弾性境界波装置の製造方法および弾性境界波装置
【課題】目標とする周波数特性を有する弾性境界波装置を確実に提供することを可能とする弾性境界波装置の製造方法および弾性境界波装置を得る。
【解決手段】第1の媒質1と、第1の媒質上に積層されている第2の媒質と、第1,第2の媒質との界面に配置されたIDT電極2とを備える積層体を用意し、第2の媒質の外側からイオンを注入し、周波数を調整する各工程を備える、弾性境界波装置の製造方法。
【解決手段】第1の媒質1と、第1の媒質上に積層されている第2の媒質と、第1,第2の媒質との界面に配置されたIDT電極2とを備える積層体を用意し、第2の媒質の外側からイオンを注入し、周波数を調整する各工程を備える、弾性境界波装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば共振子や帯域フィルタなどに用いられる弾性境界波装置の製造方法と弾性境界波装置に関し、より詳細には、周波数調整工程を備えた弾性境界波装置の製造方法および弾性境界波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、弾性表面波装置に代わり、弾性境界波装置が注目されている。弾性境界波装置では、弾性境界波が固体からなる第1,第2の媒質間の境界を伝搬する。従って、弾性境界波装置では、弾性表面波装置に比べて小型化を進めることができる。また、パッケージ構造の簡略化を果たすことができる。
【0003】
弾性境界波装置をフィルタや共振子として用いる場合、その周波数特性が高精度に設定される必要がある。しかしながら、弾性境界波装置ではIDT電極が、第1,第2の媒質間の境界に存在する。従って、弾性表面波装置とは異なり周波数調整が困難であった。
【0004】
下記の特許文献1には、弾性境界波装置の周波数調整方法の一例が開示されている。図12に示すように特許文献1では、第1の媒質101と第2の媒質102との境界にIDT電極103が配置されている。第2の媒質102は、媒質層102aと、媒質層102bとを有し、媒質層102a,102b間に改質用媒質層102cが配置されている。
【0005】
特許文献1では、第2の媒質102の外側から矢印で示すようにレーザー光を照射する。このレーザー光の照射により改質用媒質層102cが加熱され、改質用媒質層102cを構成している金属が第2の媒質102内に拡散される。この拡散により改質部を形成し、周波数調整を図ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2008/062639 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
弾性境界波装置においては、弾性境界波の伝搬エネルギーは、第1の媒質101と第2の媒質102との境界付近に集中する。従って、特許文献1に記載の周波数調整方法において、所望の周波数特性を得るには、媒質間の境界付近に高精度に改質部を形成する必要があった。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、改質用媒質層102c以外の媒質やIDT電極が拡散して劣化しないように、改質用媒質層102cの融点を低く抑えたり、拡散しやすい材料を改質用媒質層102cとして選択する必要があり、装置設計上の制約が大きいという問題があった。加えて、改質用媒質層102cを改質したり、改質用媒質層102cを構成する金属を周囲の媒質102a、102bに拡散させるために、改質用媒質層102cの融点付近で融解と凝固作用を生じさせる必要がある。しかし、この融解と凝固を生じさせるために、集光したレーザーで局所加熱を行うと、改質層の膜質や拡散状態が不均一となり、高精度に周波数を調整することが非常に困難であった。従って、所望とする周波数特性を有する弾性境界波装置を得ることが困難であった。
【0009】
本発明の目的は、所望の周波数特性を有する弾性境界波装置を容易にかつ確実に得ることを可能とする弾性境界波装置の製造方法並びに該弾性境界波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る弾性境界波装置の製造方法は、圧電体よりなる第1の媒質と、前記第1の媒質上に積層されており、誘電体よりなる第2の媒質と、前記第1の媒質と第2の媒質との界面に配置されたIDT電極とを備える積層体を用意する工程と、前記第2の媒質の外側からイオンや原子を注入し、周波数を調整する工程とを備える。
【0011】
本発明に係る弾性境界波装置の製造方法のある特定の局面では、弾性境界波の波長をλとしたときに、前記界面の上下1λ以内の領域に前記イオン注入によりイオンを分布させる。この場合には、弾性境界波の伝搬エネルギーが界面の上下1λ以内の領域に集中するため、弾性境界波装置の周波数特性をより一層高精度に調整することができる。
【0012】
本発明に係る弾性境界波装置の製造方法の他の特定の局面では、前記イオン注入に際し、Li以上の原子量を有する原子のイオンを注入する。この場合には、原子量が大きな原子のイオンを注入するため、注入されたイオンが抜け難い。従って、周波数特性が安定な弾性境界波装置を提供することができる。
【0013】
本発明に係る弾性境界波装置の製造方法のさらに他の特定の局面では、前記積層体を用意する工程において、前記第2の媒質の厚みを、IDT電極により励振される弾性波が弾性境界波ではなく、弾性表面波を主体とする厚みとなるように第2の媒質を形成する。さらに、前記イオン注入工程後に、第2の媒質上に、さらに第2の媒質と同じ誘電体材料または異なる誘電体材料からなる第3の媒質を、IDT電極に励振される弾性波が弾性境界波を主体とするように形成する。この場合には、第2の媒質の厚みが薄いため、小さなイオン注入エネルギーにより周波数調整を行うことができる。従って、安価な設備を用いて周波数調整を行うことができる。また、第2の媒質の厚みが薄いので、原子量の大きなイオンを容易に注入することができる。原子量の大きな原子のイオンを注入すると、周波数特性が大きく変化する。従って、周波数調整量に対し、イオンの注入量を減らすことができ、容易に周波数調整を行うことができる。
【0014】
本発明に係る弾性境界波装置は、圧電体よりなる第1の媒質と、前記第1の媒質上に積層されており、誘電体よりなる第2の媒質と、前記第1の媒質と前記第2の媒質との界面に配置されたIDT電極とを備え、前記第1の媒質および/または前記第2の媒質が、イオンもしくは原子注入領域を有する、弾性境界波装置である。
【0015】
本発明に係る弾性境界波装置のある特定の局面では、弾性境界波の波長をλとしたときに、前記界面の上下1λ以内の領域が前記イオンもしくは原子注入領域である。この場合には、弾性境界波装置の周波数特性をより一層高精度に調整することができる。
【0016】
本発明に係る弾性境界波装置のさらに他の特定の局面では、前記イオンが、Li以上の原子量を有する原子のイオンである。この場合には、注入されたイオンが抜け難いので、周波数特性が安定な弾性境界波装置を提供することができる。
【0017】
本発明に係る弾性境界波装置のさらに別の特定の局面では、前記第2の媒質の厚みが、IDT電極により励振される弾性波が弾性境界波ではなく弾性表面波を主体とする厚みとされており、前記第2の媒質上に積層されており、前記第2の媒質と同じ誘電体材料または異なる誘電体材料からなる第3の媒質をさらに備える。IDT電極により励振される弾性波が弾性境界波を主体とするように上記第3の媒質が形成されている。この場合には、第2の媒質の厚みが薄いため、イオン注入エネルギーが小さくてすむ。従って、安価な設備を用いて、周波数調整を行うことができるので、弾性境界波装置の製造コストを低減することができる。加えて、原子量の大きなイオンを注入することも容易である。そのため、周波数調整を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る弾性境界波装置の製造方法および弾性境界波装置によれば、IDT電極が第1,第2の媒質の界面に配置された積層体を得た段階で、イオン注入により周波数を調整することができる。従って、弾性境界波装置を完成させた後に、目標とする周波数特性を得るように周波数を容易に調整することができる。あるいは、IDT電極により励振される弾性波が弾性表面波を主体とする厚みとなるように第2の媒質を形成した後に、イオン注入により容易に周波数を調整することができる。
【0019】
また、上記イオン注入により周波数を調整するものであるため、第1,第2の媒質の界面付近にイオンを確実に分布させることができる。従って周波数調整を高精度に行うことができる。よって、本発明によれば、目標とする周波数特性を有する弾性境界波装置を容易にかつ確実に提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態における弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入により周波数を調整する工程を説明するための正面断面図であり、(b)は該弾性境界波装置の電極構造を説明するための部分拡大正面断面図である。
【図2】図2は、第1の実施形態の弾性境界波装置を伝搬する弾性境界波の振動変位分布を示す模式図である。
【図3】第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法におけるイオン注入量と、周波数変化量との関係を示す図である。
【図4】第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法におけるイオン注入量と、インピーダンス変化量との関係を示す図である。
【図5】(a)は、第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入を行う前、並びにイオン注入量が1×1015atom/cm2としてイオン注入を行った後のインピーダンス特性を示す図であり、(b)は第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入を行う前、並びにイオン注入量が1×1015atom/cm2としてイオン注入を行った後の位相特性を示す図である。
【図6】(a)は、第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入を行う前、並びにイオン注入量が3×1015atom/cm2としてイオン注入を行った後のインピーダンス特性を示す図であり、(b)は第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入を行う前、並びにイオン注入量が3×1015atom/cm2としてイオン注入を行った後の位相特性を示す図である。
【図7】(a)は、第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入を行う前、並びにイオン注入量が1×1016atom/cm2としてイオン注入を行った後のインピーダンス特性を示す図であり、(b)は第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入を行う前、並びにイオン注入量が1×1016atom/cm2としてイオン注入を行った後の位相特性を示す図である。
【図8】(a)は、第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入を行う前、並びにイオン注入量が5×1016atom/cm2としてイオン注入を行った後のインピーダンス特性を示す図であり、(b)は第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入を行う前、並びにイオン注入量が5×1016atom/cm2としてイオン注入を行った後の位相特性を示す図である。
【図9】He+イオンを注入した場合のイオン注入量と周波数変化量との関係を示す図である。
【図10】B+イオンを注入した場合のイオン注入量と周波数変化量との関係を示す図である。
【図11】(a)及び(b)は、本発明の他の実施形態の弾性境界波装置の製造方法を示す各模式的正面断面図である。
【図12】従来の弾性境界波装置の周波数調整方法を説明するための模式的正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0022】
図1(a)及び(b)を参照して、本発明の一実施形態に係る弾性境界波装置の製造方法を説明する。まず、図1に示されている第1の媒質1を用意する。第1の媒質1としては、本実施形態では、25°YカットLiNbO3基板を用いる。もっとも、第1の媒質1は、他の圧電体により形成されていてもよい。このような圧電体としては、上記カット角以外のLiNbO3、あるいはLiTaO3、水晶、圧電セラミックスなどを挙げることができる。また、ガラス基板やSi基板、サファイア基板などの支持基板上に圧電膜を形成した圧電膜と支持基板の積層体を圧電体としてもよい。
【0023】
第1の媒質1上に、IDT電極2と、図示しない反射器を形成する。IDT電極2の形成方法は特に限定されず、蒸着またはスパッタリングなどの薄膜形成方法を用いることができる。本実施形態では、IDT電極2として、図1(b)に拡大して示す積層金属膜からなるIDT電極を形成する。この積層金属膜では、下から順に、Ti膜2a、Pt膜2b、TiO2膜2c、AlCu膜2d、TiO2膜2e、Pt膜2f及びNiCr膜2gの順序でこれらの金属膜が積層されている。各金属膜の膜厚は以下の通りとする。なお、AlCu膜はAlを主成分としてCuを含有させた合金である。
【0024】
NiCr/Pt/TiO2/AlCu/TiO2/Pt/Ti=10/22/20/225/20/36/10(単位はnm)。
【0025】
IDT電極と反射器を構成する電極指の周期は、2.01μmであり、この電極指周期が弾性境界波装置の応答周波数における弾性境界波の波長λに相当する。IDT電極の交差幅は28.7μmであり、IDT電極の電極指本数は227本、IDT電極の弾性境界波伝搬方向両側に配置された反射器の電極指本数はそれぞれ31本、IDT電極と反射器の電極指幅の波長に対する比は0.25である。
【0026】
上記IDT電極2を形成した後に、SiO2膜3を形成する。SiO2膜3の成膜は、スパッタリングなどの適宜の方法により行い得る。SiO2膜3の膜厚は1213nmである。
【0027】
次に、SiO2膜3上に、SiN膜4をスパッタリングにより成膜する。SiN膜4の膜厚は400nmである。
【0028】
上記SiO2膜3及びSiN膜4が、第2の媒質に相当する。
【0029】
なお、図1(a)では図示を省略しているが、IDT電極2に電気的に接続されるように、IDT電極2を形成する工程において、電極引き出しパッドを形成しておく。また、上記電極引き出しパッド上のSiO2膜3及びSiN膜4を除去するように、フォトリソグラフィ法によりSiO2膜3及びSiN膜4をパターニングする。
【0030】
このようにして得た積層体において、周波数特性を測定する。本実施形態では、IDT電極2の両側に反射器が構成されている1ポート型弾性境界波共振子が構成されている。従って、上記周波数特性として、共振特性、インピーダンス特性及び/またはインピーダンススミスチャートなどを測定する。しかる後、図1(a)の矢印で示すように、第2の媒質の外側から、具体的には上記SiN膜4の上方から日本真空技術性IMX−3500RS(中電流密度イオン注入機)を用い、金属イオンを注入する。本実施形態では、金属イオンとしてLiイオンを注入する。イオン注入では、イオンを第1の媒質1と、SiO2膜3及びSiN膜4からなる第2の媒質との界面付近に確実に分布させることができる。このようにして、図1(a)に示すように、イオンが注入された領域5を形成することができる。イオンが注入された領域5が形成されると、IDT電極2で励振された弾性境界波の伝搬挙動が変化し、周波数特性が変化する。
【0031】
上記のようにして、イオン注入により周波数特性を調整することができる。このイオン注入による具体的な周波数調整結果については、後程具体的な実験例に基づき説明する。
【0032】
本実施形態では、上記のように、上記積層体を得た後に、外部からイオン注入を行うだけで、弾性境界波装置の周波数調整を容易にかつ確実に行うことができる。
【0033】
なお、上記実施形態では、第2の媒質は、SiO2膜3及びSiN膜4により形成したが、1種類の誘電体により第2の媒質を構成してもよい。また、第2の媒質を構成する材料についてもSiO2やSiNに限らず、様々な誘電体を用いることができる。
【0034】
次に、具体的な実験例を説明する。
【0035】
図1(a)に示した上記積層体を用意した後、日本真空技術性IMX−3500RS(中電流密度イオン注入機)を用い、注入エネルギー200KeVでLi+イオンを第2の媒質の上面から注入し、周波数調整を図った。この場合、イオン注入量を1×1014atom/cm2〜1×1017atom/cm2の範囲で種々異ならせ、周波数調整を行った。結果を図3及び図4に示す。図3は、イオン注入量と周波数変化量との関係を示す。図3において、〇が共振周波数Frを×が反共振周波数Faを示す。
【0036】
図3から明らかなように、イオン注入量が増加するにつれて、共振周波数及び反共振周波数が低くなっていることがわかる。すなわち、イオン注入量と共振周波数及び反共振周波数との間に負の相関のあることがわかる。従って、イオン注入量を変化させることにより、周波数を目標周波数となるように容易に調整することができる。
【0037】
なお、図4は、上記イオン注入量とインピーダンス変化量との関係を示す。インピーダンス変化量とは反共振周波数のインピーダンスに対する共振周波数におけるインピーダンスに対する比の変化量を示す。図4から明らかなように、イオン注入を行っても、インピーダンス比はさほど変化していないことがわかる。
【0038】
上記イオン注入量を変化させた場合の具体的なインピーダンス特性及び位相特性の変化の例を、図5〜図8に具体的に示す。
【0039】
図5(a)、図6(a)、図7(a)及び図8(a)は、イオン注入前とイオン注入後のインピーダンス特性を示し、図5(b)、図6(b)、図7(b)及び図8(b)はイオン注入前とイオン注入後の位相特性をそれぞれ示す図である。図5〜図8において、実線がイオン注入後の特性を、破線がイオン注入前の特性を示す。
【0040】
また、イオン注入量は、以下の通りである。
【0041】
図5(a)及び(b)では、イオン注入量は1×1015atom/cm2、図6(a)及び(b)では、3×1015atom/cm2、図7(a)及び(b)では、1×1016atom/cm2、図8(a)及び(b)では、5×1016atom/cm2である。
【0042】
上記図5〜図8の結果は、前述した図3及び図4にまとめた結果に対応する。
【0043】
なお、図3及び図4のイオン注入量が1×1014atom/cm2とした場合のインピーダンス変化及び位相変化については変化量が少ないため、図示を省略した。
【0044】
上記実験例から明らかなように、イオン注入量を制御することにより、共振周波数や反共振周波数を高精度に調整し得ることがわかる。
【0045】
上記実施形態において、イオン注入により周波数を高精度に調整し得るのは、イオン注入によれば図1に示した領域5のように、第1,第2の媒質間の境界付近にイオンを分布させることができることによると考えられる。図2に示すように、上記弾性境界波装置の弾性波の振動変位分布より、第1の媒質と第2の媒質との境界付近に弾性波のエネルギーが集中する。図2の縦軸の深さ0.0は、第1の媒質と第2の媒質の境界を示し、マイナス方向が第1の媒質側であり、プラスの方向が第2の媒質側である。図2において、U1は伝搬方向の変位分布、U2は伝搬方向と垂直で境界に水平な方向の振動変位成分、U3は伝搬方向と境界に垂直な方向の振動変位成分であり、弾性境界波は多くの場合、U1、U2、U3の振動変位成分が結合しながら一つの伝搬モードとして伝搬する。図2から明らかなように、弾性境界波の波長λとしたときに、深さが0.0±1.0λの範囲に、弾性波のエネルギーが分布しており、0.0±0.7λの範囲にほとんどが集中して、深さ0.0、すなわち、第1の媒質と第2の媒質の境界に近づくに従い徐々にエネルギーが大きくなる。また、第2の媒質を構成するSiO2及びSiNのうち、より低音速なSiO2の内側で急峻に振動変位が増加する。従って、イオン注入により、上記境界の上下1λの部分にイオン分布させることにより、弾性波の伝搬挙動を変化させることができ、上下0.7λの範囲でより大きく弾性波の伝搬挙動を変化させることができる。すなわち、周波数を大きく変化させることができる。さらに、媒質2を高音速な膜と低音速な膜を積層して構成した場合、低音速な膜にエネルギーが多く分布することがわかる。従って、周波数をより大きく調整することができる。
【0046】
上記実施形態におけるLiイオンの分布をLSS理論(例えば、 非特許文献J. Lindhard et al. : Range concepts and heavy ion ranges. Mat. Fys. Medd. Dan. Vid. Selsk., Vol. 33, p.1−39, 1963)に基づき解析したところ、LiNbO3基板1とSiO2膜3の境界から770nm(λ=2.01μmなので0.38λ)離れたSiO2膜3の膜中の位置を中心にLiが分布していることが確かめられた。
【0047】
上記実験例でイオン注入により周波数特性が大きく変化したのは、弾性波のエネルギーが分布している第1の媒質と第2の媒質の境界付近の、0.38λの領域に、図1に示した領域5が形成されていることによると考えられる。さらに言えば、高音速なSiNと低音速なSiO2を積層して構成した第2の媒質のうち、境界に近いSiO2の内部に領域5が構成されたため、より大きな周波数変化が得られたと考えられる。
【0048】
なお、上記実施例において、イオン注入に用いたイオン注入機の制約により注入エネルギーは200keVに抑えたため、第2の媒質を構成するSiN膜の厚みを400nmとした。このため、SiN表面にわずかに振動エネルギーが分布している。そこで、上記実施例と同じ手順で、イオン注入したサンプルとイオン注入していないサンプルを作成し、イオン注入した後に、400nmのSiN膜の上にSiNを1600nm成膜して表面に振動エネルギーが分布していない完全な境界波を作成し、イオン注入したサンプルとイオン注入していないサンプルの周波数差を比較した。その結果、イオン注入により変化した周波数と同じ周波数変化を確認した。これらの検討により、イオン注入による周波数変化が、400nmのSiN膜表面のイオンミリングによる厚みの変化に起因するものではなく、イオン注入により境界付近にLiを分布させて媒質2の弾性定数を改変し、境界波の伝搬挙動を変化させたことに起因するものだと判断できる。
【0049】
よって、本発明においては、好ましくはイオン注入により、第1の媒質及び/または第2の媒質において、上記境界の上下1λの範囲内の領域にイオン注入を行えばよい。境界の上下0.7λから1λの領域にイオンを注入した場合、大きな周波数変化は得られない。しかしながら、イオン注入量に対して周波数かつゆるやかに変化することが予想される。従って、周波数の微調整に好適である。一方、周波数の製造バラツキが大きく、大きく周波数を変化させるように周波数調整を行う場合には、大半のエネルギーが分布する領域、すなわち境界の上下0.7λの範囲内の領域にイオンを注入することが好ましい。それによって、周波数を大きく変化させることができる。
【0050】
さらに、第1の媒質もしくは第2の媒質が積層構造であることも好ましい。それによって、急峻にエネルギーが増加する境界に近い媒質層の中にイオン注入を行うことにより、より大きく周波数を変化させることができる。従って、周波数の製造バラツキが大きい場合にも対応でき、望ましい。
【0051】
上記実験例と同様にして、ただし、注入するイオン種はHe+及びB+イオンとして周波数調整を試みた。結果を図9及び図10に示す。図9は、He+イオンを注入した場合のイオン注入量と周波数変化量との関係を示し、図10は、B+イオンを注入した場合のイオン注入量と周波数変化量との関係を示す。図9及び図10においても、図3と同様に、〇が共振周波数Frを、×が反共振周波数Faを示す。
【0052】
図9から明らかなように、He+イオンを注入した場合、周波数特性は変化するものの、注入量と周波数変化量とに相関はあまりみられない。これは、He+イオンの場合には、注入されたイオンが抜けやすいため、イオン注入の効果がばらつくためと考えられる。従って、好ましくは、Heよりも原子量の大きな原子のイオンすなわちLi及びLiよりも大きな原子量の原子のイオンを注入することが望ましい。もっとも、He+イオンを注入した場合においても、図9から明らかなように、共振周波数及び反共振周波数を変化させることはできる。従って、周波数特性を調整することができる。
【0053】
同様に、図10に示すように、B+イオンを注入した場合も、イオン注入量と、周波数変化量との間には、さほど変化は認められないが、周波数特性を調整することができる。Liに比べBは原子量が大きいためLiと同じ200keVで注入した場合でも、注入深さは浅くなり、第1の媒質と第2の媒質の境界から0.45λの位置(SiO2厚は0.6λなので、0.45λはSiO2の中となる)を中心として図1に示した領域5が形成されたため、周波数変化量が小さくなったのだと考察される。また、Bは原子量が大きいことから、注入されたイオンによる領域5の密度の変化は大きくなり、また、引き起こされる周囲の膜の歪みは大きくなるため、同量のイオンを、同じ深さに注入した場合はBの方がLiより変化量は大きくなる。
【0054】
図11(a),(b)は、本発明の他の実施形態に係る弾性境界波装置の製造方法を説明するための模式的正面断面図である。第2の実施形態では、図11(a)に示すように、まず、第1の媒質1、IDT電極2及び第2の媒質11をこの順序で積層してなる積層体12を用意する。第1の媒質1、IDT電極2及び第2の媒質11は、前述した実施形態と同様の材料で構成することができる。ただし、本実施形態では、第2の媒質11の厚みを、IDT電極2を励振した際に、励振される弾性波が弾性境界波ではなく、弾性表面波が主体であるように、第2の媒質11を成膜する。
【0055】
この段階で、矢印で示すようにイオン注入を行い、領域5を形成し、周波数調整を行う。すなわち、弾性表面波装置である積層体12の段階で周波数調整をイオン注入により行う。このように、弾性表面波装置の段階で周波数調整を行ってもよい。
【0056】
次に、周波数調整後に、第2の媒質11上に、第3の媒質13を積層する。第3の媒質13は、第2の媒質11と同じ誘電体材料で形成されてもよく、異なる誘電体材料で形成されてもよい。
【0057】
ただし、第3の媒質13を積層することにより、IDT電極2に電圧を印加して励振される弾性波が弾性境界波となるように、第3の媒質13を積層する。すなわち、第2の媒質11と第3の媒質13との合計厚みが励振される弾性波が弾性境界波となるようにして、弾性境界波装置を得る。
【0058】
本実施形態では、弾性表面波装置である積層体12の段階で周波数調整が行われる。従って、本実施形態においても、IDT電極2は第1,第2の媒質間に埋め込まれているものの、外部からイオン注入を行うことにより、高精度に周波数調整を行うことができる。よって、本実施形態においても、最終的に目標とする周波数特性を有する弾性境界波装置を容易にかつ確実に得ることができる。
【0059】
また、本発明の作用は、打ち込んだ粒子による密度や歪みの変化により境界波のエネルギーが分布する領域における媒質の密度や弾性定数が変化することによる。したがって、本発明の効果は打ち込んだ粒子がイオンのみではなく、加速したイオンに対して、ニュートラライザなどを用いて電子を供給してイオンを中和して、原子としてから注入した場合でも同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0060】
1…第1の媒質
2…IDT電極
2a…Ti膜
2b…Pt膜
2c…TiO2膜
2d…AlCu膜
2e…TiO2膜
2f…Pt膜
2g…NiCr膜
3…SiO2膜
4…SiN膜
5…領域
11…第2の媒質
12…積層体
13…第3の媒質
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば共振子や帯域フィルタなどに用いられる弾性境界波装置の製造方法と弾性境界波装置に関し、より詳細には、周波数調整工程を備えた弾性境界波装置の製造方法および弾性境界波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、弾性表面波装置に代わり、弾性境界波装置が注目されている。弾性境界波装置では、弾性境界波が固体からなる第1,第2の媒質間の境界を伝搬する。従って、弾性境界波装置では、弾性表面波装置に比べて小型化を進めることができる。また、パッケージ構造の簡略化を果たすことができる。
【0003】
弾性境界波装置をフィルタや共振子として用いる場合、その周波数特性が高精度に設定される必要がある。しかしながら、弾性境界波装置ではIDT電極が、第1,第2の媒質間の境界に存在する。従って、弾性表面波装置とは異なり周波数調整が困難であった。
【0004】
下記の特許文献1には、弾性境界波装置の周波数調整方法の一例が開示されている。図12に示すように特許文献1では、第1の媒質101と第2の媒質102との境界にIDT電極103が配置されている。第2の媒質102は、媒質層102aと、媒質層102bとを有し、媒質層102a,102b間に改質用媒質層102cが配置されている。
【0005】
特許文献1では、第2の媒質102の外側から矢印で示すようにレーザー光を照射する。このレーザー光の照射により改質用媒質層102cが加熱され、改質用媒質層102cを構成している金属が第2の媒質102内に拡散される。この拡散により改質部を形成し、周波数調整を図ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2008/062639 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
弾性境界波装置においては、弾性境界波の伝搬エネルギーは、第1の媒質101と第2の媒質102との境界付近に集中する。従って、特許文献1に記載の周波数調整方法において、所望の周波数特性を得るには、媒質間の境界付近に高精度に改質部を形成する必要があった。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、改質用媒質層102c以外の媒質やIDT電極が拡散して劣化しないように、改質用媒質層102cの融点を低く抑えたり、拡散しやすい材料を改質用媒質層102cとして選択する必要があり、装置設計上の制約が大きいという問題があった。加えて、改質用媒質層102cを改質したり、改質用媒質層102cを構成する金属を周囲の媒質102a、102bに拡散させるために、改質用媒質層102cの融点付近で融解と凝固作用を生じさせる必要がある。しかし、この融解と凝固を生じさせるために、集光したレーザーで局所加熱を行うと、改質層の膜質や拡散状態が不均一となり、高精度に周波数を調整することが非常に困難であった。従って、所望とする周波数特性を有する弾性境界波装置を得ることが困難であった。
【0009】
本発明の目的は、所望の周波数特性を有する弾性境界波装置を容易にかつ確実に得ることを可能とする弾性境界波装置の製造方法並びに該弾性境界波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る弾性境界波装置の製造方法は、圧電体よりなる第1の媒質と、前記第1の媒質上に積層されており、誘電体よりなる第2の媒質と、前記第1の媒質と第2の媒質との界面に配置されたIDT電極とを備える積層体を用意する工程と、前記第2の媒質の外側からイオンや原子を注入し、周波数を調整する工程とを備える。
【0011】
本発明に係る弾性境界波装置の製造方法のある特定の局面では、弾性境界波の波長をλとしたときに、前記界面の上下1λ以内の領域に前記イオン注入によりイオンを分布させる。この場合には、弾性境界波の伝搬エネルギーが界面の上下1λ以内の領域に集中するため、弾性境界波装置の周波数特性をより一層高精度に調整することができる。
【0012】
本発明に係る弾性境界波装置の製造方法の他の特定の局面では、前記イオン注入に際し、Li以上の原子量を有する原子のイオンを注入する。この場合には、原子量が大きな原子のイオンを注入するため、注入されたイオンが抜け難い。従って、周波数特性が安定な弾性境界波装置を提供することができる。
【0013】
本発明に係る弾性境界波装置の製造方法のさらに他の特定の局面では、前記積層体を用意する工程において、前記第2の媒質の厚みを、IDT電極により励振される弾性波が弾性境界波ではなく、弾性表面波を主体とする厚みとなるように第2の媒質を形成する。さらに、前記イオン注入工程後に、第2の媒質上に、さらに第2の媒質と同じ誘電体材料または異なる誘電体材料からなる第3の媒質を、IDT電極に励振される弾性波が弾性境界波を主体とするように形成する。この場合には、第2の媒質の厚みが薄いため、小さなイオン注入エネルギーにより周波数調整を行うことができる。従って、安価な設備を用いて周波数調整を行うことができる。また、第2の媒質の厚みが薄いので、原子量の大きなイオンを容易に注入することができる。原子量の大きな原子のイオンを注入すると、周波数特性が大きく変化する。従って、周波数調整量に対し、イオンの注入量を減らすことができ、容易に周波数調整を行うことができる。
【0014】
本発明に係る弾性境界波装置は、圧電体よりなる第1の媒質と、前記第1の媒質上に積層されており、誘電体よりなる第2の媒質と、前記第1の媒質と前記第2の媒質との界面に配置されたIDT電極とを備え、前記第1の媒質および/または前記第2の媒質が、イオンもしくは原子注入領域を有する、弾性境界波装置である。
【0015】
本発明に係る弾性境界波装置のある特定の局面では、弾性境界波の波長をλとしたときに、前記界面の上下1λ以内の領域が前記イオンもしくは原子注入領域である。この場合には、弾性境界波装置の周波数特性をより一層高精度に調整することができる。
【0016】
本発明に係る弾性境界波装置のさらに他の特定の局面では、前記イオンが、Li以上の原子量を有する原子のイオンである。この場合には、注入されたイオンが抜け難いので、周波数特性が安定な弾性境界波装置を提供することができる。
【0017】
本発明に係る弾性境界波装置のさらに別の特定の局面では、前記第2の媒質の厚みが、IDT電極により励振される弾性波が弾性境界波ではなく弾性表面波を主体とする厚みとされており、前記第2の媒質上に積層されており、前記第2の媒質と同じ誘電体材料または異なる誘電体材料からなる第3の媒質をさらに備える。IDT電極により励振される弾性波が弾性境界波を主体とするように上記第3の媒質が形成されている。この場合には、第2の媒質の厚みが薄いため、イオン注入エネルギーが小さくてすむ。従って、安価な設備を用いて、周波数調整を行うことができるので、弾性境界波装置の製造コストを低減することができる。加えて、原子量の大きなイオンを注入することも容易である。そのため、周波数調整を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る弾性境界波装置の製造方法および弾性境界波装置によれば、IDT電極が第1,第2の媒質の界面に配置された積層体を得た段階で、イオン注入により周波数を調整することができる。従って、弾性境界波装置を完成させた後に、目標とする周波数特性を得るように周波数を容易に調整することができる。あるいは、IDT電極により励振される弾性波が弾性表面波を主体とする厚みとなるように第2の媒質を形成した後に、イオン注入により容易に周波数を調整することができる。
【0019】
また、上記イオン注入により周波数を調整するものであるため、第1,第2の媒質の界面付近にイオンを確実に分布させることができる。従って周波数調整を高精度に行うことができる。よって、本発明によれば、目標とする周波数特性を有する弾性境界波装置を容易にかつ確実に提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態における弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入により周波数を調整する工程を説明するための正面断面図であり、(b)は該弾性境界波装置の電極構造を説明するための部分拡大正面断面図である。
【図2】図2は、第1の実施形態の弾性境界波装置を伝搬する弾性境界波の振動変位分布を示す模式図である。
【図3】第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法におけるイオン注入量と、周波数変化量との関係を示す図である。
【図4】第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法におけるイオン注入量と、インピーダンス変化量との関係を示す図である。
【図5】(a)は、第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入を行う前、並びにイオン注入量が1×1015atom/cm2としてイオン注入を行った後のインピーダンス特性を示す図であり、(b)は第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入を行う前、並びにイオン注入量が1×1015atom/cm2としてイオン注入を行った後の位相特性を示す図である。
【図6】(a)は、第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入を行う前、並びにイオン注入量が3×1015atom/cm2としてイオン注入を行った後のインピーダンス特性を示す図であり、(b)は第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入を行う前、並びにイオン注入量が3×1015atom/cm2としてイオン注入を行った後の位相特性を示す図である。
【図7】(a)は、第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入を行う前、並びにイオン注入量が1×1016atom/cm2としてイオン注入を行った後のインピーダンス特性を示す図であり、(b)は第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入を行う前、並びにイオン注入量が1×1016atom/cm2としてイオン注入を行った後の位相特性を示す図である。
【図8】(a)は、第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入を行う前、並びにイオン注入量が5×1016atom/cm2としてイオン注入を行った後のインピーダンス特性を示す図であり、(b)は第1の実施形態の弾性境界波装置の製造方法において、イオン注入を行う前、並びにイオン注入量が5×1016atom/cm2としてイオン注入を行った後の位相特性を示す図である。
【図9】He+イオンを注入した場合のイオン注入量と周波数変化量との関係を示す図である。
【図10】B+イオンを注入した場合のイオン注入量と周波数変化量との関係を示す図である。
【図11】(a)及び(b)は、本発明の他の実施形態の弾性境界波装置の製造方法を示す各模式的正面断面図である。
【図12】従来の弾性境界波装置の周波数調整方法を説明するための模式的正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0022】
図1(a)及び(b)を参照して、本発明の一実施形態に係る弾性境界波装置の製造方法を説明する。まず、図1に示されている第1の媒質1を用意する。第1の媒質1としては、本実施形態では、25°YカットLiNbO3基板を用いる。もっとも、第1の媒質1は、他の圧電体により形成されていてもよい。このような圧電体としては、上記カット角以外のLiNbO3、あるいはLiTaO3、水晶、圧電セラミックスなどを挙げることができる。また、ガラス基板やSi基板、サファイア基板などの支持基板上に圧電膜を形成した圧電膜と支持基板の積層体を圧電体としてもよい。
【0023】
第1の媒質1上に、IDT電極2と、図示しない反射器を形成する。IDT電極2の形成方法は特に限定されず、蒸着またはスパッタリングなどの薄膜形成方法を用いることができる。本実施形態では、IDT電極2として、図1(b)に拡大して示す積層金属膜からなるIDT電極を形成する。この積層金属膜では、下から順に、Ti膜2a、Pt膜2b、TiO2膜2c、AlCu膜2d、TiO2膜2e、Pt膜2f及びNiCr膜2gの順序でこれらの金属膜が積層されている。各金属膜の膜厚は以下の通りとする。なお、AlCu膜はAlを主成分としてCuを含有させた合金である。
【0024】
NiCr/Pt/TiO2/AlCu/TiO2/Pt/Ti=10/22/20/225/20/36/10(単位はnm)。
【0025】
IDT電極と反射器を構成する電極指の周期は、2.01μmであり、この電極指周期が弾性境界波装置の応答周波数における弾性境界波の波長λに相当する。IDT電極の交差幅は28.7μmであり、IDT電極の電極指本数は227本、IDT電極の弾性境界波伝搬方向両側に配置された反射器の電極指本数はそれぞれ31本、IDT電極と反射器の電極指幅の波長に対する比は0.25である。
【0026】
上記IDT電極2を形成した後に、SiO2膜3を形成する。SiO2膜3の成膜は、スパッタリングなどの適宜の方法により行い得る。SiO2膜3の膜厚は1213nmである。
【0027】
次に、SiO2膜3上に、SiN膜4をスパッタリングにより成膜する。SiN膜4の膜厚は400nmである。
【0028】
上記SiO2膜3及びSiN膜4が、第2の媒質に相当する。
【0029】
なお、図1(a)では図示を省略しているが、IDT電極2に電気的に接続されるように、IDT電極2を形成する工程において、電極引き出しパッドを形成しておく。また、上記電極引き出しパッド上のSiO2膜3及びSiN膜4を除去するように、フォトリソグラフィ法によりSiO2膜3及びSiN膜4をパターニングする。
【0030】
このようにして得た積層体において、周波数特性を測定する。本実施形態では、IDT電極2の両側に反射器が構成されている1ポート型弾性境界波共振子が構成されている。従って、上記周波数特性として、共振特性、インピーダンス特性及び/またはインピーダンススミスチャートなどを測定する。しかる後、図1(a)の矢印で示すように、第2の媒質の外側から、具体的には上記SiN膜4の上方から日本真空技術性IMX−3500RS(中電流密度イオン注入機)を用い、金属イオンを注入する。本実施形態では、金属イオンとしてLiイオンを注入する。イオン注入では、イオンを第1の媒質1と、SiO2膜3及びSiN膜4からなる第2の媒質との界面付近に確実に分布させることができる。このようにして、図1(a)に示すように、イオンが注入された領域5を形成することができる。イオンが注入された領域5が形成されると、IDT電極2で励振された弾性境界波の伝搬挙動が変化し、周波数特性が変化する。
【0031】
上記のようにして、イオン注入により周波数特性を調整することができる。このイオン注入による具体的な周波数調整結果については、後程具体的な実験例に基づき説明する。
【0032】
本実施形態では、上記のように、上記積層体を得た後に、外部からイオン注入を行うだけで、弾性境界波装置の周波数調整を容易にかつ確実に行うことができる。
【0033】
なお、上記実施形態では、第2の媒質は、SiO2膜3及びSiN膜4により形成したが、1種類の誘電体により第2の媒質を構成してもよい。また、第2の媒質を構成する材料についてもSiO2やSiNに限らず、様々な誘電体を用いることができる。
【0034】
次に、具体的な実験例を説明する。
【0035】
図1(a)に示した上記積層体を用意した後、日本真空技術性IMX−3500RS(中電流密度イオン注入機)を用い、注入エネルギー200KeVでLi+イオンを第2の媒質の上面から注入し、周波数調整を図った。この場合、イオン注入量を1×1014atom/cm2〜1×1017atom/cm2の範囲で種々異ならせ、周波数調整を行った。結果を図3及び図4に示す。図3は、イオン注入量と周波数変化量との関係を示す。図3において、〇が共振周波数Frを×が反共振周波数Faを示す。
【0036】
図3から明らかなように、イオン注入量が増加するにつれて、共振周波数及び反共振周波数が低くなっていることがわかる。すなわち、イオン注入量と共振周波数及び反共振周波数との間に負の相関のあることがわかる。従って、イオン注入量を変化させることにより、周波数を目標周波数となるように容易に調整することができる。
【0037】
なお、図4は、上記イオン注入量とインピーダンス変化量との関係を示す。インピーダンス変化量とは反共振周波数のインピーダンスに対する共振周波数におけるインピーダンスに対する比の変化量を示す。図4から明らかなように、イオン注入を行っても、インピーダンス比はさほど変化していないことがわかる。
【0038】
上記イオン注入量を変化させた場合の具体的なインピーダンス特性及び位相特性の変化の例を、図5〜図8に具体的に示す。
【0039】
図5(a)、図6(a)、図7(a)及び図8(a)は、イオン注入前とイオン注入後のインピーダンス特性を示し、図5(b)、図6(b)、図7(b)及び図8(b)はイオン注入前とイオン注入後の位相特性をそれぞれ示す図である。図5〜図8において、実線がイオン注入後の特性を、破線がイオン注入前の特性を示す。
【0040】
また、イオン注入量は、以下の通りである。
【0041】
図5(a)及び(b)では、イオン注入量は1×1015atom/cm2、図6(a)及び(b)では、3×1015atom/cm2、図7(a)及び(b)では、1×1016atom/cm2、図8(a)及び(b)では、5×1016atom/cm2である。
【0042】
上記図5〜図8の結果は、前述した図3及び図4にまとめた結果に対応する。
【0043】
なお、図3及び図4のイオン注入量が1×1014atom/cm2とした場合のインピーダンス変化及び位相変化については変化量が少ないため、図示を省略した。
【0044】
上記実験例から明らかなように、イオン注入量を制御することにより、共振周波数や反共振周波数を高精度に調整し得ることがわかる。
【0045】
上記実施形態において、イオン注入により周波数を高精度に調整し得るのは、イオン注入によれば図1に示した領域5のように、第1,第2の媒質間の境界付近にイオンを分布させることができることによると考えられる。図2に示すように、上記弾性境界波装置の弾性波の振動変位分布より、第1の媒質と第2の媒質との境界付近に弾性波のエネルギーが集中する。図2の縦軸の深さ0.0は、第1の媒質と第2の媒質の境界を示し、マイナス方向が第1の媒質側であり、プラスの方向が第2の媒質側である。図2において、U1は伝搬方向の変位分布、U2は伝搬方向と垂直で境界に水平な方向の振動変位成分、U3は伝搬方向と境界に垂直な方向の振動変位成分であり、弾性境界波は多くの場合、U1、U2、U3の振動変位成分が結合しながら一つの伝搬モードとして伝搬する。図2から明らかなように、弾性境界波の波長λとしたときに、深さが0.0±1.0λの範囲に、弾性波のエネルギーが分布しており、0.0±0.7λの範囲にほとんどが集中して、深さ0.0、すなわち、第1の媒質と第2の媒質の境界に近づくに従い徐々にエネルギーが大きくなる。また、第2の媒質を構成するSiO2及びSiNのうち、より低音速なSiO2の内側で急峻に振動変位が増加する。従って、イオン注入により、上記境界の上下1λの部分にイオン分布させることにより、弾性波の伝搬挙動を変化させることができ、上下0.7λの範囲でより大きく弾性波の伝搬挙動を変化させることができる。すなわち、周波数を大きく変化させることができる。さらに、媒質2を高音速な膜と低音速な膜を積層して構成した場合、低音速な膜にエネルギーが多く分布することがわかる。従って、周波数をより大きく調整することができる。
【0046】
上記実施形態におけるLiイオンの分布をLSS理論(例えば、 非特許文献J. Lindhard et al. : Range concepts and heavy ion ranges. Mat. Fys. Medd. Dan. Vid. Selsk., Vol. 33, p.1−39, 1963)に基づき解析したところ、LiNbO3基板1とSiO2膜3の境界から770nm(λ=2.01μmなので0.38λ)離れたSiO2膜3の膜中の位置を中心にLiが分布していることが確かめられた。
【0047】
上記実験例でイオン注入により周波数特性が大きく変化したのは、弾性波のエネルギーが分布している第1の媒質と第2の媒質の境界付近の、0.38λの領域に、図1に示した領域5が形成されていることによると考えられる。さらに言えば、高音速なSiNと低音速なSiO2を積層して構成した第2の媒質のうち、境界に近いSiO2の内部に領域5が構成されたため、より大きな周波数変化が得られたと考えられる。
【0048】
なお、上記実施例において、イオン注入に用いたイオン注入機の制約により注入エネルギーは200keVに抑えたため、第2の媒質を構成するSiN膜の厚みを400nmとした。このため、SiN表面にわずかに振動エネルギーが分布している。そこで、上記実施例と同じ手順で、イオン注入したサンプルとイオン注入していないサンプルを作成し、イオン注入した後に、400nmのSiN膜の上にSiNを1600nm成膜して表面に振動エネルギーが分布していない完全な境界波を作成し、イオン注入したサンプルとイオン注入していないサンプルの周波数差を比較した。その結果、イオン注入により変化した周波数と同じ周波数変化を確認した。これらの検討により、イオン注入による周波数変化が、400nmのSiN膜表面のイオンミリングによる厚みの変化に起因するものではなく、イオン注入により境界付近にLiを分布させて媒質2の弾性定数を改変し、境界波の伝搬挙動を変化させたことに起因するものだと判断できる。
【0049】
よって、本発明においては、好ましくはイオン注入により、第1の媒質及び/または第2の媒質において、上記境界の上下1λの範囲内の領域にイオン注入を行えばよい。境界の上下0.7λから1λの領域にイオンを注入した場合、大きな周波数変化は得られない。しかしながら、イオン注入量に対して周波数かつゆるやかに変化することが予想される。従って、周波数の微調整に好適である。一方、周波数の製造バラツキが大きく、大きく周波数を変化させるように周波数調整を行う場合には、大半のエネルギーが分布する領域、すなわち境界の上下0.7λの範囲内の領域にイオンを注入することが好ましい。それによって、周波数を大きく変化させることができる。
【0050】
さらに、第1の媒質もしくは第2の媒質が積層構造であることも好ましい。それによって、急峻にエネルギーが増加する境界に近い媒質層の中にイオン注入を行うことにより、より大きく周波数を変化させることができる。従って、周波数の製造バラツキが大きい場合にも対応でき、望ましい。
【0051】
上記実験例と同様にして、ただし、注入するイオン種はHe+及びB+イオンとして周波数調整を試みた。結果を図9及び図10に示す。図9は、He+イオンを注入した場合のイオン注入量と周波数変化量との関係を示し、図10は、B+イオンを注入した場合のイオン注入量と周波数変化量との関係を示す。図9及び図10においても、図3と同様に、〇が共振周波数Frを、×が反共振周波数Faを示す。
【0052】
図9から明らかなように、He+イオンを注入した場合、周波数特性は変化するものの、注入量と周波数変化量とに相関はあまりみられない。これは、He+イオンの場合には、注入されたイオンが抜けやすいため、イオン注入の効果がばらつくためと考えられる。従って、好ましくは、Heよりも原子量の大きな原子のイオンすなわちLi及びLiよりも大きな原子量の原子のイオンを注入することが望ましい。もっとも、He+イオンを注入した場合においても、図9から明らかなように、共振周波数及び反共振周波数を変化させることはできる。従って、周波数特性を調整することができる。
【0053】
同様に、図10に示すように、B+イオンを注入した場合も、イオン注入量と、周波数変化量との間には、さほど変化は認められないが、周波数特性を調整することができる。Liに比べBは原子量が大きいためLiと同じ200keVで注入した場合でも、注入深さは浅くなり、第1の媒質と第2の媒質の境界から0.45λの位置(SiO2厚は0.6λなので、0.45λはSiO2の中となる)を中心として図1に示した領域5が形成されたため、周波数変化量が小さくなったのだと考察される。また、Bは原子量が大きいことから、注入されたイオンによる領域5の密度の変化は大きくなり、また、引き起こされる周囲の膜の歪みは大きくなるため、同量のイオンを、同じ深さに注入した場合はBの方がLiより変化量は大きくなる。
【0054】
図11(a),(b)は、本発明の他の実施形態に係る弾性境界波装置の製造方法を説明するための模式的正面断面図である。第2の実施形態では、図11(a)に示すように、まず、第1の媒質1、IDT電極2及び第2の媒質11をこの順序で積層してなる積層体12を用意する。第1の媒質1、IDT電極2及び第2の媒質11は、前述した実施形態と同様の材料で構成することができる。ただし、本実施形態では、第2の媒質11の厚みを、IDT電極2を励振した際に、励振される弾性波が弾性境界波ではなく、弾性表面波が主体であるように、第2の媒質11を成膜する。
【0055】
この段階で、矢印で示すようにイオン注入を行い、領域5を形成し、周波数調整を行う。すなわち、弾性表面波装置である積層体12の段階で周波数調整をイオン注入により行う。このように、弾性表面波装置の段階で周波数調整を行ってもよい。
【0056】
次に、周波数調整後に、第2の媒質11上に、第3の媒質13を積層する。第3の媒質13は、第2の媒質11と同じ誘電体材料で形成されてもよく、異なる誘電体材料で形成されてもよい。
【0057】
ただし、第3の媒質13を積層することにより、IDT電極2に電圧を印加して励振される弾性波が弾性境界波となるように、第3の媒質13を積層する。すなわち、第2の媒質11と第3の媒質13との合計厚みが励振される弾性波が弾性境界波となるようにして、弾性境界波装置を得る。
【0058】
本実施形態では、弾性表面波装置である積層体12の段階で周波数調整が行われる。従って、本実施形態においても、IDT電極2は第1,第2の媒質間に埋め込まれているものの、外部からイオン注入を行うことにより、高精度に周波数調整を行うことができる。よって、本実施形態においても、最終的に目標とする周波数特性を有する弾性境界波装置を容易にかつ確実に得ることができる。
【0059】
また、本発明の作用は、打ち込んだ粒子による密度や歪みの変化により境界波のエネルギーが分布する領域における媒質の密度や弾性定数が変化することによる。したがって、本発明の効果は打ち込んだ粒子がイオンのみではなく、加速したイオンに対して、ニュートラライザなどを用いて電子を供給してイオンを中和して、原子としてから注入した場合でも同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0060】
1…第1の媒質
2…IDT電極
2a…Ti膜
2b…Pt膜
2c…TiO2膜
2d…AlCu膜
2e…TiO2膜
2f…Pt膜
2g…NiCr膜
3…SiO2膜
4…SiN膜
5…領域
11…第2の媒質
12…積層体
13…第3の媒質
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体よりなる第1の媒質と、前記第1の媒質上に積層されており、誘電体よりなる第2の媒質と、前記第1の媒質と第2の媒質との界面に配置されたIDT電極とを備える積層体を用意する工程と、
前記第2の媒質の外側からイオンもしくは原子を注入し、周波数を調整する工程とを備える、弾性境界波装置の製造方法。
【請求項2】
弾性境界波の波長をλとしたときに、前記界面の上下1λ以内の領域に前記イオン注入によりイオンを分布させる、請求項1に記載の弾性境界波装置の製造方法。
【請求項3】
前記イオン注入に際し、Li以上の原子量を有する原子のイオンを注入する、請求項1または2に記載の弾性境界波装置の製造方法。
【請求項4】
前記積層体を用意する工程において、前記第2の媒質の厚みを、IDT電極により励振される弾性波が弾性境界波ではなく、弾性表面波を主体とする厚みとなるように第2の媒質を形成し、
前記イオン注入工程後に、第2の媒質上に、さらに第2の媒質と同じ誘電体材料または異なる誘電体材料からなる第3の媒質を、IDT電極に励振される弾性波が弾性境界波を主体とするように形成する工程をさらに備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性境界波装置の製造方法。
【請求項5】
圧電体よりなる第1の媒質と、
前記第1の媒質上に積層されており、誘電体よりなる第2の媒質と、
前記第1の媒質と前記第2の媒質との界面に配置されたIDT電極とを備え、
前記第1の媒質および/または前記第2の媒質が、イオンもしくは原子注入領域を有する、弾性境界波装置。
【請求項6】
弾性境界波の波長をλとしたときに、前記界面の上下1λ以内の領域が前記イオンもしくは原子注入領域である、請求項5に記載の弾性境界波装置。
【請求項7】
前記イオンが、Li以上の原子量を有する原子のイオンである、請求項5または請求項6に記載の弾性境界波装置。
【請求項8】
前記第2の媒質の厚みが、IDT電極により励振される弾性波が弾性境界波ではなく弾性表面波を主体とする厚みとされており、
前記第2の媒質上に積層されており、前記第2の媒質と同じ誘電体材料または異なる誘電体材料からなる第3の媒質をさらに備え、IDT電極により励振される弾性波が弾性境界波を主体とするように前記第3の媒質が形成されている、請求項5〜7のいずれか1項に記載の弾性境界波装置。
【請求項1】
圧電体よりなる第1の媒質と、前記第1の媒質上に積層されており、誘電体よりなる第2の媒質と、前記第1の媒質と第2の媒質との界面に配置されたIDT電極とを備える積層体を用意する工程と、
前記第2の媒質の外側からイオンもしくは原子を注入し、周波数を調整する工程とを備える、弾性境界波装置の製造方法。
【請求項2】
弾性境界波の波長をλとしたときに、前記界面の上下1λ以内の領域に前記イオン注入によりイオンを分布させる、請求項1に記載の弾性境界波装置の製造方法。
【請求項3】
前記イオン注入に際し、Li以上の原子量を有する原子のイオンを注入する、請求項1または2に記載の弾性境界波装置の製造方法。
【請求項4】
前記積層体を用意する工程において、前記第2の媒質の厚みを、IDT電極により励振される弾性波が弾性境界波ではなく、弾性表面波を主体とする厚みとなるように第2の媒質を形成し、
前記イオン注入工程後に、第2の媒質上に、さらに第2の媒質と同じ誘電体材料または異なる誘電体材料からなる第3の媒質を、IDT電極に励振される弾性波が弾性境界波を主体とするように形成する工程をさらに備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性境界波装置の製造方法。
【請求項5】
圧電体よりなる第1の媒質と、
前記第1の媒質上に積層されており、誘電体よりなる第2の媒質と、
前記第1の媒質と前記第2の媒質との界面に配置されたIDT電極とを備え、
前記第1の媒質および/または前記第2の媒質が、イオンもしくは原子注入領域を有する、弾性境界波装置。
【請求項6】
弾性境界波の波長をλとしたときに、前記界面の上下1λ以内の領域が前記イオンもしくは原子注入領域である、請求項5に記載の弾性境界波装置。
【請求項7】
前記イオンが、Li以上の原子量を有する原子のイオンである、請求項5または請求項6に記載の弾性境界波装置。
【請求項8】
前記第2の媒質の厚みが、IDT電極により励振される弾性波が弾性境界波ではなく弾性表面波を主体とする厚みとされており、
前記第2の媒質上に積層されており、前記第2の媒質と同じ誘電体材料または異なる誘電体材料からなる第3の媒質をさらに備え、IDT電極により励振される弾性波が弾性境界波を主体とするように前記第3の媒質が形成されている、請求項5〜7のいずれか1項に記載の弾性境界波装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−70355(P2012−70355A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116117(P2011−116117)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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