説明

弾性波デバイスおよびその製造方法

【課題】弾性波デバイスの周波数の温度依存性を抑制することおよび弾性波デバイスにおけるTCFの製造バラツキを抑制すること。
【解決手段】酸化シリコン膜を成膜する第1の成膜工程(S10)と、前記酸化シリコン膜のSi−O結合の伸縮振動に関する数値を測定する測定工程(S12)と、前記数値が、目標範囲内の場合、基板上に前記第1の成膜工程で用いた条件を用い酸化シリコン膜を成膜する第2の成膜工程(S18)と、を含む弾性波デバイスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイスおよびその製造方法に関し、例えば、酸化シリコン膜を備える弾性波デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性波デバイスは、例えば無線機器等のフィルタとして用いられている。弾性波デバイスにおいては、フィルタの通過帯域や共振器の共振周波数等の周波数の温度係数(TCF)の絶対値を小さくすることが求められている。弾性表面波デバイスにおいて、LiTaO(LT)またはLiNbO(LN)等の圧電基板の温度係数と逆の温度係数を有する酸化シリコン膜を圧電基板上に形成することで、TCFの絶対値を小さくできることが知られている(例えば、非特許文献1および非特許文献2)。酸化シリコン膜の膜質をFTIR(フーリエ変換赤外分光)法を用いた測定結果により、酸化シリコン膜内の水酸基または水分子がTCF悪化の原因となっていることが知られている(例えば、非特許文献1および非特許文献2)。また、LN基板上にスパッタ法を用い酸化シリコン膜を形成しTCFを改善する方法が検討されている(例えば、非特許文献3)。スパッタ法を用い成膜された酸化シリコン膜は化学量論的な組成の膜であり、不純物が少ないことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「CVD法SiO2膜を用いた弾性表面波基板」、信学技法US79−16
【非特許文献2】「プラズマCVD法SiO2膜を用いた層状構造弾性表面波基板」、信学技法US80−3
【非特許文献3】“MATERIAL PARAMETERS OF RF MAGNETRON SPUTTERED SiO2 THIN FILMS FOR TEMPERATURE STABLE SiO2/LiNbO3 SAW DEVICES” IEEE Ultrasonics symposium 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のように、酸化シリコン膜の水酸基または水分子等の不純物を少なくすることにより、周波数の温度依存性を改善することができると考えられている。さらに、周波数の温度依存性を抑制することが求められている。
【0005】
本弾性波デバイスおよびその製造方法は、弾性波デバイスの周波数の温度依存性を改善することおよび弾性波デバイスにおけるTCFの製造バラツキを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
例えば、酸化シリコン膜を成膜する第1の成膜工程と、前記酸化シリコン膜のSi−O結合の伸縮振動に関する数値を測定する測定工程と、前記数値が、目標範囲内の場合、基板上に前記第1の成膜工程で用いた条件を用い酸化シリコン膜を成膜する第2の成膜工程と、を含む弾性波デバイスの製造方法を用いる。
【0007】
また、例えば、LN基板またはLT基板である圧電基板と、前記圧電基板上に形成された櫛型電極と、前記圧電基板と前記櫛型電極上に形成された酸化シリコン膜を具備する弾性波デバイスを用いる。酸化シリコン膜は、Si−O結合の伸縮振動のピーク波数が1072cm−1以上、または、Si−O結合の伸縮振動の横波光学モードのピーク波数が1063cm−1以上、または、Si−O結合の伸縮振動の横波光学モードの半値幅が92cm−1以下である。
【発明の効果】
【0008】
本弾性波デバイスおよびその製造方法によれば、弾性波デバイスの周波数の温度依存性を改善するとともに、弾性波デバイスにおけるTCFの製造バラツキを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、酸化シリコン膜のFTIRの測定結果である。
【図2】図2(a)および図2(b)は、TCFを測定するために作製した共振器の例を示す図である。
【図3】図3は、Si−O結合の伸縮振動のFTIR測定結果の例を示す図である。
【図4】図4(a)および図4(b)は、ピーク波数に対するTCFを示した図である。
【図5】図5は、半値幅に対するTCFを示した図である。
【図6】図6は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示すフローチャートである
【図7】図7(a)から図7(c)は、弾性波デバイスの製造工程を示す断面図である。
【図8】図8は、酸化シリコン膜の膜厚Hを弾性波の波長λで規格化した膜厚H/λに対する挿入損失を示す図である。
【図9】図9は、酸化シリコン膜の成膜温度に対する挿入損失を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、発明者が行った実験について説明する。LN基板上にCVD(Chemical Vapor Deposition)法とスパッタ法とのいずれかの方法を用い同じ膜厚の酸化シリコン膜を形成し、FTIR法を用いた酸化シリコン膜内の水酸基および水分子の量を測定した。
【0011】
図1は、酸化シリコン膜のFTIRの測定結果である。CVD法を用い成膜した酸化シリコン膜の結果を黒線で、スパッタ法を用い成膜した酸化シリコン膜の結果をグレー線で示している。水酸基による吸収は波数が3678cm−1付近であり、水分子による吸収は波数が2500〜3500cm−1である、図1より、CVD法を用い成膜した酸化シリコン膜に比べ、スパッタ法を用い成膜した酸化シリコン膜内の水酸基および水分子濃度が低いことがわかる。
【0012】
次に、LN基板上に形成された櫛型電極上に、酸化シリコン膜を形成した。酸化シリコン膜は、図1の実験を行った酸化シリコン膜と同じ条件で成膜した。また、CVD法とスパッタ法とで同じ膜厚の酸化シリコン膜を成膜した。このようにして共振器を作製した、共振周波数のTCFを測定したところ、CVD法で成膜した酸化シリコン膜を用いた共振器は、スパッタ法で成膜した酸化シリコン膜を用いた共振器にくらべTCFの値が約10ppm/℃改善された。
【0013】
この結果は、非特許文献1〜3における、酸化シリコン膜の水酸基または水分子等の不純物を少なくすることにより、周波数の温度依存性を改善することができるという考えと矛盾する。このように、TCFの改善は、非特許文献1〜3の方法だけでは不十分であることがわかった。
【0014】
そこで、TCFと相関のある指標を調査した。図2(a)および図2(b)は、TCFを測定するために作製した共振器の例を示す図である。図2(a)は上面図、図2(b)は、図2(a)のA−A断面図である。図2(a)のように、反射器13の間に櫛型電極12が設けられている。図2(b)のように、LN基板からなる圧電基板10上に櫛型電極12および反射器13が形成されている。櫛型電極12および反射器13は、Cu(銅)を主成分とする。櫛型電極12および反射器13を被うように、圧電基板10および櫛型電極12および反射器13上に酸化シリコン膜16が設けられている。酸化シリコン膜16の膜厚は0.3λとした。λは弾性波の波長であり、櫛型電極12の電極指の周期に相当する。TCFを抑制するためには、酸化シリコン膜16の膜厚は、櫛型電極12の膜厚より厚いことが好ましい。例えば、電極指間の酸化シリコン膜16の膜厚は櫛型電極12の膜厚より厚いことが好ましい。
【0015】
酸化シリコン膜16はCVD法を用い様々な成膜条件を用い成膜された。成膜条件として、圧力、原料ガス、原料ガスの流量および高周波出力(プラズマを生成するための高周波電力)を変えた。様々な成膜条件を用い成膜し作製した共振器について、反共振周波数の温度係数を測定した。一方、共振器の酸化シリコン膜16の成膜条件と同じ成膜条件で成膜した酸化シリコン膜をFTIR法を用い測定した。FTIR法は、物質に赤外光を照射し、分子の振動エネルギーに対応したエネルギーを有する赤外光の吸収量から物質の組成等を調べる測定方法である。ここで、SiO内のSi−O結合の伸縮振動の吸収波形に注目した。
【0016】
図3は、Si−O結合の伸縮振動のFTIR測定結果の例を示す図である。波数に対し任意座標の吸収量を示している。吸収量が最大になるピーク波数を測定した。吸収量が最大になるピーク波数をピーク波数(吸収量最大波数)で表している。伸縮振動の吸収には横波光学(TO)モードと縦波光学(LO)モードとがある。そこで、図3のように、伸縮振動の吸収をTOモードとLOモードとに分離した。分離されたTOモードの波形のピーク波数と半値幅とを測定した。TOモードの波形のピーク波数をピーク波数(TOモードピーク)で表している。
【0017】
図4(a)は、ピーク波数(吸収量最大波数)に対する共振器の反共振周波数のTCFを示した図である。黒丸は各種成膜条件における測定結果である。図4(a)の実線は、ピーク波数に対するTCFが三角関数となると仮定した線である。ピーク波数が大きくなるとTCFは改善され、0に近づく。特に、ピーク波数(吸収量最大波数)が1072cm−1以上ではTCFは−7ppm/℃以上となる。また、ピーク波数(吸収量最大波数)が1076cm−1以上で変化してもTCFはほとんど変化しなくなる。さらに、ピーク波数は1074cm−1以上ではTCFは−5ppm/℃以上となり、TCFはほとんど波数に依存しなくなる。以上のように、ピーク波数が1072cm−1以上ではTCFが安定したデバイスを作製することが可能となる。一方、1064cm−1〜1068cm−1近辺ではピーク波数が数cm−1動くと、10ppm/℃ほどTCFが変化するため、デバイスの製造バラツキが大きくなってしまう。なお、ピーク波数(吸収量最大波数)は、基準となる熱酸化膜SiO膜のピーク波数の値である1090cm−1以下が好ましい。
【0018】
図4(b)は、横波光学(TO)モードのピーク波数に対する共振器の反共振周波数のTCFを示した図である。黒丸は各種成膜条件における測定結果である。図4(b)の実線は、ピーク波数に対するTCFが三角関数となると仮定した線である。ピーク波数(TOモードピーク)が大きくなるとTCFは改善され、0に近づく。特に、ピーク波数(TOモードピーク)が1063cm−1以上ではTCFは−7ppm/℃以上となる。また、ピーク波数(TOモードピーク)が変化してもTCFはほとんど変化しなくなる。さらに、ピーク波数は1064cm−1以上ではTCFは−5ppm/℃以上となり、TCFはほとんど波数に依存しなくなる。なお、横波光学モードのピーク波数は、基準となる熱酸化膜SiO膜の値1082cm−1以下が好ましい。
【0019】
図5は、横波光学モードの半値幅に対する共振器の反共振周波数のTCFを示した図である。黒丸は各種成膜条件における測定結果である。図5の実線は測定結果の近似線である。図5のように、半値幅が小さくなるとTCFが改善され、半値幅が92cm−1で半値幅とTCFとの傾きが変化する。半値幅が92cm−1以下の場合、TCFは−6ppm/℃以下である。また、半値幅が変化してもTCFの変化は小さい。さらに、半値幅は90cm−1以下が好ましく、88cm−1以下がより好ましい。なお、半値幅は、基準となる熱酸化膜SiO膜の値75cm−1以上が好ましい。
【0020】
図4および図5は共振器の反共振周波数のTCFについて記載したが、共振器の共振周波数のTCFまたは共振器を用いフィルタの周波数特性のTCFについても、図4および図5と同様の結果を得ることができる。
【0021】
以上のように、Si−O結合の伸縮振動の横波光学(TO)モードがTCFと関連している理由を説明する。Central-force networkモデル(J. Vac. Sci. Technol. Vol. B5, pp530-537 (1987)参照)によれば、Si−O結合伸縮振動のTOモードのピーク波数はSi−O結合角度に次式のように依存していることが知られている。
=(f/mo)・[sin(θ/2)] (数式1)
ここで、kはピーク波数、fはSiとOとの間の原子間力、moは酸素の原子量、θはSi−O−Siの結合角度である。このように、ピーク波数がSinθの関数で表されるため、ピーク波数が一定値(1072cm−1)以上でTCFが安定したものと考えられる。
【0022】
また、Lorentz-Lorenz 関係から、誘電率と密度と分子分極率との関係は次式で表される。
(e−1)/(e+2)=4π・ρ・C (数式2)
ここで、eは酸化シリコン膜の誘電率、ρは酸化シリコン膜の密度、Cは分子分極率である。酸化シリコン膜の密度、誘電率および分子分極率はSi−O−Si結合角度θと相関性がある。このため、数式1と数式2とから、ピーク波数と、誘電率、密度および分子分極率とが関係付けられる。
【0023】
TCFは、室温(25℃)における弾性波の速度を用い以下のように表される。
TCF=1/v・(δv/δT)−α (数式3)
ここで、v(m・s)は弾性波の伝搬速度、(δv/δT)は伝搬速度vの温度Tに対する変化率、α(1/℃)は線熱膨張係数である。
【0024】
文献”Temperature-compensated surface-acoustic-wave devices with SiO2 film overlays” J.Appl.Phys Vol. 50, No. 3, pp1360-1369 (1979)によれば、(δv/δT)は、基板(または酸化シリコン膜)の物質定数(つまり、密度、誘電率およびヤング率等)の温度係数から求められる。このように、数式3から、酸化シリコン膜の密度、誘電率およびヤング率等の物質定数とTCFが関係付けられる。
【0025】
以上のように、数式1から3により、Si−O結合の伸縮振動のピーク波数、伸縮振動横波光学モードのピーク波数はTCFに関係しているものと考えられる。以下に、TCFがSi−O結合の収縮振動の横波光学モードと関係していることを用いた実施例について説明する。
【実施例1】
【0026】
実施例1は、弾性波デバイスの製造方法の例である。図6は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示すフローチャートである。図6を参照し、まず、酸化シリコン膜を成膜する(ステップS10)。この成膜の際の成膜条件は、温度、圧力、原料ガス、原料ガスの流量、高周波出力の値をセットにしてデータベースに記録してある。この成膜条件のセットは複数、データベースに記録してある。例えばSi−O結合の伸縮振動のピーク波数が高い成膜ができた順に、成膜条件のセットそれぞれに優先順位がつけられている。そして、優先順位の高い成膜条件のセットから順に、データベースから読み出して成膜装置へ設定して成膜する。なお、製造工程の途中で成膜条件を変更する場合は、製造している成膜条件のセットに類似する順に、成膜条件のセットをデータベースから読み出して成膜装置に設定してもよい。次に、成膜装置で酸化シリコン膜を成膜した基板を、FTIR法を用い、酸化シリコン膜のSi−O結合の伸縮振動に関する数値を測定する(ステップS12)。例えば、TOモードのピーク波数および半値幅の少なくとも一方を測定する。測定した数値が目標の範囲内かを判断する(ステップS14)。Noの場合、成膜条件を変更する(ステップS16)。その後、ステップS10に戻る。ステップS14においてYesの場合、ステップS10で用いた成膜条件のセットを成膜装置に設定して弾性波デバイスの製造工程に用いる(ステップS18)。
【0027】
図7(a)から図7(c)は、弾性波デバイスの製造工程を示す断面図である。図7(a)のように、圧電基板10を準備する。図7(b)のように、圧電基板10上に、金属からなる反射器13および櫛型電極12を形成する。図7(c)のように、圧電基板10上に、反射器13および櫛型電極12を被うように酸化シリコン膜16を成膜する。図6のステップS18においては、図7(c)の酸化シリコン膜の成膜に、ステップS10で用いた成膜条件を用いる。
【0028】
実施例1によれば、図6のステップS14およびS18のように、ステップS10で成膜した酸化シリコン膜のSi−O結合の伸縮振動に関する数値が、目標範囲内の場合、基板上にステップS10で用いた成膜条件を用い酸化シリコン膜を形成する。これにより、弾性波デバイスのTCFを制御することができる。
【0029】
ステップS12において測定する数値は、酸化シリコン膜のSi−O結合の伸縮振動に関係していればよい。図4および図5のように、前記Si−O結合の伸縮振動に関する数値は、Si−O結合の伸縮振動のピーク波数(例えば、吸収量最大波数)と、Si−O結合の伸縮振動の横波光学モードのピーク波数と、Si−O結合の伸縮振動の横波光学モードの半値幅と、のうち少なくとも一つであることが好ましい。これにより、Si−O結合角度θに関係した数値で酸化シリコン膜の膜質を測定することができる。
【0030】
なお、酸化シリコン膜のSi−O結合伸縮振動に関係する数値の測定は、FTIR法以外にも、例えばラマン分光法等を用いることもできる。
【0031】
弾性波デバイスとしては、弾性表面波デバイス、弾性境界波デバイスまたはバルク弾性波デバイス(例えば圧電薄膜共振器を用いたデバイス)を用いることができる。また、弾性波デバイスとしては、共振器を用いたラダー型フィルタまたは多重モードフィルタとすることができる。これらのデバイスにおいても、酸化シリコン膜のSi−O結合の伸縮振動の横波光学モードに関する数値を制御することによりTCFを制御することができる。
【0032】
特に、正のTCFを有するLT、LN、水晶、ZnO(酸化亜鉛)、KNbOおよびLBO等を圧電基板として用いた場合、圧電基板上に酸化シリコン膜を形成することにより、TCFを補償することができる。
【0033】
さらに、櫛型電極はAl、Au、Cu、Ag、W、Ta、Pt、Mo、Ni、Co、Cr、Fe、Mn、Tiを主に含むことができる。
【0034】
圧電基板10としてLN基板を用いた場合、図6のステップS14の目標の範囲は、図4(a)のように、Si−O結合の伸縮振動のピーク波数が1072cm−1以上の範囲とすることができる。また、図4(b)のように、Si−O結合の伸縮振動の横波光学モードのピーク波数が1063cm−1以上の範囲とすることができる。さらに、図5のように、半値幅が92cm−1以下の範囲とすることができる。これにより、弾性波デバイスにおけるTCFを改善し、製造バラツキを抑制することができる。なお、LT基板はLN基板と同様のTCFを有するため、図4(a)、図4(b)および図5の結果はLT基板を用いた場合に適用することもできる。
【実施例2】
【0035】
実施例2においては、圧電基板10を0回転YカットLN基板とし、酸化シリコン膜をCVD法を用い形成した。酸化シリコン膜の成膜条件は、原料ガスがSiHとNO、SiHとNOとの流量比が1:50、成膜温度が270℃である。このときのピーク波数(吸収量最大波数)は1072cm−1であった。また、半値幅は92cm−1であった。その他の弾性波デバイスの製造方法は、図7(a)から図7(c)と同じである。作製した弾性波デバイスは、ラダー型フィルタである。
【0036】
図8は、酸化シリコン膜16の膜厚Hを弾性波の波長λで規格化した膜厚H/λに対する挿入損失を示す図である。黒丸は実施例2のフィルタの挿入損失を示している。実施例2では、酸化シリコン膜16の膜厚を0.2λ、0.3λおよび0.4λとした。黒四角は比較例として、非特許文献2の図8に記載されているフィルタの挿入損失の結果を示している。なお、比較例と実施例2との挿入損失の絶対値は、フィルタ構造が異なるため単純には比較できない。比較例では酸化シリコン膜の膜厚が0.2λを越えると挿入損失が大きくなる。非特許文献1においても酸化シリコン膜の膜厚が0.2λを越えると、挿入損失が劣化することが記載されている。これに対し、実施例2では、酸化シリコン膜16の膜厚が0.2λ〜0.4λで良好である。
【0037】
以上のように、実施例2によれば、ピーク波数等のSi−O結合の横波光学モードに関する数値を制御する(例えば、ピーク波数を1072cm−1)とする。これにより、TCFを抑制し、かつ酸化シリコン膜の膜厚を0.2λ以上としても挿入損失を抑制することができる。
【0038】
次に、成膜条件を、原料ガスがSiHとNOとの流量比を1:50とし、成膜温度を変えて酸化シリコン膜を成膜した。酸化シリコン膜の膜厚は0.3λとした。図9は、酸化シリコン膜の成膜温度に対する挿入損失を示す図である。図9のように、成膜温度が270℃以下では挿入損失が劣化する。しかし、270℃以上では挿入損失はほとんど変わらない。このように、成膜温度を270℃以上とすることにより、挿入損失をより抑制することができる。成膜温度は、300℃以上がより好ましい。
【0039】
実施例2によれば、圧電基板10と櫛型電極12とを被うように形成された酸化シリコン膜のピーク波数を1072cm−1以上とする。または、半値幅を92cm−1以下とする。これにより、TCFが小さく、挿入損失が小さい弾性波デバイスを提供することができる。このように、CVD法を用いて酸化シリコン膜を形成しても、酸化シリコン膜のSi−O結合の伸縮振動に関する数値を制御することにより、TCFが小さく、挿入損失が小さい弾性波デバイスを提供することができる。
【0040】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 圧電基板
12 櫛型電極
16 酸化シリコン膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化シリコン膜を成膜する第1の成膜工程と、
前記酸化シリコン膜のSi−O結合の伸縮振動に関する数値を測定する測定工程と、
前記数値が、目標範囲内の場合、基板上に前記第1の成膜工程で用いた条件を用い酸化シリコン膜を成膜する第2の成膜工程と、
を含む弾性波デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記Si−O結合の伸縮振動に関する数値は、Si−O結合の伸縮振動のピーク波数と、前記Si−O結合の伸縮振動の横波光学モードのピーク波数と、前記Si−O結合の伸縮振動の横波光学モードの半値幅と、のうち少なくとも一つである請求項1記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記酸化シリコン膜を形成する工程は、圧電基板と前記圧電基板上に形成された櫛型電極を被うように前記酸化シリコン膜を形成する工程を含む請求項2記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記圧電基板は、LN基板またはLT基板であり、
前記目標範囲は、前記Si−O結合の伸縮振動のピーク波数が1072cm−1以上である請求項3記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記圧電基板は、LN基板またはLT基板であり、
前記目標範囲は、前記横波光学モードのピーク波数が1063cm−1以上である請求項3記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記圧電基板は、LN基板またはLT基板であり、
前記目標範囲は、前記半値幅が92cm−1以下である請求項3記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記酸化シリコン膜は、CVD法により形成される請求項1から6のいずれか一項記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記酸化シリコン膜は、270℃以上で形成される請求項7記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項9】
LN基板またはLT基板である圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された櫛型電極と、
前記圧電基板と前記櫛型電極とを被うように形成され、Si−O結合の伸縮振動のピーク波数が1072cm−1以上の酸化シリコン膜と、
を具備する弾性波デバイス。
【請求項10】
LN基板またはLT基板である圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された櫛型電極と、
前記圧電基板と前記櫛型電極とを被うように形成され、Si−O結合の伸縮振動の横波光学モードのピーク波数が1063cm−1以上の酸化シリコン膜と、
を具備する弾性波デバイス。
【請求項11】
LN基板またはLT基板である圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された櫛型電極と、
前記圧電基板と前記櫛型電極とを被うように形成され、Si−O結合の伸縮振動の横波光学モードの半値幅が92cm−1以下の酸化シリコン膜と、
を具備する弾性波デバイス。
【請求項12】
前記酸化シリコン膜はCVD膜である請求項9から11のいずれか一項記載の弾性波デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−77682(P2011−77682A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225063(P2009−225063)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】