説明

弾性波素子及びその製造方法

【課題】大型化を招くことなく、導電補助層を積層した電極部分を設けて、電気的抵抗を低めることができ、しかも電極を覆う誘電体層表面の段差や誘電体層の膜厚のばらつきを小さくすることができる、弾性波素子を提供する。
【解決手段】圧電基板1上にIDT電極3及び誘電体層10が形成されており、IDT電極3が、電極指6,7と、電極指6,7にそれぞれ連ねられているバスバー4,5とを有し、バスバー4,5の少なくとも一部に積層されるように導電補助層2が設けられており、該導電補助層2が、圧電基板1の上面1aに形成された溝1c,1d内に埋め込まれている、弾性波素子11。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子や弾性境界波素子などの弾性波素子及びその製造方法に関し、より詳細には、IDT電極のバスバー及び配線電極の少なくとも一部に導電補助層が積層されている構造を有する弾性波素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、共振子や帯域フィルタなどに弾性表面波装置が広く用いられている。弾性表面波装置は、圧電基板と、圧電基板上に形成されたIDT電極とを有する。IDT電極は、対向し合う一対のバスバーと、各バスバーから反対側のバスバーに向かって延びる複数本の電極指とを有する。また、圧電基板上には、IDT電極を外部と電気的に接続するための配線電極が形成されている。配線電極は、IDT電極のバスバーに電気的に接続されている。
【0003】
複数本の電極指は、弾性表面波を励振させるために設けられている。従って、電極指の厚みは、目的とする共振特性やフィルタ特性に応じて選ばれる。これに対して、バスバーや配線電極は表面波を励振する部分ではない。従って、電気的抵抗を低めるために、バスバーの少なくとも一部や配線電極の電極膜厚を厚くしたり、あるいは複数の電極層を形成したりしている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1では、バスバー及び配線電極の少なくとも一部に複数の電極層を積層してなる電極層積層部が設けられている。特許文献1では、圧電基板の上面を覆うように絶縁膜が形成されている。絶縁膜はIDT電極を保護すると共に、弾性表面波装置の温度特性を改善するために設けられている。
【0005】
図10(a)は、特許文献1に記載のような従来の弾性表面波装置の電極構造を示す平面図である。弾性表面波装置1001では、圧電基板1002上に、IDT電極1003が形成されている。IDT電極1003は、一対のバスバー1004,1005を有する。バスバー1004,1005に、それぞれ、複数本の電極指1006,1007が接続されている。バスバー1004,1005に、それぞれ、配線電極1008,1009が接続されている。
【0006】
バスバー1004,1005では、電気的抵抗を低めるために、第1の電極層1004a,1005a上に、第2の電極層1004b,1005bが積層されている。すなわち、バスバー1004,1005は、複数の電極層を積層してなる積層電極部を有する。
【0007】
また、弾性表面波装置1001では、温度特性を改善するために、IDT電極1003を覆うように、図10(b)に示すように、絶縁膜1010が積層されている。絶縁膜1010を蒸着やスパッタリングなどにより形成した場合、図10(b)に示すように、絶縁膜1010の表面に段差A1が生じる。また、絶縁膜1010の膜厚が部分的に異なることとなる。これは、上記電極積層部と、電極指1006が設けられている部分とで、電極膜厚が異なることによる。絶縁膜1010の表面に上記段差A1が形成されたり、絶縁膜1010の厚みが部分的に異なると、絶縁膜1010による温度特性改善効果や共振特性が低下する。
【0008】
そこで、特許文献1では、電極積層部とIDT電極の電極指とを遠ざけた構造が開示されている。特許文献1では、配線電極が電極積層部を有する構造において、弾性表面波の波長をλとしたときに、該電極積層部を、1.05λ〜2.6λ隔てて配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−244359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の弾性表面波装置では、配線電極に設けられた電極層積層部、すなわち膜厚が厚い電極部分を、IDT電極から遠ざけている。それによって、絶縁膜の表面の段差を抑制することができるとされている。
【0011】
しかしながら、特許文献1の図2に示されているように、絶縁膜の表面の段差はさほど小さくされてはいない。そのため、反共振周波数におけるインピーダンスの共振周波数におけるインピーダンスに対する比であるインピーダンス比の劣化や挿入損失の劣化を十分に抑制することはできなかった。加えて、電極積層部とIDT電極の電極指を遠ざけると、結果的に弾性表面波装置の平面形状が大きくなるという問題もあった。
【0012】
本発明の目的は、大型化を招くことなく、電気的抵抗を低めるための電極積層部に起因する誘電体層表面の段差を効果的に小さくすることが可能とされている、弾性波素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る弾性波素子は、圧電基板と、前記圧電基板上に形成されているIDT電極と、前記圧電基板上に形成された配線電極と、前記圧電基板上に形成された誘電体層とを備える。
【0014】
本発明においては、前記IDT電極が複数本の電極指と、複数本の電極指に連ねられているバスバーとを有し、前記バスバー及び前記配線電極の少なくとも一部に積層されており、導電体からなる導電補助層がさらに備えられている。前記圧電基板の上面には溝が形成されており、該溝内に前記導電補助層が埋め込まれており、前記IDT電極が形成されている部分を少なくとも覆うように、前記誘電体層が形成されている。
【0015】
本発明に係る弾性波素子のある特定の局面では、前記圧電基板の前記溝内に前記バスバーが至っており、前記圧電基板の溝内に形成されている前記導電補助層の上面に、前記バスバーの該溝内に至っている部分が積層されている。この場合には、バスバー部の電気抵抗を低くすることができる。
【0016】
本発明に係る弾性波素子の他の特定の局面では、前記圧電基板の前記溝内に前記バスバーが至っており、前記バスバーの溝内に至っている部分の上面に前記導電補助層が積層されている。この場合には、マザーのウェハー段階での反りやうねりが少ない状態で複数本の電極指を含むIDT電極を高精度に形成することができる。
【0017】
本発明に係る弾性波素子の別の特定の局面では、前記圧電基板に形成されている溝の深さをD、前記導電補助層の厚みをW、IDT電極のピッチで定まる波長をλとしたとき、0.1λ>|D−W|である。この場合には、誘電体層表面の段差をより一層小さくすることができる。
【0018】
本発明に係る弾性波素子のさらに他の特定の局面では、前記圧電基板に形成されている溝の深さをD、前記導電補助層の厚みをW、前記溝内に至っている前記バスバー部分の厚みをTとしたとき、(W+T)が、IDT電極のピッチで定まる波長をλとしたとき、0.1λ>|(W+T)−D|の範囲にある。(W+T)がこの範囲内である場合には、誘電体層表面の段差をより一層小さくすることができる。
【0019】
本発明に係る弾性波素子のさらに別の特定の局面では、前記圧電基板に形成されている溝が前記圧電基板の下面に至っており、前記導電補助層が前記圧電基板の下面に露出されている。この場合には、導電補助層により、圧電基板の下面に熱を効果的に放散させることができる。
【0020】
本発明に係る弾性波素子のさらに別の特定の局面では、前記圧電基板の熱伝導率が前記導電補助層の熱伝導率よりも小さい。従って、導電補助層を介して熱をより一層効果的に放散させることができる。
【0021】
本発明に係る弾性波素子の製造方法は、圧電基板を用意する工程と、前記圧電基板に、溝を形成する工程と、前記圧電基板の上面に複数本の電極指及び複数本の電極指に連なるバスバーを有するIDT電極を形成する工程と、前記圧電基板の上面に配線電極を形成する工程と、前記バスバー及び前記配線電極の少なくとも一部に積層される導電補助層を形成する工程とを備え、前記導電補助層を形成する工程において、該導電補助層を前記圧電基板の溝内に形成する。
【0022】
本発明に係る弾性波素子のある特定の局面では、前記IDT電極の形成に際し、前記バスバーを前記圧電基板に形成されている溝内に至るように形成し、前記導電補助層を溝内に至っているバスバー上に積層する。
【0023】
本発明に係る弾性波素子の製造方法のさらに他の特定の局面では、前記圧電基板に形成されている溝内に前記導電補助層を形成した後に、前記IDT電極を形成する工程を実施し、前記導電補助層上に前記IDT電極の前記バスバーの少なくとも一部を積層する。
【0024】
本発明に係る弾性波素子の製造方法のさらに他の特定の局面では、前記圧電基板に形成された溝に前記導電補助層を形成した後に、前記圧電基板の下面を該導電補助層が露出するように研削する工程がさらに備えられている。
【0025】
この場合には、圧電基板の裏面に露出した導電補助層から熱を放散させることができる弾性波素子を得ることができる。従って、弾性波素子の放熱性を高めることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る弾性波素子では、圧電基板に形成されている溝内に導電補助層が埋め込まれており、バスバー及び配線電極の少なくとも一部が該導電補助層に積層されているため、導電補助層を積層したことにより、電気的抵抗を低めることができる。しかも、上記溝内に導電補助層が埋め込まれているため、該導電補助層とバスバー及び配線電極の少なくとも一部が積層されている部分の高さと、IDT電極の他の電極部分との表面の高さの差を十分に小さくすることができる。よって、圧電基板上に形成されている誘電体層表面の段差を小さくすることができ、かつ誘電体層の膜厚の部分的なばらつきを小さくすることができるので、弾性波素子の周波数特性のばらつきや帯域幅のばらつきを小さくすることができる。
【0027】
また、導電補助層の厚みと、溝の深さを近づけることにより、より好ましくは、一致させることにより、誘電体層の表面の平坦性を効果的に高めることができる。従って、導電補助層を含む電極積層部をIDT電極から遠ざける必要がないので、弾性波素子の大型化もまねかない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態の弾性波素子の要部を示す正面断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の弾性波素子の製造方法に際して用意される圧電基板を示す正面断面図である。
【図3】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態の弾性波素子の製造方法において、圧電基板に溝を形成した状態を示す平面図及び(a)中のB1−B1線に沿う部分の断面図である。
【図4】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態の製造方法において、圧電基板に形成された溝内に導電補助層を形成した状態を示す平面図及び(a)中のB2−B2線に沿う部分の断面図である。
【図5】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態の弾性波素子の製造方法において、IDT電極を形成した後の状態を示す平面図及び(a)中のB3−B3線に沿う部分の断面図である。
【図6】(a)及び(b)は、本発明の第2の実施形態の弾性波素子の製造方法において、IDT電極を形成した後の状態を示す平面図及び(a)中のB4−B4線に沿う部分の断面図である。
【図7】(a)及び(b)は、本発明の第2の実施形態の製造方法において、IDT電極形成後に導電補助層を形成した後の状態を示す平面図及び(a)中のB5−B5線に沿う部分の断面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態の弾性波素子の製造方法において、誘電体層を形成した後の状態を示す側面断面図である。
【図9】(a)及び(b)は、本発明の第3の実施形態の弾性波素子の製造方法を説明するための平面図及び(a)中のB6−B6線に沿う部分の断面図である。
【図10】(a)及び(b)は、従来の弾性表面波素子を説明するための平面図及び(a)中のB−B線に沿う部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0030】
図1は、第1の実施形態の弾性波素子としての弾性表面波素子の要部を示す断面図である。この弾性波素子の製造方法を図2〜図5(a),(b)を参照して説明することにより、弾性波素子の構造を明らかにする。
【0031】
先ず、図2に示すように、圧電基板1を用意する。圧電基板1は、適宜の圧電材料からなる。このような圧電材料としては、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、水晶、ランガサイト、ZnO、PZTまたは4ホウ酸リチウムなどの一般的に知られている圧電材料を用いることができる。
【0032】
次に、図3(a)に示すように、圧電基板1の上面1aに、圧電基板1の下面に至らない溝1c,1dを形成する。溝1c,1dは、後述するIDT電極のバスバー及び配線電極が形成される部分に設けられる。溝1c,1dの形成方法は特に限定されない。ドライプロセスを用いてもよく、ウェットプロセスを用いてもよい。本実施形態では、圧電基板1の上面1a上にレジストをマスク代わりに用い、Arによるドライプロセスにより、圧電基板1を上面からエッチングする方法を用いる。
【0033】
なお、溝1c,1dでは、溝の内側面にテーパーが形成される。この場合、テーパーは、順テーパーであることが好ましい。それによって、テーパーが設けられている部分における後述する電極材料の断線を抑制することができる。順テーパーとは、図3(b)に示すように、溝1c,1dを囲む側壁1c1,1d1が、上面1aから溝1c,1dの底部に至るにつれて、溝1c,1dの大きさが小さくなる方向のテーパーをいうものとする。
【0034】
次に、図4(a)及び(b)に示すように、溝1c,1d内に、導電補助層2を形成する。導電補助層2は、適宜の導電性材料を用いて形成することができる。このような導電性材料としては、Al、Pt、Cu、Au、Ti、Ni、Cr、W、Ag、Pd、CoまたはMnなどの一般的な金属もしくはこれらの金属を主体とする合金が挙げられる。導電補助層2は、単一の金属層により形成してもよく、複数の金属層を積層することにより形成してもよい。また、複数の金属層を形成した後に加熱することにより、合金化された金属を用いてもよい。本実施形態では、導電補助層2は、Alからなる。
【0035】
上記導電補助層2の形成方法は、特に限定されず、蒸着またはスパッタリングなどの成膜方法を適宜用いることができる。好ましくは、導電補助層2の上面2aが、圧電基板1の上面1aと同じ高さ位置であることが望ましい。本実施形態では、導電補助層2の上面2aの高さは圧電基板1の上面1aよりも若干低くされている。すなわち、導電補助層2の厚みをW、溝1c,1dの深さをDとしたとき、本実施形態では、D−W=0.05λ(λ;IDT電極のピッチで定まる波長)とされている。この|D−W|は0.1λ以下であることが好ましく、より望ましいのは、前述したように|D−W|=0、すなわちD=Wである。それによって、誘電体層表面の段差をより一層小さくすることができる。
【0036】
上記のように、導電補助層2は、溝1c,1d内に埋め込まれている。
【0037】
次に、図5(a)及び(b)に示すように、蒸着もしくはスパッタリングなどの薄膜形成方法を用い、IDT電極3及び配線電極8,9を形成する。IDT電極3は、バスバー4,5と、バスバー4,5に接続された複数本の電極指6,7とを有する。IDT電極3の形成に際しては、適宜の金属材料を、蒸着もしくはスパッタリングなどの薄膜形成方法により成膜し、パターニングすることにより行われる。
【0038】
IDT電極3を構成する金属材料については、特に限定されず、前述した導電補助層2を形成するのに用いられる一般的な金属もしくは合金を用いることができる。また、IDT電極3の電極指6,7は、単一の金属層により形成されてもよく、複数の金属層を積層して形成されてもよい。また、複数の金属層を加熱し合金化することにより得られた合金によりIDT電極3の電極指6,7を形成しもよい。本実施形態では、Pt膜及びAl膜をこの順序で積層してなる積層金属膜により電極指6,7が形成される。
【0039】
ところで、IDT電極3の形成に際しては、上記電極指6,7だけでなく、電極指6,7を形成する金属膜を、前述した導電補助層2が形成されている部分の上面にも成膜する。すなわち、電極指6,7と同じ金属膜からなる上部電極層4a,5aが、バスバー4,5が形成される部分において、下方の導電補助層2の上面に形成される。また、配線電極8,9が形成される領域においては、予め溝内に埋め込まれていた導電補助層2上に、上記電極指6,7を構成する金属膜と同じ金属膜が形成される。
【0040】
よって、バスバー4,5及び配線電極8,9は、下方の導電補助層と、導電補助層上に積層された金属膜とを有する。従って、電極指6,7に比べて、厚みが厚く、電気的抵抗が低いバスバー4,5及び配線電極8,9を形成することができる。
【0041】
次に、上記配線電極8,9の少なくとも一部を露出させ、他の部分を覆うように圧電基板1上に図1に示す誘電体層10を形成する。誘電体層10の形成方法は、蒸着またはスパッタリングなどの適宜の薄膜形成方法により行うことができる。
【0042】
誘電体層10を構成する誘電体材料は特に限定されない。例えば、SiO、Si、SiON、SiC、Ta、TiO、TiN、Al、TeOなどを挙げることができる。また、誘電体層10は、単一の誘電体膜により形成してもよく、複数の誘電体膜を積層することにより、形成してもよい。本実施形態では、誘電体層10はSiO膜からなる。SiOは正の周波数温度係数TCFを有する。他方、多くの圧電材料は負の周波数温度係数を有する。従って、SiOからなる誘電体層10の形成により、温度特性を改善することができる。また、誘電体層10の形成により、IDT電極3の耐湿性を高めることができる。すなわち、誘電体層10は、特性改善機能を果すだけでなく、電極保護機能をも果す。
【0043】
本実施形態では、誘電体層10は、配線電極8,9が形成されている部分以外を覆うように、形成されていたが、誘電体層10は、特性を改善する上では、電極指6,7が設けられている部分を覆うように形成されていればよい。もっとも、本実施形態のように、バスバー4,5が設けられている部分にも至るように誘電体層10を形成することが好ましい。それによって、IDT電極3の耐湿性を高めることができる。
【0044】
なお、配線電極8,9上に誘電体層10が至っていてもよい。配線電極8,9は、外部と電気的に接続する部分である。従って、バンプなどの外部との電気的接続を果す部材が接合される領域を除いて、配線電極8,9上に誘電体層10が形成されていてもよい。
【0045】
上記のようにして、図1に断面図で要部を示す本実施形態の弾性波素子11を得ることができる。なお、図1は、前述した図10のB−B線に沿う部分に相当する部分の誘電体層10を形成した後の状態を示す。
【0046】
図1から明らかなように、弾性波素子11では、誘電体層10の表面に、段差10aが形成されている。しかしながら、段差10aの大きさすなわち高さ方向寸法は、非常に小さい。また、誘電体層10においては、部分的な膜厚ばらつきも非常に小さい。これを、図10(a)及び(b)に示した従来例と対比することにより明らかにする。
【0047】
図10(a)に示した従来例では、電気的抵抗を低めるために、バスバー1004,1005が形成されている部分において、IDT電極の電極指1006に連ねられている電極層上に電極指1006に比べてかなり厚みの厚い導電補助層1004aが積層されている。そのため、大きな段差A1が絶縁膜1010の表面に形成されている。すなわち、導電補助層1004aの上面の高さと、電極指1006の上面の高さとの差が、上記導電補助層1004aの厚みとなっている。そのため、高さ方向寸法が大きい段差A1が形成されている。また、それに伴って、絶縁膜1010の膜厚も段差近傍において大きく変化している。
【0048】
これに対して、本実施形態では、図1に示すように、電気的抵抗を低めるための導電補助層2が圧電基板1の溝1c,1dに埋め込まれている。そのため、導電補助層2を設けたにもかかわらず、バスバー4の上面と電極指6との高さがさほど変わらない。むしろ、本実施形態では、導電補助層2の上面2aが、圧電基板1の上面1aよりも低いため、バスバー4の上面は、電極指6の上面よりも若干低くされている。
【0049】
そのため、誘電体層10の上面には、前述したように、非常に小さな段差10aが形成されているだけである。また、誘電体層10の膜厚か部分的にほとんど変化していない。よって、本実施形態の弾性波素子11では、従来の導電補助層や電極積層部を設けた弾性波素子に比べ、インピーダンス比や挿入損失のばらつきを小さくすることができる。加えて、誘電体層の表面における段差を抑制する必要がないため、導電補助層2を有する電極積層部分を、電極指6と大きな距離を隔てて遠ざける必要がない。よって、大型化を招くことなく、バスバー及び/または配線電極における電気的抵抗を低めることができる。従って、周波数特性や帯域幅のばらつきを低減することができるので、弾性波素子11では、歩留りを高めることができる。
【0050】
図6(a)及び(b)は、本発明の第2の実施形態の弾性波素子11の製造方法を説明するための平面図及び(a)中のB4−B4線に沿う断面図である。
【0051】
第2の実施形態においても、先ず、第1の実施形態と同様に、圧電基板1に溝1c,1dを形成する。異なるところは、図6(a)及び(b)に示すように、溝1c,1dに至るように、先ず、IDT電極3とバスバー及び配線電極の一部を構成する電極層4b,5b,8b,9bを電極指6,7と同一工程で同一材料により形成する。
【0052】
しかる後、図7(a)及び(b)に示すように、溝1c,1d内に、導電補助層2を形成する。このように、溝1c,1dを形成した後に、導電補助層2の形成に先立ち、IDT電極3と、導電補助層2に積層される電極層4b,5b,8b,9bを形成してもよい。この場合には、IDT電極3を形成する工程が、導電補助層2を形成する前に行われるため、マザーのウェハー段階での反りやうねりが少ない状態で複数本の電極指6,7を含むIDT電極3を高精度に形成することができる。図8に示すように、第2の実施形態においても、上記IDT電極3及び導電補助層2を形成した後に、圧電基板1の上面に誘電体層10を形成する。このようにして、弾性波素子12を得ることができる。
【0053】
弾性波素子12においても、導電補助層2が溝1c,1d内に埋め込まれているため、導電補助層2をバスバー4,5及び配線電極8,9が形成されている部分に設け、電気的抵抗の低減を図った場合においても、誘電体層10の表面の段差10aを非常に小さくすることができる。加えて、誘電体層10の段差付近における膜厚のばらつきも小さくすることができる。さらに、第2の実施形態においても、導電補助層2は、誘電体層10で被覆されているため、耐湿性が低下するおそれもない。
【0054】
なお、導電補助層2の上面は、圧電基板1の上面1aよりも高くされている。このように、導電補助層2は、溝1c,1d内に埋め込まれるが、その全部が溝1c,1dの内部に位置されている必要は必ずしもない。
【0055】
さらに、導電補助層2の上面2aは、IDT電極の電極指6の上面よりも若干低くされている。好ましくは、導電補助層2の上面2aは、IDT電極の電極指6の上面と面一であることが望ましい。それによって、誘電体層10の表面における段差をなくすことができ、あるいは段差を非常に小さくすることができる。
【0056】
図9(a)及び(b)は、本発明の第3の実施形態の弾性波素子を説明するための平面図及び(a)中のB6−B6線に沿う部分の断面図である。第3の実施形態の弾性波素子13では、導電補助層2が圧電基板1の下面1bに至り、下面1bに露出している。その他の点については、弾性波素子13は、第1の実施形態の弾性波素子11と同様である。
【0057】
本実施形態では、導電補助層2の下面2bが露出している。従って、矢印Cで示すように、電極指6,7で発生した熱を、導電補助層2を介して圧電基板1の下面1b側に放散させることができる。従って、弾性波素子13では、放熱性を効果的に高めることができる。
【0058】
また、本実施形態においても、導電補助層2が溝1c,1dに埋め込まれているため、誘電体層10の表面の段差10aを非常に小さくすることができる。
【0059】
第3の実施形態の弾性波素子13の製造に際しては、第1の実施形態と同様にして、溝1c,1dを形成し、導電補助層2を形成した後に、圧電基板1の下面側から研削加工を施せばよい。研削により、導電補助層2の下面を露出させることができる。
【0060】
第3の実施形態においては、導電補助層2は、圧電基板1よりも熱伝導性の高い材料により形成することが望ましい。それによって、放熱性をより一層効果的に高めることができる。さらに好ましくは、導電補助層2の熱伝導率を、IDT電極3の電極指6の熱伝導率よりも高くすることが望ましい。よって、放熱性をさらに高めることができる。
【0061】
上述してきた第1〜第3の実施形態から明らかなように、本発明においては、溝1c,1d内に、溝1c,1dの深さ方向に沿う全部分があるいはその少なくとも一部が埋め込まれるように導電補助層2を形成する。従って、導電補助層2が形成されている部分の電極の表面の高さと、導電補助層2が形成されていない電極部分の表面の高さの差を非常に小さくすることができる。それによって、誘電体層10の表面における段差を小さくすることができる。この場合、好ましくは、導電補助層2が形成されている積層電極部分の表面の高さと、他の電極部分の高さが一致していることが好ましい。本願発明者によれば、溝1c,1dの深さをD、導電補助層2の厚みをW、溝1c,1d内に至っているバスバー4,5の部分の厚みをTとしたとき、(W+T)が、0.1λ>|(W+T)−D|(λ;IDT電極のピッチで定まる波長)の範囲内にあれば、誘電体層10の表面の段差A1を十分に小さくすることができ、それによって周波数温度特性や比帯域幅などの特性の変化を非常に小さくし得ることが確かめられている。従って、好ましくは、(W+T)は、0.1λ>|(W+T)−D|の範囲内とすることが望ましい。
【0062】
第1〜第3の実施形態では、一対のバスバー4,5を有する弾性表面波共振子である弾性波素子を説明したが、本発明は、複数のIDT電極を有する弾性波共振子や弾性波フィルタに広く適用することができる。また、弾性表面波を利用した弾性表面波素子だけでなく、弾性境界波を利用した弾性境界波素子にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1…圧電基板
1a…上面
1b…下面
1c,1d…溝
1c1,1d1…側壁
2…導電補助層
2a…上面
2b…下面
3…IDT電極
4,5…バスバー
4a,5a…上部電極層
4b,5b,8b,9b…電極層
6,7…電極指
8,9…配線電極
10…誘電体層
10a…段差
11…弾性波素子
12…弾性波素子
13…弾性波素子
A1…段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に形成されているIDT電極と、
前記圧電基板上に形成された配線電極と、
前記圧電基板上に形成された誘電体層とを備え、
前記IDT電極が複数本の電極指と、複数本の電極指に連ねられているバスバーとを有し、
前記バスバー及び前記配線電極の少なくとも一部に積層されており、導電体からなる導電補助層をさらに備え、前記圧電基板の上面に溝が形成されており、該溝内に前記導電補助層が埋め込まれており、前記IDT電極が形成されている部分を少なくとも覆うように、前記誘電体層が形成されている、弾性波素子。
【請求項2】
前記圧電基板の前記溝内に前記バスバーが至っており、
前記圧電基板の溝内に形成されている前記導電補助層の上面に、前記バスバーの該溝内に至っている部分が積層されている、請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項3】
前記圧電基板の前記溝内に前記バスバーが至っており、前記バスバーの溝内に至っている部分の上面に前記導電補助層が積層されている、請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項4】
前記圧電基板に形成されている溝の深さをD、前記導電補助層の厚みをW、IDT電極のピッチで定まる波長をλとしたとき、0.1λ>|D−W|である、請求項1から3のいずれか1項に記載の弾性波素子。
【請求項5】
前記圧電基板に形成されている溝の深さをD、前記導電補助層の厚みをW、前記溝内に至っている前記バスバー部分の厚みをT、IDT電極のピッチで定まる波長をλとしたとき、(W+T)が、0.1λ>|(W+T)−D|の範囲にある、請求項2または3に記載の弾性波素子。
【請求項6】
前記圧電基板に形成されている溝が前記圧電基板の下面に至っており、前記導電補助層が前記圧電基板の下面に露出されている、請求項1または2に記載の弾性波素子。
【請求項7】
前記圧電基板の熱伝導率が前記導電補助層の熱伝導率よりも小さい、請求項6に記載の弾性波素子。
【請求項8】
圧電基板を用意する工程と、前記圧電基板に、溝を形成する工程と、
前記圧電基板の上面に複数本の電極指及び複数本の電極指に連なるバスバーを有するIDT電極を形成する工程と、
前記圧電基板の上面に配線電極を形成する工程と、
前記バスバー及び前記配線電極の少なくとも一部に積層される導電補助層を形成する工程とを備え、
前記導電補助層を形成する工程において、該導電補助層を前記圧電基板の溝内に形成する、弾性波素子の製造方法。
【請求項9】
前記IDT電極の形成に際し、前記バスバーを前記圧電基板に形成されている溝内に至るように形成し、前記導電補助層を溝内に至っているバスバー上に積層する、請求項8に記載の弾性波素子の製造方法。
【請求項10】
前記圧電基板に形成されている溝内に前記導電補助層を形成した後に、前記IDT電極を形成する工程を実施し、前記導電補助層上に前記IDT電極の前記バスバーの少なくとも一部を積層する、請求項8に記載の弾性波素子の製造方法。
【請求項11】
前記圧電基板に形成された溝に前記導電補助層を形成した後に、前記圧電基板の下面を該導電補助層が露出するように研削する工程をさらに備える、請求項8に記載の弾性波素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−99925(P2012−99925A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244144(P2010−244144)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】