説明

弾性境界波装置

【課題】配線基板上に実装されている弾性境界波素子の周囲を被覆するように配線基板上に樹脂層が形成されている弾性境界波装置において、放熱性を向上する。
【解決手段】弾性境界波装置1は、弾性境界波素子10と、弾性境界波素子10が実装されている配線基板20と、樹脂層30と、配線基板20及び樹脂層30よりも高い熱伝導率を有する熱伝導体22とを備えている。弾性境界波素子10は、圧電基板11と、圧電基板11の上に形成されている誘電体層12と、圧電基板11と誘電体層12との間に形成されているIDT電極13aとを有する。樹脂層30は、弾性境界波素子10の周囲を被覆するように配線基板20上に形成されている。熱伝導体22は、平面視したときにIDT電極13aが設けられている領域Aの少なくとも一部において、配線基板20及び樹脂層30のうちの少なくとも一方の内部に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性境界波装置に関する。特には、本発明は、配線基板上に実装されている弾性境界波素子と、弾性境界波素子の周囲を被覆するように配線基板上に形成されている樹脂層とを備える弾性境界波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パッケージ等の必要がないため、小型化を図ることができる弾性境界波装置が、通信機器の共振子や帯域フィルタに用いられるようになってきている。例えば、下記の特許文献には、弾性境界波装置の例として、配線基板上に弾性境界波素子をフェースダウンでフリップチップ実装し、さらに、弾性境界波素子を樹脂によりモールドした弾性境界波装置が開示されている。このような弾性境界波装置では、弾性境界波が伝搬する部分に対する外乱の影響を小さくでき、且つ装置を小型化できるというメリットが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO 2007/055080 A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、弾性境界波装置は、IDT電極が形成されている部分において、弾性波の伝搬に伴って発熱する。このため、弾性境界波装置においては、IDT電極で発生する熱の放熱性を高めることが重要な課題のひとつとなっている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の弾性境界波装置では、放熱性を十分に高めることが困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、配線基板上に実装されている弾性境界波素子の周囲を被覆するように配線基板上に樹脂層が形成されている弾性境界波装置において、放熱性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る弾性境界波装置は、弾性境界波素子と、配線基板と、樹脂層とを備えている。弾性境界波素子は、圧電基板と、誘電体層と、IDT電極とを有する。誘電体層は、圧電基板の上に形成されている。IDT電極は、圧電基板と誘電体層との間に形成されている。配線基板には、弾性境界波素子が実装されている。樹脂層は、弾性境界波素子の周囲を被覆するように配線基板上に形成されている。本発明に係る弾性境界波装置は、熱伝導体をさらに備える。熱伝導体は、平面視したときにIDT電極が設けられている領域の少なくとも一部において、配線基板及び樹脂層のうちの少なくとも一方の内部に設けられている。熱伝導体は、配線基板及び樹脂層よりも高い熱伝導率を有する。
【0008】
本発明に係る弾性境界波装置のある特定の局面では、熱伝導体の少なくとも一部は、樹脂層内に設けられている。この構成によれば、IDT電極において発生した熱の放熱経路において、熱伝導率が低い樹脂層が占める割合を少なくすることができる。従って、より高い放熱性を実現することができる。
【0009】
本発明に係る弾性境界波装置の他の特定の局面では、熱伝導体の厚みは、配線基板の厚みの1%〜20%の範囲内にある。熱伝導体の厚みが薄すぎると、十分な放熱性が得られない場合がある。一方、熱伝導体の厚みが厚すぎると、配線基板の表面形状が劣化して、弾性境界波装置のばらつきが大きくなる場合がある。
【0010】
本発明に係る弾性境界波装置の別の特定の局面では、熱伝導体は、Cu、Ag、Au,Al,Pt,Fe,Si,Pd,Ni,Ti及びWからなる群から選ばれた金属、Cu、Ag、Au,Al,Pt,Fe,Si,Pd,Ni,Ti及びWからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属を含む合金、またはダイヤモンドからなる。この構成によれば、さらに高い放熱性を実現することができる。
【0011】
本発明に係る弾性境界波装置のさらに他の特定の局面では、誘電体層は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化珪素、ダイヤモンドライクカーボン、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化アルミニウムまたは酸化タンタルからなる。誘電体層を、これらの高い熱伝導率を有する材料で形成することにより、より高い放熱性を実現することができる。
【0012】
本発明に係る弾性境界波装置のさらに別の特定の局面では、弾性境界波素子は、誘電体層の上に形成されている別の誘電体層をさらに有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、平面視したときにIDT電極が設けられている領域の少なくとも一部において、配線基板及び樹脂層のうちの少なくとも一方の内部に、配線基板及び樹脂層よりも高い熱伝導率を有する熱伝導体が設けられている。このため、IDT電極からの放熱経路のうち、最も短い放熱経路の熱伝導性を高めることができる。従って、高い放熱性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態に係る弾性境界波装置の略図的断面図である。
【図2】第2の実施形態に係る弾性境界波装置の略図的断面図である。
【図3】第3の実施形態に係る弾性境界波装置の略図的断面図である。
【図4】第4の実施形態に係る弾性境界波装置の略図的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施した好ましい形態について、図1〜図4に示す弾性境界波装置1〜4を例に挙げて説明する。但し、弾性境界波装置1〜4は、単なる例示である。本発明は、弾性境界波装置1〜4に何ら限定されない。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る弾性境界波装置の略図的断面図である。図1に示すように、弾性境界波装置1は、弾性境界波素子10を備えている。弾性境界波素子10は、圧電基板11を有する。圧電基板11は、特に限定されない。圧電基板11は、例えば、LiNbO、LiTaO、水晶、ZnO、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系セラミック等からなるものであってもよい。
【0017】
圧電基板11の上には、誘電体層12が設けられている。誘電体層12は、例えば、SiOなどの酸化ケイ素、SiNなどの窒化ケイ素、SiONなどの酸化窒化ケイ素、ダイヤモンドライクカーボン、TiOなどの酸化チタン、Alなどの酸化アルミニウム、SiCなどの炭化ケイ素、AlNなどの窒化アルミニウム、Taなどの酸化タンタルなどからなるものであってもよい。
【0018】
圧電基板11と誘電体層12との間には、弾性波を発生させるIDT電極13aと、IDT電極13aに接続されている電極パッド13bとが形成されている。なお、IDT電極13aと、電極パッド13bとの材質は、特に限定されない。IDT電極13aと、電極パッド13bとは、例えば、Al,Pt,Au,Ag,Cu,Ti,Ni,Cr,Pd,Ni,Wなどの金属や、これらの金属の内の一種以上を含む合金により形成することができる。また、IDT電極13aと、電極パッド13bとは、複数の金属膜や合金膜の積層体により構成されていてもよい。
【0019】
弾性境界波素子10は、配線基板20に、フェースダウンで、フリップチップ実装されている。配線基板20は、例えばエポキシ樹脂などからなる単層または複層の樹脂基板により構成されている。配線基板20の表面や内部には、例えば、Al,Pt,Au,Ag,Cu,Ti,Ni,Cr,Pd,Ni,Wなどの金属や、これらの金属の内の一種以上を含む合金などからなる配線電極が形成されている。この配線電極には、上記弾性境界波素子10の電極パッド13bが、アンダーバンプメタル14及びバンプ21により接続されている。
【0020】
なお、アンダーバンプメタル14及びバンプ21の材質は特に限定されない。アンダーバンプメタル14は、例えば、Ni,Auなどの金属や、それらの金属のひとつ以上を含む合金により形成することができる。また、バンプ21は、Sn−Ag−Cu合金などの半田等により形成することができる。
【0021】
なお、本実施形態では、弾性境界波素子10がフリップチップ実装されている例について説明するが、本発明は、この構成に限定されない。弾性境界波素子10は、例えば、ワイヤーボンディングなどによって配線基板20と接続されていてもよい。
【0022】
配線基板20上には、モールド樹脂層30が形成されている。弾性境界波素子10の周囲は、このモールド樹脂層30によって被覆されている。このため、弾性境界波素子10と配線基板20との間には、空気層は、実質的には介在していない。なお、モールド樹脂層30の材質は、特に限定されない。モールド樹脂層30は、例えばエポキシ系樹脂などにより形成することができる。
【0023】
本実施形態の弾性境界波装置1には、さらに、配線電極とは別に、熱伝導体22が設けられている。熱伝導体22は、弾性境界波装置1を平面視したときに、IDT電極13aが設けられている領域Aの少なくとも一部において、配線基板20及びモールド樹脂層30のうちの少なくとも一方の内部に設けられている。そして、熱伝導体22は、配線基板20及びモールド樹脂層30よりも高い熱伝導率を有している。このため、本実施形態においては、IDT電極13aからの放熱経路のうち、最も短い放熱経路である領域Aにおける熱伝導率が高められている。従って、IDT電極13aにおいて生じた熱を効率的に放熱することができる。
【0024】
特に、本実施形態では、熱伝導体22は、熱伝導率のモールド樹脂層30の内部に設けられている。このため、領域Aにおける熱伝導率がより効率的に高められている。従って、より高い放熱性を実現することができる。もっとも、本発明において、熱伝導体の配置場所は、モールド樹脂層30の内部に限定されない。熱伝導体は、例えば、配線基板20の表面や内部であってもよい。
【0025】
なお、本実施形態では、熱伝導体は、配線電極に接続されていないが、接続されていてもよい。熱伝導体が配線電極に接続されている場合は、弾性境界波装置の放熱性をより高めることができる。
【0026】
また、本実施形態では、熱伝導体22の厚みtは、配線基板20の厚みtの1%〜20%の範囲とされている。このため、さらに高い放熱性を実現することができる。より好ましくは、熱伝導体22の厚みtは、配線基板20の厚みtの5%〜20%である。なお、熱伝導体22の厚みtの配線基板20の厚みtに対する比(t/t)が小さすぎると、十分な放熱性が得られない場合がある。一方、比(t/t)が大きすぎると、配線基板の表面形状が劣化して、弾性境界波装置のばらつきが大きくなる場合がある。
【0027】
熱伝導体22の材質は、導電性の高い材質である限りにおいて特に限定されない。熱伝導体22は、例えば、Cu、Ag、Au,Al,Pt,Fe,Si,Pd,Ni,Ti及びWからなる群から選ばれた金属、Cu、Ag、Au,Al,Pt,Fe,Si,Pd,Ni,Ti及びWからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属を含む合金、またはダイヤモンドからなるものであることが好ましい。
【0028】
また、より高い放熱性を得る観点から、誘電体層12も熱伝導率が高い誘電体からなるものであることが好ましい。従って、誘電体層12は、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化珪素、ダイヤモンドライクカーボン、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化アルミニウムまたは酸化タンタルからなるものであることが好ましい。
【0029】
以下、本発明を実施した好ましい形態の他の例について説明する。以下の説明において、上記第1の実施形態と実質的に共通の符号で参照し、説明を省略する。
【0030】
(第2の実施形態)
図2は、第2の実施形態に係る弾性境界波装置2の略図的断面図である。
【0031】
上記第1の実施形態では、熱伝導体22が、モールド樹脂層30の弾性境界波素子10と配線基板20との間に位置する部分に設けられている場合について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。例えば、図2に示すように、モールド樹脂層30の弾性境界波素子10の上に位置する部分に設けてもよい。その場合、IDT電極13aの熱は、上方に放熱しやすくなる。
【0032】
また、この場合、たとえば、導電材料からなる熱伝導体22と、配線基板20内に形成されている配線電極との間の干渉を抑制することができる。従って、所望の周波数特性が得やすいという利点がある。
【0033】
(第3の実施形態)
図3は、第3の実施形態に係る弾性境界波装置3の略図的断面図である。
【0034】
上記第1及び第2の実施形態では、モールド樹脂層30の弾性境界波素子10の上に位置する部分と、下に位置する部分とのうちの一方にのみ熱伝導体22を設ける例について説明した。但し、本発明はこの構成に限定されない。例えば、図3に示すように、モールド樹脂層30の弾性境界波素子10の上に位置する部分と、下に位置する部分との両方に、熱伝導体22a、22bを設けてもよい。この場合、IDT電極13aの熱の上方への放熱性と下方への放熱性との両方を高めることができる。従って、より高い放熱性を得ることができる。
【0035】
(第4の実施形態)
図4は、第4の実施形態に係る弾性境界波装置4の略図的断面図である。
【0036】
上記第1〜第3の実施形態では、弾性境界波素子10が、ひとつの誘電体層12のみが設けられている所謂2媒質型の弾性境界波素子である例について説明した。但し、本発明において、弾性境界波素子10は、2媒質型の弾性境界波素子である必要は必ずしもない。例えば、図4に示すように、弾性境界波素子10は、誘電体層12の上に、さらなる誘電体層15を有する所謂3媒質型の弾性境界波素子であってもよい。
【0037】
なお、この場合は、誘電体層15は、誘電体層12よりも速い音速を有する材料により形成されていることが好ましい。
【符号の説明】
【0038】
1〜4…弾性境界波装置
10…弾性境界波素子
11…圧電基板
12…誘電体層
13a…IDT電極
13b…電極パッド
14…アンダーバンプメタル
15…誘電体層
20…配線基板
21…バンプ
22、22a、22b…熱伝導体
30…モールド樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、前記圧電基板の上に形成された誘電体層と、前記圧電基板と前記誘電体層との間に形成されているIDT電極とを有する弾性境界波素子と、
前記弾性境界波素子が実装されている配線基板と、
前記弾性境界波素子の周囲を被覆するように前記配線基板上に形成されている樹脂層とを備える弾性境界波装置であって、
平面視したときに前記IDT電極が設けられている領域の少なくとも一部において、前記配線基板及び前記樹脂層のうちの少なくとも一方の内部に設けられており、前記配線基板及び前記樹脂層よりも高い熱伝導率を有する熱伝導体をさらに備える、弾性境界波装置。
【請求項2】
前記熱伝導体の少なくとも一部は、前記樹脂層内に設けられている、請求項1に記載の弾性境界波装置。
【請求項3】
前記熱伝導体の厚みは、前記配線基板の厚みの1%〜20%の範囲内にある、請求項1または2に記載の弾性境界波装置。
【請求項4】
前記熱伝導体は、Cu、Ag、Au,Al,Pt,Fe,Si,Pd,Ni,Ti及びWからなる群から選ばれた金属、Cu、Ag、Au,Al,Pt,Fe,Si,Pd,Ni,Ti及びWからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属を含む合金、またはダイヤモンドからなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の弾性境界波装置。
【請求項5】
前記誘電体層は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化珪素、ダイヤモンドライクカーボン、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化アルミニウムまたは酸化タンタルからなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の弾性境界波装置。
【請求項6】
前記弾性境界波素子は、前記誘電体層の上に形成されている別の誘電体層をさらに有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の弾性境界波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−151638(P2011−151638A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11756(P2010−11756)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】