説明

弾性経編布帛

【課題】腰掛け等の表面材として商品価値が長期にわたって保たれ、腰掛け等の表面材として使用して滑り難く、座り心地がよく、表面光沢が少なく、プラスチック製品のイメージを与えない弾性経編布帛を得る。
【解決手段】弾性糸11と非弾性糸12から成る弾性経編基布に、経編機によって編成された編構造糸14をニットループを形成することなく編み込む。編構造糸は、ニットループ19とシンカーループ18とから成る一種の経編物であり、ニットループとシンカーループの連鎖箇所は、結び目のような塊状になり、それが編構造糸の長さ方向にニットループやシンカーループと同じリピートをもって形成され、細かい凹凸となって編構造糸の外面に現れ、その凹凸によって弾性糸による光沢と平滑性が抑えられ、プラスチック製品のようなスベスベした観を呈すことがなく、表面が梨地調で滑り難い弾性経編布帛が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座椅子、椅子、腰掛け、背凭れ、脚載せ、座席、ソファー、ベット等の身体を支えるために屋内、屋外、車内等で使用される身体支持装置品(以下、“腰掛け等”と言う。)のフレームの向き合う支桿と支桿の間に張設して身体を弾力的に支える腰掛け面や背凭れ面等のクッション面(以下、単に“クッション面”と言う。)を構成するために使用される経編布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
経編機により主編糸によって編成されるベース編地のコース方向やウエール方向に一直線状に挿入糸が編み込まれている緯糸挿入経編布帛や経糸挿入経編布帛は公知である(例えば、特許文献1・2参照)。経編布帛に弾性糸を編み込むことは公知である(例えば、特許文献2・3・4参照)。経編布帛に編み込む弾性糸としてポリエーテル系エステル弾性糸を使用することは公知である(例えば、特許文献5参照)。
弾性糸としてポリエーテル系エステル弾性糸は表面が平滑で光沢が強い。このため、それを編み込んだ経編弾性布帛は、表面光沢が強く、平滑で滑り易く、それを使用したクッション面に身体を載せると滑動して安定せず、安らいだ心地よさを与えない。
そこで、緯糸挿入経編機を使用し、非弾性糸から成る経編基布に、ポリエーテル系エステル弾性糸と、そのポリエーテル系エステル弾性糸よりも見掛け太さが太い非弾性補助糸を緯糸として交互に挿入し、非弾性補助糸によってポリエーテル系エステル弾性糸による光沢や滑動性を抑え、単調なプラスチック製品のイメージを与えない弾性経編布帛が開発された(例えば、特許文献6・7参照)。
【特許文献1】特開平11−279907号公報
【特許文献2】実公平03−036555号公報
【特許文献3】特許第3096356号公報
【特許文献4】特公昭62−060489号公報
【特許文献5】特許第3096356号公報
【特許文献6】国際公開WO2004/022827A1号公報
【特許文献7】国際公開WO2004/015181A1号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
表面光沢や滑動性を抑えるために弾性糸と非弾性補助糸を緯糸として交互に挿入した緯糸挿入弾性経編布帛では、ウエール方向に弾性糸と平行に並ぶ非弾性補助糸が、弾性糸の伸縮挙動に追随せず、弾性糸の伸縮挙動が非弾性補助糸に抑えられて緯糸挿入弾性経編布帛のクッション性が損なわれると共に、伸長時に生じた伸長歪みが蓄積して非弾性補助糸に弛み出し、緯糸挿入弾性経編布帛が古びた外観を呈し易く、腰掛け等の表面材としての商品価値が損なわれる。
【0004】
そこで本発明は、腰掛け等の表面材として商品価値が長期にわたって保たれ、腰掛け等の表面材として使用して滑り難く、座り心地がよく、表面光沢が少なく、プラスチック製品のイメージを与えない弾性経編布帛を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る弾性経編布帛17は、弾性糸11と非弾性糸12から成る弾性経編基布13に、経編機によって編成された編構造糸14がニットループを形成することなく編み込まれていることを第1の特徴とする。
【0006】
本発明に係る弾性経編布帛の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、編構造糸がコース方向(X)に一直線に連続して緯縞15を形成している点にある。
【0007】
本発明に係る弾性経編布帛の第3の特徴は、上記第1の特徴に加えて、編構造糸14が複数コース毎(n)にコース方向(X)に複数ウエール(m)にわたって移動して緯縞(15)を形成しており、その緯縞(15)と緯縞(15)の間の複数コース(n)においてウエール方向(Y)に一直線に連続して経縞を形成している点にある。
【0008】
本発明に係る弾性経編布帛の第4の特徴は、上記第1、第2および第3の何れかの特徴に加えて、弾性糸11がニットループを形成することなくコース方向に一直線に連続している点にある。
【0009】
本発明に係る弾性経編布帛の第5の特徴は、上記第1、第2、第3および第4の何れかの特徴に加えて、弾性糸11が、破断伸度60%以上、伸び率30%に伸長後の弾性回復率が90%以上、単糸繊度が1000〜4000dtex、10%伸長時の伸長応力が0.1cN/dtex以上のポリエーテル系エステル弾性糸である点にある。
【発明の効果】
【0010】
経編機によって編成された編構造糸14は、一種の経編物であり、その構成する編糸16は、編構造糸14の軸芯に平行に続かず、ニットループ19とシンカーループ18を形成して編構造糸14の軸芯に沿って曲折して連続しており、編構造糸14に張力が作用するときは緊張して編構造糸14の軸芯に平行になり、その張力が解除されると曲折した状態に復元し、その伸縮過程において編構造糸14を構成する編糸16に伸長歪みが生じ難い。このため、編構造糸14が、ニットループを形成することなく編み込まれ、コース方向(X)に一直線に連続して緯縞15を形成していても、又、ウエール方向(Y)に一直線に連続して経縞を形成していても、或いは、それが弾性糸11に平行な引揃状態になって編み込まれていても、弾性経編布帛や弾性糸11の伸縮に追随して伸縮し、その伸縮過程で伸長歪みを蓄積せず、編構造糸14が弛み出すことはなく、特に、破断伸度60%以上、伸び率30%に伸長後の弾性回復率が90%以上、単糸繊度が1000〜4000dtex、10%伸長時の伸長応力が0.1cN/dtex以上のポリエーテル系エステル弾性糸11では、それが強靱で伸び難いので、それと共に編構造糸14が大きく伸長されることはなく、編構造糸14が弛み出して弾性経編布帛が古びた外観を呈することはない。加えて、編構造糸14は、一種の経編物であるから、それが補助糸として編み込まれていても違和感を与えず、それを各ウエール間に配置してウエール方向(Y)に一直線に連続させて編み込むときは、弾性経編基布13のウエール密度が倍加したかの如き印象を与え、又、それをコース方向(X)に一直線に連続させて編み込むときは、弾性経編基布13がウエール方向(Y)に連続させて編成したかの如き印象を与え、強度的に安定した弾性経編布帛が得られる。
【0011】
編構造糸14は、ニットループ19とシンカーループ18とから成る一種の経編物であり、ニットループ19とシンカーループ18の連鎖箇所20は、そのニットループ19の彎曲部分とシンカーループ18の彎曲部分が重なって結び目のような塊状になり、それが編構造糸の長さ方向にニットループ19やシンカーループ18と同じリピートをもって形成され、それが細かい凹凸となって編構造糸14の外面に現れ、その凹凸によって弾性糸11による光沢と平滑性が抑えられ、プラスチック製品のようなスベスベした観を呈すことがなく、表面が梨地調で滑り難い弾性経編布帛が得られる。
【0012】
又、そのように、周面(外面)に細かい凹凸があって滑り難いので、編み込まれてコース方向(X)やウエール方向(Y)に一直線に連続しても、編構造糸14がズレ動くことはなく、特に、編構造糸14をウエール方向(Y)に一直線に弾性経編基布17に編み込む場合に、それを複数コース毎(n)にコース方向(X)に複数ウエール(m)にわたって移動して経縞を形成すると、編構造糸14が編み込まれたウエール方向(Y)にズレ動き難くなり、又、その構成する経縞と緯縞15が交叉して織物のようになるので、形態の安定した弾性経編布帛が得られる。
【0013】
このため、複数本の非弾性糸が複数コース(n)にわたってウエール方向(Y)に一直線に続く鎖編紐条を形成し、その鎖編紐条を構成する複数本の非弾性糸が複数コース(n)おきに左右コース方向に分かれて隣合う他の非弾性糸と共に複数コース(n)にわたってウエール方向(Y)に一直線に続く鎖編紐条を形成したメッシュ状に弾性経編基布を構成して弾性糸が表面に露出し易くするときでも、形態が安定し、表面光沢が少なく、滑り難く、而も、弾性経編基布がメッシュ状を成すので通気性に富み、蒸れ感を与えない弾性経編布帛が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
編構造糸14は、経編機のニードル毎に配置される各1本の編糸16の鎖編み目が連続した鎖編糸(図2a)として編成することも出来、経編機のニードル毎(ウエール毎)に配置される複数本(概して2〜10本、好ましくは2〜4本)の編糸(16a・16b)が複数のウエール(概して2〜10ウエール、好ましくは2〜4ウエール)において形成すニットループとシンカーループが絡合した極小幅のテープ状紐糸(図2b)として編成することも出来、又、そのように複数本の編糸によって極小幅のテープ状紐糸とする場合は、その複数本(概して2〜10本、好ましくは2〜4本)の各編糸の形成する複数条の鎖編み目を挿入糸21で連結して編成することも出来る(図2c)。
【0015】
弾性経編基布をメッシュ状に編成して通気性に富むものとする場合は、1本の編糸16の鎖編み目が連続した鎖編糸(図2a)、或いは、2〜3本の編糸(16a・16b)によって極小幅のテープ状紐糸(図2b・c)のように、編構造糸14を極細く、その繊度を弾性糸11の繊度よりも細くし、弾性経編基布13の通気性を阻害しないようにするとよい。
弾性経編基布13をメッシュ状に編成するには、経糸に適用する複数本の非弾性糸が複数コース(n)にわたってウエール方向(Y)に一直線に続く鎖編紐条を形成し、その鎖編紐条を構成する複数本の非弾性糸が複数コース(n)おきに左右コース方向に分かれて隣合う他の非弾性糸と共に複数コース(n)にわたってウエール方向(Y)に一直線に続く鎖編紐条を形成するとよい。
【0016】
弾性経編基布13は、非弾性糸12だけで編成される編地に弾性糸11を挿入糸として編み込んだものでもよいし、非弾性糸12の構成する鎖編目列を弾性糸11で連結したものでもよい。
弾性経編基布13は、弾性糸11の軸芯が長く続く方向、例えば、弾性糸11を緯糸として挿入した緯糸挿入弾性経編基布や、非弾性糸12の構成する鎖編目列を弾性糸11でジグザグに連結した弾性経編基布では、コース方向における10%伸長時の伸長応力(F)が150≦F≦600N/5cmになるようにウエール密度やコース密度を設定する。そのためには、コース方向の単位間隔内(1cm)にウエール方向に平行に並ぶ複数本の弾性糸の繊度を合計した合計繊度が概して7000dtex/cm以上になるようにするとよい。
弾性糸としては、ポリエーテル系エステルを芯成分ポリマーとし、その芯成分ポリマーよりも低融点の熱融着性ポリマーを鞘成分ポリマーとする熱融着性芯鞘複合ポリエーテル系エステル弾性糸を使用するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る弾性経編布帛の概念図である。
【図2】本発明に係る編構造糸の平面図である。
【符号の説明】
【0018】
11:弾性糸
12:非弾性糸
13:弾性経編基布
14:編構造糸
15:緯縞
16:編糸
17:弾性経編布帛
18:シンカーループ
19:ニットループ
20:連鎖箇所
21:挿入糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性糸と非弾性糸から成る弾性経編基布に、編構造糸がニットループを形成することなく編み込まれている弾性経編布帛。
【請求項2】
編構造糸がコース方向(X)に一直線に連続して緯縞を形成している前掲請求項1に記載の弾性経編布帛。
【請求項3】
編構造糸が複数コース毎(n)にコース方向(X)に複数ウエール(m)にわたって移動して緯縞を形成しており、その緯縞と緯縞の間の複数コース(n)においてウエール方向(Y)に一直線に連続して経縞を形成している前掲請求項1に記載の弾性経編布帛。
【請求項4】
弾性糸がニットループを形成することなくコース方向に一直線に連続している前掲請求項1と2と3の何れかに記載の弾性経編布帛。
【請求項5】
弾性糸が、破断伸度60%以上、伸び率30%に伸長後の弾性回復率が90%以上、単糸繊度が1000〜4000dtex、10%伸長時の伸長応力が0.1cN/dtex以上のポリエーテル系エステル弾性糸である前掲請求項1と2と3と4の何れかに記載の弾性経編布帛。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−176900(P2006−176900A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369163(P2004−369163)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000148151)株式会社川島織物セルコン (104)
【Fターム(参考)】