説明

弾性表面波素子、その製造方法およびその共振周波数調整方法

【課題】従来よりも微少な単位での共振周波数の設計が可能な構造とする。また、共振周波数を微小な単位で簡便に調整できるようにする。
【解決手段】圧電材料上に櫛歯電極3および反射器4が形成された弾性表面波素子において、反射器5、6に対して、複数本の電極5a、6a同士が短絡されていないオープンの領域7、8と、複数本の電極5a、6a同士が短絡されているショートの領域9、10とを設けることで、反射効率が最大となる周波数が異なる領域を形成する。このとき、オープンの領域7、8とショートの領域9、10との比率を変化させることで、従来よりも微小な単位で素子全体の共振周波数を設定もしくは調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子、弾性表面波素子の製造方法および弾性表面波素子の共振周波数調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波素子は圧電材料の表面上に形成された櫛歯電極および反射器を有している。櫛歯電極や反射器は、一般的に、圧電材料上にスパッタリング等によりAl等の金属薄膜を形成した後、この金属薄膜をフォトエッチング、すなわち、フォトリソグラフィおよびエッチングすることで、所望の電極パターンにて形成される。そして、この櫛歯電極および反射器を構成する電極同士の間隔と共振周波数との間には一定の関係があるので、通常、狙いの共振周波数となるように、電極間隔が設定される。
【0003】
また、狙いの共振周波数となるように弾性表面波素子の共振周波数を調整する方法として、例えば、電極パターンを形成した後、共振周波数を測定しながら電極をマスクとした基板のドライエッチングを行い、電極の見かけ上の膜厚を厚くすることによって共振周波数を調整する方法が特許文献1に記載されている。また、他の方法として、電極パターンを形成した後、形成された櫛歯電極の側面を陽極酸化することで、櫛歯電極の質量を重くし、櫛歯電極の線幅を広げることによって共振周波数を調整する方法が特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−224678号公報
【特許文献2】特開2005−65042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、櫛歯電極、反射器を構成する電極は、フォトエッチングにより形成されるので、フォトリソグラフィ技術の精度以上で電極間隔を微調節することができない。このため、弾性表面波素子全体の電極間隔を一様に変更して、弾性表面波素子が狙いの共振周波数となるように設計する場合、狙える共振周波数には限界がある。
【0006】
例えば、1対1の露光を行なう場合、フォトリソグラフィで制御可能な電極間隔の最小値はレチクルの解像度となる。例えばレチクルの解像度が0.1μm程度とすると、LiNbO基板を用いた場合では、2MHz単位までしか共振周波数を設計することができない。このため、従来よりも微小な単位での共振周波数の設計が可能な構造が必要である。
【0007】
なお、上記特許文献1、2に記載の方法は、電極パターンを形成した後に実施する方法であり、上記特許文献1、2には、設計段階で所望の共振周波数を得られる構造については開示されていない。
【0008】
また、特許文献1、2に記載の共振周波数の調整方法には、それぞれ、メリット・デメリットが存在する。このため、共振周波数の調整が必要な場合に、目的に応じて調整方法が選択できるように、選択肢が多いことが望まれる。したがて、従来の方法とは異なる方法で、共振周波数を微小な単位で調整可能な調整方法や、弾性表面波素子の製造方法が必要である。
【0009】
本発明は上記点に鑑みて、従来よりも微少な単位での共振周波数の設計が可能な構造の弾性表面波素子を提供することを第1の目的とする。また、本発明は、従来とは異なる方法で、共振周波数を微小な単位で簡便に調整可能な弾性表面波素子の共振周波数の調整方法を提供することを第2の目的とする。また、本発明は、従来とは異なる方法で、共振周波数を微小な単位で簡便に調整可能な弾性表面波素子の製造方法を提供することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、反射器(5、6)は、反射効率が最大となる周波数が異なる複数の領域(7、8、9、10、21、22、23、24)を有することを特徴としている。
【0011】
ここで、反射器を構成する領域に特性が異なる複数の領域を設けた場合、素子全体の特性は、各領域の特性を合成したものとなるので、各領域の特性と各領域の割合によって素子全体の特性が決まる。したがって、各領域の特性や各領域の割合を変化させることで、素子全体の共振周波数を変化させることができ、この手法によれば、反射器全体の電極間隔を一様に変更した場合よりも、共振周波数の変化量を小さくできる。よって、本発明によれば、従来よりも微少な単位での共振周波数の設計が可能となる。
【0012】
なお、複数の領域が3つ以上の場合、少なくとも1つの領域が他の領域と異なっていれば良い。
【0013】
例えば、請求項2に記載のように、オープンの領域(7、8)とショートの領域(9、10)とを反射器(5、6)に設けることで、反射効率が最大となる周波数が異なる複数の領域を形成することができる。
【0014】
また、例えば、請求項3に記載のように、複数本の電極(5a、6a)の間隔が異なる複数の領域(21、22、23、24)を反射器(5、6)に設けることによっても、反射効率が最大となる周波数が異なる複数の領域を形成することができる。
【0015】
また、請求項1〜3に記載の発明においては、請求項4に記載の発明のように、櫛歯電極(3、4)の両側に配置された反射器(5、6)は、弾性表面波の伝搬方向に垂直であって櫛歯電極(3、4)の中心を通る軸(11)に対して線対称な電極パターンとなっていることが好ましい。これは、両側の反射器で、特性が異なる領域の比率が同じになるからである。
【0016】
また、請求項5に記載の発明では、請求項2に記載の弾性表面波素子の製造方法であって、櫛歯電極(3、4)を圧電材料(2、63)上に形成するとともに、弾性表面波の伝搬方向に並ぶ複数本の電極(5a、6a)のすべてが連結部(5b、6b)によって互いに連結された形状の反射器(5、6)を圧電材料(2、63)上に形成する工程と、複数本の電極(5a、6a)を切断することで、オープンの領域(7、8)と、ショートの領域(9、10)とに、反射器(5、6)を分割する工程とを有することを特徴としている。
【0017】
このようにして請求項2に記載の弾性表面波素子を製造することができる。このように、オープンの領域(7、8)とショートの領域(9、10)とに、反射器(5、6)を分割した場合、反射器全体の電極間隔を一様に変更した場合よりも、共振周波数の変化量を小さくできるので、この方法によれば、素子全体の共振周波数を微小な単位で簡便に調整することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明においては、請求項6に記載の発明のように、反射器(5、6)を分割する工程の後、ショートの領域(9、10)における複数の電極(5a、6a)を切断して、ショートの領域(9、10)を減らすとともにオープンの領域(7、8)を増やすことで、素子全体の共振周波数をさらに調整することもできる。
【0019】
また、請求項7に記載の発明では、櫛歯電極(3、4)を圧電材料(2、63)上に形成するとともに、複数本の電極(5a、6a)の間隔が異なる複数の領域を有する形状の反射器(5、6)を圧電材料(2、63)上に形成する工程と、反射器(5、6)の複数の領域に対応させて、櫛歯部(3a)の電気的につながっている部分の長さを調節することで、素子全体の共振周波数を調整する工程とを有することを特徴としている。
【0020】
この発明は、請求項3に記載の構造を利用して所望の共振周波数に調整した弾性表面波素子を製造する方法である。この方法によっても、素子全体の共振周波数を微小な単位で簡便に調整することができる。
【0021】
請求項7に記載の発明では、具体的には、請求項8に記載のように、櫛歯電極(3、4)および反射器(5、6)を形成する工程で、反射器(5、6)の複数の領域に対応させて、櫛歯部(3a、4a)が複数個に分離された形状として櫛歯電極(3、4)を形成した後、複数個に分離された櫛歯部(3a、4a)の隣同士を配線(41、42)で接続しておき、素子全体の共振周波数を調整する工程で、配線(41、42)を切断して櫛歯部(3a)の電気的につながっている部分の長さを調節することができる。
【0022】
また、請求項9に記載の発明は、反射器(5、6)を、複数本の電極(5a、6a)同士が短絡されていないオープンの領域(7、8)と、複数本の電極(5a、6a)同士が短絡されているショートの領域(9、10)とを有する構成とし、オープンの領域(7、8)とショートの領域(9、10)との比率を変化させることで、素子全体の共振周波数を調整することを特徴としている。
【0023】
この発明は、請求項2に記載の構造を利用したものであり、これによれば、反射器全体の電極間隔を一様に変更した場合よりも、共振周波数の変化量を小さくできる。よって、本発明によれば、素子全体の共振周波数を微小な単位で簡便に調整することができる。
【0024】
また、請求項10に記載の発明は、反射器(5、6)を、複数本の(5a、6a)の間隔が異なる複数の領域を有する構成とし、反射器(5、6)の複数の領域に対応させて、櫛歯部(3a)の電気的につながっている部分の長さを調節することで、素子全体の共振周波数を調整することを特徴としている。
【0025】
この発明は、請求項3に記載の構造を利用したものであり、これによっても、反射器全体の電極間隔を一様に変更した場合よりも、共振周波数の変化量を小さくできる。よって、本発明によれば、素子全体の共振周波数を微小な単位で簡便に調整することができる。
【0026】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態における弾性表面波素子の平面図である。
【図2】図1中のII−II線断面図である。
【図3】第2実施形態における弾性表面波素子の製造方法を説明するための平面図である。
【図4】第2実施形態における弾性表面波素子の製造方法を説明するための平面図である。
【図5】第2実施形態における弾性表面波素子の製造方法を説明するための平面図である。
【図6】第3実施形態における弾性表面波素子の平面図である。
【図7】第4実施形態における弾性表面波素子の平面図である。
【図8】第5実施形態における弾性表面波素子の平面図である。
【図9】第5実施形態における弾性表面波素子の平面図である。
【図10】第5実施形態におけるリファレンス用の弾性表面波素子の平面図である。
【図11】第6実施形態における弾性表面波素子の平面図である。
【図12】他の実施形態における弾性表面波素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0029】
(第1実施形態)
図1に本実施形態における弾性表面波素子の平面図を示す。また、図2に図1中のII−II線断面図を示す。
【0030】
図1、2に示すように、弾性表面波素子1は、圧電材料の単結晶で構成された圧電基板2と、この圧電基板2上に形成された櫛歯電極(IDT)3、4および反射器5、6を備えている。圧電材料としては、例えば、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等を用いることができる。
【0031】
櫛歯電極3、4は、圧電基板2に弾性表面波を励振させるものである。櫛歯電極3、4は、具体的には、図1に示すように、それぞれ、互いに平行であってY軸方向に延びている複数の櫛歯部3a、4aと複数の櫛歯部3a、4aを連結するバスバー3b、4bとを有している。そして、櫛歯電極3、4は、互いの櫛歯部3a、4aが一本ずつ交互に配置されている。この一対の櫛歯電極3、4によって、櫛歯部3a、4aの延伸方向に垂直な方向、すなわち、X軸方向に、弾性表面波が伝搬する。
【0032】
反射器5、6は、櫛歯電極3、4の両側に配置されており、櫛歯電極3、4から伝搬された弾性表面波を反射するものである。反射器5、6は、X軸方向に並ぶ複数本の電極5a、6aによって構成されている。一本の電極5a、6aは櫛歯部3a、4aと平行に延びており、複数本の電極5a、6a同士は互いに平行である。
【0033】
そして、本実施形態の反射器5、6は、それぞれ、複数本の電極5a、6a同士が電気的に短絡されていないオープンの領域7、8と、複数本の電極5a、6a同士が電気的に短絡されているショートの領域9、10とを有している。そして、各反射器5、6において、オープンの領域7、8とショートの領域9、10とは、弾性表面波の伝搬方向に垂直な方向、すなわち、Y軸方向に並んでいる。
【0034】
ショートの領域9、10では、複数本の電極5a、6aの一端が連結部5b、6bによって連結されている。なお、本実施形態では、オープンの領域7、8とショートの領域9、10のすべての領域において、複数本の電極5a、6aのX軸方向での間隔は同一である。
【0035】
また、オープンの領域7、8内における複数本の電極5a、6aの延伸方向での長さはすべて同じであり、ショートの領域9、10内における複数本の電極5a、6aの延伸方向での長さもすべて同じである。
【0036】
したがって、櫛歯電極3、4の両側に配置されている反射器5と反射器6とは、弾性表面波の伝搬方向に垂直であって櫛歯電極3、4の中心を通る軸11に対して線対称な電極パターンとなっている。すなわち、櫛歯電極3、4の両側に配置されている反射器5と反射器6とは、オープンの領域7、8とショートの領域9、10との比率が同じとなっている。
【0037】
このように、反射器5、6がオープンの領域7、8とショートの領域9、10とを有する場合、オープンの領域7、8とショートの領域9、10では、電極間隔が同じであっても、反射効率が最大となる周波数が異なる。
【0038】
そして、素子全体のアドミタンス特性は、弾性表面波素子1のうちオープンの領域7、8がX軸方向で並んでいる図1中の一点鎖線で囲まれた領域12での特性と、ショートの領域9、10がX軸方向で並んでいる図1中の破線で囲まれた領域13での特性との和で表される。例えば、素子全体のアドミタンス特性をインピーダンスアナライザで測定したときに得られる波形のピークは、各領域での波形のピークを合成した結果である。
【0039】
したがって、反射器5、6におけるオープンの領域7、8とショートの領域9、10との比率を変化させることで、素子全体の共振周波数を変化させることができる。例えば、オープンの反射器とショートの反射器で2MHz周波数が異なる場合、すべてオープンの領域で構成されている反射器に対して、その半分をショートの領域に変更すると、周波数は1MHz変化する。よって、この手法によれば、反射器全体の電極間隔を一様に変更した場合よりも、共振周波数の変化量を小さくできるので、従来よりも微少な単位での共振周波数の設計が可能となる。
【0040】
次に、本実施形態の弾性表面波素子の製造方法について説明する。
【0041】
本実施形態では、弾性表面波素子の設計段階において、素子全体の共振周波数が狙いの周波数となるように、櫛歯電極3、4および反射器5、6の電極間隔と、反射器5、6におけるオープンの領域7、8とショートの領域9、10との比率とを算出して、櫛歯電極3、4および反射器5、6の電極パターンを決定する。
【0042】
その後、例えば、圧電基板2上にスパッタリング等によりAl等の金属薄膜を形成した後、この金属薄膜をフォトエッチングすることで、所望の電極パターンの櫛歯電極3、4および反射器5、6を形成する。このようにして、図1、2に示す構成の弾性表面波素子が製造可能である。
【0043】
(第2実施形態)
図3、4、5に、本実施形態における弾性表面波素子の製造方法を説明するための弾性表面波素子の平面図を示す。本実施形態は、第1実施形態に対して製造方法を変更したものであり、以下では、変更点のみを説明する。
【0044】
第1実施形態では、狙いの共振周波数となるように、予めオープンの領域7、8とショートの領域9、10との比率を算出しておき、図1に示されるオープンの領域7、8とショートの領域9、10とを有する反射器5、6をフォトエッチング工程によって形成していた。
【0045】
これに対して、本実施形態では、フォトエッチング工程によって、圧電基板2上に、図3に示す電極パターンの反射器5、6を形成する。この段階での反射器5、6は、複数本の電極5a、6aが一端で連結部5b、6bによって連結した形状となっており、複数本の電極5a、6aのすべてが電気的に短絡しているショートの電極パターンとなっている。すなわち、反射器5、6は、それぞれ、櫛歯状の電極パターンとなっている。
【0046】
その後、櫛歯電極3、4に計測器を接続して、素子全体のアドミタンスの特性を計測しながら、図3に示される反射器5、6の複数本の電極5a、6aを、例えば、レーザー等により切断して、反射器5、6をY軸方向に分割する。これにより、図4に示すように、反射器5、6に、オープンの領域7、8と、ショートの領域9、10とを形成する。このとき、予め、オープンの領域7、8とショートの領域9、10との比率と、共振周波数の変化量との関係を調査しておき、その関係に基づいて、反射器5、6を分割することで、狙いの共振周波数に調整することができる。
【0047】
このように、ショートの電極パターンとなっている反射器5、6の一部を、オープンの電極パターンに変更して、反射器5、6の一部のみを共振周波数が異なる領域とすることで、素子全体の共振周波数を調整することも可能である。
【0048】
また、反射器5、6を一度分割した後に、さらに、共振周波数を調整する必要があれば、図4中の反射器5、6のショートの領域9、10における複数本の電極5a、6aの他端側を切断して、図5に示すように、ショートの領域9、10を減らすとともにオープンの領域7、8を増やすことで、共振周波数を調整することも可能である。
【0049】
(第3実施形態)
図6に、本実施形態における弾性表面波素子の平面図を示す。本実施形態は、第1実施形態に対して反射器5、6の構成を変更したものであり、以下では、変更点のみを説明する。
【0050】
本実施形態では、一方の反射器5は、複数本の電極5aの間隔が異なる2つの領域21、23を有しており、他方の反射器6も、複数本の電極6aの間隔が異なる2つの領域22、24を有している。
【0051】
反射器5、6の図6中の左半分側の領域21、22では、複数本の電極5a、6aのY軸方向での長さおよびX軸方向での間隔が同じである。
【0052】
一方、反射器5、6の図6中の右半分側の領域23、24では、複数本の電極5a、6aの延伸方向での長さおよびX軸方向での間隔が同じであり、複数本の電極5a、6aの間隔は、反射器5、6の図6中の左半分側の領域21、22よりも大きくなっている。
【0053】
したがって、本実施形態の反射器5、6も、第1実施形態と同様に、弾性表面波の伝搬方向に垂直であって櫛歯電極3、4の中心を通る軸11に対して線対称な電極パターンとなっている。
【0054】
なお、本実施形態では、反射器5、6において、Y軸方向で隣り合う電極5a、6a同士がつながっているが、これらが離れていても良い。
【0055】
このように、本実施形態では、反射器5、6に電極間隔が小さい領域21、22と電極間隔が大きい領域23、24とを設けることで、反射効率が最大となる周波数が異なる領域を反射器5、6に設けている。
【0056】
本実施形態においても、素子全体のアドミタンス特性は、弾性表面波素子1のうち電極間隔が小さい領域21、22を含む図6中の破線で囲まれた領域25での特性と、電極間隔が大きい領域23、24を含む図6中の破線で囲まれた領域26での特性との和で表される。
【0057】
したがって、反射器5、6の電極間隔が小さい領域21、22と電極間隔が大きい領域23、24との比率を変化させることで、素子全体の共振周波数を変化させることができる。
【0058】
例えば、すべての領域での電極間隔が均一である反射器において、全ての電極間隔を0.1um変えたとき、共振周波数が2MHz変化する場合、半分の領域の電極間隔だけを変えると共振周波数は1MHz変化する。よって、この手法によっても、反射器全体の電極間隔を一様に変更した場合よりも、共振周波数の変化量を小さくできるので、従来よりも微少な単位での共振周波数の設計が可能となる。
【0059】
ちなみに、図6に示す構成の弾性表面波素子は、第1実施形態と同様に、狙いの共振周波数となるように、予め、電極間隔が小さい領域21、22と電極間隔が大きい領域23、24とにおける電極間隔と、両者の比率を算出しておき、その結果に基づく電極パターンの反射器5、6をフォトエッチング工程によって形成することで製造可能である。
【0060】
(第4実施形態)
図7に、本実施形態における弾性表面波素子の平面図を示す。本実施形態は、第3実施形態に対して反射器5、6の構成を変更したものであり、以下では、変更点のみを説明する。
【0061】
本実施形態では、反射器5、6が、Y軸方向で第3実施形態よりも多く分割されており、反射器5、6を構成する複数本の電極5a、6aがY軸方向で5つに分割されている。そして、領域毎に、電極5a、6aのX軸方向での間隔が異なっている。具体的には、Y軸方向における中央の領域と、その両側の領域と、さらにその両側の領域とにおいて、電極5a、6aのX軸方向での間隔が異なっている。
【0062】
なお、本実施形態においても、1つの領域内では、複数本の電極5a、6aのY軸方向での長さおよびX軸方向での間隔は同じである。また、Y軸方向で分割されている電極5a、6aは、Y軸方向で互いに離れて配置されている。したがって、本実施形態の反射器5、6も、第1実施形態と同様に、弾性表面波の伝搬方向に垂直であって櫛歯電極3、4の中心を通る軸11に対して線対称な電極パターンとなっている。
【0063】
本実施形態においても、素子全体のアドミタンス特性は、図7中で破線にて囲まれているように、反射器5、6を構成する複数の電極5a、6aが同じ間隔でX軸方向で並んでいる各領域31、32、33、34、35での特性の和で表される。
【0064】
このように、反射器5、6に、複数本の電極5a、6aのX軸方向での間隔が異なる複数の領域を設け、これらの複数の領域同士の比率を任意に設定することでも、従来よりも微少な単位での共振周波数の設計が可能となる。
(第5実施形態)
図8、9に、本実施形態における弾性表面波素子の平面図を示す。本実施形態は、第4実施形態で説明した素子の構造を利用して共振周波数を調整するものである。
【0065】
本実施形態では、弾性表面波素子の構造を図8に示す構造とする。すなわち、第4実施形態と同様に、反射器5、6をY軸方向で複数、例えば、5つの領域に分割し、分割した領域毎に電極5a、6aのX軸方向での間隔を異ならせる。
【0066】
さらに、櫛歯電極3、4の櫛歯部3a、4aを、反射器5、6の5つの領域に対応させて、Y軸方向で5個に分割した形状とする。なお、櫛歯電極3、4の櫛歯部3a、4aは、X軸方向での間隔はすべて同一である。
【0067】
そして、Y軸方向に並ぶ複数個の電極3a、4aの隣り合うもの同士を配線41、42で接続する。この配線41、42は、ICチップの接続に用いられる金属製のワイヤ等である。これにより、Y軸方向に並ぶ複数個の電極3a、4aは電気的につながった状態となっている。
【0068】
ここで、例えば、図9中の一点鎖線43で示すように、一方の櫛歯電極3の先端側から1つ目と2つ目の櫛歯部3a同士をつなぐ配線41を切断すると、切断された先端側から1つ目の櫛歯部3aが電気的に孤立した状態となる。このため、この櫛歯部3aとX軸方向で並ぶ反射器5、6の電極5a、6aからなる領域44でのアドミタンス特性が小さくなり、素子全体への影響が小さくなるので、全体として共振周波数が変化する。
【0069】
そこで、弾性表面波素子の共振周波数を調整する場合では、櫛歯電極3、4に計測器を接続して、素子全体のアドミタンスの特性を計測しながら、図9に示すように、配線をピン等で切断して櫛歯部3aの電気的につながっている部分の長さを調節することにより、所望の共振周波数に調整することができる。
【0070】
なお、本実施形態では、Y軸方向に並ぶ複数の櫛歯部3aの配線を切断すると、アドミタンス特性を測定したときの波高値が低下してしまう。
【0071】
そこで、2つの共振器を用いて差周波を得る場合には、2つの共振器の波高値が同じであることが望ましいため、以下のように、リファレンスをとる弾性表面波素子も、図8に示す弾性表面波素子と同様の構成とすることが好ましい。
【0072】
図10にリファレンス用の弾性表面波素子の平面図を示す。このリファレンス用の弾性表面波素子51においても、櫛歯電極3、4と、反射器5、6とを、Y軸方向で複数の領域に分割した電極パターンとする。ただし、反射器5、6の電極5a、6aのX軸方向での間隔は、すべての領域で同一である。
【0073】
そして、櫛歯電極3、4のY軸方向で隣り合う電極3a、4a同士を配線41、42で接続した構造とし、配線41、42を切断することによって、波高値を調整することが好ましい。
【0074】
(第6実施形態)
図11に、本実施形態の弾性表面波素子の平面図を示す。第5実施形態では、櫛歯電極3、4の櫛歯部3a、4aをY軸方向で複数個に分割した電極パターンとしていたが、本実施形態では、第4実施形態で説明した図7に示す構造の素子を用いる。したがって、櫛歯電極3、4を形成するときでは、櫛歯部3a、4aをY軸方向で連続した電極パターンとする。このとき、櫛歯部3a、4aは、Y軸方向で連続しているので、電気的につながっている。
【0075】
そして、弾性表面波素子の共振周波数を調整する場合では、図11に示すように、一方の櫛歯電極3の櫛歯部3aを、反射器5、6のY軸方向に並ぶ複数の領域に対応させて、レーザー等で切断することで、櫛歯部3aの電気的につながっている領域を短くする。このとき、櫛歯電極3を切断したことによって電気的に孤立した電極部分3aが、例えば、反射器5、6のY軸方向に並ぶ5つの領域のうち、図11中の右端の領域に対応するように、櫛歯電極3の櫛歯部3aを切断する。
【0076】
これにより、第5実施形態と同様に、切断された櫛歯部3aとX軸方向で並ぶ反射器5、6の電極5a、6aからなる領域44でのアドミタンス特性が小さくなり、素子全体への影響が小さくなる。よって、本実施形態によっても、弾性表面波素子の共振周波数が所望の周波数となるように調整することができる。
【0077】
(他の実施形態)
(1)図12に弾性表面波素子の断面図を示す。図12は、図2に対応している。上述の各実施形態では、弾性表面波素子1は、圧電材料の単結晶からなる圧電基板2の上に各電極を形成した構成であったが、図12に示すように、単結晶からなる圧電基板2の代わりに、圧電材料の薄膜で構成された圧電薄膜の上に電極を形成した構成としても良い。
【0078】
ここで、図12に示す弾性表面波素子1では、基板61上に下部酸化膜62、圧電薄膜63、上部酸化膜64が順に積層されており、上部酸化膜64上に各電極3、4、5、6が形成されている。
【0079】
(2)第1実施形態では、反射器5、6のオープンの領域7、8とショートの領域9、10のすべての領域において、複数本の電極5a、6aのX軸方向での間隔は同一としていたが、オープンの領域7、8とショートの領域9、10で、複数本の電極5a、6a同士の間隔を異ならせても良い。なお、この場合においても、オープンの領域7、8とショートの領域9、10の各領域内では、複数本の電極5a、6a同士の間隔を同一とする。
【0080】
(3)第2実施形態では、図4中の反射器5、6のショートの領域9、10における複数本の電極5a、6aを切断して、ショートの領域9、10を減らすとともにオープンの領域7、8を増やすことで、オープンの領域7、8とショートの領域9、10との比率を変化させていたが、これとは逆に、ショートの領域9、10を増やすとともにオープンの領域7、8を減らすことで、オープンの領域7、8とショートの領域9、10との比率を変化させても良い。
【0081】
例えば、図5中の反射器5、6におけるショートの領域9、10と、その隣のオープンの領域7、8の電極同士をつなぐことで、オープンの領域7、8とショートの領域9、10との比率を変化させることもできる。
【0082】
なお、この場合、例えば、再度、金属薄膜を形成し、フォトエッチングによりパターニングすることや、FIB、ワイヤボンディング等により、ショートの領域9、10と、その隣のオープンの領域7、8の電極同士をつなぐことができる。
【0083】
(4)第3実施形態では、電極5a、6aのX軸方向での間隔が異なる2つの領域を反射器5、6が有し、第4実施形態では、電極5a、6aのX軸方向での間隔が異なる5つの領域を反射器5、6が有していたが、電極5a、6aのX軸方向での間隔が異なる領域の数は複数であれば任意に変更可能である。
【0084】
また、第4実施形態では、5つの領域のすべてが異なっておらず、電極5a、6aのX軸方向での間隔が同じ領域同士も存在していたが、このように、複数の領域のすべての領域ではなく、いずれかの領域で電極5a、6aのX軸方向での間隔が異なっていたり、複数の領域のすべての領域で電極5a、6aのX軸方向での間隔が異なっていたりしても良い。
【0085】
(5)上述の各実施形態では、櫛歯電極3、4に対して弾性表面波の伝搬方向での両側にそれぞれ反射器を配置していたが、歯電極の片側のみに反射器を配置しても良い。
【0086】
(6)なお、上述の各実施形態を実施可能な範囲で組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0087】
1 弾性表面波素子
2 圧電基板
3、4 櫛歯電極
5、6 反射器
7、8 オープンの領域
9、10 ショートの領域
21、22 反射器のうち電極間隔が小さい領域
23、24 反射器のうち電極間隔が大きい領域
41、42 配線
63 圧電薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料(2、63)上に形成された櫛歯電極(3、4)と、
前記圧電材料(2、63)上に形成され、前記櫛歯電極(3、4)から伝搬された弾性表面波を反射する反射器(5、6)とを備える弾性表面波素子において、
前記反射器(5、6)は、反射効率が最大となる周波数が異なる複数の領域(7、8、9、10、21、22、23、24)を有することを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
前記反射器(5、6)は、弾性表面波の伝搬方向に並ぶ複数本の電極(5a、6a)によって構成され、
前記反射器(5、6)は、前記複数本の電極(5a、6a)同士が短絡されていないオープンの領域(7、8)と、前記複数本の電極(5a、6a)同士が短絡されているショートの領域(9、10)とを有することを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波素子。
【請求項3】
前記反射器(5、6)は、弾性表面波の伝搬方向に並ぶ複数本の電極(5a、6a)によって構成され、
前記反射器(5、6)は、前記複数本の電極(5a、6a)のそれぞれが前記伝搬方向に等間隔で配置され、前記複数本の電極(5a、6a)の間隔が異なる複数の領域(21、22、23、24)を有することを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波素子。
【請求項4】
前記反射器(5、6)は、前記櫛歯電極(3、4)の弾性表面波の伝搬方向での両側に配置されており、
前記櫛歯電極(3、4)の両側に配置された前記反射器(5、6)は、弾性表面波の伝搬方向に垂直であって前記櫛歯電極(3、4)の中心を通る軸(11)に対して線対称な電極パターンとなっていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の弾性表面波素子。
【請求項5】
請求項2に記載の弾性表面波素子の製造方法であって、
前記櫛歯電極(3、4)を前記圧電材料(2、63)上に形成するとともに、弾性表面波の伝搬方向に並ぶ複数本の電極(5a、6a)のすべてが連結部(5b、6b)によって互いに連結された形状の前記反射器(5、6)を前記圧電材料(2、63)上に形成する工程と、
前記複数本の電極(5a、6a)を切断することで、前記オープンの領域(7、8)と、前記ショートの領域(9、10)とに、前記反射器(5、6)を分割する工程とを有することを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項6】
前記反射器(5、6)を分割する工程の後、前記ショートの領域(9、10)における前記複数の電極(5a、6a)を切断して、前記ショートの領域(9、10)を減らすとともに前記オープンの領域(7、8)を増やすことで、素子全体の共振周波数を調整する工程を有することを特徴とする請求項5に記載の弾性表面波素子の製造方法。
【請求項7】
圧電材料(2、63)上に形成され、複数の櫛歯部(3a、4a)を有する形状の櫛歯電極(3、4)と、
前記圧電材料(2、63)上に形成され、前記櫛歯電極(3、4)から伝搬された弾性表面波を反射する反射器(5、6)とを備え、
前記反射器(5、6)が、弾性表面波の伝搬方向に並ぶ複数本の電極(5a、6a)によって構成されている弾性表面波素子の製造方法において、
前記櫛歯電極(3、4)を前記圧電材料(2、63)上に形成するとともに、前記複数本の電極(5a、6a)の間隔が異なる複数の領域を有する形状の前記反射器(5、6)を前記圧電材料(2、63)上に形成する工程と、
前記反射器(5、6)の前記複数の領域に対応させて、前記櫛歯部(3a)の電気的につながっている部分の長さを調節することで、素子全体の共振周波数を調整する工程とを有することを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項8】
前記櫛歯電極(3、4)および前記反射器(5、6)を形成する工程では、前記反射器(5、6)の前記複数の領域に対応させて、前記櫛歯部(3a、4a)が複数個に分離された形状として前記櫛歯電極(3、4)を形成した後、前記複数個に分離された前記櫛歯部(3a、4a)の隣同士を配線(41、42)で接続しておき、
前記素子全体の共振周波数を調整する工程では、前記配線(41、42)を切断して前記櫛歯部(3a)の電気的につながっている部分の長さを調節することを特徴とする請求項7に記載の弾性表面波素子の製造方法。
【請求項9】
圧電材料(2、63)上に形成された櫛歯電極(3、4)と、
前記圧電材料(2、63)上に形成され、前記櫛歯電極(3、4)から伝搬された弾性表面波を反射する反射器(5、6)とを備え、
前記反射器(5、6)が、弾性表面波の伝搬方向に並ぶ複数本の電極(5a、6a)によって構成されている弾性表面波素子の共振周波数調整方法において、
前記反射器(5、6)を、前記複数本の電極(5a、6a)同士が短絡されていないオープンの領域(7、8)と、前記複数本の電極(5a、6a)同士が短絡されているショートの領域(9、10)とを有する構成とし、前記オープンの領域(7、8)と前記ショートの領域(9、10)との比率を変化させることで、素子全体の共振周波数を調整することを特徴とする弾性表面波素子の共振周波数調整方法。
【請求項10】
圧電材料(2、63)上に形成され、複数の櫛歯部(3a、4a)を有する形状の櫛歯電極(3、4)と、
前記圧電材料(2、63)上に形成され、前記櫛歯電極(3、4)から伝搬された弾性表面波を反射する反射器(5、6)とを備え、
前記反射器(5、6)が、弾性表面波の伝搬方向に並ぶ複数本の電極(5a、6a)によって構成されている弾性表面波素子の共振周波数調整方法において、
前記反射器(5、6)を、前記複数本の(5a、6a)の間隔が異なる複数の領域を有する構成とし、
前記反射器(5、6)の前記複数の領域に対応させて、前記櫛歯部(3a)の電気的につながっている部分の長さを調節することで、素子全体の共振周波数を調整することを特徴とする弾性表面波素子の共振周波数調整方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−187057(P2010−187057A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28187(P2009−28187)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】