説明

弾性表面波センサ

【課題】本発明は、圧電基板上における弾性表面波の伝搬特性に基づいて所望の媒質にかかわる計測や監視を実現する弾性表面波センサに関し、コストが大幅に増加することなく、性能が向上し、かつ特性のバラツキが安定かつ確実に回避されることを目的とする。
【解決手段】圧電基板上に形成されて電気信号を弾性波に変換し、圧電基板を伝搬した弾性波を電気信号に変換する弾性表面波センサであって、圧電基板上に配置され、電気信号を弾性波に変換する2つの送波電極と、圧電基板上で2つの送波電極に個別に対向して形成され、圧電基板を介して到来した個々の弾性波を電気信号にそれぞれ変換する2つの受波電極と、2つの送波電極の一方と一方の送波電極に対向して形成された一方の受波電極とで挟まれた圧電基板上の領域に形成され、弾性波の内、弾性表面波を2つの受波電極以外の方向に反射する反射電極とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板上における弾性表面波の伝搬特性に基づいて所望の媒質にかかわる計測や監視を実現する弾性表面波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波センサ等の弾性表面波デバイスは、以下の好ましい特徴を有するために、これらの特徴を活かすことによる小型化、軽量化、無調整化が容易なデバイスとして多様なものが開発されつつある。
【0003】
(1) 入力された電気信号が内部で変換されることによって得られる弾性表面波の波長が電磁波の波長の百万分の一程度と大幅に短い。
(2) 弾性表面波の伝搬路となる圧電基板上と、その圧電基板上に微細に形成可能な膜やパターンとして形成された電極等とから構成される。
(3) 圧電基板の表面の研磨は、弾性表面波の伝搬路が形成される片面だけで十分である。
【0004】
(4) 弾性表面波の主要なエネルギーが圧電基板の表面に集中して伝搬するために、このような表面に形成された電極、あるいはその表面に接触する媒質との音響的な結合が密に、あるいは自在に達成される。
(5) 上記結合の下で弾性表面波に施される処理、あるいは生じる変化は、線形領域だけではなく非線形領域でも、安定に精度よく実現可能である。
【0005】
従来の弾性表面波センサとしては、例えば、後述する特許文献1に開示されるように以下の通りに構成された弾性表面波装置がある。
(1) 伝搬特性が同じである2つの伝搬路が圧電基板上に形成される。
【0006】
(2) これらの伝搬路の一方では、その伝搬路上に配置された遮断手段(該当する伝搬路上に塗布された樹脂、あるいは形成された溝)によって弾性表面波の伝搬が阻止されることによって、他方の伝搬路で生じるバルク波が予測される。
(3) 上記他方の伝搬路を伝搬した弾性波(弾性表面波およびバルク波を含む。)から上記予測されたバルク波が減じられることにより、バルク波の成分の抑圧が図られる。
【0007】
このような構成の弾性表面波センサでは、バルク波に起因する精度や性能の低下が軽減される。
【0008】
なお、本発明に関連する先行技術としては、既述の特許文献1の他に後述する特許文献2がある。以下、これらの先行技術の概要を列記する。
【0009】
(1) 「圧電性基板上に、弾性表面波を励振する入力電極と、該入力電極からの弾性表面波を電気信号に変換して出力する出力電極とを形成し、所望の周波数特性を得るために電極指交差幅に重み付けした弾性表面波装置において、前記入力電極は、前記弾性表面波の伝搬方向とほぼ直交する方向に互いに対向して配置され、且つ各々から弾性表面波と共に励振される前記圧電性基板の表面に対して平行に進行するバルク波を互いに逆相とするように構成された第1及び第2の入力電極を含み、該第1及び第2の入力電極の各々から前記出力電極へ伝搬する弾性表面波のいずれか一方を遮断する遮断手段を設けた」ことにより、「基板の特性によらず、主として圧電性基板に平行に進行する不要バルク波を抑圧して帯域外抑圧度を改善する」点に特徴がある弾性表面波装置…特許文献1
【0010】
(2) 「弾性表面波素子の基板裏面を所定の条件を満たす角度に傾斜させる」ことにより、「この裏面で反射され基板表面に形成された出力電極または弾性表面波導波路の異なる位置に入射するバルク波による信号を相殺させ、高いSN比で出力信号を取り出せるようにする」点に特徴がある…特許文献2
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第2821263号公報
【特許文献2】特開平5−129886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上述した従来の弾性表面波センサでは、弾性表面波の伝搬の阻止や抑圧は、その弾性表面波の伝搬路に塗布された樹脂、あるいは形成された溝によって実現されていた。
【0013】
また、このような樹脂の塗布や溝の形成は、弾性基板の表面に対する電極の形成とは別の工程として実現されるため、コスト高でとなるだけではなく、弾性表面波の伝搬を阻止する特性にバラツキが生じる要因となる可能性が高かった。
【0014】
しかし、上記特性のバラツキについては、弾性表面波センサに対して要求される感度や性能のさらなる向上を妨げる要因となるために、解消や大幅な軽減を実現できる技術が強く要望されつつある。
【0015】
本発明は、コストが大幅に増加することなく、性能が向上し、かつ特性のバラツキが安定に回避される弾性表面波センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の発明では、圧電基板上に形成されて電気信号を弾性波に変換し、前記圧電基板を伝搬した弾性波を電気信号に変換する弾性表面波センサであって、2つの送波電極は、前記圧電基板上に配置され、前記電気信号を前記弾性波に変換する。2つの受波電極は、前記圧電基板上で前記2つの送波電極に個別に対向して形成され、前記圧電基板を介して到来した個々の弾性波を電気信号にそれぞれ変換する。反射電極は、前記2つの送波電極の一方と前記一方の送波電極に対向して形成された一方の受波電極とで挟まれた前記圧電基板上の領域に形成され、前記弾性波の内、弾性表面波を前記2つの受波電極以外の方向に反射する。
【0017】
すなわち、2つの受波電極の内、一方には、対向する一方の送波電極から弾性表面波とバルク波との双方が到来し、他方には、対向する他方の送波電極からバルク波のみが到来するので、既述の2つ送波電極と2つの受波電極との間に並行して形成される2つの伝搬路の特性が同じであり、あるいはこれらの特性の相違が既知であるならば、上記バルク波の相殺に併せて、一方の受波電極に圧電基板を介して到来した弾性表面波の高いSN比による抽出が可能となる。
【0018】
また、本発明では、反射電極は、弾性表面波センサに入力される電気信号の占有帯域が狭く、かつ形状、配置および寸法を微細に設定可能であるために、送波電極や受波電極と同様にパターンとして形成可能であって、弾性表面波の高い効率による反射が実現される。
【0019】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の弾性表面波センサにおいて、前記2つの受波電極は、前記圧電基板を介して個別に到来した弾性波を互いに逆相の電気信号に変換する。
すなわち、2つの受波電極の出力には、圧電基板を介してそれぞれに到来したバルク波の成分が逆相で得られる。
【0020】
請求項3に記載の発明では、請求項1に記載の弾性表面波センサにおいて、前記2つの送波電極は、前記電気信号を互いの逆相の弾性波に変換する。
すなわち、2つの受波電極の出力には、これらの受波電極の構造が同じであっても、圧電基板を介してそれぞれに到来したバルク波の成分が逆相で得られる。
【0021】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の弾性表面波センサにおいて、前記2つの受波電極は、前記圧電基板を介して前記2つの受波電極に到来した弾性波の変換により得られた電気信号の和を生成する。
すなわち、本発明に係る弾性表面波センサでは、能動回路や能動素子が備えられなくても、既述のバルク波の相殺と、そのバルク波の相殺によるSN比の向上とが実現される。
【0022】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の弾性表面波センサにおいて、伝搬分離体は、前記圧電基板上で、前記一方の送波電極と前記一方の受波電極とで挟まれた第一の領域と、他方の送波電極と他方の受波電極とで図られた第二の領域との境界に形成され、前記弾性波または前記弾性表面波の伝搬路の結合を阻止し、あるいは緩和する。
【0023】
すなわち、2つの送波電極と2つの受波電極との間にそれぞれ形成される弾性波の伝搬路の間は、音響的な粗結合あるいはアイソレーションが図られる
【発明の効果】
【0024】
本発明では、反射電極は、2つの送波電極と2つの受波電極と同様にパターンとして所望の形状、配置および寸法で一括して形成可能であり、このような反射電極の反射域が弾性表面波の占有帯域に適合することにより、従来例に比べて、安定に高いSN比が達成される。
【0025】
また、本発明では、2つの受波電極が出力する電気信号の加算または積和演算によるバルク波の成分の相殺が可能となる。
【0026】
さらに、本発明では、2つの送波電極と2つの受波電極との間にそれぞれ形成される伝搬路の相互間における粗結合やアイソレーションが図られない場合に比べて、バルク波の成分の相殺が精度よく実現される。
したがって、本発明によれば、弾性表面波センサの感度および性能が安価に高められる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態を示す図である。
【図2】本実施形態の動作を示す図(1)である。
【図3】本実施形態の動作を示す図(2)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す図である。
図において、圧電基板11が有する矩形の片面の中央部には、その片面に相似な矩形の伝搬路12が確保され、かつたんぱく質等の膜が形成される。このような伝搬路12の特定の辺の近傍には、構成が同じであって、圧電基板11上におけるパターンとして電気的に並列に接続された櫛形電極(IDT:interdigital
transducer)13S-a、13S-bが形成され、その特定の辺に対向する他の辺の近傍には、櫛形電極13R-a、13R-bが並列に接続され、かつ上記櫛形電極13S-a、13S-bにそれぞれ正対する状態で形成される。なお、櫛形電極13R-aの構成は既述の櫛形電極13S-aの構成と同じであるが、櫛形電極13R-bは櫛形電極13R-aを構成するパターンとはシンメトリーに構成される。
【0029】
櫛形電極13S-aの一方の端子には信号源20の出力が接続され、その櫛形電極13S-aの他方の端子と櫛形電極13S-bの一方の端子とは、圧電基板11上に形成されたパターンにより電気的に直結され、かつ接地される。櫛形電極13S-bの他方の端子は上記信号源20の出力にも接続される。
【0030】
櫛形電極13R-aの一方の端子は回路21の入力に接続され、その櫛形電極13R-aの他方の端子と櫛形電極13R-bの一方の端子とは、圧電基板11上に形成されたパターンにより電気的に直結され、かつ接地される。櫛形電極13R-bの他方の端子は上記回路21の入力にも接続される。
【0031】
伝搬路12の内、櫛形電極13S-b、13R-bで挟まれた領域(以下、「表面伝搬阻止域」という。)の所定の箇所には、これらの櫛形電極13S-b、13R-bの間で弾性表面波が伝搬する方向に交叉し、かつ周波数軸上における弾性表面波の占有帯域に反射域を有する反射電極14が形成される。このような反射電極14は、例えば、グレーティング反射器として構成されてもよい。
【0032】
なお、伝搬路12の領域の内、上記「表面伝搬阻止域」に隣接する残りの領域については、以下では、「表面伝搬域」という。
【0033】
伝搬路12の辺の内、櫛形電極13S-b、13R-bに直近の辺以外の辺であって、既述の「表面伝搬域」と反対側にある辺の外側の部位には、吸収体15が配置される。
【0034】
以下、図1を参照して本実施形態の動作を説明する。
信号源20は、上記伝搬路12の内、例えば、中央部に該当する反応場に滴下され、あるいは接触する媒質に関して、計測されるべき項目に適した所定の周波数の交流信号を櫛形電極13S-a、13S-bに並行して与える。
【0035】
櫛形電極13S-aは、このような交流信号によって励振され、図1に太い実線の矢印で示すように、伝搬路12(表面伝搬域)に弾性表面波(以下、「弾性表面波a」という。)を送出する。これらの弾性表面波の一部は、例えば、櫛形電極13S-aを形成する金属膜の部位とその金属膜以外の部位との間における伝搬速度の不連続性に起因して、図1に点線の矢印で示すように、圧電基板11の表面ではなく内部を伝搬するバルク波(以下、「バルク波a」という。)に変換される。
【0036】
櫛形電極13S-bは、上記交流信号が櫛形電極13S-aとは反対の位相で与えられることによって励振され、図1に細い実線の矢印で示すように、伝搬路12(表面伝搬阻止域)に既述の「弾性表面波a」と逆相の弾性表面波(以下、「弾性表面波b」という。)を送出する。これらの弾性表面波の一部は、例えば、櫛形電極13S-bを形成する金属膜の部位とその金属膜以外の部位との間における伝搬速度の不連続性に起因して、図1に点線の矢印で示すように、圧電基板11の表面ではなく内部を伝搬するバルク波(以下、「バルク波b」という。)に変換される。
【0037】
弾性表面波aは、上記媒質が滴下されあるいは接触する反応場(と、その媒質と)を伝搬して櫛形電極13R-aに到達し、その櫛形電極13R-aによって電気信号Ea(図2(a))に変換される。
【0038】
また、バルク波aは、圧電基板11の内部(内層)を伝搬して櫛形電極13R-aに到達し、その櫛形電極13R-aによって電気信号EBa(図2(b))に変換される。
一方、弾性表面波bは、上記反応場(と、その媒質と)を伝搬するが、その弾性表面波bの大半の(主要な)成分は、櫛形電極13R-bに到達する前に、図1に破線で示すように反射電極14によって吸収体15の方向に反射され、この吸収体15によって吸収される。
【0039】
さらに、バルク波bは、圧電基板11の内部(内層)を伝搬して櫛形電極13R-bに到達し、その櫛形電極13R-bによって電気信号EBb(=−EBa)に変換される。
すなわち、回路21に入力される電気信号Eには、バルク波a,bの成分は、下式および図2(c) で示されるように、バルク波の成分が逆相で相殺されるため、ほとんど含まれない。
E=Ea+EBa+EBb
=Ea+EBa−EBa
=Ea
【0040】
なお、このような相殺の下で得られるSN比は、例えば、図3(a)〜(c)に示すように、40デシベル以上となる。
【0041】
また、上記バルク波の成分の相殺は、時間軸上におけるバルク波aとバルク波bとの瞬時値の減算により行われるため、図3(a)〜(c)に示すように、これらのバルク波と弾性表面波との周波数スペクトラムの如何にかかわらず精度よく安定に実現される。
【0042】
さらに、本実施形態では、反射電極14は、従来例のように、伝搬路(反応場)上に塗設された「樹脂」やその伝搬路(反応場)に形成された「キズ」とは異なり、一般に、櫛形電極13S-a、13S-b、13R-a、13R-bと同様に圧電基板11上にパターンとして一括して形成可能であり、配置、形状、寸法等の何れもが微細に設定可能である。
【0043】
したがって、本実施形態によれば、コストが大幅に増加することなく、バルク波に起因する精度や性能の低下が安定に回避される。
【0044】
なお、本実施形態では、櫛形電極13S-aと櫛形電極13S-bとは、信号源20によって逆相で励振されている。
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、例えば、櫛形電極13S-a、13S-bと櫛形電極13R-a、13R-bとが入れ替えられることによって、バルク波aとバルク波bとの相殺が同様に実現されてもよい。
【0045】
また、本実施形態では、表面伝搬阻止域と表面伝搬域とが伝搬路12に並列に隣接して形成されているが、これらの表面伝搬阻止域および表面伝搬域は、両者の伝搬特性の格差が許容される程度に少なく設定可能であるならば、例えば、以下の形態で形成されてもよい。
【0046】
(1) 共通の圧電基板11上における物理的に隔たった2つの領域にそれぞれ形成される。(2) 共通の圧電基板11上に形成されるが、両者の間における弾性表面波とバルク波との伝搬路の結合を粗に設定する分離体が併せて形成される。
(3) 異なる圧電基板上に個別に形成される。
【0047】
さらに、本実施形態では、吸収体15が備えられている。
しかし、このような吸収体15は、表面伝搬阻止域、表面伝搬域、櫛形電極13S-a、13S-b、13R-a、13R-bの何れかに、反射電極14によって反射された弾性表面波bが吸収されることなく到達することに起因する精度や性能の劣化が許容されるならば、備えられなくてもよい。
【0048】
また、本実施形態では、反射電極14によって弾性表面波bが反射される方向は、弾性表面波b、バルク波aおよびバルク波bと、その弾性表面波bとが圧電基板上11において音響的に干渉することに起因する精度ならびに性能と、これらの安定性の低下が許容されるならば、如何なる方向であってもよい。
【0049】
さらに、本実施形態では、バルク波aとバルク波bとの相殺は、既述の通りにシンメトリーに構成された櫛形電極13R-a、13R-bの出力が並列に回路21に接続されることによって実現されている。
【0050】
しかし、このような相殺は、例えば、以下の何れの形態で実現されてもよい。
(1) 本実施形態に係る弾性表面波センサの端子数が「4」であることが許容される場合において、櫛形電極13R-a、13R-bの出力が個別に外部に引き渡された後に行われる「これらの出力の加算または減算」
(2) 内蔵された作動増幅回路またはこれに等価な信号処理によって行われる「櫛形電極13R-a、13R-bの出力の加算または減算」
【0051】
なお、これらの形態(1)、(2)の何れにおいても、櫛形電極13S-a、13S-b、13R-a、13R-bの電極の構成の同一性と相補性とについては、如何なるものであってもよい。
【0052】
また、本実施形態では、櫛形電極13S-aと櫛形電極13S-bとの接続点と、櫛形電極13R-aと櫛形電極13R-bとの接続点とが共に接地されている。
【0053】
しかし、これらの接続点は、表面伝搬域と表面伝搬阻止域とにおける弾性表面波の伝搬特性が所望の精度で同じとなるならば、接地されなくてもよい。
【0054】
さらに、本実施形態では、例えば、反応場上にある(存在し得る)媒質の種類、量、分布等に起因して、表面伝搬域と表面伝搬阻止域とにおける弾性表面波の伝搬特性に許容されない程度で偏差や変化が生じる場合には、既述の相殺を実現する加算または減算は、以下の要素から構成される回路や装置によって与えられる重みWa、Wbに基づく積和演算として実現されてもよい。
【0055】
(1) 上記媒質の種類、量、分布等を識別し、あるいは手動による指定を可能とする第一の手段
(2) 識別され、あるいは指定された媒質の種類、量、分布等に適応した重みWa、Wbを求める第二の手段
【0056】
なお、このような回路や装置は、本実施形態に係る弾性表面波センサに内蔵されなくてもよく、別体に設けられてもよい。
【0057】
また、上記第一の手段は、媒質の種類、量、分布等を識別する場合には、その識別のために如何なるセンサと連係し、あるいはこのようなセンサが備えられてもよい。
【0058】
さらに、上記第二の手段は、上記媒質の種類、量、分布等に基づく算術演算と、これらの種類、量および分布等の組み合わせに応じたテーブルのルックアップとの何れにより重みWa、Wbを求めてもよい。
【0059】
さらに、本発明は、本実施形態のような弾性表面波センサに限定されず、例えば、弾性表面波フィルタ、弾性表面波発振器、弾性表面波共振器、弾性表面波導波路、弾性表面波遅延器、弾性表面波相関器等の多様な弾性表面波デバイスにも同様に適用可能である。
【0060】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【0061】
以下、本願に開示された発明の内、「特許請求の範囲」に記載しなかった発明を「特許請求の範囲」および「課題を解決するための手段」の欄の記載に準じた様式により列記する。
【0062】
[請求項6] 請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の弾性表面波センサにおいて、
前記方向は、
前記圧電基板上で前記2つの送波電極と前記2つの受波電極とで挟まれた領域以外の方向である
ことを特徴とする弾性表面波センサ。
【0063】
このような構成の弾性表面波センサでは、請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の弾性表面波センサにおいて、前記方向は、前記圧電基板上で前記2つの送波電極と前記2つの受波電極とで挟まれた領域以外の方向である。
【0064】
すなわち、反射電極によって反射された弾性表面波は、反射されても、2つの送波電極と2つの受波電極とで挟まれた領域には、直接的には何らかの経路を介して到達する。
【0065】
したがって、反射電極によって弾性表面波が反射される方向に上記領域があることに起因するSN比や感度の低下が回避され、あるいは緩和される。
【0066】
[請求項7] 請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の弾性表面波センサにおいて、
前記圧電基板上において前記圧電基板上で前記2つの送波電極と前記2つの受波電極とで挟まれた領域に配置され、かつ前記弾性表面波を吸収する吸収体を備え、
前記方向は、
前記吸収体が位置する方向である
ことを特徴とする弾性表面波センサ。
【0067】
このような構成の弾性表面波センサでは、請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の弾性表面波センサにおいて、吸収体は、前記圧電基板上において前記圧電基板上で前記2つの送波電極と前記2つの受波電極とで挟まれた領域に配置され、かつ前記弾性表面波を吸収する。前記方向は、前記吸収体が位置する方向である。
【0068】
すなわち、反射電極によって反射された弾性表面波は、上記吸収体によって吸収される。
したがって、反射電極よって反射された弾性表面波が積極的に吸収されない場合に比べて、感度およびSN比が高められ、かつ安定に維持される。
【0069】
[請求項8] 請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の弾性表面波センサにおいて、
前記反射電極は、
周波数軸上において前記弾性波の占有帯域に反射域を有する
ことを特徴とする弾性表面波センサ。
このような構成の弾性表面波センサでは、請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の弾性表面波センサにおいて、前記反射電極は、周波数軸上において前記弾性波の占有帯域に反射域を有する。
【0070】
すなわち、他方の送波電極と他方の受波電極との間では、弾性表面波が反射電極によって効率的に反射される。
【0071】
したがって、反射電極によって弾性表面波が反射する効率が高いほど、感度およびSN比が高められ、かつ安定に維持される。
【符号の説明】
【0072】
11 圧電基板
12 伝搬路
13S,13R 櫛形電極
14 反射電極
15 吸収体
20 信号源
21 回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に形成されて電気信号を弾性波に変換し、前記圧電基板を伝搬した弾性波を電気信号に変換する弾性表面波センサであって、
前記圧電基板上に配置され、前記電気信号を前記弾性波に変換する2つの送波電極と、
前記圧電基板上で前記2つの送波電極に個別に対向して形成され、前記圧電基板を介して到来した個々の弾性波を電気信号にそれぞれ変換する2つの受波電極と、
前記2つの送波電極の一方と前記一方の送波電極に対向して形成された一方の受波電極とで挟まれた前記圧電基板上の領域に形成され、前記弾性波の内、弾性表面波を前記2つの受波電極以外の方向に反射する反射電極と
を備えたことを特徴とする弾性表面波センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波センサにおいて、
前記2つの受波電極は、
前記圧電基板を介して個別に到来した弾性波を互いに逆相の電気信号に変換する
ことを特徴とする弾性表面波センサ。
【請求項3】
請求項1に記載の弾性表面波センサにおいて、
前記2つの送波電極は、
前記電気信号を互いの逆相の弾性波に変換する
ことを特徴とする弾性表面波センサ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の弾性表面波センサにおいて、
前記2つの受波電極は、
前記圧電基板を介して前記2つの受波電極に到来した弾性波の変換により得られた電気信号の和を生成する
点に特徴がある弾性表面波センサ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の弾性表面波センサにおいて、
前記圧電基板上で、前記一方の送波電極と前記一方の受波電極とで挟まれた第一の領域と、他方の送波電極と他方の受波電極とで挟まれた第二の領域との境界に形成され、前記弾性波または前記弾性表面波の伝搬路の結合を阻止し、あるいは緩和する伝搬分離体を備えた
ことを特徴とする弾性表面波センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−85108(P2012−85108A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229799(P2010−229799)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】