弾性波デバイス及びその製造方法
【課題】 弾性波デバイスにおけるフィルタ特性の安定及び信頼性の向上。
【解決手段】 圧電基板10と、圧電基板10上に形成された櫛形電極12と、櫛形電極12の表面にALD法により形成された酸化アルミニウムを含む絶縁膜16と、を備えることを特徴とする弾性波デバイス。圧電基板10上に櫛形電極12を形成する工程と、櫛形電極12の表面に、ALD法により酸化アルミニウムを含む絶縁膜16を形成する工程と、を備えることを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。絶縁膜16をALD法により形成することで、フィルタ特性の安定及び信頼性の向上を図ることができる。
【解決手段】 圧電基板10と、圧電基板10上に形成された櫛形電極12と、櫛形電極12の表面にALD法により形成された酸化アルミニウムを含む絶縁膜16と、を備えることを特徴とする弾性波デバイス。圧電基板10上に櫛形電極12を形成する工程と、櫛形電極12の表面に、ALD法により酸化アルミニウムを含む絶縁膜16を形成する工程と、を備えることを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。絶縁膜16をALD法により形成することで、フィルタ特性の安定及び信頼性の向上を図ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電基板上にIDT(interdigital transducer)が形成された弾性波デバイス(例えば、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)フィルタ)が知られている。また、IDTを構成する櫛形電極の表面を絶縁膜(例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム等)で覆うことにより、弾性波デバイスの信頼性を向上させることが知られている(例えば、特許文献1及び2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−135766号公報
【特許文献2】特開2008−135999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の弾性波デバイスでは、櫛形電極の表面に形成される絶縁膜の厚みにより、弾性波デバイスのフィルタ特性(例えば、中心周波数)が変化してしまう場合があった。このため、絶縁膜の形成時においてはフィルタ特性を所望の値に調整することが難しく、デバイスチップの完成後にフィルタ特性を調整する工程が必要となり、製造工程が増えてしまうという課題があった。
【0005】
また、絶縁膜の材料に酸化アルミニウムを用いた場合、櫛形電極に対する被覆性が良好とならない場合があった。このため、例えばデバイス完成後のモールド成型時における樹脂部の帯電により、絶縁膜の欠陥部分を起点として櫛形電極の静電破壊が生じ、弾性波デバイスの信頼性が低下してしまう場合があった。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みなされたものであり、フィルタ特性の安定及び信頼性の向上が可能な弾性波デバイス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、圧電基板と、前記圧電基板上に形成された櫛形電極と、前記櫛形電極の表面にALD法により形成された酸化アルミニウムを含む絶縁膜と、を備えることを特徴とする弾性波デバイスである。本発明によれば、酸化アルミニウムを含む絶縁膜をALD法で形成することにより、フィルタ特性の安定及び信頼性の向上を図ることができる。
【0008】
上記構成において、前記櫛形電極は、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含む構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記アルミニウム合金は、銅を含む構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記圧電基板上に、前記櫛形電極を覆うように設けられた封止部を備え、前記櫛形電極の上方には前記封止部により区画された空洞部が形成されている構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記櫛形電極の側面は、前記圧電基板の表面に対し垂直である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記櫛形電極は、複数の金属層を含む多層構造である構成とすることができる。
【0013】
本発明は、圧電基板上に櫛形電極を形成する工程と、前記櫛形電極の表面に、ALD法により酸化アルミニウムを含む絶縁膜を形成する工程と、を備えることを特徴とする弾性波デバイスの製造方法である。本発明によれば、酸化アルミニウムを含む絶縁膜をALD法で形成することにより、フィルタ特性の安定及び信頼性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、弾性波デバイスにおけるフィルタ特性の安定及び信頼性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、弾性波デバイスの製造方法を示す図である。
【図2】図2は、弾性波デバイスの構成を示す図である。
【図3】図3は、実験に使用した弾性波デバイスの構成を示す図(その1)である。
【図4】図4は、弾性波デバイスの中心周波数の測定結果を示すグラフ(その1)である。
【図5】図5は、弾性波デバイスの変形例を示す図(その1)である。
【図6】図6は、弾性波デバイスの変形例を示す図(その2)である。
【図7】図7は、弾性波デバイスの変形例を示す図(その3)である。
【図8】図8は、実験に使用した弾性波デバイスの構成を示す図(その2)である。
【図9】図9は、弾性波デバイスの中心周波数の測定結果を示すグラフ(その2)である。
【図10】図10は、弾性波デバイスの変形例を示す図(その4)である。
【図11】図11は、弾性波デバイスの耐圧試験の結果を示す表である。
【図12】図12は、櫛形電極の詳細な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0016】
図1(a)〜(e)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す図である。最初に、図1(a)に示すように、圧電基板10上にIDTの一部である櫛形電極12と、外部接続用の電極パッド14を形成する。圧電基板10には、例えばLiNbO3基板またはLiTaO3を用いることができ、櫛形電極12及び電極パッド14には、例えばアルミニウムを用いることができる。櫛形電極12及び電極パッド14の形成は、例えば蒸着法及びリフトオフ法により行うことができる。櫛形電極12及び電極パッド14の厚みは、例えば350nmとすることができる。
【0017】
次に、図1(b)に示すように、圧電基板10、櫛形電極12、電極パッド14の表面に絶縁膜16を形成する。ここで、絶縁膜16には酸化アルミニウムを用い、例えば熱ALD(Atomic Layer Deposition)法により膜形成を行う。例えば、プリカーサーTMA(Tetra Methyl Aluminum)と酸化剤(例えば、水またはオゾン)を反応させ、絶縁膜16を形成することができる。絶縁膜16の膜厚は、例えば50nm、成膜レートは例えば1秒当たり0.101nmとすることができる。なお、熱ALD法の代わりにプラズマALD法を用いてもよい。
【0018】
次に、図1(c)に示すように、絶縁膜16の一部を除去して電極パッド14を露出させる。絶縁膜16の除去は、例えばBCl3ガスを用いたドライエッチングにより行うことができ、エッチングレートは例えば1秒当たり1nmとすることができる。次に、露出した電極パッド14の上面及び周辺の絶縁膜16上に、外部と電気的接続を図るための金属層18を形成する。金属層18の形成は、例えば蒸着法を用いてTi及びAuを下から順に積層することにより行うことができる。金属層18の厚みは、例えば600nmとすることができる。
【0019】
次に、図1(d)に示すように、圧電基板10上に櫛形電極12を覆うように封止部20及び22を形成する。封止部20及び22は、例えばテンティング法により樹脂(例えば、エポキシ系感光性樹脂)を絶縁膜16及び金属層18の上面に形成し、露光することにより形成することができる。櫛形電極12の上方は、封止部20が除去され、空洞24が形成されている。また、金属層18の上方には、封止部20及び22を貫通する貫通孔23が形成されている。圧電基板10から封止部22の上面までの厚みは、例えば75μmとすることができる。
【0020】
次に、図1(e)に示すように、貫通孔23の内部に電極ポスト26を形成する。電極ポスト26には、例えばNiを用いることができ、例えばメッキ法により形成することができる。電極ポスト26の下面は電極パッド14に接触し、電極ポスト26の側面は封止部20及び22に接触している。最後に、電極ポスト26の上面に、外部接続用の半田ボール28を形成する。以上の工程により、実施例1に係る弾性波デバイスのデバイスチップ(パッケージ封止前の状態)が完成する。
【0021】
図2(a)〜(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスのデバイスチップの構成を示す図である。図2(a)は上面模式図であり、図2(b)は図2(a)のA−A線に沿った断面模式図、図2(c)は図2(a)のB−B線に沿った断面模式図である。また、図1(a)〜(e)に示した製造工程の断面図は、図2(a)のC−C線に沿ったものである。なお、図2(a)では、櫛形電極12と電極パッド14とを結ぶ接続配線を省略している。図2(a)及び図2(b)に示すように、櫛形電極12が形成された領域の上方には、封止部20及び22により区画された空洞24が形成されている。また、図2(c)に示すように、両端の電極パッド同士は、圧電基板10上に形成された電極配線30により電気的に接続されている。なお、図1及び図2では、櫛形電極の本数を省略し、模式的に図示している(以下の図においても同様)。
【0022】
ここで、図1(b)における絶縁膜16の形成工程は、PVD(Physical Vapor Deposition)法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法により行うことが考えられる。しかし、この方法では、櫛形電極12の表面における絶縁膜16の被覆性が良好とならない場合がある。特に、櫛形電極12に銅を含む材料(例えば、銅を含むアルミニウム合金)を用いた場合、被覆性が特に悪化してしまう場合がある。櫛形電極12に対する絶縁膜16の被覆性が良好でない場合、欠陥箇所を起点として櫛形電極12の静電破壊が発生してしまう場合がある。このような静電破壊は、例えばデバイスチップ完成後のモールド成形時において、封止のための樹脂部が帯電することにより引き起こされる。
【0023】
また、PVD法及びCVD法では、絶縁膜16の厚みにより弾性波デバイスのフィルタ特性(例えば、中心周波数)が変化してしまう場合がある。このため、図1(a)〜図1(e)の製造工程において、フィルタ特性を所望の値に調整することが難しく、デバイスチップの完成後に改めてフィルタ特性を調節する必要がある。その結果、製造工程が増加してしまう。
【0024】
これに対し、実施例1に係る弾性波デバイスの製造工程では、絶縁膜16の形成をALD法により行う。ALD法では、櫛形電極12及び電極パッド14の表面に、一分子ずつ吸着反応させることにより絶縁膜16を成長させる。これにより、櫛形電極12に対する絶縁膜16の被覆性を向上させ、櫛形電極12の静電破壊を抑制することができる。その結果、弾性波デバイスの信頼性を向上させることができる。
【0025】
また、ALD法により絶縁膜16を形成する場合、PVD法及びCVD法の場合とは異なり、絶縁膜16の厚みが変化しても、弾性波デバイスのフィルタ特性はほとんど変化しない。これにより、弾性波デバイスのフィルタ特性を安定させると共に、デバイスチップの完成後におけるフィルタ特性の調整工程を省略することができる。
【0026】
以上のように、実施例1に係る弾性波デバイス及びその製造方法によれば、絶縁膜16をALD法により形成することで、フィルタ特性を安定させ、信頼性を向上させることができる。なお、絶縁膜16がALD法で形成されたものであるか否かは、デバイスチップの完成後においても、例えば透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)による断面観察や、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion-microprobe Mass Spectrometer)により確認することが可能である。
【0027】
次に、実施例1に係る弾性波デバイスを用いた実験結果について説明する。
【0028】
図3は、実験に使用した弾性波デバイスのフィルタ構成を示す上面模式図である。図中の弾性波デバイスは、2つの弾性表面波フィルタが並列に接続された2重モードフィルタ(DMS:Double Mode SAW)であり、不平衡の入力端子Inに接続された共振器40と、平衡の出力端子Out1及びOut2にそれぞれ接続された第1フィルタ42及び第2フィルタ44を備える。第1フィルタ42及び第2フィルタ44は、それぞれ両端に反射電極が設けられた3IDT構造を有し、中心のIDTが共振器40に接続され、両端のIDTはそれぞれの出力端子Out1及びOut2にそれぞれ接続されている。
【0029】
本実験では、IDTを構成する櫛形電極12の材料をアルミニウムとし、厚みは160nmとした。また、櫛形電極12のピッチを1032.7nm、電極指幅と空隙幅との比(L/S比)を60%とした。以上の構成を有する弾性波デバイスにおいて、絶縁膜16を(1)材料に酸化アルミニウム(例えば、Al2O3)を用いPVD法で形成した場合、(2)材料に炭化窒化シリコン(例えば、SiCN)を用いCVD法で形成した場合、(3)材料に酸化アルミニウム(例えば、Al2O3)を用いALD法で形成した場合(実施例1)のそれぞれについて、膜厚の変化による中心周波数の変化を測定した。
【0030】
図4(a)〜(c)は、上記の実験結果を示すグラフである。図4(a)はPVD法(スパッタ)、図4(b)はCVD法、図4(c)はALD法における測定結果を示す。図4(a)及び図4(b)では、絶縁膜16の膜厚を20nm及び50nmとした場合のそれぞれについて、2回ずつデータの測定を行った。図示するように、膜厚が20nmから50nmに変化すると、フィルタの中心周波数もそれぞれ変化していることが分かる。PVD法(酸化アルミニウム)の場合、中心周波数は−13MHzだけ減少し、1nmあたりの帯域幅の減少は−0.43MHzであった。CVD法(炭化窒化シリコン)の場合、中心周波数は−25MHzだけ減少し、1nmあたりの帯域幅の減少は−0.83MHzであった。
【0031】
図4(c)では、絶縁膜16の成膜温度を200℃、250℃、300℃としたそれぞれの場合について、膜厚を変化(200℃及び250℃では10nm、20nm、50nmの3段階。300℃では10nm、20nm、30nm、40nm、50nmの5段階に変化)させた場合の中心周波数の変化を測定した。図示するように、いずれの成膜温度においても、膜厚の変化による中心周波数の変化はほとんど見られなかった。また、成膜温度の変化による中心周波数の変化も、膜厚の場合と同様にほとんど見られなかった。
【0032】
以上のように、ALD法を用いて絶縁膜16を形成した弾性波デバイス(DMSフィルタ)は、その他の方法(PVD法、CVD法)を用いた場合に比べて中心周波数の変動が少なく、安定したフィルタ特性を得ることができる。
【0033】
本実験では、図3に記載の構成のDMSを使用したが、DMSの構成はこれに限定されるものではない。
【0034】
図5〜図7は、並列接続されたDMSの変形例を示す上面模式図である。図5の構成では、図3の構成に加え、第1フィルタ42及び第2フィルタ44における両端のIDTと出力端子Out1及びOut2との間に、それぞれ共振器46及び48が設けられている。その他の構成は図3と同様である。図6の構成では、図3のフィルタとIDTの接続先が逆になっており、第1フィルタ42及び第2フィルタ44における中心のIDTが出力端子Out1及びOut2にそれぞれ接続され、両端のIDTは共振器40に接続されている。図7の構成では、図6の構成に加え、第1フィルタ42及び第2フィルタ44における中心のIDTと出力端子Out1及びOut2との間に、それぞれ共振器46及び48が接続されている。以上のような変形例に係るDMSフィルタにおいても、図3の構成と同様に、絶縁膜16をALD法で形成することによりフィルタ特性を安定させることができる。
【0035】
次に、2つのフィルタが直列接続されたDMSを用いた実験結果について説明する。
【0036】
図8は、実験に使用した弾性波デバイスの上面模式図である。図中の弾性波デバイスは、直列接続タイプのDMSであり、不平衡の入力端子Inに接続された第1フィルタ50と、平衡の出力端子Out1及びOut2に接続された第2フィルタ52とを備える。第1フィルタ50は、両端に反射電極が設けられた3IDT構造を、第2フィルタ52は、両端に反射電極が設けられた4IDT構造を有する。第1フィルタ50の3つのIDTのうち、中心のIDTが入力端子に接続され、両端のIDTは第2フィルタ52に接続されている。第2フィルタ52の4つのIDTのうち、中心の2つのIDTは出力端子Out1及びOut2にそれぞれ接続され、両端のIDTは第1フィルタ50に接続されている。
【0037】
本実験では、IDTを構成する櫛形電極12の材料をアルミニウムとし、厚みは340nmとした。また、櫛形電極12のピッチを1575.5nm、L/S比を69%とした。以上の構成を有する弾性波デバイスにおいて、絶縁膜16を(1)材料に酸化シリコンを用いPVD法で形成した場合、(2)材料に酸化アルミニウムを用いALD法で形成した場合(実施例1)のそれぞれについて、膜厚の変化による中心周波数の変化を測定した。
【0038】
図9は、上記の実験結果を示すグラフである。4つのデータのうち、左端はPVD法による測定結果(参考値)を、残りの3つはALD法における測定結果を示す。図示するように、絶縁膜16の形成をALD法により行った場合、膜厚及び成膜温度を変化させても、図4(c)の場合と同様に中心周波数はほとんど変化しなかった。
【0039】
図10は、直列接続されたDMSの変形例を示す上面模式図である。図8の構成に加え、第1フィルタ50と入力端子Inとの間に、共振器54が設けられている。本構成においても、図8の構成と同様に、絶縁膜16をALD法で形成することによりフィルタ特性を安定させることができる。
【0040】
以上のように、弾性波デバイスを直列接続タイプのDMSとした場合でも、並列接続タイプのDMSとした場合と同様に、絶縁膜16をALD法で形成することによるフィルタ特性を安定を図ることができる。また、フィルタの中心周波数やフィルタのタイプは、上記実施例及び変形例に示した形態に限定されるものではない。本発明は、様々なフィルタ(例えば、ラダーフィルタ)に対して適用することが可能である。
【0041】
次に、絶縁膜16の形成方法の違いによる信頼性の変化について説明する。
【0042】
図11は、絶縁膜16の形成方法の違いによる、櫛形電極12の耐圧を示す表である。表の左列は絶縁膜16の形成方法(PVD法、CVD法、ALD法)を、中央列は絶縁膜16の種類(材料)を、右列は耐圧を示す。耐圧は、図2(c)に示す弾性波デバイスの2つの半田ボール28の間に、電圧を加えることにより測定した。耐圧の最小値は静電破壊の開始時における電圧を、耐圧の最大値は破壊が完全に行われた際の電圧をそれぞれ示す。
【0043】
図示するように、PVD法及びCVD法では、絶縁膜16の種類によらず、耐圧の最大値は130〜140Vであった。これに対し、ALD法では耐圧の最小値が140V、最大値が170Vとなっており、他の工法に比べて静電破壊に対する耐性が向上していることが分かった。このように、絶縁膜16をALD法で形成することにより、櫛形電極12の静電破壊を抑制し、弾性波デバイスの信頼性を向上させることができる。
【0044】
ALD法による絶縁膜16の形成は、他の方法に比べて櫛形電極12の表面の被覆性に優れている。以下、この点について説明する。
【0045】
図12(a)〜(c)は、櫛形電極12の断面の拡大図である。図12(a)は、実施例1に係る構成を、図12(b)及び(c)はその変形例を示している。図12(a)に示すように、実施例1では櫛形電極12の側面は圧電基板10側に向かって広がるテーパ形状となっており、絶縁膜16もテーパ形状に合わせて形成されている。図12(b)では、櫛形電極12の側面が圧電基板10に対し垂直となっている。PVD法やCVD法では、圧電基板10に対し垂直な面に対し被覆性の良い膜形成を行うことが難しいが、ALD法であれば、図示するように被覆性の良い絶縁膜16を形成することができる。このように、ALD法により絶縁膜16を形成することは、櫛形電極12の側面の傾斜角が大きい場合(例えば、図12(b)のように90°である場合)に特に有効である。
【0046】
図12(c)は、櫛形電極12を多層構造とした例である。櫛形電極12は、銅及びアルミニウムの積層構造であり、第1アルミニウム層12a、銅層12b、及び第2アルミニウム層12cが圧電基板10側から順に積層されている。櫛形電極12の側面は、図12(a)と同じくテーパ形状となっている。
【0047】
絶縁膜16に酸化アルミニウムを使用する場合、酸化アルミニウムは銅との密着性が悪いため、PVD法やCVD法では銅の部分に欠陥が生じやすい。しかし、絶縁膜16をALD法で形成することにより、図示するように被覆性の良い絶縁膜16を形成することができる。このように、ALD法により絶縁膜16を形成することは、櫛形電極12が銅を含む場合(例えば、櫛形電極を銅とアルミニウムの合金により形成する場合)において特に有効である。
【0048】
上記実施例では、弾性表面波フィルタ(SAWフィルタ)を例に説明を行ったが、本発明は弾性波を用いて信号伝達を行う弾性波デバイスであれば、他の種類のフィルタ(例えば、弾性境界波フィルタ及びラブ波フィルタ)に対しても同様に適用することができる。
【0049】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 圧電基板
12 櫛形電極
14 電極パッド
16 絶縁膜
18 金属層
20、22 封止部
24 空洞
26 電極ポスト
28 半田ボール
30 電極配線
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電基板上にIDT(interdigital transducer)が形成された弾性波デバイス(例えば、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)フィルタ)が知られている。また、IDTを構成する櫛形電極の表面を絶縁膜(例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム等)で覆うことにより、弾性波デバイスの信頼性を向上させることが知られている(例えば、特許文献1及び2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−135766号公報
【特許文献2】特開2008−135999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の弾性波デバイスでは、櫛形電極の表面に形成される絶縁膜の厚みにより、弾性波デバイスのフィルタ特性(例えば、中心周波数)が変化してしまう場合があった。このため、絶縁膜の形成時においてはフィルタ特性を所望の値に調整することが難しく、デバイスチップの完成後にフィルタ特性を調整する工程が必要となり、製造工程が増えてしまうという課題があった。
【0005】
また、絶縁膜の材料に酸化アルミニウムを用いた場合、櫛形電極に対する被覆性が良好とならない場合があった。このため、例えばデバイス完成後のモールド成型時における樹脂部の帯電により、絶縁膜の欠陥部分を起点として櫛形電極の静電破壊が生じ、弾性波デバイスの信頼性が低下してしまう場合があった。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みなされたものであり、フィルタ特性の安定及び信頼性の向上が可能な弾性波デバイス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、圧電基板と、前記圧電基板上に形成された櫛形電極と、前記櫛形電極の表面にALD法により形成された酸化アルミニウムを含む絶縁膜と、を備えることを特徴とする弾性波デバイスである。本発明によれば、酸化アルミニウムを含む絶縁膜をALD法で形成することにより、フィルタ特性の安定及び信頼性の向上を図ることができる。
【0008】
上記構成において、前記櫛形電極は、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含む構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記アルミニウム合金は、銅を含む構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記圧電基板上に、前記櫛形電極を覆うように設けられた封止部を備え、前記櫛形電極の上方には前記封止部により区画された空洞部が形成されている構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記櫛形電極の側面は、前記圧電基板の表面に対し垂直である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記櫛形電極は、複数の金属層を含む多層構造である構成とすることができる。
【0013】
本発明は、圧電基板上に櫛形電極を形成する工程と、前記櫛形電極の表面に、ALD法により酸化アルミニウムを含む絶縁膜を形成する工程と、を備えることを特徴とする弾性波デバイスの製造方法である。本発明によれば、酸化アルミニウムを含む絶縁膜をALD法で形成することにより、フィルタ特性の安定及び信頼性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、弾性波デバイスにおけるフィルタ特性の安定及び信頼性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、弾性波デバイスの製造方法を示す図である。
【図2】図2は、弾性波デバイスの構成を示す図である。
【図3】図3は、実験に使用した弾性波デバイスの構成を示す図(その1)である。
【図4】図4は、弾性波デバイスの中心周波数の測定結果を示すグラフ(その1)である。
【図5】図5は、弾性波デバイスの変形例を示す図(その1)である。
【図6】図6は、弾性波デバイスの変形例を示す図(その2)である。
【図7】図7は、弾性波デバイスの変形例を示す図(その3)である。
【図8】図8は、実験に使用した弾性波デバイスの構成を示す図(その2)である。
【図9】図9は、弾性波デバイスの中心周波数の測定結果を示すグラフ(その2)である。
【図10】図10は、弾性波デバイスの変形例を示す図(その4)である。
【図11】図11は、弾性波デバイスの耐圧試験の結果を示す表である。
【図12】図12は、櫛形電極の詳細な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0016】
図1(a)〜(e)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す図である。最初に、図1(a)に示すように、圧電基板10上にIDTの一部である櫛形電極12と、外部接続用の電極パッド14を形成する。圧電基板10には、例えばLiNbO3基板またはLiTaO3を用いることができ、櫛形電極12及び電極パッド14には、例えばアルミニウムを用いることができる。櫛形電極12及び電極パッド14の形成は、例えば蒸着法及びリフトオフ法により行うことができる。櫛形電極12及び電極パッド14の厚みは、例えば350nmとすることができる。
【0017】
次に、図1(b)に示すように、圧電基板10、櫛形電極12、電極パッド14の表面に絶縁膜16を形成する。ここで、絶縁膜16には酸化アルミニウムを用い、例えば熱ALD(Atomic Layer Deposition)法により膜形成を行う。例えば、プリカーサーTMA(Tetra Methyl Aluminum)と酸化剤(例えば、水またはオゾン)を反応させ、絶縁膜16を形成することができる。絶縁膜16の膜厚は、例えば50nm、成膜レートは例えば1秒当たり0.101nmとすることができる。なお、熱ALD法の代わりにプラズマALD法を用いてもよい。
【0018】
次に、図1(c)に示すように、絶縁膜16の一部を除去して電極パッド14を露出させる。絶縁膜16の除去は、例えばBCl3ガスを用いたドライエッチングにより行うことができ、エッチングレートは例えば1秒当たり1nmとすることができる。次に、露出した電極パッド14の上面及び周辺の絶縁膜16上に、外部と電気的接続を図るための金属層18を形成する。金属層18の形成は、例えば蒸着法を用いてTi及びAuを下から順に積層することにより行うことができる。金属層18の厚みは、例えば600nmとすることができる。
【0019】
次に、図1(d)に示すように、圧電基板10上に櫛形電極12を覆うように封止部20及び22を形成する。封止部20及び22は、例えばテンティング法により樹脂(例えば、エポキシ系感光性樹脂)を絶縁膜16及び金属層18の上面に形成し、露光することにより形成することができる。櫛形電極12の上方は、封止部20が除去され、空洞24が形成されている。また、金属層18の上方には、封止部20及び22を貫通する貫通孔23が形成されている。圧電基板10から封止部22の上面までの厚みは、例えば75μmとすることができる。
【0020】
次に、図1(e)に示すように、貫通孔23の内部に電極ポスト26を形成する。電極ポスト26には、例えばNiを用いることができ、例えばメッキ法により形成することができる。電極ポスト26の下面は電極パッド14に接触し、電極ポスト26の側面は封止部20及び22に接触している。最後に、電極ポスト26の上面に、外部接続用の半田ボール28を形成する。以上の工程により、実施例1に係る弾性波デバイスのデバイスチップ(パッケージ封止前の状態)が完成する。
【0021】
図2(a)〜(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスのデバイスチップの構成を示す図である。図2(a)は上面模式図であり、図2(b)は図2(a)のA−A線に沿った断面模式図、図2(c)は図2(a)のB−B線に沿った断面模式図である。また、図1(a)〜(e)に示した製造工程の断面図は、図2(a)のC−C線に沿ったものである。なお、図2(a)では、櫛形電極12と電極パッド14とを結ぶ接続配線を省略している。図2(a)及び図2(b)に示すように、櫛形電極12が形成された領域の上方には、封止部20及び22により区画された空洞24が形成されている。また、図2(c)に示すように、両端の電極パッド同士は、圧電基板10上に形成された電極配線30により電気的に接続されている。なお、図1及び図2では、櫛形電極の本数を省略し、模式的に図示している(以下の図においても同様)。
【0022】
ここで、図1(b)における絶縁膜16の形成工程は、PVD(Physical Vapor Deposition)法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法により行うことが考えられる。しかし、この方法では、櫛形電極12の表面における絶縁膜16の被覆性が良好とならない場合がある。特に、櫛形電極12に銅を含む材料(例えば、銅を含むアルミニウム合金)を用いた場合、被覆性が特に悪化してしまう場合がある。櫛形電極12に対する絶縁膜16の被覆性が良好でない場合、欠陥箇所を起点として櫛形電極12の静電破壊が発生してしまう場合がある。このような静電破壊は、例えばデバイスチップ完成後のモールド成形時において、封止のための樹脂部が帯電することにより引き起こされる。
【0023】
また、PVD法及びCVD法では、絶縁膜16の厚みにより弾性波デバイスのフィルタ特性(例えば、中心周波数)が変化してしまう場合がある。このため、図1(a)〜図1(e)の製造工程において、フィルタ特性を所望の値に調整することが難しく、デバイスチップの完成後に改めてフィルタ特性を調節する必要がある。その結果、製造工程が増加してしまう。
【0024】
これに対し、実施例1に係る弾性波デバイスの製造工程では、絶縁膜16の形成をALD法により行う。ALD法では、櫛形電極12及び電極パッド14の表面に、一分子ずつ吸着反応させることにより絶縁膜16を成長させる。これにより、櫛形電極12に対する絶縁膜16の被覆性を向上させ、櫛形電極12の静電破壊を抑制することができる。その結果、弾性波デバイスの信頼性を向上させることができる。
【0025】
また、ALD法により絶縁膜16を形成する場合、PVD法及びCVD法の場合とは異なり、絶縁膜16の厚みが変化しても、弾性波デバイスのフィルタ特性はほとんど変化しない。これにより、弾性波デバイスのフィルタ特性を安定させると共に、デバイスチップの完成後におけるフィルタ特性の調整工程を省略することができる。
【0026】
以上のように、実施例1に係る弾性波デバイス及びその製造方法によれば、絶縁膜16をALD法により形成することで、フィルタ特性を安定させ、信頼性を向上させることができる。なお、絶縁膜16がALD法で形成されたものであるか否かは、デバイスチップの完成後においても、例えば透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)による断面観察や、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion-microprobe Mass Spectrometer)により確認することが可能である。
【0027】
次に、実施例1に係る弾性波デバイスを用いた実験結果について説明する。
【0028】
図3は、実験に使用した弾性波デバイスのフィルタ構成を示す上面模式図である。図中の弾性波デバイスは、2つの弾性表面波フィルタが並列に接続された2重モードフィルタ(DMS:Double Mode SAW)であり、不平衡の入力端子Inに接続された共振器40と、平衡の出力端子Out1及びOut2にそれぞれ接続された第1フィルタ42及び第2フィルタ44を備える。第1フィルタ42及び第2フィルタ44は、それぞれ両端に反射電極が設けられた3IDT構造を有し、中心のIDTが共振器40に接続され、両端のIDTはそれぞれの出力端子Out1及びOut2にそれぞれ接続されている。
【0029】
本実験では、IDTを構成する櫛形電極12の材料をアルミニウムとし、厚みは160nmとした。また、櫛形電極12のピッチを1032.7nm、電極指幅と空隙幅との比(L/S比)を60%とした。以上の構成を有する弾性波デバイスにおいて、絶縁膜16を(1)材料に酸化アルミニウム(例えば、Al2O3)を用いPVD法で形成した場合、(2)材料に炭化窒化シリコン(例えば、SiCN)を用いCVD法で形成した場合、(3)材料に酸化アルミニウム(例えば、Al2O3)を用いALD法で形成した場合(実施例1)のそれぞれについて、膜厚の変化による中心周波数の変化を測定した。
【0030】
図4(a)〜(c)は、上記の実験結果を示すグラフである。図4(a)はPVD法(スパッタ)、図4(b)はCVD法、図4(c)はALD法における測定結果を示す。図4(a)及び図4(b)では、絶縁膜16の膜厚を20nm及び50nmとした場合のそれぞれについて、2回ずつデータの測定を行った。図示するように、膜厚が20nmから50nmに変化すると、フィルタの中心周波数もそれぞれ変化していることが分かる。PVD法(酸化アルミニウム)の場合、中心周波数は−13MHzだけ減少し、1nmあたりの帯域幅の減少は−0.43MHzであった。CVD法(炭化窒化シリコン)の場合、中心周波数は−25MHzだけ減少し、1nmあたりの帯域幅の減少は−0.83MHzであった。
【0031】
図4(c)では、絶縁膜16の成膜温度を200℃、250℃、300℃としたそれぞれの場合について、膜厚を変化(200℃及び250℃では10nm、20nm、50nmの3段階。300℃では10nm、20nm、30nm、40nm、50nmの5段階に変化)させた場合の中心周波数の変化を測定した。図示するように、いずれの成膜温度においても、膜厚の変化による中心周波数の変化はほとんど見られなかった。また、成膜温度の変化による中心周波数の変化も、膜厚の場合と同様にほとんど見られなかった。
【0032】
以上のように、ALD法を用いて絶縁膜16を形成した弾性波デバイス(DMSフィルタ)は、その他の方法(PVD法、CVD法)を用いた場合に比べて中心周波数の変動が少なく、安定したフィルタ特性を得ることができる。
【0033】
本実験では、図3に記載の構成のDMSを使用したが、DMSの構成はこれに限定されるものではない。
【0034】
図5〜図7は、並列接続されたDMSの変形例を示す上面模式図である。図5の構成では、図3の構成に加え、第1フィルタ42及び第2フィルタ44における両端のIDTと出力端子Out1及びOut2との間に、それぞれ共振器46及び48が設けられている。その他の構成は図3と同様である。図6の構成では、図3のフィルタとIDTの接続先が逆になっており、第1フィルタ42及び第2フィルタ44における中心のIDTが出力端子Out1及びOut2にそれぞれ接続され、両端のIDTは共振器40に接続されている。図7の構成では、図6の構成に加え、第1フィルタ42及び第2フィルタ44における中心のIDTと出力端子Out1及びOut2との間に、それぞれ共振器46及び48が接続されている。以上のような変形例に係るDMSフィルタにおいても、図3の構成と同様に、絶縁膜16をALD法で形成することによりフィルタ特性を安定させることができる。
【0035】
次に、2つのフィルタが直列接続されたDMSを用いた実験結果について説明する。
【0036】
図8は、実験に使用した弾性波デバイスの上面模式図である。図中の弾性波デバイスは、直列接続タイプのDMSであり、不平衡の入力端子Inに接続された第1フィルタ50と、平衡の出力端子Out1及びOut2に接続された第2フィルタ52とを備える。第1フィルタ50は、両端に反射電極が設けられた3IDT構造を、第2フィルタ52は、両端に反射電極が設けられた4IDT構造を有する。第1フィルタ50の3つのIDTのうち、中心のIDTが入力端子に接続され、両端のIDTは第2フィルタ52に接続されている。第2フィルタ52の4つのIDTのうち、中心の2つのIDTは出力端子Out1及びOut2にそれぞれ接続され、両端のIDTは第1フィルタ50に接続されている。
【0037】
本実験では、IDTを構成する櫛形電極12の材料をアルミニウムとし、厚みは340nmとした。また、櫛形電極12のピッチを1575.5nm、L/S比を69%とした。以上の構成を有する弾性波デバイスにおいて、絶縁膜16を(1)材料に酸化シリコンを用いPVD法で形成した場合、(2)材料に酸化アルミニウムを用いALD法で形成した場合(実施例1)のそれぞれについて、膜厚の変化による中心周波数の変化を測定した。
【0038】
図9は、上記の実験結果を示すグラフである。4つのデータのうち、左端はPVD法による測定結果(参考値)を、残りの3つはALD法における測定結果を示す。図示するように、絶縁膜16の形成をALD法により行った場合、膜厚及び成膜温度を変化させても、図4(c)の場合と同様に中心周波数はほとんど変化しなかった。
【0039】
図10は、直列接続されたDMSの変形例を示す上面模式図である。図8の構成に加え、第1フィルタ50と入力端子Inとの間に、共振器54が設けられている。本構成においても、図8の構成と同様に、絶縁膜16をALD法で形成することによりフィルタ特性を安定させることができる。
【0040】
以上のように、弾性波デバイスを直列接続タイプのDMSとした場合でも、並列接続タイプのDMSとした場合と同様に、絶縁膜16をALD法で形成することによるフィルタ特性を安定を図ることができる。また、フィルタの中心周波数やフィルタのタイプは、上記実施例及び変形例に示した形態に限定されるものではない。本発明は、様々なフィルタ(例えば、ラダーフィルタ)に対して適用することが可能である。
【0041】
次に、絶縁膜16の形成方法の違いによる信頼性の変化について説明する。
【0042】
図11は、絶縁膜16の形成方法の違いによる、櫛形電極12の耐圧を示す表である。表の左列は絶縁膜16の形成方法(PVD法、CVD法、ALD法)を、中央列は絶縁膜16の種類(材料)を、右列は耐圧を示す。耐圧は、図2(c)に示す弾性波デバイスの2つの半田ボール28の間に、電圧を加えることにより測定した。耐圧の最小値は静電破壊の開始時における電圧を、耐圧の最大値は破壊が完全に行われた際の電圧をそれぞれ示す。
【0043】
図示するように、PVD法及びCVD法では、絶縁膜16の種類によらず、耐圧の最大値は130〜140Vであった。これに対し、ALD法では耐圧の最小値が140V、最大値が170Vとなっており、他の工法に比べて静電破壊に対する耐性が向上していることが分かった。このように、絶縁膜16をALD法で形成することにより、櫛形電極12の静電破壊を抑制し、弾性波デバイスの信頼性を向上させることができる。
【0044】
ALD法による絶縁膜16の形成は、他の方法に比べて櫛形電極12の表面の被覆性に優れている。以下、この点について説明する。
【0045】
図12(a)〜(c)は、櫛形電極12の断面の拡大図である。図12(a)は、実施例1に係る構成を、図12(b)及び(c)はその変形例を示している。図12(a)に示すように、実施例1では櫛形電極12の側面は圧電基板10側に向かって広がるテーパ形状となっており、絶縁膜16もテーパ形状に合わせて形成されている。図12(b)では、櫛形電極12の側面が圧電基板10に対し垂直となっている。PVD法やCVD法では、圧電基板10に対し垂直な面に対し被覆性の良い膜形成を行うことが難しいが、ALD法であれば、図示するように被覆性の良い絶縁膜16を形成することができる。このように、ALD法により絶縁膜16を形成することは、櫛形電極12の側面の傾斜角が大きい場合(例えば、図12(b)のように90°である場合)に特に有効である。
【0046】
図12(c)は、櫛形電極12を多層構造とした例である。櫛形電極12は、銅及びアルミニウムの積層構造であり、第1アルミニウム層12a、銅層12b、及び第2アルミニウム層12cが圧電基板10側から順に積層されている。櫛形電極12の側面は、図12(a)と同じくテーパ形状となっている。
【0047】
絶縁膜16に酸化アルミニウムを使用する場合、酸化アルミニウムは銅との密着性が悪いため、PVD法やCVD法では銅の部分に欠陥が生じやすい。しかし、絶縁膜16をALD法で形成することにより、図示するように被覆性の良い絶縁膜16を形成することができる。このように、ALD法により絶縁膜16を形成することは、櫛形電極12が銅を含む場合(例えば、櫛形電極を銅とアルミニウムの合金により形成する場合)において特に有効である。
【0048】
上記実施例では、弾性表面波フィルタ(SAWフィルタ)を例に説明を行ったが、本発明は弾性波を用いて信号伝達を行う弾性波デバイスであれば、他の種類のフィルタ(例えば、弾性境界波フィルタ及びラブ波フィルタ)に対しても同様に適用することができる。
【0049】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 圧電基板
12 櫛形電極
14 電極パッド
16 絶縁膜
18 金属層
20、22 封止部
24 空洞
26 電極ポスト
28 半田ボール
30 電極配線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された櫛形電極と、
前記櫛形電極の表面にALD法により形成された酸化アルミニウムを含む絶縁膜と、
を備えることを特徴とする弾性波デバイス。
【請求項2】
前記櫛形電極は、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含むことを特徴とする請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記アルミニウム合金は、銅を含むことを特徴とする請求項2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記圧電基板上に、前記櫛形電極を覆うように設けられた封止部を備え、
前記櫛形電極の上方には前記封止部により区画された空洞部が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記櫛形電極の側面は、前記圧電基板の表面に対し垂直であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記櫛形電極は、複数の金属層を含む多層構造であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
圧電基板上に櫛形電極を形成する工程と、
前記櫛形電極の表面に、ALD法により酸化アルミニウムを含む絶縁膜を形成する工程と、
を備えることを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された櫛形電極と、
前記櫛形電極の表面にALD法により形成された酸化アルミニウムを含む絶縁膜と、
を備えることを特徴とする弾性波デバイス。
【請求項2】
前記櫛形電極は、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含むことを特徴とする請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記アルミニウム合金は、銅を含むことを特徴とする請求項2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記圧電基板上に、前記櫛形電極を覆うように設けられた封止部を備え、
前記櫛形電極の上方には前記封止部により区画された空洞部が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記櫛形電極の側面は、前記圧電基板の表面に対し垂直であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記櫛形電極は、複数の金属層を含む多層構造であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
圧電基板上に櫛形電極を形成する工程と、
前記櫛形電極の表面に、ALD法により酸化アルミニウムを含む絶縁膜を形成する工程と、
を備えることを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−160979(P2012−160979A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20248(P2011−20248)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
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