説明

弾性繊維用処理剤および弾性繊維

【課題】 本発明の目的は、解舒性および平滑性に優れる弾性繊維の処理剤を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、ベース成分(A)70〜99.98重量%と高級脂肪酸の金属塩(B)0.01〜10重量%とを含有し、30℃における粘度が3〜100mm/sの弾性繊維用処理剤であって、前記ベース成分(A)は、シリコーンオイル、鉱物油およびエステル油から選ばれる少なくとも1種であり、前記高級脂肪酸の金属塩(B)は、炭素数が16の高級脂肪酸の金属塩および炭素数が18の高級脂肪酸の金属塩(B1)と、炭素数が11〜19の範囲内でかつ奇数の高級脂肪酸の金属塩を1種または2種以上(B2)とを含む混合物である、弾性繊維用処理剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は解舒性と平滑性に優れる弾性繊維用処理剤および弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、弾性繊維の紡糸工程において、解舒性および平滑性を付与するために弾性繊維用処理剤が用いられている。例えば、特許文献1には、ステアリン酸Znやステアリン酸Mgなどを用いた弾性糸用処理剤が記載されている。特許文献2には、炭素数が10〜20の高級脂肪酸の金属塩を含有した繊維糸状物用ストレート処理剤組成物が記載されている。特許文献3には、炭素数16の高級脂肪酸の金属塩と炭素数18の高級脂肪酸の金属塩が混合された高級脂肪酸の金属塩を用いた弾性繊維用処理剤が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭60−81374号公報
【特許文献2】特開2003−13361号公報
【特許文献3】特開2004−346469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1や特許文献2のように高級脂肪酸の金属塩を単独で使用した処理剤の場合、その結晶が硬くなりすぎてか、弾性繊維の紡糸工程において、解舒性、平滑性が充分に発揮されていないのが実情である。また、特許文献3では、高級脂肪酸の金属塩を組合せた処理剤が開示されているが、解舒性・平滑性が充分に発揮されない場合があり、さらには製織等の後加工工程において、編み針が摩耗しやすいといった問題があった。
本発明は、解舒性、平滑性に優れ、さらには後加工工程における編み針の摩耗を低減する弾性繊維用処理剤および弾性繊維を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、炭素数16と炭素数18の高級脂肪酸の金属塩を含み、さらに特定の高級脂肪酸の金属塩を含む処理剤は、良好な解舒性、平滑性を発揮し、さらには製織等の後加工工程での編み針等の摩耗を低減することを見出し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明にかかる弾性繊維用処理剤は、ベース成分(A)70〜99.98重量%と高級脂肪酸の金属塩(B)0.01〜10重量%とを含有し、30℃における粘度が3〜100mm/sの弾性繊維用処理剤であって、前記ベース成分(A)は、シリコーンオイル、鉱物油およびエステル油から選ばれる少なくとも1種であり、前記高級脂肪酸の金属塩(B)は、炭素数が16の高級脂肪酸の金属塩および炭素数が18の高級脂肪酸の金属塩(B1)と、炭素数が11〜19の範囲内でかつ奇数の高級脂肪酸の金属塩を1種または2種以上(B2)とを含む混合物である、弾性繊維用処理剤である。
また、成分(B1)と成分(B2)との重量比が、90/10〜99.99/0.01であることが好ましい。
【0007】
また、成分(B1)の炭素数16の高級脂肪酸の金属塩と炭素数18の高級脂肪酸の金属塩との重量比が、5/95〜50/50であることが好ましい。
高級脂肪酸の金属塩(B)が2価または3価の金属の塩であることが好ましい。
処理剤全体に占める水分の割合が50〜5000ppmであることが好ましく、高級脂肪酸の金属塩(B)全体に占める水分の割合が0.5〜4.0重量%であることが好ましい。
また本発明は、これらの処理剤が弾性繊維に対し、0.1〜15重量%付与されている弾性繊維、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の処理剤を用いることにより、安定した解舒性及び平滑性を弾性繊維に与えることができ、さらには後加工工程における編み針の摩耗を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、ベース成分(A)70〜99.98重量%と高級脂肪酸の金属塩(B)0.01〜10重量%とを含有し、30℃における粘度が3〜100mm/sの弾性繊維用処理剤であり、以下に各成分や処理剤全体に関する事項を説明する。
【0010】
ベース成分(A)は、シリコーンオイル、鉱物油およびエステル油から選ばれる少なくとも1種の成分であれば特に限定はなく、従ってシリコーンオイル、鉱物油、エステル油をそれぞれ単独で使用してもよく、これらを複数組合せて使用してもよい。処理剤全体に占めるベース成分の割合は70〜99.98重量%であり、80〜99.9重量%が好ましく、90〜99重量%がより好ましい。70重量%未満になると、平滑性や解舒性が不足する場合がある。一方、99.98重量%超になると、高級脂肪酸の金属塩(B)の効果が達成されなくなる場合がある。
【0011】
ベース成分(A)としてシリコーンオイルを単独で使用すると、本発明の高級脂肪酸の金属塩(B)の沈降性が悪くなる場合があり、一方シリコーンオイルを必須の成分とせずに鉱物油および/またはエステル油を使用すると、弾性繊維を膨潤させる場合があり、シリコーンオイルと鉱物油および/またはエステル油とを併用するのが好ましい。この場合、ベース成分(A)に含まれるシリコーンオイル(A1)と鉱物油および/またはエステル油(A2)との重量割合(A1/A2)は、解舒性・平滑性の点から、20/80〜95/5がより好ましく、40/60〜90/10がさらに好ましく、50/50〜80/20が最も好ましい。
【0012】
シリコーンオイルとしては特に限定はないが、たとえば、ポリジメチルシロキサン、ポリアルキルシロキサン、ポリアルキルフェニルシロキサン等を挙げることができ、1種または2種以上を併用してもよい。いずれのシリコーンオイルも、25℃における粘度は2〜100mm/sが好ましく、5〜50mm/sがより好ましい。
【0013】
鉱物油としては特に限定はないが、たとえば、30℃における粘度が30〜150秒、好ましくは40〜100秒のスピンドル油や流動パラフィン等を挙げることができ、1種または2種以上を併用してもよい。鉱物油の粘度が30秒よりも低いと、得られる弾性繊維の品質が低下することがある。一方、鉱物油の粘度が150秒超であると、弾性繊維用処理剤全体の粘度が高くなり、得られる弾性繊維がローラーに取られ、糸が切れてしまうことがある。
【0014】
エステル油としては特に限定はないが、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステルを挙げることができる。エステル油としては、たとえば、下記から選ばれる脂肪酸とアルコールとから製造されるエステルを例示できるが、これらの脂肪酸やアルコールを原料としないエステルであってもよい。エステル油は、1種または2種以上を併用してもよい。
エステル油の粘度としては、特に限定はないが、たとえば、30℃における粘度は30〜150秒が好ましく、40〜100秒がより好ましい。
【0015】
脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、高級脂肪酸であってもよく、環状の脂肪酸であってもよく、芳香族環を含有する脂肪酸であってもよい。前記脂肪酸としては、たとえば、カプリル酸、2−エチルヘキシル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、リグノセレン酸、アジピン酸、セバチン酸、安息香酸等が挙げられる。
【0016】
アルコールは、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、高級アルコールであっても、環状のアルコールであっても、芳香族環を含有するアルコールであってもよい。前記アルコールとしては、たとえば、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、エチレングリコール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリストール、ソルビトール、ソルビタン等が挙げられる。
【0017】
これらのシリコーンオイル、鉱物油、エステル油のうちでも、処理剤のオイリング時に扱いやすく、粘度が高すぎると糸がローラーに取られて切れてしまう等の理由から、弾性繊維用処理剤の30℃における粘度が、好ましくは3〜50mm/s、さらに好ましくは5〜20mm/sに調製することができるようなシリコーンオイル、鉱物油、エステル油を選択することが好ましい。
【0018】
前記高級脂肪酸の金属塩(B)は、炭素数が16の高級脂肪酸の金属塩および炭素数が18の高級脂肪酸の金属塩(B1)と、炭素数が11〜19の範囲内でかつ奇数の高級脂肪酸の金属塩を1種または2種以上(B2)とを含む混合物である。成分(B1)のような特定の2種類の高級脂肪酸の金属塩を併用したうえに、さらに炭素数が11〜19のうちの、奇数の高級脂肪酸の金属塩(B2)を併用すると、高級脂肪酸の金属塩の結晶性が阻害されるためか、硬さがより一層程よいレベルになり、解舒性および平滑性が良好となり、編み針の摩耗を低減できる。処理剤全体に占める高級脂肪酸の金属塩(B)の割合は0.01〜10重量%であり、0.1〜5重量%が好ましく、0.5〜3重量%がより好ましい。0.01重量%未満になると、本発明の効果が発揮されない。10重量%超になると処理剤の粘度が高くなりすぎる。なお、高級脂肪酸の金属塩は水和水を有して安定化することが多く、その場合の高級脂肪酸の金属塩の量比は水和水を含めたものをいう。
【0019】
本発明の効果をより発揮させるためには、成分(B1)と成分(B2)との重量比(B1/B2)は、90/10〜99.9/0.1が好ましく、90/10〜99/1がより好ましく、95/5〜98/2がさらに好ましい。また高級脂肪酸の金属塩(B)に占める成分(B1)と(B2)の合計の割合は、90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましく、97重量%以上がさらに好ましい。高級脂肪酸の金属塩(B)には、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(B1)と成分(B2)以外の高級脂肪酸の金属塩を含有してもよく、例えばミリスチン酸のような炭素数14の高級脂肪酸の金属塩を含有してもよい。高級脂肪酸の金属塩(B)に占める該成分の割合は、0.1〜10重量%が好ましい。
【0020】
成分(B1)は、炭素数が16の高級脂肪酸の金属塩(B−16)と炭素数18の高級脂肪酸の金属塩(B−18)からなる成分であり、その重量比(B−16/B−18)は5/95〜50/50が好ましく、20/80〜40/60がより好ましい。この割合で含有されると、高級脂肪酸の金属塩の硬さがより程よいレベルになり、解舒性および平滑性により優れた処理剤になる。炭素数が16の高級脂肪酸としては、例えば、パルミチン酸、パルミトイル酸等が挙げられ、その中でも飽和脂肪酸が好ましく、パルミチン酸がより好ましい。炭素数が18の高級脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられ、その中でも飽和脂肪酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。
【0021】
成分(B2)は、炭素数が11〜19の範囲内でかつ奇数の高級脂肪酸の金属塩を1種または2種以上(B2)を有する成分であり、成分(B1)と併用することにより、高級脂肪酸の金属塩の結晶性が阻害されるためか、硬さがより一層程よいレベルになり、解舒性および平滑性が良好となり、編み針の摩耗を低減できる。本発明の効果をより発揮させるために、これらのなかでも炭素数が15、17および19の高級脂肪酸の金属塩の混合物が好ましく、さらには炭素数17および19の高級脂肪酸の金属塩の混合物が好ましい。炭素数が15、17、19の高級脂肪酸の金属塩が成分(B2)に含まれる場合、成分(B)に占める各割合は、炭素数15のときは0.01〜1.0重量%、炭素数17のときは0.05〜5.0重量%、炭素数19のときは0.04〜4.0重量%が好ましい。
成分(B2)の高級脂肪酸としては、例えば、ウンデカン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、ノナデカン酸等が挙げられ、その中でも、飽和脂肪酸が好ましく、その中でもウンデカン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、ノナデカン酸がより好ましい。
【0022】
高級脂肪酸の金属塩(B)は、2価または3価の金属の塩が好ましく、例えばCa、Zn、Mg、Al、Ba等の金属の塩が挙げられる。これらのなかでも2価の金属の塩が好ましく、Mg、Caの塩がより好ましい。
処理剤に含まれる高級脂肪酸の金属塩(B)の平均粒子径としては、0.01〜5μmが好ましく、0.1〜3μmがより好ましい。5μmより大きいと解舒性が充分でない場合があり、0.01μmより小さいと解舒性の効果が発揮されなくなる場合がある。
高級脂肪酸の金属塩(B)を製造する方法としては、高級脂肪酸と金属酸化物を直接反応させ、冷却、固化、粉砕の工程を経て、製造する乾式製造方法や、脂肪酸をカセイソーダなどで水の存在下、中和し、硫酸金属塩などで複分解反応をさせて、洗浄、脱水、乾燥工程を経て製造する湿式製造方法等がある。
【0023】
高級脂肪酸の金属塩は、水和水を有して安定化することが多い。本発明で使用される高級脂肪酸の金属塩(B)として、その金属塩(B)全体に占める水分の割合は0.5〜4重量%が好ましく、1.0〜3.5重量%がより好ましく、1.5〜3.0重量%がさらに好ましい。水分が0.5%未満では、高級脂肪酸の金属塩の吸湿性が高くなり、処理剤中での沈降安定性が悪くなる場合がある。水分が4%超では、水分によるポリウレタンウレア弾性繊維の糸物性の低下が起こる場合がある。なお、これらの水分の割合は任意の方法で調整でき、例えば高級脂肪酸の金属塩の製造工程における乾燥条件等により調整できる。
【0024】
同様に、ベース成分(A)と高級脂肪酸の金属塩(B)を含む本発明の処理剤として、その処理剤全体に占める水分の割合は50〜5000ppmが好ましく、70〜2000ppmがより好ましく、100〜1500ppmがさらに好ましい。水分が50ppm未満では、高級脂肪酸の金属塩の吸湿性が高くなり、処理剤中での沈降安定性が悪くなる場合がある。水分が5000ppm超では、水分によるポリウレタンウレア弾性繊維の糸物性の低下が起こる場合がある。
【0025】
本発明の処理剤は、30℃における粘度が通常3〜100mm/sが好ましく、5〜50mm/sがより好ましく、8〜20mm/sがさらに好ましい。3mm/s未満では、処理剤の揮発が問題となる場合があり、100mm/sを超えると平滑性に劣る場合がある。
【0026】
また、本発明の処理剤には、従来公知の変性シリコーン(アルキル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミド変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、リン酸変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、MQシリコーンレジン、MQTシリコーンレジン、Tシリコーンレジン等)やつなぎ剤、制電剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤等、通常弾性繊維の処理剤に用いられる成分を配合することができる。
【0027】
本発明の弾性繊維用処理剤を製造する方法については、特に限定はなく、公知の方法を適用することができる。弾性繊維用処理剤は、構成する上記の各成分を任意の順番で添加混合することによって製造される。
平均粒子径が0.01〜5μmである高級脂肪酸の金属塩(B)を含む弾性繊維用処理剤は、既に平均粒子径0.01〜5μmに粉砕された高級脂肪酸の金属塩をベース成分に混合して製造してもよく、また、ベース成分に高級脂肪酸金属塩を混合し、縦型ビーズミル、横型ビーズミル、コロイドミル、ダイノーミル、サンドグラインダー等の従来公知の湿式粉砕機を用いて、平均粒子径が0.01〜5μmになるように粉砕して、製造してもよい。高級脂肪酸の金属塩の粉砕時には、従来公知の特開平10−259577号公報、特開2000−328459号公報などに記載の分散助剤を用いてもよい。
【0028】
本発明の弾性繊維は、弾性繊維本体と、これに付着した上述の弾性繊維用処理剤とから構成される弾性繊維である。
本発明の弾性繊維における弾性繊維用処理剤の付着割合は、付着させることによって得られる効果と経済性とのバランスから、0.1〜15重量%であり、好ましくは1〜10重量%である。
【0029】
弾性繊維本体および弾性繊維は、いずれも、ポリウレタンエラストマー、ポリウレタンウレアエラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエチレンエラストマー等から構成される繊維であり、その伸度は通常300%以上である。
本発明の弾性繊維としては、PTMGやポリエステルジオールと有機ジイソシアネートを反応させ、次いで、1,4ブタンジオール、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ペンタンジアミンなどで鎖延長した、ポリウレタンあるいはポリウレタンウレアから構成されるものがある。たとえば、ポリウレタンウレア弾性繊維は、分子量1000〜3000のポリテトラメチレングリコール(PTMG)とジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とを用意し、PTMG/MDI=1/2〜1/1.5(モル比)でジメチルアセトアミドやジメチルホルムアミド等の溶媒中で反応させ、エチレンジアミン、プロパンジアミン等のジアミンで鎖延長して得られるポリウレタンウレアポリマーの20〜40%溶液を乾式紡糸で、紡糸速度400〜1200m/minで紡糸することにより製造できる。弾性繊維本体の適応繊度は特に制限はない。
【0030】
本発明の弾性繊維の用途として、CSY、シングルカバリング、PLY、エアーカバリング等のカバリング糸等の加工糸や、丸編み、トリコット等により、布帛として使用することができる。また、これらの加工糸、布帛を使用してストッキング、靴下、下着、水着、ファンデーション等の伸縮性が必要とされる製品や、ジーンズ、スーツなどのアウターウェア等に快適性のために伸縮性を付与させる目的でも使用される。さらに最近では、紙おむつにも適用される。
【実施例】
【0031】
以下の実施例および比較例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各実施例および比較例における評価項目と評価方法は以下の通りである。また、文中および表中の「%」は「重量%」を意味する。
【0032】
(解舒速度比)
図1において、解舒速度比測定機の解舒側に処理剤を付与した繊維のチーズ(1)をセットし、巻き取り用紙管(2)をセットする。巻き取り速度を一定速度にセットした後、ローラー(3)及び(4)を同時に起動させる。この状態では走行糸条(5)に張力はほとんどかからないため、糸はチ―ズ上で膠着して離れないため解舒点(6)は図1に示す状態にある。解舒速度を変えることによって、チーズからの糸(5)の解舒点(6)が変わるので、この点がチーズとローラーとの接点(7)と一致するように解舒速度を設定する。解舒速度比は式1によって求める。この値が小さいほど、解舒性がよいことを示す。
解舒速度比(%)=(巻取速度―解舒速度)/解舒速度×100 (式1)
【0033】
(編成張力、静電気発生量)
図2において、チーズ(8)から縦取りした走行糸条(9)をコンペンセーター(10)を経てローラー(11)、編み針(12)を介して、Uゲージ(13)に付したローラー(14)を経て速度計(15)、巻き取りローラー(16)に連結する。速度計(15)での走行速度が定速(例えば、10m/分、100m/分)になるように巻き取りローラーの回転速度を調整して、巻き取りローラーに巻き取り、そのときの編成張力をUゲージ(13)で測定し、繊維/編み針間の摩擦(g)を計測する。走行糸条より1cmのところで春日式電位差測定装置(17)で発生静電気(kV)を測定する。
【0034】
(編み針の筋の有無)
図2において、チーズ(8)から縦取りした走行糸条(9)をコンペンセーター(10)を経てローラー(11)、編み針(12)を介して、Uゲージ(13)に付したローラー(14)を経て速度計(15)、巻き取りローラー(16)に連結する。コンペンセーター(10)でUゲージ(13)での編成張力を10gに調整し、巻き取りローラー(16)の回転速度を調整して速度計(15)の走行速度を200m/分にして、24時間走行させる。走行後の編み針を電子顕微鏡写真で撮影し、筋の有無を確認する。試験に使用する編み針(12)として、100mlのビーカーにジエチルエーテルを入れて編み針(GROZ-BECKERT社製 KFPS46.58 G12)を浸漬させ、10分間超音波洗浄を行い、乾燥させた編み針を使用する。
【0035】
(ローラー静電気発生量)
解舒速度比測定機の解舒側にチーズをセットし、50m/分の周速で回転させ、チーズ上2cmのところにおいて、春日式電位差測定装置で、回転を始めて1時間後の発生静電気(kV)を測定する。
(強度・伸度)
JIS−1013に準じて測定した。
(粘度)
キャノンフェンスケ粘度計により30℃で測定した。
(平均粒子径)
HORIBA LA−910により測定した。
(水分量)
カールフィッシャー法により、サンプル量1gの水分量を測定した。
【0036】
[実施例1〜5および比較例1〜3]
(処理剤A〜Hの調製)
表1に記載の高級脂肪酸の金属(Mg)塩Aを3.0重量%と、表2に記載の流動パラフィン60秒を7.0重量%と、ジメチルシリコーン10mm/sを90重量%とを混合し、30〜40℃で1時間攪拌した。その混合液をビーズミルを用いて高級脂肪酸の金属塩の平均粒子径が0.65μmになるまで分散し、処理剤Aを得た。処理剤B〜Gについて、表1および表2の配合組成に変更し、表2の所定の平均粒子径になるまで分散する以外は、処理剤Aと同様の方法で作成した。処理剤Hについて、表2の配合組成に変更し、分散する工程を省略した以外は、処理剤Aと同様の方法で作成した。
なお、表1は、湿式法で製造された高級脂肪酸の金属塩A〜Eの混合比率、金属塩の種類および高級脂肪酸の金属塩に含まれる水分の割合を示しており、C14〜C19の記載は、これらの炭素数を有し、かつ飽和で直鎖の高級脂肪酸の金属塩を意味する。
【0037】
(紡糸原液の調製、処理剤の付与)
数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールと4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネートをモル比率1:2で反応させ、次いで1,2−ジアミノプロパンのジメチルホルムアミド溶液を用いて鎖延長し、ポリマー濃度29%のジメチルホルムアミド溶液を得た。30℃での濃度は1500mPaSであった。このポリウレタン溶液に酸化チタンをポリウレタン固形分に対し0.2%添加し混合した。このポリウレタン紡糸原液を200℃のN気流中に吐出して乾式紡糸した。紡糸中走行糸に表2に記載の処理剤(表中の配合量は重量部)をオイリングローラーにより繊維に対して6重量%付与した後、毎分550mの速度でボビンに巻き取り77dtexモノフィラメントチーズ(巻き量400g)を得た。得られたチーズを40℃、65%RHの雰囲気中に48時間放置して評価に供した。結果を表2に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
[実施例6〜10及び比較例4〜6]
(処理剤I〜Pの調製)
表1に記載の高級脂肪酸の金属(Ca)塩Bを5.0重量%と、表2に記載の流動パラフィン60秒を15.0重量%と、ジメチルシリコーン5mm/sを80重量%とを混合し、30〜40℃で1時間攪拌した。その混合液をビーズミルを用いて高級脂肪酸の金属塩Bの平均粒子径が0.72μmになるまで分散し、処理剤Iを得た。処理剤J〜Mについて、表1および表3の配合組成に変更する以外は、処理剤Iと同様の方法で作成した。処理剤N〜Pについて、表3の配合組成に変更し、分散する工程を省略した以外は、処理剤Iと同様の方法で作成した。
【0041】
(紡糸原液の調製、処理剤の付与)
数平均分子量2000のポリテトラメチレングリコール100重量部と4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート25重量部を75℃で反応させ、N,N'−ジメチルアセトアミド250重量部を加え冷却しながら反応混合物を溶解させた。1,2−ジアミノプロパン5重量部をN,N'−ジメチルアセトアミド84重量部に溶解させたものを添加し、ジメチルシリコーン100mm/sを0.5重量部と酸化チタン0.5重量部添加した。
この様にして得られたポリウレタン紡糸原液を4つの細孔を有する紡糸口金より205℃のN気流中に吐出して乾式紡糸した。紡糸中走行糸に表3に記載の処理剤をオイリングローラーにより繊維に対して7重量%付与した後、毎分600mの速度でボビンに巻き取り、44dtexマルチフィラメントのチーズ(巻き量400g)を得た。得られたチーズを40℃、65%RHの雰囲気中に48時間放置して評価に供した。結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】解舒速度比の測定方法を説明する模式図。
【図2】編成張力の測定方法を説明する模式図。
【符号の説明】
【0044】
1 チーズ
2 巻き取り用紙管
3 ローラー
4 ローラー
5 走行糸条
6 解舒点
7 チーズとローラーの接点
8 チーズ
9 走行糸条
10 コンペンセーター
11 ローラー
12 編み針
13 Uゲージ
14 ローラー
15 速度計
16 巻き取りローラー
17 春日式電位差測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース成分(A)70〜99.98重量%と高級脂肪酸の金属塩(B)0.01〜10重量%とを含有し、30℃における粘度が3〜100mm/sの弾性繊維用処理剤であって、
前記ベース成分(A)は、シリコーンオイル、鉱物油およびエステル油から選ばれる少なくとも1種であり、
前記高級脂肪酸の金属塩(B)は、炭素数が16の高級脂肪酸の金属塩および炭素数が18の高級脂肪酸の金属塩(B1)と、炭素数が11〜19の範囲内でかつ奇数の高級脂肪酸の金属塩を1種または2種以上(B2)とを含む混合物である、弾性繊維用処理剤。
【請求項2】
前記成分(B1)と前記成分(B2)との重量比が90/10〜99.9/0.1である、請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項3】
前記成分(B1)の炭素数16の高級脂肪酸の金属塩と炭素数18の高級脂肪酸の金属塩との重量比が5/95〜50/50である、請求項1または2に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項4】
前記高級脂肪酸の金属塩(B)が2価または3価の金属の塩である、請求項1〜3のいずれかに記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項5】
前記処理剤全体に占める水分の割合が50〜5000ppmである、請求項1〜4のいずれかに記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項6】
前記高級脂肪酸の金属塩(B)全体に占める水分の割合が0.5〜4.0重量%である、請求項1〜5のいずれかに記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の処理剤が弾性繊維に対し、0.1〜15重量%付与されている弾性繊維。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−41121(P2009−41121A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205020(P2007−205020)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】