説明

弾性波デバイス

【課題】周波数温度特性を向上させると共に、弾性波の伝搬ロスを低減すること。
【解決手段】本発明は、圧電基板10上に設けられた櫛型電極12と、圧電基板10上に櫛型電極12を覆って設けられたSiOF膜16と、を備え、SiOF膜16の上面に光を入射させたときの反射率の極大値を、圧電基板10の上面にその極大値での波長の光を直に入射させたときの反射率で規格化した規格化反射率が、0.96以上である弾性波デバイスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
弾性波を利用した弾性波デバイスの1つとして、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)デバイスが知られている。SAWデバイスは、小型軽量で高減衰量が得られることから、例えば携帯電話端末などの無線機器における45MHz〜2GHzの周波数帯の無線信号を処理する各種回路に用いられている。各種回路としては、例えば送信バンドパスフィルタ、受信バンドパスフィルタ、局発フィルタ、アンテナ共用器、IFフィルタ及びFM変調器が挙げられる。
【0003】
近年、携帯電話端末の高性能化、小型化に伴い、周波数温度特性の向上やデバイスサイズの小型化などが求められている。周波数温度特性の向上には、例えば圧電基板上に形成した櫛型電極を覆って酸化シリコン膜を設ける方法が開発されている。また、酸化シリコンはSiOのXの値を減らすと光学的な吸収が大きくなることが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−6901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
櫛型電極を覆うように元素がドープされた酸化シリコン膜を設けて周波数温度特性を向上させる場合がある。この場合、弾性波の伝搬ロスが大きくなるという課題が生じている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、周波数温度特性を向上させると共に、弾性波の伝搬ロスを低減することが可能な弾性波デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、圧電基板上に設けられた櫛型電極と、前記圧電基板上に前記櫛型電極を覆って設けられた、元素がドープされた酸化シリコン膜と、を備え、前記元素がドープされた酸化シリコン膜の上面に光を入射させたときの反射率の極大値を、前記圧電基板の上面に前記極大値での波長の光を直に入射させたときの反射率で規格化した規格化反射率が、0.96以上であることを特徴とする弾性波デバイスである。本発明によれば、周波数温度特性を向上させると共に、弾性波の伝搬ロスを低減することができる。
【0008】
上記構成において、前記元素がドープされた酸化シリコン膜の上面に入射させた前記光の波長が230nm〜250nmの範囲における反射率の極大値を規格化した規格化反射率が、0.96以上である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記元素がドープされた酸化シリコン膜は、2種類以上の元素がドープされている構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記元素がドープされた酸化シリコン膜は、フッ素がドープされている構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記元素がドープされた酸化シリコン膜上に、前記元素がドープされた酸化シリコン膜よりも音速の速い誘電体を備える構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記圧電基板は、LT基板またはLN基板である構成とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、周波数温度特性を向上させると共に、弾性波の伝搬ロスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実験に用いたサンプルの断面模式図の例である。
【図2】図2(a)から図2(d)は、分光膜厚計の測定原理を説明する図である。
【図3】図3(a)は、サンプル1の測定結果であり、図3(b)は、サンプル2の測定結果である。
【図4】図4は、反射率と伝搬ロスとの相関を調査するために作製した共振器の断面模式図の例である。
【図5】図5は、規格化反射率に対する規格化Q値を示した図である。
【図6】図6(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスの上面模式図の例であり、図6(b)は、図6(a)のA−A間の断面模式図の例である。
【図7】図7は、実施例2に係る弾性波デバイスの断面模式図の例である。
【図8】図8は、規格化反射率に対する規格化Q値を示した図である。
【図9】図9は、実施例3に係る弾性波デバイスの製造方法を示すフローチャートである。
【図10】図10(a)から図10(c)は、弾性波デバイスの製造工程を示す断面模式図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず初めに、発明者が行った実験について説明する。図1は、実験に用いたサンプルの断面模式図の例である。図1を参照して、シリコン基板50上に薄膜52が設けられている。ここで、薄膜52にアンドープの酸化シリコン膜(以下、SiO膜と称す)を用いたものをサンプル1とし、薄膜52にF(フッ素)がドープされた酸化シリコン膜(以下、SiOF膜と称す)を用いたものをサンプル2として準備した。なお、サンプル1及びサンプル2において、薄膜52の膜厚は1〜3μmの範囲である。サンプル1の薄膜52であるSiO膜と、サンプル2の薄膜52であるSiOF膜とについて、分光膜厚計による測定を行った。分光膜厚計は、膜厚測定において広く用いられている手法であり、分光光度計を利用した光学系によって得られた反射率から光学的膜厚を求めるものである。
【0016】
ここで、図2(a)から図2(d)を用いて、分光膜厚計の測定原理を簡単に説明する。図2(a)を参照して、基板60上に薄膜62が設けられている。薄膜62に斜め上方から光を入射させると、薄膜62の上面で反射した反射光R1と、薄膜62と基板60との界面で反射した反射光R2と、が発生する。分光膜厚計は、反射光R1と反射光R2との干渉現象を測定するものである。即ち、図2(b)のように、反射光R1と反射光R2との光路差が0のときでは、反射光は互いに強め合うようになる。一方、図2(c)のように、光路差がλ/2のときでは、反射光は互いに弱め合うようになる。なお、ここで言うλは、入射光の波長のことである。したがって、分光器を用いて入射光の波長を変化させて薄膜62の反射率を測定すると、例えば図2(d)のような反射率スペクトルが得られる。
【0017】
このような分光膜厚計を用いた反射率の測定をサンプル1及びサンプル2の薄膜52に対して実施した。図3(a)は、サンプル1の測定結果であり、図3(b)は、サンプル2の測定結果である。図3(a)及び図3(b)において、薄膜52に斜め上方から光を入射させたときの反射率スペクトルを実線で示している。また、薄膜52の膜厚を0としたときのシリコン基板50に直接斜め上方から光を入射させたときの反射率スペクトルを破線で示している。つまり、破線はシリコン基板50からの反射率を示している。なお、波長が230nm以下の反射率を示していないのは、使用した分光膜厚計の測定限界によるものである。図3(a)を参照して、薄膜52がSiO膜である場合は、反射率の極大部分で、シリコン基板50からの反射率とほぼ一致する。一方、図3(b)を参照して、薄膜52がSiOF膜である場合は、230nm〜250nmのような短波長で、反射率の極大部分でも、シリコン基板50からの反射率よりも小さくなっている。波長がより短くなるほど、極大部分での反射率が、シリコン基板50からの反射率よりもより小さくなっている。なお、図3(a)及び図3(b)は、薄膜52の膜厚が1〜3μmの場合についての測定結果であるが、その他の膜厚の場合でも同様の結果が得られる。
【0018】
薄膜52で入射光を吸収しない場合、薄膜52の反射率は、シリコン基板50からの反射率に対してほぼ100%となり、反射率の極大値が、シリコン基板50からの反射率と一致する。このことから、図3(b)で説明したサンプル2では、SiOF膜である薄膜52が、230nm〜250nmのような短波長の光を吸収していることが分かる。このような光の吸収は、SiOにドープされたFの一部が、Si−O結合には入らず不純物として存在し、結晶構造の歪みや酸素欠陥などが生じたことに起因するものであると考えられる。
【0019】
したがって、このような結晶構造の歪みや酸素欠陥などを要因とする光の吸収は、ドープされた元素の一部がSi−O結合に入り込まないSiOF膜の場合に限られない。例えばCl(塩素)、C(炭素)、N(窒素)、P(リン)及びS(硫黄)の少なくとも1つの元素がドープされた酸化シリコン膜でも起こる。これらの元素がSiOにドープされると、ある程度のドープ量までは、元素はSi−O結合のOと置換するが、ドープ量が多くなると、Oと置換できない元素が出てくるためである。つまり、ドープ量が閾値以下の場合は、元素はSi−O結合に入り込むため、結晶構造の歪みや酸素欠陥は抑制され、光の吸収はあまり起こらない。しかしながら、ドープ量が閾値を超えると、Si−O結合に入り込めない元素が出てくるため、結晶構造の歪みや酸素欠陥が生じ、光の吸収が大きくなる。以上のことから、元素がドープされた酸化シリコン膜(以下、ドープ酸化シリコン膜と称す)に結晶構造の歪みや酸素欠陥が生じると、光の吸収が起こり、反射率が低下するものと考えられる。
【0020】
そこで、発明者は、櫛型電極を覆って媒質が設けられた共振器において、媒質の反射率と弾性波の伝搬ロスとの相関についての調査を行った。図4は、反射率と伝搬ロスとの相関を調査するために作製した共振器の断面模式図の例である。図4を参照して、タンタル酸リチウム(LT)基板からなる圧電基板70上に、櫛型電極72及び反射器74が設けられている。櫛型電極72及び反射器74は、Cu(銅)を主成分とする。周波数温度特性を向上させるために、櫛型電極72及び反射器74を覆って、Fがドープされた酸化シリコン膜(以下、SiOF膜76と称す)が設けられている。SiOF膜76は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて成膜し、膜厚は0.3λとした。なお、ここで言うλは弾性波の波長であり、櫛型電極72の電極指の周期に相当する。
【0021】
ここで、SiOF膜76を、様々な成膜条件で成膜して、複数の共振器を作製した。成膜条件として、温度、圧力、原料ガス、原料ガスの流量、及び高周波出力(プラズマを生成するための高周波電力)を変化させた。成膜条件を変化させることで、例えばSiOF膜76のFドープ量を変化させることができる。これら複数の共振器それぞれについて、分光膜厚計を用い、SiOF膜76に斜め上方から光を入射させて反射率スペクトルを測定した。また、圧電基板70の上面に直接斜め上方から光を入射させて反射率スペクトルを測定した。そして、入射光の波長が240nm付近でのSiOF膜76の反射率の極大値を、その極大値における波長での圧電基板70からの反射率で規格化した規格化反射率を求めた。入射光の波長が240nm付近において規格化反射率を求めたのは、図3(b)で説明したように、光の波長が短くなるほど、光の吸収が生じて反射率が低下するためである。さらに、複数の共振器それぞれについて、反共振周波数のQ値を測定した。また、SiOF膜76の代わりに膜厚0.3λ(λは弾性波の波長)のSiO膜を設けた共振器を作製し、この共振器の反共振周波数のQ値も測定した。そして、SiOF膜76を用いた共振器の反共振周波数のQ値を、SiO膜を用いた共振器の反共振周波数のQ値で規格化した規格化Q値を求めた。
【0022】
図5は、規格化反射率に対する規格化Q値を示した図である。なお、図5において、SiOF膜76を用いた共振器での測定結果の近似直線を一点鎖線で示している。図5を参照して、規格化反射率と規格化Q値とには相関性が見られ、規格化反射率が0.96より小さくなると、規格化Q値が1より小さくなり、弾性波の伝搬ロスが大きくなる結果となった。このように、規格化反射率が低下すると、規格化Q値が小さくなるのは以下の理由によるものと考えられる。SiOF膜76のFドープ量が閾値を超えて多くなると、上述したように、Si−O結合に入り込めないFにより結晶構造の歪みや酸素欠陥などが生じて光の吸収が大きくなり、反射率の低下が生じると考えられる。また、SiOF膜76に結晶構造の歪みや酸素欠陥などが生じると、伝搬する弾性波は、結晶構造の歪みや酸素欠陥などに起因して減衰すると考えられる。したがって、規格化反射率が小さくなると、弾性波の伝搬ロスが大きくなり、規格化Q値が低下すると考えられる。なお、Fドープ量が閾値より少ない場合は、FはSi−O結合のOと置換するため、結晶構造の歪みや酸素欠陥などは抑制される。このため、規格化反射率が0.96以上の場合は、Fドープ量は結晶構造の歪みや酸素欠陥などが抑えられるドープ量であり、規格化Q値の低下が抑制されたものと考えられる。
【0023】
上述したように、ドープ酸化シリコン膜では、ドープ量が多くなると結晶構造の歪みや酸素欠陥などが生じ易くなり、反射率が小さくなる。このことから、櫛型電極を覆ってドープ酸化シリコン膜を設けた共振器の場合、規格化反射率が小さくなると、弾性波の伝搬ロスが大きくなり、規格化Q値が低下する。したがって、ドープ酸化シリコン膜を用いた共振器の場合でも、図5の結果を適用することができる。また、図5は、SiOF膜76の膜厚が0.3λの場合での測定結果であるが、ドープ酸化シリコン膜の膜厚が0.3λ以外の場合でも、図5の結果を適用することができる。例えば、ドープ酸化シリコン膜の膜厚が、周波数温度特性を向上させるのに通常用いられる範囲内の厚さの場合に、図5の結果を適用することができる。
【0024】
そこで、以上の実験により得られた知見に基づき、周波数温度特性を向上させると共に、弾性波の伝搬ロスを低減することが可能な実施例について以下に説明する。
【実施例1】
【0025】
図6(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスの上面模式図の例であり、図6(b)は、図6(a)のA−A間の断面模式図の例である。なお、図6(a)においては、SiOF膜を透視して図示している。図6(a)を参照して、例えばLT基板からなる圧電基板10上に、櫛型電極12と反射器14とが設けられている。反射器14は、櫛型電極12の両側に設けられている。櫛型電極12は、弾性波を励振する電極であり、入力用及び出力用の2つの電極が向き合って、それぞれの電極指が互い違いに並ぶように配置されている。櫛型電極12及び反射器14は、例えばCuを主成分とする。
【0026】
図6(b)を参照して、圧電基板10上に設けられた櫛型電極12及び反射器14を覆うように、例えばFがドープされた酸化シリコン膜(以下、SiOF膜16と称す)が設けられている。SiOF膜16の膜厚は、櫛型電極12の膜厚よりも厚い。例えば、電極指間のSiOF膜16の膜厚は、櫛型電極12の膜厚よりも厚い。また、SiOF膜16の上面に光を入射させたときの反射率の極大値を圧電基板10の上面にその極大値での波長の光を直接入射させたときの反射率で規格化した規格化反射率が、0.96以上となるように、CVD法での成膜条件を調整してSiOF膜16は成膜されている。例えば、SiOF膜16は、原料ガスにSiH、NO、Cを用い、流量比をSiH:NO:C=1:50:3とし、成膜温度を270℃として成膜することができる。
【0027】
このように、実施例1によれば、圧電基板10上に設けられた櫛型電極12を覆ってSiOF膜16が設けられている。このため、周波数温度特性を向上させることができる。また、SiOF膜16の規格化反射率を0.96以上としている。このため、図5で説明したように、弾性波の伝搬ロスを低減することができる。したがって、実施例1に係る弾性波デバイスは、周波数温度特性の向上と弾性波の伝搬ロスの低減との両方を実現することができる。
【0028】
実施例1では、櫛型電極12を覆ってSiOF膜16(Fがドープされた酸化シリコン膜)が設けられた場合を例に示したがこの場合に限られず、ドープ酸化シリコン膜が設けられた場合であればよい。ドープ酸化シリコン膜は、周波数温度特性をより向上させる観点から、Si−O結合のOと置換する元素がドープされている場合が好ましい。例えば、F、Cl、C、N、P及びSのうちの少なくとも1つの元素がドープされている場合が好ましい。ドープ酸化シリコン膜が設けられた場合でも、ドープ酸化シリコン膜の規格化反射率を0.96以上とすることで、周波数温度特性の向上ができ、且つ弾性波の伝搬ロスを低減できる。また、ドープ酸化シリコン膜の規格化反射率を、0.965以上とすることがより好ましく、0.97以上とすることがさらに好ましい。これにより、弾性波の伝搬ロスをより確実に低減できる。さらに、酸化シリコン膜に1種類の元素がドープされている場合に限られず、2種類以上の元素がドープされている場合でもよい。
【0029】
図5では、入射光の波長が240nm付近での反射率の極大値を規格化して規格化反射率を求めた場合を例に示したがこの場合に限られる訳ではない。図3(b)で説明したように、入射光の波長が230nm〜250nmのような短波長になると、ドープ酸化シリコン膜は光の吸収が生じ易くなり、規格化反射率は小さくなる傾向になる。このことから、入射光の波長が230nm〜250nmの範囲における反射率の極大値を規格化した規格化反射率が、0.96以上であることが好ましい。また、分光膜厚計の測定限界が230nm以下の場合であれば、分光膜厚計の測定限界値〜250nmの範囲における反射率の極大値を規格化した規格化反射率が、0.96以上であることが好ましい。
【0030】
実施例1では、圧電基板10はLT基板である場合を例に示したが、ニオブ酸リチウム(LN)基板を用いた場合でも、図5の結果を適用することができる。これは、屈折率が大きく変わらないためである。
【0031】
実施例1では、共振器の場合を例に説明したが、共振器を用いたラダー型フィルタまたは多重モードフィルタの場合でもよい。また、櫛型電極は、Al、Au、Ag、Cu、W、Ta、Pt、Mo、Ni、Co、Cr、Fe、Mn及びTiを主に含む単層又はこれらの積層の場合でもよい。
【0032】
実施例1において、SiOF膜16を成膜する際の原料ガスとして、SiH、NO及びCを用いる場合を例に示したが、これに限られない。例えば、SiソースとしてSiH以外にtetraethoxysilane(TEOS)又はSiFを用いることができ、FソースとしてC以外にCF、NF、F、HF、SF、ClF、BF、BrF、SF、SiF、NFCl、FSiH及びFSiHの少なくとも1つを用いることができる。
【実施例2】
【0033】
図7は、実施例2に係る弾性波デバイスの断面模式図の例である。図7を参照して、SiOF膜16上に、例えば酸化アルミニウム膜からなる誘電体18が設けられている。その他の構成については、実施例1と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0034】
酸化アルミニウム膜の音速は、SiOF膜の音速よりも速い。このため、弾性波エネルギーは、誘電体18と圧電基板10の表面との間に閉じ込められる。即ち、実施例2に係る弾性波デバイスは、弾性境界波デバイスである。したがって、実施例2に係る弾性波デバイスによれば、デバイスの小型化を実現することができる。
【0035】
実施例2のように、ドープ酸化シリコン膜上に、これよりも音速の速い誘電体が設けられた場合でも、ドープ酸化シリコン膜の規格化反射率を0.96以上とすることで、周波数温度特性の向上と弾性波の伝搬ロスの低減とを実現できる。
【0036】
誘電体18は、酸化アルミニウム膜である場合に限られる訳ではなく、ドープ酸化シリコン膜よりも音速の速い誘電体であればよい。例えば、誘電体18は、酸化アルミニウム膜の他に、窒化シリコン膜又は酸化シリコン膜を用いてもよい。
【0037】
なお、実施例2のような弾性境界波デバイスでは、ドープ酸化シリコン膜上の誘電体を、例えばエッチングにより除去した後に、ドープ酸化シリコン膜の反射率を測定することができる。この際、オーバーエッチングによりドープ酸化シリコン膜が少し削られても、反射率の測定結果にはほとんど影響を与えない。また、ドープ酸化シリコン膜上に設けられる誘電体の反射率を予め求めておき、ドープ酸化シリコン膜と誘電体との積層膜の状態で反射率を測定した後、予め求めておいた誘電体の反射率を参照して、ドープ酸化シリコン膜の反射率を求めてもよい。
【実施例3】
【0038】
実施例3は、弾性波デバイスの製造方法の例である。まず、弾性波デバイスの製造方法を説明する前に、発明者が行った実験について説明する。シリコン基板上に、CVD法を用いて様々な成膜条件で、膜厚1〜3μmの範囲にあるSiOF膜を成膜し、分光膜厚計を用いて、SiOF膜の反射率スペクトルを測定した。また、SiOF膜を設けていないシリコン基板の反射率スペクトルも測定した。そして、入射光の波長が240nm付近でのSiOF膜の反射率の極大値を、シリコン基板からの反射率で規格化した規格化反射率を求めた。次に、圧電基板上に櫛型電極及び反射器を形成し、この櫛型電極及び反射器を覆って、膜厚0.3λ(λは弾性波の波長)のSiOF膜を形成した共振器を複数作製した。圧電基板にはLN基板を用い、櫛型電極及び反射器はCuを主成分とした。また、SiOF膜の成膜は、上記のシリコン基板上にSiOF膜を成膜したときの様々な成膜条件を用いた。これら複数の共振器それぞれについて、反共振周波数のQ値を測定した。また、SiOF膜の代わりに、膜厚0.3λ(λは弾性波の波長)のSiO膜を用いた共振器を作製し、反共振周波数のQ値を測定した。そして、SiOF膜を用いた共振器の反共振周波数のQ値を、SiO膜を用いた共振器の反共振周波数のQ値で規格化した規格化Q値を求めた。
【0039】
図8は、規格化反射率に対する規格化Q値を示した図である。なお、図8において、SiOF膜を用いた共振器の測定結果の近似直線を一点鎖線で示している。図8を参照して、規格化反射率と規格化Q値とには相関性が見られ、規格化反射率が0.94より小さくなると、規格化Q値が1より小さくなり、弾性波の伝搬ロスが増大する。なお、図5での説明の際に述べた理由と同じ理由から、ドープ酸化シリコン膜を用いた場合でも、規格化反射率が小さくなると、弾性波の伝搬ロスが大きくなり規格化Q値が低下するため、図8の結果を適用することができる。また、ドープ酸化シリコン膜の膜厚が、図8の実験に用いた試料と異なる場合でも、図8の結果を適用することができる。
【0040】
そこで、この実験結果を踏まえた、弾性波デバイスの製造方法を説明する。図9は、実施例3に係る弾性波デバイスの製造方法を示すフローチャートである。図9を参照して、まず、シリコン基板上にドープ酸化シリコン膜(例えばSiOF膜)を、CVD法を用いて成膜する(ステップS10)。この際の成膜条件は、温度、圧力、原料ガス、原料ガスの流量、高周波出力の値を1組にしてデータベースに記録してある。データベースには、複数の成膜条件が記録されている。例えば、ドープ酸化シリコン膜の規格化反射率が高い成膜ができた順に、成膜条件に優先順位がつけられている。そして、優先順位の高い成膜条件から順に、データベースから読み出して成膜装置へ設定して成膜する。
【0041】
次に、分光膜厚計を用いて、シリコン基板上に形成されたドープ酸化シリコン膜の反射率スペクトルを測定し、例えば光の波長が240nm付近での反射率の極大値を求める(ステップS12)。また、シリコン基板の反射率スペクトルも測定し、ステップS12で求めた反射率の極大値における波長でのシリコン基板からの反射率を求める。そして、ドープ酸化シリコン膜の反射率の極大値を、シリコン基板からの反射率で規格化した規格化反射率を算出する(ステップS14)。
【0042】
次に、この規格化反射率が0.94以上であるかを判断する(ステップS16)。Noの場合、成膜条件を変更する(ステップS18)。その後、ステップS10に戻る。ステップS16でYesの場合、ステップS10で用いた成膜条件を成膜装置に設定して弾性波デバイスの製造工程に用いる(ステップS20)。
【0043】
図10(a)から図10(c)は、弾性波デバイスの製造工程を示す断面模式図の例である。図10(a)を参照して、例えばLT基板またはLN基板からなる圧電基板10を準備する。図10(b)を参照して、圧電基板10上に、例えば蒸着法及びリフトオフ法を用いて、金属からなる櫛型電極12及び反射器14を形成する。図10(c)を参照して、櫛型電極12及び反射器14を覆うように、圧電基板10上にドープ酸化シリコン膜(例えばSiOF膜16)をCVD法により成膜する。ドープ酸化シリコン膜の成膜においては、図9のステップS10で用いた成膜条件を用いる。
【0044】
実施例3によれば、図9のステップS16及びステップS20のように、ステップS10で成膜したドープ酸化シリコン膜の規格化反射率が0.94以上の場合、ステップS10で用いた成膜条件を用いて弾性波デバイスを製造する。これにより、周波数温度特性を向上させると共に、図8で説明したように弾性波の伝搬ロスを低減させた弾性波デバイスを製造することができ、歩留まりを向上させることができる。
【0045】
図9のステップS16では、規格化反射率が0.94以上であるか判断する場合を例に示したが、この場合に限られない。規格化反射率が0.95以上であるか判断する場合がより好ましく、0.96以上であるか判断する場合がさらに好ましい。この場合、弾性波の伝搬ロスをより確実に低減できる。
【0046】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 圧電基板
12 櫛型電極
14 反射器
16 SiOF膜
18 誘電体
50 シリコン基板
52 薄膜
60 基板
62 薄膜
70 圧電基板
72 櫛型電極
74 反射器
76 SiOF膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に設けられた櫛型電極と、
前記圧電基板上に前記櫛型電極を覆って設けられた、元素がドープされた酸化シリコン膜と、を備え、
前記元素がドープされた酸化シリコン膜の上面に光を入射させたときの反射率の極大値を、前記圧電基板の上面に前記極大値での波長の光を直接入射させたときの反射率で規格化した規格化反射率が、0.96以上であることを特徴とする弾性波デバイス。
【請求項2】
前記元素がドープされた酸化シリコン膜の上面に入射させた前記光の波長が230nm〜250nmの範囲における反射率の極大値を規格化した規格化反射率が、0.96以上であることを特徴とする請求項1記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記元素がドープされた酸化シリコン膜は、2種類以上の元素がドープされていることを特徴とする請求項1または2記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記元素がドープされた酸化シリコン膜は、フッ素がドープされていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記元素がドープされた酸化シリコン膜上に、前記元素がドープされた酸化シリコン膜よりも音速の速い誘電体を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記圧電基板は、LT基板またはLN基板であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の弾性波デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−85189(P2013−85189A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225108(P2011−225108)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】