説明

弾性波フィルタ

【課題】IDT電極を圧電基板上に送信側電極及び受信側電極として弾性波の伝搬方向に並べた弾性波フィルタにおいて、通過周波数帯域よりも高域側の減衰傾度が急峻で且つ通過周波数帯域の平坦性が良好な広帯域の弾性波フィルタを得ること。
【解決手段】送信側IDT電極12及び受信側IDT電極13としてアポダイズ型電極及びテーパー型電極の一方側及び他方側を夫々配置すると共に、これらIDT電極12、13間にマルチストリップカプラ32を設けて、送信側IDT電極12から送信される弾性波を受信側IDT電極13にて受信できる弾性波に転移させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波フィルタ例えば(SAW:Surface Acoustic Wave)フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
IDT(IDT:インターディジタルトランスデューサ)電極を圧電基板上に送信側(入力側)電極及び受信側(出力側)電極として弾性波の伝搬方向に並べたトランスバーサル型の弾性波フィルタ例えばSAWフィルタとして、これら送信側電極及び受信側電極を夫々テーパー型(スラント型)に形成したフィルタが知られている。このフィルタでは、各々の電極において一対のバスバーの一方側から他方側に向かって波長の短い弾性波から波長の長い弾性波まで伝搬するように電極指群がテーパー状に配置されており、伝搬する弾性波の波長(周期単位)が互いに異なるフィルタを複数並列に接続したフィルタとほぼ等価の特性が得られる。このフィルタでは、通過周波数帯域における平坦性が良好であり、また通過周波数帯域を広く取る(広帯域化する)ことができる。
【0003】
しかし、このフィルタでは、電極指の対数(一方側のバスバー及び他方側のバスバーから互いに隣接するように各々伸び出す電極指同士の交差する領域の数量)が各々の周期単位において互いに等しく形成されているため、通過周波数帯域よりも高域側における減衰傾度は、通過周波数帯域よりも低域側の減衰傾度に比べてなだらかに(悪く)なる傾向がある。即ち、ある周期単位における周波数をf、この周波数fにおいて形成される通過帯域(メインローブ)をdfとすると、各々の周波数fでは比帯域(df/f)は互いに等しくなるが、絶対帯域dfは低域側よりも高域側の方が広くなるので、各々の周波数fで電極指の対数が同じ場合には高域側の減衰傾度が低域側よりもなだらかになっていわば肩ダレしてしまう。また、減衰傾度を改善するために電極指の本数を多くした場合、各々の周波数に対応する電極開口が相対的に狭くなり、弾性波の回折による減衰特性の劣化が生じてしまう。
【0004】
一方、IDT電極として、電極指群が弾性波の伝搬方向に対して直交するように一対のバスバー間に配置されると共に、互いに隣接する電極指同士の交差する領域の長さ寸法(交差幅)が弾性波の伝搬方向に沿って変化するように重み付けられたアポダイズ型電極が知られている。このアポダイズ型電極では、既述のテーパー型電極よりもサイドローブを抑圧することができるので、通過周波数帯域よりも高域側及び低域側において良好(急峻)な減衰傾度が得られる。
【0005】
そこで、これらのテーパー型電極及びアポダイズ型電極を組み合わせて一つのフィルタを構成することによって、通過周波数帯域よりも高域側及び低域側において減衰傾度が良好で且つ平坦性に優れた広帯域のフィルタが得られると考えられる。しかし、例えばこれらの電極を弾性波の伝搬方向に沿って対向させてテーパー型電極及びアポダイズ型電極の一方及び他方を夫々送信側電極及び受信側電極として配置しただけでは、良好な周波数特性が得られない。即ち、アポダイズ型電極では、送信あるいは受信される弾性波の強度が時間に応じて変化するように電極指が重み付けられており、例えばバスバーに近接する端部の領域よりも中央部側の領域において電極指の対数が多くなっている。そのため、当該中央領域では端部の領域よりも伝搬する弾性波のエネルギーが大きいので、例えばこのアポダイズ型電極にテーパー型電極を受信側電極として対向させると、通過周波数帯域における中心周波数近傍において受信強度が強くなり、良好な平坦性が得られなくなってしまう。
【0006】
また、例えばテーパー型電極の電極指に対してアポダイズ型に重み付けを行う場合には、電極指の対数が間引かれた領域例えばバスバーに近接する領域では、伝搬する弾性波のエネルギーが他の領域よりも小さくなってしまうので、同様に平坦性が悪化してしまう。
特許文献1、2には、アポダイズ型電極やマルチストリップカプラについて記載されているが、既述の課題については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−116234(段落0014、図1)
【特許文献2】特開平3−226107(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、IDT電極を圧電基板上に送信側電極及び受信側電極として弾性波の伝搬方向に並べた弾性波フィルタにおいて、通過周波数帯域よりも高域側の減衰傾度が急峻で且つ通過周波数帯域の平坦性が良好な広帯域の弾性波フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の弾性波フィルタは、
圧電基板上に送信側電極及び受信側電極の一方として形成され、互いに平行にX方向に伸びる一対のバスバー及びこれら一対のバスバーの各々から対向するバスバー側に向かってX方向に直交するY方向に櫛歯状に各々伸び出す電極指群を備えると共に、電極指の交差幅がX方向に沿って変化するようにアポダイズ型に重みづけられたアポダイズ型電極と、
前記圧電基板上に送信側電極及び受信側電極の他方として形成され、互いに平行にX方向に伸びる一対のバスバー及びこれら一対のバスバー間においてテーパー状に配置された電極指群を備えると共に、前記アポダイズ型電極に対してX方向に離間しかつ電極指群の配列領域が前記アポダイズ型電極における電極指群の配列領域に対してY方向に離間するように設けられたテーパー型電極と、
前記送信側電極を伝播する弾性波を受信側電極に転移させるために前記アポダイズ型電極及び前記テーパー型電極の間に設けられ、前記アポダイズ型電極における電極指群の配列領域のY方向全体に臨む領域から前記テーパー型電極における電極指群の配列領域のY方向全体に臨む領域に亘って、Y方向に互いに平行に伸びる複数本の電極指を備えたマルチストリップカプラと、を備えていることを特徴とする。
前記アポダイズ型電極における電極指群の配列領域と前記テーパー型電極における電極指群の配列領域とのY方向の寸法は、同じに設定されていても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、送信側電極及び受信側電極としてアポダイズ型電極及びテーパー型電極の一方及び他方を夫々圧電基板上に配置すると共に、これら電極間にマルチストリップカプラを設けて、送信側電極を伝搬する弾性波を受信側電極に転移させている。そのため、送信側電極から受信側電極に向かう弾性波を、弾性波の伝搬方向に直交する方向に亘って励振強度及び周波数分布の揃った弾性波に変換できるので、いわば設計手法の互いに異なるアポダイズ電極及びテーパー型電極を一組の送信側電極及び受信側電極の一方及び他方として用いることができる。従って、通過周波数帯域よりも高域側の減衰傾度が急峻で且つ通過周波数帯域の平坦性が良好な広帯域の弾性波フィルタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る弾性波フィルタの一例を示す平面図である。
【図2】前記弾性波フィルタにおいて弾性波が伝搬する様子を示す模式図である。
【図3】前記弾性波フィルタにおいて弾性波が伝搬する様子を示す模式図である。
【図4】前記弾性波フィルタにおいて弾性波が伝搬する様子を示す模式図である。
【図5】前記弾性波フィルタにおいて得られた周波数特性を示す特性図である。
【図6】前記弾性波フィルタの他の例を示す平面図である。
【図7】前記他の例の弾性波フィルタにおいて弾性波が伝搬する様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態の弾性波フィルタ例えばSAWフィルタの一例について、図1を参照して説明する。このSAWフィルタは、例えばLiTaO3などからなる圧電基板11において、即ち結晶のX軸に垂直な面で切断し、Y軸から112°回転したY’軸方向に弾性波が伝搬するタンタル酸リチウムの表面において、弾性波の伝搬方向に互いに離間して形成された送信側(入力側)IDT電極12及び受信側(出力側)IDT電極13を備えている。従って弾性波は、圧電基板11の長手方向であるX方向(図1中左右方向)に沿って、当該圧電基板11の2つの短辺2、3のうち一方側(図1中左側)の短辺2と他方側(図1中右側)の短辺3との間において伝搬する。この例では、圧電基板11上において送信側IDT電極12は図1中一方側の短辺2に近接する領域に配置され、受信側IDT電極13は他方側の短辺3に近接する領域に配置されている。尚、既述の「X方向」及び以下において説明する「Y方向」とは、圧電基板11の結晶方位とは無関係である。
【0013】
これらのIDT電極12、13は、弾性波の伝搬方向に沿って互いに平行となるように配置された一対のバスバー14a、14bと、これらのバスバー14a、14bの各々から対向するバスバー14b、14a側に向かって櫛歯状に伸び出す複数の電極指15と、を各々備えている。これら電極12、13において、一対のバスバー14a、14b間にて電極指15の配置された領域を配列領域16と呼ぶと、各々の配列領域16では、電極12、13における電極指15の幅寸法と電極指15、15間の離間寸法とからなる周期単位λに対応する波長の弾性波が伝搬するように各々構成されている。
【0014】
この例では、送信側IDT電極12のバスバー14a、14bのうち一のバスバー14aは、圧電基板11の2つの長辺4、5のうち一方側の長辺4に近接する領域に配置されて入力ポート21に接続されている。送信側IDT電極12の他のバスバー14bは、圧電基板11の中央部側に配置されて接地されている。また、受信側IDT電極13におけるバスバー14a、14bのうち一のバスバー14aは、圧電基板11の2つの長辺4、5のうち、前記送信側IDT電極12におけるバスバー14aの近接配置された一方側の長辺4とは異なる他方側の長辺5に近接する領域に配置されて出力ポート22に接続されている。受信側IDT電極13の他のバスバー14bは、圧電基板11の中央部側に配置されて接地されている。尚、これらの電極12、13については、圧電基板11上の領域と区別するため、ハッチングを付している。
【0015】
次に、送信側IDT電極12における電極指15の配置レイアウトについて説明する。送信側IDT電極12の電極指15は、弾性波の伝搬方向に対して各々直交するように配置されている。この電極12は、配列領域16において互いに隣接する電極指15、15同士の交差する部位(弾性波の励振領域)の長さ寸法(交差幅)が弾性波の伝搬方向に沿って変化するようにアポダイズ型に各々重みづけられている。
【0016】
具体的には、弾性波の伝搬方向(X方向)における中央位置にてバスバー14a、14b間に亘って交差幅が長く形成されており、当該中央位置からX方向両側に向かって交差幅が徐々に小さくなるように各電極指15が配置されてメインローブMをなしている。このメインローブMのX方向における両側には、サイドローブSが複数箇所に各々形成されており、各々のサイドローブSでは、X方向の中央位置から両側に向かうにつれて徐々に交差幅が小さくなるように電極指15が配置されている。これらのサイドローブSにおける最大交差幅は、メインローブMから離れるにつれて小さくなっている。従って、この送信側IDT電極12において、弾性波の伝搬方向に対して直交する方向(Y方向)における中央位置では、バスバー14a、14bに近接する領域よりも電極指15、15の対数が多くなっており、当該中央位置からバスバー14a、14bに向かうにつれて対数が少なくなっている。この例では、前記中央位置における電極指15の対数は、例えば150対となっている。
【0017】
受信側IDT電極13は、一のバスバー14aから他のバスバー14bに向かって既述の周期単位λが徐々に広がるように電極指15が配置されたテーパー型電極として構成されている。また、受信側IDT電極13においては、電極指15の対数は、例えば86対に設定されている。これらの電極12、13の各々の配列領域16、16は、この例ではY方向における長さ寸法が互いに等しくなっている。ここで、既述の送信側IDT電極12の周期単位λをλ1、受信側IDT電極13においてバスバー14a及びバスバー14bに夫々近接する領域の周期単位λを夫々λ2、λ3とすると、λ1とλ2及びλ3との間の差((λ1−λ2)/λ1、(λ1−λ3)/λ1)は、夫々数%程度以下例えば−3.8%〜+2.6%となっている。
【0018】
そして、これらの電極12、13は、弾性波の伝搬方向に対して直交する方向(Y方向)において、互いの配列領域16、16同士が互いに離れるように(重なり合わないように)並べられており、既述のように送信側IDT電極12は図1中一方側の長辺4側に配置され、受信側IDT電極13は同図中他方側の長辺5側に配置されている。言い換えると、送信側IDT電極12及び受信側IDT電極13は、圧電基板11の短辺方向(Y方向)における概略中央位置を弾性波の伝搬方向に沿って平行に伸びるライン30において、送信側IDT電極12のバスバー14bにおける電極指15の接続されている側の端部と、受信側IDT電極13のバスバー14bにおける電極指15の接続されている側の端部と、が一列に並ぶように各々配置されている。
【0019】
これら電極12、13間には、マルチストリップカプラ32が配置されており、このマルチストリップカプラ32は、送信側IDT電極12において弾性波が伝搬する領域(配列領域16)から、受信側IDT電極13において弾性波が伝搬する領域に、弾性波が伝搬する伝搬領域を転移させるためのものである。このマルチストリップカプラ32は、弾性波の伝搬方向に対して直交する方向に互いに平行になるように、各々ライン状に配置された複数本の電極指31を備えている。
【0020】
各々の電極指31は、送信側IDT電極12のバスバー14aに沿って伸びるライン及び受信側IDT電極13のバスバー14aに沿って伸びるラインを夫々端部ライン33、34とすると、これら端部ライン33、34間に亘って各々配置されている。言い換えると、各々の電極指31は、配列領域16、16をY方向全体に臨む領域に亘って形成されている。従って、マルチストリップカプラ32は、長さ方向における中央位置が既述のライン30上に位置している。この電極指31の本数は、例えば550本に設定されている。このマルチストリップカプラ32において弾性波の伝搬領域が転移する理由について、図2を参照して簡単に説明する。
【0021】
送信側IDT電極12において弾性波が伝搬する領域(配列領域16)をトラックTr1、受信側IDT電極13の配列領域16をトラックTr2とすると、送信側IDT電極12からトラックTr1の弾性波がマルチストリップカプラ32に入射すると、トラックTr1及びトラックTr2の両方において各々励振する2種類の弾性波Ps、Paが発生する(分離される)。弾性波Psは、これらのトラックTr1及びトラックTr2において弾性波が互いに同じ変位(位相)で励振する対称モードの弾性波であり、一方弾性波Paは、前記ライン30を節としてこれらトラックTr1、Tr2間の位相が互いに逆になるように励振する反対称モードの弾性波である。反対称モードの弾性波Paは、これらトラックTr1、Tr2間において互いに電荷を打ち消し合いながら伝搬していくので、対称モードの弾性波Psよりも伝搬速度が遅くなる。
【0022】
従って、これら弾性波Ps、Paが受信側IDT電極13に向かって夫々伝搬するにつれて、トラックTr1では弾性波Ps、Paの位相が互いにずれていくことになる。そのため、マルチストリップカプラ32では、当該マルチストリップカプラ32からこれら弾性波Ps、Paが出力される時に、対称モードの弾性波PsにおいてはトラックTr1、Tr2のいずれについても正の振幅が極大となり、一方反対称モードの弾性波PaにおいてはトラックTr1の振幅が負の極大になると共にトラックTr2の振幅が正の極大となるように電極指31の本数(弾性波Ps、Paの伝搬路の長さ)を設定している。これによって、マルチストリップカプラ32から出力される弾性波であるこれら弾性波Ps、Paの合成波は、トラックTr1とは異なるトラックTr2において発生することになる。尚、図2ではフィルタを模式的に示している。
【0023】
この時、マルチストリップカプラ32では、これらの弾性波Ps、Paは、既述の図2に示したように、各々のトラックTr1、Tr2において、開口長方向(Y方向)に亘ってエネルギーが揃うように発生する。即ち、マルチストリップカプラ32の電極指31は、弾性波の伝搬方向に対して直交する方向(Y方向)に形成されているので、Y方向には電気的に短絡していることになる。従って、例えばY方向においてマルチストリップカプラ32のトラックTr1のある一部分だけに弾性波が入射したとしても、Y方向に亘ってエネルギーの揃った(ならされた)いわば矩形状の弾性波Ps、Paとなる。
【0024】
そのため、図3に示すように、開口長方向(Y方向)において中央部側では両端部側よりもエネルギーの大きいトラックTr1の弾性波が送信側IDT電極12からマルチストリップカプラ32に入射したとしても、各々のトラックTr1、Tr2において、電極指31の長さ方向に亘って強度の揃った弾性波Ps、Paが伝搬する。即ち、送信側IDT電極12の例えばサイドローブSにおいて交差幅がバスバー14a、14b間の離間寸法(開口長)よりも小さい領域において発生した弾性波であっても、マルチストリップカプラ32に到達すると、マルチストリップカプラ32の各々の電極指31の長さ方向に亘って均一に励振する弾性波Ps、Paとして伝搬して行くことになる。
【0025】
続いて、フィルタ全体の構成の説明に戻ると、IDT電極12、13の側方位置における圧電基板11の端部に近接する領域には、これらIDT電極12、13を介して伝搬する不要波を吸収するために、既述の端部ライン33、34間に亘って形成された例えばシリコーンゴムなどからなる吸収材50、50が各々配置されている。
【0026】
このフィルタにおいて入力ポート21から電気信号が入力されると、送信側IDT電極12にて弾性波が発生する。既述のように送信側IDT電極12では、Y方向における中央領域においてバスバー14a、14bに近接する領域よりも電極指15、15の対数が多くなっている。そのため、送信側IDT電極12からマルチストリップカプラ32に向かって出力される弾性波は、図4に模式的に示すように、前記中央位置ではバスバー14a、14b側よりも弾性波のエネルギーが大きくなる。
【0027】
この弾性波は、図2中X方向両側に向かって伝搬していき、受信側IDT電極13に向かって伝搬する弾性波についてはマルチストリップカプラ32へと到達する。このマルチストリップカプラ32では、既述のように各々のトラックTr1、Tr2において矩形の弾性波Ps、Paが発生して、これら弾性波Ps、Paの合成波が受信側IDT電極13に向かって出力される。そして、マルチストリップカプラ32から出力される合成波は、トラックTr2において発生すると共に、Y方向に亘ってエネルギーの揃った弾性波となる。
【0028】
そして、このトラックTr2の弾性波は、受信側IDT電極13に伝搬していき、当該受信側IDT電極13において電気信号に変換されて出力ポート22から取り出される。この時、受信側IDT電極13に伝搬する弾性波の周期単位λは、Y方向に亘って一様に送信側IDT電極12における周期単位λ1と同じ値となっている。一方、受信側IDT電極13では、電極指15がテーパー状に配置されているので、バスバー14aからバスバー14bに向かって周期単位λが大きくなっている。そのため、受信側IDT電極13に伝搬する弾性波の周期単位λ1と、当該受信側IDT電極13の電極指15群によって構成される周期単位λ2〜λ3とでは、Y方向において互いに差の生じる場合がある。
【0029】
しかし、送信側IDT電極12から送信される(受信側IDT電極13に到達する)弾性波は周期単位λ1から短波長側及び高波長側に各々ある程度の広がり(範囲)を持っており、また受信側IDT電極13にて受信できる弾性波についても同様に周期単位λ2〜λ3の夫々から低波長側及び高波長側に各々ある程度の広がりを持っている。更に、既述のように周期単位λ1と周期単位λ2及びλ3との間の差を夫々数%程度にしている。そのため、マルチストリップカプラ32から受信側IDT電極13に向かって伝搬する弾性波は、エネルギーのロスが抑えられた状態で当該受信側IDT電極13にて受信される。
【0030】
図5には、このフィルタの構成に基づいて得られた周波数特性を示している。図5において、受信側IDT電極13の中心周波数が420MHz、帯域幅が20MHzとなるようにフィルタを設計すると共に、電極12、13の電極指15の対数を夫々150対及び86対、マルチストリップカプラ32の電極指31の本数を550本としている。この図5から、従来のフィルタ(送信側及び受信側電極としていずれもテーパー型の電極を用いた場合)と比較して、シェイプファクタ−(40dB減衰幅と3dB減衰幅との比)は、1.48から1.39へと改善されていた。
【0031】
尚、送信側IDT電極12においては、弾性波と共に当該弾性波とは励振モードの異なるバルク波などの不要波も発生するが、この不要波はマルチストリップカプラ32においてトラック転移されずに、送信側IDT電極12から図4中受信側IDT電極13が形成されていない領域を伝搬して吸収材50にて吸収される。また、送信側IDT電極12から圧電基板11の端部に向かって伝搬する弾性波及び受信側IDT電極13を通過する弾性波についても同様に吸収材50において吸収される。
【0032】
上述の実施の形態によれば、送信側IDT電極12及び受信側IDT電極13としてアポダイズ型電極及びテーパー型電極の一方側及び他方側を夫々配置すると共に、これらIDT電極12、13間にマルチストリップカプラ32を設けて、送信側IDT電極12を伝搬する弾性波を受信側IDT電極13に転移させている。そのため、送信側IDT電極12から受信側IDT電極13に向かう弾性波を、受信側IDT電極13における一対のバスバー14a、14b間に亘って励振強度の揃った弾性波に変換できるので、いわば設計手法の互いに異なるアポダイズ電極及びテーパー型電極を一組の送信側IDT電極12及び受信側IDT電極13として用いることができる。即ち、従来であれば一組の送信側IDT電極12及び受信側IDT電極13として一つのフィルタを構成できなかったあるいは構成が困難であったアポダイズ型電極及びテーパー型電極を用いて一つのフィルタを構成できるので、これらアポダイズ型電極及びテーパー型電極の夫々の長所を利用することができる。従って、通過周波数帯域よりも高域側の減衰傾度が急峻で且つ通過周波数帯域の平坦性が良好な広帯域の弾性波フィルタを得ることができる。
【0033】
既述の例では、送信側IDT電極12にアポダイズ型電極を配置し、受信側IDT電極13にテーパー型電極を配置したが、図6に示すように、送信側IDT電極12及び受信側IDT電極13に夫々テーパー型電極及びアポダイズ型電極を用いても良い。この場合には、図7に模式的に示すように、送信側IDT電極12からマルチストリップカプラ32に入射する弾性波は、バスバー14aからバスバー14bに向かって、周期単位λがλ2〜λ3までに亘って徐々に大きくなっている。しかし、マルチストリップカプラ32では、当該マルチストリップカプラ32の電極指31の周期単位λとは異なる周期単位λの弾性波についても、広い周期単位λに亘ってトラック転移が起こる。
【0034】
そのため、図7に示すように、夫々の周期単位λ2〜λ3の弾性波は、既述の例と同様に、トラックTr2においてY方向に亘って個別に一様な分布となるようにマルチストリップカプラ32から出力される。即ち、マルチストリップカプラ32により、Y方向に亘って周波数分布の揃った弾性波がトラックTr2において出力される。そして、アポダイズ型電極の受信側IDT電極13においても既述の例と同様に、当該受信側IDT電極13の周期単位λ1とは僅かに異なる周期単位λ2〜λ3の弾性波であってもエネルギーのロスが抑えられた状態で受信される。従って、このフィルタにおいても既述の例と同様の効果が得られる。尚、図7では、マルチストリップカプラ32から受信側IDT電極13に向かって出力される各トラックTr2〜Tr3の弾性波について、模式的に各々側方側にずらして描画している。
【0035】
既述の各例では、各電極12、13の夫々の周期単位λ1と周期単位λ2、λ3との間の差を数%程度に設定したが、十数%であっても良く、その場合にはエネルギーのロスが抑えられた状態で受信側IDT電極13にて弾性波が受信されるように、各々の電極12、13において特性が夫々調整されることになる。また、配列領域16、16のY方向の寸法が互いに等しくなるように各電極12、13を形成したが、これら電極12、13の間のインピーダンスを調整するために、互いの配列領域16、16のY方向の寸法が異なるようにしても良い。
【符号の説明】
【0036】
11 圧電基板
12 送信側IDT電極
13 受信側IDT電極
14 バスバー
15 電極指
16 配列領域
31 電極指
32 マルチストリップカプラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に送信側電極及び受信側電極の一方として形成され、互いに平行にX方向に伸びる一対のバスバー及びこれら一対のバスバーの各々から対向するバスバー側に向かってX方向に直交するY方向に櫛歯状に各々伸び出す電極指群を備えると共に、電極指の交差幅がX方向に沿って変化するようにアポダイズ型に重みづけられたアポダイズ型電極と、
前記圧電基板上に送信側電極及び受信側電極の他方として形成され、互いに平行にX方向に伸びる一対のバスバー及びこれら一対のバスバー間においてテーパー状に配置された電極指群を備えると共に、前記アポダイズ型電極に対してX方向に離間しかつ電極指群の配列領域が前記アポダイズ型電極における電極指群の配列領域に対してY方向に離間するように設けられたテーパー型電極と、
前記送信側電極を伝播する弾性波を受信側電極に転移させるために前記アポダイズ型電極及び前記テーパー型電極の間に設けられ、前記アポダイズ型電極における電極指群の配列領域のY方向全体に臨む領域から前記テーパー型電極における電極指群の配列領域のY方向全体に臨む領域に亘って、Y方向に互いに平行に伸びる複数本の電極指を備えたマルチストリップカプラと、を備えていることを特徴とする弾性波フィルタ。
【請求項2】
前記アポダイズ型電極における電極指群の配列領域と前記テーパー型電極における電極指群の配列領域とのY方向の寸法は、同じに設定されていることを特徴とする請求項1に記載の弾性波フィルタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−4682(P2012−4682A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135416(P2010−135416)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】