説明

弾性表面波デバイス

【課題】
優れた伝搬特性と周波数特性の広帯域化を両立させうる弾性表面波デバイスを提供することにある。
【解決手段】
サファイア基板11と、サファイア基板11上にGaN薄膜で形成された伝搬層12と、伝搬層12の表面上に形成された入力側櫛型電極13、出力側櫛型電極14を有する弾性表面波デバイスの一種であるトランスバーサルフィルタ10において、入力側櫛型電極13、出力側櫛型電極14により励振される弾性表面波が伝搬層12面内で最も遅い速度で伝搬する方向である{11−20}方向と、入力側櫛型電極13、出力側櫛型電極14の電極指の配列方向を整合させ、かつ電極指の線幅および配列間隔を配列方向と直交する方向に変化させて、入力側櫛型電極13、出力側櫛型電極14を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電性を有する窒化物半導体材料からなる伝搬層上に櫛型電極を形成した弾性表面波デバイス(SAWデバイス)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窒化物半導体材料からなる伝搬層に櫛型電極を形成した弾性表面波デバイスを利用した装置として、トランスバーサルフィルタがある。図5は従来のトランスバーサルフィルタ20の構造図、図5(a)はトランスバーサルフィルタ20の平面図、図5(b)はトランスバーサルフィルタ20を矢視BBから見た断面図である。
【0003】
図5に示すように、(0001)方向に配向するサファイア基板21上に、(0001)方向に配向するGaNからなる伝搬層22が形成されている。伝搬層22の表面上に、入力側櫛型電極23および、出力側櫛型電極24が形成されている。入力側櫛型電極23に交流電圧を印加することで、弾性表面波を励振させ、出力側櫛型電極24に伝搬させている。なお、サファイア基板21の{1−100}方向に弾性表面波が伝搬するように、入力側櫛型電極23は形成されている。そして、トランスバーサルフィルタ20は、図6に示すよう周波数特性(伝搬特性の周波数依存性)を有している。
【0004】
図6は、図5に示すトランスバーサルフィルタ20における弾性表面波の周波数特性を表す図である。図より、中心周波数f0は585.4MHz、周波数特性の広がりΔfは5.3MHzである。ここで、周波数特性の広がりΔfは、最大振幅から3db低下したときの帯域幅を示す値である。そして、中心周波数f0から離れる程、伝搬効率が低下している。この特性により、所定の周波数以外の周波数を著しく減衰させるフィルタとして機能している。
【非特許文献1】Suk-Hun Lee, Hwan-Hee Jeong, Sung-Bum Bae,Hyun-Chul Choi, Jung-Hee Lee, and Yong-Hyun Lee, “EpitaxiallyGrown GaN Thin-Film SAW Filter with High Velocity and Low Insertion Loss” IEEETRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES VOL.48, No.3, pp.524-529,(2001).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来のトランスバーサルフィルタ20では、周波数特性の広がりΔfが5.3MHzしかなく、周波数特性の広がりΔfが狭いといった問題があった。更に、励振される弾性表面波の強度を増加させる場合、入力側櫛型電極23、出力側櫛型電極24の対数Nを増加させている。しかし、対数Nを増加させると、周波数特性の広がりΔfが減少する。すなわち、従来のトランスバーサルフィルタ20の構造では、優れた伝搬特性と、周波数特性の広がりΔfを広げる広帯域化とは、相反する関係上、両立が困難であるといった問題があった。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、優れた伝搬特性と周波数特性の広帯域化を両立させうる弾性表面波デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的達成のため、本発明に係る弾性表面波デバイスでは、請求項1に記載のように、基板と、前記基板上に窒化物半導体材料で形成された伝搬層と、前記伝搬層の表面上に形成された櫛型電極とを有する弾性表面波デバイスにおいて、 前記櫛型電極により励振される弾性表面波が前記伝搬層面内で最も遅い速度で伝搬する方向と、前記櫛型電極の電極指の配列方向を整合させ、かつ前記電極指の線幅および配列間隔を前記配列方向と直交する方向に変化させて、前記櫛型電極を形成することを特徴としている。
【0008】
また、請求項2に記載のように、請求項1に記載の弾性表面波デバイスにおいて、前記基板は、(0001)方向に配向するサファイア基板であり、前記伝搬層は、(0001)方向に配向する窒化物半導体材料から形成され、前記配列方向は、前記サファイア基板の{11−20}方向あるいはそれと等価である方向であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、優れた伝搬特性と周波数特性の広帯域化を両立させうる弾性表面波デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る弾性表面波デバイスの一種であるトランスバーサルフィルタ10の構造図、図1(a)は、トランスバーサルフィルタ10の平面図、図5(b)はトランスバーサルフィルタ10を矢視AAから見た断面図である。また、図2は、図1に示すトランスバーサルフィルタ10の入力側櫛型電極13の拡大図である。
【0012】
本実施形態のトランスバーサルフィルタ10は、(0001)に配向するサファイア基板11と、不純物を積極的には含まない窒化物半導体材料からなる伝搬層12と、伝搬層12の表面上に形成された入力側櫛型電極13および、出力側櫛型電極14から構成されている。伝搬層12は、(0001)方向に配向するGaN薄膜をMOCVD法によりエピタキシャル成長させて形成されている。本実施形態の伝搬層12の厚さは2μmである。
【0013】
また、入力側櫛型電極13および、出力側櫛型電極14は、アルミニウム膜を形成し、その後、エッチングにより所定の形状に形成されている。入力側櫛型電極13および、出力側櫛型電極14の厚さは100nmである。そして、入力側櫛型電極13および、出力側櫛型電極14が、所定の間隔をおいて対向する位置に配置されている。入力側櫛型電極13に交流電圧を印加することで、入力側櫛型電極13から弾性表面波を励振させている。上記の弾性表面波は、伝搬層12を伝搬して出力側櫛型電極14に到達し、出力側櫛型電極14において、電気信号に変換されて、デバイス外部に出力されている。
【0014】
ここで、伝搬層12は、弾性表面波の伝搬速度v0について方向依存性を有している。弾性表面波を伝搬層12のどの方位に伝搬させるかによって、伝搬特性が変化する。本実施形態では、弾性表面波が伝搬層12面内で最も遅い速度で伝搬する方向に、弾性表面波が伝搬するように、入力側櫛型電極13および、出力側櫛型電極14を配置している。すなわち、伝搬層12面内で最も遅い速度で伝
搬する方向は、サファイア基板11の{11−20}方向(以下、x方向とする。)に等しいので、図1に示したように、x方向に弾性表面波を伝搬させるため、入力側櫛型電極13、出力側櫛型電極14をx方向に対向させて配置している。なお、従来のトランスバーサルフィルタ20で励振させた弾性表面波は、サファイア基板11の{1−100}方向(以下、y方向とする。)に伝搬させていたが、y方向は、伝搬層22面内で最も早い速度で伝搬する方向である。本発明は、弾性表面波の伝搬方向を、伝搬層12面内で最も遅い速度で伝搬する方向であるサファイア基板11の{11−20}方向としたことに特徴がある。
【0015】
また、図2に示すように、電極長Lの入力側櫛型電極13および、出力側櫛型電極14は、所定の線幅h(後述するh1、h2を含む概念)を有する複数の電極指15が、所定の配列間隔s(後述するs1、s2を含む概念)を隔てて形成されている。本実施形態では、電極指15の線幅hおよび、配列間隔sを、電極指15の配列方向、すなわち、弾性表面波の伝搬方向であるx方向では一定であるが、電極指15の配列方向と直交する方向であるy方向に沿って変化する構造としている。上記の構造を有する入力側櫛型電極13および、出力側櫛型電極14は、平行電極指からなる多数の櫛型電極が電気的に並列に接続した電極として、取り扱うことができる。
【0016】
ここで、平行電極指は、図5に示した従来のトランスバーサルフィルタ20に配置された入力側櫛型電極23のように、各平行電極指のピッチ(線幅h+配列間隔s)が等しく、弾性表面波の伝搬方向と直交する方向に平行に配列された電極指である。平行電極指からなる入力側櫛型電極23で構成されるトランスバーサルフィルタ20の中心周波数f0は、弾性表面波の伝搬速度v0、平行電極指の線幅hおよび、配列間隔sから、f0=v0/{2(h+s)}により決定される。なお、入力側櫛型電極23に入力した交流電圧の周波数が中心周波数f0の場合に、最も効率的に弾性表面波が励振される。また、中心周波数f0と異なる周波数は、効率的に弾性表面波に変換されないので、所定の周波数以外の周波数を著しく減衰させるフィルタとして機能している。
【0017】
そこで、入力側櫛型電極13および、出力側櫛型電極14のy方向の一端における線幅をh1、配列間隔をs1とすると、電極指15のピッチ(線幅h1+配列間隔s1)は最も短くなり、その場所での中心周波数f01は、f01=v01/{2(h1+s1)}となる。また、他端における線幅をh2、配列間隔をs2とすると、電極指15のピッチ(線幅h2+配列間隔s2)は最も長くなり、その場所での中心周波数f02は、f02=v02/{2(h2+s2)}となる。なお、本実施形態における入力側櫛型電極13および、出力側櫛型電極14において、所定の間隔は5mm、線幅h1は1.8μm、配列間隔s1は1.8μm、線幅h2は2μm、配列間隔s2は2μm、電極長Lは400μm、電極指15の対数は50本である。よって、線幅h1、配列間隔s1の位置を基準(y=0μm)とすると、他端である線幅h2、配列間隔s2の位置は、y=400μmと表せる。また、間隔の変化率tは、t={(2−1.8)/2}×100=10%である。
【0018】
図3は、図1に示すトランスバーサルフィルタ10の弾性表面波の伝搬速度v0と波長λ0の関係を示す図である。波長λ0は、電極指15の線幅h、配列間隔sから、λ0=2(h+s)で与えられる。図3に示すように、弾性表面波の伝搬速度v0は、波長λ0に依存して変化している。入力側櫛型電極13の基準位置y=0μmにおける弾性表面波の波長λ01は、λ01=7.2μmと算出される。また、他端y=400μmにおける弾性表面波の波長λ02は、λ02=8μmと算出される。図より、λ01=7.2μmにおける弾性表面波の伝搬速度v01は4598m/sであり、λ02=8μmにおける伝搬速度v02は4663m/sである。これから、中心周波数f01、f02を求めると、f01=4598/7.2=639MHz、f02=4663/8=583MHzとなる。従って、本実施形態の入力側櫛型電極13および、出力側櫛型電極14は、各中心周波数の弾性表面波を励振する平行電極指からなる多数の櫛型電極が電気的に並列に接続した電極として、周波数583MHz〜639MHzの弾性表面波を励振することができる。また、周波数583MHz〜639MHz以外の周波数を減衰させることができる。よって、上記の構造を有する入力側櫛型電極13、出力側櫛型電極14により、電極指15の最大ピッチ(線幅h2+配列間隔s2)から決定される最低周波数f02から、最小ピッチ(線幅h1+配列間隔s1)が決定する最高周波数f01までを通過帯域とするバンドパスフィルタが実現できる。
【0019】
しかし、入力側櫛型電極13はy方向に沿って、電極指15の線幅h、配列間隔sを変化しているので、上記周波数範囲中の特定の周波数の交流電圧に対して、入力側櫛型電極13の限られた領域でのみ弾性表面波が励振される。このため、回折効果が顕著となり、弾性表面波は有限の広がりを伴って伝搬し得る。その結果、対向する出力側櫛型電極14に到達する弾性表面波のエネルギーが低下し、伝搬特性の低下が生ずる可能性がある。周波数特性の広帯域化を実現するために、変化率tを増加させると回折効果はより著しくなる。
【0020】
そこで、本実施形態では、上述したように、弾性表面波が伝搬層12面内で最も遅い速度で伝搬する方向に、弾性表面波が伝搬するように、入力側櫛型電極13および、出力側櫛型電極14を配置している。伝搬層12面内で最も遅い速度で伝搬する方向は、図1に示したx方向である。
【0021】
図4は、図1に示すトランスバーサルフィルタ10の弾性表面波の伝搬速度v0の方向依存性を示す図である。本実施形態のトランスバーサルフィルタ10の伝搬層12の厚さが2μm、波長λ0=8μmの弾性表面波が伝搬する場合の伝搬速度v0の方向依存性を示している。図4より、弾性表面波がx方向(面内方位0度に相当)に伝搬する場合、弾性表面波の伝搬速度v0は最小となる。一方、弾性表面波がy方向(面内方位30度に相当)に伝搬する場合、伝搬速度v0は最大となる。従って、弾性表面波がx方向以外に伝搬するためには、より高い伝搬速度v0を伴うことが必要となることから、弾性表面波のx方向以外への伝搬は著しく抑制される。また、回折効果の影響を著しく低減することができ、電極指15の対数Nを増加させることなく、優れた伝搬特性を実現できる。よって、本実施形態により、回折効果の影響を著しく低減できることから、優れた伝搬特性を有し、また、周波数特性の広帯域化が可能な弾性表面波デバイスを提供することができる。
【0022】
なお、以上に述べた実施形態は、本発明の実施の一例であり、本発明の範囲はこれらに限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載した範囲内で、他の様々な実施形態に適用可能である。例えば、本実施形態では、トランスバーサルフィルタ10について、本発明に係る構造を適用したが、特にこれに限定されるものでなく、他の弾性表面波デバイスにも適用可能である。
【0023】
また、本実施形態に係るトランスバーサルフィルタ10では、弾性表面波が、
サファイア基板11の{11−20}方向に伝搬するように、入力側櫛型電極13、出力側櫛型電極14を配置しているが、特にこれに限定されるものでなく、弾性表面波が伝搬層12面内で最も遅い速度で伝搬する方向であれば、サファイア基板11の他の方向に合わせて、入力側櫛型電極13、出力側櫛型電極14を配置しても良い。
【0024】
また、本実施形態に係るトランスバーサルフィルタ10では、サファイア基板11にGaN薄膜を形成しているが、特にこれに限定されるものでなく、不純物を積極的には含まない窒化物半導体材料であれば、他の材料の薄膜でも良い。すなわち、サファイア基板11に不純物を積極的に含まないGaN薄膜および、不純物を積極的に含まないかもしくはn型不純物を積極的に含むA1GaN薄膜を形成することもできる。この場合、GaN薄膜および、A1GaN薄膜において、表面のA1GaN薄膜をドライエッチング等の手法によって除去した後に露出されるGaN薄膜の表面に上記実施形態と同様の方位・形状を伴う櫛型電極を形成する。
【0025】
また、本実施形態に係るトランスバーサルフィルタ10では、入力側櫛型電極13、出力側櫛型電極14をアルミニウムで形成しているが、特にこれに限定されるものでなく、他の材料で形成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、サファイア基板上に櫛型電極を備える弾性表面波デバイスであれば、例えば、フィルタ、発信器、共振子および遅延線等にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る弾性表面波デバイスの一種であるトランスバーサルフィルタの構造図である。
【図2】図1に示すトランスバーサルフィルタの入力側櫛型電極の拡大図である。
【図3】図1に示すトランスバーサルフィルタの弾性表面波の伝搬速度と波長の関係を示す図である。
【図4】図1に示すトランスバーサルフィルタの弾性表面波の伝搬速度の方向依存性を示す図である。
【図5】従来のトランスバーサルフィルタの構造図である。
【図6】図5に示すトランスバーサルフィルタにおける弾性表面波の周波数特性を表す図である。
【符号の説明】
【0028】
10 本発明に係るトランスバーサルフィルタ、11 サファイア基板、
12 伝搬層、13 入力側櫛型電極、14 出力側櫛型電極、
15 電極指、
20 従来のトランスバーサルフィルタ、
21 サファイア基板、22 伝搬層、
23 入力側櫛型電極、24 出力側櫛型電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に窒化物半導体材料で形成された伝搬層と、前記伝搬層の表面上に形成された櫛型電極とを有する弾性表面波デバイスにおいて、
前記櫛型電極により励振される弾性表面波が前記伝搬層面内で最も遅い速度で伝搬する方向と、前記櫛型電極の電極指の配列方向を整合させ、かつ前記電極指の線幅および配列間隔を前記配列方向と直交する方向に変化させて、前記櫛型電極を形成することを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波デバイスにおいて、
前記基板は、(0001)方向に配向するサファイア基板であり、
前記伝搬層は、(0001)方向に配向する窒化物半導体材料から形成され、
前記配列方向は、前記サファイア基板の{11−20}方向あるいはそれと等価である方向であることを特徴とする弾性表面波デバイス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−104238(P2007−104238A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290762(P2005−290762)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】