説明

弾性表面波共振器および弾性表面波装置並びに通信装置

【課題】通過帯域幅を広く保ちつつ挿入損失劣化を低減し、通過帯域平坦性を向上できる弾性表面波装置と通信装置の提供。
【解決手段】圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に対して直交する方向に電極指を多数本有する複数のIDT電極2〜7を配設し、隣り合う2つのIDT電極が各々、相手側の端部から一部分であって、電極指ピッチが残りの部分の電極指ピッチと異なる第1の部分L2、L3と、電極指ピッチが一定な第2の部分L1,L4とで構成され、第1の部分L2,L3の電極指ピッチの平均値が第2の部分L1,L4の電極指ピッチより短く形成され、且つ第1の部分L2,L3の電極指ピッチが隣り合う2つのIDT電極の境界に向かって短くなり、第1の部分L2,L3において電極指ピッチの極小部を複数備え、隣り合う2つのIDT電極間の境界における電極指ピッチが、隣り合う2つのIDT電極の第2の部分の電極指ピッチよりも短くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話等の移動体通信機器に用いられる弾性表面波フィルタや弾性表面波共振器などの弾性表面波装置およびこれを備えた通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話や自動車電話等の移動体通信機器のRF段に用いられる周波数選択フィルタとして、弾性表面波フィルタが広く用いられている。一般に、周波数選択フィルタに求められる特性としては、広通過帯域、低損失、高減衰量などの諸特性が挙げられる。近年、特に移動体通信機器における受信感度の向上、低消費電力化のために、さらに弾性表面波フィルタに対する低損失化の要求が高まっている。その理由としては、近年、移動体通信機器において、小型化のためアンテナが従来のホイップアンテナから誘電体セラミックス等を用いた内蔵アンテナに移行してきており、そのため、アンテナのゲインを充分に得ることが難しくなり、弾性表面波フィルタに対してさらに挿入損失を改善させる要求が増大しているためである。
【0003】
近年、小形化、無調整化を図ることができる弾性表面波フィルタが各種通信装置に使用されるようになり、通信装置の高周波化,高機能化の進展にともない、弾性表面波フィルタを広帯域化する要求が益々増大してきている。例えば、1.9GHz帯の携帯電話用フィルタとしては、実効通過帯域幅が80MHz以上(比帯域幅約4%以上)もある高性能な広帯域フィルタが望まれている。
【0004】
このような広帯域化を実現するために、例えば、圧電基板上に3つのIDT電極(Inter Digital Transducer)を設け、縦1次モードと縦3次モードを利用した2重モード弾性表面波共振器フィルタが提案されている。
【0005】
図5(b)に従来の共振器型弾性表面波フィルタの電極構造の平面図を示す。また、図5(a)は(b)の共振器型弾性表面波フィルタの各電極の位置(横軸)と電極指のピッチ(縦軸)との関係を示すグラフである。圧電基板202上に配設された複数の電極指を有
するIDT電極204は、互いに対向させるとともに噛み合わせた状態の一対の櫛歯状電極からなり、この一対の櫛歯状電極に電界を印加し弾性表面波を生じさせるものである。IDT電極204の一方の櫛歯状電極に接続された入力端子215から電気信号を入力することにより、励振された弾性表面波がIDT電極204の両側に配置されたIDT電極203,205に伝搬する。また、IDT電極203,205のそれぞれを構成する一方の櫛歯状電極からIDT電極206,209を通じて出力端子216,217へ電気信号が出力される。
【0006】
なお、図5中の210,211,212,213はそれぞれ反射器電極である。このように、共振器電極パターンを2段縦続接続させることにより、1段目と2段目の定在波の相互干渉により、帯域外減衰量を高減衰化し、フィルタ特性の帯域外減衰量を向上させることができる。即ち、同様の特性をもつ弾性表面波フィルタを2段縦続接続の構成とすることで、1段目で減衰された信号が2段目でさらに減衰され、帯域外減衰量を約2倍に向上させることができる。
【0007】
ここで、IDT電極204に接続された入力端子215に電気信号を入力することにより、弾性表面波を励振させ、この弾性表面波がIDT電極204の両側に位置するIDT電極203,205に伝搬され、IDT電極207,208に接続された出力端子216,217から電気信号が出力される。また、両端に位置する反射器電極210,211,2
12,213により弾性表面波が反射され、両端の反射器電極210,211,212,213間で定在波となる。
【0008】
この定在波のモードには、3つのIDT電極(例えばIDT電極203,204,205)により1次モードとその高次(3次)モードが含まれる。これらのモードで発生する共振により通過特性が得られるため、これらのモードで発生する共振周波数の間隔を制御することにより通過帯域を広くすることができる。従来、共振周波数の間隔を制御するために、IDT電極の端部に狭ピッチ部を設けることにより、表面波がバルク波に変換されるときのバルク波の放射損失を低減させて広帯域化を図っていた。また、他の方法としてIDT電極間の間隔dの制御により、共振周波数の間隔を制御していた。また、さらに他の手段として出力用のIDT電極に容量を付加させて共振周波数の間隔を制御していた。
【0009】
以上により、従来の2重モード共振器型弾性表面波フィルタでは、圧電基板としてよく使用されるLiTaO基板を用いて2段縦続した場合、比帯域幅(中心周波数に対する通過帯域幅の値)は約0.40%(例えば、特許文献1を参照)、また、容量の付加を行なった場合でも高々2%程度しか得られないものであった(例えば、特許文献2を参照)。また、IDT電極間の間隔dを制御した場合、最大の帯域幅3.7%が得られているが(例えば、特許文献3を参照)、フィルタとしては温度変動を考慮しなければならず、また製造された電極形状のばらつきにより周波数が変動することから、広い通過帯域幅が必要な携帯電話等の通信装置への適用には無理があった。
【0010】
そこで、隣り合うIDT電極の端部に電極指の狭ピッチ部を設けることにより、IDT電極間におけるバルク波の放射損を低減して、共振モードの状態を制御することにより広帯域化および挿入損失の改善が図られていた(例えば、特許文献4,5を参照)。
【0011】
また、広帯域、低損失で高域側の帯域外減衰量の大きな弾性表面波フィルタを提供するために、IDT電極間に反射器電極を挿入する構成も提案されている(例えば、特許文献6を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平1−231417号公報
【特許文献2】特開平4−40705号公報
【特許文献3】特開平7−58581号公報
【特許文献4】特開2002−9587号公報
【特許文献5】特表2002−528987号公報
【特許文献6】特開平8−250969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献4,5に開示されている弾性表面波装置では、IDT電極の端部に狭ピッチ部を設けると、弾性表面波が結合した状態で電極指ピッチが異なる部分が存在するため、通過帯域におけるフィルタ特性のリップルが大きくなり、肩特性が劣化して通過帯域の平坦な特性が得られない。また、IDT電極の端部に狭ピッチ部を設けるだけでは、弾性表面波の励振に利用できる基本的な共振モードの数が縦1次モードと縦3次モードに限定され、他の共振モードが利用できないので、設計の自由度が小さくなっていた。そのため、通過帯域におけるフィルタ特性の平坦性を向上させ、広帯域化しつつ、挿入損失を向上させるには不充分であった。
【0014】
また、特許文献6に開示されているような弾性表面波装置では、IDT電極間に反射器
電極を挿入しただけでは伝搬路長が長くなるため、伝搬損失が大きくなり、フィルタ特性においては挿入損失が増大し、通過帯域幅が減少して好ましくない。
【0015】
なお、充分な帯域幅を確保するために3つのIDT電極に代えて5つのIDT電極を用いることも考えられるが、やはり同様に伝搬路長が長くなるため、伝搬損失が大きくなり、フィルタ特性においては挿入損失が増大し、さらには弾性表面波フィルタのサイズが大きくなり好ましくない。
【0016】
このように、従来、挿入損失を向上させ、広帯域化するため用いられてきた手段としては、隣接するIDT間の距離を短くするか、IDT電極の端部に狭ピッチ部を設けていたが、単に電極指ピッチが短い部分をIDT電極の端部に設けただけでは、通過帯域における発生する共振モードを最適に配置調整することができないため、通過帯域におけるフィルタ特性の通過帯域幅を広帯域に保ったまま、さらに挿入損失および平坦性を向上させることが充分にできていなかった。
【0017】
一般に共振器型の弾性表面波フィルタは、弾性表面波の振幅の分布が共振モードの現れる周波数を決めており、弾性表面波の振幅分布は、IDT電極の配置およびIDT電極の電極指ピッチを適切に選択することにより制御が可能となる。特に、IDT電極の電極指ピッチを適切に選択した場合、特定の弾性表面波の振幅分布の出現を抑制したり、増加させたりすることができるので、通過帯域における共振ピークを最適な位置に配置調整することができる。
【0018】
従って、本発明は、上述した従来の諸問題に鑑みて完成されたものであり、その目的は、挿入損失の劣化(挿入損失の増大)を生じず、通過帯域幅の広い優れたフィルタ特性を有し、高品質な平衡型弾性表面波フィルタとしても機能する弾性表面波装置およびそれを用いた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の弾性表面波装置共振器は、圧電基板上に、該圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、該伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を多数本有する複数のIDT電極を配設してなるとともに、前記複数のIDT電極のうち隣り合う2つのIDT電極がそれぞれ、相手側の端部から一部分であって電極指ピッチが残りの部分の電極指ピッチと異なる第1の部分と前記残りの部分であって電極指ピッチが一定な第2の部分とで構成され、前記第1の部分の電極指ピッチの平均値が前記第2の部分の電極指ピッチより短く形成されているとともに前記第1の部分の電極指ピッチが前記隣り合う2つのIDT電極の境界に向かって短くなっており、2つの前記第1の部分において電極指ピッチの極小部を複数備え、前記隣り合う2つのIDT電極間の前記境界における電極指ピッチが、前記隣り合う2つのIDT電極の第2の部分の電極指ピッチよりも短くなっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の弾性表面波装置によれば、複数のIDT電極のうち隣り合う2つのIDT電極がそれぞれ、相手側の端部から一部分であって電極指ピッチが残りの部分の電極指ピッチと異なる第1の部分と残りの部分であって電極指ピッチが一定な第2の部分とで構成され、第1の部分の電極指ピッチの平均値が第2の部分の電極指ピッチより短く形成されているとともに第1の部分の電極指ピッチが隣り合う2つのIDT電極の境界に向かって短くなっていることにより、IDT電極が隣り合う箇所において、IDT電極の電極指が有する基板上の面積を調整させることができ、これにより、弾性表面波のバルク波への放射損を防ぐことがさらに可能となるとともに、1次モード、3次モードとそれらの高調波モードとの間の周波数間隔をさらに微調整することが可能となり、広帯域かつ低損失で良好な
電気特性を持つ弾性表面波装置を実現できる。
【0021】
また、2つの第1の部分において電極指ピッチの極小部を複数備えていることにより、隣接するIDT電極間に複数の弾性表面波の共振モードを発生させ、その弾性表面波の共振モードを適切に配置するよう調整し、ある程度以上の周波数間隔をあけて共振周波数を配置することが可能となり、即ち広帯域特性に適した共振周波数の配置が容易となり、結果として広帯域化するのに有利となる。また、特定の弾性表面波の振幅分布の出現を抑制したり、増加させたりすることができるので、通過帯域における複数の共振ピークを最適な周波数位置に配置するように制御することができ、結果として広帯域化しつつ平坦性および挿入損失を向上させるといったフィルタ特性の制御を行なうことができる。
【0022】
また、上記構成において、2つの第1の部分における電極指ピッチの最小部が、隣り合う2つのIDT電極の境界から外れた片方側にあることにより、隣り合うIDT電極間において、発生する弾性表面波の共振ピークを適切な周波数に配置するように制御することが可能となり、通過帯域のフィルタ特性を広帯域化しつつ平坦性および挿入損失を向上させることができる。
【0023】
また、上記構成において、隣り合う2つのIDT電極において、一方のIDT電極の第2の部分の電極指ピッチが他方のIDT電極の第2の部分の電極指ピッチよりも長く、第1の部分の電極指ピッチの最小部が一方のIDT電極側にあることにより、隣り合うIDT電極間において、発生する弾性表面波の共振ピークを適切な周波数に配置するように制御することができ、さらに弾性表面波のバルク波へのモード変換時の放射損を最適に防ぐことが可能となり、通過帯域のフィルタ特性を広帯域化しつつ平坦性および挿入損失を向上させることができる。
【0024】
また、上記構成において、隣り合う2つのIDT電極において、一方のIDT電極の第2の部分の電極指ピッチが他方のIDT電極の第2の部分の電極指ピッチよりも長く、一方のIDT電極の第1の部分の電極指ピッチの平均値が他方のIDT電極の第1の部分の電極指ピッチの平均値よりも短いことにより、隣り合うIDT電極間において、さらに発生する複数の弾性表面波の共振ピークを最適な周波数に配置するように制御することが可能となり、通過帯域のフィルタ特性を広帯域化しつつ平坦性および挿入損失を向上させることができる。
【0025】
また、上記各構成において、弾性表面波共振器を構成するIDT電極に対して、直列または並列に、IDT電極とそのIDT電極を挟む反射器とから成り、1つ以上のモード共振を発生させる共振子(弾性表面波共振子)を接続したことにより、入力信号端子と出力信号端子とのインピーダンス整合がとれるようになり、弾性表面波共振子を接続することで減衰極を形成することが可能であり、帯域外減衰量が高減衰で要求される仕様を満たすように特性を制御できる。
【0026】
また、上記構成の弾性表面波共振器を2段縦続接続したことにより、例えば1段目から2段目につながる経路を増やすことができ、発生する弾性表面波の共振モードを重ね合わせて通過帯域の設計の自由度が増し、帯域外減衰量を高減衰にすることができ、より効果的に広い通過帯域幅を保ったまま平坦性および挿入損失を向上させることができる。
【0027】
また、例えば、弾性表面波素子部におけるIDT電極の一部の共通電極を分割してそれぞれを出力の平衡信号へと接続される電極とすることにより、不平衡−平衡信号の変換器の機能を有した弾性表面波装置を提供できる。
【0028】
本発明の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波共振器または弾性表面波装置
を有する、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えたことにより、以上のような本発明の弾性表面波共振器または弾性表面波装置を通信装置に用いることにより、従来より要求されていた厳しい挿入損失を満たすことができるものが得られ、消費電力が低減され感度が格段に良好な通信装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の1例を示し、(a)は隣り合うIDT電極における各電極の位置と電極指ピッチとの関係を示すグラフ、(b)は各電極のパターンを示す弾性表面波共振器の平面図である。
【図2】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例を示す平面図である。
【図3】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例を示す平面図である。
【図4】本発明の実施例および比較例の弾性表面波装置の通過帯域およびその近傍における挿入損失の周波数特性をそれぞれ示すグラフである。
【図5】(a)は従来の共振器型弾性表面波フィルタの各電極の位置と電極指のピッチとの関係を示すグラフ、(b)は従来の共振器型弾性表面波フィルタの電極構造について示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の弾性表面波共振器および弾性表面波装置の実施の形態について図面を参照にしつつ以下に詳細に説明する。また、本発明の弾性表面波共振器および弾性表面波装置について、簡単な構造の共振器型の弾性表面波フィルタを例にとり説明する。
【0031】
なお、以下に説明する図面において同一構成には同一符号を付している。また、各電極の大きさや電極間の距離等、電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示している。
【0032】
図1(b)に、本発明の弾性表面波共振器の電極構造について示す平面図である。また、一例として、図1(a)に図1(b)の弾性表面波共振器の電極構造のA部におけるIDT電極の電極指ピッチの変化の線図を示す。
【0033】
図1の(b)に示すように、本発明の弾性表面波共振器は、圧電基板1上に、この圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、この伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を多数本有する複数のIDT電極2〜7(図1(b)の場合、3つのIDT電極2〜4、3つのIDT電極5〜7)を配設してなるとともに、複数のIDT電極のうち隣り合う2つのIDT電極(IDT電極2,3,IDT電極3,4,IDT電極5,66およびIDT電極6,7)がそれぞれ、相手側の端部から一部分であって電極指ピッチが残りの部分の電極指ピッチと異なる第1の部分と残りの部分であって電極指ピッチが一定な第2の部分とで構成され(図1(b)の例では、図1(a)のL1部とL4部が第2の部分、L2部とL3部が第1の部分に該当する)、第1の部分の電極指ピッチの平均値が第2の部分の電極指ピッチより短く形成されている(図1(b)の例では、第1の部分L2部とL3の電極指ピッチの平均値が、それぞれ第2の部分L1部とL4部の電極指ピッチより短い)とともに、第1の部分の電極指ピッチが隣り合う2つのIDT電極の境界に向かって短くなっており、2つの第1の部分において電極指ピッチの極小部を複数備えている(図1(b)の例では、図1(a)に示すように電極指ピッチの極小部CがIDT電極3側とIDT電極4側とで複数存在する。)ことにある。
【0034】
電極指ピッチの極小部Cは、具体的には2〜4個であることが、共振ピークを通過帯域内で適切に配置して、広帯域化し挿入損失を向上させる上で好ましい。
【0035】
また、第1の弾性表面波共振器(図1(b)では入力端子13側の弾性表面波共振器)
の2つのIDT電極2,4がそれぞれ、第2の弾性表面波共振器(図1(b)では出力端子14側の弾性表面波共振器)の2つのIDT電極5,7と縦続接続されている。
【0036】
この構成により、第1の部分における電極指ピッチの極小部の位置、数、電極指ピッチを最適な値に設定して、隣接するIDT電極間に複数の弾性表面波の共振モードを発生させ、その弾性表面波の共振モードを最適に配置して、ある程度以上の周波数の間隔をあけて共振周波数を配置することが可能となり、即ち広帯域特性に適した共振周波数の配置が容易となり、結果として広帯域化するのに有利となる。
【0037】
また、特定の弾性表面波の振幅分布の出現を抑制したり、増加させたりすることができるので、通過帯域における複数の共振ピークを最適な周波数の位置に配置するように制御し、弾性表面波の共振ピークの数およびその強度分布をコントロールすることができ、結果として広帯域化しつつ通過帯域の平坦性および挿入損失を向上させるといったフィルタ特性の制御を行なうのに有利になる。
【0038】
なお、図1(b)に示すように、第1の弾性表面波共振器のIDT電極3および第2の弾性表面波共振器のIDT電極6はそれぞれ、両端部に第1の部分が形成されており、この構成のIDT電極3,6も本発明の第1の部分および第2の部分を有するIDT電極に相当することはいうまでもない。即ち、IDT電極3,6は、両端部に第1の部分が形成され、中央部に第2の部分が形成された構成である。
【0039】
また、上記構成において、2つの第1の部分における電極指ピッチの最小部であって複数の極小部のうちの最小部が、隣り合う2つのIDT電極の境界から外れた片方側にあること(図1(b)の例では、図1(a)に示すように、第1の部分における電極指ピッチの最小部であって複数の極小部のうちの最小部が、IDT電極3とIDT電極4の境界から外れたB部にあること)により、複数の弾性表面波の共振モードを発生させ、その弾性表面波の共振モードを最適な周波数に配置して、ある程度以上の周波数の間隔をあけて共振周波数を配置することが可能となり、即ち広帯域特性に適した共振周波数の配置が容易となり、結果として広帯域化するのに有利となる。
【0040】
また、全体として狭ピッチ部である第1の部分の中に、電極指ピッチが広い広ピッチ領域を挿入させつつ第1の部分における電極指ピッチの最小部を最適な周波数の位置に配置して、特定の弾性表面波の振幅分布の出現を抑制したり、増加させたりすることができるので、通過帯域における複数の共振ピークをさらに最適な周波数の位置に配置するように制御し、発生する弾性表面波の共振ピークの数およびその強度分布をコントロールすることができる。その結果、さらに広帯域化しつつ通過帯域の平坦性および挿入損失を向上させるといったフィルタ特性の制御を行なうことができる。
【0041】
また、上記構成において、隣り合う2つのIDT電極2,3、IDT電極3,4、IDT電極5,6およびIDT電極6,7において、一方のIDT電極の第2の部分の電極指ピッチが他方のIDT電極の第2の部分の電極指ピッチよりも長く(図1(b)の例では、図1(a)に示すように、IDT電極3側の第2の部分であるL1部が、IDT電極4側の第2の部分であるL4部より電極指ピッチが長い。)、第1の部分の電極指ピッチの最小部が一方のIDT電極側(図1(b)の例では、図1(a)に示すように、電極指ピッチの最小部BがIDT電極3側)にあることにより、隣り合うIDT電極間において、発生する弾性表面波の共振ピークを適切な周波数に配置するように制御し、発生する弾性表面波の共振ピークの数およびその強度分布をコントロールすることができ、通過帯域のフィルタ特性を広帯域化しつつ平坦性および挿入損失を向上させるのに有利になる。
【0042】
また、上記構成において、隣り合う2つのIDT電極において、一方のIDT電極の第
2の部分の電極指ピッチが他方のIDT電極の第2の部分の電極指ピッチよりも長く、一方のIDT電極の第1の部分の電極指ピッチの平均値が他方のIDT電極の第1の部分の電極指ピッチの平均値よりも短い(図1(b)の例では、IDT電極3の第1の部分L2部の電極指ピッチの平均値が、IDT電極4の第1の部分L3部の電極指ピッチの平均値よりも短い)ことにより、隣り合うIDT電極間(図1(b)の例では、IDT電極3とIDT電極4の間)において、発生する弾性表面波の複数の共振ピークをさらに最適な周波数に配置するように制御することができ、さらに弾性表面波のバルク波へのモード変換時の放射損を最適に防ぐことが可能となり、通過帯域のフィルタ特性を広帯域化しつつ平坦性および挿入損失を向上させることができる。
【0043】
さらに、図2に本発明の弾性表面波装置の電極構造についての平面図を示す。
【0044】
図2に示すように、上記構成の弾性表面波共振器において、弾性表面波共振器を構成するIDT電極3に対して、直列または並列に(図1(b)の例では直列に)、IDT電極とそのIDT電極を挟む反射器とから成り、1つ以上のモード共振を発生させる共振子(弾性表面波共振子)12を接続したことにより、インピーダンス整合が良好にとれるようになり、弾性表面波共振子12を接続することで減衰極を形成することが可能となり、帯域外減衰量が高減衰において要求される仕様を満たすように特性を制御できる弾性表面波装置を実現している。
【0045】
また、上記構成の弾性表面波共振器を2段縦続接続したことにより、段間の縦続接続により、共振モード選択の自由度が大きくなり、そのため弾性表面波の振幅分布の制御の自由度が増し、フィルタ特性の制御に利用することが可能となる。共振モード選択の自由度が大きいと、ある程度以上の周波数の間隔をあけて共振周波数を配置することが可能となる。つまり、1段目から2段目につながる経路を増やすことができ、発生する弾性表面波の共振モードを重ね合わせて通過帯域の設計の自由度が増し、帯域外減衰量を高減衰にすることができ、より効果的に広い通過帯域幅を保ったまま平坦性および挿入損失を向上させた弾性表面波装置を提供できる。
【0046】
なお、IDT電極2〜7、反射器電極8〜11、共振子12の電極指の本数は数本〜数100本にも及ぶので、簡単のため、図においてはそれら形状を簡略化して図示している。なお、13は入力端子であり、14,15は出力端子である。
【0047】
また、弾性表面波フィルタ用の圧電基板1としては、36°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、42°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、64°±3°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム単結晶、41°±3°YカットX伝搬リチウム単結晶、45°±3°XカットZ伝搬四ホウ酸リチウム単結晶は電気機械結合係数が大きく、かつ、周波数温度係数が小さいため圧電基板として好ましい。また、これらの焦電性圧電単結晶のうち、酸素欠陥やFe等の固溶により焦電性を著しく減少させた基板であれば、デバイスの信頼性上良好である。圧電基板の厚みは0.1〜0.5mm程度がよく、0.1mm未満では圧電基板が脆くなり、0.5mm超では材料コストと部品寸法が大きくなり使用に適さない。
【0048】
また、IDT電極および反射器電極は、AlもしくはAl合金(Al−Cu系、Al−Ti系)からなり、蒸着法、スパッタリング法、またはCVD法などの薄膜形成法により形成する。電極厚みは0.1〜0.5μm程度とすることが弾性表面波フィルタとしての特性を得る上で好適である。
【0049】
さらに、本発明に係る弾性表面波フィルタの電極および圧電基板上の弾性表面波伝搬部に、SiO,SiN,Si,Alを保護膜として形成して、導電性異物による
通電防止や耐電力向上を図ることもできる。
【0050】
また、本発明の弾性表面波フィルタを通信装置に適用することができる。即ち、少なくとも受信回路または送信回路の一方を備え、これらの回路に含まれるバンドパスフィルタとして用いる。例えば、送信回路から出力された送信信号をミキサでキャリア周波数にのせて、不要信号をバンドパスフィルタで減衰させ、その後、パワーアンプで送信信号を増幅して、デュプレクサを通ってアンテナより送信することができる送信回路を備えた通信装置、または、受信信号をアンテナで受信し、デュプレクサを通った受信信号をローノイズアンプで増幅し、その後、バンドパスフィルタで不要信号を減衰して、ミキサでキャリア周波数から信号を分離し、この信号を取り出す受信回路へ伝送するような受信回路を備えた通信装置に適用可能である。従って、本発明の弾性表面波装置を採用すれば、感度が向上した優れた通信装置を提供できる。
【0051】
さらに、図3に本発明の弾性表面波装置の電極構造についての平面図を示す。この例では、2段目の弾性表面波共振器の中央のIDT電極6の一方の共通電極を2つに分割することにより、2つの平衡出力端子へ接続される電極とすることにより、不平衡−平衡信号の変換器の機能を有した弾性表面波装置を提供できる。
【0052】
以上により、優れた弾性表面波共振器または弾性表面波装置を有する受信回路や送信回路を備え、それら感度が格段に良好な優れた通信装置を提供できる。
【0053】
なお、上述した実施の形態の説明では、簡単のために圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、この伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を多数本有する3つのIDT電極を配設した例を示したが、これに限定されるものではなく、IDT電極を3つ以外の複数配設するようにしてもよく、その他の構成においても、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することは可能である。
【実施例】
【0054】
本発明の実施例について以下に説明する。
【0055】
図1(b)に示す弾性表面波装置を具体的に作製した実施例について説明する。38.7°YカットのX方向伝搬とするLiTaO単結晶の圧電基板上に、Al(99質量%)−Cu(1質量%)による微細電極パターンを形成した。そして、各隣り合うIDT電極間のIDT電極の電極指ピッチは、図1(a)に示すようなIDT電極の電極指ピッチのプロファイルを有する。IDT電極3側の第1の部分L2部の電極指ピッチの平均値は、2.01μmであり、第2の部分L1部の電極指ピッチは、2.12μmとした。また、IDT電極4側の第1の部分L3部の電極指ピッチの平均値は、2.05μmであり、第2の部分L4部の電極指ピッチは、2.10μmとした。図1(a)に示すような2つの第1の部分において電極指ピッチの極小部Cを複数備えている。また、2つの第1の部分における電極指ピッチの最小部であって複数の極小部のうちの最小部B部が、隣り合う2つのIDT電極の境界から外れた片方側のIDT電極側に位置している。
【0056】
そして、2つの弾性表面波共振器がIDT電極2,5およびIDT電極4,7により2段で縦続接続されている。
【0057】
また、各電極のパターン作製には、スパッタリング装置、縮小投影露光機(ステッパー)、およびRIE(Reactive Ion Etching)装置によりフォトリソグラフィを施すことにより行なった。
【0058】
まず、圧電基板1をアセトン,IPA(イソプロピルアルコール)等によって超音波洗
浄し、有機成分を落とした。次に、クリーンオーブンによって充分に圧電基板1の乾燥を行なった後、各電極となる金属層の成膜を行なった。金属層の成膜にはスパッタリング装置を使用し、金属層の材料としてAl(99質量%)−Cu(1質量%)合金を用いた。このときの金属層の膜みは約0.33μmとした。
【0059】
次に、金属層上にフォトレジストを約0.5μmの厚みにスピンコートし、縮小投影露光装置(ステッパー)により、所望形状にパターニングを行ない、現像装置にて不要部分のフォトレジストをアルカリ現像液で溶解させ、所望パターンを表出させた。その後、RIE装置により金属層のエッチングを行ない、パターニングを終了し、弾性表面波装置を構成する各電極のパターンを得た。
【0060】
この後、電極の所定領域上に保護膜を形成した。即ち、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置により、各電極のパターンおよび圧電基板1上にSiO膜を約0.02μmの厚みで形成した。
【0061】
その後、フォトリソグラフィによりパターニングを行ない、RIE装置等でフリップチップ用窓開け部のエッチングを行なった。その後、スパッタリング装置を使用し、Alを主体とするパッド電極を成膜した。このときのパッド電極の膜厚は約1.0μmとした。その後、フォトレジストおよび不要箇所のAlをリフトオフ法により同時に除去し、弾性表面波装置を外部回路基板等にフリップチップするための導体バンプを形成するためのパッド電極を完成した。
【0062】
次に、上記パッド電極上にAuからなるフリップチップ用の導体バンプをバンプボンディング装置を使用して形成した。導体バンプの直径は約80μm、その高さは約30μmであった。
【0063】
次に、圧電基板1に分割線に沿ってダイシング加工を施し、各弾性表面波装置(チップ)ごとに分割した。その後、各チップをフリップチップ実装装置にて電極パッドの形成面を下面にしてパッケージ内に収容し接着した。その後、N雰囲気中でベーキングを行ない、パッケージ化された弾性表面波装置を完成した。パッケージは、セラミック層を多層積層して成る2.5×2.0mm角の積層構造のものを用いた。
【0064】
また、比較用サンプルとして、図1(b)に示すような隣り合う2つのIDT電極がそれぞれ、相手側の端部から一部分であって電極指ピッチが残りの部分の電極指ピッチと異なる第1の部分と残りの部分であって電極指ピッチが一定な第2の部分とで構成を有せず、IDT電極における電極指ピッチが一定な弾性表面波装置を上記と同様の工程で作製した。各弾性表面波共振器の両側に配設した反射器電極8〜11の平均電極指ピッチは、2.13μmとした。
【0065】
次に、本実施例における弾性表面波装置の特性測定を行なった。0dBmの信号を入力し、周波数780〜960MHz、測定ポイントを800ポイントの条件にて測定した。サンプル数は30個、測定機器はマルチポートネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製「E5071A」)を用いた。
【0066】
通過帯域近傍の周波数特性のグラフを図4に示す。図4は、フィルタの伝送特性を表す挿入損失の周波数依存性を示すグラフである。本実施例品のフィルタ特性は非常に良好であった。即ち、図4の実線に示すように、本実施例品の挿入損失は1.74dB、リップルは0.20dB、比帯域幅は4.9%であった。
【0067】
一方、図4の破線に示すように、比較例品の挿入損失は2.00dB、リップルは1.
80dB、比帯域幅は3.6%であった。
【0068】
このように本実施例では、通過帯域を広帯域に保ちながら平坦性および挿入損失を向上させた弾性表面波装置を実現することができた。
【符号の説明】
【0069】
1:圧電基板
2〜7,203〜209:IDT電極
8〜11,210〜213:反射器電極
12:共振子
13:入力端子
14,15,216,217:出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に、該圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、該伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を多数本有する複数のIDT電極を配設してなるとともに、前記複数のIDT電極のうち隣り合う2つのIDT電極がそれぞれ、相手側の端部から一部分であって電極指ピッチが残りの部分の電極指ピッチと異なる第1の部分と前記残りの部分であって電極指ピッチが一定な第2の部分とで構成され、前記第1の部分の電極指ピッチの平均値が前記第2の部分の電極指ピッチより短く形成されているとともに前記第1の部分の電極指ピッチが前記隣り合う2つのIDT電極の境界に向かって短くなっており、2つの前記第1の部分において電極指ピッチの極小部を複数備え、前記隣り合う2つのIDT電極間の前記境界における電極指ピッチが、前記隣り合う2つのIDT電極の第2の部分の電極指ピッチよりも短くなっていることを特徴とする弾性表面波共振器。
【請求項2】
2つの前記第1の部分における電極指ピッチの最小部であって前記複数の極小部のうちの最小部が、前記隣り合う2つのIDT電極の境界から外れた片方側にあることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波共振器。
【請求項3】
前記隣り合う2つのIDT電極において、一方のIDT電極の前記第2の部分の電極指ピッチが他方のIDT電極の前記第2の部分の電極指ピッチよりも長く、前記第1の部分の前記電極指ピッチの最小部が前記一方のIDT電極側にあることを特徴とする請求項2に記載の弾性表面波共振器。
【請求項4】
前記隣り合う2つのIDT電極において、一方のIDT電極の前記第2の部分の電極指ピッチが他方のIDT電極の前記第2の部分の電極指ピッチよりも長く、前記一方のIDT電極の前記第1の部分の電極指ピッチの平均値が前記他方のIDT電極の前記第1の部分の電極指ピッチの平均値よりも短いことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の弾性表面波共振器。
【請求項5】
前記電極指ピッチの複数の極小部は、第1の極小部と第2の極小部を含み、第1の極小部の電極指ピッチと第2の極小部の電極指ピッチとは、大きさが異なっていることを特徴とする弾性表面波共振器。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の弾性表面波共振器を2段縦続接続したことを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の弾性表面波共振器を有する、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とする通信装置。
【請求項8】
請求項5または請求項6に記載の弾性表面波装置を有する、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とする通信装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−30266(P2011−30266A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224501(P2010−224501)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【分割の表示】特願2005−155048(P2005−155048)の分割
【原出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】