状態で制御装置9の制御信号で高周波発振器8を作動させて加熱コイル7に高周波電流を供給し、軸2の外周面2aを誘導加熱して、弾性体3を軸2から抜き取ったりあるいは固着する。この実施例によれば、誘導加熱が真空状態で行われるため、誘導加熱時に軸2の加熱部分にスケール等の発生が無くなると共に、弾性体3の軸孔3aの内周面の凹凸が引っ張られる状態となって凹凸自体の深さ等が浅くなり、例えば軸2の外周面2aとの接触面積が大きくなってその接着強度を高めたり、弾性体3を抜き取った後の軸2の外周面の品質を良好に維持することができる。
【0027】
なお、上記実施例においては、軸2全体が磁性体である場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば軸2の外周面2a側の一部のみを磁性体で形成したり、弾性体3の軸孔3a部分に磁性体が混入された部分を一体(もしくは別体)で形成したり、あるいは接着剤4として磁性体入りの接着剤4を使用することもできる。そして、弾性体3や接着剤4の一部に磁性体を使用した場合は、軸2として高硬度プラスチック等の非磁性体材料を使用できることになり、適用できるローラの範囲が大幅に拡大される。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、軸の外周面に弾性体が嵌挿された全ての弾性体付き軸に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係わるリサイクル装置の一実施例を示す基本構成図
【図2】同他の実施例を示す基本構成図
【符号の説明】
【0030】
1・・・抜き取り装置、2・・・軸、2a・・・外周面、3・・・弾性体、3a・・・軸孔、4・・・接着剤、5・・・軸支持手段、6・・・軸回転手段、7・・・加熱コイル、8・・・高周波発振器、9・・・制御装置、10・・・抜き取り手段(治具)、11・・・真空ケース、12・・・真空装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の外周面が磁性体で形成されるかもしくは弾性体の軸孔内周面に磁性体が配置されると共に、軸と弾性体との間に介装された接着剤が熱硬化されることにより弾性体が軸に固着された弾性体付き軸のリサイクル装置であって、
前記磁性体を誘導加熱しつつ、弾性体か軸を軸方向に移動させることにより、使用済みの弾性体を軸から抜き取ることを特徴とする弾性体付き軸のリサイクル方法。
【請求項2】
軸の外周面が磁性体で形成されるかもしくは弾性体の軸孔内周面に磁性体が配置されると共に、軸と弾性体との間に介装された接着剤が熱硬化されることにより弾性体が軸に固着された弾性体付き軸のリサイクル装置であって、
弾性体付き軸を支持する軸支持手段と、該軸支持手段で支持された弾性体付き軸の外周面側に配置された加熱コイルと、該加熱コイルに高周波電流を供給する高周波発振器と、前記磁性体を誘導加熱した状態で弾性体か軸を軸方向に移動させて弾性体を軸から抜き取る抜き取り手段と、を備えたことを特徴とする弾性体付き軸のリサイクル装置。
【請求項3】
前記抜き取り手段は、軸の外径に対応した内径の筒状の治具を有することを特徴とする請求項2に記載の弾性体付き軸のリサイクル装置。
【請求項4】
前記高周波発振器は、半導体スイッチング素子を使用したインバータ回路と、該インバータ回路の出力側に接続された出力変成器を有することを特徴とする請求項2または3に記載の弾性体付き軸のリサイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−161860(P2008−161860A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291395(P2007−291395)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【分割の表示】特願2002−153282(P2002−153282)の分割
【原出願日】平成14年5月28日(2002.5.28)
【出願人】(591195994)株式会社ミヤデン (21)
【Fターム(参考)】