説明

弾性波共振器及びこれを用いた縦結合二重モードフィルタ、ラダー型フィルタ

【課題】携帯電話や無線LAN端末等に用いられる弾性波共振器において、横モードに起因するスプリアスを抑制する弾性波共振器の提供。
【解決手段】弾性波共振器8は、圧電基板9と、バスバー10と、バスバー10と平行となるように設けられたバスバー11と、一端がバスバー10と非直交となるように接続されるとともに、バスバー11に向かって延伸した複数の電極指12と、一端がバスバー11と非直交となるように接続されるとともに、バスバー10に向かって延伸し、複数の電極指12と交差する複数の電極指13と、を備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話や無線LAN端末等に用いられる弾性波共振器及びこれを用いた縦結合二重モードフィルタ、ラダー型フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
図8に示すように、従来の弾性波共振器1は、圧電基板2と、圧電基板2の上に設けられたバスバー3と、圧電基板2の上にバスバー3と平行となるように設けられたバスバー4と、圧電基板2の上に設けられ、一端がバスバー3と接続されるとともに、バスバー4に向かって延伸した複数の電極指5と、圧電基板2の上に設けられ、一端がバスバー4と接続されるとともに、バスバー3に向かって延伸し、複数の電極指5と交差する複数の電極指6とを備えていた。バスバー3、4は方向aに沿って延伸し、複数の電極指5、6は方向aと直角の方向bに沿って延伸していた。
【0003】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−78981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の弾性波共振器1の通過特性図を図9に示す。図9において、横軸は周波数を表し、縦軸は減衰量を表している。弾性波共振器1の通過特性7は、共振周波数の近傍に横モードに起因するスプリアスSが発生している。このため、弾性波共振器1のQ値が劣化していた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明の弾性波共振器は、圧電基板と、圧電基板の上に設けられた第1のバスバーと、圧電基板の上に第1のバスバーと平行となるように設けられた第2のバスバーと、圧電基板の上に設けられ、一端が第1のバスバーと非直交となるように接続されるとともに、第2のバスバーに向かって延伸した複数の第1の電極指と、圧電基板の上に設けられ、一端が第2のバスバーと非直交となるように接続されるとともに、第1のバスバーに向かって延伸し、複数の第1の電極指と交差する複数の第2の電極指と、を備えた構成とする。この構成により、横モードに起因するスプリアスを抑制することができ、弾性波共振器のQ値を改善することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の弾性波共振器は、横モードに起因するスプリアスを抑制することができ、弾性波共振器のQ値を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施の形態1における弾性波共振器のブロック図
【図2】実施の形態1における弾性波共振器の通過特性図
【図3】実施の形態1における弾性波共振器の他の例を示すブロック図
【図4】(a)は実施の形態1における弾性波共振器の他の例を示すブロック図、(b)(c)は共に図4(a)のA−A断面を示す断面図
【図5】実施の形態1における弾性波共振器の他の例を示すブロック図
【図6】実施の形態1における縦結合二重モードフィルタのブロック図
【図7】実施の形態1におけるラダー型フィルタのブロック図
【図8】従来の弾性波共振器のブロック図
【図9】従来の弾性波共振器の通過特性図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0010】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態における弾性波共振器8のブロック図である。
【0011】
図1において、弾性波共振器8は、圧電基板9と、圧電基板9の上に設けられたバスバー10と、圧電基板9の上にバスバー10と平行となるように設けられたバスバー11と、圧電基板9の上に設けられ、一端がバスバー10と非直交となるように接続されるとともに、バスバー11に向かって延伸した複数の電極指12と、圧電基板9の上に設けられ、一端がバスバー11と非直交となるように接続されるとともに、バスバー10に向かって延伸した複数の電極指13と、を備えている。
【0012】
ここで、バスバー10、11は方向cに沿って延伸し、複数の電極指12、13は方向dに沿って延伸している。方向cと方向dとのなす角θは非直交となっている。
【0013】
以下、各構成要素について詳述する。
【0014】
圧電基板9は、板厚100〜350μm程度の単結晶圧電基板からなり、例えば、水晶、タンタル酸リチウム系、ニオブ酸リチウム系、又はニオブ酸カリウム系の基板である。なお、本実施の形態においては、圧電基板9としてニオブ酸リチウム系の基板を用いている。これにより、電気機械結合係数を大きくすることができ、通過帯域が広いフィルタを構成することができる。なお、−15°〜+35°の範囲のYカットX伝搬のニオブ酸リチウム基板を用いることにより、弾性波共振器8の電気機械係数をさらに大きくすることができる。本実施の形態においては、5°回転YカットX伝搬のニオブ酸リチウム基板を用いている。
【0015】
バスバー10、11及び複数の電極指12、13は、膜厚0.1〜0.5μm程度の電極であり、例えば、アルミニウム、銅、銀、金、チタン、タングステン、白金、クロム、ニッケル、モリブデンの少なくとも一種からなる単体金属、又はこれらを主成分とする合金又はそれらの金属が積層された構成である。本実施の形態においては、バスバー10、11及び複数の電極指12、13としてアルミニウムを用いている。バスバー10、11及び複数の電極指12、13は、圧電基板9の上に、例えば、スパッタリングまたは蒸着により形成される。
【0016】
弾性波共振器8において、弾性波は複数の電極指12、13が延伸する方向dと略直角となる方向に励振され、スプリアスとなる横モードの波は方向dに沿って励振される。ここで、複数の電極指12、13の配列方向である方向cを方向dと非直交とすることにより、複数の電極指12、13の方向cに沿った定在波が結合しにくくなり、横モードの波を抑圧することができる。
【0017】
図2は、θ=98°とした場合の弾性波共振器8の通過特性図である。図2において、横軸は周波数を表し、縦軸は減衰量を表している。従来の弾性波共振器1の通過特性7(点線)においては、共振周波数の近傍にスプリアスSが生じているが、弾性波共振器8の通過特性14(実線)は、このスプリアスが大幅に抑圧されている。このように、本実施の形態における弾性波素子は、横モードに起因するスプリアスを大幅に抑制することができ、Q値を改善することができる。
【0018】
図3は、弾性波共振器8の他の例を示すブロック図である。図3に示す如く、バスバー10、11が延伸する方向(方向c)の両端に反射器15、16を設けてもよい。これにより、弾性波を弾性波共振器8の内部に閉じ込める効果が増大し、弾性波共振器8のQ値を高めることができる。
【0019】
図4は、弾性波共振器8の他の例を示すブロック図である。図4の(a)に示す如く、圧電基板9の上に、複数の電極指12と複数の電極指13とを覆うように誘電体膜17を設けてもよい。これにより、圧電基板9上において、複数の電極指12、13が形成された箇所と形成されていない箇所の音速差を低減することができるため、弾性波共振器8の共振周波数付近に現れる不要なレイリー波に起因するスプリアスを抑制することができる。
【0020】
また、図4の(a)に示す如く、誘電体膜17は、複数の電極指12と複数の電極指13とが交差する交差領域Cを覆うように設け、非交差領域Dの一部を覆わないようにしてもよい。これにより、非交差領域Dの音速を交差領域Cの音速よりも速くすることができ、非交差領域Dの音速と交差領域Cの音速との差を設けることができるため、横モードの波の定在波が発生しにくくすることができる。なお、非交差領域Dの幅と誘電体膜17の幅とを一致させることにより、横モードの抑制を最大化することができるが、図4の(a)に示す如く、誘電体膜17は、交差領域Cのみでなく、交差領域Cを超えて非交差領域Dの一部を含んでいても横モードの抑制効果を得ることができる。
【0021】
また、図4の(a)に示す如く、誘電体膜17におけるバスバー10との対向面17aは直線状であり、かつ、方向cに沿って形成されている。誘電体膜17におけるバスバー11との対向面17bは直線状であり、かつ、方向cに沿って形成されている。対向面17a、17bの方向と、複数の電極指12、13の延伸方向とは非直交である角度θとなっている。この構成により、バスバー10とバスバー11との間に発生する横モードの波が互いに結合しにくくなり、横モードの波を抑圧することができる。
【0022】
図4の(b)は、図4の(a)に示すA−A線の断面図を示している。図4の(b)に示す如く、誘電体膜17は圧電基板9の上に、交差領域Cを覆うように設けられている。複数の電極指12、13の膜厚よりも、誘電体膜17の膜厚を厚くすることにより、圧電基板9上において、複数の電極指12、13が形成された箇所と形成されていない箇所の音速差をより低減することができ、弾性波共振器8の共振周波数付近に現れる不要なレイリー波に起因するスプリアスの抑制効果をさらに高めることができる。
【0023】
また、誘電体膜17の上面は、複数の電極指12と複数の電極指13の上部が凸形状となるように、凹凸を有していても良い。これにより、音速調整の設計自由度を向上させることができ、誘電体膜17を厚くせずに、複数の電極指12、13が形成された箇所と形成されていない箇所の音速差を同等にすることができる。本実施の形態においては、複数の電極指12、13の膜厚は約1600Å(波長で規格化した規格化膜厚は8%)、誘電体膜17の膜厚は約4000Å(規格化膜厚は20%)、誘電体膜17の上面の凸形状は約1600Å(波長で規格化した規格化膜厚は8%)としている。この条件により、レイリーモードに起因するスプリアスを非常に効果的に抑圧することができる。
【0024】
さらに、図4の(c)に示す如く、誘電体膜17におけるバスバー10、11との対向面17a、17bを高さ方向に傾斜を有するテーパー状としても良い。この形状とすることにより、バスバー10とバスバー11との間に発生する横モードの定在波の波長を高さ方向で異ならせることができる。これにより、横モードに起因するスプリアスを効果的に分散させることができる。
【0025】
誘電体膜17は、望ましくは、二酸化ケイ素(SiO2)の如く、圧電基板9とは逆の周波数温度特性を有する媒質を用いる。これにより、弾性波共振器8の周波数温度特性を向上することができる。この誘電体膜17は、圧電基板9の上に、少なくとも複数の電極指12と複数の電極指13とが交差する交差領域Cを覆うように、例えば、スパッタリング、蒸着、CVDにより形成される。
【0026】
図5は、弾性波共振器8の他の例を示すブロック図である。図5に示す如く、一端がバスバー10と非直交となるように接続されるとともに、バスバー11に向かって複数の電極指13と対向するように延伸したダミー電極指18と、一端がバスバー11と非直交となるように接続されるとともに、バスバー10に向かって複数の電極指12と対向するように延伸したダミー電極指19とを設けてもよい。この構成により、複数の電極指12と複数の電極指13とが交差しない非交差領域の音速を、複数の電極指12と複数の電極指13とが交差する交差領域の音速よりも速くすることができる。これにより、非交差領域の音速と交差領域の音速との差を設け、横モードの波の定在波が発生しにくくすることができる。また、図5に示す如く、バスバー10、11の延伸方向(方向c)に沿って、複数の電極指12と複数の電極指13とが交差する交差領域の長さを変化させるとともに、ダミー電極指18、19の長さを変化させてもよい。本実施の形態においては、複数の電極指12、13は、バスバー10、11の中央部分において最も長く、バスバー10、11の中央部分から離れるほど短くなるように形成している。同様に、ダミー電極指18、19は、バスバー10、11の中央部分において最も短く、バスバー10、11の中央部分から離れるほど長くなるように形成している。この構成とすることにより、複数の電極指12、13の方向cに沿った定在波が発生する周波数を分散させることができるため、横モードの波を抑圧することができる。
【0027】
図6は、本実施の形態における弾性波共振器を用いて構成した縦結合二重モードフィルタ20の一例である。図6において、縦結合二重モードフィルタ20は、圧電基板9の上に設けられた複数の弾性波共振器21〜23と、圧電基板9の上であって、複数の弾性波共振器21〜23の両端に設けられた反射器24、25とを備えている。また、複数の弾性波共振器21〜23の中央に配置された弾性波共振器21と不平衡端子26とが接続され、弾性波共振器21の両端に配置された弾性波共振器22、23と平衡端子27、28とが接続されている。
【0028】
図6の如く、本実施の形態における弾性波共振器を用いて縦結合二重モードフィルタ20を構成することにより、横モードに起因するスプリアスを抑制することができ、縦結合二重モードフィルタの挿入損失を改善することができる。
【0029】
なお、図6においては、弾性波共振器21〜23の全てが、バスバーの延伸方向と複数の電極指の延伸方向とを非直交としている。しかし、弾性波共振器21〜23のいずれか1つにおいて、バスバーの延伸方向と複数の電極指の延伸方向とを非直交とすることにより、横モードに起因するスプリアスを抑制することが可能である。
【0030】
また、弾性波共振器21におけるバスバーの延伸方向と複数の電極指の延伸方向とのなす角と、弾性波共振器22におけるバスバーの延伸方向と複数の電極指の延伸方向とのなす角とを異ならせてもよい。
【0031】
図7は、本実施の形態における弾性波共振器を用いて構成したラダー型フィルタ29の一例である。図7において、ラダー型フィルタ29は、圧電基板9の上であって、直列腕に設けられた弾性波共振器30、31と、並列腕に設けられた弾性波共振器32、33とを梯子状に設けている。また、弾性波共振器30と端子34とが接続され、弾性波共振器31と端子35とが接続されている。
【0032】
図7の如く、本実施の形態における弾性波共振器を用いてラダー型フィルタ29を構成することにより、横モードに起因するスプリアスを抑制することができ、ラダー型フィルタの挿入損失を改善することができる。
【0033】
なお、図7においては、弾性波共振器30〜33の全てが、バスバーの延伸方向と複数の電極指の延伸方向とを非直交としている。しかし、弾性波共振器30〜33のいずれか1つにおいて、バスバーの延伸方向と複数の電極指の延伸方向とを非直交とすることにより、横モードに起因するスプリアスを抑制することが可能である。
【0034】
また、弾性波共振器30におけるバスバーの延伸方向と複数の電極指の延伸方向とのなす角と、弾性波共振器31におけるバスバーの延伸方向と複数の電極指の延伸方向とのなす角とを異ならせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の弾性波共振器は、横モードに起因するスプリアスを抑制することができ、弾性波共振器のQ値を改善することができるので、携帯電話や無線LAN端末等において有用である。
【符号の説明】
【0036】
1 弾性波共振器
2 圧電基板
3、4 バスバー
5、6 電極指
7 通過特性
8、21〜23、30〜33 弾性波共振器
9 圧電基板
10、11 バスバー
12、13 電極指
14 通過特性
15、16、24、25 反射器
17 誘電体膜
18、19 ダミー電極指
20 縦結合二重モードフィルタ
26 不平衡端子
27、28 平衡端子
29 ラダー型フィルタ
34、35 端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板の上に設けられた第1のバスバーと、
前記圧電基板の上に前記第1のバスバーと平行となるように設けられた第2のバスバーと、
前記圧電基板の上に設けられ、一端が前記第1のバスバーと非直交となるように接続されるとともに、前記第2のバスバーに向かって延伸した複数の第1の電極指と、
前記圧電基板の上に設けられ、一端が前記第2のバスバーと非直交となるように接続されるとともに、前記第1のバスバーに向かって延伸し、前記複数の第1の電極指と交差する複数の第2の電極指と、を備えた弾性波共振器。
【請求項2】
前記圧電基板の上に、前記複数の第1の電極指と前記複数の第2の電極指とが交差する交差領域を覆うように誘電体膜を設け、
前記誘電体膜における前記第1のバスバーとの対向面は直線状であり、かつ、前記対向面は前記複数の第1の電極指及び前記複数の第2の電極指と非直交である請求項1に記載の弾性波共振器。
【請求項3】
前記対向面は高さ方向に傾斜を有する請求項2に記載の弾性波共振器。
【請求項4】
前記第1のバスバー及び前記第2のバスバーが延伸する方向の両端に反射器を設けた請求項1に記載の弾性波共振器。
【請求項5】
前記圧電基板は、ニオブ酸リチウムからなる請求項1に記載の弾性波共振器。
【請求項6】
前記基板は、−15°〜+35°回転YカットX伝搬のニオブ酸リチウム基板である請求項1に記載の弾性波共振器。
【請求項7】
圧電基板と、
前記圧電基板の上に設けられた複数の弾性波共振器と、
前記圧電基板の上であって、前記複数の弾性波共振器の両端に設けた反射器と、を備え、
前記複数の弾性波共振器の少なくとも1つは、請求項1に記載の弾性波共振器である縦結合二重モードフィルタ。
【請求項8】
圧電基板と、
前記圧電基板の上であって、直列及び並列に梯子状に設けられた複数の弾性波共振器と、を備え、
前記複数の弾性波共振器の少なくとも1つは、請求項1に記載の弾性波共振器であるラダー型フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−182220(P2011−182220A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45147(P2010−45147)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】