説明

弾性表面波素子、弾性表面波センサ、センシングシステム、及び応力測定方法

【課題】反射電力変化に基づいて、測定対象の状態を検知する場合に、その測定感度を大きくすることができる弾性表面波素子、弾性表面波センサ、センシングシステム、及び応力測定方法を提供すること。
【解決手段】反射器9は、自身に印加される応力に応じて反射係数が変化する特性があり、弾性表面波を発生させる櫛歯電極5、9の中心周波数は、反射器9の反射係数の周波数特性における減衰極及び減衰極近傍を含む所定の周波数領域に設定されている。従って、反射器9に応力が加わると、反射器9の反射係数は大きく変化するので、反射器9にて反射した反射波のエネルギーも大きく変化する。よって、この反射波を櫛歯電極5、7によって応答信号に変換した場合には、応答信号の電力も大きく変化する。従って、この応答信号の変化を送受信機37側で検出することにより、応力の変化を容易に検知することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波を用いて、測定対象の状態を検出する弾性表面波素子と、該弾性表面波素子を備えた弾性表面波センサと、該弾性表面波センサを備えたセンシングシステムと、弾性表面波を利用して測定対象の応力を測定する応力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、弾性表面波(SAW)の特性を利用して、測定対象の変位や圧力等を検知するセンシングシステムが開発されている。
例えばSAW共振器を利用して、その共振周波数変化により測定対象の変化を検知する方法は、今日、広く使用されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
また、例えばSAW遅延線を利用して、高周波信号応答の遅延時間変化・位相変化により測定対象の変化を検知する方法も知られている。詳しくは、弾性表面波の伝搬路の伸縮に応じた遅延時間変化や位相変化を検出する技術として、櫛歯電極(IDT:Inter Digital Transducer)とリフレクタ(反射器)との間に伝搬距離を有する弾性表面波デバイスを用いたセンシングシステムが知られている(特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−501235号公報
【特許文献2】特表2007−522480号公報
【特許文献3】特表平7−502613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば応力といった機械的摂動を検知する場合に、上述した遅延線を用いた遅延時間変化などによって検知する従来技術の場合には、その変化量がナノオーダーと微小であるため、得られる感度が小さいという問題があった。
【0006】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものであり、反射電力検知方法において、反射電力変化に基づいて、測定対象の状態を検知する場合に、その測定感度を大きくすることができる弾性表面波素子、弾性表面波センサ、センシングシステム、及び応力測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、請求項1に記載の様に、圧電基板上に、入力した高周波信号によって弾性表面波を発生させる電極と、該電極で発生した弾性表面波を反射する反射器とを、対向して配置した弾性表面波素子において、 前記反射器は、反射器自身に印加される応力に応じて反射係数が変化する構成を有し、且つ、前記電極の中心周波数を、前記反射器の反射係数の周波数特性における減衰極及び減衰極近傍を含む所定の周波数領域内に設定するとともに、該所定の周波数領域を、周波数帯域幅1000ppmに対する減衰傾度が10dB以上の範囲に設定したことを特徴とする。
【0008】
本発明は、反射器における反射係数の変化に基づいて生じる反射信号の変化(反射電力の変化)によって、(例えば周囲の圧力に変化に起因して)素子に加わる応力の状態を検出することができる弾性表面波素子である。
【0009】
特に本発明では、反射器は、自身に印加される応力に応じて反射係数が変化する特性があり、弾性表面波を発生させる電極(例えば周知の一対の櫛歯電極)の中心周波数は、反射器の反射係数の周波数特性における減衰極及び減衰極近傍を含む所定の周波数領域、具体的には、周波数帯域幅1000ppmに対する減衰傾度が10dB以上の範囲(つまり、周波数に対して反射係数が大きく変動する領域:図3の減衰極及び減衰域参照)に設定されている。
【0010】
従って、反射器に応力が加わると、反射器の反射係数は前記減衰傾度に応じて大きく変化するので、反射器にて反射する弾性表面波のエネルギー(従ってこの弾性表面波によって生じる反射信号の電力)も大きく変化する。よって、例えば前記電極によって前記弾性表面波を受信して反射信号とすることにより、この反射信号の電力の変化に応じて応力の変化を容易に検知することができる。
【0011】
つまり、本発明によれば、素子の測定感度が大きくなるので、応力の変化を容易に検知することができる。また、電力検知方式の採用は、測定のための(トランスポンダ等の)回路構成を、他の検知方式(周波数・遅延時間・位相)と比較し、簡易化することができる。
【0012】
・ここで、本発明の原理について、詳細に説明する。
例えば図1に示す様に、信号源と弾性表面波(SAW)の送受信を行う櫛歯電極(IDT)とSAW伝送路と反射器(リフレクタ)が、各ポートPort1〜3にて接続されている場合を考える。なお、Z0〜Z5は、各ポートから見た回路のインピーダンスである。なお、図1は電子信号と音響信号の混在するブロックであるが、電気的等価回路で表現している。
【0013】
また、図2にPort1から見たIDTの反射係数の周波数特性を示すが、IDTの中心周波数(f/f0=1)にて、入力信号の反射損失が最も小さいように設定されていることが分かる。なお、同図のf0はIDTの中心周波数であり、fは素子への入力信号の周波数である。
【0014】
一方、図3に反射器の反射係数の周波数特性を示すが、反射器の中心周波数(f/f0=1)付近に減衰極があるように設定している。なお、従来では、反射器にて信号を効率良く反射させるために、反射係数のピークに反射器の中心周波数を設定していた。
【0015】
また、図4に反射器に応力が加わっていない場合(1)と加わった場合(2)の特性の変化を示すが、応力が加わると反射係数の周波数特性が大きく変化することが分かる。
従って、本発明では、例えば図5に、前記図2と図3の中心周波数を一致させ周波数特性を重ねて示す様に、IDTの反射損失の最も小さい点と反射器の減衰極とが一致又は近接するように設定されている。具体的には、(SAWを励起する)電極の中心周波数が、反射器の周波数特性における周波数帯域幅1000ppmに対する減衰傾度が10dB以上の範囲内となるように設定されている。なお、この設定範囲は、例えば図3の減衰域に対応している。
【0016】
このように設定されていることによって、反射器に応力が加わった場合には、例えば前記図4に示す様に反射器の反射係数の周波数特性がシフトし、中心周波数を基準として見た場合、反射器の反射係数が(反射器に応力が加わらなかった場合に比べて)大きく変化するので、前記電極により励起された弾性表面波が反射器にて反射する状態(即ち反射する弾性表面波のエネルギー)も、大きく変化する。
【0017】
従って、反射する弾性表面波のエネルギーに対応して発生する反射電気信号のエネルギー(電力)も大きく変化する。周波数1000ppmの変化に対し10dB以上の反射電力の変化は、すなわち、反射電力の10倍以上の変化であり、したがって、(反射器に加わる)応力に対する測定感度が大きく取れるのである。
【0018】
また、10dBの変化量は、後述の信号検知回路の分解能が0.5dBであれば、21ポイントの検出ポイント数が得られることになり、指定の応力の計測範囲内においてこのポイント数に相当する検出分解能が得られることになる。したがって、高分解能を得るためには、反射電力変化量は大きければ大きいほど良く、かつ信号検知回路の分解能は小さければ小さいほど良い。
【0019】
・なお、前記反射係数とは、反射器(又は電極)への入射波と反射器(又は電極)からの出力波(反射波)との比を示すものである。つまり、前記反射係数とは、これの絶対値を二乗した値は、反射器(又は電極)へ入射する電力と反射器(又は電極)からの出力(反射)される電力との比を示すものである。
【0020】
例えば図6に示す様な回路(即ち、出力インピーダンスZ0を持つ信号源と、入力インピーダンスZLを持つ回路Aを接続したもの)を考えた場合、その接続端では、信号の反射が起こる。その反射の割合を示すものが反射係数(Γ)であり、下記式(1)で表される。
【0021】
Γ=(ZL−Z0)/(ZL+Z0)=b1/a1 ・・・(1)
ここで、a1、b1は、その絶対値を2乗すると電力を表す量で、a1は入力波、b2は反射波を示すものであり、Γ=0の場合は反射が無い状態を示し、Γ=1の場合は全反射(完全反射)を示す。
【0022】
・前記中心周波数とは、実際に入力される高周波信号の周波数として設定される、いわゆる動作周波数である。これに対する周波数特性は、例えば櫛歯電極の各櫛歯(電極指)の間隔や電極指の幅等を調節することにより設定することができる。
【0023】
・前記高周波信号としては、以降に挙げる無線を用いて高周波信号の送受信を行うのであれば、例えば電波法において特定小電力無線局に定められる周波数帯の範囲の信号が挙げられる。
【0024】
・前記減衰傾度とは、信号の周波数帯域幅に対する減衰の程度を示すものである。
・なお、ここで電極とは、1個の電極ではなく、例えば一対の櫛歯電極のように、弾性表面波を発生させることができる電極群の総称である(以下各請求項において同様)。
【0025】
(2)本発明では、請求項2に記載の様に、電極と反射器との間に弾性表面波を伝搬する伝搬路を設け、入力した高周波信号に対して所定以上の時間遅れのある高周波信号を出力させる構成とすることができる。
【0026】
これにより、例えば送受信機(トランスポンダ)において、単一アンテナでスイッチ等で送受信を切り換えるシステムに好適に適用することができる。
(3)本発明では、請求項3に記載の様に、圧電基板上に、電極を複数配置するとともに、各電極に対してそれぞれ伝搬路の距離の異なる反射器を配置とすることができる。
【0027】
これにより、遅延時間の異なる複数の応答を得ることができるので、時間分離による応答の判別が可能になる。例えばリファレンス用の応答とセンシング用の応答を得ることができるので、両応答(例えば電力レベル)の差分あるいは比をとることにより、より精度の高い測定が可能となる。なお、センシングのために異なる伝搬路を設けることにより、センシング用の応答を複数とることも可能である。
【0028】
(4)本発明では、請求項4に記載の様に、圧電基板上に、同一の電極に対してそれぞれ伝搬路の距離の異なる複数の反射器を配置することができる。
これにより、前記請求項3と同様に、遅延時間の異なる複数の応答を得ることができるので、時間分離による応答の判別が可能になる。なお、ここでは、電極を一つにまとめることができるので、回路等の構成を簡易化できるという利点がある。
【0029】
(5)本発明は、請求項5に記載の様に、前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性表面波素子を備えた弾性表面波センサであって、前記弾性表面波素子を収容する筐体と、前記反射器に対して応力を印加する応力印加部と、を備えるとともに、前記反射器を、応力が印加された場合に弾性変形する構成としたことを特徴とする。
【0030】
本発明は、弾性表面波素子を備えた弾性表面波センサを例示したものであり、この弾性表面波センサでは、応力印加部によって反射器に対して応力を印加すると、反射器は弾性変形してたわむことにより、その反射係数が変化する。よって、反射係数の変化によって大きく変動する応答(例えば応答信号の電力レベル)に基づいて、印加された応力を検出することができる。
【0031】
(6)本発明では、請求項6に記載の様に、電極を、応力が印加された場合でも変形しないように固定することができる。
これにより、応力が印加された場合でも、電極自体は変形しないので(従って電極の反射係数は変化しないので)、反射器自体の反射係数の変化に基づく応答の変化を精度良く検出することができる。
【0032】
(7)本発明では、請求項7に記載の様に、応力印加部を、応力に応じて変形する弾性部材を介して該応力を受けるように構成することができる。
これにより、応力の変化を好適に弾性表面波素子側に伝達することができる。
【0033】
(8)本発明では、請求項8に記載の様に、弾性表面波センサに、高周波信号を無線により外部装置より受信、または外部装置に送信するアンテナを設けてもよい。
これにより、無線にて、弾性表面波センサと外部装置(送受信機等)との間で、信号の送受信が可能である。
【0034】
(9)本発明は、請求項9、12、15に記載の様に、無線又は有線により、弾性表面波センサと外部装置との間で信号を送受信するセンシングシステムであり、(外部装置の)高周波印加装置によって、弾性表面波センサの電極に対して高周波信号を印加し、(外部装置の)信号検知装置によって、弾性表面波センサの反射器にて反射した信号を受信し、その受信信号の電力レベルを検知することができる。
【0035】
(10)本発明では、請求項10、13に記載の様に、信号検知装置によって検知した信号の電力レベルに基づいて、反射器に印加された応力を求め、該応力に基づいて測定対象の状態を検知することができる。
【0036】
(11)本発明では、請求項11、14に記載の様に、測定対象として、圧力又は変位を採用できる。
(12)本発明は、請求項16に記載の様に、前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性表面波素子を用いて応力を測定する応力測定方法であって、前記電極によって弾性表面波を発生させるとともに、前記反射器に応力を加えて反射係数を変化させ、該応力の印加に応じて変化する前記反射器にて反射した信号を受信し、該出力信号の電力レベルの変化に基づいて、前記応力を測定することを特徴とする。
【0037】
本発明の応力測定方法では、上述した様に電極の中心周波数と反射器の中心周波数との関係を設定した弾性表面波素子を用いるので、反射器に応力を加えた場合に反射器の反射係数の変化が大きい。従って、電極によって弾性表面波を発生させ、反射器に応力を加えて反射係数を変化させ、その応力の印加に応じて変化する(反射器にて反射した)信号を受信した場合には、その応答信号(出力信号)の電力レベルが大きく変化する。よって、この大きな電力レベルの変化に基づいて、容易に応力を測定することができる。つまり、本発明では、測定感度が大きいので、容易に応力を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】請求項1の発明の原理を説明するための弾性表面波素子の回路構成を示す説明図である。
【図2】櫛歯電極の反射係数の周波数特性を示すグラフである。
【図3】反射器の反射係数の周波数特性を示すグラフである。
【図4】反射器の反射係数の周波数特性の変化を示すグラフである。
【図5】櫛歯電極と反射器との反射係数の周波数特性を示すグラフである。
【図6】反射係数を説明するための回路構成を示す説明図である。
【図7】実施例1の弾性表面波素子を示す平面図である。
【図8】(a)は実施例1の弾性表面波センサを分解して示す説明図、(b)はその弾性表面波センサの図8(a)におけるA−A断面図である。
【図9】実施例1のセンシングシステムの概略構成を示す説明図である。
【図10】実施例1のセンシングシステムにおける信号のタイミングチャートである。
【図11】実施例2の弾性表面波素子を示す平面図である。
【図12】実施例2のセンシングシステムにおける信号のタイミングチャートである。
【図13】実施例3の弾性表面波素子を示す平面図である。
【図14】実施例3のセンシングシステムにおける信号のタイミングチャートである。
【図15】実施例4の弾性表面波素子を示す平面図である。
【図16】実施例5の弾性表面波素子を示す平面図である。
【図17】実施例6の弾性表面波素子を示す平面図である。
【図18】実施例7の弾性表面波素子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明が適用される実施例について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0040】
本実施例では、弾性表面波素子に加わる応力を検知することができる弾性表面波センサ、及びその弾性表面波センサを用いたセンシングシステム、並びに応力測定方法について説明する。
【0041】
a)まず、本実施例1の弾性表面波素子について説明する。
図7に示す様に、本実施例の弾性表面波素子1は、圧電基板3の同一表面上に、同一方向(圧電基板3の長手方向)に沿って、弾性表面波(SAW)を励起させる一対の櫛歯電極(IDT)5、7と、櫛歯電極5、7によって励起された弾性表面波を櫛歯電極5、7側に反射させる反射器9と、余分な弾性表面波を吸収する左右一対の吸音材11、13とを備えている。
【0042】
この弾性表面波素子1は、433MHz近傍で動作する素子であり、櫛歯電極5、7に対して、信号源15から、後述するように無線(又は有線)にて高周波信号が印加されるように構成されている。なお、ここでは、櫛歯電極5、7は、反射器9からの反射波を受信する電極としても用いられる。
【0043】
以下、各構成について説明する。
前記圧電基板3は、縦2mm×横16mm×厚み0.5mmの例えばST−X水晶基板(単結晶)からなる。
【0044】
前記櫛歯電極5、7は、後述する信号源15から433MHzの高周波信号が印加される電極(即ち交互に正負の電圧が印加される電極)であり、それぞれ複数の櫛歯(電極指)17が、前記長手方向と垂直方向に平行に形成されるとともに、対向する櫛歯電極5、7の電極指17が互いに入り込む様に設定されている。
【0045】
ここでは、櫛歯電極5、7は、厚さ0.1μmのアルミニウムからなり、電極幅:1/4λ(1.181μm)、電極間隔:1/4λ(1.81μm)、対数:100.5対に設定されている。なお、λは励起する弾性表面波の波長である。
【0046】
前記反射器(リフレクタ:SMSA)9は、厚さ0.1μmのアルミニウムからなり、電極幅:1/4λ(1.181μm)、電極間隔:1/4λ(1.81μm)、本数:200本に設定されている。
【0047】
前記吸音材は、例えばシリコンからなり、それぞれ、櫛歯電極5、7の外側と反射器9の外側に配置されている。
なお、櫛歯電極5、7と反射器9との間の(弾性表面波の)伝搬路10の伝搬距離dRは、1500λ(4.735mm)に設定されており、その伝搬時間(櫛歯電極5、7〜反射器9)は、1.5μs相当である。
【0048】
特に本実施例では、反射器9は、自身に印加される応力(F)に応じて反射係数が変化する特性を有しており、弾性表面波を発生させる櫛歯電極5、7の中心周波数は、反射器9の反射係数の周波数特性における減衰極及び減衰極近傍を含む所定の周波数領域、具体的には、周波数帯域幅1000ppmに対する減衰傾度が10dB以上の範囲(つまり、周波数の変動に対して反射係数が大きく変動する領域)に設定されている。
【0049】
ここでは、例えば、櫛歯電極5、7の中心周波数は433MHzであり、反射器9の中心周波数と一致するように設定されている。なお、櫛歯電極5、7や反射器9の中心周波数は、櫛歯電極7、9や反射器9の電極幅や電極間隔等を調整することにより、設定することができる。
【0050】
また、上述した弾性表面波素子1を製造する場合には、例えば圧電基板3上に、スパッタリング法にて金属(アルミニウム)膜を成膜し、フォトリソグラフィーにて櫛歯電極5、7や反射器9に対応する形状にマスキングし、エッチングにより櫛歯電極5、7や反射器9をパターンニングする方法を採用できる。
【0051】
b)次に、前記弾性表面波素子1を備えた弾性表面波センサについて説明する。
図8に示す様に、弾性表面波センサ19は、長尺の四角箱状のセンサ筐体21内に弾性表面波素子1を収容したものであり、センサ筐体21は、底部筐体23とその蓋である上部筐体25とから構成されている。なお、ここでは、アンテナ及びアンテナに接続された回路は省略してある。
【0052】
前記底部筐体23の先端側(同図右側には)直方体形状の凹部27が形成されており、底部筐体23の凹部27に隣接する上面には、長手方向に沿って、弾性表面波素子1の圧電基板3の約2/3が例えば接着剤により接合されている。
【0053】
つまり、弾性表面波素子1は、その櫛歯電極5、7が設けられている側(同図左側)が、底部筐体23に固定されており、反射器9が設けられている側(同図右側)は、凹部27の上方に張り出すように配置されている。
【0054】
また、上部筐体25の先端側(同図右側)には、円形の開口部29が形成されており、この開口部29を覆うように、円形の(例えばゴムからなる)弾性部材31が貼り付けられている。この弾性部材31の中心の下部筐体23側には、弾性表面波素子1の先端側に当接するように、棒状の押圧部材33が突出して形成されている。なお、弾性部材31と押圧部材33により応力印加部が構成されている。
【0055】
これにより、弾性部材31が外部より押圧されると、押圧部材33が弾性表面波素子1の先端を押圧して(凹部27の左側端部を支点として)弾性表面波素子1の先端部分が湾曲するので、同時に反射器9も湾曲して、その反射係数が変化する。
【0056】
c)次に、前記弾性表面波センサ19を用いたセンシングシステムについて説明する。
なお、ここでは、無線による送受信システムを例に挙げて説明するが、有線にて応力を検出するようにしてもよい。
【0057】
図9に示す様に、アンテナ35を備えた弾性表面波センサ19は、無線を利用した周知の外部装置(送受信機)37によって駆動される。従って、ここでは、この送受信機37が前記信号源15に相当するものである。
【0058】
前記送受信機37は、その主要部として制御回路(コントローラ)39を備えている。また、送受信機37は、弾性表面波センサ19を駆動させる信号(高周波信号)の送信のための回路として、高周波の発振回路(Osc)41、発信のオン・オフを切り換えるスイッチ(SW)43、バンドパスフィルタ(BPF)45、パワーアンプ(PA)47、送受信を切り換えるスイッチ(SPDT)49、アンテナ51を備えている。
【0059】
よって、スイッチ(SPDT)49が信号の送信が可能に設定されている場合には、制御回路39からの制御信号により、アンテナ51を介して、弾性表面波センサ19に信号を送信する。この送信される信号は、例えば10mWの433MHzの短パルスの高周波信号である。
【0060】
更に、送受信機37は、弾性表面波センサ19からの信号を受信するための回路として、前記アンテナ51、前記スイッチ(SPDT)49に加え、ローノイズアンプ(LNA)53、バンドパスフィルタ(BPF)55、ログアンプあるいはダイオードからなる検波器(DET)57、A/D変換器59を備えている。
【0061】
よって、スイッチ(SPDT)49が信号の受信が可能に設定されている場合には、アンテナ51を介して、弾性表面波センサ19からの信号を送信して、制御回路39に入力する。
【0062】
d)次に、前記センシングシステムを用いた応力測定方法について説明する。
・最初に、このセンシングシステムにおける基本的な送受信の動作について説明する。
まず、弾性表面波センサ19を駆動する場合には、上述した様に、送受信機37から弾性表面波センサ19に対して高周波信号を送信する。この高周波信号を受信した弾性表面波センサ19では、受信した高周波信号を櫛歯電極5、7に印加することにより、弾性表面波を発生させる。
【0063】
ここでは、例えば図10に示す様な(tINの幅を有する)入力信号が櫛歯電極5、7に印加された場合を考える。
この入力信号は、櫛歯電極5、7によって弾性表面波に変換され、弾性表面波は、櫛歯電極5、7と反射器9との間の伝搬距離dRによって定まる伝搬時間tD後に反射器9に到達する。
【0064】
反射器9では、この弾性表面波を反射し、この弾性表面波は、同様に前記伝搬距離dRによって定まる伝搬時間tD後に櫛歯電極5、7に到達する。この反射した弾性表面波(反射波)によって櫛歯電極5、7に生ずる信号が応答信号(反射信号)であり、この応答信号は、前記送信された信号(送信信号)とは逆に、アンテナ35を介して、送受信機37に送信される。
【0065】
従って、送受信機37では、この応答信号の電力(信号レベル)から、以下に述べる様に、弾性表面波素子1に加わる応力を検出することができる。
・次に、本実施例の要部である応力測定の手順について説明する。
【0066】
前記図1〜図5に基づいて説明した様に、本実施例では、櫛歯電極5、7の中心周波数と反射器9の減衰極とが一致又は近接するように設定されている。具体的には、前記図5に示した様に、櫛歯電極5、7の中心周波数が、反射器9の周波数特性における周波数帯域幅1000ppmに対する減衰傾度が10dB以上の範囲内となるように設定されている。
【0067】
ここで、外部からの圧力等の影響により、弾性部材31の押圧部材33が圧電基板3の反射器9側の端部を押圧した場合(応力が加わった場合)には、反射器9が湾曲して図4に示す様に反射係数が変化するが、本実施例では、上述の様に櫛歯電極5、7の中心周波数と反射器9の減衰極との関係が設定されているので、その反射係数の変化により、反射信号(応答変化)の大きな変化が得られる。
【0068】
つまり、本実施例では、櫛歯電極5、7の中心周波数を基準として見た場合、前記減衰傾度に対応して、反射器9の反射係数が大きく変化するので、櫛歯電極5、7により励起された弾性表面波が反射器9にて反射する反射波のエネルギー(従ってその反射波によって生じる応答信号の電力レベル)も、大きく変化する。これにより、(反射器9に加わる)応力に対する大きな測定感度が得られる。
【0069】
この様に、本実施例では、単一周波数による電力応答(反射電力変化)を利用して応力を測定する場合に、大きな弾性表面波素子1の測定感度が得られるので、応力の変化を容易に検知することができる。その結果、測定のための送受信機37の回路構成を簡易化することができるという利点がある。
【0070】
また、本実施例では、伝搬距離dRの設定により、遅延時間を持ったセンサ応答を実現できるので、送受信機37では、単一アンテナでスイッチにより送受信を切り換えることにより、応力の測定が可能である。
【実施例2】
【0071】
次に、実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は簡略化する。
本実施例では、弾性表面波素子が大きく異なるので、主として弾性表面波素子について説明する。
【0072】
a)まず、本実施例の弾性表面波素子の構成について説明する。
図11に示す様に、本実施例の弾性表面波素子61は、2個の素子部63、65、即ち参照用の素子部(リファレンス素子部)63と測定用の素子部(センシング素子部)65とが、同一の圧電基板66上に形成されたものである。
【0073】
以下詳細に説明する。
まず、同図上側のリファレンス素子部63は、前記実施例1と同様に、圧電基板66の表面に、一対の櫛歯電極67、69と反射器71とが、所定の伝搬距離dR1だけ離れて形成されたものであり、その外側には、同様に吸音材73、75が配置されている。
【0074】
一方、同図下側のセンシング素子部65も、前記実施例1と同様に、圧電基板66の表面に、一対の櫛歯電極77、79と反射器81とが、所定の伝搬距離dR2だけ離れて形成されたものであり、その外側には、同様に吸音材73、83が配置されている。なお、吸音材73は、両素子部63、65の共有である。
【0075】
特に、本実施例では、センシング素子部65の先端側(同図右側)に応力が加わるように設定されているので、その応力がリファレンス素子部63側に伝わらないように、弾性表面波素子61の先端側には、リファレンス素子部63とセンシング素子部65とを分離する切り欠き85が形成されている。
【0076】
また、後述する様に、送受信機側にて、リファレンス素子部63における応答信号とセンシング素子部65における応答信号とを分離できるように、リファレンス素子部63における伝搬距離dR1は、センシング素子部65における伝搬距離dR2よりも十分に小さく設定されている。
【0077】
更に、ここでは、同一の信号源(即ち送受信機)87からの信号が、リファレンス素子部63の櫛歯電極67、69とセンシング素子部65の櫛歯電極77、79とに入力するように構成されている。同様に、リファレンス素子部63から得られる反射信号とセンシング素子部65から得られる反射信号が、前記実施例1と同様に、1つのアンテナ(図示せず)を介して送受信機側に送信されるように構成されている。
【0078】
b)次に、本実施例の弾性表面波素子61の動作について説明する。
図12に示す様に、弾性表面波素子61に入力信号がある場合、リファレンス素子部63においては、櫛歯電極67、69への入力から所定の伝搬時間(遅延時間tD1×2)後に、同櫛歯電極67、69にて反射波が検出され、この反射波に対応した応答信号(検出信号)が送受信機側に送信され、送受信側にて検出される。同様に、センシング素子部65においては、櫛歯電極77、79への入力から前記伝搬時間より長い所定の伝搬時間(遅延時間tD2×2)後に、同櫛歯電極77、79にて反射波が検出される。
【0079】
なお、同図では、反射波として示される信号が送受信機側で検出される応答信号(検出信号)であり、ここでは、センシング素子部65に応力が加わった場合の信号を一点鎖線で示し、応力が加わらなかった場合の信号を破線で示している。
【0080】
そして、これらの両伝搬時間tD1、tD2は、同図に示す様に、反射波(従って検出信号)が重なって検出されないように十分に異なるように(tD1<tD2)設定されているので、たとえ単一のアンテナで送受信機側に送信された場合でも、送受信機側では、櫛歯電極67、69からの検出信号と櫛歯電極77、79からの検出信号とを容易に分離することができる。
【0081】
従って、送受信機側では、応力が加わったセンシング素子部63の検出信号と応力が加わらないリファレンス素子部65からの検出信号とから、例えば両信号の差を利用することにより、無線によるセンシングシステムにおいて、無線通信間距離或いはマルチパス等に由来する外乱等の影響を解除して、より精度よく応力を測定できるという効果を奏する。
【0082】
つまり、本実施例では、前記実施例1と同様な効果を奏するとともに、単一周波数による電力応答を利用して応力を測定する場合に、より精度良く応力を検出できるという顕著な効果を奏する。
【実施例3】
【0083】
次に、実施例3について説明するが、前記実施例2と同様な内容の説明は簡略化する。
本実施例では、弾性表面波素子が大きく異なるので、主として弾性表面波素子について説明する。
【0084】
a)まず、本実施例の弾性表面波素子の構成について説明する。
図13に示す様に、本実施例の弾性表面波素子91は、3個の素子部93、95、97、即ち参照用の素子部(リファレンス素子部)93と測定用の2個の素子部(第1、第2センシング素子部)95、97とが、同一の圧電基板99上に形成されたものである。
【0085】
この弾性表面波素子91により、後述する様に、例えば複数の変位量(ここでは応力)の測定や、他のSAW特性に変化をもたらすパラメータの検出を行うことができる。
以下詳細に説明する。
【0086】
まず、同図上側のリファレンス素子部93は、前記実施例2と同様に、圧電基板99の表面に、一対の櫛歯電極101、103と反射器105とが、所定の伝搬距離dR1だけ離れて形成されたものであり、その外側には、同様に吸音材107、109が配置されている。
【0087】
また、同図中央の第1センシング素子部95も、前記実施例2と同様に、圧電基板99の表面に、一対の櫛歯電極111、113と反射器115とが、所定の伝搬距離dR2だけ離れて形成されたものであり、その外側には、同様に吸音材107、117が配置されている。
【0088】
更に、同図下側の第2センシング素子部97も、前記実施例2と同様に、圧電基板99の表面に、一対の櫛歯電極119、121と反射器123とが、所定の伝搬距離dR3だけ離れて形成されたものであり、その外側には、同様に吸音材107、125が配置されている。なお、吸音材107は、3個の素子部93〜97の共有である。
【0089】
特に、本実施例では、第1センシング素子部95の先端側(同図右側)に(ある測定対象からの)第1の応力が加わるように設定されるとともに、第2センシング素子部97の先端側に(他の測定対象からの)第2の応力が加わるように設定されているので、その応力が、自身以外の他の素子部に伝わらないように、弾性表面波素子91の先端側には、各素子部93〜97を分離する切り欠き127、129が形成されている。
【0090】
また、後述する様に、送受信機側にて、リファレンス素子部93における応答信号と第1センシング素子部95における応答信号と第3センシング素子部97における応答信号とを分離できるように、各素子部93〜97における伝搬距離は、dR1<dR2<dR3のように、十分に異なるように設定されている。
【0091】
更に、ここでは、同一の信号源(即ち送受信機)131からの信号が、リファレンス素子部93の櫛歯電極101、103と第1センシング素子部95の櫛歯電極111、113と第2センシング素子部97の櫛歯電極119、121とに入力するように構成されている。同様に、リファレンス素子部93から得られる反射信号と第1センシング素子部95から得られる反射信号と第2センシング素子部97から得られる反射信号とが、前記実施例2と同様に、1つのアンテナ(図示せず)を介して送受信機側に送信されるように構成されている。
【0092】
b)次に、本実施例の弾性表面波素子91の動作について説明する。
図14に示す様に、弾性表面波素子91に入力信号がある場合、リファレンス素子部93においては、櫛歯電極101、103への入力から所定の伝搬時間(遅延時間tD1×2)後に、同櫛歯電極101、103にて反射波が検出され、この反射波に対応した応答信号(検出信号)が送受信機側に送信され、送受信側にて検出される。
【0093】
同様に、第1センシング素子部95においては、櫛歯電極111、113への入力から前記伝搬時間より長い所定の伝搬時間(遅延時間tD2×2)後に、同櫛歯電極111、113にて反射波が検出される。
【0094】
同様に、第2センシング素子部97においては、櫛歯電極119、121への入力から前記伝搬時間より長い所定の伝搬時間(遅延時間tD3×2)後に、同櫛歯電極119、121にて反射波が検出される。
【0095】
なお、同図では、反射波として示される信号が送受信機側で検出される応答信号(検出信号)であり、ここでは、第1、第2センシング素子部95、97に応力が加わった場合の信号を一点鎖線で示し、応力が加わらなかった場合の信号を破線で示している。
【0096】
そして、これらの伝搬時間tD1、tD2、tD3は、同図に示す様に、各反射波(従って各検出信号)が重なって検出されないように十分に異なるように(tD1<tD2<tD3)設定されているので、たとえ単一のアンテナで送受信機側に送信された場合でも、送受信機側では、各素子部93〜97からの検出信号を容易に分離することができる。
【0097】
従って、送受信機側では、例えば第1の応力が加わった第1のセンシング素子部95の検出信号と応力が加わらないリファレンス素子部93からの検出信号とから、例えば両信号の差を利用することにより、温度等の外乱の影響を解除して、より精度よく第1の応力を測定できる。また、同様に、第2の応力が加わった第2のセンシング素子部97の検出信号と応力が加わらないリファレンス素子部93からの検出信号とから、例えば両信号の差を利用することにより、温度等の外乱の影響を解除して、より精度よく第2の応力を測定できる。
【0098】
つまり、本実施例では、前記実施例2と同様な効果を奏するとともに、1個の弾性表面波素子91によって、異なる測定対象の応力を検出できるという顕著な効果を奏する。
【実施例4】
【0099】
次に、実施例4について説明するが、前記実施例2と同様な内容の説明は簡略化する。
本実施例では、弾性表面波素子が大きく異なるので、主として弾性表面波素子について説明する。
【0100】
図15に示す様に、本実施例の弾性表面波素子141は、2個の素子部143、145、即ち参照用の素子部(リファレンス素子部)143と測定用の素子部(センシング素子部)145とが、同一の圧電基板147上に形成されたものである。
【0101】
以下詳細に説明する。
まず、同図上側のリファレンス素子部143は、前記実施例2と同様に、圧電基板147の表面に、一対の櫛歯電極149、151と反射器153とが、所定の伝搬距離dR1だけ離れて形成されたものであり、その外側には、同様に吸音材155、157が配置されている。
【0102】
また、同図下方のセンシング素子部145も、前記実施例2と同様に、圧電基板147の表面に、一対の櫛歯電極149、151と反射器159とが、所定の伝搬距離dR2だけ離れて形成されたものであり、その外側には、同様に吸音材155、161が配置されている。
【0103】
なお、一対の櫛歯電極149、151及び吸音材155は、両素子部143、145の共有である。
更に、本実施例では、前記実施例2と同様に、センシング素子部145の先端側(同図右側)に応力が加わるように設定されているので、その応力が、リファレンス素子部143に伝わらないように、弾性表面波素子141の先端側には、両素子部143、145を分離する切り欠き163が形成されている。
【0104】
また、送受信機側にて、リファレンス素子部143における応答信号とセンシング素子部145における応答信号とを分離できるように、各素子部143、145における伝搬距離は、dR1<dR2のように、十分に異なるように設定されている。
【0105】
更に、ここでは、同一の信号源(即ち送受信機)165からの信号が、両素子部143、145の共通の櫛歯電極149、151に入力するように構成されている。同様に、両素子部143、145から得られる各反射信号が、1つのアンテナ(図示せず)を介して送受信機側に送信されるように構成されている。
【0106】
本実施例によっても、前記実施例2と同様な効果を奏する。
【実施例5】
【0107】
次に、実施例5について説明するが、前記実施例3と同様な内容の説明は簡略化する。
本実施例では、弾性表面波素子が大きく異なるので、主として弾性表面波素子について説明する。
【0108】
図16に示す様に、本実施例の弾性表面波素子171は、3個の素子部173、175、177、即ち参照用の素子部(リファレンス素子部)173と測定用の2個の素子部(第1、第2センシング素子部)175、177とが、同一の圧電基板179上に形成されたものである。
【0109】
以下詳細に説明する。
まず、同図上側のリファレンス素子部173は、前記実施例3と同様に、圧電基板179の表面に、一対の櫛歯電極181、183と反射器185とが、所定の伝搬距離dR1だけ離れて形成されたものであり、その外側には、同様に吸音材187、189が配置されている。
【0110】
また、同図中央の第1センシング素子部175も、前記実施例3と同様に、圧電基板179の表面に、一対の櫛歯電極181、183と反射器191とが、所定の伝搬距離dR2だけ離れて形成されたものであり、その外側には、同様に吸音材187、193が配置されている。
【0111】
更に、同図下側の第2センシング素子部177も、前記実施例3と同様に、圧電基板179の表面に、一対の櫛歯電極181、183と反射器195とが、所定の伝搬距離dR3だけ離れて形成されたものであり、その外側には、同様に吸音材187、197が配置されている。
【0112】
なお、一対の櫛歯電極181、183と吸音材187は、3個の素子部173〜177の共有である。
また、本実施例では、第1センシング素子部175の先端側(同図右側)に第1の応力が加わるように設定されるとともに、第2センシング素子部177の先端側に第2の応力が加わるように設定されているので、その応力が、自身以外の他の素子部に伝わらないように、弾性表面波素子171の先端側には、各素子部173〜177を分離する切り欠き199、201が形成されている。
【0113】
そして、前記実施例3と同様に、送受信機側にて、リファレンス素子部173における応答信号と第1センシング素子部175における応答信号と第3センシング素子部177における応答信号とを分離できるように、各素子部173〜177における伝搬距離は、dR1<dR2<dR3のように、十分に異なるように設定されている。
【0114】
更に、ここでは、同一の信号源(即ち送受信機)203からの信号が、各素子部173〜177共通の櫛歯電極187、183に入力するように構成されている。同様に、リファレンス素子部173から得られる反射信号と第1センシング素子部175から得られる反射信号と第2センシング素子部177から得られる反射信号とが、前記実施例3と同様に、1つのアンテナ(図示せず)を介して送受信機側に送信されるように構成されている。
【0115】
本実施例によっても、前記第3実施例と同様な効果を奏する。
【実施例6】
【0116】
次に、実施例6について説明するが、前記実施例2と同様な内容の説明は簡略化する。
本実施例では、弾性表面波素子が大きく異なるので、主として弾性表面波素子について説明する。
【0117】
図17に示す様に、本実施例の弾性表面波素子211は、同一の圧電基板213上において、同じ延長線上の左右方向に、参照用の素子部(リファレンス素子部)215と測定用の素子部(センシング素子部)217とが形成されたものである。
【0118】
以下詳細に説明する。
まず、同図左側のリファレンス素子部215は、圧電基板213の表面において、同図略中央に一対の櫛歯電極219、221が形成されるとともに、同図左側に第1の反射器223が配置されたものであり、一対の櫛歯電極219、221と第1の反射器223とは、所定の伝搬距離dR1だけ離れて形成されている。なお、第1の反射器223の外側(同図左側)には、吸音材225が配置されている。
【0119】
一方、同図右側のセンシング素子部217は、同じ圧電基板213の表面において、前記一対の櫛歯電極219、221が形成されるとともに、同図右側に第2の反射器227が配置されたものであり、一対の櫛歯電極219、221と第2の反射器227とは、所定の伝搬距離dR2だけ離れて形成されている。なお、第2の反射器227の外側(同図右側)には、吸音材229が配置されている。
【0120】
本実施例では、中央の一対の櫛歯電極219、221は、両素子部215、217の共有であり、センシング素子部217の先端側(同図右側)に応力が加わるように設定されている。
【0121】
また、本実施例では、送受信機側にて、リファレンス素子部215における応答信号とセンシング素子部217における応答信号とを分離できるように、各素子部215、217における伝搬距離は、dR1<dR2のように、十分に異なるように設定されている。
【0122】
更に、ここでは、同一の信号源(即ち送受信機)231からの信号が、両素子部215、217の共通の櫛歯電極219、221に入力するように構成されている。同様に、両素子部215、221から得られる各反射信号が、1つのアンテナ(図示せず)を介して送受信機側に送信されるように構成されている。
【0123】
本実施例によっても、前記実施例2と同様な効果を奏する。
【実施例7】
【0124】
次に、実施例7について説明するが、前記実施例3と同様な内容の説明は簡略化する。
本実施例では、弾性表面波素子が大きく異なるので、主として弾性表面波素子について説明する。
【0125】
図18に示す様に、本実施例の弾性表面波素子241は、3個の素子部243、245、247、即ち参照用の素子部(リフレンス素子部)243と測定用の2個の素子部(第1、第2センシング素子部)245、247とが、同一の圧電基板249上に形成されたものである。なお、リフレンス素子部243は同図左側に形成され、第1、第2センシング素子部245、247は、同図右側に形成されている。
【0126】
以下詳細に説明する。
まず、同図左側のリファレンス素子部243は、圧電基板249の表面において、同図略中央に一対の櫛歯電極251、253が形成されるとともに、同図左側に第1の反射器255が配置されたものであり、一対の櫛歯電極251、253と第1の反射器255とは、所定の伝搬距離dR1だけ離れて形成されている。なお、第1の反射器255の外側(同図左側)には、吸音材257が配置されている。
【0127】
また、同図左上側の第1センシング素子部245は、同じ圧電基板249の表面において、前記一対の櫛歯電極251、253が形成されるとともに、同図右側に第2の反射器259が配置されたものであり、一対の櫛歯電極251、253と第2の反射器259とは、所定の伝搬距離dR2だけ離れて形成されている。なお、第2の反射器259の外側(同図右側)には、吸音材261が配置されている。
【0128】
更に、同図左下側の第2センシング素子部247は、同じ圧電基板249の表面において、前記一対の櫛歯電極251、253が形成されるとともに、同図右側に第3の反射器263が配置されたものであり、一対の櫛歯電極251、253と第3の反射器263とは、所定の伝搬距離dR3だけ離れて形成されている。なお、第3の反射器263の外側(同図右側)には、吸音材265が配置されている。
【0129】
なお、一対の櫛歯電極251、253は、3個の素子部243〜247の共有である。
また、本実施例では、第1センシング素子部245の先端側(同図右側)に第1の応力が加わるように設定されるとともに、第2センシング素子部247の先端側に第2の応力が加わるように設定されているので、その応力が、自身以外の他の素子部に伝わらないように、弾性表面波素子241の先端側には、両素子部245〜265を分離する切り欠き249が形成されている。
【0130】
そして、前記実施例3と同様に、送受信機側にて、リファレンス素子部243における応答信号と第1センシング素子部245における応答信号と第3センシング素子部247における応答信号とを分離できるように、各素子部243〜247における伝搬距離は、dR1<dR2<dR3のように、十分に異なるように設定されている。
【0131】
更に、ここでは、同一の信号源(即ち送受信機)250からの信号が、各素子部243〜247共通の櫛歯電極251、253に入力するように構成されている。同様に、リファレンス素子部243から得られる反射信号と第1センシング素子部245から得られる反射信号と第2センシング素子部247から得られる反射信号とが、前記実施例3と同様に、1つのアンテナ(図示せず)を介して送受信機側に送信されるように構成されている。
【0132】
本実施例によっても、前記第3実施例と同様な効果を奏する。
なお、本発明は、前記実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0133】
例えばこの弾性表面波センサは、製造ラインにおけるプレス機といった機器の圧力、ビル・トンネルといった構造物の機械的ひずみ等、変位測定を必要とする全ての分野、またタイヤ空気圧といった回転体等の電気配線が困難な箇所での測定に用いることができる。
【符号の説明】
【0134】
1、61、91、141、171、211、241…弾性表面波素子
3、66、99、147、179、213、249…圧電基板
5、7、67、69、77、79、101、103、111、113、119、121、149、151、181、183、219、221、251、253…櫛歯電極
9、71、81、105、115、123、153、159、185、191、195、223、227、255、259、263…反射器
10…伝搬路
11、13、73、75、83、107、109、117、125、155、157、161、187、189、193、197、225、229、257、261、265…吸音材
15、87、131、165、203、231、250…送受信機(信号源)
19…弾性表面波センサ
31…弾性部材
33…押圧部材
63、93、143、173、215、243…リファレンス素子部
65、95、97、145、175、177、217、245、247…センシング素子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に、入力した高周波信号によって弾性表面波を発生させる電極と、該電極で発生した弾性表面波を反射する反射器とを、対向して配置した弾性表面波素子において、
前記反射器は、反射器自身に印加される応力に応じて反射係数が変化する構成を有し、
且つ、前記電極の中心周波数を、前記反射器の反射係数の周波数特性における減衰極及び減衰極近傍を含む所定の周波数領域内に設定するとともに、
該所定の周波数領域を、周波数帯域幅1000ppmに対する減衰傾度が10dB以上の範囲に設定したことを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
前記電極と前記反射器との間に弾性表面波を伝搬する伝搬路を設け、前記入力した高周波信号に対して所定以上の時間遅れのある高周波信号を出力させる構成としたことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波素子。
【請求項3】
前記圧電基板上に、前記電極を複数配置するとともに、各電極に対してそれぞれ伝搬路の距離の異なる反射器を配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の弾性表面波素子。
【請求項4】
前記圧電基板上に、同一の前記電極に対してそれぞれ伝搬路の距離の異なる複数の反射器を配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の弾性表面波素子。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性表面波素子を備えた弾性表面波センサであって、
前記弾性表面波素子を収容する筐体と、
前記反射器に対して応力を印加する応力印加部と、
を備えるとともに、
前記反射器を、応力が印加された場合に弾性変形する構成としたことを特徴とする弾性表面波センサ。
【請求項6】
更に、前記電極を、前記応力が印加された場合でも変形しないように固定したことを特徴とする請求項5に記載の弾性表面波センサ。
【請求項7】
前記応力印加部を、前記応力に応じて変形する弾性部材を介して該応力を受けるように構成したことを特徴とする請求項5又は6に記載の弾性表面波センサ。
【請求項8】
前記高周波信号を無線により外部装置より受信、または外部装置に送信するアンテナを備えることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の弾性表面波センサ。
【請求項9】
前記請求項5〜7のいずれか1項に記載の弾性表面波センサを備えたセンシングシステムであって、
前記電極に対して高周波信号を印加する高周波印加装置と、前記反射器にて反射した信号を受信し、その受信信号の電力レベルを検知する信号検知装置とを備えたことを特徴とするセンシングシステム。
【請求項10】
前記信号検知装置によって検知した信号の電力レベルに基づいて、前記反射器に印加された応力を求め、該応力に基づいて測定対象の状態を検知することを特徴とする請求項9に記載のセンシングシステム。
【請求項11】
前記測定対象は、圧力又は変位であることを特徴とする請求項10に記載のセンシングシステム。
【請求項12】
前記請求項8に記載の弾性表面波センサを備えたセンシングシステムであって、
前記電極に対して高周波信号を印加する高周波印加装置と、前記反射器にて反射した信号を受信し、その受信信号の電力レベルを検知する信号検知装置とを備えたことを特徴とするセンシングシステム。
【請求項13】
前記信号検知装置によって検知した信号の電力レベルに基づいて、前記反射器に印加された応力を求め、該応力に基づいて測定対象の状態を検知することを特徴とする請求項12に記載のセンシングシステム。
【請求項14】
前記測定対象は、圧力又は変位であることを特徴とする請求項13に記載のセンシングシステム。
【請求項15】
無線を利用して、前記弾性表面波センサの電極に対して前記高周波印加装置よって高周波信号を印加し、且つ、前記弾性表面波センサの電極によって発生した信号を前記信号検知装置によって受信する構成を備えたことを特徴とする請求項12〜14のいずれか1項に記載のセンシングシステム。
【請求項16】
前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性表面波素子を用いて応力を測定する応力測定方法であって、
前記電極によって弾性表面波を発生させるとともに、前記反射器に応力を加えて反射係数を変化させ、該応力の印加に応じて変化する前記反射器にて反射した信号を受信し、該出力信号の電力レベルの変化に基づいて、前記応力を測定することを特徴とする応力測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−247732(P2011−247732A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120841(P2010−120841)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)