説明

弾性波デバイス

【課題】 同一チップ上において異なる2つ以上の電気機械結合係数を有する弾性波デバイス及びその製造方法を提供すること
【解決手段】 圧電基板10と、圧電基板10上に形成された誘電体層12と、誘電体層上に形成された第1櫛形電極22a及び第2櫛形電極22bと、を備え、第1櫛形電極22aと圧電基板10との間における誘電体層12aの厚みは、第2櫛形電極22bと圧電基板10との間における誘電体層12bの厚みと異なることを特徴とする弾性波デバイス及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電基板上に電極(例えば、IDT:InterDigital Transducer)が形成された弾性波デバイス(例えば、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)フィルタ)が知られている。弾性波デバイスの特性の1つである電気機械結合係数は、例えば圧電基板の結晶の材料と方位によって決定され、弾性波デバイスの比帯域幅等に影響を与える。また、IDT電極の下に誘電体層(例えば、酸化シリコン層または酸化アルミニウム層)を形成し、当該誘電体層の厚みを変化させることにより、電気機械結合係数を調整する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−67289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、圧電基板上に形成される誘電体層の厚みが、1枚のウェハ上において均一となっているため、同一ウェハ上の電気機械結合係数がほぼ同じとなってしまう。このため、電気機械結合係数の異なる弾性波デバイス(例えば、比帯域幅の異なる複数の共振子或いはフィルタ)を、1つの圧電基板上に形成することが困難であった。言うまでもなく、誘電体層を使わない場合についても同様の課題がある。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みなされたものであり、電気機械結合係数の異なる複数の弾性波デバイスが同一圧電基板上に形成された弾性波デバイス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、圧電基板と、前記圧電基板上に形成された誘電体層と、前記誘電体層上に形成された第1櫛形電極及び第2櫛形電極と、を含み、前記第1櫛形電極と前記圧電基板との間における前記誘電体層の厚みは、前記第2櫛形電極と前記圧電基板との間における前記誘電体層の厚みと異なることを特徴とする弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記第1櫛形電極を含む第1フィルタと、前記第2櫛形電極を含み、前記第1フィルタとは信号系統の異なる第2フィルタと、を備える構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記第1フィルタ及び前記第2フィルタは、比帯域幅が異なる構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記誘電体層は、前記第1櫛形電極が形成された第1領域と、前記第2櫛形電極が形成され、前記第1領域より小さい厚みを有する第2領域と、を備え、前記第2櫛形電極の電極指及び電極指間の領域は、共に前記第2領域上に位置する構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記誘電体層には、前記第2櫛形電極の電極指幅に対応した凹部が設けられ、前記第2櫛形電極の電極指は、前記凹部に形成されている構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記誘電体層は、酸化アルミニウムを含む構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記誘電体層、前記第1櫛形電極、及び前記第2櫛形電極を覆うように形成された絶縁層を備える構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記絶縁層は、酸化シリコンを含む構成とすることができる。
【0014】
本発明は、圧電基板上に、第1領域及び前記第1領域と厚みの異なる第2領域を有する誘電体層を形成する工程と、前記第1領域上に第1櫛形電極を形成する工程と、前記第2領域上に第2櫛形電極を形成する工程と、を備えることを特徴とする弾性波デバイスの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電気機械結合係数の異なる複数の弾性波デバイスを同一圧電基板上に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、比較例に係る弾性波デバイスの断面模式図である。
【図2】図2は、実施例1に係る弾性波デバイスのブロック図である。
【図3】図3は、実施例1に係る弾性波デバイスの使用周波数帯の例を示す表である。
【図4】図4は、実施例1に係る弾性波デバイスの上面模式図である。
【図5】図5は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す図(その1)である。
【図6】図6は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す図(その2)である。
【図7】図7は、実施例1に係る弾性波デバイスの断面模式図である。
【図8】図8は、実施例1の変形例に係る弾性波デバイスの断面模式図である。
【図9】図9は、実施例2に係る弾性波デバイスの製造方法を示す図(その1)である。
【図10】図10は、実施例2に係る弾性波デバイスの製造方法を示す図(その2)である。
【図11】図11は、実施例2に係る弾性波デバイスの製造方法を示す図(その3)である。
【図12】図12は、実施例2に係る弾性波デバイスの断面模式図である。
【図13】図13は、実施例2の変形例に係る弾性波デバイスの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1(a)〜図1(c)は、比較例に係る弾性波デバイスの断面模式図である。図1(a)は、弾性表面波(SAW)を用いて信号の伝達を行う弾性波デバイスの例を示すものであり、圧電基板110の表面に直に櫛形電極120が形成された弾性波デバイスを示している。図1(b)は、IDT上に厚い誘電体層(IDTの数倍の厚さ)を形成した弾性波デバイスの例を示すものであり、図1(a)に示される構成に加え、圧電基板110及び櫛形電極120の上面を絶縁層130により被覆してなる弾性波デバイスを示している。図1(c)は、図1(b)に示される構成に加え、圧電基板110と櫛形電極120との間に誘電体層140が配設された弾性波デバイスを示している。
【0018】
ここで、図1(a)及び図1(b)に示される構成においては、弾性波デバイスの電気機械結合係数は、圧電基板110の結晶材料及び結晶方位により決定される。また、図1(c)に示される構成においては、上記の要因に加え、電気機械結合係数は誘電体層140の厚さに影響される。
いずれの場合においても、電気機械結合係数は、圧電基板110上の全ての領域においてほぼ均一である。
このため、図1(a)〜図1(c)に示される構成では、電気機械結合係数の異なる弾性波デバイス(例えば、比帯域幅の異なる2つ以上の共振子或いはフィルタ)を、1つの圧電基板上に形成することが難しい。
【実施例1】
【0019】
図2は、本発明の実施例1に係る弾性波デバイスの構成を示すブロック図である。実施例1に係る弾性波デバイスは、送信フィルタ部50及び受信フィルタ部60を備える。送信フィルタ部50は、周波数特性の異なる2つの送信フィルタ(第1送信フィルタ52、第2送信フィルタ54)を含み、受信フィルタ部60は、周波数特性の異なる2つの送信フィルタ(第1受信フィルタ62、第2受信フィルタ64)を含む。
【0020】
実施例1に係る弾性波デバイスの使用周波数帯の例を図3に示す。
この例では、10種類(Band1〜Band10)の周波数帯域が存在し、それぞれ送信周波数(Tx)、受信周波数(Rx)、帯域幅(MHz)、及び比帯域幅(Rx)が異なっている。ここで、比帯域幅とは、中心周波数に対する帯域幅の割合を意味し、その値はBandごと異なる。そこで、比帯域幅に応じて、弾性波デバイスの電気機械結合係数を最適化することが望ましい。
【0021】
前記図2に示す弾性波デバイスにあっては、第1送信フィルタ52及び第1受信フィルタ62は、例えばBand2のフィルタとすることができ、第2送信フィルタ54及び第2受信フィルタ64は、例えばBand3のフィルタとすることができる。これらのフィルタは、同じ(共通の)圧電基板70上に設けられている。
第1送信フィルタ52はBand2の送信端子Tx(Band2)に、第2送信フィルタ54はBand3の送信端子Tx(Band3)に接続され、一方、第1受信フィルタ62はBand2の受信端子Rx(Band2)に、第2受信フィルタ64はBand3の受信端子Rx(Band3)にそれぞれ接続されている。
また、第1送信フィルタ52及び第1受信フィルタ62は、共にBand2の共通のアンテナ端子Ant(Band2)に接続されており、一方、第2送信フィルタ54及び第2受信フィルタ64は、共にBand3の共通のアンテナ端子Ant(Band3)に接続されている。
【0022】
実施例1に係る弾性波デバイスの構成を、図4の上面模式図に示す。同じ圧電基板70上に、比帯域幅の異なる2つの送信フィルタ(第1送信フィルタ52、第2送信フィルタ54)が形成されている。この2つの送信フィルタは、異なる2つの信号系統がそれぞれ入・出力されることになる。
【0023】
第1送信フィルタ52は、3つの直列共振器(80、82、86)に対し2つの並列共振器(84、88)が接続されたラダー型(梯子型)のフィルタである。
各共振器(80〜88)は、対向する1組の櫛形電極と、その両端に設けられた2つの反射電極から構成されている。直列共振器82の一端はアンテナ端子Ant(Band2)に接続され、直列共振器86の一端は送信回路の端子Tx(Band2)に接続されている。並列共振器84及び88の一端は、共に接地電位(GND)に接続されている。
【0024】
一方、第2送信フィルタ54は、第1送信フィルタ52と同様に、3つの直列共振器(90、92、96)に対し2つの並列共振器(94、98)が接続されたラダー型のフィルタである。
各共振器(90〜98)は、対向する1組の櫛形電極と、その両端に設けられた2つの反射電極から構成されている。直列共振器92の一端はアンテナ端子Ant(Band3)に接続され、直列共振器96の一端は送信回路の端子Tx(Band3)に接続されている。並列共振器94及び98の一端は、共に接地電位(GND)に接続されている。
【0025】
実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を、図5(a)〜図6(d)に示す。
【0026】
かかる製造方法にあっては、まず圧電基板10上に誘電体層12を形成する(図5(a)参照)。
圧電基板10としては、例えばニオブ酸リチウム(LiNbO)を用いることができ、誘電体層12としては、例えば酸化アルミニウム(Al)を用いることができる。また、圧電基板10の厚みは例えば200〜350μmとすることができ、誘電体層12の厚みは例えば3〜20nmとすることができる。誘電体層12は、例えばスパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)法等により形成することができる。
【0027】
次に、前記誘電体層12上に、フォト・レジスト層14からなるマスクパターンを形成する。(図5(b)参照)
【0028】
そして、かかるフォト・レジスト層14をマスクとして誘電体層12を選択的にエッチング処理し、誘電体層12の厚さを選択的に減ずる。(図5(c)参照)
エッチング処理後、フォト・レジスト層14はアッシング除去される。かかる誘電体層12に対する選択的エッチング処理の結果、その厚さが減じられていない領域を12aと、厚さが減じられた領域を12bとする。
【0029】
次いで、前記誘電体層12上に第1絶縁層16を形成する。(図5(d)参照)
第1絶縁層16としては、例えば酸化シリコン(SiO)を用いることができ、その厚さは例えば80~400nmとすることができる。
【0030】
次に、前記第1絶縁層16上に、フォト・レジスト層18からなるマスクパターンを形成する。(図5(e)参照)
【0031】
そして、かかるフォト・レジスト層18をマスクとして、第1絶縁層16を選択的にエッチング除去して、前記誘電体層12を選択的に表出せしめる。(図6(a)参照)
かかるエッチング処理により、第1絶縁層16が選択的に除去されて表出された誘電体層12領域には、以下の工程に於いて共振器を構成する櫛形電極の電極指ならびに反射電極が形成される(電極指の本数は省略して図示している。以降の図においても同様)。
尚、このとき、誘電体層12がオーバー・エッチングされないように、誘電体層12と第1絶縁層16(本実施例では酸化アルミニウムと酸化シリコン)との選択比が高くなるエッチングプロセスを採用することが好ましい。
【0032】
次に、フォト・レジスト層18ならびに誘電体層12上に、金属層20を被着・形成する。(図6(b)参照)
金属層20としては、例えば銅(Cu)を用いることができ、その厚さは例えば80nm〜400nm(例えば、第1絶縁層16と同程度の厚さ)とすることができる。金属層20の被着方法としては、例えばスパッタリング法を適用することができる。
【0033】
次いで、所謂リフトオフ法を適用して、フォト・レジスト層18及びかかるフォト・レジスト層18上に在る金属層20を除去する。
これにより、誘電体層12の第1領域12a上に被着されている金属層20をもって第1櫛形電極22aが、また第2領域12b上に被着されている金属層20をもって第2櫛形電極22bがそれぞれ形成される。(図6(c)参照)
そして、かかる第1櫛形電極22aならびに第2櫛形電極22bの周囲には、第1絶縁層16が配設されている。
【0034】
しかる後、前記櫛形電極22ならびに第1絶縁層16上を覆って、第2絶縁層24を形成する。(図6(d)参照)
第2絶縁層24としては、例えば酸化シリコン(SiO)を用いることができ、その厚さは例えば300nm〜1500nmとすることができる。
【0035】
図7は、上記製造法をもって形成された実施例1に係る弾性波デバイスの断面を模式的に示す図である。
圧電基板10上に、厚さの異なる誘電体層(第1領域12a及び第2領域12b)が形成されている。第1領域12a及び第2領域12bの上には、それぞれ櫛形電極(第1櫛形電極22a及び第2櫛形電極22b)が形成されている。櫛形電極(22a、22b)の側面及び上面は、共に絶縁層(第1絶縁層16及び第2絶縁層24)により覆われている。
本構成は、IDT上に厚い誘電体層を形成した弾性波デバイスの例であり、櫛形電極櫛形電極(22a、22b)により励起された振動は、第2絶縁層24から圧電基板10表面までを使って伝達する。
【0036】
この様に、実施例1に係る弾性波デバイスにあっては、第1櫛形電極22aと圧電基板10との間にある誘電体層12の第1領域12aの厚さが、第2櫛形電極22bと圧電基板10との間にある誘電体層12の第2領域12bの厚さよりも厚くされている。
この様に、第1領域12aに於ける誘電体層12の厚さと第2領域12bに於ける誘電体層12の厚さが異なっているため、第1領域12aと第2領域12bに形成される弾性波デバイスとは、互いに電気機械結合係数が異なる。
このため、同じ圧電基板上に、電気機械結合係数の異なる複数の弾性波デバイス(例えば、比帯域幅の異なるフィルタ)を容易に形成することができる。
【0037】
図8は、実施例1の変形例に係る弾性波デバイスの断面を模式的に示す図である。
本変形例にあっては、櫛形電極(22a、22b)の側面及び上面に絶縁層が配設されていない他は、図7に示される構成と同様の構成を有する。
本変形例は、弾性表面波(SAW)を用いた弾性波デバイスの例であり、櫛形電極(22a、22b)により励起された振動は、誘電体層(12a、12b)の表面を伝搬する。
このように、実施例1に係る構成は、圧電基板10上の誘電体層12上に櫛形電極が形成された、任意の弾性波デバイスに対して適用することができる。
【実施例2】
【0038】
実施例2は、圧電基板表面に配設される誘電体層に於ける膜厚の相違構造を、実施例1と異ならしめたものである。
【0039】
図9(a)〜図11(b)は、実施例2に係る弾性波デバイスの製造方法を示す図である。
【0040】
まず、圧電基板10上に誘電体層12を形成し、その上に第1絶縁層16を形成する。(図9(a)参照)
前記実施例1と同様に、圧電基板10としては、例えばニオブ酸リチウム(LiNbO)を、また誘電体層12としては例えば酸化アルミニウム(Al)を適用することができる。そして、第1絶縁層としては、例えば酸化シリコン(SiO)を用いることができる。
【0041】
次に、前記第1絶縁層16上に、フォト・レジスト層30からなるマスクパターンを形成する。(図9(b)参照)
【0042】
そして、かかるフォト・レジスト層30をマスクとして、第1絶縁層16ならびに誘電体層12を選択的に、且つその厚さ方向に連続的にエッチング処理して、前記誘電体層12の厚さを選択的に減ずる。(図9(c)参照)
かかる誘電体層12に於いて、その厚さが減じられた部位は、後述する如く、櫛形電極が配設される溝(凹部)を構成する。
【0043】
次に、前記フォト・レジスト層30上、ならびに第1絶縁層16が除去されて表出している誘電体層12上に、金属層31を被着・形成する。(図9(d)参照)
金属層31としては、例えば銅(Cu)を用いることができ、その厚さは例えば、第1絶縁層16の上面と同程度の厚さとすることができる。かかる金属層31の被着方法としては、例えばスパッタリング法を適用することができる。
【0044】
次いで、所謂リフトオフ法を適用して、フォト・レジスト層30及びかかるフォト・レジスト層30上に在る金属層31を除去する。
これにより、誘電体層12に於いて、その厚さが減じられた部位である溝(凹部)内に、第1絶縁層16の上面に至るとほぼ同等の厚さをもって櫛形電極22bが形成される。(図10(a)参照)
かかる櫛形電極22bの周囲には、第1絶縁層16が配設されている。
【0045】
次に、第1絶縁層16上にフォト・レジスト層34からなるマスクパターンを形成する。(図10(b)参照)
ここでは、かかるフォト・レジスト層34に於いて、前記櫛形電極22b部上には開口部を有していない。
【0046】
そして、かかるフォト・レジスト層34をマスクとして、第1絶縁層16を選択的にエッチング処理し、前記誘電体層12の表面を表出する開口を形成する。(図10(c)参照)
尚、このとき、誘電体層12がオーバー・エッチングされないように、誘電体層12と第1絶縁層16(本実施例では酸化アルミニウムと酸化シリコン)との選択比が高くなるエッチングプロセスを採用することが好ましい。
かかる第1絶縁層16に於いて、除去された部位は、後述する如く、櫛形電極22aが配設される溝(凹部)を構成する。
【0047】
次に、フォト・レジスト層34上、ならびに第1絶縁層16が除去されて表出している誘電体層12上に金属層36を被着・形成する。(図10(d)参照)
金属層36としては、例えば銅(Cu)を用いることができ、その厚さは例えば、第1絶縁層16の上面と同程度の厚さとすることができる。金属層31の被着方法としては、前述の如く、例えばスパッタリング法を適用することができる。
【0048】
次いで、所謂リフトオフ法を適用して、フォト・レジスト層34及びかかるフォト・レジスト層34上に在る金属層36を除去する。
これにより、誘電体層12に於いて、その厚さが減じられた部位である溝(凹部)内に、第1絶縁層16の上面に至るとほぼ同等の厚さをもって櫛形電極22aが形成される。(図11(a)参照)
そして、かかる櫛形電極22aの周囲には、第1絶縁層16が配設されている。
【0049】
しかる後、前記櫛形電極22ならびに第1絶縁層16上を覆って第2絶縁層24を形成する。(図11(b)参照)
第2絶縁層24には、例えば酸化シリコン(SiO)を用いることができ、その厚さは例えば300nm〜1500nmとすることができる。
尚、第2絶縁層24を被着する前に、下地層となる絶縁層(例えば、窒化シリコン(SiN)或いは炭化シリコン(SiC))を形成し、その上に酸化シリコン層を形成してもよい。かかる下地層の配設により、電極材料の拡散を防止・抑制することができる。
【0050】
図12は、上記製造法をもって形成された実施例2に係る弾性波デバイスの断面を模式的に示す図である。
図示するように、誘電体層12の凹部32には第2櫛形電極22bが形成され、誘電体層12のうち凹部32以外の領域に第1櫛形電極22aが形成されている。櫛形電極(22a、22b)の側面及び上面は、共に絶縁層(第1絶縁層16及び第2絶縁層24)により覆われている。
本構成は、IDT上に厚い誘電体層を形成した弾性波デバイスの例であり、櫛形電極櫛形電極(22a、22b)により励起された振動は、第2絶縁層24から圧電基板10表面までを使って伝達する。
【0051】
前記実施例2に係る弾性波デバイスによれば、第1櫛形電極22aと圧電基板10との間における誘電体層12の厚さが、第2櫛形電極22bと圧電基板10との間における誘電体層12の厚さよりも厚くされている。従って、第1櫛形電極22aを含む弾性波デバイスと、第2櫛形電極22bを含む弾性波デバイスとは、電気機械結合係数が異なる。
本構成によれば、実施例1と同様に、電気機械結合係数の異なる複数の弾性波デバイスを1チップ上に形成することができる。このため、同じ圧電体基板上に、電気機械結合係数の異なる複数の弾性波デバイス(例えば、比帯域幅の異なるフィルタ)を容易に形成することができる。
【0052】
図13は、実施例2の変形例に係る弾性波デバイスの断面を模式的に示す図である。本変形例にあっては、櫛形電極(22a、22b)の側面及び上面に絶縁層が形成されていない他は、図12に示される構成と同様の構成を有する。
本変形例は、弾性表面波(SAW)を用いた弾性波デバイスの例であり、櫛形電極(22a、22b)により励起された振動は、誘電体層(12a、12b)の表面を伝搬する。
このように、実施例2に係る構成は、圧電基板10上の誘電体層12上に櫛形電極が形成された、任意の弾性波デバイスに対し適用することができる。
【0053】
前記実施例1に係る弾性波デバイスに於いては、圧電基板10上に配設される誘電体層12は、ある厚さを有しその表面に第1櫛形電極22aが形成された第1領域12aと、その表面に第2櫛形電極22bが形成され、第1領域12aとは異なる厚さを有する第2領域12bとを備える。
本実施例1では、誘電体層12は、第2櫛形電極22bの下に位置する領域が均一の厚さをもって形成されており、第2櫛形電極22bの電極指及び電極指間の領域は、いずれも第2領域12b上に位置する。
【0054】
一方、前記実施例2に係る弾性波デバイスに於いては、圧電基板10上に配設される誘電体層12は、第2櫛形電極22bの電極指の下の領域が選択的にその厚さが減じられて、第2櫛形電極22bの電極指幅に対応した溝状の凹部32が形成された構成を備える(第2櫛形電極22bの電極指下部の誘電膜が、第2領域12bに相当する)。
【0055】
この様に、実施例1或いは実施例2のいずれの場合も、第1櫛形電極22aと圧電基板10との間にある第1領域12aの厚さと、第2櫛形電極22bと圧電基板10との間にある第2領域12bの厚さとに、相違が生じている。これにより、一つの弾性波デバイスに於ける一枚の圧電基板10上に、電気機械結合係数の異なる複数の弾性波デバイスを形成することができる。
【0056】
前記実施例1或いは実施例2に示される弾性波デバイスにあっては、一枚の圧電基板上において領域ごとに電気機械結合係数を異ならせることにより、電気機械結合係数をそれぞれのフィルタの比帯域幅に合わせて最適化することができる。これにより、比帯域幅の異なる複数のフィルタが一枚の圧電基板上に形成された弾性波デバイスを得ることができる。
このとき、厚さの異なる誘電体層上に形成された2つの電極(第1櫛形電極及び第2櫛形電極)は、信号系統の異なる入出力端子に接続される。例えば、第1櫛形電極が第1入力端子または第1出力端子のいずれかに接続され、第2櫛形電極が第2入力端子または第2出力端子のいずれかに接続される。
【0057】
また、実施例1或いは実施例2に於いては、誘電体層12上に櫛形電極が形成された弾性波デバイスを例に説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではない。本発明は、誘電体層12上に電極が形成された弾性波デバイスであって、誘電体層12の厚さにより電気機械結合係数を変更することが可能な任意の弾性波デバイスに対し適用することができる。
【0058】
また、実施例1或いは実施例2に於いては、弾性表面波(SAW)、特にIDT上に厚い誘電体層を形成する弾性波デバイスについて説明したが、本発明は弾性境界波を用いる弾性波デバイスにも適用することが可能である。例えば、図7において第2絶縁層24上にさらに別の絶縁層を形成し、両者の境界を弾性波が伝搬する構成とすることができる。
【0059】
更に、実施例1或いは実施例2に於いては、ラダー型のフィルタ(図4)について説明したが、本発明は他の型のフィルタ(例えば、多重モードフィルタ)に対しても適用することができる。
【0060】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0061】
10、70、110 圧電基板
12 誘電体層
16 第1絶縁層
22 電極
24 第2絶縁層
50 送信フィルタ
60 受信フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された誘電体層と、
前記誘電体層上に形成された第1櫛形電極及び第2櫛形電極と、を備え、
前記第1櫛形電極と前記圧電基板との間における前記誘電体層の厚さは、前記第2櫛形電極と前記圧電基板との間における前記誘電体層の厚さと異なることを特徴とする弾性波デバイス。
【請求項2】
前記第1櫛形電極を含む第1フィルタと、
前記第2櫛形電極を含み、前記第1フィルタとは信号系統の異なる第2フィルタと、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記第1フィルタ及び前記第2フィルタは、比帯域幅が異なることを特徴とする請求項2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記誘電体層は、
前記第1櫛形電極が形成された第1領域と、
前記第2櫛形電極が形成され、前記第1領域より小さい厚さを有する第2領域と、を含み、
前記第2櫛形電極の電極指及び電極指間の領域は、共に前記第2領域上に位置することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記誘電体層には、前記第2櫛形電極の電極指幅に対応した凹部が設けられ、
前記第2櫛形電極の電極指は、前記凹部に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記誘電体層は、酸化アルミニウムを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記誘電体層、前記第1櫛形電極、及び前記第2櫛形電極を覆うように形成された絶縁層を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記絶縁層は、酸化シリコンを含むことを特徴とする請求項7に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
圧電基板上に、第1領域及び前記第1領域と厚さの異なる第2領域を有する誘電体層を形成する工程と、
前記第1領域上に第1櫛形電極を形成する工程と、
前記第2領域上に第2櫛形電極を形成する工程と、
を備えることを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−169707(P2012−169707A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26534(P2011−26534)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】