説明

弾性波フィルタ

【課題】入力側及び出力側のIDT電極部をテーパー型に構成した弾性波フィルタにおいて、通過周波数帯域の中心周波数から低域側及び高域側を見た時の減衰特性の対称性が良好な弾性波フィルタを得ること。
【解決手段】一方側のバスバー14aから他方側のバスバー14bに向かって電極指15の配列パターンが広がるように形成されたテーパー型IDT電極部において、一方側のバスバー14aの両端を当該バスバー14aの伸びる方向に延長させて第2の延長部分32を形成して、他方側のバスバー14bの両端から、第2の延長部分32の先端側に向かって延長させて第1の延長部分31を形成し、これらの第1の延長部分31と第2の延長部分32との間に電極指15の配列パターンを連続して延長させ、0.96×(N/N)<f/f<1.04×(N/N)のように高域側対数N及び低域側対数Nを設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波フィルタ例えば(SAW:Surface Acoustic Wave)フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
SAWデバイスは、弾性表面波を利用したものであり、圧電基板上にIDT(インターディジタルトランスデューサ)と呼ばれる電極部を入力側電極及び出力側電極として弾性波の伝搬方向に沿って配置し、これらの2つの電極部間にて電気信号と弾性波との間の電気−機械相互変換を行って周波数選択(帯域フィルタ)特性を持たせたものである。SAWデバイスの一つであるSAWフィルタは、高機能化、小型化が進められている各種通信機器例えば携帯電話等のパンドパスフィルタとして使用されており、近年のワイヤレスデータ通信の高速化、大容量化に伴い、通過周波数帯域が広く、急峻な減衰特性を持っていることが求められている。また、フィルタの通過周波数帯域における中心周波数をfとすると、中心周波数fから低域側及び高域側を見た時の減衰特性ができるだけ左右対称となっていることが求められている。
【0003】
上記のように通過周波数帯域を広帯域化する手法としては、例えば以下のフィルタを用いる方法が知られている。このフィルタは、図7に示すように、一方側(奥側)のバスバー101から他方側(手前側)のバスバー101に向かって電極指102及び反射電極107の幅寸法及び間隔寸法が広がるように配置されたテーパー型IDT電極103を入力側IDT電極104及び出力側IDT電極105として弾性波の伝搬方向に沿って配置し、これらの電極104、105の間に例えば角型の金属膜(シールド電極106)を配置した構成となっている。尚、IDT電極104、105の側方における圧電基板100の端部領域には、当該端部領域に伝搬して来る弾性波を吸収するための図示しない吸音材が配置されている。
【0004】
このフィルタにおいて、図7中λは、伝搬する弾性波の波長に対応するように電極指102及び反射電極107の幅寸法及び間隔寸法によって所定の間隔で繰り返される周期単位であり、弾性波の伝搬方向に沿って一定の周期となるように、また一方側のバスバー101から他方側のバスバー101に向かって波長の短いトラック(伝搬路)の弾性波から波長の長いトラックの弾性波まで伝搬するように、つまり通過周波数帯域が広くなるように構成されている。
【0005】
この時、図8に示すように、このフィルタの通過周波数帯域における低周波数側のトラックに対応する周波数をflow、高周波数側のトラックに対応する周波数をfhighとして、またこれらの周波数flow及びfhighにおいて各々形成される通過帯域(メインローブ)を夫々dflow及びdfhighとすると、上記のフィルタでは、比帯域(dflow/flow及びdfhigh/flow)は各々等しくなるが、絶対帯域(dflow及びdfhigh)は高周波数側の方が広くなってしまう。そのため、このフィルタにおいて得られる減衰特性は、例えば図9に模式的に示すように、高域側では低域側よりも減衰曲線がなだらかとなり、いわば肩ダレが起こってしまう。そのため、通過周波数帯域において中心周波数fから低域側及び高域側を見た時の減衰特性について、良好な対称性が得られなくなってしまう。尚、図8はこのフィルタの低周波数側のトラックと高周波数側のトラックとにおいて得られる特性を模式的に示したものである。
【0006】
また、このフィルタにおいて、例えば通過周波数帯域を広く設定するために低域側周波数flowと高域側周波数fhighとの間における周期単位λの差を大きく取る場合には、更に高域側周波数fhighの絶対帯域が低域側周波数flowの絶対帯域よりも広くなるので、より一層減衰特性の対称性が悪化してしまう。
【0007】
特許文献1には、低域側周波数flowよりも高域側周波数fhighの電極指の対数を多く設定して帯域特性を平坦化すると共に、低域側のバスバーを弾性波の伝搬領域に伸張させることによって、弾性波の不要な反射を抑えてリップルを小さくしたり、各トラックにおける弾性波の行路差をなくして良好な群遅延特性を得たりする技術が記載されているが、減衰特性の対称性については何ら検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−288508(2頁下段左欄2〜14行目、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、入力側IDT電極部及び出力側IDT電極部をテーパー型に構成した弾性波フィルタにおいて、急峻な減衰特性を持つと共に通過周波数帯域の中心周波数から低域側及び高域側を見た時の減衰特性の対称性が良好な弾性波フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の弾性波フィルタは、
圧電基板上に入力側IDT電極部及び出力側IDT電極部を弾性波の伝播方向に互いに離間させて配置した弾性波フィルタにおいて、
互いに平行になるように形成された一対のバスバーと、これら一対のバスバーの各々から互いに交互に伸び出して櫛歯状に形成された電極指群と、を備え、電極指の幅及び電極指間の間隔領域が前記一対のバスバーの一方側のバスバーから他方側のバスバーに向かうにつれて広がるように形成されたテーパー型IDT電極部により入力側IDT電極部及び出力側IDT電極部の少なくとも一方を構成することと、
前記テーパー型IDT電極部における一方のバスバーの両端を当該バスバーの伸びる方向に延長させて延長部分を形成することと、
前記他方のバスバーの両端から、前記一方のバスバーの延長部分の先端側に向かって延長させて延長部分を形成することと、
前記一方のバスバーの延長部分と前記他方のバスバーの延長部分との間に、これら一対のバスバー間に形成されている電極指の配列パターンを連続して延長させることと、
前記一方のバスバーに最も近い領域における電極指の対数をN、前記他方のバスバーの延長部分に挟まれた部位において当該他方のバスバーに最も近い領域における電極指の対数をN、弾性波フィルタの通過帯域の高域側周波数及び低域側周波数を夫々f、fとすると、
0.96×(N/N)<f/f<1.04×(N/N)であることを特徴とする。
【0011】
前記入力側IDT電極部及び前記出力側IDT電極部は、いずれも前記テーパー型IDT電極部により構成され、
前記入力側IDT電極部における高域側の対数N及び低域側の対数Nを夫々NHI及びNLI、前記出力側IDT電極部における高域側の対数N及び低域側の対数Nを夫々NHO及びNLOとすると、
0.98×(NHO/NLO)<(NHI/NLI)<1.02×(NHO/NLO)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、電極指の幅及び電極指間の間隔領域が一対のバスバーの一方側のバスバーから他方側のバスバーに向かうにつれて広がるように形成されたテーパー型IDT電極部により入力側IDT電極部及び出力側IDT電極部の少なくとも一方を構成すると共に、入力側IDT電極部及び出力側IDT電極部を弾性波の伝播方向に互いに離間させて圧電基板上に配置した弾性波フィルタにおいて、前記テーパー型IDT電極部における一方のバスバーの両端を当該バスバーの伸びる方向に延長させて延長部分を形成して、他方のバスバーの両端から、前記一方のバスバーの延長部分の先端側に向かって延長させて延長部分を形成し、前記一方のバスバーの延長部分と前記他方のバスバーの延長部分との間に、これら一対のバスバー間に形成されている電極指の配列パターンを連続して延長させ、更に前記一方のバスバーに最も近い領域における電極指の対数をN、前記他方のバスバーの延長部分に挟まれた部位において当該他方のバスバーに最も近い領域における電極指の対数をN、弾性波フィルタの通過帯域の高域側周波数及び低域側周波数を夫々f、fとすると、0.96×(N/N)<f/f<1.04×(N/N)に設定している。そのため、高域側の減衰特性が低域側の減衰特性とほぼ同程度に急峻になるので、通過周波数帯域の中心周波数から低域側及び高域側を見た時の減衰特性について、良好な対称性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る弾性波フィルタの一例を示す平面図である。
【図2】上述の弾性波フィルタの一部を拡大した平面図である。
【図3】上記のフィルタを設計する手法を模式的に示す平面図である。
【図4】上述の弾性波フィルタにおいて弾性波の伝搬する様子を示す模式図である。
【図5】上述の弾性波フィルタについて得られた特性を模式的に示す特性図である。
【図6】上述の弾性波フィルタについて得られた特性を模式的に示す特性図である。
【図7】従来の弾性波フィルタを示す平面図である。
【図8】従来の弾性波フィルタにおける特性を示す概略図である。
【図9】従来の弾性波フィルタにおいて得られる特性を模式的に示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態の弾性波フィルタについて、図1及び図2を参照して説明する。本発明の弾性波フィルタは、弾性波の伝搬方向に沿って間隔をおいて設けられた入力側テーパー型IDT電極部12及び出力側テーパー型IDT電極部13を備えており、例えばリチュームナイオベート(LiNbO)などの圧電基板11上に配置されている。これらのIDT電極部12、13間には、例えばシールド電極(角型の金属膜)17が配置されている。尚、弾性波の伝搬方向において圧電基板11の端部領域には、IDT電極部12、13を介して当該端部領域に伝搬する不要な弾性波を吸収するための図示しない吸音材(ダンパー)が配置されている。また、シールド電極17については模式的に示している。尚、図1及び図2において、各電極部12、13及びシールド電極17については、圧電基板11の領域と区別しやすいように、ハッチングを付してある。以下の図も同様である。
【0015】
入力側テーパー型IDT電極部12は、互いに弾性波の伝搬方向に沿って平行となるように夫々奥側及び手前側に形成された一方側のバスバー14a及び他方側のバスバー14bと、これらのバスバー14a、14bの各々から互いに交互に櫛歯状となるように伸び出す電極指15及び反射電極16と、を備えている。これらの電極指15及び反射電極16は、各々の幅寸法及び間隔寸法が一方側のバスバー14aから他方側のバスバー14bに向かうにつれて広がるように形成されており、図2にも示すように、バスバー14a、14bの各々から互いに隣り合うように形成された一対の電極指15、15と、これらの電極指15、15に隣接するようにバスバー14aから伸びる1つの反射電極16と、が1組になって所定の周期単位λで弾性波の伝搬方向に沿って周期的に繰り返されるように配置されている。
【0016】
このフィルタでは、上記の周期単位λと同じ長さの波長の弾性波が伝搬することとなる。従って、弾性波の伝搬路であるトラックをTrとすると、弾性波の伝搬方向に対して直交方向には、奥側のバスバー14aから手前側のバスバー14bにかけて、周期単位λが狭いTr1から広いTr2まで形成されていることになる。尚、図1では、電極指15及び反射電極16の幅寸法については、図示の簡略化のため一定として描画してある。
【0017】
上記の一方側のバスバー14aは入力ポート21に接続されており、他方側のバスバー14bは接地されている。また、他方側のバスバー14bは、電極指15及び反射電極16が形成された領域を両側から回り込むように、長さ方向(弾性波の伝搬方向)において両端部が当該他方側のバスバー14bから一方側のバスバー14a側に向かってほぼ直角に、且つ先端部が一方側のバスバー14aに各々近接するように伸び出して各々第1の延長部分31、31をなしている。従って、上記の電極指15及び反射電極16が形成された領域は、これらの第1の延長部分31、31及び一対のバスバー14a、14bによって、概略矩形となるように形成されて(囲まれて)いることになる。
【0018】
ここで、弾性波は電極膜の形成された領域(例えば第1の延長部分31)と電極膜の形成されていない領域(圧電基板11上)とでは、伝搬速度に差が生じることが知られている。そのため、上記の第1の延長部分31、31は、後述するように、トラックTr1からトラックTr2までに亘って良好な群遅延特性が得られるように、つまり弾性波が入力側テーパー型IDT電極部12から出力されて出力側テーパー型IDT電極部13に到達するまでの遅延時間がトラックTr1からトラックTr2までに亘って揃うように、弾性波の伝搬方向に対して直交する方向に幅寸法が調整されている。この例では、これらの第1の延長部分31、31は、他方側のバスバー14bから一方側のバスバー14aに向かうにつれて幅寸法が徐々に狭くなっている。
【0019】
ここで、上記のIDT電極部12を設計する手法について、図3を参照して説明する。先ず、同図(a)に示すように、バスバー14a、14b間に電極指15や反射電極16が形成されたIDT電極部12において、同図(b)に示すように、一方側のバスバー14aの長さ方向における両端部をこのバスバー14aの伸びる方向に延長させて第2の延長部分32、32を形成する。次いで、この第2の延長部分32、32において、中央部側の電極指15及び反射電極16の配列パターンが連続して延長されるように電極指15及び反射電極16を形成する。そして、図3(c)に示すように、電極指15及び反射電極16が形成された領域が概略矩形になるように、他方側のバスバー14bから第2の延長部分32、32の先端部に向かって既述の第1の延長部分31、31を概略直角に各々形成する。また、第1の延長部分31と第2の延長部分32との間において、第2の延長部分32から伸び出す電極指15及び反射電極16については第1の延長部分31に干渉しないように、これらの電極指15及び反射電極16の先端部を第1の延長部分31に近接する領域まで形成すると共に、第2の延長部分32から伸び出す電極指15と交差して弾性波の励振が起こるように、第1の延長部分31から電極指15を第2の延長部分32に向けて伸び出すように配置する。
【0020】
こうして第1の延長部分31と第2の延長部分32との間に、電極指15及び反射電極16の配列パターンが中央部側から連続して延長されることになる。従って、一方側のバスバー14aに最も近接する高域側周波数に対応する領域における電極指15の対数をN、第1の延長部分31、31に挟まれた部位において他方側のバスバー14bに最も近接する低域側周波数に対応する領域における電極指15の対数をNとすると、高域側対数Nは低域側対数Nよりも多くなっている。この時、一方側のバスバー14aのトラックTr1及び他方側のバスバー14bのトラックTr2に夫々対応する周波数をf、fとすると、既述のように電極指15及び反射電極16が形成された領域を概略矩形に形成していることから、高域側周波数f及び低域側周波数fと高域側対数N及び低域側対数Nとの間には、以下の式(1)の関係が成り立つように、高域側対数N及び低域側対数Nが設定されていることになる。
0.96×(N/N)<f/f<1.04×(N/N) (1)
つまり、電極指15及び反射電極16が形成された領域を概略矩形に形成すると、高域側周波数f及び低域側周波数fの比(f/f)と、高域側対数N及び低域側対数Nの比(N/N)と、が概略等しくなる。
【0021】
続いて出力側テーパー型IDT電極部13について説明すると、この出力側テーパー型IDT電極部13は上記の入力側テーパー型IDT電極部12と同様に構成されており、既述の図1に示すように、一方側のバスバー14c及び他方側のバスバー14dを備えている。一方側のバスバー14cは図1中奥側に配置されて出力ポート22に接続され、他方側のバスバー14dは手前側に配置されて接地されている。また、出力側テーパー型IDT電極部13は、入力側テーパー型IDT電極部12と同様に、弾性波の伝搬方向に沿って周期単位λが一定となり、また一方側のバスバー14cから他方側のバスバー14dに向かって周期単位λがTr1からTr2まで広がる配列パターンとなるように配置された電極指15及び反射電極16を備えている。出力側テーパー型IDT電極部13では、反射電極16は他方側のバスバー14dに接続されている。
【0022】
そして、これらの電極指15及び反射電極16が形成された領域を両側から囲むように、他方側のバスバー14dから一方側のバスバー14cに向かって概略直角に伸びる第1の延長部分31、31が形成されている。また、一方側のバスバー14cからその長さ方向に沿って両端に第2の延長部分32、32が形成され、第1の延長部分31と第2の延長部分32との間には、中央部側の電極指15及び反射電極16の配列パターンが連続して延長されるようにこれらの電極指15及び反射電極16が形成されている。
【0023】
この出力側テーパー型IDT電極部13においても、高域側周波数f及び低域側周波数fと高域側対数N及び低域側対数Nとの間に既述の式(1)の関係が成り立つように、電極指15、反射電極16、第1の延長部分31及び第2の延長部分32が形成されている。この時、出力側テーパー型IDT電極部13における高域側対数N及び低域側対数Nは、入力側テーパー型IDT電極部12の高域側対数N及び低域側対数Nと夫々概略等しくなっている。つまり、入力側テーパー型IDT電極部12における高域側の対数N及び低域側の対数Nを夫々NHI及びNLI、出力側テーパー型IDT電極部13における高域側の対数N及び低域側の対数Nを夫々NHO及びNLOとすると、以下の式(2)が成り立つように各々のIDT電極部12、13が形成されていることになる。
0.98×(NHO/NLO)<(NHI/NLI)<1.02×(NHO/NLO) (2)
【0024】
このような弾性波フィルタにおいて、入力ポート21を介して入力側テーパー型IDT電極部12に周波数信号が入力されると、弾性表面波(SAW)が発生する。この弾性波は、入力側テーパー型IDT電極部12において、その波長の長さに対応する周期単位λが形成されたトラックTrにて順方向及び逆方向に向かって伝搬して行く。そして、各々のトラックにおいて弾性波は、入力側テーパー型IDT電極部12から出力側テーパー型IDT電極部13に向かって伝搬していく(互いに交差する電極指15、15間の領域を通過する)につれて、次第に各々の周期単位λに対応する波長の弾性波が強められてあるいは各々の周期単位λとは異なる波長の弾性波が弱められていくことになる。従って、出力側テーパー型IDT電極部13に向かって伝搬していくにつれて、各々のトラックでは、通過帯域であるメインローブ(絶対帯域)が狭まっていくことになる。その後、弾性波は例えば出力側テーパー型IDT電極部13において出力ポート22を介して取り出されて、機械−電気相互変換が行われて電気信号として取り出される。
【0025】
この時、既述のように低域側対数Nよりも高域側対数Nを多くすると共に、これらの対数N、Nを既述の式(1)のように設定しているので、高域側周波数fでは、図4に示すように、絶対帯域df(メインローブ)が小さくなり、更に低域側の絶対帯域dfとほぼ同程度の帯域幅の絶対帯域dfとなる。そのため、図5にこのフィルタにおいて得られる減衰特性を模式的に示すように、高域側の減衰特性が低域側の減衰特性と同程度に急峻となり、また通過周波数帯域における中心周波数をfとすると、低域側及び高域側の減衰特性は、この中心周波数をfを中心として見た時にほぼ対称的になる。また、既述のように弾性波の伝搬方向に直交する方向において第1の延長部分31の幅寸法を調整しており、入力側テーパー型IDT電極部12から出力側テーパー型IDT電極部13に到達する遅延時間が各トラックTrにおいて揃うので、良好な群遅延特性が得られる。この図5に示す減衰特性を既述の図9に示した従来のフィルタにおける減衰特性と併せて図6に示すと、既述のように、本発明では高域側の減衰特性が従来のフィルタよりも急峻になり、また低域側及び高域側の減衰特性の対称性が向上していることが分かる。尚、入力側テーパー型IDT電極部12から左側に伝搬する弾性波及び出力側テーパー型IDT電極部13から右側に伝搬する弾性波は、図示しない吸音材において吸収されることになる。
【0026】
上述の実施の形態によれば、電極指15及び反射電極16の幅及び間隔領域が一方側のバスバー14aから他方側のバスバー14bに向かうにつれて広がるように形成されたテーパー型IDT電極部により入力側テーパー型IDT電極部12及び出力側テーパー型IDT電極部13の少なくとも一方を構成すると共に、入力側テーパー型IDT電極部12及び出力側テーパー型IDT電極部13を弾性波の伝播方向に互いに離間させて圧電基板11上に配置した弾性波フィルタにおいて、前記テーパー型IDT電極部における一方側のバスバー14aの両端を当該バスバー14aの伸びる方向に延長させて第2の延長部分32を形成して、他方側のバスバー14bの両端から、第2の延長部分32の先端側に向かって延長させて第1の延長部分31を形成し、これらの第1の延長部分31と第2の延長部分32との間に、電極指15及び反射電極16の配列パターンを連続して延長させ、既述の式(1)のように高域側対数N及び低域側対数Nを設定している。そのため、高域側の減衰特性が低域側の減衰特性と同様に急峻となるので、通過周波数帯域の中心周波数fから低域側及び高域側を見たときの減衰特性について、良好な対称性を得ることができる。
【0027】
また、入力側テーパー型IDT電極部12及び出力側テーパー型IDT電極部13の双方について、上記のように第1の延長部分31及び第2の延長部分32を形成してこれらの延長部分31、32間に電極指15及び反射電極16の配列パターンを連続して延長されるように形成し、更に既述の式(2)のように2つのIDT電極部12、13の夫々の高域側対数N及び低域側対数Nを概略等しくしている。そのため、IDT電極部12、13の一方だけについて高域側対数N及び低域側対数Nを式(1)のように設定する場合よりも高域側の減衰特性を改善することができるので、高域側の減衰特性をより一層急峻にすることができ、従って減衰特性について更に良好な対称性を得ることができる。
【0028】
上記の例では、入力側テーパー型IDT電極部12及び出力側テーパー型IDT電極部13の双方をテーパー型IDT電極部としたが、いずれか一方だけをテーパー型IDT電極部としても良い。また、シールド電極17を配置しなくとも良いし、あるいはシールド電極17に代えてグレーティング反射器を配置しても良い。更に、バスバー14a、14b間に反射電極16を設けなくても良いし、電極指15や反射電極16を間引いて間引き電極としても良い。更にまた、バスバー14a、14bの各々から電極指15を例えば2本ずつ交互に伸張させて、スプリット電極としても良い。これらの場合においても、各々のフィルタに応じて適宜、式(1)、(2)における比率の上限値及び下限値が夫々設定され、同様の効果が得られる。
【0029】
また、一方側のバスバー14a(14c)から他方側のバスバー14b(14d)に向かって電極指15及び反射電極16の配列パターンが広がるようにIDT電極部12、13を形成するにあたり、上記の例では電極指15及び反射電極16を直線的に配置したが、曲線状に配置しても良いし、あるいは階段状に配置しても良い。
【符号の説明】
【0030】
11 圧電基板
12 入力側テーパー型IDT電極部
13 出力側テーパー型IDT電極部
14 バスバー
15 電極指
16 反射電極
31 第1の延長部分
32 第2の延長部分
Tr トラック
高域側対数
低域側対数
高域側周波数
低域側周波数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に入力側IDT電極部及び出力側IDT電極部を弾性波の伝播方向に互いに離間させて配置した弾性波フィルタにおいて、
互いに平行になるように形成された一対のバスバーと、これら一対のバスバーの各々から互いに交互に伸び出して櫛歯状に形成された電極指群と、を備え、電極指の幅及び電極指間の間隔領域が前記一対のバスバーの一方側のバスバーから他方側のバスバーに向かうにつれて広がるように形成されたテーパー型IDT電極部により入力側IDT電極部及び出力側IDT電極部の少なくとも一方を構成することと、
前記テーパー型IDT電極部における一方のバスバーの両端を当該バスバーの伸びる方向に延長させて延長部分を形成することと、
前記他方のバスバーの両端から、前記一方のバスバーの延長部分の先端側に向かって延長させて延長部分を形成することと、
前記一方のバスバーの延長部分と前記他方のバスバーの延長部分との間に、これら一対のバスバー間に形成されている電極指の配列パターンを連続して延長させることと、
前記一方のバスバーに最も近い領域における電極指の対数をN、前記他方のバスバーの延長部分に挟まれた部位において当該他方のバスバーに最も近い領域における電極指の対数をN、弾性波フィルタの通過帯域の高域側周波数及び低域側周波数を夫々f、fとすると、
0.96×(N/N)<f/f<1.04×(N/N)であることを特徴とする弾性波フィルタ。
【請求項2】
前記入力側IDT電極部及び前記出力側IDT電極部は、いずれも前記テーパー型IDT電極部により構成され、
前記入力側IDT電極部における高域側の対数N及び低域側の対数Nを夫々NHI及びNLI、前記出力側IDT電極部における高域側の対数N及び低域側の対数Nを夫々NHO及びNLOとすると、
0.98×(NHO/NLO)<(NHI/NLI)<1.02×(NHO/NLO)であることを特徴とする請求項1に記載の弾性波フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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