説明

弾性表面波センサ

【課題】 スイッチングを不要にすることができる弾性表面波センサを提供する。
【解決手段】 入力された信号を分岐して端子1Bと端子1Cとから出力するカプラ1と、端子2Aと端子2Bとに入力された各信号を結合して出力するカプラ2と、カプラ1の端子1Bから出力される信号を遅延してカプラ2の端子2Aに出力する遅延線3と、カプラ1の端子1Cから出力される信号を入力とし、入力された信号により弾性表面波を発生し、被測定対象に応じて伝播特性が変化した弾性表面波から、信号を得てカプラ2の端子2Bに出力する弾性表面波素子4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、弾性表面波の伝播特性の変化により各種の測定を行う弾性表面波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波センサは、弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)を利用して、液体の粘性率、導電率、誘電率等を測定する。弾性表面波センサを利用する場合には、このセンサから出力される信号である測定出力の位相や振幅を基に測定が行われる。測定に際して、弾性表面波センサの測定出力は基準値であるリファレンスに対する相対値である。このリファレンスが時間と共に変動すると、測定値が変動してしまう。通常、初期測定データをリファレンスとし、このデータに対する相対値で観測する。しかし、温度や測定タイミングなどのような、測定時の変動要素により、余分な変動成分まで測定データに含まれてしまう。
【0003】
この対策として、弾性表面波センサにおいて弾性表面波素子を2個利用する測定方式(例えば、特許文献1参照。)がある。この測定方式の一例を図7に示す。例えば溶液を測定する場合、一方の弾性表面波素子103は溶液を滴下しないリファレンスとして使用し、もう一方の弾性表面波素子104は溶液を滴下する測定用のセンサ(以下、単に「センサ」という)として使用する。通常、これら2つの弾性表面波素子103、104をスイッチ101、102で切り替えて、リファレンスとセンサの相対値を測定する。つまり、弾性表面波を励振するための励振信号である入力信号を、スイッチ101が弾性表面波素子103または弾性表面波素子104に加える。スイッチ102は、弾性表面波素子103または弾性表面波素子104からの信号を切り替える。スイッチ101、102の切り替えは切替制御部105が行う。これにより、スイッチ102は、所定のスイッチタイミングで、リファレンスとセンサとの測定結果を出力とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−14587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、先に述べた測定方式には次の課題がある。まず、この方式を実現するためには、切り替え用のスイッチ101、102が必要である。また、スイッチ101、102と切替制御部105とを接続する制御用信号線が必要となり、制御線の引き回しも必要である。なお、リファレンス用の弾性表面波素子103と、スイッチ101、102をセンサユニットに組み込み、センサ用の弾性表面波素子104のみを引き回す手段もあるが、リファレンスとセンサの温度差が生じてしまい、測定精度が低下してしまう。
【0006】
さらに、図8に示すように、リファレンス用の弾性表面波素子103とセンサ用の弾性表面波素子104とを切り替える信号であって、切替制御部105から出力される切替信号がスイッチ101、102に加えられると、スイッチ101、102が切替動作を行う。スイッチ102からの出力は、リファレンス用の弾性表面波素子103からの出力と、センサ用の弾性表面波素子104からの出力とを切り替えたものである。しかし、スイッチ101、102には立ち上がり時間T101と立ち下り時間T102とがあり、これらの時間中は測定ができない測定禁止領域である。さらに、スイッチングのタイミングに応じて、REF/EVA(リファレンス/センサ)を認識するためのアルゴリズムが必要になる。
【0007】
この発明の目的は、前記の課題を解決し、スイッチングを不要にすることができる弾性表面波センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、請求項1の発明は、入力された信号を分岐して第1の端子と第2の端子とから出力する第1のカプラと、第1の端子と第2の端子とに入力された各信号を結合して出力する第2のカプラと、前記第1のカプラの第1の端子から出力される信号を遅延して前記第2のカプラの第1の端子に出力する遅延手段と、前記第1のカプラの第2の端子から出力される信号を入力とし、入力された信号により弾性表面波を発生し、被測定対象に応じて伝播特性が変化した弾性表面波から、信号を得て前記第2のカプラの第2の端子に出力する弾性表面波素子と、を備えることを特徴とする弾性表面波センサである。
【0009】
請求項1の発明では、第1のカプラは、入力された信号を分岐して第1の端子と第2の端子とから出力する。遅延手段は、第1のカプラの第1の端子から出力される信号を遅延して第2のカプラの第1の端子に出力する。また、弾性表面波素子は、第1のカプラの第2の端子から出力される信号を入力とする。弾性表面波素子は、入力された信号により弾性表面波を発生し、被測定対象に応じて伝播特性が変化した弾性表面波から、信号を得て第2のカプラの第2の端子に出力する。第2のカプラは、第1の端子と第2の端子とに入力された各信号を結合して出力する。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の弾性表面波センサにおいて、前記遅延手段は遅延線であることを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2に記載の弾性表面波センサにおいて、前記遅延線から出力される信号と、前記弾性表面波素子から出力される信号とが干渉しないように、前記遅延線の長さおよび前記弾性表面波素子の長さの少なくとも一方を調整した、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、2つのカプラを用いて遅延手段と弾性表面波素子とを接続したので、従来の構成で必要であったスイッチを不要にすることができる。これにより、スイッチを切り替える制御やスイッチングが要らないので、センサ構成を簡略化することができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、遅延手段として遅延線を用いるので、センサを低コストで構成することを可能にする。
【0014】
請求項3の発明によれば、遅延線から出力される信号と弾性表面波素子から出力される信号とが干渉しないように、遅延線の長さおよび前記弾性表面波素子の長さの少なくとも一方を調整するので、長さの調整を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態1による弾性表面波センサを示す構成図である。
【図2】弾性表面波素子の一例を示す構成図である。
【図3】弾性表面波素子により発生する信号を示す波形図である。
【図4】遅延線により発生する信号を示す波形図である。
【図5】カプラが出力する信号を示す波形図である。
【図6】実施の形態2による弾性表面波センサを示す構成図である。
【図7】弾性表面波センサを利用する従来の測定方式の構成図である。
【図8】従来の測定方式による各信号の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、この発明の各実施の形態について、図面を用いて詳しく説明する。
【0017】
(実施の形態1)
この実施の形態による弾性表面波センサを図1に示す。この弾性表面波センサは、液体の粘性率、導電率、誘電率等を測定するためのものであり、カプラ1、2と、遅延線3と、弾性表面波素子4とを備えている。
【0018】
カプラ1は、入力信号を分岐するものであり、端子1A〜1Cを備えている。カプラ1の端子1Aは入力端子であり、端子1Bと端子1Cとは出力端子である。端子1Aには、弾性表面波素子4に弾性表面波を励振するための励振信号が入力信号として加えられる。この実施の形態では、励振信号がパルスである。カプラ1は、端子1Aに励振信号が加えられると、この信号を分岐する。そして、カプラ1は、分岐した一方の励振信号を端子1Bから遅延線3に出力すると共に、他方の励振信号を端子1Cから弾性表面波素子4に出力する。カプラ1としては、マイクロストリップラインのような分布定数回路を用いたものなど、各種のものが使用可能である。
【0019】
弾性表面波素子4は、カプラ1の端子1Cから出力される励振信号を入力とする。弾性表面波素子4は、入力された信号により弾性表面波を発生する。弾性表面波素子4を伝播する弾性表面波の伝播特性は、被測定対象である液体の状態に応じて変化する。そして、弾性表面波素子4は、伝播特性が変化して伝播した弾性表面波を電気信号に変換して出力する。この弾性表面波素子4の一例を図2に示す。弾性表面波素子4は、圧電基板4A上に櫛型電極4Bと櫛型電極4Cとが互いに向かい合うよう距離L1だけ離れて設けられた構造である。そして、櫛型電極4Bと櫛型電極4Cとの間の距離L1の領域は、被測定対象の液体が滴下されると共に弾性表面波が伝播するセンシング面4Dである。この実施の形態では、櫛型電極4Bが入力用の電極であり、櫛型電極4Cが出力用の電極である。
【0020】
弾性表面波素子4の櫛型電極4Bに励振信号が加えられると、櫛型電極4Bにより励振信号が弾性表面波に変換されて、センシング面4Dを伝播する。このとき、センシング面4Dに被測定対象の液体が滴下されていると、弾性表面波の伝播特性が変化する。この後、櫛型電極4Cが伝播してきた弾性表面波を電気信号に変換し、主応答波信号としてカプラ2に出力する。同時に、励振信号が弾性表面波素子4に入力されると、櫛型電極4Bと櫛型電極4Cとの電磁結合により、直達波信号が出力される。
【0021】
これらの様子を図3に示す。直達波信号は、電磁結合で発生するので、励振信号が弾性表面波素子4に加えられると、弾性表面波素子4から直ちに出力される。一方、主応答波信号はセンシング面4Dを伝播する信号である。したがって、主応答波信号は、励振信号が櫛型電極4Bに加えられてから、伝播時間T1が経過したときに、再び電気信号に変換されて弾性表面波素子4から出力される。このとき、弾性表面波の伝播特性がセンシング面4Dに滴下された被測定対象の液体で変化するので、得られる主応答波信号の振幅AP1と、主応答波信号の伝播時間T1に対する遅延時間DL1とは被測定対象の液体に応じて変化する。また、伝播時間T1はセンシング面4Dの長さ、つまり、櫛型電極4Bから櫛型電極4Cまでの間隔を変えることで、調整可能である。
【0022】
弾性表面波素子4は、こうして生成した主応答波信号を、カプラ2の端子2Bに出力する。
【0023】
遅延線3は、入力信号(励振信号)を所定時間だけ遅延させるためのケーブルである。遅延線3としては同軸ケーブルなどの分布定数回路が使用される。入力信号のパルスが遅延線3に入力されると、パルスは遅延線3を伝播する。このとき、図4に示すように、パルスが遅延線3に入力されてから出力されるまでの遅延時間T2は、遅延線3の長さL1(図1)に依存する。同時に、パルスが遅延線3で減衰される量も遅延線3の長さL1に依存する。これにより、遅延時間T2が経過したときに、遅延線3は、振幅AP2の信号をレファレンス信号として出力する。この実施の形態では、弾性表面波素子4が主応答波信号を出力するまでの伝播時間T1に比べて、遅延線3の遅延時間T2が短くなるように、遅延線3の長さL1が調整されている。つまり、遅延線3からのレファレンス信号が弾性表面波素子4からの主応答波信号と干渉しないようにしている。そして、このために、遅延線3の長さL1を変えればよいので、主応答波信号とレファレンス信号とを分離するための調整が容易である。また、遅延線3は低コストであるので、弾性表面波センサの低コスト化が可能である。
【0024】
遅延線3は、こうして遅延したレファレンス信号を、カプラ2の端子2Aに出力する。
【0025】
カプラ2は、端子2A〜2Cを備えている。カプラ2の端子2Aと端子2Bとは入力端子であり、端子2Cは出力端子である。端子2Aには、遅延線3からのリファレンス信号が加えられる。また、端子2Bには、弾性表面波素子4からの主応答波信号が加えられる。そして、カプラ2は、図5に示すように、端子2Aに加えられたリファレンス信号と、端子2Bに加えられた信号とを結合し、測定信号として出力する。カプラ2としては、カプラ1と同様に、マイクロストリップラインを用いたものなど、各種のものが使用可能である。
【0026】
次に、この実施の形態による弾性表面波センサの動作について説明する。弾性表面波素子4のセンシング面4Dに被測定対象の液体が滴下された状態で、パルスの励振信号(入力信号)がカプラ1に入力される。カプラ1は、励振信号を分岐し、一方を遅延線3に加え、他方を弾性表面波素子4に加える。遅延線3は、長さL1により調整された遅延時間T2後に、レファレンス信号をカプラ2に出力する。
【0027】
一方、弾性表面波素子4は、励振信号により生成された弾性表面波がセンシング面4Dを伝播するので、伝播時間T1が経過してから主応答波信号をカプラ2に出力する。このとき、弾性表面波の伝播特性がセンシング面4Dに滴下された被測定対象の液体で変化するので、主応答波信号の振幅AP1と遅延時間DL1とは被測定対象の液体に応じて変化する。
【0028】
カプラ2は、遅延線3からのレファレンス信号と弾性表面波素子4からの主応答波信号とを結合し、測定信号として出力する。なお、弾性表面波センサの後段に接続されている処理装置(図示を省略)は、測定信号中のレファレンス信号と主応答波信号との振幅差ΔAP(図5)を基に、被測定対象の液体の例えば粘性率を算出する。
【0029】
こうして、この実施の形態によれば、弾性表面波センサがカプラ1、2と遅延線3と弾性表面波素子4とで構成されるので、従来のようなスイッチングを不要にすることができる。これにより、従来で必要としたスイッチと切替制御部とを接続する制御用信号線を不要にし、また、切替制御部105によるREF/EVA(リファレンス/センサ)を認識するためのアルゴリズムを不要にすることができる。さらに、切替制御部105と制御用信号線とが不要であるので、センサ構成の簡単化が可能である。
【0030】
また、この実施の形態によれば、従来で必要としたスイッチが不要であるので測定禁止領域が無くなり、REF/EVA(リファレンス/センサ)を認識するためのアルゴリズムを明確にすることができる。また、測定禁止領域が無くなったので、サンプリングデータ数を増加し、測定精度を向上することが可能である。
【0031】
さらに、この実施の形態によれば、直達波信号と主応答波信号とレファレンス信号とが干渉しないように分離するためには、遅延線3の長さL1と弾性表面波素子4のセンシング面4Dの長さとの少なくとも1つを調整することで可能であり、また、各信号を分離するための調整が容易である。
【0032】
(実施の形態2)
この実施の形態では、実施の形態1の遅延線3の代わりに、図6に示すように、弾性表面波素子5を用いている。なお、この実施の形態では、先に説明した実施の形態1と同一もしくは同一と見なされる構成要素には、それと同じ参照符号を付けて、その説明を省略する。この実施の形態では、励振信号(入力信号)のパルスを弾性表面波素子5が遅延し、レファレンス信号として出力する。このために、弾性表面波素子5では、センシング面が長くなると、パルスが遅延線3に入力されてから出力されるまでの時間が長くなる。これにより、この実施の形態では、弾性表面波素子5のセンシング面の長さを調整することで、適切な遅延時間T2を得ている。
【0033】
この実施の形態によれば、遅延線3の代わりに弾性表面波素子5を用いるので、遅延線3の引き回しを不要にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
この発明は、液体の粘性率、導電率、誘電率等を測定する場合に限らず、弾性表面波の伝播速度や振幅、位相に影響を与える被測定対象を測定するために利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 カプラ(第1のカプラ)
2 カプラ(第2のカプラ)
3 遅延線(遅延手段)
4 弾性表面波素子
5 弾性表面波素子(遅延手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された信号を分岐して第1の端子と第2の端子とから出力する第1のカプラと、
第1の端子と第2の端子とに入力された各信号を結合して出力する第2のカプラと、
前記第1のカプラの第1の端子から出力される信号を遅延して前記第2のカプラの第1の端子に出力する遅延手段と、
前記第1のカプラの第2の端子から出力される信号を入力とし、入力された信号により弾性表面波を発生し、被測定対象に応じて伝播特性が変化した弾性表面波から、信号を得て前記第2のカプラの第2の端子に出力する弾性表面波素子と、
を備えることを特徴とする弾性表面波センサ。
【請求項2】
前記遅延手段は遅延線であることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波センサ。
【請求項3】
前記遅延線から出力される信号と、前記弾性表面波素子から出力される信号とが干渉しないように、前記遅延線の長さおよび前記弾性表面波素子の長さの少なくとも一方を調整した、
ことを特徴とする請求項2に記載の弾性表面波センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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