説明

弾性波素子およびそれを用いた弾性波装置

【課題】反射係数が高くかつ温度係数の低い弾性波素子を提供する。
【解決手段】
SAW素子1は、圧電基板1と、圧電基板1の上面3aに配置されたIDT電極5と、IDT電極5の上面に配置された絶縁材料からなるスペーサー18と、スペーサー18の上面に配置された付加膜9と、付加膜9が配置されたIDT電極5を圧電基板1のうちIDT電極5から露出する部分とともに覆い、上面3aからの厚みが圧電基板1の上面3aから付加膜9の上面までの厚み以上であるSiOからなる絶縁層11とを有する。付加膜9は、IDT電極5の材料,スペーサーの材料18およびSiOよりも音響インピーダンスが大きく、スペーサー18よりも密度が大きく、かつIDT電極5の材料およびSiOよりも弾性波の伝搬速度が遅い材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)素子等の弾性波素子およびそれを用いた弾性波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電基板と、圧電基板の主面上に設けられたIDT(Inter Digital Transducer)電極(励振電極)と、IDT電極を覆う保護層とを有する弾性波素子が知られている(例えば特許文献1または2)。保護層は、例えば、SiOによって形成され、IDT電極の腐食抑制、弾性波素子の特性の温度係数の低減等に寄与している。
【0003】
特許文献2では、上記のような保護層(SiO膜)を有する弾性波素子において、IDT電極がAlまたはAlを主成分とする合金によって形成されると、十分な反射係数を得ることができないことを指摘している(段落0009)。そして、IDT電極をAlよりも密度の大きい金属または該金属を主成分とする合金によって形成することによって、比較的高い反射係数を得ることを提案している(請求項1等)。
【0004】
なお、反射係数に係る事項ではないが、特許文献1および2では、IDT電極とSiO膜との密着性を向上させるために、これらの間に密着層を形成することを提案している(特許文献1の段落0011、特許文献2の段落0107)。特許文献1および2において、密着層は、SAWの伝搬に影響を及ぼさないように薄く形成されている。具体的には、密着層は、50〜100Å(特許文献1の段落0009)もしくはSAWの波長の1%以下(特許文献2の段落0108)とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−204493号公報
【特許文献2】特開2004−112748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、特許文献2では、Alよりも密度が高い材料によってIDT電極を形成することを提案している。しかし、電気特性、加工容易性、材料費等の観点から、IDT電極の材料としてAlもしくはAlを主成分とする合金を用いることが望まれる場合もある。このため、特許文献2とは別の方法によって反射係数を高くする方法が提供されることが望まれる。さらに、近年の無線通信技術の進歩から、より温度係数の小さい弾性波デバイスが望まれている。
【0007】
本発明の目的は、特性の温度係数をより低減することが可能であると共に、反射係数を高くすることができる弾性波素子および弾性波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様に係る弾性波素子は、圧電基板と、該圧電基板の上面に配置されたIDT電極と、該IDT電極の上面に配置された絶縁材料からなるスペーサーと、該スペーサーの上面に配置された付加膜と、該付加膜が配置された前記IDT電極を前記圧電基板のうち前記IDT電極から露出する部分とともに覆い、前記圧電基板の上面からの厚みが前記圧電基板の上面から前記付加膜の上面までの厚み以上であるSiOからなる絶縁層とを有し、前記付加膜は、前記IDT電極の材料,前記スペーサーの材料およびSiO
よりも音響インピーダンスが大きく、前記スペーサーよりも密度が大きく、かつ前記IDT電極の材料およびSiOよりも弾性波の伝搬速度が遅い材料からなる。
【0009】
本発明の一実施態様に係る弾性波装置は、上記の弾性波素子と、前記弾性波素子が実装された回路基板と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
上記の構成によれば、IDT電極の上方に、IDT電極の材料およびSiOより音響インピーダンスが大きく、かつIDT電極の材料およびSiOより弾性波の伝搬速度が遅い材料からなる付加膜を配置したことによって、IDT電極がSiOよって覆われている弾性波素子の反射係数を高くすることができ、温度補償特性および共振特性に優れた弾性波素子とすることができる。
【0011】
また、IDT電極と付加膜との間にはスペーサーが介在している。すなわち、前記付加膜が前記IDT電極と離間して配置されているため、前記付加膜を、前記IDT電極の材料、厚み、幅に対して独立して選択することができ、設計の自由度を向上させることができる。かつ、前記付加膜およびスペーサーによって弾性波のエネルギーをよりSiO側に分布させることができるようになるため、弾性波素子の特性の温度係数をより低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1(a)は本発明の実施形態に係るSAW素子の平面図、図1(b)は図1(a)のIb‐Ib線における断面図である。
【図2】図2(a)〜図2(e)はSAW素子の製造方法を説明する、図1(b)に対応する断面図である。
【図3】図3(a)〜図3(c)は比較例および実施形態のSAW素子の作用を説明する図である。
【図4】スペーサーの厚みdとSAW素子の周波数温度特性の関係を示すグラフである。
【図5】電極指1本当たりの反射係数Γを示すグラフである。
【図6】電極指1本当たりの電気機械結合係数Kを示すグラフである。
【0013】

【図7】図7(a)および図7(b)は電極指1本当たりの反射係数Γおよび電気機械結合係数Kを示すグラフである。
【図8】図8(a)および図8(b)は電極指1本当たりの反射係数Γおよび電気機械結合係数Kを示す他のグラフである。
【図9】電極指1本当たりの反射係数Γを示す他のグラフである。
【図10】図10(a)および図10(b)は付加膜の厚みの好ましい範囲の下限の求め方を説明する図である。
【図11】Taからなる付加膜の厚みの好ましい範囲の下限を示すグラフである。
【図12】TaSiからなる付加膜の厚みの好ましい範囲の下限を示すグラフである。
【図13】WSiからなる付加膜の厚みの好ましい範囲の下限を示すグラフである。
【図14】Taからなる付加膜の厚みの好ましい範囲を示すグラフである。
【図15】本発明の実施形態に係るSAW装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係るSAW素子およびSAW装置について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
【0015】
(SAW素子の構成および製造方法)
図1(a)は本発明の実施形態に係る弾性波素子(以下、SAW素子)1の平面図、図1(b)は図1(a)のIb−Ib線における断面図である。なお、SAW素子1は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下では、便宜的に、直交座標系xyzを定義するとともに、z方向の正側(図1(a)の紙面手前側、図1(b)の紙面上方)を上方として、上面、下面等の用語を用いるものとする。
【0016】
SAW素子1は、基板3と、基板3の上面3aに設けられたIDT電極5および反射器7と、IDT電極5および反射器7上に設けられたスペーサー18(図1(b))と、スペーサー上に設けられた付加膜9(図1(b))と、上面3aを付加膜9の上から覆う保護層11(図1(b))とを有している。付加膜9は、IDT電極5および反射器7からはスペーサー18によって離間して配置させている。なお、SAW素子1は、この他にも、IDT電極5に信号の入出力を行うための配線等を有していてもよい。
【0017】
基板3は、圧電基板によって構成されている。具体的には、例えば、基板3は、タンタル酸リチウム(LiTaO)単結晶,ニオブ酸リチウム(LiNbO)単結晶等の圧電性を有する単結晶の基板によって構成されている。より好適には、基板3は、128°±10°Y−XカットのLiNbO基板によって構成されている。基板3の平面形状および各種寸法は適宜に設定されてよい。一例として、基板3の厚み(z方向)は、0.2mm〜0.5mmである。
【0018】
IDT電極5は、一対の櫛歯状電極13を有している。各櫛歯状電極13は、SAWの伝搬方向(x方向)に延びるバスバー13a(図1(a))と、バスバー13aから上記伝搬方向に直交する方向(y方向)に伸びる複数の電極指13bとを有している。2つの櫛歯状電極13同士は、互いに噛み合うように(電極指13bが互いに交差するように)設けられている。複数の電極指13bは、そのピッチが、例えば、共振させたい周波数でのSAWの波長λの半波長と同等となるように設けられている。
【0019】
なお、図3等は模式図であり、実際には、これよりも多数の電極指を有する複数対の櫛歯状電極が設けられてよい。また、複数のIDT電極5が直列接続や並列接続等の方式で接続されたラダー型SAWフィルタが構成されてもよいし、複数のIDT電極5をX方向に沿って配置した2重モードSAW共振器フィルタ等が構成されてよい。また、複数の電極指の長さを異ならせることによって、アポタイズによる重み付けを行ってもよい。
【0020】
IDT電極5は、例えば、金属により形成されている。より好適には、AlまたはAlを主成分とする合金(Al合金)、Au、Cuなどの導電性の材料によって形成されている。Al合金は、例えば、Al−Cu合金である。IDT電極5の各種寸法は、SAW素子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定される。一例として、IDT電極5の厚みe(図1(b))は、100nm〜300nmである。
【0021】
なお、IDT電極5は、基板3の上面3aに直接配置されていてもよいし、別の部材を介して基板3の上面3aに配置されていてもよい。別の部材は、例えば、Ti、Cr、あるいはこれらの合金等である。このようにIDT電極5を別の部材を介して圧電基板3の上面3aに配置する場合は、別の部材の厚みはIDT電極5の電気特性に殆ど影響を与えない程度の厚み(例えば、Tiの場合はIDT電極5の厚みの5%の厚み)に設定される。このような別の部材は、例えば、IDT電極の基板への密着性を上げたり、IDT電極
の結晶性を向上させて導電率を低くしたりすることに使用される。
【0022】
反射器7は、IDT電極5の電極指13bのピッチと概ね同等のピッチの格子状に形成されている。反射器7は、例えば、IDT電極5と同一の材料によって形成されるとともに、IDT電極5と同等の厚みに形成されている。
【0023】
スペーサー18は、IDT電極5と後述の付加膜9とを離間させるためにIDT電極5の上面に設けられ、付加膜9よりも密度および音響インピーダンスが小さい絶縁体材料で形成される。より好適には、後述の保護層11と同じ材料が使用される。また、保護層11と一体的に形成されていてもよい。スペーサー18の好適な厚みd(図1(b))については後述する。
【0024】
付加膜9は、IDT電極5および反射器7の反射係数を高くするためのものである。付加膜9は、スペーサー18の上面に配置されており、例えば、IDT電極5および反射器7の上面の全面に亘ってスペーサー18を介して対向配置されるように設けられている。付加膜9は、IDT電極5および反射器7を構成する材料(例えばAlまたはAl合金)、および、保護層11を構成する材料(後述)とは音響インピーダンスが異なる材料によって構成されている。当該音響インピーダンスの相違は、ある程度以上であることが好ましく、例えば、15MRayl以上、より好ましくは20MRayl以上であることが好ましい。
【0025】
ここで、付加膜9は、スペーサー18によりIDT電極5と離間している。このため、例えば、IDT電極5としてAlを用いた場合に、Alと積層することによってAlに電気化学的な腐食を生じさせてしまうイオン化傾向の低い金属や半導体も付加膜9として採用することができる。なお、付加膜9の好適な材料および付加膜9の好適な厚みt(図1(b))については後述する。
【0026】
保護層11は、例えば、基板3の上面3aの概ね全面に亘って設けられており、付加膜9が上方に配置されているIDT電極5および反射器7を覆うとともに、上面3aのうちIDT電極5および反射器7から露出する部分を覆っている。保護層11の上面3aからの厚みT(図1(b))は、IDT電極5および反射器7の厚みeよりも大きく設定されている。例えば、厚みTは、厚みeよりも100nm以上厚く、200nm〜700nmである。
【0027】
保護層11は、絶縁性を有する材料からなる。また、保護層11は、温度が上昇すると弾性波の伝搬速度が速くなるSiOなどの材料によって形成されており、これにより温度の変化による特性の変化を小さく抑えることができる。すなわち温度補償に優れた弾性波素子とすることができる。なお、基板3を構成する材料など、一般的な材料は、温度が上昇すると弾性波の伝搬速度は遅くなる。
【0028】
また保護層11の表面は、大きな凹凸がないようにしておくことが望ましい。圧電基板上を伝搬する弾性波の伝搬速度は保護層11の表面の凹凸に影響を受けて変化するため、保護層11の表面に大きな凹凸が存在すると、製造された各弾性波素子の共振周波数に大きなばらつきが生じることとなる。したがって、保護層11の表面を平坦にしておけば、各弾性波素子の共振周波数が安定化する。具体的には、保護層11の表面の平坦度を圧電基板上を伝搬する弾性波の波長の1%以下とすることが望ましい。
【0029】
図2(a)〜図2(e)は、SAW素子1の製造方法を説明する、図1(b)に対応する断面図である。製造工程は、図2(a)から図2(e)まで順に進んでいく。なお、各種の層は、プロセスの進行に伴って形状等が変化するが、変化の前後で共通の符号を用い
ることがあるものとする。
【0030】
図2(a)に示すように、まず、基板3の上面3a上には、IDT電極5および反射器7となる導電層15、ならびに、スペーサー18となるスペーサー層18A、付加膜9となる付加層17が形成される。具体的には、まず、スパッタリング法、蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition:化学的気相堆積)法等の薄膜形成法によって、上面3a上に導電層15が形成される。次に、同様の薄膜形成法によって、スペーサー層18A、付加層17が形成される。
【0031】
付加層17が形成されると、図2(b)に示すように、付加層17およびスペーサー層18A、導電層15をエッチングするためのマスクとしてのレジスト層19が形成される。具体的には、ネガ型もしくはポジ型の感光性樹脂の薄膜が適宜な薄膜形成法によって形成され、フォトリソグラフィー法等によってIDT電極5および反射器7等の非配置位置において薄膜の一部が除去される。
【0032】
次に、図2(c)に示すように、RIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)等の適宜なエッチング法によって、スペーサー層18A、付加層17および導電層15のエッチングを行う。これによって、付加膜9およびスペーサー層18Aが離間して設けられたIDT電極5,反射器7およびスペーサー18が形成される。その後、図2(d)に示すように、適宜な薬液を用いることによって、レジスト層19は除去される。
【0033】
そして、図2(e)に示すように、スパッタリング法もしくはCVD法等の適宜な薄膜形成法によって保護層11となる薄膜が形成される。この時点においては、保護層11となる薄膜の表面には、IDT電極5等の厚みに起因して凹凸が形成されている。そして、必要に応じて化学機械研磨等によって表面が平坦化され、図1(b)に示すように、保護層11が形成される。なお、保護層11は、平坦化の前もしくは後において、後述するパッド39(図15)等を露出させるために、フォトリソグラフィー法等によって一部が除去されてもよい。
【0034】
図3(a)〜図3(c)を参照して、比較例の作用を説明するとともに、実施形態のSAW素子1の作用を説明する。
【0035】
図3(a)は、第1の比較例のSAW素子101の作用を説明する断面図である。SAW素子101は、実施形態のSAW素子1において付加膜9,スペーサー層18および保護層11がない状態のものとなっている。
【0036】
IDT電極5によって基板3に電圧が印加されると、矢印y1によって示すように、基板3の上面3a付近において上面3aに沿って伝搬するSAWが誘起される。また、SAWは、矢印y2によって示すように、電極指13bとギャップ部(電極指13bの非配置領域)との境界において反射する。そして、矢印y1およびy2で示すSAWによって電極指13bのピッチを半波長とする定在波が形成される。定在波は、当該定在波と同一周波数の電気信号に変換され、電極指13bによって取り出される。このようにして、SAW素子1は、共振子もしくはフィルタとして機能する。
【0037】
しかし、SAW素子101においては、その温度が上昇すると、基板3における弾性波の伝搬速度が遅くなり、また、熱膨張によりギャップ部が大きくなる。その結果、共振周波数が低くなり、所望の特性が得られないおそれがある。
【0038】
図3(b)は、第2の比較例のSAW素子201の作用を説明する断面図である。SAW素子201は、実施形態のSAW素子1において付加膜9およびスペーサー層18がな
い状態のものとなっている。換言すれば、第1の比較例のSAW素子101に保護層11を付加したものとなっている。
【0039】
SAW素子201においては、保護層11が設けられていることから、矢印y3によって示すように、誘起されるSAWは、基板3だけでなく、保護層11においても伝搬する。ここで、上述のように、保護層11は、温度が上昇すると弾性波の伝搬速度が速くなる材料(SiO)によって形成されている。従って、基板3および保護層11を伝搬するSAW全体としては、温度上昇による速度の変化が抑制されることになる。すなわち、保護層11によって、温度上昇による基板3の特性変化が補償される。
【0040】
しかし、IDT電極5がAlもしくはAl合金で形成され、保護層11がSiOで形成された場合においては、IDT電極5と保護層11とで音響的な性質が近似し、電極指13bとギャップ部との境界が音響的に曖昧になる。換言すれば、電極指13bとギャップ部との境界における反射係数が低下する。その結果、図3(b)において図3(a)の矢印y2よりも小さい矢印y4によって示すように、SAWの反射波が十分に得られず、所望の特性が得られないおそれがある。
【0041】
図3(c)は、実施形態のSAW素子1の作用を説明する断面図である。
【0042】
SAW素子1は、保護層11を有していることから、第2の比較例のSAW素子201と同様に、温度特性の補償効果が得られる。また、SAW素子1は、付加膜9を有し、付加膜9は、IDT電極5の材料,スペーサー18の材料および保護層11より音響インピーダンスが大きく、かつIDT電極5および保護層11の材料より弾性波の伝搬速度が遅い材料からなる。弾性波の分布は、音響インピーダンスが大きく、かつ伝搬速度が遅い材料に引き寄せされるため、弾性波は、矢印y5に示すように、図3(b)の場合よりもさらに保護層11側を伝播するようになる。このため、SAW素子1の特性の温度係数を、図3(b)の場合よりも低減させることができる。そして、スペーサー18の厚みdにより、保護層11側に分布する音響波の割合を調整することができるため、温度係数を調整することができる。
【0043】
さらに、付加膜9は音響インピーダンスがIDT電極5および保護層11の音響インピーダンスとある程度相違する材料によって形成されている。従って、電極指13bとギャップ部との境界位置における反射係数が高くなる。その結果、IDT電極5がAlもしくはAl合金で形成されている場合でも、矢印y2によって示すように、SAWの反射波を十分に得ることが可能となる。
【0044】
なお、本発明の構成を、IDT電極5にCuやAu、Ptなどの密度が高い材料を用いた場合や、IDT電極5とスペーサー18との間に付加膜9と同様の膜を有している場合と併用することも可能である。この場合でも、弾性波はさらに保護層11側を伝播するようになるため、SAW素子1の特性の温度係数を低減することができる。
【0045】
このようにIDT電極5上にスペーサー18を介して付加膜9を配置することにより、十分な反射波を得つつ、SAW素子1の温度係数を図3(b)に示す第2の比較例の表面波素子201に比べてさらに低減することができるものとなる。
【0046】
特に、スペーサー18がSiOからなる場合には、スペーサー18においても温度が上昇すると弾性波の伝搬速度が速くなる。これにより、IDT電極5形成部において弾性波が分布する領域に弾性波の速度を速めて温度係数を低減させる効果のある部材が配置されていることとなり、より温度係数を小さくすることができる。さらに、図1(b),図3(c)に示すように、付加膜9の上面に保護層11がある場合には、付加膜9の上方の
保護層11と下方のスペーサー18との上下方向に弾性波の速度を速めて温度係数を低減させる効果のある部材が配置されていることとなり、さらに温度係数を小さくすることができる。
【0047】
(スペーサーの厚み:付加膜の高さ)
スペーサー18の厚みdを変化させたときのSAW素子の特性について検討する。
【0048】
図4から図6はそれぞれ、スペーサーの厚みdを変化させた場合の周波数温度係数、電極指1本当りの反射係数、電気機械結合係数の変化を示している。
【0049】
図4から図6は、シミュレーション計算によって得られたものである。計算条件は、以下のとおりである。なお、各種寸法は、SAWの波長λに対する比で示されている。
基板3の材料:127°Y−XカットのLiNbO基板
IDT電極5の材料:Al
スペーサー18の材料:SiO
保護層11の材料:SiO
IDT電極5の正規化厚みe:0.08λ
保護層11の正規化厚みT:0.25λ
付加膜9の正規化厚みt:0.03および0.05λの2通りの計算結果を示した。
付加膜9の材料:Ta
図4において、縦軸は、周波数温度係数(単位:ppm/℃)を示し、横軸は、スペーサー18の厚みd(単位:λm)を示している。図4から、スペーサーの厚みdを0(IDT電極5に接している状態)から大きくしていくと、周波数温度係数が低減されることがわかる。このように、スペーサー18によりIDT電極5と付加膜9とを離間することにより温度係数を小さくすることができ、さらに離間距離により温度係数を調整できることが確認できている。
【0050】
次に、図5において、縦軸は、反射係数Γを示し、横軸は、スペーサー18の厚みd(単位:λ)を示している。この図より、弾性波の反射特性に寄与する付加膜9をIDT電極5から離間して配置した場合においても、反射波を十分に得ることができることを確認できた。
【0051】
さらに、図5から、スペーサー18の厚みdの増加に伴い、反射係数が微増していることが確認できた。これは、SAWの振動はIDT電極5の表面付近に集まる傾向があり、この部分に付加膜9を配置することにより、付加膜9の効果が高まるためである。このため、付加膜9をIDT電極5と離間して配置することにより、SAW素子1の温度係数を下げつつ、反射特性を上げることができることを確認した。
【0052】
次に、図6において、縦軸は、電気機械結合係数Kを示し、横軸は、スペーサー18の厚みd(単位:λ)を示している。図6から、スペーサーの厚みdの増加に伴い、電気機械結合係数は微減していることが確認できた。このような電気機械結合係数の僅かな減少は、弾性波から電気信号への変換効率の面におけるSAW素子の性能に大きな影響を与えることはない。一方で、電気機械結合係数はフィルタの帯域にも関与し、その値が大きいほど帯域が広くなる。ここで、基板3はカット角により電気機械結合係数が異なり、所望の帯域に比べ広い値となる場合がある。このような場合に、スペーサー18の厚みdにより帯域幅を調整することができる。スペーサー18の厚みdにより帯域を調整することにより、IDT電極5等の複雑な設計変更を必要とせず、かつ、低い温度係数、良好な反射特性を保持した状態で帯域幅を調整することができる。また、従来まで電気機械結合係数が大きすぎて使用できなかったカット角の基板を用いることができ、基板3の材料選択の自由度を広げることができる。
【0053】
スペーサー18の厚みdは、所望の周波数温度係数、反射率、電気機械結合係数で適宜設定することができる。しかしながら、IDT電極5の厚みeとスペーサー18の厚みdと付加膜9の厚みtとを合計した厚みが大きくなりすぎると、アスペクト比が大きくなりすぎて、IDT電極5,スペーサー19および付加膜9の加工精度が落ちる恐れがある。このため、DT電極5の厚みeとスペーサー18の厚みdと付加膜9の厚みtとを合計した厚みはIDT電極5間のギャップ(おおむね0.25λ)以下が望ましい。IDT電極5の膜厚eは0.08λ、付加膜9の膜厚tは0.05λ程度であるため、スペーサー18の厚みdは0.12λ以下が望ましい。
【0054】
以上の説明に用いたSAW素子1は、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を行なうことができる。例えば、SAW素子1において、付加膜9の上方には保護層11が配置されているが、付加膜9の上面と保護層11の上面とが一致し、付加膜9の上面が露出しているものとしてもよい。換言すると、保護層11の厚みTが、IDT電極5の厚みeとスペーサー18の厚みdと付加膜9の厚みtとを足し合わせたものと一致してもよい。この場合には、IDT電極5を覆う保護層11を形成した後に、IDT電極5の上方において保護層11に凹部を形成し、凹部に付加膜9を形成することもでき、製造が容易となる。
【0055】
また、SAW素子1において、付加膜9の厚み方向における断面形状は、IDT電極5の幅と等しい幅を有する矩形状となっているが、IDT電極5の幅と異なっていてもよいし、断面形状は台形状等でもよい。特に、断面形状が台形の場合は、電気機械結合係数が大きくすることができるので好ましい。
【0056】
(付加膜の好適な材料および厚み)
以下、付加膜9の好適な材料および厚みtについて検討する。なお、以下の検討において、特に断りがない限り、基板3は128°Y−XカットのLiNbO基板であり、IDT電極5はAlからなり、保護層11はSiOからなるものとする。また、簡単のため、付加膜9はIDT電極5に接している場合についての計算を行った。本実施形態では、付加膜9はIDT電極5の上方に、IDT電極5と離間して設けられているが、付加膜の好適な材料および厚みについては、付加膜9がIDT電極5に接している場合とほぼ同様である(図5参照)。
【0057】
図7(a)および図7(b)は、電極指13bの1本当たりの反射係数Γおよび電気機械結合係数Kを示すグラフである。
【0058】
図7(a)および図7(b)は、シミュレーション計算によって得られたものである。計算条件は、以下のとおりである。なお、各種寸法は、SAWの波長λに対する比で示されている。
IDT電極5の正規化厚みe:0.08λ
保護層11の正規化厚みT:0.25λ
付加膜9の正規化厚みt:0.01λ〜0.05λの範囲で変化させた。
付加膜9の材料:WC、TiN、TaSi
各材料の音響インピーダンス(単位はMRayl):
SiO:12.2 Al:13.5
WC:102.5 TiN:56.0 TaSi:40.6
図7(a)および図7(b)において、横軸は付加膜9の正規化厚みtを示している。図7(a)において縦軸は電極指13bの1本当たりの反射係数Γを示している。図7(b)において縦軸は電気機械結合係数Kを示している。
【0059】
図7(a)および図7(b)において、線L1、L2およびL3は、それぞれ、付加膜9がWC、TiNおよびTaSiからなる場合に対応している。図7(a)において、線LS1は、反射係数Γの一般的に好ましいとされる範囲の下限を示している。図7(b)において、線LS2は、電気機械結合係数Kの一般的に好ましいとされる範囲の下限を示している。
【0060】
これらの図より、付加膜9が設けられることによって、電気機械結合係数Kを一般的に好ましいとされる範囲に留めつつ、反射係数Γを一般的に好ましいとされる範囲とすることが可能であることが確認された。
【0061】
また、図7(a)より、付加膜9の正規化厚みtが大きくなるほど、反射係数Γが高くなっていることが窺える。図7(b)より、付加膜9の正規化厚みtは、電気機械結合係数Kにほとんど影響を及ぼしていないことが窺える。ただし、付加膜9の正規化厚みtが大きくなると、若干、電気機械結合係数Kは向上する。このような傾向は、いずれの材料によって付加膜9が形成された場合においても生じている。
【0062】
一般には、音波が伝搬する媒質間における音響インピーダンスの差が大きいほど反射波は大きい。しかし、TaSi(線L3)は、TiN(線L2)に比較して、音響インピーダンスが小さく、ひいては、SiOとの音響インピーダンスの差が小さいにも関わらず、反射係数Γが大きくなっている。以下では、この理由について検討する。
【0063】
音響インピーダンスZが互いに同一で、ヤング率Eおよび密度ρが互いに異なる種々の仮想材料によって付加膜9を形成した場合(ケースNo.1〜No.7)について、反射係数Γおよび電気機械結合係数Kを計算した。
【0064】
計算条件は、以下のとおりである。
IDT電極5の正規化厚みe:0.08λ
保護層11の正規化厚みT:0.30λ
付加膜9の正規化厚みt:0.03λ
付加膜9の物性値:
E ρ
(MRayl)(GPa)(10kg/m
No.1: 50 100 25.0
No.2: 50 200 12.5
No.3: 50 300 8.33
No.4: 50 400 6.25
No.5: 50 500 5.00
No.6: 50 600 4.17
No.7: 50 700 3.57
なお、Z=√(ρE)である。
【0065】
図8(a)および図8(b)は、上記の条件に基づいて計算した結果を示すグラフである。横軸は、No.を示し、縦軸は、電極指13bの1本当たりの反射係数Γまたは電気機械結合係数Kを示している。線L5は計算結果を示している。
【0066】
図8(a)において、反射係数Γは、音響インピーダンスZが同一であっても、ヤング率Eが小さく、密度ρが大きいほど大きくなっている。また、No.1〜No.3における反射係数Γの変化率は、No.3〜No.7における反射係数Γの変化率よりも大きくなっている。換言すれば、No.3付近において、臨界的意義を見出す余地がある。
【0067】
このような反射係数Γの変化は、以下のように、付加膜9を構成する材料の弾性波の伝搬速度の相違によって生じているものと考えられる。まず、導波路理論より、振動分布は弾性波の伝搬速度の遅い媒質の領域ほど大きくなる。一方、No.1〜No.7の仮想材料の弾性波の伝搬速度Vは、以下のようになる(単位はm/s)。なお、V=√(E/ρ)である。
No.1: 2000 No.2: 4000 No.3: 6000
No.3: 8000 No.4:10000 No.6:12000
No.7:14000
従って、同等の音響インピーダンスの付加膜9であっても、振動分布が付加膜9に集中する弾性波の伝搬速度が遅い付加膜9の方が、振動分布が周りに分散してしまう弾性波の伝搬速度が速い付加膜9よりも、実効的に反射係数が高くなると考えられる。
【0068】
また、SiOの弾性波の伝搬速度は5560m/s、Alの弾性波の伝搬速度は5020m/sである。従って、No.1および2の付加膜9の弾性波の伝搬速度は、保護層11およびIDT電極5の弾性波の伝搬速度よりも遅く、No.3〜7の付加膜9の弾性波の伝搬速度は、保護層11およびIDT電極5の弾性波の伝搬速度よりも速い。従って、上述したNo.3付近における反射係数の変化率の変化も、弾性波の伝搬速度によって説明できる。
【0069】
なお、図8(a)において、横軸を弾性波の伝搬速度とみなしたときのSiOおよびAlの弾性波の伝搬速度を線LV1およびLV2によって示す。また、図8(b)に示す電気機械結合係数Kについては、ヤング率Eおよび密度ρが変化しても、大きな変化は生じず、好ましい範囲内に収まっている。
【0070】
以上のとおり、付加膜9は、保護層11およびIDT電極5を形成する材料と音響インピーダンスが相違し、かつ保護層11およびIDT電極5を形成する材料よりも弾性波の伝搬速度が遅い材料からなることが好ましい。なお、保護層11およびIDT電極5を形成する材料よりも音響インピーダンスが小さい材料よりも、大きい材料の方が、保護層11およびIDT電極5を形成する材料よりも弾性波の伝搬速度が遅いという条件を満たしやすく、材料の選定が容易である。
【0071】
このような材料としては、例えば、Ta、TaSi、WSiが挙げられる。これらの物性値(音響インピーダンスZ、弾性波の伝搬速度V、ヤング率E、密度ρ)は、以下のとおりである。
【0072】
V E ρ
(MRayl)(m/s)(GPa)(10kg/m
Ta :33.8 4352 147 7.76
TaSi :40.6 4438 180 9.14
Si :67.4 4465 301 15.1
なお、図7(a)において例示したWCおよびTiNは、保護層11およびIDT電極5を形成する材料よりも弾性波の伝搬速度が遅いという条件を満たさない(WCのV:6504m/s、TiNのV:10721m/s)。
【0073】
TaSi(図7(a)の線L3)よりも更に音響インピーダンスが保護層11およびIDT電極5の音響インピーダンスに近いTa(AlおよびSiOとの音響インピーダンスの差が20MRayl程度)について反射係数を計算し、上記の材料に関する知見について確認を行った。
【0074】
計算条件は、以下のとおりである。
【0075】
IDT電極5の正規化厚みe:0.08λ
保護層11の正規化厚みT:0.27λ、0.30λまたは0.33λ
付加膜9の正規化厚みt:0.01λ〜0.09λの範囲で変化させた。
【0076】
図9は上記の条件に基づいて計算した結果を示すグラフである。横軸および縦軸は図7(a)の縦軸および横軸と同様である。なお、線L7、L8およびL9は、それぞれ、保護層11の正規化厚みTが0.27λ、0.30λおよび0.33λの場合に対応している(線L7、L8およびL9はほぼ重なっている)。
【0077】
図9において、Taは、TiN(図7(a)の線L2)に比較して、音響インピーダンスが保護層11の音響インピーダンスに近いにも関わらず、弾性波の伝搬速度が遅いことから、反射係数が高くなっている。
【0078】
図9においては、保護層11の正規化厚みTは、概ね、反射係数に影響を及ぼさないという結果となっている。
【0079】
次に、付加膜9の正規化厚みtの好ましい範囲について検討する。まず、付加膜9の厚みtの好ましい範囲の下限値(以下、「好ましい範囲の」を省略して単に「下限値」ということがある。)について検討する。
【0080】
図10(a)は、IDT電極5(全ての電極指13b)の反射係数Γallを模式的に示すグラフである。図10(a)において横軸は周波数fを示し、縦軸は反射係数Γallを示している。
【0081】
反射係数Γallが概ね1(100%)となる周波数帯(f〜f)は、ストップバンドと呼ばれている。なお、実用上、ストップバンドにおける反射係数Γallは、完全に1である必要はなく、例えば、反射係数Γallが0.99以上である周波数帯がストップバンドとして特定されてよい。また、一般に、ストップバンドの下端f1もしくは上端f2においては、反射係数Γallが急激に変化するから、この変化の間がストップバンドと特定されてもよい。
【0082】
IDT電極5の反射係数Γallは、電極指13bの1本当たりの反射係数Γおよび電極指13bの本数等によって決定される。そして、反射係数Γが小さくなると、ストップバンドの幅SBは小さくなることが一般的に知られている。
【0083】
図10(b)は、IDT電極5の電気的なインピーダンスZeを模式的に示すグラフである。
【0084】
図10(b)において横軸は周波数fを示し、縦軸はインピーダンスの絶対値|Ze|を示している。一般に知られているように、|Ze|は、共振周波数fにおいて極小値をとり、反共振周波数fにおいて極大値をとる。また付加膜9の正規化厚みtを変えるとストップバンドの下端fと共振周波数fとが一致した状態でストップバンドの上端fと反共振周波数fとが変化する。このときの変化の割合は、ストップバンドの上端fの方が反共振周波数fよりも大きい。
【0085】
ここで、仮に、ストップバンドの上端f2が、線L11で示す、反共振周波数fよりも低い周波数であると仮定すると、領域Sp1において仮想線(2点鎖線)で示すように、共振周波数fと反共振周波数fとの間の周波数帯(幅Δf)においてスプリアスが
発生する。その結果、所望のフィルタ特性等が得られないおそれがある。
【0086】
一方、ストップバンドの上端f2が、線L12で示す、反共振周波数fよりも高い周波数であると仮定すると、領域Sp2において仮想線(2点鎖線)で示すように、スプリアスは、反共振周波数fよりも高い周波数において発生する。この場合、スプリアスがフィルタ特性等に及ぼす影響は抑制される。
【0087】
従って、ストップバンドの上端fは反共振周波数fよりも高い周波数であることが好ましい。ここでストップバンドの上端fは反射係数に依存するから、ストップバンドの上端fが反共振周波数fよりも高い周波数となるようにIDT電極5の反射係数を調整すればよい。そして、IDT電極5の反射係数は図7や図9において示したように付加膜9の正規化厚みtが大きくなるほど直線的に増加するから、付加膜9の正規化厚みtを調整することによってストップバンドの上端fを反共振周波数fよりも高い周波数とすることができる。すなわち、付加膜9の正規化厚みtをストップバンドの上端fが反共振周波数fよりも高くなる厚みとすることによって、共振周波数fと反共振周波数fとの間の周波数帯(幅Δf)においてスプリアスの発生が抑制される。
【0088】
ここで、図9に示したように、反射係数Γは、保護層11の正規化厚みTの影響を受ける。また、幅Δfは、保護層11の正規化厚みTの影響を受ける。そこで、付加膜9の正規化厚みtは、保護層11の正規化厚みTに応じて決定されることが好ましい。
【0089】
そこで、ストップバンドの上端fが反共振周波数fと同等となる正規化厚みtを保護層11の正規化厚みTを変化させて算出し、その計算結果に基づいて、正規化厚みtの下限値を正規化厚みTによって規定した。
【0090】
図11〜図13は、ストップバンドの上端fが反共振周波数fよりも高くなる正規化厚みtを説明するグラフであり、それぞれ、付加膜9の材料をTa、TaSi、WSiとした場合に対応している。
【0091】
図11〜図13において、横軸は保護層11の正規化厚みTを示し、縦軸は付加膜9の正規化厚みtを示している。各図において示した実線LN1〜LN3は、ストップバンドの上端fが反共振周波数fと同等となる正規化厚みtの計算結果を示したものである。なお、計算において、IDT電極5の正規化厚みeは、0.08λとした。
【0092】
各図において実線LN1〜LN3によって示されるように、付加膜9の正規化厚みtは、2次曲線により好適に近似曲線を導き出すことが可能であった。
【0093】
具体的には、以下のとおりである。なお、下記式において、tおよびTはSAWの波長λによって除されて正規化されているものとする。
【0094】
Ta(図11):
下限値 (実線LN1):t=0.5706T−0.3867T+0.0913
TaSi(図12):
下限値 (実線LN2):t=0.3995T−0.2675T+0.0657
Si(図13):
下限値 (実線LN3):t=0.2978T−0.1966T+0.0433
なお、いずれの下限値の式においても、正規化厚みtの極小値は、特許文献2において示された密着層の厚みの最大値(0.01λ)よりも大きい。特許文献1は、密着層の厚みが波長によって正規化されていないので比較が難しい。しかし、正規化された厚みが大きくなるように、周波数を高く(例えばUMTSの最大周波数2690MHz)、弾性波
の伝搬速度を遅く(例えば3000m/s)しても、λ=1.1μmであり、特許文献1の密着層の厚さの最大値(100Å)は0.01λ未満である。
【0095】
次に、付加膜9の正規化厚みtの好ましい範囲の上限値(以下、「好ましい範囲の」を省略して単に「上限値」ということがある。)について検討する。
【0096】
図7(a)および図9に示したように、付加膜9の正規化厚みtが大きくなるほど反射係数が高くなる。従って、正規化厚みtの上限値は、付加膜9が保護層11から露出しない範囲ということになる。
【0097】
正規化厚みtの下限値と同様に、正規化厚みtの上限値を式によって規定するならば、例えば、IDT電極5の厚さeを、一般的なSAW素子における厚さeに照らして0.1λ未満と見積もり、下記の式のように規定できる。
上限値:t=T−0.1
なお、tおよびTはλによって除されて正規化されている。
【0098】
以上の検討から導かれる正規化厚みtの好ましい範囲を、Taを例にとり、図14に示す。
【0099】
図14において、横軸および縦軸は、図11と同様に、保護層11の正規化厚みTおよび付加膜9の正規化厚みtを示している。線LL1は下限値を示し、線LH1は上限値を示している。これらの線の間のハッチングされた領域が付加膜9の正規化厚みtの好ましい範囲である。なお、線LH5は、特許文献2において示された密着層の上限値(0.01λ)を示している。
【0100】
上述の通り、付加膜9が、Taからなる場合には、付加膜9の正規化厚みtが下記の式(1)の範囲にあることが望ましい。
【0101】
0.5706T−0.3867T+0.0913≦t≦T−0.1…式(1)
但し、Tは絶縁層11の正規化厚みであり、Tおよびtは弾性波の波長によって除されて正規化されたものである。
【0102】
同様に、付加膜9が、TaSiからなる場合には、付加膜9の正規化厚みtが下記の式(2)の範囲にあることが望ましい。
【0103】
0.3995T−0.2675T+0.0657≦t≦T−0.1…式(2)
但し、Tは絶縁層11の正規化厚みであり、Tおよびtは弾性波の波長によって除されて正規化されたものである。
【0104】
また、付加膜9が、WSiからなる場合には、付加膜9の正規化厚みtが下記の式(3)の範囲にあることが望ましい。
【0105】
0.2978T−0.1966T+0.0433≦t≦T−0.1…式(3)
但し、Tは絶縁層11の正規化厚みであり、Tおよびtは弾性波の波長によって除されて正規化されたものである。
【0106】
(SAW装置の構成)
図15は、本実施形態に係るSAW装置51を示す断面図である。
【0107】
SAW装置51は、例えば、フィルタもしくはデュプレクサを構成している。SAW装
置51は、SAW素子31と、SAW素子31が実装される回路基板53とを有している。
【0108】
SAW素子31は、例えば、いわゆるウェハレベルパッケージのSAW素子として構成されている。SAW素子31は、上述したSAW素子1と、基板3のSAW素子1側を覆うカバー33と、カバー33を貫通する端子35と、基板3のSAW素子1とは反対側を覆う裏面部37とを有している。
【0109】
カバー33は、樹脂等によって構成されており、SAWの伝搬を容易化するための振動空間33aをIDT電極5および反射器7の上方(z方向の正側)に構成している。基板3の上面3a上には、IDT電極5と接続された配線38と、配線38に接続されたパッド39とが形成されている。端子35は、パッド39上において形成され、IDT電極5と電気的に接続されている。裏面部37は、例えば、特に図示しないが、温度変化等によって基板3表面にチャージされた電荷を放電するための裏面電極と当該裏面電極を覆う絶縁層とを有している。
【0110】
回路基板53は、例えば、いわゆるリジッド式のプリント配線基板によって構成されている。回路基板53の実装面53aには、実装用パッド55が形成されている。
【0111】
SAW素子31は、カバー33側を実装面53aに対向させて配置される。そして、端子35と実装用パッド55は、半田57によって接着される。その後、SAW素子31は封止樹脂59によって封止される。
【0112】
なお、以上の実施形態において、基板3は本発明の圧電基板の一例であり、IDT電極5は本発明の電極の一例であり、保護層11は本発明の絶縁層の一例である。
【0113】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0114】
弾性波素子は、(狭義の)SAW素子に限定されない。例えば、保護層(11)の厚さが比較的大きい(例えば0.5λ〜2λ)、いわゆる弾性境界波素子(ただし、広義のSAW素子に含まれる。)であってもよい。なお、弾性境界波素子においては、振動空間(33a)の形成は不要であり、ひいては、カバー33等も不要である。
【0115】
また、弾性波素子は、ウェハレベルパッケージのものに限定されない。例えば、SAW素子は、カバー33および端子35等を有さず、基板3の上面3a上のパッド39と、回路基板53の実装用パッド55とが半田57によって直接接着されてもよい。そして、SAW素子1(保護層11)と回路基板53の実装面53aとの隙間によって振動空間が形成されてよい。
【0116】
付加膜は、電極の全面に亘って設けられることが好ましい。ただし、付加膜は、電極指のみに設けられるなど、電極の一部にのみ設けられてもよい。また、付加膜は、電極と同じ幅でもよいし、電極より狭いもしくは広くてもよい。付加膜の材料は、導電材料であってもよいし、絶縁材料であってもよい。具体的には、タングステン、イリジウム、タンタル、銅などの導電材料、BaSr1−x、PbZn1−x、ZnOなどの絶縁材料を付加膜の材料として挙げることができる。
【0117】
付加膜を絶縁材料により形成することによって、付加膜を金属材料によって形成したものに比べ、電極の腐食を抑制し弾性波素子の電気特性を安定化させることができる。なぜならば、SiOからなる絶縁層にはピンホールが形成されることがあり、このピンホールが形成されると、これを介して電極部分まで水分が浸入することとなるが、電極上に電
極材料と異なる材料からなる金属膜が配置されていると、浸入した水分によって、異種金属間の電池効果よる腐食が発生するからである。よって、付加膜をTaなどの絶縁材料によって形成すれば、電極と付加膜との間において電池効果は殆ど起きないため、電極の腐食が抑制された信頼性の高い弾性波素子とすることができる。
【0118】
保護層の上面は、電極指の位置において凸となるように、凹凸を有していてもよい。この場合、反射係数を更に高くすることができる。当該凹凸は、図2(e)を参照して説明したように、保護層の成膜時に電極指の厚みに起因して形成されるものであってもよいし、保護層の表面を電極指の間の領域においてエッチングして形成されるものであってもよい。
【0119】
また、基板3は、128°±10°Y−XカットのLiNbO基板の他にも、例えば、38.7°±Y−XカットのLiTaOなどを用いることができる。
【符号の説明】
【0120】
1…SAW素子(弾性波素子)、3…基板(圧電基板)、3a…上面、5…IDT電極(電極)、9…付加膜、11…保護層(絶縁層)、18…スペーサー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
該圧電基板の上面に配置されたIDT電極と、
該IDT電極の上面に配置された絶縁材料からなるスペーサーと、
該スペーサーの上面に配置された付加膜と、
該付加膜が配置された前記IDT電極を前記圧電基板のうち前記IDT電極から露出する部分とともに覆い、前記圧電基板の上面からの厚みが前記圧電基板の上面から前記付加膜の上面までの厚み以上であるSiOからなる絶縁層と
を有し、
前記付加膜は、前記IDT電極の材料,前記スペーサーの材料およびSiOよりも音響インピーダンスが大きく、前記スペーサーよりも密度が大きく、かつ前記IDT電極の材料およびSiOよりも弾性波の伝搬速度が遅い材料からなる
弾性波素子。
【請求項2】
前記IDT電極が、AlまたはAlを主成分とする合金からなる
請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項3】
前記スペーサーは、SiOからなる
請求項1または2に記載の弾性波素子。
【請求項4】
前記圧電基板が、128°±10°Y−XカットのLiNbO基板である
請求項1乃至3のいずれかに記載の弾性波素子。
【請求項5】
前記付加膜が、絶縁材料からなる
請求項1乃至4のいずれかに記載の弾性波素子。
【請求項6】
前記付加膜が、Ta、TaSiまたはWSiからなる
請求項1乃至5のいずれかに記載の弾性波素子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の弾性波素子と、
該弾性波素子が実装された回路基板と、
を備える弾性波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−209841(P2012−209841A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75191(P2011−75191)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】