説明

弾性表面波フィルタ

【課題】基板の面積を大きくすることなく、肩特性を急峻にすることができる弾性表面波フィルタを提供すること。
【解決手段】弾性表面波フィルタ10は、圧電基板11、斜め電極指12〜15、第1反射器群16、第2反射器群17を備え、斜め電極指12及び13と斜め電極指14及び15との間には、複数の反射器16aを有する第1反射器群16と、複数の反射器17aを有する第2反射器群17とを備え、第1反射器群16は、通過帯域の低域側周波数よりも予め定めた周波数だけ低い周波数成分の弾性表面波を反射し、第2反射器群17は、通過帯域の高域側周波数よりも予め定めた周波数だけ高い周波数成分の弾性表面波を反射する構成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば移動体通信機器に用いられる弾性表面波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の弾性表面波フィルタとして、圧電性を有する基板上に、電気信号を入力し弾性表面波を生成する複数の斜め電極指を有する入力側の斜め電極と、弾性表面波を受信して電気信号に変換する複数の斜め電極指を有する出力側の斜め電極とを備え、入力側及び出力側の各斜め電極指は、互いに隣接する電極指同士の間隔が、弾性表面波の伝搬方向と直交する方向に変化するよう形成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
弾性表面波フィルタにおいて、周波数が互いに近接する信号を好適に分離するには、信号の通過帯域から阻止帯域にかけて急激に減衰量が増加する急峻なフィルタ特性が必要とされる。そのため、例えば、入力側及び出力側の斜め電極において斜め電極指の対数を増加させ、フィルタ波形における立ち上がり部及び立ち下がり部の周波数特性(以下「肩特性」という。)を急峻にする手法が挙げられる。この場合、斜め電極指の対数の増加により、入力側の斜め電極と出力側の斜め電極とが互いに近接し、両者間で電磁結合が生じてしまう。
【0004】
したがって、従来のものでは、肩特性を急峻にしようとすると、入力側の斜め電極と出力側の斜め電極とを互いに離して電磁結合を抑制する必要があるので、基板の面積が大きくなってしまい、小型化が図れないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−057551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであり、基板の面積を大きくすることなく、肩特性を急峻にすることができる弾性表面波フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の弾性表面波フィルタは、第1周波数から前記第1周波数よりも高い第2周波数までの周波数範囲の電気信号を通過させる弾性表面波フィルタであって、圧電基板と、前記圧電基板上に形成され電気信号を入力して前記第1周波数から前記第2周波数までの周波数に応じた弾性表面波を生成する弾性表面波生成手段と、前記圧電基板上に形成され前記弾性表面波生成手段が生成した前記弾性表面波を受信して電気信号に変換する弾性表面波受信手段と、前記弾性表面波生成手段と前記弾性表面波受信手段との間において前記弾性表面波生成手段が生成した前記弾性表面波の一部を反射する弾性表面波反射手段とを備え、前記弾性表面波反射手段は、前記第1周波数よりも予め定めた周波数だけ低い周波数及び前記第2周波数よりも予め定めた周波数だけ高い周波数の少なくともいずれか一方を中心周波数とする弾性表面波を反射するものである構成を有している。
【0008】
この構成により、本発明の弾性表面波フィルタは、弾性表面波反射手段が、第1周波数よりも予め定めた周波数だけ低い周波数及び第2周波数よりも予め定めた周波数だけ高い周波数の少なくともいずれか一方を中心周波数とする弾性表面波を反射することにより、基板の面積を大きくすることなく、肩特性を急峻にすることができる。
【0009】
また、本発明の弾性表面波フィルタは、前記弾性表面波生成手段は、前記弾性表面波を生成する複数の生成電極指を有する一対の生成側斜め電極を備え、前記生成側斜め電極は、互いに隣接する生成電極指の電極指間隔が前記弾性表面波の伝搬方向と直交する直交方向の一の方向に沿って徐々に広がるものであって、最大及び最小の電極指間隔となるそれぞれの位置で第1及び第2の波長の弾性表面波を生成するものであり、前記弾性表面波受信手段は、前記弾性表面波を受信する複数の受信電極指を有する一対の受信側斜め電極を備え、前記受信側斜め電極は、互いに隣接する受信電極指の電極指間隔が前記一の方向に沿って徐々に広がるものであって、最大及び最小の電極指間隔となるそれぞれの位置で第1及び第2の波長の弾性表面波を受信するものであり、前記弾性表面波反射手段は、前記弾性表面波の伝搬方向に沿って配置された複数の反射器をそれぞれ含む第1反射器群及び第2反射器群の少なくともいずれか一方を備え、前記第1反射器群が備える前記複数の反射器は、それぞれ、互いに隣接する反射器の反射器間隔が前記第1の波長の半分よりも大きい間隔で配置されたものであり、前記第2反射器群が備える前記複数の反射器は、それぞれ、互いに隣接する反射器の反射器間隔が前記第2の波長の半分よりも小さい間隔で配置されたものである構成を有している。
【0010】
この構成により、本発明の弾性表面波フィルタは、弾性表面波反射手段が、通過帯域の低域側及び高域側の少なくともいずれか一方に対応する周波数の弾性表面波を反射することにより、基板の面積を大きくすることなく、肩特性を急峻にすることができる。
【0011】
さらに、本発明の弾性表面波フィルタは、前記第1反射器群が備える前記複数の反射器は、それぞれ、前記生成側斜め電極の前記最大の電極指間隔となる位置と前記受信側斜め電極の前記最大の電極指間隔となる位置とを結んだ線分に重なる領域に配置されたものであり、前記第2反射器群が備える前記複数の反射器は、それぞれ、前記生成側斜め電極の前記最小の電極指間隔となる位置と前記受信側斜め電極の前記最小の電極指間隔となる位置とを結んだ線分に重なる領域に配置されたものである構成を有している。
【0012】
この構成により、本発明の弾性表面波フィルタは、第1反射器群及び第2反射器群が、所望する周波成分を有する弾性表面波をより広範囲に渡って反射することができる。
【0013】
さらに、本発明の弾性表面波フィルタは、前記弾性表面波反射手段が、前記第1反射器群と前記第2反射器群とが電気的に接続されたものである構成を有している。
【0014】
この構成により、本発明の弾性表面波フィルタは、第1反射器群と第2反射器群とを一体化して備え、弾性表面波をより広範囲に渡って反射することができる。
【0015】
さらに、本発明の弾性表面波フィルタは、前記弾性表面波反射手段が、接地されたものである構成を有している。
【0016】
この構成により、本発明の弾性表面波フィルタは、弾性表面波生成手段と弾性表面波受信手段との間において生じる電磁結合を抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、基板の面積を大きくすることなく、肩特性を急峻にすることができるという効果を有する弾性表面波フィルタを提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態における弾性表面波フィルタの構成を概念的に示す図である。
【図2】図2は、本発明の第1実施形態における反射器の基本機能についての説明図である。
【図3】図3は、本発明の第1実施形態における弾性表面波フィルタにおいて、急峻な肩特性を得る原理を示す図である。
【図4】図4は、本発明の第1実施形態における弾性表面波フィルタのシミュレーション結果を従来のものと対比して示す図である。
【図5】図5は、本発明の第2実施形態における弾性表面波フィルタの構成を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0020】
(第1実施形態)
まず、本発明に係る弾性表面波フィルタの第1実施形態における構成について図1を用いて説明する。図1は、本実施形態における弾性表面波フィルタ10の構成を概念的に示した図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態における弾性表面波フィルタ10は、圧電基板11と、圧電基板11上に同一膜厚の金属薄膜で形成された斜め電極指12〜15、第1反射器群16及び第2反射器群17とを備えている。なお、図1において、構成を分かりやすくするため、斜め電極指12及び14の電極指を各4つ、斜め電極指13及び15の電極指を各3つとしている。
【0022】
圧電基板11は、例えば、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、ランガサイト等の強誘電体の圧電材料で構成される。本実施形態では、圧電基板11は、128度YカットLiNbO単結晶基板で構成され、図1に示すような長方形の形状を有するものとする。以下、圧電基板11の長辺方向及び短辺方向を、それぞれ、横方向及び縦方向という。
【0023】
斜め電極指12及び13は、例えばAlCu合金の金属薄膜により圧電基板11上に形成され、それぞれの電極指が交互に隣接するよう配置されている。また、斜め電極指12及び13は、例えば斜め電極指13が接地側になるよう電気信号源(図示省略)に接続され、この電気信号源から電気信号を入力するようになっている。なお、斜め電極指12及び13は、本発明に係る弾性表面波生成手段を構成し、斜め電極指12及び13が有する各電極指は、本発明に係る生成電極指を構成する。
【0024】
また、斜め電極指12及び13において、互いに隣接する電極指同士の間隔は、縦方向上方に向かうに従って大きくなるよう形成され、斜め電極指12及び13は、それぞれ、電極指端部12a及び13aを有する。ここで、図示のように、電極指端部13a側においては波長がλ1の弾性表面波が生成されるようになっており、線分A上における斜め電極指12及び13の電極指間隔はそれぞれλ1である。一方、電極指端部12a側においては波長がλ2の弾性表面波が生成されるようになっており、線分B上における斜め電極指12及び13の電極指間隔はそれぞれλ2である。すなわち、斜め電極指12及び13においては、電極指間隔は、最大間隔のλ1から最小間隔のλ2までの間で変化している。なお、λ1は本発明に係る第1の波長に対応し、λ2は本発明に係る第2の波長に対応する。
【0025】
他方、斜め電極指14及び15は、それぞれ、斜め電極指12及び13と同様に構成されている。すなわち、斜め電極指14及び15は、例えばAlCu合金の金属薄膜により圧電基板11上に形成され、それぞれの電極指が交互に隣接するよう配置されている。また、斜め電極指14及び15は、例えば斜め電極指15が接地側に接続され、弾性表面波を受信して電気信号に変換し、変換した電気信号を出力するようになっている。なお、斜め電極指14及び15は、本発明に係る弾性表面波受信手段を構成し、斜め電極指14及び15が有する各電極指は、本発明に係る受信電極指を構成する。
【0026】
また、斜め電極指14及び15において、互いに隣接する電極指同士の間隔は、縦方向上方に向かうに従って大きくなるよう形成され、斜め電極指14及び15は、それぞれ、電極指端部14a及び15aを有する。また、電極指端部15a側においては波長がλ1の弾性表面波が受信されるようになっており、線分A上における斜め電極指14及び15の電極指間隔はそれぞれλ1である。一方、電極指端部14a側においては波長がλ2の弾性表面波が受信されるようになっており、線分B上における斜め電極指14及び15の電極指間隔はそれぞれλ2である。すなわち、斜め電極指14及び15においても、電極指間隔は、最大間隔のλ1から最小間隔のλ2までの間で変化する構成となっている。
【0027】
前述の構成において、斜め電極指12及び13は、図示しない電気信号源から電気信号を入力し、電気信号に含まれる周波数成分のうち、電極指間隔λ1からλ2までの距離に対応した周波数成分を有する弾性表面波を、圧電基板11による圧電効果に基づいて生成するようになっている。具体的には、電極指間隔λ1において生成される弾性表面波の周波数を第1周波数とし、電極指間隔λ2において生成される弾性表面波の周波数を第2周波数とすると、斜め電極指12及び13は、入力した電気信号に含まれる周波数成分のうち第1周波数から第2周波数までの周波数成分に対応した弾性表面波を生成するようになっている。
【0028】
斜め電極指12及び13が生成した弾性表面波は、圧電基板11の表面を伝搬して横方向に進み、斜め電極指14及び15によって受信されるようになっている。斜め電極指14及び15は、受信した弾性表面波を、圧電基板11による圧電効果に基づいて電気信号に変換し、第1周波数から第2周波数までの周波数成分を含む電気信号を出力するようになっている。
【0029】
斜め電極指12及び13と、斜め電極指14及び15との間の圧電基板11上には、第1反射器群16及び第2反射器群17が設けられている。以下、第1反射器群16及び第2反射器群17について詳細に説明する。
【0030】
図1に示した線分Aは、電極指端部13aと電極指端部15aとを結んだ線分であり、線分Bは、電極指端部12aと電極指端部14aとを結んだ線分である。また、便宜上、線分AとBとの間を6つのチャンネルch1〜ch6に等分割して示している。ch1からch6に向かうに従って電極指間は狭くなっており、ch1において最も低い周波数の弾性表面波が伝搬し、ch6において最も高い周波数の弾性表面波が伝搬する。
【0031】
第1反射器群16及び第2反射器群17は、例えばAlCu合金の金属薄膜により圧電基板11上に形成され、所定周波数の弾性表面波を反射するようになっている。第1反射器群16は複数の反射器16aを備え、第2反射器群17は複数の反射器17aを備えている。各反射器16aの反射器間隔は1/2・λ3であり、λ1<λ3という関係を有する。また、各反射器17aの反射器間隔は1/2・λ4であり、λ2>λ4という関係を有する。なお、第1反射器群16及び第2反射器群17は、本発明に係る弾性表面波反射手段を構成する。
【0032】
複数の反射器16aは、それぞれ、ch1の縦方向の領域と、線分Aから縦方向上方に所定寸法だけ突出した領域とに渡って形成されている。また、複数の反射器17aは、それぞれ、ch6の縦方向の領域と、線分Bから縦方向下方に所定寸法だけ突出した領域とに渡って形成されている。
【0033】
前述の構成により、第1反射器群16は、第1周波数よりも予め定めた周波数だけ低い周波数成分の弾性表面波を反射し、第2反射器群17は、第2周波数よりも予め定めた周波数だけ高い周波数成分の弾性表面波を反射するようになっている。
【0034】
以上説明した斜め電極指12〜15、第1反射器群16及び第2反射器群17の形成方法としては、例えば、圧電基板11上にスパッタにより金属薄膜を成膜した後、所望のパターンを残しフォトリソグラフ技術により不要な部分をエッチング除去することにより形成される。
【0035】
次に、反射器16a及び17aの機能について図2〜図4を用いて説明する。
【0036】
まず、図2を用いて、一般的な反射器の基本機能について説明する。図2(a)に示すように、斜め電極指12及び13と斜め電極指14及び15との間に反射器を備えていない構成では、図2(a)右に示す挿入損失の特性が得られる。これに対し、図2(b)に示すように、反射器18を追加した場合、反射器18の幅及び反射器間隔に対応する周波数成分の信号が低下し、ノッチフィルタを構成することができる。本出願人は、この点に着目し、検討を行った結果、前述の課題を解決するに至った。なお、反射器を設ける構成については、本出願人が特開昭61−289714号公報において提案している。
【0037】
次に、本実施形態における弾性表面波フィルタ10において、急峻な肩特性を得る原理について図3に基づき説明する。
【0038】
図3(a)は、斜め電極指12及び13が生成した弾性表面波の合成波形21を概念的に示したものである。弾性表面波の合成波形21は、ch1〜ch6(図1参照)の各領域で生成された弾性表面波の各成分が合成されたものであり、波形の立ち上がり部21aと波形の立ち下がり部21bとを含む。
【0039】
図3(b)は、波形の立ち上がり部21aを拡大した図であり、斜め電極指12及び13(図1参照)により生成された弾性表面波のうち、電極指間隔λ1に対応して生成された弾性表面波の中心周波数をfで示している。
【0040】
斜め電極指12及び13により生成された弾性表面波のうち、第1反射器群16(図1参照)が反射する反射波の中心周波数をfで表すと、周波数fを中心とするノッチフィルタが生成される。図3(c)は、ノッチフィルタによるノッチ特性22の中心周波数fが、周波数fよりも所定周波数だけ低い側に設定された例を示している。ここで、周波数f及びfは、それぞれ、図1における電極指間隔λ1及び反射器間隔1/2・λ3に対応して決定されるものであって、予めシミュレーションや実験等を行って設定するのが好ましい。
【0041】
図3(d)は、弾性表面波の合成波形21とノッチ特性22とによって、立ち上がり部21cが新たに生成された状態を示している。図示のように、新たに生成された立ち上がり部21cは、元の立ち上がり部21aよりも急峻になっている。
【0042】
したがって、本実施形態における弾性表面波フィルタ10は、通過帯域の低域側の肩特性を急峻にすることができる。
【0043】
以上の説明は、弾性表面波フィルタ10の通過帯域の低域側に関するものであったが、高域側においては、図1における電極指間隔λ2及び反射器間隔1/2・λ4を所望値に設定することにより、低域側と同様に急峻な肩特性が得られる。
【0044】
したがって、本実施形態における弾性表面波フィルタ10は、通過帯域の低域側及び高域側の少なくともいずれか一方の肩特性を急峻にすることができる。
【0045】
なお、前述の構成では、第1反射器群16及び第2反射器群17の膜厚と、斜め電極指12〜15の膜厚とを同一としているが、これに限定されず、第1反射器群16及び第2反射器群17の膜厚のいずれか一方又は両方を、斜め電極指12〜15の膜厚よりも厚くしたり、薄くしたりすることも可能である。ただし、反射器の膜厚が増大するに従って弾性表面波の速度が低下するので、反射器の膜厚のみを変更するのは好ましくなく、反射器の膜厚の変更による弾性表面波の速度変化を考慮し、ノッチ特性の中心周波数が所望の周波数となるよう反射器間隔も同時に変更するのが好ましい。また、第1反射器群16及び第2反射器群17に替えて、これらの領域に、例えば、イオンエッチングやイオン打ち込み法等によってグレーティング構造体としての溝を設ける構成としてもよい。
【0046】
次に、本実施形態における弾性表面波フィルタ10による効果についてシミュレーション結果に基づき説明する。表1は、弾性表面波フィルタ10のシミュレーション条件を示すものであり、設計目標値として、通過帯域の中心周波数を174MHz、通過帯域の帯域幅を22MHzとしている。
【0047】
【表1】

【0048】
表1において、伝搬距離とは図1に矢印で示した距離をいい、開口長とは図1において電極指端部12aと電極指端部13aとの間(線分AとBとの間)の長さをいう。また、λは弾性表面波の波長を示す。また、低域側の電極設計周波数(161.55MHz)は図3における周波数fに相当し、低域側の反射器設計周波数(160.8MHz)は同図における周波数fに相当する。また、図3では説明を省略したが、高域側の電極設計周波数を186.66MHzとし、高域側の反射器設計周波数を188.0MHzとしている。
【0049】
図4及び表2は、弾性表面波フィルタ10のシミュレーション結果を、従来のものと対比して示したものである。
【0050】
【表2】

【0051】
図4に示すように、本実施形態における弾性表面波フィルタ10によれば、従来のものよりも急峻な肩特性が得られている。具体的には、表2に示すように、弾性表面波フィルタ10は、従来のものに対し、通過帯域レベルから3dB低レベルの3dB帯域幅においては1MHz、通過帯域レベルから40dB低レベルの40dB帯域幅においては4MHzも帯域幅が狭くなっている。また、40dB帯域幅と3dB帯域幅との比については、弾性表面波フィルタ10は、従来のものに対し、約1割も狭くなっており、肩特性が改善されていることがわかる。
【0052】
次に、本実施形態における弾性表面波フィルタ10の動作について図1を用いて説明する。なお、弾性表面波フィルタ10が前述のシミュレーション条件を前提に構成されているものとして説明する。
【0053】
斜め電極指12及び13が電気信号を入力すると、圧電基板11が圧電効果によって振動し、最大間隔のλ1から最小間隔のλ2までの電極指間隔に応じた弾性表面波が生成される。すなわち、斜め電極指12及び13は、通過帯域の中心周波数が174MHz、通過帯域の設計周波数が161.55MHz〜186.66MHzの弾性表面波を生成する。この弾性表面波は、圧電基板11の表面を伝搬して横方向に進む。
【0054】
第1反射器群16の反射器16aは、圧電基板11の表面を伝搬する弾性表面波のうち、160.8MHzを中心周波数とする低域側の周波数成分を反射する。
【0055】
また、第2反射器群17の反射器17aは、圧電基板11の表面を伝搬する弾性表面波のうち、188.0MHzを中心周波数とする高域側の周波数成分を反射する。
【0056】
その結果、斜め電極指14及び15は、160.8MHz及び188.0MHzを中心周波数とする周波数成分が除去された弾性表面波、すなわち、低域側及び高域側の肩特性が急峻になった弾性表面波を、圧電基板11の圧電効果により受信して電気信号に変換し出力する。
【0057】
以上のように、本実施形態における弾性表面波フィルタ10によれば、斜め電極指12及び13が生成した弾性表面波のうち、第1反射器群16の反射器16aが、所定の低域側中心周波数の弾性表面波成分を反射し、第2反射器群17の反射器17aが、所定の高域側中心周波数の弾性表面波成分を反射する構成としたので、基板の面積を大きくすることなく、肩特性を急峻にすることができる。
【0058】
したがって、本実施形態における弾性表面波フィルタ10は、装置の小型化が必要とされる携帯電話のような移動体通信機器等の弾性表面波フィルタとして好適に適用することができる。
【0059】
なお、第1実施形態において、弾性表面波フィルタ10が第1反射器群16及び第2反射器群17の両方を備える構成を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1反射器群16及び第2反射器群17のいずれか一方を備えるものであってもよく、用途に合わせた構成を採ることができる。例えば、弾性表面波フィルタ10が反射器として第1反射器群16のみを備える構成により、通過帯域の低域側のみ急峻な肩特性を必要とする装置に適用することができる。また、この構成により、低域側の不要な信号成分、例えばサイドローブを簡単な構成で除去することもできる。
【0060】
また、第1実施形態において、複数の反射器16aを線分Aに重なる領域に配置し、線分Aよりも外側に突出させる例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、複数の反射器16aをch1の縦方向の領域(全幅内)に収まるよう設け、線分Aの外側に突出させない構成としてもよい。複数の反射器17aについても同様に、ch6の縦方向の領域に収まるよう設け、線分Bの外側に突出させない構成としてもよい。
【0061】
また、第1実施形態において、複数の反射器16aがそれぞれ弾性表面波の進行方向と直交する方向に配置した例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、弾性表面波の進行方向に対して予め定めた角度だけ傾けた構成としてもよい。複数の反射器17aについても同様である。
【0062】
また、第1実施形態において、複数の反射器16a及び17aを接地に接続する構成としてもよい。この構成により、弾性表面波フィルタ10は、斜め電極指12及び13と、斜め電極指14及び15との間の電磁結合を抑制することができて好ましい。
【0063】
また、第1実施形態において、斜め電極指12〜15として、いわゆるシングル電極と呼ばれるものを例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、いわゆるダブル電極、浮き電極型一方向性電極、分布音響反射型一方向性電極等においても同様な効果が得られる。
【0064】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る弾性表面波フィルタの第2実施形態について説明する。
【0065】
前述の第1実施形態では、図1に示したように、第1反射器群16の反射器16aと、第2反射器群17の反射器17aとを個別に構成したが、本実施形態では、図5に示すような構成となっている。
【0066】
すなわち、図5に示す弾性表面波フィルタ30は、接地に接続された一体反射器31を有し、一体反射器31は、複数の反射器31aと、複数の反射器31aを電気的に接続する接続部31bと、複数の反射器31cと、複数の反射器31cを電気的に接続する接続部31dとを備える。なお、第1実施形態と同様な構成については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0067】
複数の反射器31aは、それぞれ、第1実施形態における反射器16aを線分B側に延長したものであり、反射器16aと同様に、通過帯域の低域側周波数成分を有する弾性表面波を反射するようになっている。また、複数の反射器31cは、第1実施形態における反射器17aを線分A側に延長したものであり、反射器17aと同様に、通過帯域の低域側周波数成分を有する弾性表面波を反射するようになっている。さらに、複数の反射器31aと複数の反射器31cとが、線分AとBとの中心付近で図示のように電気的に接続されている。
【0068】
前述のように、弾性表面波フィルタ30は、第1実施形態よりも広範囲に渡る反射器31a及び反射器31cを設ける構成としたので、通過帯域の低域側及び高域側の所望周波数成分の弾性表面波をより確実に反射することができ、基板の面積を大きくすることなく、肩特性を急峻にすることができる。
【0069】
また、弾性表面波フィルタ30は、接地に接続された一体反射器31を備えるので、斜め電極指12及び13と、斜め電極指14及び15との間の電磁結合を抑制することができる。
【0070】
なお、第2実施形態において、一体反射器31が接地に接続された例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、一体反射器31が接地に接続されていなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明に係る弾性表面波フィルタは、基板の面積を大きくすることなく、肩特性を急峻にすることができるという効果を有し、移動体通信機器等の弾性表面波フィルタとして有用である。
【符号の説明】
【0072】
10 弾性表面波フィルタ
11 圧電基板
12〜15 斜め電極指
12a、13a、14a、15a 電極指端部
16 第1反射器群
16a 反射器
17 第2反射器群
17a 反射器
18 反射器
21 弾性表面波の合成波形
21a、21c 波形の立ち上がり部
21b 波形の立ち下がり部
22 ノッチ特性
30 弾性表面波フィルタ
31 一体反射器
31a、31c 反射器
31b、31d 接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1周波数から前記第1周波数よりも高い第2周波数までの周波数範囲の電気信号を通過させる弾性表面波フィルタであって、
圧電基板と、前記圧電基板上に形成され電気信号を入力して前記第1周波数から前記第2周波数までの周波数に応じた弾性表面波を生成する弾性表面波生成手段と、前記圧電基板上に形成され前記弾性表面波生成手段が生成した前記弾性表面波を受信して電気信号に変換する弾性表面波受信手段と、前記弾性表面波生成手段と前記弾性表面波受信手段との間において前記弾性表面波生成手段が生成した前記弾性表面波の一部を反射する弾性表面波反射手段とを備え、
前記弾性表面波反射手段は、前記第1周波数よりも予め定めた周波数だけ低い周波数及び前記第2周波数よりも予め定めた周波数だけ高い周波数の少なくともいずれか一方を中心周波数とする弾性表面波を反射するものであることを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項2】
前記弾性表面波生成手段は、前記弾性表面波を生成する複数の生成電極指を有する一対の生成側斜め電極を備え、
前記生成側斜め電極は、互いに隣接する生成電極指の電極指間隔が前記弾性表面波の伝搬方向と直交する直交方向の一の方向に沿って徐々に広がるものであって、最大及び最小の電極指間隔となるそれぞれの位置で第1及び第2の波長の弾性表面波を生成するものであり、
前記弾性表面波受信手段は、前記弾性表面波を受信する複数の受信電極指を有する一対の受信側斜め電極を備え、
前記受信側斜め電極は、互いに隣接する受信電極指の電極指間隔が前記一の方向に沿って徐々に広がるものであって、最大及び最小の電極指間隔となるそれぞれの位置で第1及び第2の波長の弾性表面波を受信するものであり、
前記弾性表面波反射手段は、前記弾性表面波の伝搬方向に沿って配置された複数の反射器をそれぞれ含む第1反射器群及び第2反射器群の少なくともいずれか一方を備え、
前記第1反射器群が備える前記複数の反射器は、それぞれ、互いに隣接する反射器の反射器間隔が前記第1の波長の半分よりも大きい間隔で配置されたものであり、
前記第2反射器群が備える前記複数の反射器は、それぞれ、互いに隣接する反射器の反射器間隔が前記第2の波長の半分よりも小さい間隔で配置されたものであることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項3】
前記第1反射器群が備える前記複数の反射器は、それぞれ、前記生成側斜め電極の前記最大の電極指間隔となる位置と前記受信側斜め電極の前記最大の電極指間隔となる位置とを結んだ線分に重なる領域に配置されたものであり、
前記第2反射器群が備える前記複数の反射器は、それぞれ、前記生成側斜め電極の前記最小の電極指間隔となる位置と前記受信側斜め電極の前記最小の電極指間隔となる位置とを結んだ線分に重なる領域に配置されたものであることを特徴とする請求項2に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項4】
前記弾性表面波反射手段は、前記第1反射器群と前記第2反射器群とが電気的に接続されたものであることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項5】
前記弾性表面波反射手段は、接地されたものであることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の弾性表面波フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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