説明

弾性表面波フィルタ装置

【課題】急峻なフィルタ特性を有すると共に、通過帯域が広く、かつフィルタ特性の製造ばらつきが小さい弾性表面波フィルタ装置を提供する。
【解決手段】弾性表面波フィルタ装置1は、ラダー型弾性表面波フィルタ部20を備えている。直列腕共振子を構成する弾性表面波共振子30の誘電体層33の厚さt1が、並列腕共振子を構成する弾性表面波共振子40の誘電体層43の厚みt2と異なっている。誘電体層の厚さが厚い弾性表面波共振子30のIDT電極32のデューティー比が、誘電体層の厚さが薄い弾性表面波共振子40のIDT電極42のデューティー比よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波フィルタ装置に関する。特に、本発明は、ラダー型弾性表面波フィルタ部を有する弾性表面波フィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば携帯電話機などの通信機におけるRF(Radio Frequency)回路に搭載される帯域通過フィルタや分波器として、弾性表面波を利用した弾性表面波フィルタ装置が用いられている。そのような弾性表面波フィルタ装置の一例として、例えば下記の特許文献1には、ラダー型弾性表面波フィルタ部を有する弾性表面波フィルタ装置が記載されている。特許文献1には、ラダー型弾性表面波フィルタ部を構成する複数の弾性表面波共振子において、各弾性表面波共振子のIDT電極の上に保護膜を設け、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子におけるIDT電極の上の保護膜の厚さと、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子におけるIDT電極の上の保護膜の厚さとを異ならせることにより、フィルタ特性を急峻にすると共に、通過帯域における周波数特性を平坦にすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−196409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の弾性表面波フィルタ装置を製造しようとすると、フィルタ特性の製造ばらつきが大きくなってしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、斯かる点に鑑みて成されたものであり、その目的は、急峻なフィルタ特性を有すると共に、通過帯域が広く、かつフィルタ特性の製造ばらつきが小さい弾性表面波フィルタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る弾性表面波フィルタ装置は、ラダー型弾性表面波フィルタ部を備えている。ラダー型弾性表面波フィルタ部は、直列腕と、直列腕共振子と、並列腕と、並列腕共振子とを有する。直列腕共振子は、直列腕において接続されている。並列腕は、直列腕とグラウンドとを接続している。並列腕共振子は、並列腕に設けられている。直列腕共振子と並列腕共振子とのそれぞれは、圧電基板と、IDT電極と、誘電体層とを有する弾性表面波共振子により構成されている。IDT電極は、圧電基板の上に形成されている。誘電体層は、IDT電極を覆うように形成されている。直列腕共振子を構成する弾性表面波共振子の誘電体層の厚さが、並列腕共振子を構成する弾性表面波共振子の誘電体層の厚さと異なっている。誘電体層の厚さが厚い弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比が、誘電体層の厚さが薄い弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比よりも小さい。
【0007】
本発明に係る弾性表面波フィルタ装置のある特定の局面では、直列腕共振子と前記並列腕共振子とのそれぞれは、複数の弾性表面波共振子により構成されており、誘電体層の厚さが厚い弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比の平均値が、誘電体層の厚さが薄い弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比の平均値よりも小さい。
【0008】
本発明に係る弾性表面波フィルタ装置の他の特定の局面では、直列腕共振子及び並列腕共振子のそれぞれを構成する弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比が0.4〜0.6の範囲内にある。
【0009】
本発明に係る弾性表面波フィルタ装置の別の特定の局面では、弾性表面波フィルタ装置は、直列腕共振子又は並列腕共振子を構成しており、誘電体層の厚さが厚い弾性表面波共振子の誘電体層の弾性表面波の波長で規格化された厚さをt1、直列腕共振子又は並列腕共振子を構成しており、誘電体層の厚さが薄い弾性表面波共振子の誘電体層の弾性表面波の波長で規格化された厚さをt2、直列腕共振子又は並列腕共振子を構成しており、誘電体層の厚さが厚い弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比の平均値をD1、直列腕共振子又は並列腕共振子を構成しており、誘電体層の厚さが薄い弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比の平均値をD2としたときに、D1<D2<D1+0.465×(t1−t2)を満たす。
【0010】
本発明に係る弾性表面波フィルタ装置のさらに他の特定の局面では、圧電基板がLiNbO基板からなる。弾性表面波フィルタ装置は、主モードとしてレイリー波を利用するものである。
【0011】
本発明に係る弾性表面波フィルタ装置のさらに別の特定の局面では、誘電体層は、SiO層を含む。なお、誘電体層は、SiO層のみにより構成されていてもよいし、SiO層を含む積層体により構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、急峻なフィルタ特性を有すると共に、通過帯域が広く、かつフィルタ特性の製造ばらつきが小さい弾性表面波フィルタ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る弾性表面波フィルタ装置の等価回路図である。
【図2】本発明の一実施形態における直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子の一部分の略図的断面図である。
【図3】本発明の一実施形態における並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子の一部分の略図的断面図である。
【図4】比較例1の弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性と、比較例2の弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性とを表すグラフである。
【図5】本発明の一実施形態に係る弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性と、比較例1の弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性とを表すグラフである。
【図6】本発明の一実施形態に係る弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性と、比較例2の弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性とを表すグラフである。
【図7】IDT電極のデューティー比と、IDT電極の周波数の電極指幅依存性との関係を表すグラフである。なお、図7において、菱形で示すデータは、IDT電極の上に形成されている誘電体層のSiO層の弾性表面波の波長で規格化された厚さが0.33である場合のデータである。図7において、正方形で示すデータは、IDT電極の上に形成されている誘電体層のSiO層の弾性表面波の波長で規格化された厚さが0.29である場合のデータである。図7において、三角で示すデータは、IDT電極の上に形成されている誘電体層のSiO層の弾性表面波の波長で規格化された厚さが0.24である場合のデータである。図7において、×で示すデータは、IDT電極の上に形成されている誘電体層のSiO層の弾性表面波の波長で規格化された厚さが0.20である場合のデータである。
【図8】比較例3の第1のパターンの弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性と、第2のパターンの弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性とを表すグラフである。
【図9】本発明の実施例の第1のパターンの弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性と、第2のパターンの弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性とをとを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施した好ましい形態について、図1に示す弾性表面波フィルタ装置1を例に挙げて説明する。本実施形態の弾性表面波フィルタ装置1は、ラダー型弾性表面波フィルタ部を有する、デュプレクサである。デュプレクサは、分波器の一種である。但し、本発明に係る弾性表面波フィルタ装置は、デュプレクサに限定されない。本発明に係る弾性表面波フィルタ装置は、ラダー型弾性表面波フィルタ部を有するものである限りにおいて特に限定されず、トリプレクサなどの他の分波器であってもよいし、入力信号端子または出力信号端子の少なくとも一方が共通に接続されていない複数のフィルタ部を含むものであってもよいし、ひとつのラダー型弾性表面波フィルタ部のみを有するものであってもよい。
【0015】
図1は、本実施形態に係る弾性表面波フィルタ装置1の等価回路図である。図2は、本実施形態における直列腕共振子S1,S2,S3を構成している弾性表面波共振子30の一部分の略図的断面図である。図3は、本実施形態における並列腕共振子P1,P2,P3を構成している弾性表面波共振子40の一部分の略図的断面図である。
【0016】
本実施形態の弾性表面波フィルタ装置1は、例えば、UMTSのようなCDMA方式に対応する携帯電話機などのRF回路に搭載されるものである。具体的には、弾性表面波フィルタ装置1は、UMTS−BAND3に対応するデュプレクサである。UMTS−BAND3の送信周波数帯は、1710MHz〜1785MHzであり、受信周波数帯は、1805MHz〜1880MHzである。このように、UMTS−BAND3においては、送信側周波数帯が受信側周波数帯よりも低域側に位置している。
【0017】
図1に示すように、弾性表面波フィルタ装置1は、アンテナに接続されるアンテナ端子10と、送信側信号端子11と、受信側信号端子12とを備えている。アンテナ端子10と受信側信号端子12との間には、受信フィルタ13が接続されている。本実施形態において受信フィルタ13の構成は、特に限定されない。受信フィルタ13は、例えば、縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部により構成されていてもよいし、ラダー型弾性表面波フィルタ部により構成されていてもよい。なお、図1においては、ひとつの受信側信号端子12のみを描画しているが、受信フィルタ13が平衡−不平衡変換機能を有するバランス型のフィルタ部により構成されている場合は、2つの受信側信号端子が設けられる。
【0018】
アンテナ端子10と送信側信号端子11との間には、送信フィルタ20が接続されている。送信フィルタ20と受信フィルタ13との接続点とアンテナ端子10との間の接続点と、グラウンドとの間には、整合回路としてのインダクタLが接続されている。
【0019】
送信フィルタ20は、ラダー型弾性表面波フィルタ部により構成されている。送信フィルタ20は、アンテナ端子10と送信側信号端子11とを接続している直列腕21を有する。直列腕21には、複数の直列腕共振子S1,S2,S3が直列に接続されている。なお、直列腕共振子S1,S2,S3は、それぞれ、ひとつの共振子として機能する複数の弾性表面波共振子によって構成されている。これにより、送信フィルタ20の耐電力性が高められている。もっとも、本発明においては、直列腕共振子は、ひとつの共振子として機能する複数の弾性表面波共振子によって構成されていてもよいし、ひとつの弾性表面波共振子によって構成されていてもよい。
【0020】
送信フィルタ20は、直列腕21とグラウンドとの間に接続されている複数の並列腕22,23,24を有する。並列腕22,23,24のそれぞれには、並列腕共振子P1,P2,P3が設けられている。並列腕共振子P1,P2,P3のそれぞれは、ひとつの共振子として機能する複数の弾性表面波共振子により構成されている。これにより、送信フィルタ20の耐電力性が高められている。もっとも、本発明においては、並列腕共振子は、ひとつの共振子として機能する複数の弾性表面波共振子によって構成されていてもよいし、ひとつの弾性表面波共振子によって構成されていてもよい。
【0021】
次に、図2及び図3を参照しながら、直列腕共振子S1,S2,S3を構成している弾性表面波共振子30と、並列腕共振子P1,P2,P3を構成している弾性表面波共振子40との構成について説明する。
【0022】
弾性表面波共振子30,40は、圧電基板31を備えている。すなわち、弾性表面波共振子30,40は、圧電基板31を共有している。本実施形態の送信フィルタ20では、レイリー波を主モードとしている。そのため、圧電基板31は、LiNbO基板により構成されている。具体的には、本実施形態では、圧電基板31は、オイラー角(φ,θ,ψ)のθが25°〜45°の範囲にあるLiNbO基板により構成されている。なお、φは、0°±5°の範囲内であることが好ましい。
【0023】
以下、本実施形態においては、圧電基板31が、オイラー角が(0°,37.5°,0°)であるLiNbO基板により構成されている例について説明する。この場合、送信フィルタ20では、ψの方向に伝搬するレイリー波を主モードとする。すなわち、ψ=0°が伝搬方位となる。なお、オイラー角が(0°,37.5°,0°)であるLiNbO基板は、別の表現では、127.5°YカットX伝搬LiNbO基板となる。もっとも、本発明において、圧電基板は、LiNbO基板により構成されていなくてもよい。圧電基板は、例えば、LiTaO基板や水晶基板等により構成されていてもよい。
【0024】
弾性表面波共振子30は、IDT電極32と、誘電体層33とを有する。IDT電極32は、圧電基板31の主面31aの上に形成されている。誘電体層33は、IDT電極32と圧電基板31の主面31aとの上に形成されている。すなわち、誘電体層33によりIDT電極32が覆われている。弾性表面波共振子40は、IDT電極42と、誘電体層43とを有する。IDT電極42は、圧電基板31の主面31aの上に形成されている。誘電体層43は、IDT電極42と圧電基板31の主面31aとの上に形成されている。すなわち、誘電体層43によりIDT電極42が覆われている。
【0025】
IDT電極32,42は、1組の櫛歯状電極により構成されている。櫛歯状電極は、複数の電極指と、複数の電極指が接続されているバスバーとを有する。図2及び図3では、IDT電極32,42のうち、電極指の部分のみが図示されている。IDT電極32,42は、特に限定されない。IDT電極32,42は、例えば、Al,Pt,Cu,Au,Ag,W,Ni,Cr,Ti,Co及びTaからなる群から選ばれた金属、もしくは、Al,Pt,Cu,Au,Ag,W,Ni,Cr,Ti,Co及びTaからなる群から選ばれた一種以上の金属を含む合金により形成することができる。また、IDT電極32,42は、上記金属や合金からなる複数の導電膜の積層体により構成されていてもよい。
【0026】
具体的には、本実施形態では、IDT電極32,42は、共に、圧電基板31側から、NiCr層(厚さ10nm)と、Pt層(厚さ40nm)と、Ti層(厚さ10nm)と、Al層(厚さ150nm)と、Ti層(厚さ10nm)とがこの順番で積層された積層体により構成されている。すなわち、IDT電極32とIDT電極42とでは、同一の層構成及び同一の膜厚となっている。本実施形態では、IDT電極32,42は、レイリー波を主モードとすることができるように構成されている。
【0027】
本実施形態では、弾性表面波共振子30と弾性表面波共振子40とは、IDT電極のデューティー比(メタライゼーション・レシオ)が異ならされている。具体的には、IDT電極32のデューティー比は0.475であり、IDT電極42のデューティー比は0.52である。
【0028】
誘電体層33,43は、例えば、SiO,SiN,SiON,Ta,AlN,Al,ZnOなどの各種誘電体材料により形成することができる。また、誘電体層33,43は、単一の誘電体層により構成されていてもよいが、複数の誘電体層の積層体により構成されていてもよい。誘電体層33,43は、SiO層を含むことが好ましい。この場合、SiO層は正の周波数温度係数(TCF:Temperature Coefficient of Frequency)を有し、LiNbO基板は負の周波数温度係数を有することから、誘電体層33,43の周波数温度係数と、圧電基板31の周波数温度係数との符号が逆になるため、送信フィルタ20の周波数温度特性を改善することができる。
【0029】
誘電体層33,43は、例えば、SiO層のみにより構成されていてもよいが、SiO層を含む積層体により構成されていてもよい。具体的には、本実施形態では、誘電体層33,43は、SiO層33a,43aとSiN層33b,43bとの積層体により構成されている。SiO層33a,43aは、IDT電極32,42と圧電基板31の主面31aとを覆うように形成されている。SiN層33b,43bは、SiO層33a,43aの上に形成されている。なお、SiN層33b,43bは、その厚さを調整することにより、送信フィルタ20の周波数を調整するための周波数調整膜として機能する。SiN層33b,43bの厚さは、例えば、20nm程度とすることができる。
【0030】
本実施形態においては、SiO層33aの厚さが670nmであり、SiO層43aの厚さが370nmである。このため、直列腕共振子S1,S2,S3を構成している弾性表面波共振子30における誘電体層33の厚みt1が、並列腕共振子P1,P2,P3を構成している弾性表面波共振子40における誘電体層43の厚さt2よりも大きい(t1>t2)。
【0031】
本実施形態の弾性表面波フィルタ装置1においては、直列腕共振子を構成する弾性表面波共振子の誘電体層の厚さが、並列腕共振子を構成する弾性表面波共振子の誘電体層の厚さと異なっており、かつ、誘電体層の厚さが厚い弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比が、誘電体層の厚さが薄い弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比よりも小さい。
【0032】
すなわち、本実施形態の弾性表面波フィルタ装置1においては、直列腕共振子S1,S2,S3を構成している弾性表面波共振子30の誘電体層33の厚さが、並列腕共振子P1,P2,P3を構成している弾性表面波共振子40の誘電体層43の厚さと異なっており、かつ、誘電体層の厚さが厚い弾性表面波共振子30のIDT電極32のデューティー比が、誘電体層の厚さが薄い弾性表面波共振子40のIDT電極42のデューティー比よりも小さい。
【0033】
UMTS−BAND3では、送信周波数帯と受信周波数帯とは20MHzしか離れていない。このように、送信周波数帯と受信周波数帯との間隔が狭いシステムに対応するデュプレクサにおいては、送信フィルタ及び受信フィルタの少なくとも一方は、急峻性が高いフィルタ特性を有することや周波数温度特性が優れていることが求められる。より詳細には、送信周波数帯が受信周波数帯よりも低域側に位置する場合、送信フィルタは、通過帯域高域側の急峻性が高いフィルタ特性を有することが求められる。また、送信周波数帯が受信周波数帯よりも高域側に位置する場合、送信フィルタは、通過帯域低域側の急峻性が高いフィルタ特性を有することが求められる。
【0034】
ここで、送信フィルタがラダー型弾性表面波フィルタ部により構成されている場合、通過帯域高域側の急峻性が高いフィルタ特性を実現するためには、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のΔf(共振周波数と反共振周波数との周波数差)を小さくすることが必要となる。これは、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のΔfが、通過帯域高域側の急峻性に大きく影響するためである。一方、通過帯域低域側の急峻性が高いフィルタ特性を実現するためには、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のΔfを小さくすることが必要となる。これは、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のΔfが、通過帯域低域側の急峻性に大きく影響するためである。
【0035】
弾性表面波共振子においては、IDT電極と圧電基板の主面とを覆うように形成されている誘電体層を厚くすることにより、Δfを小さくすることができる。特に、圧電基板がLiNbO基板またはLiTaO基板である弾性表面波共振子の場合、SiO層を含む誘電体層とし、誘電体層を厚くすることにより、Δfを小さくすることができるとともに、周波数温度特性を改善することができる。送信フィルタの通過帯域高域側の急峻性と通過帯域低域側の急峻性との両方を改善する観点からは、直列腕共振子及び並列腕共振子の両方を構成している弾性表面波共振子において、誘電体層を厚くすることが考えられる。
【0036】
送信フィルタ20を構成している弾性表面波共振子30,40における誘電体層33,43の厚さを370nmとした弾性表面波フィルタ装置を比較例1として用意し、送信フィルタ20を構成している弾性表面波共振子30,40における誘電体層33,43の厚さを670nmとした弾性表面波フィルタ装置を比較例2として用意した。図4に、比較例1の弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性と、比較例2の弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性とを示す。図4において、実線が比較例1を示し、破線が比較例2を示す。
【0037】
比較例1では、送信フィルタの直列腕共振子及び並列腕共振子の両方を構成している弾性表面波共振子において、誘電体層を薄くしたため、全ての弾性表面波共振子のΔfが大きくなる。このため、図4から分かるように、通過帯域幅が広くなる一方で、通過帯域高域側の急峻性と通過帯域低域側の急峻性との両方が低くなっている。そのため、比較例1では、UMTS−BAND3の受信周波数帯における減衰量が不十分となっている。
【0038】
また、比較例2では、送信フィルタの直列腕共振子及び並列腕共振子の両方を構成している弾性表面波共振子において、誘電体層を厚くしたため、全ての弾性表面波共振子のΔfが小さくなる。このため、図4から分かるように、通過帯域高域側の急峻性と通過帯域低域側の急峻性との両方が高くなる一方で、通過帯域幅が狭くなっている。そのため、比較例2では、UMTS−BAND3の送信周波数帯に対応する通過帯域幅が実現できていない。
【0039】
このように、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子における誘電体層の厚さと並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子における誘電体層の厚さとを等しくした場合は、高い急峻性と、広い通過帯域幅とを有するフィルタ特性を実現することは困難である。
【0040】
図5に、本実施形態の弾性表面波フィルタ装置1の送信フィルタ20のフィルタ特性と、比較例1の弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性とを示す。図5において、実線が本実施形態を示し、破線が比較例1を示す。図6に、本実施形態の弾性表面波フィルタ装置1の送信フィルタ20のフィルタ特性と、比較例2の弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性とを示す。図6において、実線が本実施形態を示し、破線が比較例2を示す。
【0041】
上述のように、本実施形態の弾性表面波フィルタ装置1の送信フィルタ20においては、直列腕共振子S1,S2,S3を構成している弾性表面波共振子30における誘電体層33の厚さt1が、並列腕共振子P1,P2,P3を構成している弾性表面波共振子40における誘電体層43の厚さt2よりも厚くされている。そのため、本実施形態では、図5に示すように、比較例1とほぼ同等の広さの通過帯域幅を得ることができる。さらに、図6に示すように、比較例2と同等の通過帯域高域側の急峻性を得ることができる。
【0042】
本実施形態では、直列腕共振子S1,S2,S3を構成している弾性表面波共振子30における誘電体層33が厚くされていることにより、弾性表面波共振子30のΔfが小さくなり、通過帯域高域側の急峻性が高くなっている。一方、並列腕共振子P1,P2,P3を構成している弾性表面波共振子40における誘電体層43が薄くされていることにより、弾性表面波共振子40のΔfが大きくなり、通過帯域幅が広くなっている。すなわち、直列腕共振子S1,S2,S3を構成している弾性表面波共振子30における誘電体層33の厚さt1が、並列腕共振子P1,P2,P3を構成している弾性表面波共振子40における誘電体層43の厚さt2よりも厚くされている本実施形態では、高い急峻性と、広い通過帯域幅とを有するフィルタ特性を実現することができる。
【0043】
なお、本実施形態では、送信側周波数帯が受信側周波数帯よりも低域側に位置しており、通過帯域高域側の急峻性が高いフィルタ特性を有する送信フィルタが求められる、UMTS−BAND3に対応するため、直列腕共振子S1,S2,S3を構成している弾性表面波共振子30における誘電体層33の厚さt1が、並列腕共振子P1,P2,P3を構成している弾性表面波共振子40における誘電体層43の厚さt2よりも厚くされている。
【0044】
本発明において、送信側周波数帯が受信側周波数帯よりも高域側に位置しており、通過帯域低域側の急峻性が高いフィルタ特性を有する送信フィルタが求められる、通信システムに対応する弾性表面波フィルタ装置では、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子における誘電体層の厚さが、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子における誘電体層の厚さよりも薄くされる。この場合、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子における誘電体層が厚くされていることにより、弾性表面波共振子のΔfが小さくなり、通過帯域低域側の急峻性が高くなる一方、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子における誘電体層が薄くされていることにより、弾性表面波共振子のΔfが大きくなり、通過帯域幅が広くなる。
【0045】
一方で、本発明者らは、鋭意研究の結果、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子における誘電体層の厚さと並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子における誘電体層の厚さとが異なる場合は、IDT電極の電極指の幅が変化したときにおける、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子の周波数の変化量と、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子の周波数の変化量とが異なることを見出した。このため、IDT電極の電極指の幅が変化すると、得られるフィルタ特性が変化してしまう。従って、IDT電極の電極指の幅に製造ばらつきが生じることによって、得られるフィルタ特性にも大きなばらつきが生じてしまうこととなる。
【0046】
この知見を元に、本発明者らは、さらに鋭意研究した結果、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子における誘電体層の厚さと並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子における誘電体層の厚さとが異なる場合であっても、IDT電極のデューティー比を異ならせることで、IDT電極の電極指の幅が変化したときにおける、弾性表面波共振子の周波数の変化量を調整し、フィルタ特性の製造ばらつきを小さくすることができることを見出した。
【0047】
図7は、IDT電極のデューティー比と、IDT電極の周波数の電極指幅依存性との関係を表すグラフである。ここで、IDT電極の周波数の電極指幅依存性とは、IDT電極の電極指の幅が変化したときの周波数の変化量を示すものである。IDT電極の周波数の電極指幅依存性が0.00に近いほど、IDT電極の電極指の幅が変化したときにおける、弾性表面波共振子の周波数の変化量が小さくなる。
【0048】
なお、図7において、菱形で示すデータは、本実施形態の弾性表面波共振子30,40と同じ構成を有する弾性表面波共振子であって、IDT電極の上に形成されている誘電体層のSiO層の弾性表面波の波長で規格化された厚さが0.33である場合のデータである。図7において、正方形で示すデータは、本実施形態の弾性表面波共振子30,40と同じ構成を有する弾性表面波共振子であって、IDT電極の上に形成されている誘電体層のSiO層の弾性表面波の波長で規格化された厚さが0.29である場合のデータである。図7において、三角で示すデータは、本実施形態の弾性表面波共振子30,40と同じ構成を有する弾性表面波共振子であって、IDT電極の上に形成されている誘電体層のSiO層の弾性表面波の波長で規格化された厚さが0.24である場合のデータである。図7において、×で示すデータは、本実施形態の弾性表面波共振子30,40と同じ構成を有する弾性表面波共振子であって、IDT電極の上に形成されている誘電体層のSiO層の弾性表面波の波長で規格化された厚さが0.20である場合のデータである。
【0049】
図7に示す結果から、IDT電極のデューティー比が一定である場合、誘電体層が薄くなるにつれて、IDT電極の周波数の電極指幅依存性が大きくなっていくことが分かる。また、誘電体層の厚さが一定である場合、IDT電極のデューティー比が小さくなるにつれて、IDT電極の周波数の電極指幅依存性が大きくなっていくことが分かる。
【0050】
例えば、ラダー型弾性表面波フィルタ部において、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のIDT電極の上に形成されている誘電体層のSiO層の弾性表面波の波長で規格化された厚さが0.33であり、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のIDT電極の上に形成されている誘電体層のSiO層の弾性表面波の波長で規格化された厚さが0.20である場合において、直列腕共振子及び並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のそれぞれのIDT電極のデューティー比を0.5に統一した場合は、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のIDT電極の周波数の電極指幅依存性と、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のIDT電極の周波数の電極指幅依存性とが、約0.05異なることとなる。このため、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子における誘電体層の厚さと並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子における誘電体層の厚さとが異なる場合は、直列腕共振子及び並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のそれぞれのIDT電極のデューティー比が同じであると、IDT電極の電極指幅に製造ばらつきが生じた場合に、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子の周波数の変化量と、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子の周波数の変化量とが異なり、得られるフィルタ特性にも製造ばらつきが生じる結果となる。その具体例を以下に示す。
【0051】
直列腕共振子を構成する弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比が、並列腕共振子を構成する弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比と等しくされている点以外は、本実施形態の弾性表面波共振子30,40と同じ構成を有する弾性表面波共振子からなるラダー型弾性表面波フィルタ部を有する弾性表面波フィルタ装置を比較例3として用意した。IDT電極の電極指幅に製造ばらつきが生じた場合を想定して、IDT電極の電極指幅を500nmとしたものを比較例3の第1のパターンとし、IDT電極の電極指幅を520nmとしたものを比較例3の第2のパターンとして、送信フィルタのフィルタ特性を測定した。
【0052】
図8に、比較例3の第1のパターンの弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性と、第2のパターンの弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性とを示す。図8において、実線が比較例3の第1のパターンを示し、破線が比較例3の第2のパターンを示す。
【0053】
図8に示すように、比較例3の第1のパターンと第2のパターンでは、送信フィルタのフィルタ特性が異なる。詳細には、比較例3の第1のパターンと第2のパターンでは、送信フィルタの周波数だけではなく、波形も異なっている。比較例3の第2のパターンでは、通過帯域内にリップルが発生している。このように、直列腕共振子を構成する弾性表面波共振子と並列腕共振子を構成する弾性表面波共振子とでIDT電極のデューティー比が等しい場合は、IDT電極の電極指幅に製造ばらつきが生じると、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子の周波数の変化量と、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子の周波数の変化量とが異なることから、送信フィルタのフィルタ特性に製造ばらつきが生じてしまう。
【0054】
ここで、本実施形態の弾性表面波フィルタ装置1では、直列腕共振子S1,S2,S3を構成している弾性表面波共振子30の誘電体層33の厚さが、並列腕共振子P1,P2,P3を構成している弾性表面波共振子40の誘電体層43の厚さと異なっており、かつ、誘電体層の厚さが厚い弾性表面波共振子30のIDT電極32のデューティー比が、誘電体層の厚さが薄い弾性表面波共振子40のIDT電極42のデューティー比よりも小さくされている。このため、本実施形態では、直列腕共振子S1,S2,S3を構成している弾性表面波共振子30のIDT電極32の周波数の電極指幅依存性と、並列腕共振子P1,P2,P3を構成している弾性表面波共振子40のIDT電極42の周波数の電極指幅依存性との差が小さい。従って、IDT電極の電極指幅に製造ばらつきが生じた場合であっても、フィルタ特性の製造ばらつきを抑制することができる。
【0055】
具体的には、例えば、ラダー型弾性表面波フィルタ部において、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のIDT電極の上に形成されている誘電体層のSiO層の弾性表面波の波長で規格化された厚さが0.33であり、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のIDT電極の上に形成されている誘電体層のSiO層の弾性表面波の波長で規格化された厚さが0.20である場合において、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比を0.55とし、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比を0.60とすることによって、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のIDT電極の周波数の電極指幅依存性と、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のIDT電極の周波数の電極指幅依存性とを実質的に等しくすることができる。従って、IDT電極の電極指幅に製造ばらつきが生じた場合であっても、フィルタ特性の製造ばらつきを抑制することができる。その具体例を以下に示す。
【0056】
本実施形態の弾性表面波共振子30,40と同じ構成を有する弾性表面波共振子からなるラダー型弾性表面波フィルタ部を有する弾性表面波フィルタ装置を実施例として用意した。IDT電極の電極指幅に製造ばらつきが生じた場合を想定して、IDT電極の電極指幅を500nmとしたものを実施例の第1のパターンとし、IDT電極の電極指幅を520nmとしたものを実施例の第2のパターンとして、送信フィルタのフィルタ特性を測定した。
【0057】
図9に、実施例の第1のパターンの弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性と、第2のパターンの弾性表面波フィルタ装置の送信フィルタのフィルタ特性とを示す。図9において、実線が実施例の第1のパターンを示し、破線が実施例の第2のパターンを示す。
【0058】
図9に示すように、実施例の第1のパターンと第2のパターンで、送信フィルタのフィルタ特性はほとんど同じである。詳細には、実施例の第1のパターンと第2のパターンでは、送信フィルタの周波数が異なっているものの、波形はほとんど異なっていない。このように、直列腕共振子及び並列腕共振子を構成する弾性表面波共振子において、誘電体層の厚さが厚い弾性表面波共振子30のIDT電極32のデューティー比が、誘電体層の厚さが薄い弾性表面波共振子40のIDT電極42のデューティー比よりも小さい場合は、IDT電極の電極指幅に製造ばらつきが生じても、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子の周波数の変化量と、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子の周波数の変化量とが実質的に等しいことから、送信フィルタのフィルタ特性に製造ばらつきがほとんど生じない。
【0059】
図9では、実施例の第1のパターンと第2のパターンでは、送信フィルタの周波数が異なっているものの、誘電体層33,43のSiN層33b,43bの厚さを調整することにより、所望の周波数にすることができる。
【0060】
なお、本実施形態では、直列腕共振子S1,S2,S3を構成している弾性表面波共振子30における誘電体層33の厚さt1が、並列腕共振子P1,P2,P3を構成している弾性表面波共振子40における誘電体層43の厚さt2よりも厚くされているため、直列腕共振子S1,S2,S3を構成している弾性表面波共振子30のIDT電極32のデューティー比が、並列腕共振子P1,P2,P3を構成している弾性表面波共振子40のIDT電極42のデューティー比よりも小さくされている。
【0061】
本発明において、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子における誘電体層の厚さが、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子における誘電体層の厚さよりも厚くされている弾性表面波フィルタ装置では、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比が、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比よりも小さくされる。この場合においても、送信フィルタのフィルタ特性に製造ばらつきがほとんど生じない。
【0062】
なお、本実施形態では、直列腕共振子S1,S2,S3を構成している弾性表面波共振子30のIDT電極32のデューティー比が、並列腕共振子P1,P2,P3を構成している弾性表面波共振子40のIDT電極42のデューティー比よりも小さくされているが、直列腕共振子又は並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子の全ての弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比を同じ大きさにする必要はない。例えば、直列腕共振子又は並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のうち、特定の弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比を他の弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比と異ならせてもよい。特に、直列腕共振子又は並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のうち、特定の弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比を他の弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比と異ならせ、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比の平均値と、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比平均値とが異なっていればよい。
【0063】
図7をより詳細に検討すると、下記の関係式(1)が成り立つことが分かる。
【0064】
(IDT電極の周波数の電極指幅依存性)=−0.656+0.337×(誘電体層の弾性表面波の波長で規格化された厚さ)+0.724×(IDT電極のデューティー比) ……… (1)
【0065】
このため、以下の式(2)を満足するようにIDT電極のデューティー比を設定することが理想的である。
【0066】
D2=D1+0.465×(t1−t2) ……… (2)
但し、
t1:直列腕共振子又は並列腕共振子を構成しており、誘電体層の厚さが厚い弾性表面波共振子の誘電体層の弾性表面波の波長で規格化された厚さ、
t2:直列腕共振子又は並列腕共振子を構成しており、誘電体層の厚さが薄い弾性表面波共振子の誘電体層の弾性表面波の波長で規格化された厚さ、
D1:直列腕共振子又は並列腕共振子を構成しており、誘電体層の厚さが厚い弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比の平均値、
D2:直列腕共振子又は並列腕共振子を構成しており、誘電体層の厚さが薄い弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比の平均値、
である。
【0067】
しかしながら、実際上は、上記式(2)を満たす必要は必ずしもない。なぜなら、直列腕共振子又は並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子の中には、フィルタ波形への影響が大きいものと、フィルタ波形への影響が小さいものとがあるためである。従って、直列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のうち、フィルタ波形への影響が大きい弾性表面波共振子と、並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のうち、フィルタ波形への影響が大きい弾性表面波共振子との間で上記式(2)が成立することが好ましい。このような観点から、下記の式(3)が成立することが好ましい。
【0068】
D1<D2<D1+0.465×(t1−t2) ……… (3)
【0069】
なお、直列腕共振子又は並列腕共振子を構成している弾性表面波共振子のそれぞれのIDT電極のデューティー比は、0.4〜0.6の範囲内にあることが好ましい。このようにすることにより、急峻なフィルタ特性を実現できると共に、通過帯域が広くすることができ、フィルタ特性の製造ばらつきが小さくすることができる。
【0070】
次に、本実施形態の送信フィルタ20の製造方法の一例について説明する。
【0071】
まず、圧電基板31上にIDT電極32,42を形成する。IDT電極32,42は、例えば、蒸着法やスパッタリング法により形成することができる。
【0072】
次に、圧電基板31の上にIDT電極32,42を覆うように、SiO層を形成する。SiO層は、例えば、バイアススパッタリング法などにより形成することができる。次に、形成したSiO層の表面をエッチバック工法により平坦化する。
【0073】
次に、直列腕共振子S1,S2,S3を構成している弾性表面波共振子30のIDT電極32の上に、レジストなどからなるマスクを形成し、並列腕共振子P1,P2,P3を構成している弾性表面波共振子40のIDT電極42の上のSiO層をエッチングすることにより、SiO層33a,43aを形成する。その後、マスクを剥離する。
【0074】
最後に、SiN層33b,43bを形成することにより送信フィルタ20を形成することができる。
【符号の説明】
【0075】
1…弾性表面波フィルタ装置
10…アンテナ端子
11…送信側信号端子
12…受信側信号端子
13…受信フィルタ
20…送信フィルタ
21…直列腕
22,23,24…並列腕
30,40…弾性表面波共振子
31…圧電基板
31a…主面
32,42…IDT電極
33,43…誘電体層
33a,43a…SiO
33b,43b…SiN層
P1,P2,P3…並列腕共振子
S1,S2,S3…直列腕共振子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列腕と、
前記直列腕において接続されている直列腕共振子と、
前記直列腕とグラウンドとを接続している並列腕と、
前記並列腕に設けられている並列腕共振子と、
を有するラダー型弾性表面波フィルタ部を備える弾性表面波フィルタ装置であって、
前記直列腕共振子と前記並列腕共振子とのそれぞれは、圧電基板と、前記圧電基板の上に形成されたIDT電極と、前記IDT電極を覆うように形成された誘電体層とを有する弾性表面波共振子により構成されており、
前記直列腕共振子を構成する弾性表面波共振子の誘電体層の厚さが、前記並列腕共振子を構成する弾性表面波共振子の誘電体層の厚さと異なっており、かつ、前記誘電体層の厚さが厚い弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比が、前記誘電体層の厚さが薄い弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比よりも小さい、弾性表面波フィルタ装置。
【請求項2】
前記直列腕共振子と前記並列腕共振子とのそれぞれは、複数の弾性表面波共振子により構成されており、前記誘電体層の厚さが厚い弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比の平均値が、前記誘電体層の厚さが薄い弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比の平均値よりも小さい、請求項1に記載の弾性表面波フィルタ装置。
【請求項3】
前記直列腕共振子及び前記並列腕共振子のそれぞれを構成する弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比が0.4〜0.6の範囲内にある、請求項1または2に記載の弾性表面波フィルタ装置。
【請求項4】
前記直列腕共振子又は並列腕共振子を構成しており、誘電体層の厚さが厚い弾性表面波共振子の誘電体層の弾性表面波の波長で規格化された厚さをt1、前記直列腕共振子又は並列腕共振子を構成しており、誘電体層の厚さが薄い弾性表面波共振子の誘電体層の弾性表面波の波長で規格化された厚さをt2、前記直列腕共振子又は並列腕共振子を構成しており、誘電体層の厚さが厚い弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比の平均値をD1、前記直列腕共振子又は並列腕共振子を構成しており、誘電体層の厚さが薄い弾性表面波共振子のIDT電極のデューティー比の平均値をD2としたときに、
D1<D2<D1+0.465×(t1−t2)
を満たす、請求項1〜3のいずれか一項に記載の弾性表面波フィルタ装置。
【請求項5】
前記圧電基板がLiNbO基板からなり、主モードとしてレイリー波を利用する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の弾性表面波フィルタ装置。
【請求項6】
前記誘電体層は、SiO層を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の弾性表面波フィルタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−175315(P2012−175315A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34175(P2011−34175)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】