説明

弾性波素子

【課題】圧電基板上にIDT電極(櫛歯状電極)を配置するにあたり、当該櫛歯状電極の挿入損失が良好に(小さく)なるように、前記櫛歯状電極の電極指の抵抗を抑えること。
【解決手段】補助電極指14(24)がバスバー11(21)と同電位となり、且つバスバー21(11)から電気的に浮いた状態となるように、バスバー11(21)の上方側に絶縁膜12(22)を形成する。そして、前記補助電極指14(24)について、絶縁膜12(22)を乗り越えてバスバー11(21)から伸びる主電極指10(20)に接続されるように各々配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波を利用するために圧電基板上にIDT(Inter Digital Transducer)電極(櫛歯状電極)を配置した弾性波素子に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波を利用した弾性表面波素子として、例えばSAW(Surface Acoustic Wave)共振子やこのSAW共振子をラダー型に接続したラダー型フィルタなどが知られている。このようなSAW共振子は、IDT電極と、このIDT電極を弾性表面波の伝搬方向における一方側及び他方側から挟むように設けられた一対の反射器と、を圧電基板上に配置して構成される。IDT電極は、互いに平行に配置された一対のバスバーと、これらバスバー間において交互に櫛歯状に交差するように形成された複数本の電極指と、を備えている。
【0003】
このようなフィルタでは、挿入損失をできるだけ小さく抑えることが求められており、挿入損失を抑える具体的な手法としては例えば前記電極指の電気的抵抗を低減させる方法が挙げられる。また、SAW共振子の共振点におけるQ値を上げるためにも、電極指の電気的抵抗を低減させることが好ましい。
しかし、電極指の膜厚についてはフィルタの設計によりある厚み寸法に設定されるので、電極指の抵抗を下げるために当該膜厚を自由に調整できない。また、電極指の幅寸法についても、SAW共振子の通過帯域(圧電基板上を伝搬する弾性表面波の波長)によって制限を受けてしまう。
特許文献1には、既述のIDT電極について記載されているが、電極指の抵抗については触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−57811
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧電基板上にIDT電極(櫛歯状電極)を配置するにあたり、当該櫛歯状電極の挿入損失が良好に(小さく)なるように、前記櫛歯状電極の電極指の電気的抵抗を抑えることのできる弾性波素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の弾性波素子は、
圧電基板上にて、互いに対向する第1の主バスバー及び第2の主バスバーから、各々対向するバスバーに向かって夫々第1の主電極指及び第2の主電極指が伸び出し、これら主電極指が互いに櫛歯状に交差する構造を備えた弾性波素子において、
前記第2の主バスバーに対して前記第1の主バスバーとは反対側の領域に当該第2の主バスバーに沿って形成され、前記第1の主バスバーに電気的に接続される第1の補助バスバーと、
前記第1の主電極指にその一端側が接続されると共に、その他端側が前記第2の主バスバーを越えて前記第1の補助バスバーに接続される第1の補助電極指と、
前記第2の主バスバーと前記第1の補助電極指とを互いに絶縁するために当該第2の主バスバーに形成された絶縁膜と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
前記弾性波素子の具体的な態様としては、以下の構成を採っても良い。前記第1の主電極指は、前記第1の主バスバーから前記第2の主バスバーに向かって伸び出す前段部分と、この前段部分における前記第2の主バスバー側の端部にて屈曲して前記第1の主バスバーに向かって戻ると共に当該第1の主バスバーから離間した位置まで伸びる後段部分と、により構成され、
前記第2の主電極指は、前記第2の主バスバーから前記第1の主バスバーに向かって伸び出す前段部分と、この前段部分における前記第1の主バスバー側の端部にて屈曲して前記第2の主バスバーに向かって戻ると共に当該第2の主バスバーから離間した位置まで伸びる後段部分と、により構成され、
前記第1の主電極指における前記前段部分と前記後段部分との間の屈曲部分と、前記第2の主電極指における前記前段部分と前記後段部分との間の屈曲部分とが千鳥状に並ぶように、また前記第1の主電極指と前記第2の主電極指とが平面のレイアウトで見て互いに噛み合うように構成され、
前記第1の補助電極指の一端側は、第1の主電極指の屈曲部分に接続されている構成。
【0008】
前記第1の主バスバーに対して前記第2の主バスバーとは反対側の領域に当該第1の主バスバーに沿って形成され、前記第2の主バスバーに電気的に接続される第2の補助バスバーと、
前記第2の主電極指にその一端側が接続されると共に、その他端側が前記第1の主バスバーを越えて前記第2の補助バスバーに接続される第2の補助電極指と、
前記第1の主バスバーと前記第2の補助電極指とを互いに絶縁するために当該第1の主バスバーに形成された絶縁膜と、を備えた構成。
前記第1の主バスバーに対して前記第2の主バスバーとは反対側の領域に当該第1の主バスバーに沿って形成され、前記第2の主バスバーに電気的に接続される第2の補助バスバーと、
前記第2の主電極指にその一端側が接続されると共に、その他端側が前記第1の主バスバーを越えて前記第2の補助バスバーに接続される第2の補助電極指と、
前記第1の主バスバーと前記第2の補助電極指とを互いに絶縁するために当該第1の主バスバーに形成された絶縁膜と、を備え、
前記第2の補助電極指の一端側は、第2の主電極指の屈曲部分に接続されている構成。
【0009】
前記第1の主電極指の屈曲部分及び前記第2の主電極指の屈曲部分における弾性表面波の伝搬方向に直交する方向の長さ寸法は、各々0.5μm〜10μmである構成。
前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波は、2GHz以上の周波数に対応する波長である構成。
前記弾性波素子は、SAW共振子であって、
前記第1の主バスバー、前記第2の主バスバー、前記第1の主電極指及び前記第2の主電極指からなる櫛歯状電極を弾性表面波の伝搬方向における一方側及び他方側から挟むように、一対の反射器が配置されている構成。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、互いに対向するように設けられた第1の主バスバーと第2の主バスバーとの間において互いに交差するように複数本の主電極指を配置するにあたり、前記第2の主バスバーに対して前記第1の主バスバーとは反対側の領域に、当該第2の主バスバーに沿うように、前記第1の主バスバーに電気的に接続される第1の補助バスバーを配置している。また、前記第1の主電極指にその一端側が接続されると共に、その他端側が前記第2の主バスバーを越えて前記第1の補助バスバーに接続される第1の補助電極指を設けている。そして、前記第2の主バスバーと前記第1の補助電極指とを互いに絶縁するために、当該第2の主バスバーに絶縁膜を形成している。そのため、第1の主バスバーから伸びる第1の主電極指は、第1の主バスバーと、第1の補助電極指及び第1の補助バスバーとに各々接続されることになる。従って、これら第1の補助電極指及び第1の補助バスバーを設けない構成と比べて電気的抵抗を低減できるので、挿入損失の良好な(小さい)櫛歯状電極(IDT電極)及びSAW共振子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の弾性波素子を備えた弾性波フィルタの一例を模式的に示す平面図である。
【図2】前記フィルタの一部を拡大したIDT電極の平面図である。
【図3】前記IDT電極の概略を示す分解斜視図である。
【図4】前記IDT電極を示す斜視図である。
【図5】前記IDT電極を示す縦断面図である。
【図6】前記IDT電極の製造方法の一例を示す平面図である。
【図7】前記製造方法を示す縦断面図である。
【図8】前記製造方法を示す平面図である。
【図9】前記製造方法を示す縦断面図である。
【図10】前記フィルタの他の例を示すIDT電極の平面図である。
【図11】前記他の例のIDT電極を示す分解斜視図である。
【図12】前記他の例のIDT電極を示す斜視図である。
【図13】前記他の例のIDT電極を示す縦断面図である。
【図14】前記フィルタの別のの例を示す平面図である。
【図15】前記フィルタの更に別の例を示す平面図である。
【図16】前記フィルタの更に別の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の弾性波素子の第1の実施の形態について、櫛歯状電極(IDT電極)を備えたラダー型フィルタを例に挙げて説明する。このラダー型フィルタは、図1に示すように、SAW共振子1をラダー型に接続して構成されており、具体的には入力ポート3と出力ポート4との間に、複数例えば3つのSAW共振子1が各々直列腕として互いに直列に接続されている。また、互いに隣接するSAW共振子(直列腕)1、1の間の接続点と接地ポート5(アース)との間には、並列腕としてSAW共振子1が各々接続されている。このラダー型フィルタは、以下に説明するように、挿入損失(通過帯域における損失)が小さく抑えられるように、各々のSAW共振子1が構成されている。図1中2は、例えば水晶などの圧電基板である。以下において、これら入力ポート3、出力ポート4及び接地ポート5を纏めて信号ポート6として説明する場合がある。尚、図1では、SAW共振子1を模式的に示している。
【0013】
続いて、複数のSAW共振子1のうち直列腕を例に挙げて具体的に説明する。各々のSAW共振子1は、図2に示すように、IDT電極7と、このIDT電極7を弾性表面波(以下「弾性波」と言う)の伝搬方向における一方側及び他方側から挟み込むように配置された一対の反射器8、8と、を備えている。図2中31及び32は、夫々反射器電極指及び反射器バスバーである。尚、図2では入力ポート3及び出力ポート4を模式的に示している。
【0014】
IDT電極7は、図3及び図4に示すように、概略的には3つの階層51、52、53が下側からこの順番に積層されて構成されている。始めに、下側の階層51について説明すると、この階層51には、弾性波の伝搬方向に沿って各々伸びると共に、弾性波の伝搬方向に対して直交する方向に互いに離間するように、第1の主バスバー11及び第2の主バスバー21が圧電基板2上に各々配置されている。弾性波の伝搬方向に対して直交する方向における一方側及び他方側を夫々手前側(前方側)及び奥側(後方側)と呼ぶと、手前側に第1の主バスバー11が配置され、奥側に第2の主バスバー21が配置されている。尚、図3及び図4において、各主バスバー11、21などについては厚み寸法を模式的に示している。
【0015】
弾性波の伝搬方向における一方側及び他方側を夫々右側及び左側と呼ぶと、第1の主バスバー11の例えば左側には、既述の入力ポート3に向かって伸びる導電線路41が接続され、第2の主バスバー21の例えば右側には、出力ポート4に向かって伸びる導電線路42が接続されている。これら主バスバー11、21間には、第1の主バスバー11から第2の主バスバー21に向かって伸びる第1の主電極指10が複数箇所に配置されると共に、当該第1の主電極指10と交互に櫛歯状に交差するように、第2の主バスバー21から第1の主バスバー11に向かって伸びる第2の主電極指20が複数箇所に配置されている。各々の主電極指10、20は、例えば2GHzの周波数に対応する波長の弾性波が圧電基板2上を伝搬するように、当該主電極指10、20の幅寸法及び互いに隣接する主電極指10、20間の離間寸法が設定されている。主バスバー11、21及び主電極指10、20は、例えばアルミニウムなどの金属材料により構成されている。尚、図3及び図4は、IDT電極7を拡大して描画している。また、図2では、導電線路41、42について模式的に描画している。
【0016】
中段の階層52には、各々例えば二酸化珪素(SiO2)などからなる第1の絶縁膜12及び第2の絶縁膜22が配置されており、これら絶縁膜12、22は、弾性波の伝搬方向に沿って各々伸びると共に、手前側及び奥側に互いに離間するように夫々配置されている。第1の絶縁膜12は、第1の主バスバー11の上方側を覆うと共に当該第1の主バスバー11の側方側を周方向に亘って覆うように形成されている。また、第2の絶縁膜22は、第2の主バスバー21の上方側を覆うと共に当該第2の主バスバー21の側方側を周方向に亘って覆うように形成されている。従って、絶縁膜12(22)の下端面は、図5に示すように、主バスバー11(21)を収納するために上方側に向かって窪んでいる。そして、主電極指10、20及び導電線路41(42)は、図4及び図5に示すように、主バスバー11(21)の側壁部から絶縁膜12(22)を貫通して既述のように各々伸び出している。尚、図2、図4ではこれら絶縁膜12、22の一部を切り欠いて描画している。
【0017】
従って、第1の主バスバー11から伸びる主電極指10の各々から見ると、当該主電極指10の延長領域における第2の主バスバー21の上方側を覆うように、第2の絶縁膜22が配置されている。また、同様に第2の主バスバー21から伸びる主電極指20の各々から見ると、当該主電極指20の延長領域における第1の主バスバー11の上方側を覆うように、第1の絶縁膜12が配置されている。尚、図5は、図2及び図4におけるA−A線でIDT電極7を切断した縦断面図を示している。
【0018】
続いて、上段の階層53について説明する。この上段の階層53における第2の主バスバー21よりも奥側の領域(第2の主バスバー21に対して第1の主バスバー11とは反対側の領域)には、弾性波の伝搬方向に沿って伸びるように形成された第1の補助バスバー13が配置されている。また、第1の主バスバー11よりも手前側の領域(第1の主バスバー11に対して第2の主バスバー21とは反対側の領域)には、弾性波の伝搬方向に沿って伸びるように形成された第2の補助バスバー23が配置されている。第1の補助バスバー13は、既述の図2に示すように、導電線路41を介して第1の主バスバー11に電気的に接続されている。また、第2の補助バスバー23は、導電線路42を介して第2の主バスバー21に電気的に接続されている。従って、第1の主バスバー11及び第1の補助バスバー13同士が同電位となり、第2の主バスバー21及び第2の補助バスバー23同士が同電位となっている。
【0019】
第1の補助バスバー13には、第1の主電極指10の各々に対向するように、弾性波の伝搬方向に対して直交する方向に各々伸びる第1の補助電極指14の各々の一端側が接続されている。第1の補助電極指14の他端側は、第2の主バスバー21の上方側の第2の絶縁膜22を乗り越えて、第1の主電極指10の先端部の上方側に位置しており、当該第1の主電極指10と電気的に接続されている。そのため、第1の補助電極指14は、第2の主バスバー21に対して電気的に絶縁されて浮いた状態となり、且つ第1の主電極指10と同電位になっている。従って、第1の主電極指10には、第1の主バスバー11と、第1の補助電極指14及び第1の補助バスバー13とを介して入力ポート3が接続されている。
【0020】
第2の補助バスバー23には、第2の主電極指20の各々に対向するように、弾性波の伝搬方向に対して直交する方向に各々伸びる第2の補助電極指24の各々の一端側が接続されている。第2の補助電極指24の他端側は、図4に示すように、第1の主バスバー11の上方側の第1の絶縁膜12を乗り越えて、第2の主電極指20の先端部の上方側に位置しており、当該第2の主電極指20と電気的に接続されている。そのため、第2の補助電極指24は、第1の主バスバー11に対して電気的に浮いた状態となり、且つ第2の主電極指20と同電位となっている。言い換えると、第2の主電極指20には、第2の主バスバー21と、第2の補助電極指24及び第2の補助バスバー23と、を介して出力ポート4が接続されている。補助バスバー13、23及び補助電極指14、24は、各々例えばアルミニウムなどからなる金属材料により形成されている。尚、これら補助バスバー13、23及び補助電極指14、24は、例えば金や銅などにより構成されていても良い。
【0021】
そのため、以上説明したIDT電極7では、補助バスバー13、23及び補助電極指14、24を配置しない場合よりも、主電極指10、20に対して入力信号の入力及び出力信号の出力を行うにあたっての給電路の数量がほぼ2倍となる。言い換えると、本発明のIDT電極7では、補助バスバー13、23及び補助電極指14、24を配置しない場合と比べて、主電極指10、20の電気的抵抗が半分程度となる。
【0022】
次に、既述のIDT電極7の製造方法の一例について簡単に説明する。始めに、例えばアルミニウムなどの金属膜を圧電基板2上に例えばスパッタなどにより成膜し、続いて図6(a)及び図7(a)に示すように、フォトレジスト膜(図示せず)を用いたフォトリソグラフィ法により、IDT電極7に対応するパターンを前記金属膜に形成する。次いで、図6(b)及び図7(b)に示すように、圧電基板2上に二酸化シリコンなどからなる絶縁膜61と、フォトレジスト膜62と、を下側からこの順番で積層し、同様にフォトリソグラフィ法により、主バスバー11、21の上方側(詳しくは主バスバー11、21の外形よりも僅かに広い領域)以外の領域におけるフォトレジスト膜62を剥離する。
【0023】
そして、フォトレジスト膜62をマスクとして例えばフッ化水素(HF)などを含むエッチングガスを圧電基板2に供給すると共に、このエッチングガスをプラズマ化することにより、絶縁膜61をドライエッチングして第1の絶縁膜12及び第2の絶縁膜22を形成する。続いて、図6(c)及び図7(c)に示すように、フォトレジスト膜62をアッシングして除去する。
【0024】
次いで、圧電基板2上に別のフォトレジスト膜63を形成し、図8(a)及び図9(a)に示すように、このフォトレジスト膜63に対してフォトリソグラフィ法により補助バスバー13、23及び補助電極指14、24の配置される領域に凹部64を形成する。そして、図8(b)及び図9(b)に示すように、例えばスパッタ法により、凹部64の内部を含むフォトレジスト膜63の表面にアルミニウムなどの金属膜65を成膜する。続いて、図8(c)及び図9(c)に示すように、圧電基板2を例えば水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液などのアルカリ水溶液やアセトンなどの有機溶媒に浸漬することにより、フォトレジスト膜63を除去する。この時、フォトレジスト膜63が前記アルカリ水溶液や有機溶媒により圧電基板2上から剥離される際に、当該フォトレジスト膜63の上方側に積層された金属膜65についてもフォトレジスト膜63と共に遊離して除去される。こうして既述のIDT電極7が形成される。尚、IDT電極7と共に反射器8や別のSAW共振子1(直列腕及び並列腕)及び導電線路41、42についても圧電基板2上に形成されているが、既述の図6〜図9では描画を省略している。
【0025】
上述の実施の形態によれば、主バスバー11(21)の上方側に絶縁膜12(22)を形成すると共に、第1の主バスバー11よりも手前側及び第2の主バスバー21よりも奥側に夫々第2の補助バスバー23及び第1の補助バスバー13を配置している。そして、補助バスバー13(23)から伸びる補助電極指14(24)が主バスバー11(21)と同電位となり、且つ主バスバー21(11)から電気的に浮いた状態となるように、補助電極指14(24)について、絶縁膜12(22)を乗り越えて、主電極指10(20)に接続されるように各々配置している。そのため、主電極指10(20)は、主バスバー11(21)と、補助バスバー13(23)及び補助電極指14(24)とを介して並列に信号ポート6に接続されることになる。従って、本発明のIDT電極7では、補助バスバー13、23及び補助電極指14、24を配置しない場合と比べて電気的抵抗を低減できるので、挿入損失の良好な(小さな)IDT電極7及びSAW共振子1を得ることができる。そのため、SAW共振子1のQ値について良好な(高い)特性を得ることができる。
【0026】
この例において、主電極指10、20と共に図示しない反射電極を配置して一方向性電極を構成しても良いし、互いに隣接して伸びる2本の主電極指10、10と、これら主電極指10、10に隣接する2本の主電極指20、20と、を配置してスプリット電極を構成しても良い。
【0027】
続いて、本発明のIDT電極7の第2の実施の形態について、図10〜図13を参照して説明する。この第2の実施の形態では、例えば前記ラダー型フィルタの通過帯域が2GHz以上の高周波数帯域であっても、即ち主電極指10、20の幅寸法及び互いに離間する主電極指10、20間の離間寸法が各々0.5μm以下もの微細構造においても、既述の補助バスバー13、23及び補助電極指14、24を容易に製造できるように(下段の階層51に対して上段の階層53を容易に位置合わせできるように)IDT電極7を構成している。以下の説明において、第2の実施の形態において、既述の図2と同じ構成の部位については同じ符号を付して説明を省略する。尚、図10〜図12は、IDT電極7の一部の領域を模式的に拡大して示している。
【0028】
図10に示すように、第1の主電極指10及び第2の主電極指20は、各々屈曲していわば蛇腹状に組み合わされるように配置されている。即ち、第1の主電極指10は、第1の主バスバー11から第2の主バスバー21に向かって伸びる前段部分15と、この前段部分15における第2の主バスバー21側の端部にて屈曲して第1の主バスバー11に向かって戻ると共に第1の主バスバー11から離間した位置まで伸びる後段部分17と、により構成されている。これら前段部分15と後段部分17との間において屈曲して第1の主バスバー11に沿って伸びる領域は、屈曲部分16をなしている。
【0029】
また、第2の主電極指20は、第2の主バスバー21から第1の主バスバー11に向かって伸びる前段部分25と、この前段部分25における第1の主バスバー11側の端部にて屈曲して第2の主バスバー21に向かって戻ると共に第2の主バスバー21から離間した位置まで伸びる後段部分27と、により構成されている。これら前段部分25と後段部分27との間において屈曲して第2の主バスバー21に沿って伸びる領域は、屈曲部分26をなしている。これら屈曲部分16、26の弾性波の伝搬方向に対して直交する方向における長さ寸法Dは、例えば各々0.5μm〜10μm好ましくは0.5μm〜2.0μmこの例では1.5μmとなっている。
【0030】
そして、これら第1の主電極指10と第2の主電極指20とは、屈曲部分16と屈曲部分26とが千鳥状に配置されるように、また当該第1の主電極指10及び第2の主電極指20が平面のレイアウトで見た時に互いに噛み合うように配置されている。即ち、第1の主電極指10の後段部分17は、第2の主電極指20における前段部分25と後段部分27との間に配置されると共に、当該第2の主電極指20における屈曲部分26に向かって伸び出している。また、第2の主電極指20の後段部分27は、第1の主電極指10における前段部分15と後段部分17との間に配置されると共に、当該第1の主電極指10における屈曲部分16に向かって伸び出している。弾性波の伝搬方向におけるこれら前段部分15、25及び後段部分17、27の各々の幅寸法と、互いに隣接する部分15、25、17、27間の離間寸法とは、既述のように圧電基板2上を伝搬する弾性波の波長が2GHz以上の高周波数帯域に対応する寸法となるように構成されている。
【0031】
こうしていわば2本の主電極指10、20が互いに噛み合うように配置することにより、弾性波の伝搬方向において、第1の主電極指10の前段部分15、第2の主電極指20の後段部分27、第1の主電極指10の後段部分17及び第2の主電極指20の前段部分25がこの順番で配置されることになる。従って、互いに電位の異なる主電極指10、20が弾性波の伝搬方向に沿って交互に並ぶことになるので、各々の部分15、25、17、27間において弾性波が発生することになる。
【0032】
第2の主バスバー21の上方側には、図13に示すように、当該第2の主バスバー21の上方側及び側方側を周方向に亘って覆うように、第2の絶縁膜22が形成されている。この第2の絶縁膜22は、屈曲部分16に対向する領域における第2の主バスバー21の上方側を覆うように形成されている。第2の主バスバー21よりも奥側には、弾性波の伝搬方向に沿って伸びる第1の補助バスバー13が配置されており、この第1の補助バスバー13には、第1の補助電極指14の一端側が接続されている。この第1の補助電極指14の他端側は、第2の絶縁膜22を乗り越えて、屈曲部分16に接続されている。第1の補助電極指14の弾性波の伝搬方向における幅寸法Wは、例えば1.5μmとなっている。
【0033】
第1の主バスバー11の上方側には、当該第1の主バスバー11の上方側及び側方側を周方向に亘って覆うように、第1の絶縁膜12が形成されている。従って、第1の絶縁膜12は、屈曲部分26に対向する領域における第1の主バスバー11の上方側を覆うように形成されている。第1の主バスバー11よりも手前側には、弾性波の伝搬方向に沿って伸びる第2の補助バスバー23が配置されており、この第2の補助バスバー23には、第2の補助電極指24の一端側が接続されている。この第2の補助電極指24の他端側は、第1の絶縁膜12を乗り越えて、屈曲部分26に接続されている。この第2の補助電極指24の弾性波の伝搬方向における幅寸法Wは、例えば1.5μmとなっている。尚、図10では、第2の補助電極指24について、一部を切り欠いて描画している。
【0034】
第1の主電極指10及び第2の主電極指20からなる構成は、弾性波の伝搬方向に沿って複数箇所に形成されている。そして、補助電極指14、24は、前記構成毎に個別に設けられている。従って、4本の部分15、17、25、27毎に一組の補助電極指14、24を設けることになるので、第2の実施の形態のIDT電極7では、補助バスバー13、23及び補助電極指14、24を設けない場合と比べて、IDT電極7の電気的抵抗を25%程度低減できる。尚、図13は、図10及び図12におけるB−B線にて圧電基板2を切断した縦断面図を示している。
【0035】
第2の実施の形態においても、階層51〜53は、既述の第1の実施の形態と同様にフォトリソグラフィ法を用いて下層側から順番に積層される。この時、上段の階層53における補助電極指14、24が下段の階層51に接続される領域である屈曲部分16、26は、弾性波の伝搬方向における幅寸法が前段部分15、25及び後段部分17、27の各々の幅寸法よりも長く形成されている。具体的には、例えば第1の主電極指10における屈曲部分16の前記幅寸法は、当該第1の主電極指10における前段部分15及び後段部分17の各々の幅寸法と、第2の主電極指20の後段部分27の幅寸法と、これら前段部分15、後段部分17及び後段部分27間の各々の離間寸法とを加算した寸法となっており、例えば部分15、27、25、27の各々のの幅寸法の5倍程度となっている。
【0036】
従って、この第2の実施の形態では、主電極指10、20の先端部に対して補助電極指14、24(詳しくはフォトレジスト膜63のパターン)を位置合わせした既述の第1の実施の形態と比べて、上段の階層53の位置合わせの精度が1/5程度で済むと言える。言い換えると、既述の2GHz以上もの周波数に対応する微細配線構造(下段の階層51)に対して上段の階層53の位置合わせを行う場合であっても、フォトレジスト膜63を形成するための露光装置の位置決め精度及びレチクルの解像度や、階層51、52を形成するためのフォトリソグラフィ技術にそれ程高い精度が要求されない。そのため、下段の階層51を形成したプロセスあるいは当該プロセスよりも精度の低い露光装置や現像装置などを用いて上段の階層53を容易に形成できる。従って、主電極指10、20の電気的抵抗を抑えるにあたって、精度の高い露光装置や現像装置などの別の設備投資が不要になるので、低コストでフィルタの挿入損失を抑えることができる。
【0037】
この第2の実施の形態において、屈曲部分16、26の弾性波の伝搬方向に直交する方向における長さ寸法Dは、小さすぎると補助電極指14、24の位置合わせが困難になり、大きすぎるとIDT電極7の寸法(弾性波の伝搬方向に直交する方向における長さ寸法)が大きくなりすぎることから、既述の寸法範囲に設定することが好ましい。
【0038】
以上説明した第2の実施の形態では、第1の主電極指10及び第2の主電極指20からなる構成において、第1の主電極指10を左側に配置し、第2の主電極指20を右側に配置したが、図14に示すように、これら主電極指10、20の位置を互いに入れ替えても良い。即ち、既述の図10のIDT電極7を左右対称に配置しても良い。この例においても、第1の主電極指10と第2の主電極指20とは、屈曲部分16、26が千鳥状に配置されると共に、平面のレイアウトで見た時に互いに噛み合うように配置される。また、前記構成同士の間に、主バスバー11、21の一方から他方に向かって伸びる反射電極を配置しても良い。
【0039】
また、この第2の実施の形態においても、図15に示すように、前段部分15(25)及び後段部分17(27)を各々互いに隣接するように2本ずつ配置して、スプリット電極を構成しても良い。
【0040】
また、以上説明したIDT電極7を用いてSAW共振子1を構成することに代えて、図16に示すように、IDT電極7を弾性波の伝搬方向に沿って2箇所に配置してSAWフィルタを構成しても良い。図15は、第1の実施の形態のIDT電極7を用いた例を示している。
【0041】
以上の各例では、主バスバー11、21の双方に補助バスバー13、23及び補助電極指14、24を夫々配置したが、これら主バスバー11、21の一方だけに補助バスバー13(23)及び補助電極指14(24)を配置しても良い。また、各々の主電極指10(20)の各々に補助電極指14(24)を配置したが、少なくとも一つの主電極指10(20)に補助電極指14(24)を設けても良く、この場合には補助電極指14(24)を形成する領域の下方側だけに絶縁膜12(22)を設けても良い。更に、補助バスバー13(23)を配置せずに、例えば圧電基板2上を引き回した導電路やワイヤなどにより補助電極指14(24)を主バスバー11(21)に直接接続しても良く、この場合には前記導電路やワイヤが補助バスバー13(23)を構成することになる。
【0042】
更に、以上の例では、補助電極指14、24を主バスバー21、11の上方側に配置したが、これら主バスバー21、11の下方側に配置しても良い。具体的には、圧電基板2を例えば2層の圧電薄膜からなる積層体として構成し、上層の圧電薄膜上に既述の主バスバー11、21、主電極指10、20及び補助バスバー13、23を形成する。また、前記上層の圧電薄膜における補助電極指14、24の一端側及び他端側に対応する領域に各々凹部を形成すると共に、下層における圧電薄膜に、前記一端側と前記他端側とが連通するように溝状の開口部を形成する。そして、前記凹部及び開口部内に補助電極指14、24を構成する金属層を埋め込み、上層及び下層を積層して一体化する。この場合には、主バスバー11、21の下方側における上層の圧電薄膜は、特許請求の範囲における絶縁膜に相当する。
【符号の説明】
【0043】
1 SAW共振子
2 圧電基板
3 入力ポート
4 出力ポート
6 信号ポート
7 IDT電極
10、20 主電極指
11、21 主バスバー
12、22 絶縁膜
13、23 補助バスバー
14、24 補助電極指
16、26 屈曲部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上にて、互いに対向する第1の主バスバー及び第2の主バスバーから、各々対向するバスバーに向かって夫々第1の主電極指及び第2の主電極指が伸び出し、これら主電極指が互いに櫛歯状に交差する構造を備えた弾性波素子において、
前記第2の主バスバーに対して前記第1の主バスバーとは反対側の領域に当該第2の主バスバーに沿って形成され、前記第1の主バスバーに電気的に接続される第1の補助バスバーと、
前記第1の主電極指にその一端側が接続されると共に、その他端側が前記第2の主バスバーを越えて前記第1の補助バスバーに接続される第1の補助電極指と、
前記第2の主バスバーと前記第1の補助電極指とを互いに絶縁するために当該第2の主バスバーに形成された絶縁膜と、を備えたことを特徴とする弾性波素子。
【請求項2】
前記第1の主電極指は、前記第1の主バスバーから前記第2の主バスバーに向かって伸び出す前段部分と、この前段部分における前記第2の主バスバー側の端部にて屈曲して前記第1の主バスバーに向かって戻ると共に当該第1の主バスバーから離間した位置まで伸びる後段部分と、により構成され、
前記第2の主電極指は、前記第2の主バスバーから前記第1の主バスバーに向かって伸び出す前段部分と、この前段部分における前記第1の主バスバー側の端部にて屈曲して前記第2の主バスバーに向かって戻ると共に当該第2の主バスバーから離間した位置まで伸びる後段部分と、により構成され、
前記第1の主電極指における前記前段部分と前記後段部分との間の屈曲部分と、前記第2の主電極指における前記前段部分と前記後段部分との間の屈曲部分とが千鳥状に並ぶように、また前記第1の主電極指と前記第2の主電極指とが平面のレイアウトで見て互いに噛み合うように構成され、
前記第1の補助電極指の一端側は、第1の主電極指の屈曲部分に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項3】
前記第1の主バスバーに対して前記第2の主バスバーとは反対側の領域に当該第1の主バスバーに沿って形成され、前記第2の主バスバーに電気的に接続される第2の補助バスバーと、
前記第2の主電極指にその一端側が接続されると共に、その他端側が前記第1の主バスバーを越えて前記第2の補助バスバーに接続される第2の補助電極指と、
前記第1の主バスバーと前記第2の補助電極指とを互いに絶縁するために当該第1の主バスバーに形成された絶縁膜と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項4】
前記第1の主バスバーに対して前記第2の主バスバーとは反対側の領域に当該第1の主バスバーに沿って形成され、前記第2の主バスバーに電気的に接続される第2の補助バスバーと、
前記第2の主電極指にその一端側が接続されると共に、その他端側が前記第1の主バスバーを越えて前記第2の補助バスバーに接続される第2の補助電極指と、
前記第1の主バスバーと前記第2の補助電極指とを互いに絶縁するために当該第1の主バスバーに形成された絶縁膜と、を備え、
前記第2の補助電極指の一端側は、第2の主電極指の屈曲部分に接続されていることを特徴とする請求項2に記載の弾性波素子。
【請求項5】
前記第1の主電極指の屈曲部分及び前記第2の主電極指の屈曲部分における弾性表面波の伝搬方向に直交する方向の長さ寸法は、各々0.5μm〜10μmであることを特徴とする請求項4に記載の弾性波素子。
【請求項6】
前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波は、2GHz以上の周波数に対応する波長であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の弾性波素子。
【請求項7】
前記弾性波素子は、SAW共振子であって、
前記第1の主バスバー、前記第2の主バスバー、前記第1の主電極指及び前記第2の主電極指からなる櫛歯状電極を弾性表面波の伝搬方向における一方側及び他方側から挟むように、一対の反射器が配置されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一つに記載の弾性波素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−26721(P2013−26721A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157961(P2011−157961)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】