説明

弾性表面波デバイス、及びその製造方法

【課題】四硼酸リチウム圧電基板を用いた弾性表面波デバイスの共振周波数の高周波側に生じる、バルク波に起因するスプリアスを抑圧する手段を得る。
【解決手段】四硼酸リチウム圧電基板の表面上に少なくとも1つのIDT電極を備えた弾性表面波デバイスであって、前記圧電基板の裏面に前記IDT電極によって励起される弾性表面波の伝搬方向に対し、傾斜角θを有する複数の溝を備え、前記溝は前記圧電基板の厚さHの29%より深くした弾性表面波デバイスを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波デバイスに関し、特に圧電基板として四硼酸リチウムを用いた弾性表面波デバイスにおいて、バルク波に起因して共振周波数よりも高周波側に発生するスプリアスを抑圧した弾性表面波デバイス、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、弾性表面波デバイス(SAWデバイス)は通信分野で広く利用され、高性能、小型、量産性等の優れた特徴を有することから、特に携帯電話、LAN等に多く用いられている。図15(a)は一般的な正規型のトランスバーサル型SAWフィルタ素子50の構成を示す平面図であって、圧電基板55の主表面上に表面波の伝搬方向に沿って2つのIDT電極60、61を所定の間隙を隔して配置し、両IDT電極60、61の間に遮蔽用の電極62を配設する。ボンディングワイヤ等を用いて、IDT電極60を構成する一方のくし形電極を入力端子INに接続し、他方のくし形電極を接地する。更にIDT電極61を構成する一方のくし形電極を出力端子OUTに接続し、他方のくし形電極、及び遮蔽用電極62を接地して、トランスバーサル型SAWフィルタ50を構成する。なお、圧電基板55の表面の両端には弾性表面波を吸収する吸収材65を設けるのが一般的である。
【0003】
IDT電極60、61は、互いに間挿し合う複数の電極指からなり、その電極材料はアルミニウム合金等を用いる。図15(a)に示すような正規型IDT電極60、61を用いた場合、励振される表面波は左右に等しく伝搬するために、トランスバーサル型SAWフィルタ素子50の挿入損失が大きくなる。トランスバーサル型SAWフィルタの挿入損失を改善した変換器(IDT電極)として、図15(b)に示したような一方向性変換器(SPUDT)63、64がある。IDT電極63は図中右方への表面波を強く励振することができ、IDT電極64はトランスバーサル型SAWフィルタ素子の中央に対してIDT電極63と対称な構成となっているので、左方から到来する表面波を効率よく電気信号としてピックアップすることができ、トランスバーサル型SAWフィルタ素子の挿入損失が大幅に低減される。
【0004】
圧電基板に四硼酸リチウム(Li247)を用いてトランスバーサル型SAWフィルタを構成すると、図16に示すように通過域外高周波側にバルク波(BAW)によるスプリアスが発生し、減衰特性が大きく劣化する。このスプリアスを改善すべく種々の提案がなされているが、特許文献1には、図17の断面図に示すような弾性表面波素子70が開示されている。圧電基板75(45°X−ZLi247)の表面上にIDT電極80、81を形成する。矢印で示した弾性表面波の伝搬方向Bに対して直交するように、圧電基板75の裏面にダイサーカット加工により所要本数の溝90を形成し、各溝90の側壁面によってバルク波を抑圧することにより、受信側IDT電極81でのバルク波受信率を低減させ、バルク波に起因するスプリアスが大幅に低減されると記されている。
【特許文献1】特開2002−246876公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、IDT電極80、81それぞれの中心位置の間隔をLとした場合、バルク波の一回反射波に対しては左方のIDT電極80の中心位置から他方のIDT電極81に向けたL/2の位置に、2回反射波に対しては左方のIDT電極80の中心からL/4、L/2、3L/4の位置に正確に溝を設けることは、ダイシングマシンが定ピッチで切断刃(ブレード)を送るという機械的特徴から極めて難しいという問題があった。
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、圧電基板に四硼酸リチウムを用い、通過域外高周波側に発生するバルク波に起因するスプリアスを抑圧した弾性表面波デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、圧電基板に四硼酸リチウムを用いた弾性表面波デバイスにおけるバルク波によるスプリアスを抑圧するため、四硼酸リチウム圧電基板の表面上に少なくとも1つのIDT電極を備えた弾性表面波デバイスであって、前記圧電基板の裏面に前記IDT電極によって励起される弾性表面波の伝搬方向に対し、傾斜角θを有する複数の溝を備え、前記溝は前記圧電基板の厚さHの29%より深くして弾性表面波デバイスを構成する。
以上のように弾性表面波デバイスを構成すると、共振周波数より高周波側に発生する、バルク波に起因するスプリアスを抑圧することができるという効果がある。
【0007】
前記溝の傾斜角θは、0°<θ<90°の範囲内であるが、好ましくは35°<θ<55°の範囲とした弾性表面波デバイスを構成する。
以上のように溝の傾斜角θをより限定して弾性表面波デバイスを構成すると、共振周波数より高周波側に発生する、バルク波に起因するスプリアスを大きく抑圧することができるという効果がある。
【0008】
前記溝のピッチpは、前記圧電基板のIDT電極により励起される弾性表面波の波長λの36.8λ≦p≦44.2λの範囲内とした弾性表面波デバイスを構成する。
このようにIDT電極により励起される弾性表面波の波長λに対し溝のピッチpを限定した弾性表面波デバイスを構成すると、共振周波数より高周波側に発生する、バルク波に起因するスプリアスを大きく抑圧することができるという効果がある。
【0009】
前記弾性表面波デバイス1チップ当たりの前記溝の平均本数が4.3本以上、5.2本以下の範囲内とした弾性表面波デバイスを構成する。
このように1チップ当たりの溝の平均本数を限定した弾性表面波デバイスを構成すると、共振周波数より高周波側に発生する、バルク波に起因するスプリアスを大きく抑圧することができるという効果がある。
【0010】
前記弾性表面波デバイス1チップの面積に対する前記溝の合計面積の比が0.25以上、0.30以下の範囲内とした弾性表面波デバイスを構成する。
このようにチップの面積に対し溝の合計面積を限定した弾性表面波デバイスを構成すると、共振周波数より高周波側に発生する、バルク波に起因するスプリアスを大きく抑圧することができるという効果がある。
【0011】
前記複数の溝を有する四硼酸リチウム圧電基板の凹部と凸部とを均した平均厚さを用い、該平均厚さが0.311mm以上、0.318mm以下の範囲内とした弾性表面波デバイスを構成する。
このように圧電基板の平均厚さを限定した弾性表面波デバイスを構成すると、共振周波数より高周波側に発生する、バルク波に起因するスプリアスを大きく抑圧することができるという効果がある。
【0012】
前記複数の溝のピッチが四硼酸リチウム圧電基板の厚さHの1.43H以上、1.71H以下の範囲内とした弾性表面波デバイスを構成する。
このように圧電基板の厚さに対し溝のピッチを限定した弾性表面波デバイスを構成すると、共振周波数より高周波側に発生する、バルク波に起因するスプリアスを大きく抑圧することができるという効果がある。
【0013】
上記弾性表面波デバイスをトランスバーサル型SAWフィルタ素子として構成する。
このようにトランスバーサル型SAWフィルタ素子を構成すると、通過域外高周波側に生ずる、バルク波に起因するスプリアスを、周波数領域f0+30MHz〜f0+50MHzにおいて、37dB〜38dBと大きく抑圧することができるという効果がある。
【0014】
上記溝をダイシングマシンによる等ピッチの切削加工により形成する。
溝のピッチを等ピッチとすることで、ダイシングマシンを一度設定すればよく、溝加工が容易となり、溝加工工数が大幅に短縮されるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る圧電基板に四硼酸リチウムを用いたトランスバーサル型SAWフィルタ素子の実施の形態を示す図であり、同図(a)は、平面図、同図(b)は裏面図、同図(c)はQ−Qにおける断面図である。
トランスバーサル型SAWフィルタ素子1は、四硼酸リチウム(45°X−ZLi247以下、LBOと称す)圧電基板5の表面上に、弾性表面波の伝搬方向に沿って2つのIDT電極10、11を所定の間隙を隔して配置し、両IDT電極10、11の間に遮蔽電極12を配設する。ボンディングワイヤ等を用いて、IDT電極10を構成する一方のくし形電極を入力端子INに接続し、他方のくし形電極を接地する。更にIDT電極11を構成する一方のくし形電極を出力端子OUTに接続し、他方のくし形電極と遮蔽電極12とを接地する。IDT電極10、11は、互いに間挿し合う複数の電極指からなり、その電極材料にはアルミニウム合金等を用いる。
【0016】
LBO圧電基板5の厚さをHとし、その裏面に図1(b)に示すように弾性表面波の伝搬方向に対し傾斜角θを有する複数の、幅w、深さhの溝20をダイシングマシン等を用いて形成し、本発明に係るトランスバーサル型SAWフィルタ素子1を構成する。ダイシングマシン等を用いて溝20を効率よく形成するためには、溝のピッチpが等間隔であることが望ましい。なお、圧電基板5の表面の両端には弾性表面波を吸収する吸収材30を設けている。
図1(a)に示すように、LBO圧電基板5の表面に設けたIDT電極10、11の間に遮蔽電極12を形成し、圧電基板5の両端に吸収材30を設けると共に、LBO圧電基板5の裏面に斜めに形成する複数の溝20の幅w、ピッチp、深さhを一定としたトランスバーサル型SAWフィルタ素子を試作した。初めに、IDT電極10、11により励起される弾性表面波の伝搬方向と、溝20の延在方向とのなす傾斜角θについて実験的に検討した。
【0017】
図2(a)は溝20の傾斜角θが零の場合、つまり、弾性表面波の伝搬方向と平行に複数の溝20を形成した場合のトランスバーサル型SAWフィルタ素子1の減衰特性である。特に、通過域外高周波側の周波数領域f0+30MHz〜f0+50MHz(周波数領域αと称す)に発生する、バルク波に起因するバルク波スプリアスに注目した。弾性表面波の伝搬方向と平行に溝20を形成した場合の周波数領域αのバルク波スプリアスの減衰量は32dB程度である。
図2(b)は、傾斜角θが90°、つまり弾性表面波の伝搬方向と直交して溝20を形成した場合のトランスバーサル型SAWフィルタ素子1の減衰特性である。傾斜角θが90°である場合の、周波数領域αのバルク波スプリアスの減衰量(dB)は、36dB程度である。図2(c)は傾斜角θを45°として溝20を形成した場合のトランスバーサル型SAWフィルタ素子1の減衰特性である。傾斜角θが45°の場合では、周波数領域αのバルク波スプリアスの減衰量は37dB程度である。傾斜角45°から角度を±10°程変化させて試作したが、同程度の減衰量が得られた。図3は、傾斜角θが45°の溝20に重ねて、傾斜角θが135°の溝20を形成した場合のトランスバーサル型SAWフィルタ素子1の減衰特性である。この場合は図3から明らかなように、周波数領域αのバルク波スプリアスの減衰量は32dB程度となる。図2、図3の結果からLBO圧電基板5に形成する溝20の傾斜角θと、周波数領域αのバルク波スプリアスの減衰量(dB)との間に緩い相関があることが分かる。また、溝20の本数が多すぎると、周波数領域αのバルク波スプリアスの減衰量が劣化、つまり抑圧効果が減ずることも明らかとなった。
【0018】
次に、LBO圧電基板5の裏面に形成する溝20の深さhと、周波数領域αのバルク波スプリアスの減衰量(dB)との関係を調べた。図1に示す圧電基板5の厚さHを0.35mm、その裏面に形成した溝20の幅wを0.15mm、ピッチpを0.55mmとし、溝20の深さhを0.07mm、0.1mm、0.13mm、0.16mm、0.21mmと変化させたトランスバーサル型SAWフィルタ素子をそれぞれ試作し、フィルタの減衰特性を測定した結果を、図4(a)、(b)、(c)と、図5(a)、(b)、(c)に示す。特に、通過域外高周波側のαで示す周波数領域に発生するバルク波スプリアスに注目した。
LBO圧電基板の裏面に溝を設けない従来型のトランスバーサル型SAWフィルタでは、図4(a)に示すように周波数領域α(f0+30MHz〜f0+50MHz)に発生するバルク波スプリアスの減衰量は、24dB程度である。溝20の深さhを0.07mmとした場合には、周波数領域αのバルク波スプリアスの減衰量(dB)は、図4(b)に示すように30dB程度と改善される。溝20の深さhを0.1mm、0.13mm、0.16mm、0.21mmと深くした場合は、図4(c)、図5(a)〜(c)に示すように周波数領域αのバルク波スプリアスの減衰量は、33dBから38dB程度と改善され、溝20の深さhを深くすることによりバルク波が抑圧されることを示している。
【0019】
図6は、厚さ0.35mmのLBO圧電基板の裏面に、溝20の幅wを0.15mm、ピッチpを0.55mmとし、溝20の深さhをパラメータにした場合の、周波数領域αにおけるバルク波スプリアスの減衰量(dB)をプロットした図である。溝20の深さhが増すに応じて減衰量は増大し、0.1mmを越えるあたりから減衰量はほぼ一定値になることが判明した。この理由として溝20の深さhを深くすることによりバルク波は抑圧されるが、周波数領域αの表面波成分は抑圧されないものと推定される。
【0020】
次に、溝20間隔、即ちピッチpと周波数領域αにおけるバルク波スプリアスとの関係を実験的に調べた。図7(a)、(b)は、厚さ0.35mmのLBO圧電基板の裏面に、溝20の幅wを0.15mm、深さhを0.13mmとし、ピッチpを0.45mm、0.55mmとした場合のトランスバーサル型SAWフィルタ素子の減衰特性を示した図である。図8は、溝20の幅wを0.15mm、深さhを0.13mmとし、ピッチpを0.3mmから0.6mmまで変化させた場合、トランスバーサル型SAWフィルタ素子の周波数領域αにおけるバルク波スプリアスの減衰量(dB)をプロットした図である。図8から溝20のピッチpを小さく、つまり溝を密に形成することが、周波数領域αのバルク波スプリアスの改善に必ずしもつながらないことが分かった。つまり、周波数領域αのバルク波スプリアスを抑圧するには、最適のピッチpの範囲があることが判明した。
図9は、IDT電極10、11によりLBO圧電基板5の表面に励起される弾性表面波の波長λで、溝20のピッチpを規格化した波長規格化ピッチ(p/λ)と、周波数領域α(f0+30MHz〜f0+50MHz)に発生するバルク波スプリアスの減衰量(dB)との関係を示した図である。図9より波長規格化ピッチ(p/λ)として36.8以上、44.2以下範囲の値を用いた場合に、バルク波スプリアスを37dB〜38dBと良好に抑圧することができる。
【0021】
次に、LBO圧電基板(チップ)5の裏面に形成した溝20の本数nと、周波数領域αに発生するバルク波スプリアスの減衰量との関係を調べた。図10は、圧電基板(チップ)5に形成した溝20の本数nと、バルク波スプリアスの減衰量(dB)との関係を示した図である。図10より1チップ当たり4.3本以上、5.2本以下の範囲の本数nの溝を設けた場合に、周波数領域αに発生するバルク波スプリアスを37dB〜38dBと良好に抑圧することができる。1チップ当たりの溝20の本数は少なすぎても多すぎてもバルク波スプリアスの減衰量は劣化し、最適の本数の範囲があることが判明した。溝20の本数nに小数が生じるのは、図1(b)に示す20aのように溝20が圧電基板5の下端から上端まで達する場合を1本とし、20bのように上下端の何れかに達しない場合は、小数としたからである。
【0022】
図11は、1チップに形成した溝20の部分の合計面積をチップの全面積で規格化した規格化溝面積と、周波数領域α(f0+30MHz〜f0+50MHz)に発生するバルク波スプリアスの減衰量(dB)との関係を示した図である。図11から規格化溝面積は0.25以上、0.3以下の範囲とした場合に、バルク波スプリアスを36dB〜37dBと良好に抑圧することができる。
複数の深さhの溝20を形成した厚さHのLBO圧電基板5(チップ)の平均厚さHavを次のように定義する。即ち、チップに形成した溝20の凹部と凸部とを均して平坦のチップとしたと仮定した場合、そのチップの厚さを平均厚さHavとする。図12は、チップ5の平均厚さHavと、周波数領域αに発生するバルク波スプリアスの減衰量(dB)との関係を示した図である。図12よりLBO圧電基板5(チップ)の平均厚さHavを元の厚さ0.35mmに対し、0.311mm〜0.318mmの範囲に設定した場合に、周波数領域αに発生するバルク波スプリアスを38dB程度と良好に抑圧することができることが分かる。
【0023】
厚さHのLBO圧電基板5の裏面に深さhの溝20をピッチpで形成した場合、ピッチpを圧電基板5の板厚Hで規格化し、基板厚規格化ピッチをp/Hと定義する。図13は、基板厚規格化ピッチ(p/H)と、周波数領域α(f0+30MHz〜f0+50MHz)に発生するバルク波スプリアスの減衰量(dB)との関係を示した図である。基板厚規格化ピッチ(p/H)が小さくても、また大きくてもバルク波スプリアスの減衰量は劣化し、基板厚規格化ピッチ(p/H)が1.43以上、1.71以下の範囲のときに、周波数領域αに発生するバルク波スプリアスの抑圧を37.5dB〜38.5dBと良好に抑圧することができることが分かる。
【0024】
図14は、トランスバーサル型SAWフィルタ素子を構成したLBO圧電基板の裏面に形成した溝のパラメータ、即ち溝の幅w、深さh、ピッチp、本数nの相互関係を示した図である。波長規格化ピッチはp/λで、基板厚規格化ピッチはp/Hで、LBO圧電基板の裏面の面積に対する溝の合計面積は、面積比と表している。
図1に示すトランスバーサル型SAWフィルタ素子1を、セラミックパッケージの凹陥部に接着剤を用いて固定し、IDT電極10、11のバスバーとセラミックパッケージの端子電極と、遮蔽電極12と接地電極とを、それぞれボンディングワイヤーにて接続し、前記セラミックパッケージの上部周縁に形成したメタライズ部に金属蓋を気密裏に溶接して、トランスバーサル型SAWフィルタを構成する。
【0025】
従来、通過帯域外高周波側のバルク波によるスプリアスの抑圧は、ホーニング加工、ダイサーカットといった手法により基板裏面の粗面化、凹凸化することによりバルク波を抑圧したが、四硼酸リチウム基板では十分な効果が得られなかった。また、トランスバーサル型SAWフィルタに設けた2つのIDT電極のそれぞれの中心位置に対して正確に位置決めされた位置にダイサーカット加工を施す手法では、位置精度の問題と、位置決めに工数が掛かりすぎるという問題があった。本発明の特徴は、LBO圧電基板の裏面に複数の溝を形成し、弾性表面波の伝搬方向と、溝の方向とのなす角、即ち傾斜角θについて、バルク波の抑圧に効果のある傾斜角を実験的に求めた点にある。更に、バルク波の抑圧に最適である溝のピッチpの範囲、波長規格化ピッチ(p/λ)、基板厚規格化ピッチ(p/h)を実験的に求めた。またバルク波の抑圧に最適である溝の深さhの範囲、1チップ当たりの溝の本数n、チップ面積に対する溝の合計面積の比、圧電基板の平均厚み等を実験的に求めた。
本発明のトランスバーサル型SAWフィルタでは、圧電基板の裏面に形成する溝の位置と、表面のIDT電極との位置との関係を精度よく決める必要はない。また、溝のピッチを等ピッチとすることで、ダイシングマシンを一度設定すればよく、溝加工が容易となり、溝加工工数が大幅に短縮されるという効果がある。
【0026】
以上の説明では、LBO圧電基板を用いたトランスバーサル型SAWフィルタを例に本発明を説明したが、本発明はこれに限定するものではなく、LBO基板を用いた一端子対SAW共振子、2端子対共振子、多重モード縦結合SAWフィルタ、多重モード横結合SAWフィルタ、ラダー型SAWフィルタについても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るトランスバーサル型SAWフィルタ素子の構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は裏面図、(c)は断面図。
【図2】裏面に溝を形成したトランスバーサル型SAWフィルタの減衰特性を示す図であり、(a)は弾性表面波の伝搬方向と平行に溝を形成した場合の図、(b)は直交して溝を形成した場合の図、(c)は45°の傾斜で溝を形成した場合の図。
【図3】裏面の溝を斜め格子で形成した場合の特性を示す図。
【図4】溝の深さhと減衰特性の関係を示す図であり、(a)はhが零の場合を示す図、(b)はhが0.07mmの場合を示す図、(c)はhが0.1mmの場合を示す図。
【図5】溝の深さhと減衰特性の関係を示す図であり、(a)はhが0.13mmの場合を示す図、(b)はhが0.16mmの場合を示す図、(c)はhが0.21mmの場合を示す図。
【図6】溝の深さhとバルク波スプリアスの減衰量との関係を示す図。
【図7】溝のピッチpと減衰特性との関係を示す図であり、(a)はpが0.45mmの場合を示す図、(b)はhが0.55mmの場合を示す図。
【図8】溝のピッチpとバルク波スプリアスの減衰量を示す図。
【図9】波長規格化ピッチ(p/λ)とバルク波スプリアスの減衰量との関係を示す図。
【図10】溝の本数nとバルク波スプリアスの減衰量との関係を示す図。
【図11】チップ面積に対する溝の合計面積と、バルク波スプリアスの減衰量との関係を示す図。
【図12】基板の平均厚みHavとバルク波スプリアスの減衰量との関係を示す図。
【図13】基板厚規格化ピッチとバルク波スプリアスの減衰量との関係を示す図。
【図14】ピッチpと他の規格化パラメータとの関係を示す図。
【図15】(a)は従来のトランスバーサル型SAWフィルタ素子の平面図、(b)は一方向性変換器(SPUDT)を示す平面図。
【図16】従来のトランスバーサル型SAWフィルタの減衰特性を示す図。
【図17】従来のトランスバーサル型SAWフィルタ素子の断面図。
【符号の説明】
【0028】
1 トランスバーサル型SAWフィルタ素子、5 圧電基板、10、11 IDT電極、12 遮蔽電極、20 溝、30 吸収材、θ 弾性表面波に伝搬方向と溝とのなす角、w 溝の幅、p 溝のピッチ、H 圧電基板の厚さ、h 溝の深さ、α 周波数領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四硼酸リチウム圧電基板の表面上に少なくとも1つのIDT電極を備えた弾性表面波デバイスであって、前記圧電基板の裏面に前記IDT電極によって励起される弾性表面波の伝搬方向に対し、傾斜角θを有する複数の溝を備え、
前記溝は、前記圧電基板の厚さHの29%よりも深いことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
前記溝の傾斜角θが0°<θ<90°の範囲内、好ましくは(45°−10°)<θ<(45°+10°)の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項3】
前記複数の溝のピッチpは、前記圧電基板のIDT電極により励起される弾性表面波の波長λの36.8λ≦p≦44.2λの範囲内であることを特徴とする請求項1又は2に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項4】
前記弾性表面波デバイス1チップ当たりの前記溝の平均本数が4.3本以上、5.2本以下の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項5】
前記弾性表面波デバイス1チップの面積に対する前記溝の合計面積の比が0.25以上、0.30以下の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項6】
前記複数の溝を有する四硼酸リチウム圧電基板の凹部と凸部とを均した平均厚さが、0.311mm以上、0.318mm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項7】
前記複数の溝のピッチが四硼酸リチウム圧電基板の厚さHの1.43H以上、1.71H以下の範囲内であることを特徴とする請求項1又は2に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の弾性表面波デバイスがトランスバーサル型SAWフィルタ素子であることを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載の弾性表面波デバイスの製造方法であって、
前記溝をダイシングマシンによる等ピッチの切削加工により形成することを特徴とする弾性表面波デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−283336(P2008−283336A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124194(P2007−124194)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】