説明

弾性波フィルタ及びその制御方法

【課題】弾性表面波を利用した弾性波フィルタにおいて、簡易化構成で周波数特性を可変にできるとともに、温度変化に対して好適に対応できる弾性波フィルタ及びその制御方法を提供すること。
【解決手段】弾性波フィルタ1は、圧電基板3のダイアフラム部5の表面に、弾性波フィルタ素子7と測温素子9とヒータ素子11とが密着して形成されている。従って、簡易な構成の弾性波フィルタ1であるにもかからず、ヒータ素子11によって弾性波フィルタ素子7の温度を変化させて、弾性波フィルタ素子7の周波数特性をリアルタイムで任意に変化させることができる。特に、測温素子9によって弾性波フィルタ素子7の温度を測定しながら、ヒータ素子11によって弾性波フィルタ素子7を加熱して、弾性波フィルタ素子7を所望の温度に制御することにより、周囲の温度にかかわらず、弾性波フィルタ素子7の周波数特性を、安定的に所望の特性に調節することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば放送機器、通信機器、計測機器等の分野において、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)を利用して、高周波信号のフィルタリングを行う弾性波フィルタと、その弾性波フィルタの動作の制御を行う弾性波フィルタの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、例えば携帯電話などの用途において、その性能の向上に伴い、高周波フィルタの周波数特性(例えば通過帯域の範囲等)をリアルタイムで可変したいという要求が多くなっており、例えば特許文献1では、フィルタを構成する回路に、電圧でインピーダンスを変化させることが可能な素子を用いる方法が提案されている。
【0003】
また、高周波フィルタとしては、構造が簡単で周波数特性が良いとされているものに、弾性表面波を利用した弾性波フィルタ(即ち弾性表面波フィルタ)があるが、この弾性表面波フィルタには、周波数特性を可変とするものは無い。
【0004】
なお、この弾性表面波フィルタとは、圧電基板等の表面を伝達する弾性表面波の特性を利用して高周波信号のフィルタリングを行うものである(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−335103号公報
【特許文献2】特開昭49−066051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1の技術では、共振素子と電圧制御型インピーダンス可変素子とを接続して1又は複数の電圧制御型周波数可変素子を構成しているので、構造が複雑になるという問題があった。
【0007】
また、前記弾性表面波フィルタは、周波数特性を可変とするものはないので、周波数特性を可変とするためには、複数のフィルタを並列に接続する必要があり、その場合も構造が複雑になるという問題があった。
【0008】
特に、弾性表面波フィルタにおいては、温度が変化すると、回路を構成する素子の特性の変化によって、周波数特性が変化するので、その対策も必要である。
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、弾性表面波を利用して高周波のフィルタリングを行う弾性波フィルタにおいて、簡易な構成で周波数特性を可変にできるとともに、温度変化に対して好適に対応できる弾性波フィルタ及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、請求項1に記載の様に、高周波のフィルタリングを行う弾性波フィルタにおいて、一部を他の部位より薄肉にしてダイアフラム形状とした基板を用いるとともに、該基板の薄肉部分(例えばダイアフラム部)の表面に、弾性表面波を利用して高周波のフィルタリングを行う弾性波フィルタ素子(例えば弾性表面波フィルタ素子)と、周囲の温度を測定する測温素子と、周囲の加熱を行うヒータ素子とを密着して形成したことを特徴とする。
【0010】
本発明では、基板の薄肉部分(ダイアフラム部)の表面に、弾性波フィルタ素子と測温素子とヒータ素子とが密着して形成されており、この弾性波フィルタ素子は、温度によってその周波数特性(例えば通過帯域)が変化する。
【0011】
従って、本発明の弾性波フィルタ素子を用いることにより、簡易な構成にもかからず、ヒータ素子によって弾性波フィルタ素子の温度を変化させて、弾性波フィルタ素子の周波数特性をリアルタイムで任意に変化させることができる。
【0012】
また、弾性波フィルタ素子の温度は、測温素子によって検知できるので、弾性波フィルタ素子の周波数特性を正確に把握することができる。
更に、本発明の弾性波フィルタ素子を用いる場合には、測温素子によって弾性波フィルタ素子の温度を測定しながら、ヒータ素子によって弾性波フィルタ素子を加熱して、弾性波フィルタ素子を所望の温度(目標温度)に制御することができる。これにより、周囲の温度にかかわらず、弾性波フィルタ素子の周波数特性を、安定的に所望の特性に調節することができる。
【0013】
しかも、本発明では、基板の薄肉部分(ダイアフラム部)の表面に、弾性波フィルタ素子と測温素子とヒータ素子とが形成されている。そのため、熱容量が小さく、ヒータ素子によって加熱する場合に、速やかに周波数特性を変化させることができる(即ち、可変追従速度を向上することができる)。また、消費電力を低減することができる。更に、弾性波フィルタの機能集約による小型化や低価格化が可能である。
【0014】
ここで、前記弾性波フィルタ素子としては、例えば圧電基板上に少なくとも一対の櫛歯電極等からなる電極(入力電極と出力電極)を配置した構成を採用できる。なお、圧電基板の材料としては、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等を採用できる。また、入力電極と出力電極の材料としては、白金、金、アルミニウム等を採用できる。
【0015】
前記測温素子としては、例えば自身の温度によって抵抗が変化する材料からなる抵抗体パターンを採用できる。なお、測温素子の材料としては、白金、金、イリジウム、ロジウム等を採用できる。
【0016】
前記ヒータ素子としては、例えば白金、ニッケル・クロム合金等からなるヒータパターンを採用できる。
(2)本発明では、請求項2に記載の様に、圧電材料を用いた基板の同一平面上に、弾性波フィルタ素子と測温素子とヒータ素子とをパターン形成することができる。
【0017】
これにより、ダイアフラム部における構成を一層薄肉にできるので、周波数特性をより速く変化させることができる。
(3)本発明では、請求項3に記載の様に、弾性波フィルタ素子に近接して、測温素子を設けることができる。
【0018】
つまり、測温素子を弾性波フィルタ素子に近接して配置することにより、弾性波フィルタ素子の温度(従って弾性波フィルタ素子の周波数特性)を、精度良く把握することができる。
【0019】
なお、ここで、「近接」とは、500μm以内の範囲を示している。
(4)本発明では、請求項4に記載の様に、弾性波フィルタ素子と測温素子との周囲を囲むように、ヒータ素子を設けることができる。
【0020】
これにより、弾性波フィルタ素子と測温素子とを同様に加熱することができるので、測温素子による(弾性波フィルタ素子の)温度測定の精度を高めることができる。
(5)本発明では、請求項5に記載の様に、弾性波フィルタ素子を複数備えるとともに、第1の弾性波フィルタ素子の弾性表面波の入力側の電極(例えば入力電極)と、第2の弾性波フィルタ素子の弾性表面波の出力側の電極(例えば出力電極)とを、電気的に接続することができる。
【0021】
ここでは、複数の弾性波フィルタ素子を用いた例を示している。
これにより、第1の弾性波フィルタ素子の温度と第2の弾性波フィルタ素子の温度とを独立して制御することができるので、遮断特性と帯域幅特性とを選択的に可変にすることができる。
【0022】
例えば、第1の弾性波フィルタ素子と第2の弾性波フィルタ素子とを同じ温度に制御したり、異なる温度に制御にすることにより、弾性波フィルタの周波数特性を任意に設定することができる。
【0023】
なお、第1の弾性波フィルタ素子と第2の弾性波フィルタ素子とは、同じハード構成(従って同じ温度では同じ周波数特性)とすることができる。また、両弾性波フィルタ素子を、異なるハード構成(従って同じ温度でも異なる周波数特性)としてもよい。
【0024】
(6)本発明は、請求項6に記載の様に、前記請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性波フィルタの制御方法であって、前記測温素子によって測定した温度に基づいて、前記ヒータ素子による加熱状態を調節して、前記弾性波フィルタ素子の温度を目標温度に制御することを特徴とする。
【0025】
本発明では、測温素子によって測定した温度に基づいて、ヒータ素子による加熱状態を調節して、弾性波フィルタ素子の温度を目標温度に制御するので、周囲の温度にかかわらず、弾性波フィルタ素子の周波数特性を、安定的に所望の特性に調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は実施例1の弾性波フィルタを示す平面図、(b)は(a)のA−A断面を示す断面図である。
【図2】(a)は弾性波フィルタ素子の入力電極及び出力電極を示す平面図、(b)は測温素子の蛇行部を示す平面図である。
【図3】弾性波フィルタ及びその制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図4】(a)は弾性波フィルタの温度と周波数変化との関係を示すグラフ、(b)は周波数と利得との関係を示す説明図である。
【図5】弾性波フィルタ素子の通過帯域と測温素子の抵抗とヒータ素子の印加電圧との関係を示すグラフである。
【図6】(a)は実施例2の弾性波フィルタを示す平面図、(b)は(a)のB−B断面を示す断面図である。
【図7】第1、第2弾性波フィルタ素子の第1、第2入力電極及び第1、第2出力電極を示す平面図である。
【図8】(a)は第1、第2弾性波フィルタ素子を同じ温度に制御した場合の周波数と利得との関係を示す説明図、(b)は第1、第2弾性波フィルタ素子を異なる温度に制御した場合の周波数と利得との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明が適用される実施例について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0028】
本実施例の弾性波フィルタは、弾性表面波(SAW)を利用して高周波信号のフィルタリングを行うとともに、温度に応じて周波数特性(例えば通過帯域)を変化させることができる弾性表面波フィルタである。
【0029】
a)まず、本実施例の弾性波フィルタの構成について、図1及び図2に基づいて説明する。
図1に示す様に、本実施例の弾性波フィルタ1は、中央部を周囲より薄肉にしたダイアフラム構造を有しており、圧電基板3の薄肉部分(ダイアフラム部)5の同一表面(表側:図1(b)上方)に、弾性表面波を利用して高周波のフィルタリングを行う弾性波フィルタ素子(弾性表面波フィルタ素子)7と、周囲の温度を測定する測温素子9と、周囲の加熱を行うヒータ素子11とを密着して形成したものである。以下、各構成について説明する。
【0030】
・前記圧電基板3は、例えば縦5mm×横5mm×厚み0.5mmのST−X水晶基板(単結晶)からなる基板である。
この圧電基板3の中央の表側には、周囲の枠部13より薄肉とされた例えば縦3mm×横3mm×厚み3μmの前記ダイアフラム部5が形成されている。つまり、圧電基板3の中央の裏側が切り欠かかれて凹部15となっており、この凹部15によって薄肉のダイアフラム部5が構成されている。
【0031】
・前記弾性波フィルタ素子7は、同一方向(同図左右方法)に沿って、高周波信号(入力信号)が入力して弾性表面波を励起させる入力電極17と、入力電極17よって励起された弾性表面波を受信して高周波信号(出力信号)を発生させる出力電極19とを備えている。
【0032】
この入力電極17及び出力電極19は、図2(a)に示す様に、それぞれ対向する一対の櫛歯電極20〜24から構成されており、この対向する櫛歯電極20〜24では、図左右方向と垂直に伸びる櫛歯(電極指)25が、交互に入り込むように配置されている。
【0033】
なお、櫛歯電極20〜24としては、例えば、厚さ0.5μmの白金からなり、電極幅(電極指の幅):1.2μm、電極間隔(電極指の間隔):1.8μm、対数:100対になどに設定されている。
【0034】
図1に戻り、前記入力電極17の一対の櫛歯電極20、21は、それぞれリード部27、28を介して、枠部13に設けられた一対の入力端子29、30に接続されている。なお、この入力端子29、30に外部から入力信号が入力される。
【0035】
同様に、前記出力電極19の一対の櫛歯電極23、24は、それぞれリード部31、32を介して、枠部13に設けられた一対の出力端子33、34に接続されている。なお、この出力端子33、34から出力信号が外部に出力される。
【0036】
・前記測温素子9は、温度によって自身の抵抗が変化する素子であり、例えば白金からなる厚み0.5μm×幅5μmの白金抵抗体パターン35からなる。この白金抵抗体パターン35は、図2(b)に示す様に、蛇行形状に形成された蛇行部37を備えており、この蛇行部37は、図1(a)に示す様に、前記入力電極17及び出力電極19の両側(図1(a)の上下方向)に沿って、僅かな隙間(例えば100〜200μm)を保って、入力電極17及び出力電極19の近傍に形成されている。
【0037】
この白金抵抗体パターン35は、入力電極17及び出力電極19と、両入力端子29、30とを囲んで一周するように配置されており、その両端は、枠部13に形成された測温端子39、40にそれぞれ接続されている。
【0038】
従って、この両測温端子39、40間に通電することにより、白金抵抗体パターン35の抵抗値を求めることができ、この抵抗値から、弾性波フィルタ素子7の温度を検知することができる。
【0039】
・前記ヒータ素子11は、電圧を印加することによって発熱する素子であり、例えば白金からなる厚み0.5μm×幅50μmのヒータパターン41からなる。このヒータパターン41は、ダイアフラム部5にて、蛇行状に形成されるとともに、白金抵抗体パターン35の外側を囲んで一周するように配置されており、その両端は、枠部13に形成されたヒータ端子43、44にそれぞれ接続されている。
【0040】
従って、この両ヒータ端子43、44間に電圧を印加することにより、測温素子9及び弾性波フィルタ素子7を加熱することができる。
なお、上述した弾性波フィルタ1を製造する場合には、下記の方法を採用できる。
【0041】
まず、圧電基板3の表面に、例えばスパッタリング法にて金属(白金)膜を成膜し、フォトリソグラフィーにて、入力電極17、出力電極19、白金抵抗体パターン35、ヒータパターン41等に対応する形状にマスキングする。そして、エッチングにより、入力電極17、出力電極19、白金抵抗体パターン35、ヒータパターン41等をパターンニングする。その後、例えばエッチングによって、圧電基板3の裏側に凹部15を形成することによって、ダイアフラム部5を形成する。
【0042】
b)次に、本実施例の弾性波フィルタ1及びその制御装置の電気的構成について、図3に基づいて説明する。
図3に示す様に、本実施例の弾性波フィルタ1は、制御装置51に接続されてその動作が制御されるものである。
【0043】
弾性波フィルタ1の測温素子9の測温端子39、40は、周知の抵抗ブリッジ回路53に接続されている。詳しくは、抵抗ブリッジ回路53の4つの抵抗のうちの一つが測温素子9となるように接続されている。なお、ここでVccは、例えば5Vである。
【0044】
また、抵抗ブリッジ回路53の所定の抵抗間の一対の出力が、差動アンプ55に入力するように接続され、差動アンプ55の出力側は、A/Dコンバータ57の入力側に接続され、A/Dコンバータ57の出力側は、周知のマイクロコントローラユニット(MCU)59の入力側に接続されている。
【0045】
これにより、抵抗ブリッジ回路53の所定の抵抗間(R1〜R2間とR3〜RX間)の電位差に対応した電圧(Vt)が差動アンプ55から出力され、この出力がA/Dコンバータ57でデジタル信号に変換され、このデジタル信号がMCU59に入力する。
【0046】
即ち、測定素子9の抵抗値に対応した出力(電圧)がMCU59に入力されるので、MCU59では、その値(電圧)に基づいて、(電圧と温度との関係を示すマップや演算式を用いて)弾性波フィルタ素子7近傍の温度を算出することができる。
【0047】
一方、MCU59の出力端には、D/Aコンバータ61が接続され、D/Aコンバータ61の出力側には、アンプ63が接続され、アンプ63の出力側には(例えばPNP型の)トランジスタ65が接続されている(ベースに接続)。
【0048】
また、ヒータ素子11の一方のヒータ端子43には、トランジスタ65のコレクタが接続され、他方のヒータ端子44がグランド(GND)に接続されている。なお、エミッタには、Vcc電圧が印加されている。
【0049】
従って、ヒータ素子11を作動させる場合に、MCU59から、目標温度に対応した制御信号が出力されると、この制御信号は、D/Aコンバータ61によってアナログ信号に変換され、アンプ63によって増幅され、その電圧信号(Vh)がトランジスタ65のベースに印加される。これにより、電圧信号(Vh)に対応して、トランジスタ65を介して、ヒータ素子11に、(目標温度を実現するような)電流が流れるので、ヒータ素子11により、弾性波フィルタ素子7を目標温度に加熱することができる。
【0050】
なお、MCU59では、測温素子9によって得られた抵抗値の情報(即ち温度情報)に基づいて、弾性波フィルタ素子7を所望の温度に制御する周知のフィードバック制御を行う。
【0051】
c)次に、弾性波フィルタ素子7の温度を制御した場合の動作について、図4及び図5に基づいて説明する。
図4(a)は、圧電基板の温度特性(具体的にはSTカット水晶による基準周波数からの相対変化)を示したグラフであり、同図に示す様に、弾性波フィルタ素子7の温度を変化させた場合には、「Δf/f」で示される弾性波フィルタ素子7の周波数特性(ここでは、中心周波数からのずれの程度)が変化する。
【0052】
なお、図4(a)において、「f」とは中心周波数(弾性波フィルタ素子7の通過帯域の中心の周波数)を示し、「Δf/f」とは中心周波数からのずれを示している。また、同図の横軸における「0」とは、例えば基準温度25℃を示し、縦軸における「0」とは、基準温度での中心周波数を示している。
【0053】
図4(b)は、図4(a)のグラフにおける各位置の例(X)〜(Z)に対応して、それぞれ周波数と利得との関係を示すフィルタ特性を示したものである。
同図から明らかな様に、弾性波フィルタ素子7の温度が変化すると、その周波数特性(特に通過帯域)が変化することが分かる。つまり、温度を制御することにより、所望の通過帯域を設定できることが分かる。具体的には、弾性波フィルタ素子7の温度を高くすると、(通過帯域幅を変更することなく)通過帯域を周波数の小さい側に変更できることが分かる。
【0054】
詳しくは、図5に示す様に、ヒータ素子11に対する印加電圧(Vh)を変化させると、それに対応して、弾性波フィルタ素子11の温度が変化するので、弾性波フィルタ素子7の周波数特性(即ち、中心周波数及び中心周波数を中心とする通過帯域)が変化することが分かる。
【0055】
また、その際には、測温素子9の温度も同様に変化するので、その抵抗も変化することが分かる。つまり、測温素子9の温度変化(抵抗変化)に対応して、弾性波フィルタ素子7の周波数特性が変化することが分かる
d)この様に、本実施例の弾性波フィルタ1は、圧電基板3の薄肉部分(ダイアフラム部5)の表面に、弾性波フィルタ素子7と測温素子9とヒータ素子11とが密着して形成されており、特に弾性波フィルタ素子7は温度によってその周波数特性(例えば通過帯域)が変化するものである。
【0056】
従って、本実施例では、簡易な構成の弾性波フィルタ1であるにもかからず、ヒータ素子11によって弾性波フィルタ素子7の温度を変化させることにより、弾性波フィルタ素子7の周波数特性をリアルタイムで任意に変化させることができる。
【0057】
また、弾性波フィルタ素子7の温度は、弾性波フィルタ素子7に近接して配置された測温素子9(詳しくは白金抵抗体パターン35)によって精度良く検知できるので、弾性波フィルタ素子7の周波数特性を正確に把握することができる。
【0058】
更に、本実施例では、弾性波フィルタ素子7と測温素子9の周囲を囲むように、ヒータ素子11を設けるので、弾性波フィルタ素子7と測温素子9とを同様に加熱することができ、よって、測温素子9による温度測定の精度を高めることができる。
【0059】
特に、本実施例では、測温素子9によって弾性波フィルタ素子7の温度を測定しながら、ヒータ素子11によって弾性波フィルタ素子7を加熱して、弾性波フィルタ素子7を所望の温度(目標温度)にフィードバック制御することができる。この制御により、周囲の温度にかかわらず、弾性波フィルタ素子7の周波数特性を、安定的に所望の特性に調節することができる。
【0060】
しかも、本実施例では、薄肉のダイアフラム部5の同一表面に、弾性波フィルタ素子7と測温素子9とヒータ素子11とを形成している。そのため、熱容量が小さく、ヒータ素子11によって加熱する場合に、速やかに周波数特性を変化させることができる(即ち、可変追従速度を向上することができる)とともに、消費電力を低減することができる。また、弾性波フィルタ1の機能集約による小型化や低価格化が可能である。
【実施例2】
【0061】
次に、実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は簡略化する。
a)まず、本実施例の弾性波フィルタの構成について説明する。
図6に示す様に、本実施例の弾性波フィルタ71は、左右対称に形成されている。つまり、弾性波フィルタ71は、長方形状の圧電基板73の長手方向に沿って、同様な形状の第1ダイアフラム部75と第2ダイアフラム部77とを備えるとともに、これらのダイアフラム部75、77の各位置に、前記実施例1の弾性波フィルタとほぼ同様な構造の第1弾性波フィルタ79と第2弾性波フィルタ81とを、左右対称になるように備えたものである。
【0062】
詳しくは、(同図左側の)入力信号が入力する側の第1弾性波フィルタ79は、第1ダイアフラム部75の同一表面上に、前記実施例1と同様に、第1入力電極83及び第1出力電極85を有する第1弾性波フィルタ素子87と、第1弾性波フィルタ素子87の両側方(図6(a)の上下方向)に配置されて第1弾性波フィルタ素子87の温度を測定する第1測温素子89と、第1弾性波フィルタ素子87及び第1測温素子89の周囲を囲む様に配置されて第1弾性波フィルタ素子87及び第1測温素子89を加熱する第1ヒータ素子91とを備えている。
【0063】
また、第1弾性波フィルタ素子87の第1入力電極83は一対の第1入力端子93、95に接続され、第1測温素子89は一対の第1測温端子97、99に接続され、第1ヒータ素子91は一対の第1ヒータ端子101、103に接続されている。
【0064】
なお、第1入力端子93、95には入力信号が印加され、第1測温端子97、99は前記実施例1とほぼ同様な制御装置(図示せず)の入力側に接続され、第1ヒータ端子101、103は制御装置の出力側に接続されている。
【0065】
同様に、(同図右側の)出力信号が出力する側の第2弾性波フィルタ81は、第2ダイアフラム部77の同一表面上に、前記実施例1と同様に、第2入力電極105及び第2出力電極107を有する第2弾性波フィルタ素子109と、第2弾性波フィルタ素子109の両側方(図6(a)の上下方向)に配置されて第2弾性波フィルタ素子109の温度を測定する第2測温素子111と、第2弾性波フィルタ素子109及び第2測温素子111の周囲を囲む様に配置されて第2弾性波フィルタ素子109及び第2測温素子111を加熱する第2ヒータ素子113を備えている。
【0066】
また、第2弾性波フィルタ素子109の第2出力電極107は一対の第2出力端子115、117に接続され、第2測温素子111は一対の第2測温端子119、121に接続され、第2ヒータ素子113は一対の第2ヒータ端子123、125に接続されている。
【0067】
なお、第2出力端子115、117からはフィルタリング後の出力信号が出力され、第2測温端子119、121は前記制御装置の入力側に接続され、第2ヒータ端子123、125は制御装置の出力側に接続されている。
【0068】
特に本実施例では、第1弾性波フィルタ素子87の第1入力電極83及び第1出力電極85と、第2弾性波フィルタ素子109の第2入力電極105及び第2出力電極107とが、図6(a)の左右方向に一直線上に配置されるとともに、第1出力電極85と第2入力電極105とが電気的に接続されている。
【0069】
つまり、図7に示す様に、第1出力電極85の一方の櫛歯電極127が、一方のリード部129を介して、第2出力電極105の一方の櫛歯電極131に接続されるとともに、第1出力電極85の他方の櫛歯電極133が、他方のリード部135を介して、第2出力電極105の他方の櫛歯電極137に接続されている。
【0070】
これにより、第1入力電極85にて弾性表面波から高周波に変換された信号が、両リード部129、135を介して第2出力電極105に伝達されるとともに、その第2出力電極105にて弾性表面波に変換される。
【0071】
b)次に、本実施例の弾性波フィルタ71の動作について説明する。
・図8(a)は、第1弾性波フィルタ素子87と第2弾性波フィルタ素子109とを、同じ温度に制御した場合の周波数特性を示している。
【0072】
同図に示す様に、両弾性波フィルタ素子87、109を同じ温度に制御した場合には、第1弾性波フィルタ素子87単体の周波数特性は、同図の素子1特性に示される遮断特性と帯域幅特性となり、同様な構造の第2弾性波フィルタ素子109単体の周波数特性も、同図の素子2特性に示される遮断特性及び帯域幅特性となる。
【0073】
しかし、本実施例の様に、第1弾性波フィルタ素子87と第2弾性波フィルタ素子109とを直列に接続した弾性波フィルタ71の場合には、その周波数特性は、同図の合成特性に示す遮断特性及び帯域幅特性となる。
【0074】
つまり、弾性波フィルタ71の帯域幅特性は、第1弾性波フィルタ素子87単体や第2弾性波フィルタ素子109単体と同様であるが、(グラフの実線の傾斜で示される)遮断特性は、第1弾性波フィルタ素子87単体や第2弾性波フィルタ素子109単体より向上している(傾斜が急である)。
【0075】
これにより、弾性波フィルタ71にて通過させる高周波信号と阻止する高周波信号とを明瞭に区分することができる。
・図8(b)は、第1弾性波フィルタ素子87と第2弾性波フィルタ素子109とを、独立して異なる温度に制御した場合の周波数特性を示している。
【0076】
同図に示す様に、両弾性波フィルタ素子87、109を異なる温度に制御した場合、具体的には、第1弾性波フィルタ素子87の温度を第2弾性波フィルタ素子109の温度より高く制御した場合には、第1弾性波フィルタ素子87単体の周波数特性は、同図の素子1特性に示される遮断特性と帯域幅特性となり、第2弾性波フィルタ素子109単体の周波数特性は、同図の素子2特性に示される遮断特性及び帯域幅特性となる。
【0077】
即ち、第1弾性波フィルタ素子87単体の通過帯域よりも第2弾性波フィルタ素子109単体の通過帯域の方が、(一部が重複するようにして)高周波側に僅かにずれる。
そして、本実施例の様に、第1弾性波フィルタ素子87と第2弾性波フィルタ素子109とを直列に接続した弾性波フィルタ71の場合には、各弾性波フィルタ素子87、109を異なる温度に制御すると、その周波数特性は、同図の合成特性に示す遮断特性及び帯域幅特性となる。
【0078】
つまり、弾性波フィルタ71の遮断特性(グラフの傾斜)は、第1弾性波フィルタ素子87単体や第2弾性波フィルタ素子109単体と同様であるが、その通過帯域幅は、第1弾性波フィルタ素子87単体や第2弾性波フィルタ素子109単体より狭くなる。
【0079】
これにより、弾性波フィルタ71にて通過させる高周波信号の範囲(通過帯域幅)を狭くすることができる。
c)この様に、本実施例では、第1弾性波フィルタ素子87の第1出力電極85と第2弾性波フィルタ素子109の第2入力電極105とを電気的に接続した構成において、第1弾性波フィルタ素子87の第1入力電極83に高周波信号(入力信号)を入力するとともに、第2弾性波フィルタ素子109の第2出力電極107から高周波信号(出力信号)を出力する構成とし、更に、各弾性波フィルタ素子87、109の温度を、所望の温度に独立して制御する構成としている。
【0080】
これにより、前記実施例1と同様な効果を奏するとともに、弾性波フィルタ71の遮断特性と帯域幅特性をリアルタイムで所望の特性に可変にすることができるという顕著な効果を奏する。
【0081】
なお、本発明は、前記実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
(1)例えば前記実施例2では、第1弾性波フィルタ素子と第2弾性波フィルタ素子とを、同じ温度で同様な周波数特性を有する様な同様なハード構成としたが、同じ温度でも異なる周波数特性を有する様に、異なる同様なハード構成(例えば圧電基板の構成や櫛歯電極の構成を違えたもの)としてもよい。
【0082】
(2)また、3個以上の弾性波フィルタ素子を接続した構成としてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1、71…弾性波フィルタ
3、73…圧電基板
5…ダイアフラム部
7…弾性波フィルタ素子
9…測温素子
11…ヒータ素子
17…入力電極
19…出力電極
75…第1ダイアフラム部
77…第2ダイアフラム部
79…第1弾性波フィルタ
81…第2弾性波フィルタ
83…第1入力電極
85…第1出力電極
87…第1弾性波フィルタ素子
89…第1測温素子
91…第1ヒータ素子
105…第2入力電極
107…第2出力電極
109…第2弾性波フィルタ素子
111…第2測温素子
113…第2ヒータ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波のフィルタリングを行う弾性波フィルタにおいて、
一部を他の部位より薄肉にしてダイアフラム形状とした基板を用いるとともに、該基板の薄肉部分の表面に、弾性表面波を利用して高周波のフィルタリングを行う弾性波フィルタ素子と、周囲の温度を測定する測温素子と、周囲の加熱を行うヒータ素子とを密着して形成したことを特徴とする弾性波フィルタ。
【請求項2】
圧電材料を用いた前記基板の同一平面上に、前記弾性波フィルタ素子と前記測温素子と前記ヒータ素子とをパターン形成したことを特徴とする請求項1に記載の弾性波フィルタ。
【請求項3】
前記弾性波フィルタ素子に近接して、前記測温素子を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の弾性波フィルタ。
【請求項4】
前記弾性波フィルタ素子と前記測温素子との周囲を囲むように、前記ヒータ素子を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ。
【請求項5】
前記弾性波フィルタ素子を複数備えるとともに、第1の弾性波フィルタ素子の弾性表面波の入力側の電極と、第2の弾性波フィルタ素子の弾性表面波の出力側の電極とを、電気的に接続したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性波フィルタの制御方法であって、
前記測温素子によって測定した温度に基づいて、前記ヒータ素子による加熱状態を調節して、前記弾性波フィルタ素子の温度を目標温度に制御することを特徴とする弾性波フィルタの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−75015(P2012−75015A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219451(P2010−219451)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】